335 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:02:33.85 ID:HFx+BSGvO

('、`*川 「うーん……」

椅子にもたれかかり、大きく伸びをした。
コキコキと骨の鳴る音が、姿勢の固定されていた時間を物語る。

('、`*川 「ダメだ、これはちょーっと行き詰ったかもしれんね……」

目の前に立ち塞がるモニターという名の現実からの刺客。
どうやらこの戦いは今のところ分が悪い。一時撤退し、戦術を再検討する必要がありそうだ。

('、`*川 「コーヒーでもいれよっかな」

ひとまず英数字の羅列とのにらめっこは終了。
緊張の糸が切れたせいか、立ち上がった瞬間、空腹という生理現象に気づく。
時刻はそろそろ午前にお別れを告げる模様。

('、`*川 「何があったかな──」

キッチンに移動し、冷蔵庫を漁る。
トマト、きゅうり、セロリ──




336 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:03:32.88 ID:HFx+BSGvO

('、`*川 「サラダでも作るかな……いや、もっとお腹にたまるものの方が」

('、`*川 「あ、筍の水煮もある……って、これ、いつのだろ?」

探索対象を冷凍庫に変更。
手前の方には氷とアイスクリームぐらいしか見当たらない。
後はラップに包まれた白いもの。

('、`*川 「何だこれ? あ、ごはんか。ラッキー、これは使いましょ」

さらに冷凍庫の探索を続ける。
うん、そのうちちゃんと整理しないとまずい。
何と言うか、得体の知れないものばかりだ。

('、`*川 「お──」

冷凍庫の隅に、なにやら赤い塊を発見。

('、`*川 「これは……ラム肉かな?」




337 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:04:51.18 ID:HFx+BSGvO


マトンじゃダメなんだ、やっぱりラム肉じゃないとね。


あいつがよく言っていた台詞が頭の中で再生された。
そっか、これはあいつの仕業か。

('、`*川 「んじゃ、まあ、あれでも作ってみますかね」

カチカチに固まったラム肉をレンジに放り込み、いくつかの野菜を選び下ごしらえ。
セロリを切り、筍をざるにあげる。

('、`*川 「タマネギはないか……、まあその辺は妥協しましょ」

セロリなんて、生で食べる以外の調理法は知らなかった。
料理を始めたのも、あいつに影響されたから。
あいつは、私の知らないことを沢山知っていた。

レンジから無機質な機械音が響く。
ラム肉を取り出し、まな板に乗せ、薄く切る。
酒、卸し生姜で下味をつけ、片栗粉をまぶす。
同時進行でポットから鍋にお湯を入れ、野菜の下茹での準備をする。




338 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:06:07.87 ID:HFx+BSGvO

ラム肉の脂肪は体に吸収されにくい。あいつはそんなことも言ってたな。
何度も同じことを聞かされた気がする。

('、`*川 「……何で何度も言ってたのか、その辺をkwsk」

そんな事をつぶやくも、もちろん何の返事もない。

何とは無しに、お腹を指でつまんでみる。
こちとら引きこもりな在宅ワーカー。多少の運動不足は、職業病といっても差し支えないのではなかろうか。

('、`*川 「まだ大丈夫……なはず」

自分にそう言い聞かせ、フライパンに火を通す。
信じる心が奇跡を起こしてくれるのは、物語のお約束というやつだ。

('、`*川 「まあ、現実は時として無情だけどね……」

下茹でした野菜をさっと炒め、再び冷蔵庫を開ける。
一通りはそろってる調味料の中から豆板醤を選び、取り出した。




339 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:07:17.31 ID:HFx+BSGvO

('、`*川 「ちょっと多めにしとくか……」

フライパンに豆板醤を放り込み、野菜に絡める。
辛めにしたのは、午後からの戦いに有利に働きそうだという戦術的観点からの一手。
ラム肉を投下し、さらに炒める。

('、`*川 「さて、これで完成、と──あ、ごはん……」

すっかり存在を忘れていた冷凍されたごはんをレンジに。
出来上がった料理を皿に盛り、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。

再び鳴る機械音。レンジは本当に働き者だ。

('、`*川 「さて、それではいただきましょうかね」

あいつに教わった料理。
昔は、作ってもらうばっかだったけど、いつも間近で見ていたら、いつの間にか覚えていた。

('、`*川 「そういう意味じゃ教わったわけじゃないのよね」

盗んだのかな? ううん、引き継いだってことにしときましょ。
その方が聞こえがいい。




340 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:08:40.87 ID:HFx+BSGvO

( 、 *川 「はは……、ちょっと辛くしすぎたかな」

口に中に広がる豆板醤の辛味が、とても美味しい。
頬を一筋の水滴が伝う
辛さによる発汗作用で汗が出るのは自然なことだ。

( 、 *川 「美味しいなぁ……」

また作ろう。
作ればまた、味わえる。
過ぎ去った時間と想い出。
記憶が薄れてしまう前に。
十分な辛さで

('、`*川 「ご馳走様でした」
   ・

   ・

   ・



341 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:10:28.66 ID:HFx+BSGvO

   ・

   ・

   ・

(´・ω・`) 「いや、僕死んでないからね?」

('、`*川 「うるさい、私の中ではあんたは死んだことになってんの」

(´・ω・`) 「君のプリンを勝手に食べたことについては謝る、
       ってか、それで今までずっと買いに行かされてたんだよね?」

('、`*川 「結局見つかんなかったんでしょうが、私の季節限定おしゃれプリン・マンゴースペシャル」

(´・ω・`) 「なかったね。ごめんね、変わりに色々買ってきたからさ、それで機嫌直してよ」

('、`*川 「……」



343 :('、`*川十分な辛さ:2008/10/07(火) 13:11:54.95 ID:HFx+BSGvO

('、`*川 「……台所、食事まだでしょ?」

(´・ω・`) 「ありがとう」

('、`*川 「冷凍庫にごはんもあるから」

(´・ω・`) 「うん」

('、`*川 「私は仕事してるから」

(´・ω・`) 「がんばってね」

('、`*川 「……食べ終わったらコーヒーいれてね」


さて、また日々を生きるための戦いに身を投じますか。
今度は増援も来た事だし、きっと何とかなるでしょう。
何せあいつは色々知ってるからね。
死んだと思ってたヒーローが、ヒロインの窮地に颯爽と現われるのは、物語ではよくあること。
ありふれたお話なのだから。



─ ('、`*川十分な辛さ おしまい ─


お題
・ラム肉
・豆板醤
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