2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:42:26.47 ID:rvAZxcbQ0

 − 第一章 春と私と白い夢 −

 〜 第一話 〜


春は3月、桜の頃。私は1人都会の街へ引っ越しました。
大学へ通うために、親元を離れての1人暮らしです。

もともと、1人っ子で鍵っ子だった私は、初めての1人暮らしへの不安などはありませんでした。
もっとも、それは生育環境のせいだけというわけではなく、生来の性格も影響しているのかもしれませんが。

(゚、゚トソン 「ここ……でしたよね?」

都会と言っても比較論の話です。
私が住んでいた田園風景の広がる町よりは、という意味での都会、地方の1都市。
さほど大きくもない駅に降り立ち、1時間に1本よりは多い本数のバスに乗って、
私はこれから暮らしていくマンションの前にたどり着きました。

(゚、゚トソン 「……」

ここには1度、マンション探しの時に訪れていますが、こうやって改めて1人で見ると、なんとも──

(゚、゚トソン 「古めかしい建物ですよね……」


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:43:20.73 ID:rvAZxcbQ0

名称こそ、“マンション・ホワイトVIP”と謳われているものの、
果たしてここを、マンションと呼んでいいものやら。

(゚、゚トソン 「おっと、いけない。確か1階の喫茶店が管理人さんのお店でしたね」

さすがにこういった発言を聞かれるのはよろしくないでしょう。
気を悪くした管理人さんに難癖を付けられたり、最悪、マンションを追い出されたりしてはたまったものではありません。

ここは1つ、趣き深いと建物とでも言い直しておくべきでしょうか。

階段を昇り3階へ。昇ってすぐの1号室がこれから私が暮らす部屋です。
思ったよりも見晴らしは悪くなく、薫る様な春の風も、わずかながら感じられます。

(゚、゚;トソン 「……しかし、3階というのは意外ときついものですね」

予め荷物は送ってありましたので、身の回りのものだけをボストンバッグに詰め込んだ身軽な身でしたが、
それでも、慣れぬ長旅に私の身体は少なからず悲鳴を上げていました。

それでなくても、自他共に認める運動音痴です。体力には全くもって自信がありません。
これから毎日3階分の階段を昇り降りしなければならないと思うと少し憂鬱になります。
大人しく1階の部屋を探すべきだったかもしれません。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:45:01.89 ID:rvAZxcbQ0

(゚、゚トソン 「とは言え、防犯の点からも、なるべく1階は避けたいですからねぇ……」

一応、うら若き乙女の1人暮らしということになるのですからね。
このマンションに、エレベーターなる洒落た物でもあれば何のことはない話だったのですが。

(゚、゚トソン 「さて、いつまでもこんなとこで惚けてたらただの不審者ですよね」

私は、バッグの前面のポケットに入れておいた封筒から鍵を取り出し、部屋の扉を開けました。
カチャリと乾いた音が響き、この部屋が私のものであることが改めて証明されたようです。

私はゆっくりとドアを開き、部屋の中を覗きました。
ワンルームの部屋には、いくつかのダンボール箱が積まれているぐらいで、たいしたものはありません。
大きなものはテーブルぐらいでしょうか。

1人暮らしだとしても、荷物はかなり少なめだったのではないでしょうか。
それなりに使い慣れて気に入ったものや、買い直すのも大変そうなものなどは送ってはいましたが、
ある程度はこちらで買い揃えればいいと、割り切って考えてもいました。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:46:56.32 ID:rvAZxcbQ0

(゚、゚トソン 「……取り敢えずは最低限、寝られる程度には片付けないといけませんね」

窓には一応レースのカーテンがかかっていましたが、それなりには日当たりは良いようで、
電気を付けずとも部屋の中は明るいです。

レースのカーテンはそのまま使わせてもらうとして、その上から普通のカーテンも付ける必要はあるでしょう。
まずは積まれたダンボール箱の中からそれを探すことにしました。

ダンボールタワー、と言うほどのものでもありませんが、そう背の高い方ではない私には十分高いと感じます。
そもそも、私の体力ではこれを降ろすことが、まず大変な気がしました。
若干憂鬱になりながら、ダンボールタワーを見渡します。
できれば、この状態でどこに入ってるかの見当を付けておきたいところです。

(゚、゚トソン 「左端のタワーには……なさそう……、その隣は……」

ダンボール箱……違う、ダンボール箱……はずれ、白い物体、ダンボール箱……あ、これ──

(゚、゚トソン 「……え?」


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:48:18.61 ID:rvAZxcbQ0

そこでようやく、違和感に気付きました。
ダンボールタワーとダンボールタワーの間に見慣れぬ白い何かがおかれて……動いて……?


  /⌒ヽ !!
 (    )
 (    )
 `u―u'

    クルッ
  /⌒ヽ  
 ( ^ω^) 
 ( つ⊂)
 `u―u'


(゚、゚トソン 

 そこには白くて丸い、小さな生き物がいました。


 〜 第一話 おしまい 〜

    − つづく −   


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:49:10.95 ID:rvAZxcbQ0

 〜 第二話 〜


私は、白い色が大好きです。
このマンションに決めたのも、白を基調とした建物と、その名前に惹かれた点があることは否めません。
もっとも、建物の色に関しては、若干くすんだ白であったことは残念でした。

そんなことに気付かないほどには、それなりに私も浮かれていたのでしょうね。
大学へ合格し、1人暮らしが決まり、初めての部屋探し。
私の人生において、これほど激動の時間が流れたのはかつてありませんでしたから。

ただ、部屋探しなどを時間的に厳しいスケジュールで行わなければならなかったのは、
前期試験に落ちてしまったという自己責任に端を発するのですが。

1つ言い訳をさせてもらえるなら、前期試験は挑戦の意味合いを含めた難関校を受験しました。
結果は見事惨敗だったわけですが、早いうちに挫折を知っておくことも人生においては
意味のある経験だったのではないでしょうか。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:51:34.55 ID:rvAZxcbQ0

ともあれ、そんな経緯を経て、私は今この場にいるわけですが……

  /⌒ヽ  
 ( ^ω^) 
 ( つ⊂)
 `u―u'

これはなんなんでしょう?
何やらダンボール箱辺りでカチャカチャと何かをいじっているような音を立てています。
動いているところを見ると、何らかの生き物のようですが、ひょっとしたら電動のぬいぐるみか何かかも知れません。

私の記憶の引き出しの中には、これに類似した生き物は見当たりません。
強いて言うなら、人間が一番近いのではないでしょうか。
短いながらも四肢があり、目や鼻らしきものも見受けられます。

人間の子供が迷い込んだ、そう結論付けてしまいたいところですが、あまりにも非現実な光景がそれを許しません。
まず、人間の子供にしては頭身がおかしい。大きさはそのぐらいなのですが、手足が短すぎます。
顔は、よく見ると意外と愛嬌があるように見えなくもないですが、それにしても白い。全身真っ白です。
そこは私好みでもあるので許容しても良いのですが、やはり人間としてはおかしい部分でしょう。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:53:03.49 ID:rvAZxcbQ0

では、これが人間でないとしたらなんぞや?
記憶のライブラリーを非現実モードに切り替え、再検索してみます。

(゚、゚トソン 「座敷……わらし……?」

それが、私の頭がはじき出した最もこの条件に近い答えのようでした。

( ^ω^) 「お?」

思わずつぶやいてしまった私に、白い物体が反応しました。
どうやら聴覚はあるようです。ひょっとしたら、気配に反応したのかもしれませんが。

冷静に考えると、この状況は極めて芳しくない気がしてきました。
この白い物体が、危険でないという保障はどこにもないのですから。

( ^ω^)ノ 「おいすー」

(゚、゚;トソン 「お、おいーっす?」

なんてことでしょう、この白い物体は人語を解すようです。
思わずオウム返しに返事をしてしまいましたが、少しいかりや調になってしまったのが悔やまれます。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:54:21.44 ID:rvAZxcbQ0

( ^ω^) 「お! ひょっとして君は僕がわかるのかお?」

(゚、゚;トソン 「わかりません」

即答です。ええ、即答ですとも。
これが何なのか、わかるはずがありません。

( ´ω`) 「お……、そうかお……そうだおね……、わからんおね……」

私が狼狽しつつもそう答えると、白い物体はひどく落胆した様子で、
最初見た時のように背を向けてしまいました。
そしてまた、カチャカチャとダンボール箱をいじって……ダンボール箱?

この部屋は今日から私の部屋です。
そしてこの部屋には今現在私のものしかありません。
では、この白い物体がいじっているものは何なのかと言えば、必然的に私のものになるわけで──

(゚、゚トソン 「それはダメです! ──って、崩れる!!!」

気付いた時には、既に遅く、積み上げられていたダンボールタワーの一角がぐらりと揺れ、
一番上のダンボール箱が落下していく様がスローモーションのように見えました。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:56:19.61 ID:rvAZxcbQ0

咄嗟に私は手を伸ばし、奇跡的にダンボール箱をつかむ事に成功しました──が、
無情にも非力さには定評のある私の両腕は重力加速度に引きずられるまま落下していき──

 ゴチン!!!
Σ( >ω<) 「お!?」

何ということでしょう、白い物体をつぶしてしまいました……。
この光景を客観的に分析すると、私がダンボール箱を振り上げて白い物体を殴ったように見えるのではないでしょうか?
何という完全犯罪。もっとも、私にダンボール箱を振り上げるだけの腕力は存在しないのですが。

( ;ω;) 「いたいお……」

私がしばし呆けていると、ダンボール箱の下からか細い声が聞こえてきました。
どうやらこの白い物体は意外に丈夫なようです。

慌てて、ダンボール箱をどけると、涙目になった白い物体が頭を抑えてうずくまっています。
一見した限りではこちらの方は大丈夫そうなので、もう1つの危惧を確認します。

ダンボール箱を開け、中身を確認。私の記憶が確かならばこの箱は……


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:57:00.90 ID:rvAZxcbQ0

(゚、゚トソン 「よかった……、割れてませんね」

やはり、私のお気に入りのティーカップが入った箱でした。
私はコーヒー派なので、ティーカップというよりコーヒーカップではあるのですが。

スミレの花が小さく描かれた白いティーカップ。
それなりに長く使っているので、だいぶコーヒーの色が染みついていて、綺麗な白ではありませんが、
これはこれで味わい深いものがあると思っています。

( ;ω;) 「……」

ふと気付けば、白い物体が涙目のままこちらの様子を伺っています。

(゚、゚トソン 「気をつけてくださいね。割れてないからよかったものを……」

そこではたと気付きました。私は何を普通に恨み言を言っているのでしょう。
これまでの逡巡を無にするかのような反射的な所業。
非現実を現実の急事が打ち負かした模様です。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/26(日) 23:59:02.64 ID:rvAZxcbQ0

( ´ω`) 「ご、ごめんなさいお……」

(゚、゚トソン 「え……?」

驚いたことに、白い物体は謝罪の言葉を述べてきました。
どうやら聴覚云々どころではなく、一応はちゃんとした理性を持ち合わせているようです。

(゚、゚トソン 「わかっていただければいいのですよ。それよりも……」

( つω−) 「お?」

ごしごしと涙を拭う白い物体に、私は続けざまに質問を浴びせます。

(゚、゚トソン 「あなたは何なのですか?」

直球です。考えてもわからないなら直接聞けばいい、私の頭はそう判断しました。
若干状況に麻痺していたと言えなくはありませんが、虎穴にいらずんばの精神です。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:01:12.02 ID:j1vMPmvL0

( ^ω^) 「僕はブーンだお」

(゚、゚トソン 「ぶー……ん……?」

ぶーん、ブーン、BUUN、武運?
わかりません。ぶーんとはいったいなんなんでしょう?
私は、そのまま疑問を口にしていました。

( ^ω^) 「ブーンはブーンだお。ブーンってするのが好きだお」

そう言うや否や、白い物体は部屋の中を両手を広げて駆け回り始めました。
    
  /⌒ヽ  
 ( ^ω^) ブーン
⊂、   .⊃
  人  /
 し(_)

どうやら、あの走りがする方のブーンというらしいのはわかりましたが、
いくら物がないといっても、狭い部屋に積まれたダンボール箱という状況、この先どうなるかは目に見えています。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:03:06.74 ID:j1vMPmvL0

そのことに気付き、止めようとしたものの、時既に遅く、白い物体はダンボールタワーの1つに激突、
倒れてきたダンボール箱に再び押しつぶされました。

不幸中の幸いか、そのタワーには割れ物は含まれておらず、都合よくカーテンの箱もその中から見つかりました。

私がカーテンの設置から戻ってくると、白い物体は再び涙目で謝ってきました。
やはり悪い子ではなさそうです。頭の方はどうなのかはわかりませんが。

(゚、゚トソン 「ひとまず、落ち着いて状況を整理しましょう。あなたの言うブーンというのは──」

( つω;) 「ブーンはブーンだお……」

ええ、落ち着きましょう。
元来、私は子供というものが苦手です。
子供に限ったことではありませんが、理解力の乏しい方や、話の通じない方はどうも合わないのです。

こういったときはどう考えるべきでしょうか。
なるべく目線をの高さを合わせるというような話は聞いたことありますが、そこから先がわかりません。
お互いの理解を深めるためには、こちらの情報も開示すべきでしょうか。

そこまで考えた時点で、ふと思い当たることがありました。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:04:20.82 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「ええと、ブーン……さん? それがあなたの名前なのですか?」

( ^ω^) 「ちがうお、ブーンサンじゃなくてブーンだお」

やはりそうでした。こんな単純なことに気付かないとは、私もかなり動揺しているようですね。
状況的にはそれも無理のない話なのですが。

(゚、゚トソン 「じゃあ、ブーン、あなたは人間なの?」

聞き様によらずともかなり失礼な質問ですが、今は仕方がないでしょう。
まずはその点をはっきりさせる必要があります。

( ^ω^) 「おー……」

ブーンはその問いには答えず、何かを期待するかのような目でこちらを見ています。
私はすぐに、自分の失態に気付きました。

(゚、゚トソン 「あ、私は都村トソン、はじめまして」

そうです、人に名前を聞いておきながら自分は名乗っておりませんでした。
これはさすがに失礼でしたね。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:06:06.99 ID:j1vMPmvL0

(〃^ω^) 「おっおっお、はじめましてだお、ツムラトソン」

(゚、゚トソン 「……出来れば、都村かトソンかどちらかにして欲しいんですが?」

( ^ω^) 「お? ツムラトソンじゃないのかお?」

(゚、゚トソン 「それはフルネームですね。都村が苗字で、トソンが名前です」

私がそういうと、ブーンは苗字? 名前? と、頭にハテナマークを浮かべ、明らかに理解できていない様子でした。

(゚、゚トソン 「……トソンと呼んでください」

( ^ω^) 「把握したお! よろしくだお、トソン」

何となく、扱い方がわかってきたかもしれません。

基本的に無知な子供を相手にするようなやり方で問題はないようですが、
その子供を相手にするのが苦手な自分には少々厳しい相手ですね。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:07:19.00 ID:j1vMPmvL0

( ^ω^) 「トソンは僕のこと、わからないんじゃなかったのかお?」

(゚、゚トソン 「ええ、わかりませんよ」

( ´ω`) 「おー……? わからないのに僕と話してるお? わけわからんお……」

わけがわからないというのはこちらの台詞ですが、どうもその辺りの認識に誤謬があるようです。
おそらくそれは──

(゚、゚トソン 「私にはブーンの姿は見えています。でも、ブーンが何者で、何でここにいるのかがわかりません」

だから、わからないと言ったのです、そう続けると、ブーンはしばらく考えた後、おーおーとか言いながら
しきりにうなずいていました。


そのようなやり取りを繰り返し、だいたい1時間ほど経過したでしょうか。
私はようやく、少しずつですがブーンのことがわかって来ました。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:08:26.58 ID:j1vMPmvL0

おそらく、ブーンは普通の人には見えない。

何故かたまに見える人がいる。

気付いたらここにいた。それがだいたい昨日辺りらしい。

特にやることがないのでダンボールをいじっていた。

何か目的があった気がしなくもない。

(゚、゚;トソン 「時間がかかった割には意外と少ないですね……」

( ´ω`) 「ごめんお……」

(゚、゚トソン 「いえ、覚えていないものはしょうがないでしょう。ブーンが悪いわけではないですよ」

まあ、でも、最後の1点に関しては思い出して欲しいところですね。
私がそう伝えると、ブーンはまた、おーおーとうなり(?)ながら考え始めました。

しかし困りました。
もちろん、ブーンの処理に関してもそうですが、この部屋を片付けたりと、新生活の準備もしなければなりません。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:09:12.06 ID:j1vMPmvL0

(-、-トソン 「こういった時に相談相手の1人でもいると助かるのですが……」

生憎、本日付で親元を離れたばかりの身です。これといった知り合いもこちらにはいません。
親に電話で相談する手もありますが、初日から心配をかけていては、今後についても不安にさせてしまいかねません。
それに何より、この事態を信じてもらえるかどうかも疑問です。
だいぶ馴染んで来たとは言え、私が置かれている状況は非現実そのものなのですから。

(゚、゚トソン 「もういっそ、見なかったことにして片付けに取り掛かろうかしら?」

そう思ってちらりとブーンの方を見ると、先ほどと同じ体勢でおーおーうなっております。

(-、-トソン 「捨てておくわけにもいかないのでしょうね……」

なんだか捨て猫でも拾ってきたような気分です。既に多少は情が移ってるのかもしれませんね。

(-、-トソン 「しかし、このマンションは確かペットは禁止だったはず──」

そこでようやく思い当たりました。そうです、管理人さんです。
知り合い、というほどでもないのですが、この建物の責任者でもあり、この部屋も管理している人です。

ブーンは私が持ち込んだわけではないですし、言うなれば、このマンションの問題と言っても差し支えはありません。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:12:16.32 ID:j1vMPmvL0

そうと決まれば早速相談しに行くことにしましょう。
どの道、後ほど挨拶には伺うつもりでしたので、丁度良いと言えば丁度良い話です。

……ですが、この件には1つだけ懸念すべき点があります。

(-、-トソン 「果たしてどういう反応を示されるのやら……」

先ほどのブーンの話を信じるならば、ブーンが見える人は稀、
つまり、管理人さんにも見えない可能性が大きいということです。

(-、-;トソン 「下手すれば変人扱いですよね……」

少々気が重くなりました。どうするべきなのか悩みます。
思いあぐねて、相変わらずおーおーうなっているブーンの方を見ると……

( −ω−)zzz

(゚、゚;トソン 「……寝て……る?」

規則正しいうなり声は規則正しいまま寝息に変化していたようです。

(-、-トソン 「なんとも平和なものですね……」


 〜 第二話 おしまい 〜

    − つづく −   


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:13:24.63 ID:j1vMPmvL0

 〜 第三話 〜


ガチャッ
(゚、゚トソン 「失礼します」

お店に入るのに、失礼します、というのも少し変な気はしましたが、
他にこれといってよい問言も思いつかないので無難なところを選択しておきました。

('、`*川 「いらっしゃい……ませ?」

お店の人もその違和感に戸惑ったのか、挨拶が途中から疑問系に変化しています。
しかし、こちらが用件が告げるよりも早く、事情を察されたようでした。

('、`*川 「ああ、あなたは確か……」

(゚、゚トソン 「はい、お仕事中に申し訳ありません、本日より301号室に入居させていただいた都村トソンです」

よろしくお願いします、と地元の名産品であるお菓子を差し出すと、少々苦笑されました。
若いのにしっかりし過ぎた挨拶だそうです。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:14:47.83 ID:j1vMPmvL0

('、`*川 「私はペニサス伊藤、よろしくねトソンちゃん」
      あんまり堅苦しいのは苦手だから、気軽にペニサスって呼んでね」

見たところ、管理人さん──ペニサスさんは30代前半といったところでしょうか。
ジーパン姿というラフな格好からも推測されるように、かなりさっぱりとした性格のように見受けられます。

(゚、゚トソン 「荷物の搬入の立会い、ありがとうございました」

('、`*川 「ああ、いいのよ、そういうのも管理人の役目でしょ? 気にしないで」

しかし、いまどきの若い娘さんにしては少ない荷物ね、と続けられました。
比較対象がいないので、はっきりしたことは言えませんが、私自身もそうだろうなとは思ってはいました。

そう言った風の感想をペニサスさんに告げると、ペニサスさんはまたも苦笑しながら言います。

('、`*川 「4階にもね、トソンちゃんと同じように大学に通う子が入居してきたんだけどね、
      荷物の量に関してはトソンちゃんの倍ね、倍」

なるほど、前例との比較しての見解なら確かなものでしょうね。
自己分析が正しかったことは素直に喜べますよね。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:15:48.04 ID:j1vMPmvL0

('、`*川 「その4階の子も、トソンちゃんと同じ大学だから、仲良くなっとくといいかもね
      大学は知り合いが多い方が楽よ、かなりね」

(゚、゚トソン 「そういうものですか。わかりました、善処します」

言い方が硬い、そう言ってペニサスさんに笑われました。
ペニサスさんの性格も相まって、会話は終始和やかな雰囲気に包まれました。
さて、本来なら、これで引き上げるべき頃合なのでしょうが……

('、`*川 「そうだ、コーヒー飲む? ご馳走するわよ?」

(゚、゚トソン 「い、いえ、さすがにお仕事中に長々とお邪魔している上にそれは──」

('、`*川 「だから硬いって。いいからいいから、飲んでいってよ。味に自信はあるわよ?」

それとも、コーヒーは苦手? と聞かれましたが、それは即座に否定してしまいました。
むしろ大好きですし、正直に言えば、お店に入った時からコーヒーの匂いには惹かれていました。

ここで断るのも気が引けますし、例の件を話すきっかけのためにも私は御馳走になることにしました。
決して、コーヒーだけが目的だったわけではないと述べておきます。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:17:02.56 ID:j1vMPmvL0

('、`*川 「はい、どうぞ」

(゚、゚トソン 「いただきます」

目の前に差し出された品の良い白いコーヒーカップにからは、コーヒー独特の芳醇な香りが広がってきます。
砂糖をほんの少し加え、スプーンで描き混ぜ、ゆっくりとカップを口に運びます。

(-、-トソン 「……美味しい」

思わず漏れた言葉に、ペニサスさんはにっこり微笑んでいました。

私がコーヒー好きといっても、それは所詮高校生レベルでのお話。
口に出来るものは必然的にインスタントが多くなります。

インスタントはインスタントで好きですが、やはりちゃんと入れたコーヒーに叶うべくはありません。
比べるのも失礼なお話しなのかもしれませんが、やはり全然違いますね。

しばらく余韻に浸っていると、ペニサスさんが、おかわりは? と聞いてきます。
もちろん、丁重にお断りすべき場面なのですが、まだ例の件の話もしてないことですし、
会話を続けるためにもいただくことにしました。
くどいようですが、決して、コーヒーだけが目的だったわけではないと改めて述べておきます。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:18:46.47 ID:j1vMPmvL0

('、`*川 「それだけ美味しそうに飲んでくれるといれがいがあるわ」

(゚、゚トソン 「お世辞抜きで本当に美味しいです」

('、`*川 「ありがとう。……それで、部屋の方は何か問題はない? さすがにまだ入ったばっかだから、
      不具合とかには気付かないだろうけど、何かあったら遠慮なく言ってね?」

渡りに船とはこのことでしょうか。極めて自然な流れで話を切り出しやすくしていただけました。
私は思い切って、ブーンの件を尋ねてみることにしました。

(゚、゚トソン 「それなんですが……、その、部屋にですね、何と言いますか、その白い……
      生き物的なものがですね……」

('、`;川 「うぇ? ひょっとして猫かなんか紛れ込んでた? 窓開いてたりした?」

(゚、゚トソン 「い、いえ、猫ではないですし、窓も閉まってましたが……」

('、`;川 「アライグマ? 最近はこの辺にも出るとか聞いてたけど……、壁に穴とか──」

(゚、゚;トソン 「それも大丈夫でした。そういうのじゃなくですね、その──」

(゚、゚;トソン 「座敷童的なものがですね……」

('、` 川


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:20:22.20 ID:j1vMPmvL0

何やらペニサスさん、硬直されてますね。
仕方ないといえば仕方ない話ではあります。話してる本人も馬鹿らしいと感じるほどですから。

('、`;川 「……え? 何? 座敷? え?」

意外に復帰は早かったペニサスさんですが、明らかに混乱が見られます。
流石に簡単には理解してもらえる話だとはこちらも思ってはおりませんので、改めて順を追って要点を伝えます。

(゚、゚トソン 「座敷童は、私の印象なだけで、本人はブーンと名乗ってました」

(゚、゚トソン 「ものすごく都合のいい話、いや、悪い話なのかな? 見える人が稀らしいんですよ
      本人(?)の言を借りればですけど」

なんでしょう、私事なのですが、明らかに電波な人の様相を呈して来ました。
何と言いますか、これは確実にアウトなのでは?

そう思って、ペニサスさんの顔色を伺うと、意外にも真剣な面持ちで続きを促されました。

(゚、゚トソン 「それでですね、本人(?)はほとんど何も覚えてないらしくてですね、
      正直な話、どうするべきか判断付きかねましてですね……」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:21:44.26 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「飼う──じゃなくて面倒を見るにしろ、追い出すにしろ、いや、追い出す場合はいいとして
      管理人であるペニサスさんのご意見を伺いたい所存でありまして……」

そこで不意に、説明の間沈黙を保っていたペニサスさんが静かな口調で聞いてきました。

('、`*川 「……トソンちゃんは、どうしたい?」

(゚、゚トソン 「え? 私……ですか……?」

私の意見、私の考え、私の思い。

(-、-トソン 「難しい話ですよね……。仕送りで暮らす学生の1人暮らしの身でペット、ではないんですけど
      そういった類のも育てる(?)事は困難だと思いますし……」

('、`*川 「……」

(-、-トソン 「犬とか猫とかならまだしも、得体の知れない生き物ですからね……」

(-、-トソン 「正直言って、関り合わない方が得策なんだとは思います……。でも……」

('、`*川 「でも……?」


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:23:02.24 ID:j1vMPmvL0

(゚ー゚トソン 「悪い子ではないみたいなんですよね……」

私は、ダンボール箱につぶされ、涙目で謝るブーンの姿を思い出すと自然に笑顔になっていました。
そうですね、きっとそれが私の正直な気持ちなのでしょう。

結局はただ、許可を取りに来ただけだったのかもしれません。

('、`*川 「いいの? 女の子の1人暮らしの部屋にそんな得体の知れないもの入れちゃって?」

(゚、゚トソン 「害はなさそうで──とも言えませんが、主に物的に」

今現在も、私がいない間に段ボール箱が崩されていないとも限りません。

(゚、゚トソン 「ですが、なにやら困っている様子でしたので……」

自分の存在がよくわからないというのはどんな気持ちなのでしょうか?

(゚、゚トソン 「どうするかは本人に決めさせてあげたいんです」

ブーンはどうしたいのでしょうか?


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:24:06.91 ID:j1vMPmvL0

('、`*川 「なるほどね」

ペニサスさんは、ほんの少しの間私を見つめた後、そう口にしました。
心なしか、先ほどまでの真剣さは薄れ、軽く微笑んでる様でもありました。

<カランカラーン

('、`*川 「いらっしゃいませー」

そろそろお客さんが増えてくる時間帯なのでしょうか。
先ほどから数回、ドアのベルが鳴る乾いた音を耳にしました。

そろそろ引き上げ時かもしれませんね。

(゚、゚トソン 「それでは、ペニサスさん、私はこの辺で失礼させていただきます。
      コーヒー、ご馳走様でした。本当に美味しかったです」

そういって頭を下げる私にペニサスさんは、硬い硬い、と笑っていました。

(゚、゚トソン 「あの、例の件は──」

('、`*川 「トソンちゃんの好きにしていいわ。管理人権限で許可します」


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:24:52.23 ID:j1vMPmvL0

最後に一応の言質、言い方は悪いですが、そういった確認も含めて、
再度ペニサスさんに聞こうとしたところ、指で作ったOKサインを即座に返されました。

なんとなく、ちょっといたずらっ子のような笑みが、ペニサスさんにはよく似合ってるなと感じました。

('、`*川 「……あれはね、多分“夢見”よ」

(゚、゚トソン 「え──? ゆめ……み?」

入り口のドアに手をかけた私に、ペニサスさんが声をかけました。
一瞬、何を言われたのかわからず、その言葉を自分でも口にしていました。

('、`*川 「あの子達はね、夢を見る存在。……そして夢を見せる存在よ」

ペニサスさんはそう言い終えると、ドアの方を指差しました。
ドアの向こう側には、入り辛そうな顔をした中年のおじさんが1人。
営業妨害になっている自分に気付いた私は、慌ててドアを開け、外に出ました。

店の中からペニサスさんの、また今度ね、という声が聞こえた気がしました……。


 〜 第三話 おしまい 〜

    − つづく −   


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:26:53.58 ID:j1vMPmvL0

 〜 第四話 〜


(゚、゚トソン 「……」

再び階段を昇り、3階に戻ってきました。
事態は思ったより簡単に進んでしまった様に思えます。

ペニサスさんは確実に何かをご存知のようです。
引き返して、もう少し粘って話を聞きだすべきだったのかも知れませんが、
何となく、それははばかられる様な空気でした。

(-、-トソン 「夢見……ですか……」

夢を見る存在、そして、夢を見せる存在。

(゚、゚トソン 「意味がわかりませんよね……」

この言葉だけでは何とも言えません。


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:29:50.25 ID:j1vMPmvL0

(-、-トソン 「ブーンが言っていた、何かしら目的があった気がする、ということに関係があるのでしょうか……」

夢、イコール目的と置き換えて考えることも出来ます。
であれば、ブーンは何かしら夢を見ていて、それが何かしらの意味を持つ、ということでしょうか。

しかし、何かしら、という仮定ばかりで、具体が全く伴わない以上、今考えても意味がないように思えてきます。

そしてまた、不審者に見えかねない位置で立ち竦んでいる自分に気付くわけですが。

(゚、゚トソン 「部屋に戻りましょうかね……」

鍵を開け、部屋に入ると、出た時と変わらぬ位置で眠っているらしいブーンが見えました。

( −ω−)zzz

(゚、゚トソン 「これが夢を見る存在……、なのですかね」

眠っているブーンは、何か夢を見ているのでしょうか。
先ほどは、夢を目的と関連付けていましたが、語意的にはこちらの夢も有り得るわけですよね。

こちらの夢ならば、夢を見る存在、というのは割と簡単に納得できる言葉ではあります。
人間なら眠ってしまえば、その多くが夢を見ることが出来ると思われますから。


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:31:10.64 ID:j1vMPmvL0

では、夢を見せる存在というのはどうでしょう?
ブーンが何かしらの力を持ち、眠っている私に夢を見せてくれるというなら、
それはそれで納得のいく話ではあります。
そのメカニズムや目的はさておきですが。

(゚、゚トソン 「……枕としてはありかもしれませんね」

丸まった状態で眠っているブーンを見ていると、ふとそんな考えが浮かんできました。
少し大きめですが、パッと見、色といい形といい、枕に見えなくもありません。

一旦、その考えに捕らわれてしまうと、どうにも試したい衝動に駆られてしまいます。

(゚、゚トソン 「まずは材質を……」

私は、音を立てないようにそっとブーンに近づき、しゃがみ込みます。
つんつんと、その腕をつついてみます。

(゚、゚トソン 「こ、これは……」

何とも心地よい手触りです。すべすべぷにぷに。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:32:22.50 ID:j1vMPmvL0

腕でこの柔らかさは反則です。
この分だとお腹とかはそれ以上に期待できそうです。

(゚、゚*トソン 「これは私が追い求めてきた理想の枕なのかもしれませんね……」

そおっとお腹を撫でてみます。
予想以上にしっとりもちもち、弾力性に富み、かなりの高評価です。

(゚、゚*トソン 「ほっぺもぷにぷに……」

( つω−) 「……んお?」

つい、夢中になりすぎて、触りすぎてしまったようです。
ちょっと失敗しました。

(゚、゚トソン 「ごめんなさい、起こしてしまいましたね」

(〃´ω`) 「……トソン?」


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:36:01.38 ID:j1vMPmvL0

現状を把握し切れていないのか、寝ぼけた眼でしばらくぼーっとこちらを見た後、私の名前を口にしました。

その言葉が引き金になったのか、ブーンのぼんやりしてた顔が、ぱあっと明るくなります。

( ^ω^)ノ 「トソン、おいすー」

そしてまた、あの謎の挨拶(?)をしてきます。

(゚、゚トソン 「誰かがうちに帰ってきたときは、おいすーではなくて、おかえり、って言うものですよ」

( ^ω^) 「お?」

私がそう言うと、ブーンはちょっと考えた後、満面の笑顔で言います。

( ^ω^) 「おかえりー、トソン」

(゚ー゚トソン 「ただいま、ブーン」


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:38:30.24 ID:j1vMPmvL0

ついでに、ただいまの意味も教えてあげると、おかえり、ただいま、と繰り返してはしゃぎ始めました。

なんでしょうね、この感覚は。
引越した矢先の珍客来訪です。1人暮らしの感慨に耽る間もありませんでした。

とは言え、もともと、1人でいるのには慣れた身です。きっとホームシックやらには無縁だったでしょう。
むしろ、こういった賑やかな空間の方が苦手かもしれません。

でも……こういうのも、悪くないかも知れませんね。ほんの少しですが、そう思えました。

(゚、゚トソン 「ブーン、あなたは夢見という言葉に聞き覚えはありませんか?」

私は、ペニサスさんから聞いた話をブーンに伝えることにします。
ただ、そのまま伝えても、多分この子には理解できないことが多いでしょうから、
色々と噛み砕く必要があるでしょうね。

( ^ω^) 「ゆめみ? わからんお!」

(゚、゚;トソン 「即答ですか……」


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:40:43.81 ID:j1vMPmvL0

それ程期待していたわけではありませんが、何かしら、記憶の覚醒の取っ掛かりぐらいにはなれば、
と、考えてはいたので、少々拍子抜けいたしました。

これがダメとなると、その中身を聞いても多分ダメなのでしょうね。
次に何を話すべきか決まらず思い悩んでいると、ブーンがバタバタと手を振り、
何かを言いだそうとしているのが目に入りました。

ヾ( ^ω^)ノシ 「そうだお! そうだお! 僕、思い出したことがあるんだお!」

(゚、゚トソン 「本当ですか?」

それは本当に幸いなことです。自分で思い出せるなら、それに越したことはありません。

( ^ω^) 「うんお、僕はなりたいものがあったんだお!」

(゚、゚トソン 「なりたいものですか。 それは何ですか?」

私がそう聞くと、ブーンはうんお、うんお、と何度も首を縦に振りながら興奮した様子で言いました。

( ^ω^) 「僕は人間になりたいんだお!」


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:43:15.11 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「……」

( ^ω^) 「?」

ええ、わかってはいたつもりではありました。
その見た目から始まり、状況による分析、ペニサスさんのお話等、この子が人間ではないことを。
私としては、それをこの子がわかっていないのではと思っていたのですが、
どうやらその事は理解していたようです。

それならば、私はどういう風にブーンに接するべきなのでしょうか?

(゚、゚トソン 「人間になる、それがあなたの夢なのですね」

(;´ω`) 「おー……、それは違うんだお」

(゚、゚;トソン 「へ? 違うのですか?」

これでペニサスさんの仰られていた、夢を見る存在という言葉の意味がわかる事になるのかと
勝手に推察していただけに、ブーンの言葉は意外なものでした。


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:45:06.48 ID:j1vMPmvL0

(;´ω`) 「えーと、確か、人間になるのはその夢をかなえるためだったんだお」

おぼろげな記憶を探るように考え込みながら、ブーンは言葉を続けました。

(゚、゚トソン 「人間になりたくてなるわけじゃない、と?」

(;´ω`) 「なりたくないわけじゃないお」

ブーンの説明は、多少曖昧なものでしたが、要約するとこういうことらしいです。

ブーンには夢があり、それをかなえるためには人間になればいいんじゃないかと、
その昔、ブーンのことがわかった人に言われたらしいです。

( ´ω`) 「でも、その夢がなんだったか思い出せないんだお……」

(゚、゚トソン 「目的を忘れて手段が残った……。何とも本末転倒なお話ですね」

そういうと、ブーンはしょんぼりとうつむいてしまいました。
本末転倒など、難しい言葉がわかったのか疑問だったので、その辺りを聞いてみると、
なんだかわかんないけど、ダメ出しされたのはわかったとの事です。


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:47:09.03 ID:j1vMPmvL0

その点は気をつけないといけませんね。ブーンは感受性が強いようです。
私とは正反対ですね。難しい言葉も控える……のは私の性格上、
多分無理なので、なるべくその時に意味も一緒に教えてあげましょう。

まあ、それはそれとしても……。

(゚、゚トソン 「だいぶ遅くなりました。少しは片付けないと今夜寝るところもないですよ?」

ブーンのことも大事ですが、当面の生活環境の確保も急事です。

(゚、゚トソン 「そういえば、昨日からこの部屋にいるんですよね? どこで寝てたんですか?」

( ^ω^) 「ここだお。お日さまぬくぬくだお」

ブーンがいる辺りは、結構日が差すらしく、それなりに温度が保たれてた模様です。
そういう温度感知出来るところは、まるで猫みたいですね。
それにしても、まだ夜は寒いでしょう。その程度で寒さをしのげるとは思えませんが……。

(゚、゚トソン 「何となく、ブーンは暖かそうなイメージですしね」


62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:47:59.88 ID:j1vMPmvL0

私は立ち上がり、まずはダンボールを部屋の隅に寄せ始めました。
よく考えたら、搬入の時に置いてもらう位置も指示しておいた方がよかったのかもしれませんね。

ブーンはきょとんとしてこちらを眺めています。
もともと、手伝ってもらうつもりはありませんでしたが、ブーンの方から声をかけてきました。

(;´ω`) 「あの……」

(゚、゚トソン 「なんですか?」

私は、作業の手を止めずに答えます。素っ気無いどころか、少々強い口調に取れたのかもしれません。
ブーンはビクりと身体を震わせました。

私は、すぐに自分の失態に気付き、作業の手を止め、ブーンの方に向き直りました。

(;´ω`) 「その……」

(゚、゚トソン 「……」

(;´ω`) 「……トソンは、僕を追い出したりしないのかお?」

(゚、゚;トソン 「え?」


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:49:26.03 ID:j1vMPmvL0

ブーンのことがわかる人は稀にいたとの事でした。
ブーンに人間になる事を進めた人、この人が、ブーンの記憶に残っている最初の人らしいですが
その人以外にも、何人かはわかった人がいたらしいです。

でも、その最初の人以外はみんなブーンの事を気味悪がって追い出したそうです。

追い出した人の気持ちもわかりますので、その人たちを非難する気にはなりませんし、
ブーンもそれを恨んでるということではないようです。
ただ、追い出されたブーンの気持ちを考えると、心苦しいものがあります。

そうしてさまよってる内にここにたどり着いたらしいのですが、
そういったことは先ほどまで忘れてた模様です。

(;´ω`) 「……」

(゚、゚トソン 「……」

ブーンは震えています。もう、季節は春とはいえ、まだまだ外は寒いです。
このまま外に出たら、きっとブーンの震えは止まることはないのでしょうね。


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:50:11.60 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「ブーンは人間になりたいですか?」

(;´ω`) 「なりたいお」

(゚、゚トソン 「ブーンは夢をかなえたいですか?」

(;´ω`) 「それはわからないお。でも、僕の夢がなんだったかしりたいお」

(゚、゚トソン 「そうでしたね。そちらは思い出してからまた考えればいいでしょう」

( ´ω`) 「?」

(゚、゚トソン 「ブーンはどうしたいですか? ……ここに……いたいですか?」

( ´ω`) 「……いてもいいのかお?」

(゚、゚トソン 「私は、いたいかどうかを聞いているのです」

( ´ω`) 「いたいお……でも……」

(゚、゚トソン 「でも?」


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:51:53.90 ID:j1vMPmvL0

( ´ω`) 「僕はここにいたいんじゃなくて、トソンといっしょにいたいんだお」

(゚、゚トソン 「……っ」

( ´ω`) 「トソンはすごくいい人だお。やさしいお」

(゚、゚トソン 「出会って間もない人間を、そう簡単に信じるのはあまりお勧めしませんよ」

それに、私は優しくもなければいい人でもないと思います。
極悪人というわけでもないですが、利己的の愛想無しなのは自覚するところです。

( ´ω`) 「……でも、僕はわかるお。トソンはいい人なんだお」

私は、ブーンは意外と頑固なんだな、と少々方向違いの感想を抱いたりしていました。

私は何をしているのでしょうね?
随分と前に答えは決まっているのに、これではブーンをいじめているようにしか見えません。

本人の意思確認は必要だと思っただけなのですけどね。


70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:52:49.69 ID:j1vMPmvL0

(-、-トソン 「……まあ、これから世話になる家主に媚を売っておくのはある種必要なことでしょうね」

( ´ω`) 「お? やぬし? こび?」

(゚、゚トソン 「何でもありませんよ。冗談です。通じなかったようですが」

( ´ω`) 「?」

(゚、゚トソン 「とにかく、ブーンがいたいならいてください。困っているのでしょう?」

(゚、゚トソン 「人間は困っている時は助け合うものなんですよ。ブーンは人間になりたいのでしょう?」

(゚、゚トソン 「だったら、人間の流儀に倣ってください。あなたが出て行く理由が出来るまで」

(゚ー゚トソン 「その日まで、いっしょに、夢を探しましょう」

( ´ω`) 「……」

(〃^ω^) 「うんお!」


 〜 第四話 おしまい 〜

    − つづく −   


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:53:56.82 ID:j1vMPmvL0

 〜 (゚、゚トソンの日記 〜


こうして、私は奇妙な白い物体、ブーンと名乗る白い夢見といっしょに暮らすことになりました。

あの後は、とりあえず寝られる場所の確保と布団を引っ張り出し、
ついでにテーブル(というかコタツ)を設置し、簡単な食事を取りました。

新生活初日にカップ麺はどうかと思いましたが、外に買いに行く気力も土地勘もなく、
ブーンをおいて行くのも躊躇われたのでの選択です。

ブーンにカップ麺が食べられるか危惧しましたが、どうやら人間が食べるものは普通に摂取できるようです。
おいしいお、おいしいお、と頬張るブーンを見ると、これからの食費の不安を忘れかけましたが、
そのうちバイトでも探さなければならないかもしれませんね。

まあ、社会勉強という名目も有り、バイト自体はしたかったのでそれは別にかまわないのですが。

学校が始まって、生活に慣れたら探してみましょうかね。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 00:55:00.05 ID:j1vMPmvL0

しばらくの時間が経ち、改めて今日の事を考えると、私はやはり、普通の状態ではなかったのだなと思います。
ブーンの事を後悔しているわけではないのですが、私にしてはいつになく、アクティブな思考だったように思えます。

ひとえに、新生活の賜物だったのでしょうね。環境の変化、自身への影響、心の高揚、不安、その他様々な事柄。
そうでなければ、普段の私ならばっさりと切っている気がします。

ともあれ、これからブーンと暮らしていくわけですが、不安がないといえば嘘になります。
悪い子ではないとは言え、それは現在のまでの判断ですし、未知の存在である事に変わりはないのですから。

それでも、いっしょにいると決めたのは私であり、ブーンです。
だから、後悔はしませんし、かといってそれほど気負いもしないでしょう。

なんとなくで、なんとかなる。そんないい加減も、たまにはよいかもしれませんね。
初対面の人にそう思われるくらい、私は硬いらしいので……。

とりあえず、私が当面やるべきことは……


(゚、゚*トソン 「既に眠ってしまったブーン枕の使い心地を試すことでしょうか……」(*´ω`)zzz


 − 第一章 春と私と白い夢 おしまい −


   − 夢は次章へつづきます −   


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