3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 20:57:25.99 ID:4MzA78IqO

深く、暗い底へ沈んでいく感覚。
生まれて初めて味わうこの感覚が、死というものだと何故か僕は理解出来た。


(  )


かすむ視界に駆け寄る誰かの姿が見える。

良かった、無事だったらしい。
これでもう、何も悔いはない。


僕は最後の力を振り絞り、彼女に笑ってみせた。


( ^ω^)


僕の全てが闇に落ちる直前に見たものは、涙に溢れた彼女の顔だった。


ξ;凵G)ξ



 − ( ^ω^)ブーンは幸せを伝えたいようです −


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 20:59:09.69 ID:4MzA78IqO

『……ード……』

次に知覚したのは、誰かを呼ぶやさしい声だった。

あれからどのくらいの時間がったのかわからない。

ほんの一瞬のようで、随分と長い間眠っていた気がする。

眠っていた?

僕は何で眠っていたのだろうと、考えようとしたが頭がひどく痛んだので止めた。
ただ1つわかったのは、僕は死んだという事だ。

だったら何故、誰かの声が聞こえてくるのだろうか。

『…ロー…ちゃん……』

死んだはずの僕が向かうのは天国だろうか。
それとも地獄なのだろうか。

でも、このやさしげな声を聞く限りでは、地獄ではない気がする。
やさしげな声が向く先は僕なのだから。


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:00:56.88 ID:4MzA78IqO

从'ー'从『ビロードちゃん、眠ってますかー』

( ><)『あーうー……』

ビロード、それが僕の名前らしい。
という事は、この優しそうな美人が僕のお母さんなのか。

从'ー'从

(*^ω^)「これは中々の……」

('A`)「残念ながら違いますね」

(;^ω^)「お!?」

突如として中空に現れた貧相な男。
男といっても小さく、お母さんの顔よりも小さいだろう。
僕とお母さんの間に、貧相な男は浮かんでいる。



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:02:49.52 ID:4MzA78IqO
 
('A`)「貧相貧相言い過ぎですよ」

( ^ω^)「お?」

どうやら声に出していたのか、貧相な男は僕の言葉を気だるそうな口調で遮る。
貧相な男は全体的に覇気というかやる気が感じられず、アンニュイな空気を醸し出している。

('A`)「だから貧相は止めてくださいと。しかし、アンニュイ等と難しい言葉をご存知ですね」

再び僕の言葉尻を拾う貧相な男。
しかし僕は今の言葉を口にした覚えはない。

(;^ω^)「ひょっとしてエスパー?」

('A`)「そういうのとは違いますが。ひとまず自己紹介を」

('A`)「私の名前はドクオです。以後、ご見知りおきを」

そう言って貧相な男は中空で恭しくお辞儀をした。
なるほど、見た目は貧相だが、服装は黒スーツとフォーマルだ。
それすらも凌駕する貧相さで先ほどは気付かなかったが、紳士的な男らしい。

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:04:19.36 ID:4MzA78IqO
  
('A`)「いや、筒抜けなんですからもう少しオブラートに包みましょうよ?」

( ^ω^)「筒抜けなら今更オブラートに包んでも仕方ないお」

('A`)「それは確かに。貴方は中々聡明な方ですね、えーっと……」

向こうが自己紹介をしたのだから今度はこちらの番だろう。
僕は……

( ^ω^)「ビロード……? いや……」

違う。
それは僕の名前ではない。
よくわからないが、心の中の何かがそれは違うと叫んでいる。

('A`)「……ええ、その通りです」

ドクオが変わらぬ口調で僕の考えを肯定する。
しゃべらなくても伝わるのは便利だが、少々薄気味悪くも感じる。

('A`)「そうお思いなら極力会話で進行しましょうか」

( ^ω^)「頼むお」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:06:11.59 ID:4MzA78IqO
 
('A`)「そうですね……元の名前では差し障りが出て来ますから……」

元の名前?
確かにドクオはそう言った。

やはり思った通り僕はビロードではない。
なぜなら僕は……

( ^ω^)「僕は死んだはずだお」

('A`)「そこを理解しておられるなら話は早いですね、ブーンさん」

( ^ω^)「ブーン?」

それが僕の名前なのか。

('A`)「そうですね。貴方の、子供の頃のあだ名らしいですね」

( ^ω^)「そうかお……」

僕は深々と頷き、その名を頭の中で反芻してみる。
何かを思い出しそうで、思い出そうとすると頭痛に遮られる。
僕の記憶は靄に包まれたまま、微塵も染み出してくることはなかった。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:09:00.82 ID:4MzA78IqO

('A`)「ご理解通り、貴方は死んでいます。ですから、記憶は既に失われております」

( ^ω^)「そうかお……」

正確には、自分に繋がる記憶だけで、一般常識など関係ない記憶は残してあるという。
随分と都合のいい話だが、ドクオにはそれが出来る力があるという。
つまりドクオは……

('A`)「あなた方の概念で言う所の神の使い、要するに天使ですね」

( ^ω^)「……」

('A`)「何ですか、その納得がいかねーという顔は?」

ドクオは不服そうな目で僕を見る。
主にその貧相な見た目の所為で信じられないだけだが、この状況を考えると信じざるを得ないだろう。

しかし……

( ^ω^)「どういうことだお?」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:11:49.74 ID:4MzA78IqO
 
今の状況をドクオが作り出したとしたら、これはどういうことなのだろうか。
僕はビロードではないという。
しかし、僕の目には僕を愛しそうに見詰める母の顔が見える。

('A`)「そうですね。貴方は簡単に言えばビロード君の中にいます」

( ^ω^)「ビロードの中……?」

ビロード、あの母親のやさしげな視線が向けられる先にいる人。
恐らくあの母親の子供。

ビロードの中、と言われると抽象的だが、普通に考えれば物理的にという意味ではないだろう。
僕は死んだのだ。
肉体はもうないはずだ。

だとしたら僕に残されたものは……

( ^ω^)「僕の魂がビロードの中に意識としてあるということかお」

('A`)「ご名答。やはり貴方は話が早くて助かる。他の方とは大違いだ」

( ^ω^)「他の方って、僕の他にもこんな風に誰かの中に入ったやつがいるのかお?」


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:13:24.43 ID:4MzA78IqO
  
('A`)「ええ、稀にですが、よくあります」

(;^ω^)「どっちだお?」

ハハハと乾いた笑いではぐらかすドクオを睨み付けるが、全く動じない。

僕は諦めて話を進める。
他のケースなどはどうでもいいのだ。
今知りたいのは僕の事だ。

( ^ω^)「それで、僕は何でこうなったのかお?」

先の話しぶりからすると、死んだ人間が全て誰かの中に入るという事はなさそうだ。
であるならば何故、僕はビロードの中に入ったのか。

('A`)「それは話せば長くなるのですが……」

( ^ω^)「……頼むお」

('A`)「……」

( ^ω^)「……」

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:16:50.97 ID:4MzA78IqO
   
僕がじっとドクオを見詰めると、ドクオは軽く息を吐き、そうですか、と呟き、大きく頷いた。

('A`)「では、話しましょう」

( ^ω^)「……」

('A`)「実は……」

( ^ω^)「……」

('A`)「貴方の魂を天国に連れて行く途中でうっかり落としてしまいまして」

( ^ω^)「……は?」

('A`)「それで偶然ビロード君の中に入ってしまったわけですね」

('A`)「いやー、まいったまいった」

(;^ω^)「……ちょっと待て」

('A`)「なんでしょう?」


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:19:47.98 ID:4MzA78IqO

(#^ω^)「なんでしょう? じゃねーお! つまりこうなってるのは全部お前の所為かお!」

('A`)「端的に言えばそうなりますね」

表情一つ変えず、何事もなかったかのように言うドクオ。
さも重要な事ように、言い辛そうな話をするかと思えば、全部こいつの所為じゃねーか。

('A`)「マア、あれですな。天使も空から落ちる」

(#゚ω゚)「いっそ堕天してしまえ」

悪態を吐くもやはりドクオは動じず、カエルの面に水とはこういう事を指すのだろうか。
全く、潰れたカエルのような面しやがって。

('A`)「貴方って意外と容赦ないですよね……」

( ^ω^)「それで、どうすればいいんだお?」

('A`)「どうすれば、と仰ると?」

( ^ω^)「決まってるお? ここを出て、天国に行く方法だお」

僕の言葉にドクオはきょとんとした顔を見せた。
初めて大きく変わったドクオの表情に驚いたが、それよりも早く、ドクオはさもおかしそうに笑い出した。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:21:24.00 ID:4MzA78IqO
 
( ^ω^)「何がおかしいんだお?」

('A`)「失礼。貴方があまりにも素晴らしい人なのでつい」

( ^ω^)「素晴らしい?」

('A`)「いえ、この状況を簡単に手放すとは思ってもいませんでしたので」

( ^ω^)「この状況?」

ドクオは僕の言葉に意味ありげに後ろを振り向く。
そこにあるのは穏やかな母の微笑み。

( ^ω^)「……あれはビロードのお母さんだお。僕が邪魔していいものではないお」

( ><)『あーうー……』

僕の声に呼応するように、ビロードが何事かをうめく。

从'ー'从『あらあら、ビロードちゃんどうしたの?』

( ><)『うー……』


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:23:03.15 ID:4MzA78IqO
  
从'ー'从『ひょっとしておなかすいたのかなー? ちょっと待っててねー』

不意にほんのわずか身体が浮き上がるような感覚に襲われた。
それがビロードのお母さんに抱き上げられたのだとすぐに気付いたが、どうやらビロードが感じた身体の感覚も少しだけ
共有できるらしい。

( ><)『うー……』

从'ー'从『はいはい、ビロードちゃんは元気だねー』

ビロードのお母さんはやさしくビロードをあやす。
柔らかな手の感覚が、魂だけのはずの僕の心を暖かく包んだ。

( ^ω^)「……てか、この状況って」

('A`)「ええ、そういう状況ですよ」

僕の言葉に気持ち悪い顔をさらに気持ち悪く歪めたドクオが答える。

ビロードは赤ちゃんである。
ビロードはお腹がすいている。
お腹が空いているビロードお母さんが抱き上げた。

さて、これから連想される状況は何であろうか。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:25:18.28 ID:4MzA78IqO
 
そう、答えは1つだ。

(*^ω^)「……もうしばらくこの状況もいいかもしれんね」

('A`)「そうでしょうとも」

いやらしく笑うドクオ。

('A`)「いや、普通に笑ってるだけなんですが……」

僕はそのキモい笑い顔に違和感を覚えた。

僕にはドクオの意図が掴めない。

先の話を聞く限りでは、僕は意図してこうなったわけではない。
要するに不測の事態だ。
早いとこ事態を収拾してしまうのがこいつのやるべき事なのではないだろうか?

( ^ω^)「……」

('A`)「……」

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:27:10.01 ID:4MzA78IqO
  
僕の考えを読んでるはずのドクオは何も答えない。
それが意味するのは何であろうか?

ひょっとしたら出る手段がないのかもしれない。

( ^ω^)「ここを出る手段はあるのかお?」

('A`)「ありますよ」

あっさりと肯定するドクオ。
僕は拍子抜けした気持ちを押し止め、具体的な手段を問う。

('A`)「私が強制的に出すことも出来ますし、貴方の意思でもそれは可能です」

( ^ω^)「何ですぐやらなかったんだお?」

('A`)「こちらの不手際ですしね。貴方の意思も尊重しようかと」

どこまでが本当かわからない答えを返すドクオを、僕はまた軽く睨みつけた。
どうにも食えない男だ。信用していいものか。

( ^ω^)「そんなの、僕が何か言う前にさっさと天国に送ればよかったんじゃないかお?」

('A`)「そういうスマートでないやり方は好まないのですよ」

天使自ら手を下すのはよろしくないので、自主的に果たして欲しいとドクオは言う。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:29:05.91 ID:4MzA78IqO
 
( ^ω^)「随分勝手な言い草だおね」

とはいえ、こちらの考えも見透かされる状況では、信用するもしないもあったものではないが。

( ^ω^)「それで、僕の意思で出る方法は?」

('A`)「その前に1つ話しておく事が」

( ^ω^)「何だお?」

('A`)「基本的に貴方はビロード君の行動に干渉出来ません」

('A`)「当然、外部に働きかける事も」

( ^ω^)「それを聞いて安心したお」

僕の答えに再びいやらしい笑みを浮かべるドクオ。
記憶はないとはいえ、色々と考える事の出来る僕は恐らくそれなりに歳を経た人間だろう。

干渉出来てしまえば、きっと色々と余計な事をしてしまう。
良くも悪くも、ビロードの人生を変えてしまうのだ。
ならばいっそ、何も出来ない方がいいのかもしれない。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:31:04.05 ID:4MzA78IqO
   
('A`)「貴方は本当に素晴らしい方だ」

( ^ω^)「うるせーお」

素晴らしかろうが何だろうが、死んでしまった僕には何の意味もないのだ。

('A`)「……それで、先の話ですが1つだけ例外があります」

( ^ω^)「例外? 何だお?」

('A`)「貴方は一言だけ、ビロード君の口を借りて外に言葉を発する事が出来ます」

( ^ω^)「……」

('A`)「ですが、その後間もなく消えてしまいます」

消えると言っても天国に還るだけだとドクオは言う。

( ^ω^)「一言かお……」

一言だけ、言葉を発する事が出来る。
それはすなわち、外の誰かに自分の存在を伝える事が出来るということだ。

しかし……


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:33:11.97 ID:4MzA78IqO
 
( ^ω^)「意味ねえお……」

そう、記憶のない僕には何の意味もない事だ。
伝えられた所で、伝える相手も伝えたい事も思い付かないのだから。

('A`)「あ、失礼。正確には一言でなく一語です」

(;^ω^)「一語!?」

( ^ω^)「それは“あ”とか“い”とかそういう……」

('A`)「ええ、そういうのです」

(;^ω^)「ますます意味ねえ!!!」

慣習的なものですのでと、すげなくドクオは答える。

一言で何を伝えろと言うのだろうか。
母親の注意を惹くくらいは出来るが……。
と、そこまで考えてそれが最良の使い方かもしれないと思い当たった。

('A`)「確かにそうかもしれませんね。一度くらいは助けられるかもしれません」

( ^ω^)「……」

無言で頷く僕に、ドクオは感慨深げに頷き、言葉を続ける。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:36:07.31 ID:4MzA78IqO
  
('A`)「そんな素晴らしい貴方に特別大サービスです」

('A`)「10秒間。その間ならずっと同じ言葉を発せられるようにしてあげましょう」

( ^ω^)「ありがとだお」

意味ねえとまた突っこみそうになったが、10秒間でも同じ言葉でも、その方がより注意を惹ける可能性は高まると思い、
素直に礼を述べた。

从'ー'从『ちょっと待ってねー』

( ><)『あーうー……』

(*^ω^)「……ま、まあ、とにかく、しばらく考えさせてもらうお」

('A`)「わかりました。しばらくしたらまた来ます」

ドクオはあっさりと去る旨を告げ、最初と同じように恭しくお辞儀をした。
様子は見ているので、何かあればご気兼ねなくどうぞと。
その姿がうっすらと消えてゆく間際、最後にとんでもない言葉を残して。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:38:12.91 ID:4MzA78IqO
 
('A`)「あ、まだわからない事があったら、まずは先輩達に聞いてくださいね」

( ^ω^)「は……?」

先輩?
先輩といえば先輩。
自分より先に生まれた人。

この場合に先輩といえば……。

('A`)「それではまた」

(;゚ω゚)「ちょっと待てぇぇぇぇ!!!」

僕の叫びも虚しく、ドクオの姿は中空に消えた。
後に残るのはビロードのお母さんのやさしい笑顔と、その手に握られた哺乳瓶。

( ^ω^)「……哺乳瓶?」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:41:19.04 ID:4MzA78IqO

(,,゚Д゚)「残念だったな」

僕の問いに答えるようにいかつい声が響く。
  _
( ゚∀゚)「ナベちゃんはお乳の出が悪くってな。普段は哺乳瓶がデフォだ」

さらに詳しい答えを、軽めの声が続ける。
ビロードの視界から見える哺乳瓶とは別に、自分のすぐ隣に誰かがいるのがわかる。
そちらを振り向こうにも、どうすればいいのかわからなかったが、意識を向けるだけで隣にいる顔が判別出来た。

(;^ω^)「えーっと、どちら様で……」

(,,゚Д゚)「ドクオから話を聞いただろ?」
 
いかつい顔のおっさんが野太い声で言う。
  _
( ゚∀゚)「先輩だよ、先輩。ここのな」

チャラチャラした感じの兄ちゃんが、軽い声で言う。

(;^ω^)「話……先輩……」

確かに聞いた。
ついさっきの事だ。
忘れるはずはない。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:44:09.43 ID:4MzA78IqO

しかし……

(;^ω^)「2人もいるとは聞いてないお」

そういえば“先輩達”とドクオは言っていた気がする。
ひょっとしてまだいるのかと聞いてみたが、どうやらここにいるのはこの3人だけらしい。
  _
( ゚∀゚)「そういうわけだ。理解したか?」

(;^ω^)「一応は。理解はしましたが納得はいかないという感じですお」

死んだはずの自分が赤ん坊の中にいるのでさえ、受け入れがたい事実なのに、同じ境遇の人間が3人もとなると、
流石にいろいろと納得いかない部分がある。

(;^ω^)「どんだけあのドクオはバカなんだお……」

ぼやく僕をいかつい顔をした方がなだめてくる。

(,,゚Д゚)「まあ、そう言うな。……しかしお前、変な喋り方だな」

方言か? とギコは聞くが、記憶のない僕には答えようがない。
たぶん口癖のようなものだろうと言うしかなかった。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:47:11.96 ID:4MzA78IqO
  
( ^ω^)「そんなに変かお?」

(,,゚Д゚)「まあ、変だな」
  _
( ゚∀゚)「変だ」

(;^ω^)「おー……」

わかりやすくていいじゃないかとジョルジュは笑いながら慰めてくれたが、まあ、この状況でそんな些細なことを気にしても
しょうがないと思うので気にしないことにした。

(,,゚Д゚)「どうせ死んだ身の上なんだ」
  _
( ゚∀゚)「ただ生まれ変わるより面白いだろ?」

面白がっていいものか悩む所だが、視界いっぱいに広がる哺乳瓶の向こうにある笑顔を思い出すと、確かにもう少し
見ていたいという気にはなる。

(;^ω^)「ですけど、僕達はこのビロード君には……」

(,,゚Д゚)「ああ、さっきのお前とドクオの話は俺達も聞いていた」
  _
( ゚∀゚)「安心しろ、俺達も同じ気持ちだ」

( ^ω^)「そうですかお」

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:50:04.75 ID:4MzA78IqO
 
どうやら見た目よりは2人とも常識人のようだ。
僕は胸を撫で下ろし、視界に広がる哺乳瓶に目を向ける。
温かいミルクが流し込まれ、心なしか身体全体が暖かい気持ちに包まれる。
  _
( ゚∀゚)「ビロードも喜んでるな」

( ^ω^)「お?」
  _
( ゚∀゚)「お前にもわかるだろ? 何となく、暖かいこの感じ」

先ほど抱き上げられた時と同じように、ビロードが感じていることの一部は僕達にも伝わるらしい。
確かにこの暖かさは、ビロードが喜んでいるのだろう。

从'ー'从『ビロードちゃん、おいしい?』

( ><)ゴクゴク

从^ー^从『ウフフ、幸せだねー』

( ^ω^)「……」

だとしたら、僕がここにいる必要はないではなかろうか。
ビロードは幸せなのだ。
母の愛を一身に受け、やさしさに包まれて。

少なくとも、3人もここにいる必要はないだろう。

( ^ω^)「……」


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:53:02.87 ID:4MzA78IqO
  
( ^ω^)「……お?」

不意に、暖かみが薄れ、ざわついた感覚に包まれた。
全体が紫がかったような、何とも言い難い、息苦しい感じがする。
  _
(;゚∀゚)「ヤベえ!? エマージェンシーだ!」

(;,,゚Д゚)「ナベちゃん、またやりやがったか?」

急に慌て出す2人。
何事かはわからないが、どうもただならぬ事態が起こったようなのは察しが付く。

(;^ω^)「あの、いったい何が……」
  _
(;゚∀゚)「もう無理だって! これ以上飲めないから!」

(;,,゚Д゚)「哺乳瓶外してあげてー!」

(;^ω^)「ああ……」

2人の言葉で何が起こっているか僕はようやく理解した。
どうやらあのお母さん、2人がいうにはナベちゃんはビロードの飲める限界以上を飲ませようとしているらしい。
見た感じ、若いお母さんなので子育てにはまだ不慣れなのだろう。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:55:15.83 ID:4MzA78IqO
 
(;,,゚Д゚)「不慣れなんてレベルじゃねーよ!」
  _
(;゚∀゚)「ナベちゃん、ものすごいドジっ子なんだよ!」

時々とんでもないことをしでかして、ビロードが大変な目にあうことはしばしばらしい。
多い時は日に数回もあるとか。
  _
(;゚∀゚)「泣け、泣くんだ、ビロード!!!」

(;,,゚Д゚)「もう無理だから! 泣け、ビロード!」

必死に怒鳴り祈るように手を合わせる2人。
ドクオの話では僕らは基本的に外部には干渉出来ないようだから、それはすごく無意味なことに感じる。
  _
(;゚∀゚)「んなこたねえ! 祈れば伝わる!」

(;,,゚Д゚)「ビロードの気持ちが伝わるように、俺らの気持ちも伝わるんだよ!」

そう信じている。
2人は口を揃えて言う。

(;^ω^)(信じてるだけかお……)


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 21:58:06.13 ID:4MzA78IqO
 
どうやら伝わっているという根拠はないらしい。
ただの偶然かもしれないのにバカらしい、そう思いはしたが、祈る2人の横顔は真剣そのものだ。
強面にチャラ夫が、赤ん坊のために必死に祈っている。
  _
(;-∀-)「泣け! ビロード、泣け!!!」

(;,,-Д-)「泣くんだゴルァァァァ!!!」

そんな姿を見た、僕がやるべき事は1つだ。

(;゚ω゚)「泣け! 泣くんだお! ビロードぉぉぉぉ!!!」

手を合わせ、必死に祈る。
そんな僕を見て、2人は一瞬だけ口元に笑みを浮かべ、すぐさま祈りに戻った。
  _
(;-∀-)(;,,-Д-)(;-ω-)「泣けぇぇぇぇ!!!」

( ><)『う……』

从'ー'从『あら?』


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:00:05.39 ID:4MzA78IqO
   
。・゚・( ><)・゚・。『ビェェェェーン!」

从'ー'从『あらあら、どうしたのかしら? おしっこかなー?』
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)(;^ω^)「いよっしゃ!!!」

ビロードの口から哺乳瓶が外され、再びベビーベッドに寝かされる。
ナベちゃんはオムツを外しているようだ。

ようやく一息つけた僕らは、精も根も尽き果てた顔でお互いを見やり、盛大に笑い出していた。
  _
(;゚∀゚)「いやー、何とか今回も大事に至らずにすんだな」

(;^ω^)「お二方は毎回こんなことしてらしたんですかお?」
  _
( ゚∀゚)「おう。誰かさんが寝坊してたからよ」

(;^ω^)「お?」

(,,゚Д゚)「お前だけが目覚めるのが遅かったんだよ」

2人の話によると、ビロードは今大体生後半年ほど。
2人が目覚めたのはビロードが生まれて間もない頃だったと言う。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:02:05.45 ID:4MzA78IqO
 
(,,゚Д゚)「その時にお前もいたのはわかったんだが、お前だけ起きなくてな」

(;^ω^)「それは申し訳ないことをしましたお」
  _
( ゚∀゚)「とにかく、これで俺たちがすぐ出て行かない理由がわかっただろ?」

(;^ω^)「ええ」

それはただの偶然なのかもしれない。
本当は、ビロードにこちらの祈りは通じていないのかもしれない。
でも、彼らの思いや行動は、ビロードのことを思ってのことだというのははっきりと理解出来た。

だから僕も、僕の答えを決めるのに迷う必要はなくなった。

(,,゚Д゚)「だから俺達は、少なくともビロードが自分の言葉で意思を伝えられるようになるまでは見守ろうかと思っている」

( ^ω^)「わかりましたお。僕も協力させてくださいお。えっと……」

(,,゚Д゚)「おっとすまん、まだ名乗ってなかったな。俺はギコ、お前と同じように仮称だがな。よろしくな」
  _
( ゚∀゚)「俺はジョルジュだ。よろしくな、ブーン」

( ^ω^)「はい、ギコさん、ジョルジュさん、よろしくお願いしますお!」


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:04:07.67 ID:4MzA78IqO
    
(,,゚Д゚)「さん付けはいらねーよ。敬語もな」
  _
( ゚∀゚)「俺達は死んだんだし、そんなこと気にしてもしょうがねーだろ?」

どうせ記憶も残ってないのだからと2人は言う。
2人とも状況的には僕と全く同じようだ。

( ^ω^)「そうでしたか……」

記憶もなく、やる事もない状況で半年間ずっとビロードの見る世界を、そしてビロードを見続けてきた2人。
果たして2人はどんな思いでここにいたのだろうか。

さっさとここを出て、生まれ変わった方が楽だったはずなのは容易に想像が付く。
それでもここにいる2人は、本当に心からビロードを思っているのだろう。
まるで自分の子供のように。

『たっだいまー! ハニー、そしてマイサン!』

しんみりとした空気を打ち破るかのごとく、底抜けに明るい声が響く。
場違いなほどに浮かれたその声の持ち主が、色んな意味でとても幸せなのは想像に難くない。

(,,゚Д゚)「ウザいのが帰ってきやがったか……」

( ^ω^)「お?」


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:06:17.04 ID:4MzA78IqO

遠くの方で話し声が聞こえる。
その内容までは聞き取れなかったが、先の明るい声とナベちゃんが話しているようだ。
程なくしてドタバタと派手に走り寄る音が聞こえ、視界いっぱいに男の顔が広がった。

(><((・∀・ )『たっだいま〜、ビロード! 今日も良い子にしてたかな〜』

(><(『あーうー……』
  _
(;゚∀゚)「今日もまた一段とウゼぇぇぇぇ!!!」

ビロードに頬擦りするその顔は、状況から考えるにビロードのお父さんだと思われる。
きっちりとしたスーツ姿で、誰が見ても池面の部類に入るだろう。

( ^ω^)「おー、随分とカッコいいお父さんだおね」

美男美女の若夫婦、着ている物それなりに上質で、時々見えた室内の様子も中々綺麗だ。
やはりビロードは幸せな家庭に生まれて来たらしい。

(,,゚Д゚)「見た目は確かにな……」
  _
(;゚∀゚)「だが、こいつは際限なくウゼえんだよ」

父親、名はモララーというらしいが、彼を2人はあまり気に入ってないらしい。
2人はそういうが、彼くらいの年齢の男性が初めて出来た自分の子供に過剰な愛情を注ぐのはよくある話なのではないかと思う。
むしろそれだけ関心を持ってくれる父親の方が、ビロードにとって、そして母親にとって幸せなことだろう。


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:08:21.67 ID:4MzA78IqO
 
( ・∀・)『うむ、今日も僕に似て一段と良い男だ。あ、ママにも似てるからね、こう、目元とか』

( ><)『うー……』

( ^ω^)(あんま似てない親子だおね……)

顔立ちこそあまり似ていないものの、ビロードを抱き、頬を寄せるその姿は紛れもない家族であろう。
男性にしては赤ん坊を抱き慣れている姿を見ると、この人は普段からちゃんと子供の相手をしているのだろう。
ナベちゃんも子供の世話をモララーに任せて、別室で先のオムツの処理をしているようだ。

( ・∀・)『ねえ、ママ、ビロードはもうすぐ言葉を話せるようになるんじゃないかな?』

『えー? まだじゃないかなー』

(,,゚Д゚)「まだだよ、バカ。ビロードはまだ生後半年ぐらいだ。最低でもあと3ヶ月はかかる」

意外にもギコは子供に詳しいようだ。
似合わないと言いたい所だが、詳しい過去を詮索しようにも記憶がないので無駄なことだ。

( ・∀・)『うーん、まだなのかー……』

何事かをぶつぶつと呟き、モララーは綺麗にビロードを抱き直す。
左手をビロードのオムツが外された剥き出しのお尻に当て、ビロードの顔を正面に据えた。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:10:05.91 ID:4MzA78IqO
   
( ・∀・)『なあ、ビロード』

( ><)『あーうー?』

( ・∀・)『君はもうすぐ喋れる様になる。それは確実だ』

+(・∀・ )『なんせ世界一優秀なこの僕と、世界一素敵なナベちゃんの息子なのだから、出来ない事は何もない』

( ><)『うー……』

( ^ω^)(……ああ、これは確かにウザいかもしれんね)

小声でビロードに言い含め、いちいちカメラ目線でポーズを決めるモララー。
ギコ達2人が言いたい事が少しだけ理解出来た。

( ・∀・)『君が初めて喋るその瞬間、それはさぞかし素敵なものだろう』

( ・∀・)『では、その第一声は何であろうか?』

(,,゚Д゚)「ママだろ」
  _
( ゚∀゚)「ママに決まってんだろうが」

( ^ω^)「ママかまんま辺りが無難だおね」

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:12:32.65 ID:4MzA78IqO
 
( ><)『あーうー……』

( ・∀・)『そうか、そうだね、確かにママが順当な所だろう』

こちらの言葉が聞こえてるはずもないし、ビロードが何かを言ったわけでもないのにモララーは1人勝手に納得し、話を続ける。

+(・∀・ )『なんせ君と一番一緒に過ごしているのは、他ならぬあの素敵なママだろうからね』

( ・∀・)『だが、少し待って欲しい』

( ・∀・)『確かに、一緒に過ごしている時間はママが一番だろう。しかし──』

+(・∀・ )『君に対する愛情という点では、僕もママに負けてないんだ』

( ・∀・)『僕が君と一緒にいられないのは、君とママのために働いてるからなのだから』

( ><)『うー……』

( ^ω^)「……」

言っていることはわかるが、それをビロードに言ったところでわかるはずはないだろう。
少々呆れ気味に見ていたが、モララーの熱弁は止まる様子もない。

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:14:25.87 ID:4MzA78IqO
  
( ・∀・)『だから君が最初に喋る言葉、その中にパパという選択肢もあってよいものではないだろうか』

( ><)『うー……?』

(><((・∀・ )『ほうら、パパですよ〜。パパ、パパ、パパ、パパ、パパ、パパ、パパに清き一票を』
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)(;^ω^)「こいつ、ウッゼぇぇぇぇ!!!」

パパ、パパと連呼し、頬擦りを繰り返すモララーのウザさを僕はようやく理解した。

(;^ω^)「ビロード、絶対最初はママって言えお!」

( ・∀・)『パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ、パパですよ〜』

( ><)『うー……』

(;,,゚Д゚)「こいつ、ホントにウゼえ」
  _
( ゚∀゚)「よし、そうだ、ビロード、そこでうんこしろ!」

(,,゚Д゚)「それだ!」

(;^ω^)「ちょwww」

バカなことを言い出すジョルジュに、ギコもすぐさま同意する。
そして先ほどと同じように、2人はまた祈りだした。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:17:17.85 ID:4MzA78IqO
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)「うんこ、うんこ、うんこ……」

(;^ω^)「いや、そんな事で必死にならんでも……」

僕の呟きは聞き流され、2人は必死に祈る。
ビロードの視界にはモララーがずっとパパ、パパ言い続けている姿が映っている。

(;^ω^)「どっちも必死すぎだろ……」

半ば呆れてはいたが、どうせやる事もないので僕も祈っておいた。
  _
( -∀-)(,,-Д-)( -ω-)「うんこ、うんこ、うんこ……」

( ・∀・)『パパパパパパパパ、ほうらパパだよ〜、パパパパ』

( ><)『うー……』

( ^ω^)「お?」

( ・∀・)『ん?』

;;( ><);; ブルブル
  _
( -∀-)(,,-Д-)「うんこ、うんこ、うんこ……」


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:19:11.21 ID:4MzA78IqO
 
( ^ω^)「……」

( ・∀・)『……』

(>< )『……』

( ・∀・)『……何だろうね、この左手に感じる生暖かいものは』

( ><)『……』

(・∀・ )『ママ〜、ちょっといいかな〜?』
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)「いよっしゃ! でかした、ビロード!」

(;^ω^)「お……」

子供のようにはしゃぐ2人を横目に、僕は呆れながらも少し驚いていた。
ビロードに2度もこちらの祈りが通じた事に。
勿論、取る行動の限られている赤ん坊の事だし、偶然の可能性の方が高いとは思うが。
  _
( ゚∀゚)「偶然じゃねーよ。心から思えば通じるもんだ」

聞きようによってはカッコいい台詞ではあるが、心から思った事がうんこなのはどうかと思う。
参加しといてなんだけど。

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:21:14.99 ID:4MzA78IqO
  
( ^ω^)「つーか、必死すぎだお」

(,,゚Д゚)「いいんだよ、池面は滅びろ」
  _
( ゚∀゚)「リア充氏ね」

( ^ω^)「確かに池面でリア充っぽいけど、あんなのでもビロードの親だお」

何かあってはナベちゃんとビロードが困ることになるだろう。

(,,゚Д゚)「それもそうだな。よし、じゃあ、禿げろ」
  _
( ゚∀゚)「仕事に影響ない程度に股関節折れろ」

(;^ω^)「ひでえ」

子供のような悪態をつく2人に僕は冷ややかな視線を送る。
しかし、池面はともかくとして、僕らも生前はリア充だった可能性はあるのだ。
もう少し心を広く持ってもいいんじゃないだろうか。

(,,゚Д゚)「あー、それはないな」

( ^ω^)「お? 何でわかるんだお?」

2人とも僕と同じで自分の事に関する記憶はないはずだ。
ドクオにでも聞いたのか思ったが、どうやら違うらしい。

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:24:10.75 ID:4MzA78IqO
 
(,,゚Д゚)「必死に思い出そうとしてみたら、何となくだがそれだけ思い出した」
  _
( ゚∀゚)「まあ、真っ先に思い浮かんだ単語なだけなんで、それが正しいという根拠はないが」

それでも、自分が思い付いた事だ。
信じようと思うと2人は言う。

( ^ω^)「……」

そんな2人の気持ちは、同じ境遇である僕にも少しわかる気がした。
自分の事を何も覚えていない、何とも言えない頼りなさは僕自身も感じている。
何かしら拠り所を求める気持ちがあるのだろう。

( ^ω^)「それで、2人の生前はどうだったのかお?」

(,,゚Д゚)「おう。俺は多分、ホームレス」

(;^ω^)「ホームレス!?」

(,,゚Д゚)「おう、だからリア充は例外なく氏ね」

確かに非リアの極みだ。
つーか、それは思い出さない方が良かったんじゃなかろうか。

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:26:37.44 ID:4MzA78IqO
  _
( ゚∀゚)「俺は、おっぱい宣教師」

(;^ω^)「おっぱい宣教師!? 何だお、それ?」
  _
( ゚∀゚)「そりゃお前、宣教師というぐらいだからおっぱいの良さを広く教え伝えてたんだろうな」

(;^ω^)「それは職業なのかお?」

まるで意味がわからない。
てか、多分それは生前の記憶じゃなくてただの願望だろう。
それに教えられなくてもおっぱいの良さは皆知っている。

(,,゚Д゚)「そういうお前はどうなんだ?」
  _
( ゚∀゚)「思い出してみろよ?」

(;^ω^)「お……」

2人に言われ、僕は目を閉じ必死に記憶を探り出そうと試みた。
僕も出来れば自分の事を知りたい。
知ったところで何かが変わるわけでもないのはわかっているが、それでも知りたいと願うのは必然だろうか。

( ^ω^)「……」

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:29:25.66 ID:4MzA78IqO

しかし、僕は何も思い出せず、閉じていた目を開いた。
開いた目に、ビロードの視界に映るのは、幸せそうなナベちゃんの笑顔と、引きつり笑いながらも幸せそうな
モララーの顔だ。

ヾ(〃><)ノシ『あーうー……』

从'ー'从『アハハ、ビロードちゃんはわんぱくだね〜』

(;・∀・)『パパをうんこまみれにするとは、わんぱく過ぎる気もするけどね……』

( ><)『うー……』

( ・∀・)『まあ、でも、安心したよ。生まれてすぐはこんなに強い子じゃなかったしね』

( ・∀・)『お医者さんには産後の肥立ちを心配されたけど、中々どうして元気いっぱいじゃないか』

ヾ(〃><)ノシ『だー』

从'ー'从『そうだね〜、ビロードちゃん元気だよね〜』

( ・∀・)+『わんぱくでもいい、たくましく育って欲しい、というところかな』

( ><)『だー』


62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:32:10.72 ID:4MzA78IqO
  
从'ー'从『ビロードちゃんは幸せかな〜? ママはビロードちゃんがいて幸せだよ〜』

( ・∀・)『勿論、パパも幸せだよ』

ヾ(〃><)ノシ『だー』

( ^ω^)「……」

幸せそうな家族の姿。
ビロードの目に、僕の目に映るその姿は、紛れもなく幸せに包まれた姿だ。

僕は……僕の記憶は……

( ;ω;)「僕は……」

不意に涙が溢れた。
何だろう、この感じは?

何故だかわからないけれど、涙が溢れる。
でもこれは、この涙は悲しい涙じゃないのは何となくわかった。


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:34:34.60 ID:4MzA78IqO

( ;ω;)「僕は幸せだったお」

僕はただそれだけを思い出した。
僕は幸せだった。
僕は僕としての最後の瞬間まで幸せだったはずだ。

でも……

ξ;凵G)ξ

何故か思い浮かぶ姿は、誰とも知らない人の泣き顔だった。

( ;ω;)「僕は……僕は……」

(,,゚Д゚)「……わかった、お前は幸せだったんだな」

( ;ω;)「お……」
  _
( ゚∀゚)「オーケィ、それだけわかればいいじゃないか」

2人から肩をポンポンと叩かれたような感触があった。
意識だけの存在のはずなのに不思議なことだが、きっと2人の慰めようとしてくれている気持ちがそれを感じさせて
くれたのだろう。


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:37:06.68 ID:4MzA78IqO

僕は2人に礼を言い、涙を拭った。
涙の意味はわからないが、とても大切だったものだと僕には感じられた。

(,,゚Д゚)b「とにかく、これからは共同生活だ」
  _
( ゚∀゚)b「一緒にビロードの成長を見届けようぜ」

( ^ω^)b「……うんお!」

僕らは3人で固い握手を交わす。
勿論、実際に握手は出来ないのだが3人の気持ちは同じだったはずだ。



こうして、ビロードの幸せを守るための僕らの奇妙な共同生活が始まった。


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:41:00.61 ID:4MzA78IqO
 
  ∧ ∧
( ФωФ) ナー

( ><)『うー……』

(;^ω^)「ナベちゃんどこだお!?」
  _
(;゚∀゚)「多分、あっちの方でご近所さんに捕まってる!」

(;^ω^)「何だお、この猫? あっちに行けお!」

(#,,゚Д゚)「このベビーカーにはお前の食い物はないぞ、ゴルァ!」
  _
(;゚∀゚)「ビロード、泣け、泣いて追い払え!」
  ∧ ∧
( ФωФ) ナー

( ><)『うー……』

(;^ω^)「ビロード、その哺乳瓶を投げるんだお!」

(#,,゚Д゚)「殴れ、ビロード!」
  _
(;゚∀゚)「ナベちゃーん!!!」


時に危機を乗り越え……


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:43:22.17 ID:4MzA78IqO
  
从*'ー'从『さあ、ゴシゴシしてきれいになりましょうね〜』

( ><)『う……』
  _
(;゚∀゚)「ビロード、そっちじゃない! ナベちゃんを見るんだ!」

( ><)っ( ゚∋゚)『あーうー……』

从*'ー'从『ビロードちゃんはアヒルさんが大好きだね〜』
  _
(;゚∀゚)「アヒルはポイしなさい! ビロード、ナベちゃんを、ナベちゃんのおっぱいを見るんだ! さあ!!!」

(,,゚Д゚)「必死すぎだろ……」

(〃><)っ( ゚∋゚)『だー』
  _
(;゚∀゚)「だからアヒルはいいんだって! ビロード、ママだよママ! 大好きなママを見ようね〜!」

( ^ω^)「ギコは興味ないのかお?」

(,,゚Д゚)「いや、まあ……」

(,,-Д-)「最初は俺もジョルジュと同じような反応だったけどな」


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:46:07.76 ID:4MzA78IqO
 
从*'ー'从

(,,゚Д゚)「あの笑顔を見るとな」

( ^ω^)「……やさしい笑顔だおね」

(,,-Д-)「ああ、親が子供に向ける慈愛に満ちた笑顔だ。そういう風には見られねえよ」

( -ω-)「ええ……」
  _
(;゚∀゚)「そう、ママだよ、ママ! もう少し、もう少しだけ下を見ようね、そうそう、もう少し」

(,,-Д-)「……」

( -ω-)「……」

( ><)『だー』
  _
(*゚∀゚)「よぉぉぉし、見えた!!! でかした、ビロード!!!」

(*,,゚Д゚)(*゚ω゚)「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


時に慈しみ……


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:49:33.06 ID:4MzA78IqO
 
( ><)『あーうー……だー……』

( ・∀・)『よーしよし、ビロード、パパだよパパ、パパのパに、パパのパでパパだよ〜』

从'ー'从『ウフフ、ビロードちゃん、幸せそうに笑ってるね〜』

ヾ(〃><)ノシ キャッキャッ

( ・∀・)+『もうそろそろ喋りだす頃だよねパパ。本当に待ち遠しいパパよ』

(;^ω^)「相変わらずウゼえ……」
  _
( ゚∀゚)「わかってるなビロード、最初は絶対ママだぞ?」

( ><)『あーうー……?』

( ・∀・)『お、どうしたパパ、ビロード? ひょっとしてパパと呼びたくなったパパかな?』

(,,゚Д゚)「ママだ、ママ」

( ><)『う……』

从'ー'从『?』

(>< )『う……』

( ・∀・)『お?』

71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:52:10.47 ID:4MzA78IqO
  
(>< )『……』

( ><)『……』

从'ー'从『どうしたのかな〜、ビロードちゃん?』
  _
( ゚∀゚)「よし、そのままナベちゃんを見続けるんだ!」

( ^ω^)「ママだお、ママ!」

( ><)『……』

( ・∀・)『は〜い、ビロード、パパはこっちですパパよ〜?』

(,,゚Д゚)「無視しろ、無視」

( ><)『……』

( ><)『……マ……』
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)(;^ω^)「よぉぉぉぉし!」

从'ー'从『?』

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:55:12.33 ID:4MzA78IqO
 
( ><)『……マ……』

( ・∀・)『パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ』
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)(;^ω^)「ママママママママママママママママママ」

( ><)『……マ……』

( ><)『……マ……』

( ><)『マッパ』

从'ー'从( ・∀・)『……』
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)( ^ω^)「……」

(〃><)『マッパー』

( ・∀・)『……マッパ?』
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)(;^ω^)「……ええと」

从*'ー'从『わ〜、ビロードちゃんが喋ったよ〜! すご〜い!』

( ・∀・)『うん、喋ったね。喋ったけど、その中身が問題だよね』


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 22:58:04.65 ID:4MzA78IqO
  
( ><)『うー……?』

( ・∀・)『愛すべき我が子の第一声が“マッパ”……』
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)( ^ω^)「wwwwwwwww」

ヾ(〃><)ノシ『マッパー』

( ・∀・)『……しかしビロード、何故君が僕の高校時代のあだ名を知ってるんだね?』

从'ー'从『え?』

( ・∀・)『え?』
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)(;^ω^)「どんなあだ名だよ……」

ヾ(〃><)ノシ『マッパー』


時にその成長を見守り……


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:00:26.85 ID:4MzA78IqO
 
( ><)『うー……』

从*'ー'从『すご〜い! ビロードちゃんが立ったよ!』
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)(;^ω^)「うぉぉぉぉ!」

( ・∀・)+『ビロード大地に立つ。感動の瞬間だね』

从'ー'从『うんうん』

(〃><)『マーマー』

从*'ー'从『は〜い、ママはここですよ〜』

( ・∀・)『まだ歩くのは無理じゃないかな? ほら、ビロード、パパだよー』

( ><)『?』

( ・∀・)『ほら、こっちこっち』

(〃><)『マッパー』

( ・∀・)『……うん、そろそろ僕をパパと呼んで欲しいかな』

78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:02:46.28 ID:4MzA78IqO
  _
( ゚∀゚)「うるせー、全裸野郎」

(,,゚Д゚)「禿げろ」

( ^ω^)「お前なんかマッパで十分だお」

(〃><)『マッパー』

( ・∀・)『ウフフ……、中々強情な子だね、君は。一体誰に似たのやら』

从*'ー'从『アハハ、ビロードちゃん、楽しそう』

ヾ(〃><)ノシ『だー!』

从*'ー'从『ビロードちゃん、幸せかな〜』

ヾ(〃><)ノシ『しやわせー』

( ・∀・)『ビロード、パパだよー』

ヾ(〃><)ノシ『マッパー』
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)( ^ω^)「wwwwwwwww」


幸せな日々は瞬く間に過ぎていった……

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:04:59.19 ID:4MzA78IqO
 
( ・∀・)『よーし着いたぞー』

从'ー'从『とーうちゃーく』

( ><)『とうたー?』

それからしばらく経ったある休日、モララーの提案で一向はドライブ来ていた。
仕事に忙しい身のはずだが、ちゃんと休みを取り、家族のために時間を取るモララーは立派な父親だと思う。

( ・∀・)『ほーらー、ご注文の海が綺麗に見える場所だよー』

从'ー'从『わ〜』

(〃><)『だー』

(;,,゚Д゚)「いや、綺麗にって……」
  _
( ゚∀゚)「何だ、この2時間サスペンスドラマのクライマックスに出て来そうな場所は?」

( ^ω^)「どう見ても断崖絶壁です、本当にありがとうございました」

相変わらずどこかずれたところのある変態だが、父親としてビロードに必要な存在なのは確かなのだ。
僕らは呆れながらもそれは納得していた。

80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:06:53.55 ID:4MzA78IqO
  
( ・∀・)『ちょっと風が強いから風邪ひかないようにね。それと、足元にも気を付けて」

从'ー'从『は〜い。ビロードちゃんはママと一緒に行きましょうね』

ビロードを抱き上げるナベちゃん。
視線が高くなり、周囲を見渡しやすくなった。

(;,,゚Д゚)「いや、マジで足元気を付けてくれよ?」
  _
(;゚∀゚)「頼むから絶対ビロードを落としてくれるなよ」

(;^ω^)「おー……」

自殺の名所とも言わんばかりの有様に、僕らは額に汗を浮かべる。
この状況では僕らがどうこう出来る間もなく、大変なことになりそうである。

( ><)っ『だ!』

从'ー'从『あれれ〜?』

( ・∀・)『ん?』

そんな中、ビロードが突然前方を指差した。
その指先を追うと、そこには1つの影がある。

81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:08:29.04 ID:4MzA78IqO
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)( ^ω^)「何だ?」

前方、つまりは岸壁にたたずむその姿はどこか儚げで、風が吹けば落ちてしまいそうに頼りない。
場所が場所だけに冗談では済まない比喩だが、こんな場所に1人でいることを考えると、少々よろしくない
状況なのかもしれない。

(,,゚Д゚)「おい、あれ……」
  _
( ゚∀゚)「ああ、ヤベーな……」

(;^ω^)「ビロード!」

ビロードに言った所でどうしようもないのだが、僕らに出来ることはそれしかない。
あとはモララー気付いてくれればいいと願うだけだ。

( ><)っ『マッパー、だーしゃん』

( ・∀・)『パパですよー、ビロード。しかし、確かに誰かいるね』

从'ー'从『何してるのかな〜?』

( ・∀・)『海を見てる……だけじゃなさそうだね。ちょっと行って来るよ』

そういうや否や、モララーは小走りで崖の方へ駆け出した。
それを追う様にナベちゃんも歩き出す。


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:10:02.15 ID:4MzA78IqO
 
程なくして、駆け寄るモララーの気配に気付いたのか、人影がこちらの方を振り向く。

ξ  )ξ

長い特徴的な巻き毛の、遠目からも美人とわかる女性だった。
しかし、その顔に生気はなく、土気色に見えるのは寒さの所為だけだろうか?

( ・∀・)+『ああ、いや、怪しい者じゃございませんよー』

警戒の色を浮かべた女性に、モララーは両手を挙げ、害意がないことを示す。
しかし、どう見てもグリコポーズで女性の周りを走るその姿は怪しさ全開だ。

(,,゚Д゚)「いや、止まれよ」

从'ー'从『こんにちは』

( ><)『こーちはー』

ξ゚听)ξ『え、あの……こんにちは……』

そこに追い着いたナベちゃんが声を掛ける。
結果的に上手い具合に事が運んだようだ。
状況から考えると、声を掛けた女性が突発的な行動を取らないとも限らなかった。


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:12:19.03 ID:4MzA78IqO
 
从'ー'从『きれいな海ですねー』

ξ゚听)ξ「え……」

そう言って海を見下ろすナベちゃんに釣られるように、女性も海に目を落とした。
打ち寄せる波が、白い飛沫の花を咲かせる。

(〃><)『きれー』

从'ー'从『でしょ〜?』

ξ゚−゚)ξ『綺麗……なんですかね……』

ナベちゃんとビロードの言葉に、海に目を落とした女性が呟くように言った。

从'ー'从『きれいですよ〜』

海の青、空の青、波の白、雲の白、そして日の光。
色んなものが鮮やかに輝いているとナベちゃんは言う。


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:14:16.31 ID:4MzA78IqO
 
ξ゚−゚)ξ『私には、どれも同じような灰色にしか見えません……』

しかし、その女性は俯いたまま、また呟くように言った。

ξ--)ξ『すみません、初対面の方に失礼しました』

つまらないことを言ってと、女性はそこでようやく顔を上げ、ナベちゃんに向けて深々とお辞儀をする。
再び上げられた顔に、ビロードの視線が向いた。

ビロードの、僕の目に映るその女性の顔には、深い悲しみを湛えた笑顔が浮かんでいた。

ξ゚−゚)ξ

( ^ω^)「──」

その瞬間、僕の時間が止まった。

わからない。

何故だかわからないけれど、僕は身じろぎ1つ出来ず、その顔をじっと見詰めていた。

( ・∀・)『時にお嬢さん、ここは少々寒い』


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:17:06.45 ID:4MzA78IqO
 
( ・∀・)+『手すりもないし、足を踏み外すと大変だ。向こうでお話しませんか?』

軽い口調とその顔を見れば、ナンパのようにも聞こえる台詞だが、流石にモララーは状況を察しているようだ。
女性をひとまずこの場から離そうと考えたらしい。

ξ゚听)ξ『いえ、私は……』

( ><)っ『だーうー』

ξ゚听)ξ「え?」

从'ー'从『うちのビロードちゃんも、向こうでお話しましょうって』

女性のそばまで歩み寄っていたナベちゃんに抱かれたまま、ビロードが女性の服の袖を掴んでいた。
最初は固い表情をしていたが、ちっとも手を放そうとしないビロードに女性の顔は少し困ったようでは
あるが和らいでいた。

ξ゚听)ξ『……はい、すみません』
  _
( ゚∀゚)「よし、ビロード、ナイス!」

(,,゚Д゚)『これで最悪の事態は避けられそうだな』

安堵の表情を見せるギコとジョルジュ。
僕はずっとビロードの目に映る女性の顔を無言で見続けていた。


87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:19:18.27 ID:4MzA78IqO
 
ナベちゃん達4人は、崖を離れ、車のそばまで歩いて行く。
ビロードは女性の服から手を放していたが、その視線はずっと女性に向いたままだった。

( ・∀・)『じゃあ、この車の中で……』

モララーは乗って来たワゴン車を指差す。
3人家族にはいささか大き過ぎる乗り物だが、話し場所としては都合がいいかもしれない。

ξ゚听)ξ『は、はい……』

女性が車内に入るのを見届けると、ナベちゃんがモララーに向かって話しかける。

从'ー'从『あ、そうだ、パパ』

( ・∀・)『何かな、マイハニー』

从'ー'从『ちょっと温かい飲み物でも買って来てくれるかな』

( ・∀・)『オーライ、ハニー。しかし、この辺に自動販売機の類はないな』

モララーは顎に手をあて、残念そうに首を振る。
確かにこの辺りには売店の1件もない。
ここに来る前、山の上り口辺りに見かけた気はするとモララーは言う。


100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:55:15.33 ID:4MzA78IqO
  
从'ー'从『じゃあ、そこまで行って買って来てくれるかな?』

( ・∀・)『……えーと、それは車でかな?』

モララーの返答ににこやかに首を振るナベちゃん。
それはそうだ。
車は寒さを凌ぐ話す場所として今から使うのだから。

(;・∀・)『それは結構大変だと思うんだけど……』

从'ー'从『だめ?』

(;・∀・)+『いや、ダメじゃないよ、うん』

モララーは引きつった表情で頷く。
平素からそうだが、モララーはナベちゃんには甘過ぎるほど甘い。

( ・∀・)『よし、それじゃあ、ひとっ走り行ってこよう」

从'ー'从ノシ『がんばってね〜』

( ><)ノシ『マッパー』



102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:57:48.63 ID:4MzA78IqO
 
( ・∀・)ノシ『ハハハ、パパね、パパ。よーし、パパ、がんばっちゃうぞー』

そういってモララーは登って来た道に向かって走り出した。
何故か両手を挙げたまま。
ナベちゃんはそれを見届けると、抱いていたビロードを女性の隣に下ろし、自分は向かいの席に座る。

ξ゚听)ξ『あの……』

やり取りは聞こえていたのか、申し訳なさそうな顔で女性が話しかけるが、ナベちゃんは気にしないと笑顔で言う。

从'ー'从『この方が話しやすいよね?』

ξ゚听)ξ『あ……はい、すみません』
  _
( ゚∀゚)「ナベちゃんも中々やるじゃねーか」

(,,゚Д゚)「ちとモララーが気の毒過ぎるがな……」

同性の方が放しやすいだろうと踏んでナベちゃんはモララーを遠ざけたのだ。
その気遣いに女性は改めて礼を言う。


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/27(日) 23:59:08.95 ID:4MzA78IqO
 
从'ー'从『よし、それじゃ自己紹介。私はワタナベだよ〜。この子はビロード』

( ><)『だーうー』

ξ゚听)ξ『私はツンと申します。すみません、名乗りもせずに』

ツン。
それが女性の名前だという。

( ^ω^)(ツン……ツン……ツン……ツン……ツン……ツン……ツン……ツン──)

僕は何度もその名を反芻した。
心のどこかにその名がわずかに引っかかる。
僕の心のどこかに、その名を収める場所があるのだろうか。
  _
( ゚∀゚)「おい、ブーン? さっきから黙り込んでどうしたよ?」

(,,゚Д゚)「何だ、お前、ああいうのがタイプか?」

僕に話しかけてくる2人の声も僕には届かず、ただただツンという名前が僕の中で響き続けていた。
  _,
( ゚∀゚)「ブーン?」

ジョルジュがいぶかしげな顔をしたが、その声をツンの言葉が遮る。



107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:00:46.81 ID:UymfNbNGO
 
ξ゚听)ξ『素敵なご夫婦……いえ、ご家族ですね』

ツンは傍らのビロード頭を撫でながら言う。
ビロードは大人しくされるがままだ。
眠いのかもしれないが、今は寝ないで欲しいと切に願う。

从'ー'从『でしょ〜。とっても素敵な家族なんだよ〜』

朗らかに笑うナベちゃんの顔とは対照的に、ツンの顔は重く沈む。

(,,゚Д゚)「大丈夫か? ナベちゃんだとひょっとして逆効果だったりしないか?」

ギコの心配を余所に、ツンは恨みがましい目を向けることもなく困ったように笑っていた。
どうやらツンの指をビロードがしっかり掴んでいるようだ。
  _
( ゚∀゚)「ナベちゃんだけじゃない、ビロードもいるんだ。きっと何とかなる」

ξ゚听)ξ『本当に素敵な家族ですね。羨ましいほどに』

从'ー'从『あなたのご家族は……』

ξ゚听)ξ『家族はいます。両親ともに元気です。……でも』

( ^ω^)「……」


109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:02:18.36 ID:UymfNbNGO
 
ξ゚−゚)ξ『私の一番大切だった人はもういないんです……』

車内が重い空気に包まれる。
ツンが何かしらの理由があってここにいたのはわかっていたが、改めて言葉にされると皆、何も言えずに
黙ってしまう。

静寂の中、僕はずっとツンを見詰め続けていた。
そんな僕の気持ちを汲むかのように、ビロードもツンから目を離さない。

从'ー'从『詳しい話をお伺いしてもいいですか?』

話せば、少しは気持ちが晴れるかもしれないとナベちゃんは言う。
ナベちゃんの言葉にギコやジョルジュも頷く。
ビロードも促すかのようにツンの指を引っ張った。

ξ゚听)ξ『……良ければ、聞いて頂けますか?』

ツンは訥々と話し出す。
自分には、小さい頃から中の良い幼馴染がいたこと。
小学、中学、高校と、ずっと同じ道を歩むに連れて、お互いに惹かれあっていったこと。

幼馴染の名前は内藤ホライゾン。


111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:04:09.18 ID:UymfNbNGO
  
ξ--)ξ『本当言うと、ずっと好きだったんです』

ツンは少しはにかみながら言う。

ξ--)ξ『小さい頃からずっと。やさしいあいつが』

向こうも自分のことを好いてくれているのはわかっていたけど、自分の素直になれない性格が災いして、
随分振り回したと思うと彼女は言う。

ξ゚听)ξ『我ながらひどい女だったと思います。でも……』

ξ--)ξ『あいつは怒りもせず、やさしい笑顔で私のことをずっと見守ってくれていました』

( ^ω^)「……」

大学生になり、大学も同じになった2人はようやく素直になり始め、やがて恋人同士と呼ばれる関係になれたという。

ξ゚−゚)ξそれでもやっぱり照れくさくて、私はあいつにいろいろ無理難題を押し付けていました』

ξ゚听)ξ『それでもあいつは、やさしく笑ってくれて……」

幸せな時間だったと、ツンは言う。


114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:06:07.54 ID:UymfNbNGO
 
ξ゚−゚)ξ『でも、ようやく結ばれた私達の時間は、長くは続きませんでした』

ξ − )ξ『今から2年ほど前、あいつは亡くなりました』

ξ − )ξ『私が横断歩道を渡っている時に、居眠り運転をしていたトラックが突っ込んで来て……』

ξ − )ξ『その時あいつが、私を突き飛ばして代わりに……』

从'ー'从『……』

(,,゚Д゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

( ^ω^)「……」

一際トーンを落とし、声を震わせるツンに誰も何も言えずにいた。
訥々と、つかえながらもただ起こった事実を搾り出すように伝えるツンにの言葉に、僕の心は締め付けられるような
痛みを感じていた。

( ><)っ『うー』

ビロードが手を伸ばしツンの指を強く掴む。
ツンは一瞬、驚いた表情を見せたが、小さく、ありがとうと言って再び話し出す。


115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:08:09.66 ID:UymfNbNGO
   
ξ゚听)ξ『私は幸せでした』

ξ゚ー゚)ξ『あいつがいつもそばにいてくれて、私を見守ってくれていて』

( ^ω^)「……」

そう言ったツンの顔には、先ほどまでとは違うやさしい笑みが浮かんでいた。
思い出せば自然に笑顔になるあの人がくれた想い出。
思い出に浸るその時だけが、彼女に残された最後の幸せなのかもしれない。

ξ--)ξ『でも、あいつはどうだったのでしょう?』

声のトーンを落とし、再び悲しみに沈んだ顔でツンは問い掛ける。
誰に向けたわけでもない、幾度となく繰り返した言葉を問い掛ける。

ξ゚−゚)ξ『私はあいつを振り回してばかりでした』

( ^ω^)「……」

ξ゚−゚)ξ『あいつがくれるやさしさが嬉しくて、でも素直になれなくて』

( ^ω^)「……」



117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:10:08.70 ID:UymfNbNGO
 
ξ゚−゚)ξ『そんな私といて、あいつは楽しかったのでしょうか?』

( ^ω^)「……」

ξ − )ξ『あいつは幸せだったのでしょうか?』

( ^ω^)「……」

訴えかけるような目で、ナベちゃんの方へ視線を向けるツン。
その問い掛けに、頷いてあげることは簡単だ。
でも、それは彼女の心にどれだけ救いを与えてあげられるだろうか?

ナベちゃんがツンに向けたやさしい言葉は全く耳に入らず、僕はただビロードの視線に映るツンの横顔だけを眺め続けていた。

(,,゚Д゚)「覚悟はしてたが重いな話だな……」
  _
( ゚∀゚)「ああ……」

( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「でも、ツンも内藤ってやつも幸せだったんじゃないかな?」

(,,゚Д゚)「だな。愛する人のために死ねたら、男は本望だろう」


119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:12:45.03 ID:UymfNbNGO
  _
( ゚∀゚)「お前はどう思う……って、ブーン?」

( ^ω^)「……」
  _
(;゚∀゚)「お前、さっきからどうしたんだよ? どこか具合でも悪いのか?」

何も言わず、ただツンだけを見続ける僕に、ジョルジュが心配そうに声を掛ける。

( ^ω^)「……わからないお」

(,,゚Д゚)「あ?」

( ;ω;)「わからないんだお!」

僕には何もわからない。
でも、何もわからないはずの僕の目からは、止め処なく涙が溢れる。

(,,゚Д゚)「お前……」

( ;ω;)「僕にはわからないお! わからないんだお! でも……」

ξ − )ξ

( ;ω;)「わからないけど、あの子の悲しそうな顔を見てると、涙が止まらないんだお!

気付けは僕は叫んでいた。
叫んでも、僕の言葉はツンに届かないと言うのに。


120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:15:12.80 ID:UymfNbNGO
  _
(;゚∀゚)「お前、ひょっとして……」

(;,,゚Д゚)「2年前って事は……」

( ;ω;)「わからないお! でも、わからないけどあの子が悲しいと僕も悲しいんだお!」

僕は涙でにじむツンの姿から目を離さずにまた叫んでいた。

僕は幸せを伝えたはずだった。
笑顔で、別れを告げたはずだった。

だのに何故、ツンはこんなにも悲しい顔をしているのだろう?

心が張り裂けそうなほど苦しいのに、僕は目を逸らせずにいた。

从'ー'从『ちょっとごめんね』

ツンに言葉を掛け終えたナベちゃんが不意に立ち上がった。
どうやらモララーが戻って来たらしい。

( ・∀・(|窓

窓に貼り付いて中の様子を伺っている。

ナベちゃんはためらうことなくモララーの貼り付いたドアを勢いよく開けた。


123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:17:18.35 ID:UymfNbNGO
  
(;・∀・)『ちょ、ハニー、いきなりだね』

从'ー'从『いいから、ちょっとこっちに来てね〜』

しばらく1人にしてあげた方がいいと判断したのか、ナベちゃんはモララーを引きずって車から離れていく。
後に残されたのはツンとビロード、そして僕らだ。

( ><)『だーうー』

ξ゚听)ξ『ごめんね、折角家族で楽しんでるとことに邪魔しちゃって』

寂しげな表情を浮かべながらも、ツンはビロードの頭をやさしく撫でる。

ξ゚听)ξ『今日はドライブだったのかな? この辺は何もないところなのにね……』
  _
( ゚∀゚)「確かに何もないとこだったが、今日ばかりはモララーのアホのファインプレーだったな」

(,,゚Д゚)「ああ」

( ^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「おい、ブーン! お前、ツンの事、何か思い出せないのか?」


125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:19:06.20 ID:UymfNbNGO
 
( ^ω^)「……わからないお」

単なる偶然なのかもしれない。
もっと別の何かなのかもしれない。

たまたま生前の僕が、ツンを知っていただけの可能性もある。
ただの知り合いで、僕の一方的な気持ちだけの可能性だってある。

僕がツンの言う、内藤ホライゾンだったことを証明するものは何もない。

( ><)『ぶー』

ξ゚听)ξ『え……?』

ビロードの言葉に、ツンはハッとした表情を見せた。
そのままビロードの顔を凝視する。

ξ゚听)ξ

( ^ω^)

まっすぐにビロードを見る彼女の瞳を、僕はまっすぐに見詰め返した。


126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:23:17.60 ID:UymfNbNGO
 
ヾ(〃><)ノシ『ぶーぶー』

ξ゚听)ξ『あ……』

再び漏れたビロードの言葉に、ツンは驚いたような顔を見せ、すぐに笑い出していた。

ξ゚ー゚)ξ『ああ、びっくりした。そっか、そうだよね。“ぶーぶー”か』

ヾ(〃><)ノシ『ぶーぶー』

ビロードが両手で座席をバンバンと叩く。
ぶーぶーと、嬉しそうにはしゃぎながら。

ξ゚听)ξ『車の事ね、ホントびっくりした』

ツンがビロードの頭を撫でながらおかしそうに言う。

ξ゚听)ξ『何でビロード君があいつのあだ名を知ってるのかと思っちゃって』

( ^ω^)

(〃><)『ぶーぶー?』

ξ゚听)ξ『ううん、あいつのあだ名はね、ブーンっていったの』


129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:25:23.94 ID:UymfNbNGO
 
(,,゚Д゚)「!」
  _
( ゚∀゚)「!」

( ^ω^)

ξ゚ー゚)ξ『子供の頃、いっつもブーン、ブーンって言って走り回ってたのよ』

(〃><)『ぶーんぶーん』

ξ゚ー゚)ξ『そう、だからブーンって呼ばれてたのよ』
  _
(;゚∀゚)「お、おい……」

(;,,゚Д゚)「やっぱりお前……」

( ^ω^)「僕は……」

僕はブーン。
全てなくした記憶の中から、1つだけ返してもらった名前。
それは僕の子供の頃のあだ名だったものだとドクオは言った。

ないはずの記憶に残る泣き顔と、目の前のツンの顔が重なる。
僕は……


131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:27:31.10 ID:UymfNbNGO
  _
(;゚∀゚)(;,,゚Д゚)「ブーン!」

彼女が言うブーン、それは内藤ホライゾンという名の彼女の幼馴染。
彼女の大切な人で、2年間に亡くなった人。

( ^ω^)「僕が……」

ξ゚听)ξ

( ^ω^)「……だとしても、何の意味があるんだお?」

(,,゚Д゚)「!」
  _
( ゚∀゚)「!」

僕が内藤ホライゾンだったとして、ツンの想い人だったとして、今更何の意味がある?
僕はもう死んだのだ。
僕には、どうすることも出来ない。

僕にはもう、彼女に何も伝えることは出来ないのだ。


133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:30:07.23 ID:UymfNbNGO
  _ 
(;゚∀゚)「バカ野郎! まだあるだろ、俺達には!」

( ^ω^)「一語だけ伝えて何になるんだお?」
  _
(;゚∀゚)「……ッ!」

確かに僕らには1つだけ伝える手段が残されている。
でもそれは一語だけ、ただ一語を発するだけ。

それで何を伝えられるだろうか?
そんなこと考えるまでもない。

( ^ω^)「もう、僕には何も出来ないんだお……」
  _
(;゚∀゚)「簡単に諦めんなよ」

(#^ω^)「簡単じゃねーお!」

(,,゚Д゚)「落ち着け、2人とも。何か、何かあるはずだ……俺達に出来る何かが……」

ξ゚听)ξ『ホントごめんね。折角の家族の団欒の邪魔しちゃって』

焦る僕らを余所に、ツンはビロードにやさしく話しかける。
その目に浮かぶ諦めの色を消すことを出来ぬまま、彼女はもう、ここを去ろうとしている。


135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:32:42.83 ID:UymfNbNGO
 
(;,,゚Д゚)「ヤバイな……もう行っちまうかもな……」
  _
(;゚∀゚)「おい、ブーン、いいのかよ、それで?」

( ^ω^)「……」

良いも悪いもないのだ。
僕にはどうしようもないのだから。
伝えられる言葉は一語、縦しんば話せたとしても、僕には記憶がなく、彼女との想い出も語れない。

(〃><)『だ!』

ξ゚听)ξ『君は本当に楽しそうに笑うわね』

ヾ(〃><)ノシ キャッキャッ

ξ゚−゚)ξ『ブーンもね、いっつもニコニコ笑っていて、私はその笑顔が大好きだったの』

泣きそうな顔で微笑むツン。
僕はただ、それを見ていることしか出来ない。


137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:35:14.67 ID:UymfNbNGO
  _
(;゚∀゚)「諦めんなよ! お前のことだろ、このニヤケ面!」

ジョルジュが僕の襟首を掴みを揺さぶる。

(,,゚Д゚)「止めろ、ジョルジュ!」
  _
(;゚∀゚)「けどよ………」

(,,゚Д゚)「なあ、ブーン、お前はどうしたい?」

出来る出来ないは置いといて、お前はどうしたいんだとギコが聞く。

(;^ω^)「そりゃあ……出来れば伝えたいお」

(,,゚Д゚)「何をだ?」

( ^ω^)「僕はツンといて、きっと幸せだったんだお」

僕は思い出す。
自分の記憶を呼び覚まそうとした時のあの気持ちを。
幸せに満ち溢れた涙を。

だから、泣かないで、僕のことは忘れてツンも幸せになって欲しいと思う。


139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:39:01.22 ID:UymfNbNGO
  _
( ゚∀゚)「だったらそれを伝えようぜ?」

( ^ω^)「どうやってだお?」

たった一語じゃ、僕の気持ちの何万分の一も伝えられないのだ。

(,,゚Д゚)「一語じゃねーよ」
  _
( ゚∀゚)「俺達のも合わせれば三語だろ?」

( ^ω^)「ギコ、ジョルジュ……ありがとう。でも……」

2人はまだ、ビロードを見守るという役割が残っている。
こんなとこで言葉を発して、消えてしまっていいわけがない。

( ^ω^)「それに、一語が三語になったところで大して変わらないお……」
  _
(;゚∀゚)「それは……」

( ^ω^)「どうしようもないんだお……」

(,,゚Д゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」


140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:42:07.58 ID:UymfNbNGO
 
そう、どうしようもないのだ。
僕にはもう、祈ることしか出来ない。

僕は無意識に両手を合わせ、いつものようにビロードに届くように祈った。

( -ω-)

( ><)

(,,゚Д゚)「……ん? なんだ……」
  _
(;゚∀゚)「お、おい……」

不意に身体が温かくなった。
いつもビロードが喜んでいる時に感じるそれだが、今までにないほど温かさを感じた。

これは……

(;^ω^)「ビロード?」

(〃><)『だー!』

呟くように漏れた言葉に答えるように、ビロードの声が響いた。
いつもの元気な声が。
幸せに満ちた声が。


142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 00:45:08.35 ID:UymfNbNGO
 
ξ゚听)ξ『ごめんね、お姉ちゃん、もう行かなくっちゃ』

( ><)『うー』

ξ゚听)ξ『……ビロード君は今幸せなのかな?』

(〃><)『しあわせー』

ξ゚ー゚)ξ『そっか。良かった』

(〃><)『しあわせー』

ξ゚ー゚)ξ『ずっと幸せでいてね。私や、ブーンの代わりに』

悲しげな笑みがビロードの目に、僕の目に映る。
消えてしまいそうな笑顔。

もうすぐ消えてしまう笑顔。

僕はその瞬間、自分の気持ちを抑え切れなくなっていた。


154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:05:32.45 ID:UymfNbNGO
 
(#^ω^)「勝手に僕を幸せじゃなかったと決めんなお!」

(〃><)『だー!』

ビロードがツンの手を掴む。

( ^ω^)「僕はツンに会えて、ツンと一緒いられて、幸せだったお!」

ξ゚听)ξ『ごめんね、ビロード君、私はもう……』


( ><)『ぶーん、しあわせー』


ξ゚听)ξ『え!?』

( ^ω^)「!」

突如発せられたビロードの言葉に、ツンの動きが止まる。
確かにビロードはブーンと言った。
あたかも僕の言葉を、代弁してくれたかのように。



156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:07:32.79 ID:UymfNbNGO
  _
(;゚∀゚)「おい、今の!?」

(,,゚Д゚)「ビロード、お前……」

( ^ω^)「僕らのことがわかるのかお……?」

僕らは驚き、思わず問い掛けるもビロードからの返事はない。
代わりにビロードは、ずっと同じ言葉を続ける。

僕は1つ頷き、ビロードに合わせて僕も同じ言葉を叫ぶ。

(〃><)『ぶーん、しあわせー』

( ^ω^)「僕はツンといられて幸せだったお!」

(〃><)『ぶーん、しあわせー』

( ^ω^)「僕はツンといられて幸せだったお!」

ξ゚听)ξ『……』

(〃><)『ぶーん、しあわせー』

( ^ω^)「僕はツンといられて幸せだったお!」


158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:09:34.31 ID:UymfNbNGO
 
ξ゚ー゚)ξ『……フフフ、ありがとう、ビロード君はかしこいね。私の言ったことを覚えたんだね』

(;,,゚Д゚)「くそっ、やっぱそう思うよな」

子供がオウム返しに言葉を真似ることはよくあるのだ。
ツンがそう思ってしまっても仕方のないことだ。

( ^ω^)「僕は──!!」

ツンがそっとビロードの手を外す。
尚も言葉を続けるビロードの頭を撫で、立ち上がった。

(,,゚Д゚)「万事休すか……
  _
(#゚∀゚)「まだだ!!!」

(〃><)『ぶーん、しあわせー』

( ;ω;)「僕はツンといられて幸せだったお!」

(;,,゚Д゚)「まだって、あれで伝わらなかったんだ。もう、どうしようもないじゃないか……」


160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:11:43.38 ID:UymfNbNGO
  _
(#゚∀゚)「まだだよ、まだ!」

ジョルジュが吠える。
まだ諦めるなと懸命に叫ぶ。

僕は何度も頷き、同じ言葉を繰り返す。

(〃><)『ぶーん、しあわせー』

( ;ω;)「僕はツンといられて幸せだったお!」

(,,゚Д゚)「く……、しかし、どうやって……」
  _
( ゚∀゚)「今のはビロードの言葉だ。要はブーンの言葉だとわかればいいんだよ!」

(,,゚Д゚)「ブーンの言葉……?」

(〃><)『ぶーん、しあわせー』

( ;ω;)「僕はツンといられて幸せだったお!」
  _
( ゚∀゚)「何か、何かないのか? ブーンだってわからせる方法は……」

(,,゚Д゚)「……」


162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:14:24.51 ID:UymfNbNGO
 
(〃><)『ぶーん、しあわせー』

( ;ω;)「僕はツンといられて幸せだったお!」

(,,゚Д゚)「そうだ!」

顔を伏せ、必死に考えていたギコが不意に叫ぶ。
そしてすぐさま、大声で呼びかけた。

(,,゚Д゚)「おい、ドクオ、聞いてんだろ? ちょっと頼みがある!」

('A`)「ええ、聞いていますよ」
  _
(;゚∀゚)「うお!? そうか、こいつに頼めば……」

('A`)「ああ、最初に断っておきますが、条件の変更は受け付けませんよ」
  _
(;゚∀゚)「んだと? 見てたんならこの状況わかるだろ? 何とかしてくれよ!?」

ドクオは大仰に首を振り、やんわりとジョルジュの言葉をいなす。
最初に宣言していたように、自ら干渉をすることは好まないという姿勢は崩さないようだ。


165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:16:26.11 ID:UymfNbNGO
 
(,,゚Д゚)「わかった、けどほんの少しだけでいいからまけてくれ」

('A`)「ふむ、申し出次第ですが」

(,,゚Д゚)「話せるのは1人一語でいい」
  _
(;゚∀゚)「おい!?」

(,,゚Д゚)「ただ、促音はまけてくれないか?」

('A`)「“促音”ですか? 促音と言うと“っ”ですね」

(,,゚Д゚)「そうだ」

('A`)「まあ、そのくらいは。言い方次第ですからねえ」

ドクオはそのくらいなら構わないと恭しく頷く。

(,,゚Д゚)「おう、ありがとよ!」
  _
(;゚∀゚)「おい、ギコ、今のどういう……」

(,,゚Д゚)「いいから聞け、時間がない! ブーンお前もだ」

( ;ω;)「お?」


167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:19:28.90 ID:UymfNbNGO
 
僕はギこの方に額を寄せ、耳を傾ける。
視線はツンの方へ向けたまま、歩き去ろうとする背をすがるように見詰めたままで。

(,,゚Д゚)「今から外に、ツンに言葉を伝える」
  _
(;゚∀゚)(;^ω^)「!」

(,,゚Д゚)「急ぐぞ、時間がない」

(;^ω^)「けど……」

外に伝えたところで、ツンに僕のことをわからせる手段は……

(,,゚Д゚)「いいから俺を信じろ」
  _
( ゚∀゚)「手があるのか?」

(,,゚Д゚)「ある!」

ブーンだとわからせる取って置きの手段があると、力強く頷くギコ。
僕はその目を見詰め返し、ゆっくりと頷いた。


169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:22:32.30 ID:UymfNbNGO
 
( ^ω^)「何と言えばいいのかお……?」

(,,゚Д゚)「いいか、よく聞けよ……」

僕はギコから僕が言うべき一語を教わった。
果たしてこれで伝わるのだろうか。

僕は不安に思いつつも、ギコとジョルジュを見る。

この一語を言えば、彼らともお別れなのだ。
なし崩し的に言うことになってしまったのは申し訳なく思うが、彼らは潮時だと笑ってくれた。

(,,゚Д゚)「ビロードは自我を持ち始めてる。たぶん、俺らの存在に気付きかけてるのだろう」
  _
( ゚∀゚)「ブーンの言葉を汲んでくれたみたいだしな」

( ><)『ぶーん、しあわせー』

今も同じ言葉を繰り返してくれているビロード。
ビロードは、僕らの存在を受け入れて、そして感謝してくれているのかもしれない。


170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:25:36.75 ID:UymfNbNGO
 
都合のいい考え方かもしれないけれど、ずっと一緒に過ごしてきた僕らだ。
僕らはお互いをよくわかっている。

(,,゚Д゚)「よし、行くぞ」
  _
( ゚∀゚)「ああ」

( ^ω^)「みんな、よろしく頼むお」

僕らは意識を集中する。
ビロードの見る世界を、感じる全てを自分の中に取り込むように目を閉じる。

瞬間、光が弾けるようなイメージが見えた。

目を開いた僕の前に、歩き去るツンの背中が見える。


174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:27:42.28 ID:UymfNbNGO
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)( ^ω^)「ビロード!!!」


( ><)『ぶーん、しあわせー』


( ><)(,,゚Д゚)『だっ』

.       _
( ><)( ゚∀゚)『た』


( ><)( ^ω^)『お』


ξ  )ξ

ツンの足が止まる。
ゆっくりと振り返るその姿に、僕らは再度同じ言葉を発した。


175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:30:50.00 ID:UymfNbNGO
 
( ><)『ぶーん、しあわせー』

( ><)(,,゚Д゚)『だっ』
.       _
( ><)( ゚∀゚)『た』

( ><)( ^ω^)『お』

ξ゚听)ξ


( ><)『ぶーん、しあわせー』

( ><)(,,゚Д゚)『だっ』
.       _
( ><)( ゚∀゚)『た』

( ><)( ^ω^)『お』

ξ゚听)ξ


176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:33:05.28 ID:UymfNbNGO
  
( ><)『ぶーん、しあわせー』

( ><)(,,゚Д゚)『だっ』
.       _
( ><)( ゚∀゚)『た』

( ><)( ^ω^)『お!?』

何度目かの言葉を繰り返した瞬間、世界が大きく揺れた。
気付いた時には、ツンがビロードを力強く抱き締めていた。

ξ;凵G)ξ『どうして、どうしてなの……?』

(〃><)『ぶーん、しあわせだったお』

ξ;凵G)ξ『どうして君が、あいつの口癖を?』

(〃><)『ぶーん、しあわせだったお』

ξ;凵G)ξ『ブーン!!!』

ツンは泣いていた。
ただただ泣いていた。

僕の言葉はもう届いていないけど、僕達はずっと同じ言葉を繰り返していた。
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)( ^ω^)「ぶーん、しあわせだったお」

179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:37:46.85 ID:UymfNbNGO
 
('A`)「……申し訳ないのですが、そろそろお時間の方が」

( ^ω^)「お……」

(,,゚Д゚)「ああ……」
  _
( ゚∀゚)「ん……」

僕らの前にいつの間にかドクオが姿を現していた。
ずっといたはずだが、姿が見えなかったところを見ると、気を利かせて姿を隠してくれていたようだ。

ξ;凵G)ξ)><〃)

ドクオの背中越しに、泣きじゃくりながらビロードにすがりつくツンの姿が見える。
鏡の中やビデオでしか見たことがなかったビロードの姿がはっきり見えることから、どうやら僕らは既にビロードから
離れているようだ。

(,,゚Д゚)「大丈夫だ」
  _
( ゚∀゚)「きっと伝わったさ」

182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:40:51.58 ID:UymfNbNGO
 
( ^ω^)

僕は無言で頷く。
結局僕はただ一語、ツンに伝えただけだった。
でも、僕の気持ちはきっと彼女に伝わったと思う。

(,,゚Д゚)
  _
( ゚∀゚)

彼らのお陰で。
そして……

(〃><)

( ^ω^)「大きくなったおね」

(,,゚Д゚)「そうだな」
  _
( ゚∀゚)「いい男になったな、父親に似ず」

僕らは顔を見合わせて笑いあった。
ビロードはきっと大丈夫。

僕らがいなくても、ちょっとドジだけど、やさしいお母さんと、変態なことを除けば完璧な父親がついている。

从'ー'从(・∀・ )


184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:43:01.58 ID:UymfNbNGO
 
('A`)「では……」

(,,゚Д゚)「おう、やってくれ」
  _
( ゚∀゚)「心残りはねーしな。まあ、一度死んじまった時点で何もなかったはずなんだけどな」

死んでまた、未練が出来たのもおかしな話だったとジョルジュは笑う。
今はそれもなくなった。
まあ、僕ら自身もこれからなくなるのだから、気にしても仕方ないんだけど、それでも晴々した気持ちで逝けるのは嬉しいものだ。

( ^ω^)「2人とも、ありがとだお」

(,,゚Д゚)「おう、良かったな」
  _
( ゚∀゚)「俺らがそうしたいからそうしただけさ。むしろすっきり出来て良かったぐらいだ」

2人の姿がかすみ始める。
僕は晴れやかな笑顔で2人にまた礼を述べた。

(,,゚Д゚)「元気でな……はおかしいか」
  _
( ゚∀゚)「またな……も違うよな」

( ^ω^)「とにかく、ありがとうでしたお」


185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:46:10.23 ID:UymfNbNGO

(,,゚Д゚)「おう、それじゃあな」
  _
( ゚∀゚)「やっぱ、またな、だな。縁があって、また会えるといいな」

覚えていなくても、また会いたいとジョルジュは言う。

( ^ω^)「だおね。まただお」
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚) (^ω^ )

2人の姿が徐々に消えていく。
僕は笑顔でそれを見送った。

その姿が完全に虚空に消えても、僕はずっと見続けていた。

('A`)「……では、ブーンさん」

( ^ω^)「うんお」

僕の心残りは何もない。

ξ;凵G)ξ)><〃)

ツンはきっと大丈夫だ。
ツンの強さは、僕が一番知っているはずだから。


186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:50:23.52 ID:UymfNbNGO
 
だから、ツン、強く生きて欲しい。
僕は君に会えて、幸せだったのだから。

( ^ω^)「お……」

不意に意識が闇に落ちるような覚束ない感覚を覚えた。

('A`)「……あなたには辛い思いをさせましたね、私は──」

僕は何か言いかけたドクオを制し、ツンが好きだったと言ってくれた笑顔を満面に浮かべて言う。

( ^ω^)「ドクオ、ツンにまた会わせてくれてありがとうだお!」

('A`)「ブーンさん……」

( ^ω^)「僕は幸せだったお!」

僕の姿がゆっくりと消えて逝く。

幸せだった僕は、幸せなまま消えて逝くのだ。

( ^ω^)「またねだお……」

僕の意識は輝く光に包まれ、ゆっくりと閉ざされていった。


──
───────
─────────────────

188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 01:55:10.34 ID:UymfNbNGO
 
───20数年後─────────


( ><)「こらー! みんな席に着くんです!」

( ><)「もう授業は始まってるんですよ!?」

( ><)「こら、そこの2人!」
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)

(;><)「またあなた達ですか? いっつもいっつもどうしてケンカばっかり……」
  _
( ゚∀゚)「だってこいつが巨乳の良さをわからないって言うんだぜ?」

(,,゚Д゚)「あんなもんのどこがいいんだよ。膨らんでるだけじゃねーか」
.  _
(#゚∀゚)「何だと!?」

(,,゚Д゚)「やるかゴルァ?」

(;><)「言ってるそばからケンカしないでくださいなんです!」


192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 02:00:13.69 ID:UymfNbNGO
  
( ><)「全くもうー……」
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)

( ><)b「長岡君、小学3年生にそういう話は早すぎます」

( ><)b「そして猫田君、巨乳はただ膨らんでるわけではなく、愛が詰まっています」

( ><)「そしてケンカはダメです」

( ><)「わかりましたか、2人とも?」
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)「はーい、マッパ先生」

(;><)「誰がマッパ先生ですか! てか、何で僕の中学時代のあだ名を知ってるんですか!」
  _
( ゚∀゚)(,,゚Д゚)   ヾ(><;)ノシ

──
───────
─────────────────


193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 02:02:26.25 ID:UymfNbNGO
 
「──遅くなってごめん!」

ξ゚听)ξ「ううん、いいのよ。あの仕事の忙しさは私も知ってるしね」

「それで……」

ξ゚ー゚)ξ「無事生まれたわよ……男の子」

「お疲れさま」

ξ--)ξ「ホント、疲れたわ。……まさかこの年で子供を生むなんて思ってもみなかったし」

「アハハ……」

ξ゚听)ξ「それで、このこの名前なんだけど……」

「男の子だったんだし、あの名前でいいんじゃないかな?」

ξ゚听)ξ「でも……」

「ずっと恋敵だったやつだから? 僕はそんなこと気にしないよ」


194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/12/28(月) 02:04:10.51 ID:UymfNbNGO
   
「君がどれだけ想っていたか、この10年間、身をもって知ってるからね」

「そんな君の気持ちを知って、僕はそれら全部ひっくるめて好きになったんだ」

「それに君を守ってくれた人だ。僕にとってはむしろ感謝するべき人なんだよ」

ξ゚听)ξ「……ありがとう」

<「だー」

ξ゚听)ξ「あらあら、起きちゃったのかな?」

<「だー」

ξ゚听)ξ「よしよし。あなたの名前が決まったわよ」

ξ゚ー゚)ξ「あなたの名前は“ブーン"よ。よろしくね、ブーン」

(〃^ω^)「だー」




 − ブーンが幸せを伝えたいようです おしまい −


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