1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 21:57:33.52 ID:RY9nyFkd0

ξ--)ξ 「──ん」


私が目を覚ますと、そこはだだっ広い、何もない空間だった。
壁も天井もない、ただ一面、不自然なほどの白さが広がる空間だった。


ξ゚听)ξ 「ここは……?」


どこだわからない。


ξ゚听)ξ 「私は……?」


ツン。それが私の名前。


ξ゚听)ξ 「……」


私は私が誰かはわかる。
でも、ここがどこかはわからない。
どうしてここにいるのかもわからない。

そして、どうするべきかも。


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 21:58:21.68 ID:RY9nyFkd0

ξ゚听)ξ 「ん?」


何もない、そう思っていた空間に、ぽつんと何かが置いてある。
箱のような、四角い……?


ξ゚听)ξ 「箱? いや、なんだろ?」


随分と刺々しい装飾の付いた箱らしき物体。
よく見たら、これは開きそうな形をしている。
しかし、鍵穴があるところをみると──


ξ゚听)ξ 「──なんだ、あんたいたの?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「まあ、あんたがいれば──いないよりはマシ程度か」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「で、これ、なんだと思う?」



3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 21:59:24.64 ID:RY9nyFkd0

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「かばん……? 鞄って、あの鞄?」


いつからいたのかわからない、けれど、いつもそばにいたブーンが言うにはこれは鞄らしい。
そう言われてみれば、確かにそう見えなくもないけど。


ξ゚听)ξ 「それにしちゃ、随分刺々しいわね。扱いづらいでしょうに」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「慣れるとそうでもない? ふーん……。ま、いいや、これ、開けてみましょうか」


私は、鞄に近付いた。
いつも先に何かをするのは私。
ブーンはそれを見守っている。


ξ゚听)ξ 「ありゃ、開かないわね。鍵がかかってるのか」

( ^ω^)


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:02:05.91 ID:RY9nyFkd0

ξ゚听)ξ 「あんた、鍵の場所知らない?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「わからないの? 使えないわねー」


いつも、私が無くした物を見つけてくれるのはブーン。
私が何をどこに置いたか、ちゃんと把握してくれている。


( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「そんな悲しそうな顔すんじゃないわよ」


理不尽な私の怒りも、まっすぐに受け止めてくれる。


ξ--)ξ 「まあ、この鞄は私の物じゃないからね。わからなくても──」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「え? この鞄、私の……?」



8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:03:08.17 ID:RY9nyFkd0

これが私の? これは私の? この鞄は私の……


ξ゚听)ξ 「そうね、これは私のだわ。何で忘れちゃってたんだろ?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「うっさいわね、まだボケてないわよ。笑うな」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「しょんぼりすんな」


いつも笑みを絶やさないブーン。


( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「は? 何でわかるのかって?」


でも、ちゃんと感情はある。人間なんだから。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:05:22.14 ID:RY9nyFkd0

ξ゚听)ξ 「どんだけ長い付き合いだと思ってんのよ」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「ニヤニヤすんな、きめえ。……だからしょんぼりすんなっての」


ひとまずブーンはほっといて、この鞄をどうするべきか。
私の直感は、開けるべきだとささやいている。


ξ゚听)ξ 「鍵が無いなら壊してみるか」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「え? ダメなの? わかった、わかったから落ち着きなさいよ」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「はいはい、わかったわよ。壊さない、壊さないって」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:10:08.48 ID:RY9nyFkd0

そう言えば、昔もこんなことがあった気がする。
机の引き出しの鍵を無くして、こじ開けようとした私。
自転車の鍵を無くして壊そうとした私。

その度にブーンは私を止め、どこからともなく鍵を探し出して来てくれた。

部屋の鍵を無くした時は、さすがに壊すわけも行かず、一晩泊めてもらって次の日大家さんのとこに行ったけどね。


ξ゚听)ξ 「あんたは昔っからそういうとこしっかりしてたわよね」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「うっさいわね、あんたが細かすぎんのよ、男のくせに」


今は私が持つものの鍵は、全てスペアを作ってある。
そしてそれは、きちんと管理できるやつに預けてある。

もっとも、鍵が必要なものも減ったけど。


ξ゚听)ξ 「──ん?」


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:12:53.22 ID:RY9nyFkd0

気のせいだろうか?
今、鞄が揺れた気がした。


ξ゚听)ξ 「これ、今動かなかった?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「見てないの? 使えないわね」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「だからいちいちしょんぼり……もう、キリがないからいいわ」


恐らく、気のせいではない。
この鞄は確かに揺れた。
揺れただけなら大したことは無い。
風が吹いても、私らが動いた振動でも、揺れることは有り得るから。

でも──


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:15:42.24 ID:RY9nyFkd0

ξ゚听)ξ 「これ、さっきより膨らんでない?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「あんたもそう思う?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「何でそんな当たり前の事のように……」

( ^ω^)

ξ--)ξ 「まあ、いいわ。それよりも鍵ね。開けてみればわかることだし」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「壊すのはダメ、となると探すしかないんだけど……」


ξ゚听)ξ 「壊して欲しくないなら、あんたが──? あんたが?」



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:18:24.39 ID:RY9nyFkd0

あんたが何だっけ?
鍵を壊そうとした私?
私が鍵を壊した?
その時ブーンはどうしたんだっけ?


ξ゚听)ξ 「私が鍵を壊そうとした時、あんたはどうしたんだっけ?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「覚えてないの? 使えないわね」

ξ゚听)ξ 「まあ、私も覚えてないから許してあげるわ」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「何であんたが礼を言うのよ。それに、何でそんな顔で礼を言うのよ」


そんな、悲しそうな顔で礼を言われてもちっとも嬉しくないのに。



17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:21:54.33 ID:RY9nyFkd0

ξ゚听)ξ 「もう、何だかめんどくさいわね。あんたも探しなさいよ、こいつの鍵」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「私が探さなきゃいけない? 何でよ? 手伝いなさいよ」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「それがあんたの役目でしょうが」


私を手伝う事。
それがブーンの役目。
私とブーンのいつもで、自然な関係。


ξ゚听)ξ 「あんたはグズのくせに、妙に気が回ったわよね」


パッと見どん臭く、実際どん臭い。
そんなブーンだが、時として妙に気が回った。
それは全て──



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:23:15.69 ID:RY9nyFkd0

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「よく真顔でそんなこと言えるわね」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「うっさい、あんたはストーカーかっての」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「うぜえ」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「きめえ」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「わかったからしょんぼりすんなっての」


どん臭くて、自分の世話も覚束無いのに、私に対してだけはとんでもなくお節介。

前にもこんなことが──こんなことが?


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:24:19.24 ID:RY9nyFkd0

なんだっけ?

また、鞄が揺れた気がした。

覚えていない。

また、鞄が膨らんだ気がした。


ξ゚听)ξ 「……」


気がした。

違う。

揺れた。

膨らんだ。


ξ゚听)ξ 「……」


私は、少しずつ、気付き始めていた。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:25:33.92 ID:RY9nyFkd0

ξ゚听)ξ 「ねえ、ブーン?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「うん……」


覚えている。

私はまだ覚えている。

私はまだ、あなたを覚えている。

私は、あなたを覚えている。


ξ゚听)ξ 「やっぱり、この鞄の鍵を探さないとダメみたいね」


この鞄、この刺々しい鞄。
これをどうにかして開けなければならない。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:28:26.11 ID:RY9nyFkd0

何故?

この鞄は?

この鞄は何?


ξ゚听)ξ 「この鞄は私のもの」


私のもの、それは確かな事。
いえ、正確には、私のものではなく──


ξ゚听)ξ 「この鞄は私──」


この鞄の鍵はどこ?
この鞄の鍵はなに?


ξ゚听)ξ 「  」


突如、世界が暗転した。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:28:47.89 ID:RY9nyFkd0

真っ暗な世界。
何も見えず、何も聞こえない。

ここにいるのは私と──


( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「何であんたがいるんだろうね?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「そうかもね」


何故ブーンがここにいるのだろう?

ここは私の──


ξ゚听)ξ 「あんた、ちょっと消えかかってない?」

( ^ω^)


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:31:01.29 ID:RY9nyFkd0

何だかブーンの姿が霞んできた。


ξ゚听)ξ 「あんた、消えちゃうの? そんなの──」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「違う?」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「え?」


あ、なんだ、そうか。
消えているのは──


ξ゚听)ξ 「私の方か」


私の両手がぼやけて見える。
私の両足がぼやけて見える。
私の身体がぼやけて見える。



27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:33:23.68 ID:RY9nyFkd0

無限に繰り返される、無為なループ


ξ゚听)ξ 「ううん、無限じゃない」


いつか思い出は枯渇する。
いつか思い出すものが無くなる。
全て消えて逝く。

私と私の記憶。

──消えて逝く────はずだった私。


( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「何でだろう?」


ブーンを見ていると、不思議と思い出す。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:33:41.99 ID:RY9nyFkd0

( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「何でだろう?」


ブーンを見ていると、湧き上がるものがある。


( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「何でだろう?」


ブーンを見ていると、無限に溢れるものがある。


( ^ω^)

ξ゚听)ξ 「何だろう?」


鞄が揺れる。
鞄が膨らむ。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:35:22.80 ID:RY9nyFkd0

でも、忘れない。

忘れる度に、湧き上がる。

これは──


ξ゚听)ξ 「これは──」


この気持ちは──


ξ゚听)ξ 「この気持ちは──」


あなたへの──


ξ゚听)ξ 「ブーンへの──」


( ^ω^)

ξ゚ー゚)ξ 「鍵──見つけた」

カチッ


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:37:39.09 ID:RY9nyFkd0
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・


「──ン───」

「ツ─────」

「──ン───」

「ツ─ン───」

ξ--)ξ

「ツーン!!!」

ξ--)ξ 「────い」

「!!!」

「ツーーーーン!!!!」

ξ--)ξ 「───さい」

「ツーーーーン!!!! ツーーーーン!!!!」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:38:09.97 ID:RY9nyFkd0

ξ#゚听)ξ 「うっさいって言ってんでしょーが!!!」

( ;ω;) 「ツーン!」


私が目を覚ますと、そこは狭い一室だった。
壁も天井も有り、白さは広がるが、何やら妙な機械から伸びたコードが目に入る。


ξ゚听)ξ 「ここは……?」


どこだわからない。


ξ゚听)ξ 「私は……?」


ツン。それが私の名前。


ξ゚听)ξ 「……」


私は私が誰かはわかる。
でも、ここがどこかはわからない。
どうしてここにいるのかもわから──


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:39:32.12 ID:RY9nyFkd0

ξ゚听)ξ 「……私は、事故で……ここは……」

( ;ω;) 「ぜんぜえー!!! がんごしざーん!!! ヅンが、ヅンがー!!!」


病院……か。

 ・

 ・

 ・

ξ゚听)ξ 「大丈夫だって。ちゃんと生きてるから」

( ;ω;) 「おーん、おーん」

ξ゚听)ξ 「鬱陶しいから泣くな」

( ;ω;) 「おっおっお」

ξ゚听)ξ 「泣きながら笑うな」


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:40:44.61 ID:RY9nyFkd0

わかってるわよ。
あんたが泣いてるのも嬉しいから。
笑ってるのも嬉しいから。


( ;ω;) 「ツーン、ツーン、おーん、おーん」

ξ゚ー゚)ξ 「全く、人の話を聞きなさいよね……」


あの鞄は多分私の──

あれに全て収まってしまえば、私はきっと消えていた。

でも、私は消えなかった。

消えそうな私を呼び戻したのは──

あの大きな鞄に収まりきれなかったのは──

鍵は、ずっとそばに──


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/25(火) 22:41:06.48 ID:RY9nyFkd0

( ;ω;) 「ツーン、おーん、ツーン、好きだおー」

ξ゚听)ξ 「だから鬱陶しいっての。……そんなこと言わなくてもわかってるわよ」


あんたのことは、全部、わかってるわよ。


( ;ω;) 「ツーン、ツーン、おーん、おーん、大好きだおー」

ξ゚听)ξ 「うっさい、バカ」


「──私も大好きよ」



 ξ゚听)ξ鞄のようです おしまい



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