77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:13:57.00 ID:j1vMPmvL0

 − 第二章 桜と私とコーヒーカップ −

 〜 第一話 〜


こんにちは、都村トソンです。

あれから数日は、ほとんど片付けや新生活の準備に忙殺されていました。
明後日には大学の入学式です。それまでに大体の所の片付けが終わったのは幸いなことでした。

(゚、゚トソン 「こんなものでしょうね……。あと必要なのは──」

パタパタ
〃∩ /⌒ヽ ゴロゴロ
⊂⌒(  ^ω^) 
  `ヽ_っ  c

(゚、゚トソン 「ブーン、ごろごろしてないでそこをどいてください」

掃除の邪魔ですから。そういってブーンをどけようとします。
ブーンはごろごろと転がりながら部屋の隅に退避。器用なものです。


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:15:27.16 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「……」

数日でブーンはここの生活に慣れたようです。
……と言うか、慣れ過ぎです。

基本的に、何も知らないのと、私が人に言う前自分でやってしまう性質なので、
ブーンには何もやらせてません。

今考えると、それがあまりよくなかったのかもしれませんね。

私も大概非力ですが、ブーンも似たようなものでした。
体格の問題もあるわけですから、それは仕方のないことなのでしょうが、荷物を運んだりは
ちょっと危なっかし過ぎました。

かといって、細かいものの整理は、知識のないブーンにはどうしていいかさっぱりでしょうから、
必然的に、私の片付け中は部屋の隅で邪魔にならないように、ということが暗黙の内に了解事項になりました。

部屋の隅に転がったブーンを見ると、スナック菓子の屑が身体についてたりします。
ブーンを転がせば部屋の汚れ具合がわかって便利かもしれません。


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:17:17.13 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「まあ、もともと1人暮らしの予定だったわけですからね……」

これは自分の役割ですよね。多少、無理矢理に納得させることにしました。

( ^ω^) 「トソーン、おなかすいたお〜」

時刻はだいたい昼頃でしょうか、確かにお腹がすいてくる時間ではありますが……。

(゚、゚トソン 「ちょっと買い物に行きたいので、戻ってからでもいいですか?」

ヾ( >ω<)ノシ 「えー、おなかすいたお、おなかすいたおー」

(-、-トソン 「はあ……。冷蔵庫に朝のサンドイッチが少し入ってますので、
      帰ってくるまでそれで持たせてください」

( ^ω^) 「サンドイッチだおー!!! わかったおー!!!」

そう言うや否や、ブーンは冷蔵庫に走って行き、サンドイッチを取り出します。
何と言いいますか、本能のままですね。

別に私に養育の義務があるわけでもないのですから、こちらに迷惑が及ばない範囲なら、
本人の好きにさせておいてもいいと考えていましたが、この子が将来人間になれたときの事を
考えると、少しは色々と勉強させるべきなのでしょうか。


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:19:33.28 ID:j1vMPmvL0

掃除をひとまず切り上げて、外出の準備をします。
今日はまだ少し肌寒いようです。コートを羽織っていきましょうか。
不備に気付いた日用品の買い出しがメインなので、さほど長い買い物にはならないと思われますが。

ブーンはというと、テーブルの前にちょこんと座ってテレビを見ています。
サンドイッチは既にありません。

テレビは私も見るのでどんなものかは理解し、割と気に入っているようです。
1人で鑑賞させると、変な知識がついたりして厄介な側面もありますが、現在、
記憶を探す以外する事のないブーンにとってはいい暇潰しなのでしょう。

(゚、゚トソン 「それじゃあ、いってきますね」

(  ^ω^)ノシ「いってらっしゃいだお〜」

(゚、゚トソン 「……」

( ^ω^) 「お?」

やはり、先ほどのことが少し引っかかっています。
話すべきことは話して、自分で考える時間を持たせた方がいいのかもしれませんね。


82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:21:52.35 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「ブーン、あなたは人間になりたいのですよね?」

( ^ω^) 「そうだお、なりたいお」

(゚、゚トソン 「どうしたら、人間になれると思いますか?」

(;^ω^) 「おー? わからんおー?」

(゚、゚トソン 「そうですね、私もわかりません」

(゚、゚トソン 「ですが、やれるべきことはあるはずです」

人間ならば誰でもが学ぶこと、生きるために必要なこと、礼儀や作法、人との付き合い方、
1つ1つ上げればキリがありませんが、少しずつでも、身に着けておくべきではないでしょうか。

(;´ω`) 「おー……。確かにそうだおねー」

(;´ω`) 「でも、何をすればいいかわからんおー……」

そうなんですよね。勢いで思い付きを口にしはしましたが、結局最初は1つ1つ私が付いて
教えてあげないとダメなのでしょう。

少し早まったかもしれません。ブーンに余計なプレッシャーを与えてしまったようです。


84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:23:25.60 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚;トソン 「それはおいおい考えて行きましょう」

(゚、゚トソン 「ひとまずは、普通に人間として暮らしていける程度の知識や生活力を身に付けることからですね」

(;´ω`) 「せいかつりょく?」

(゚、゚トソン 「掃除とか洗濯とか料理とか、私がいつもやっているようなことですよ。
      部屋を綺麗にしたり、服を洗ったり、ご飯を作ったりです」

(;´ω`) 「そうじ? せんたく……?」

続きは帰ってからです。そう結び、私は部屋を出ました。


(-、-;トソン 「気を付けないと、どうも口調がきつくなってしまっていけませんね……」

私は、自分の失敗を1人ごちながら階段を降りました。


 〜 第一話 おしまい 〜

    − つづく −   


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:24:25.61 ID:j1vMPmvL0

 〜 第二話 〜


(゚、゚トソン 「ふぅ……」

一通りのものは買い終えました。
引越しの直後は、意外なものを忘れてたりするものだと初めて知りました。
細かなものや、常に必要と言うほどでもないものが大半ですが、いざ必要になった時に不備に気付くのは
好ましいことではありません。

(゚、゚トソン 「思ったより時間がかかりましたね……」

ブーンがお腹をすかせて待っていることでしょう。早く帰りましょうか。
そう思い、帰路に付きました。

ζ(゚ー゚;ζ 「あれー? ここ、さっきも通ったよね? あれー?」

歩き始めた矢先、何とも素っ頓狂な声が聞こえてきます。
声の方を伺うと、声の主の若い娘さん──私も若いんですが、何やらキョロキョロしています。

端から見てると不審者ですね、ええ。手に紙らしきものを持っているところを見ると、
何となく察しは付きますが、関わり合う理由はありません。


86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:26:06.51 ID:j1vMPmvL0

うちにはお腹をすかせた子供が……などと思いながらスルーを決め込んだ所で目が合ってしまいました。

ζ(゚ー゚;ζ 「あ、あのー……すみません」

、(-、-トソン 「ハァ……なんでしょう」

ζ(゚ー゚;ζ 「ろ、露骨にため息吐かれた!?」

意外とよく見てますね。テンパってて気付かないかと思いましたが。

(゚、゚トソン 「どちらへ行きたいのですか? 残念ながら私は越してきて数日なのでたいした土地勘はありません」

ζ(゚o゚;ζ 「うぇ? ええ? 何で私が道を聞きたがってるとわかったんですか?」

若い娘さんは目に見えて狼狽しながら聞いてきます。
地図もってキョロキョロしてて、おまけに大音量であんな独り言を言ってるのを見れば猿でもわかります
……的な事を、オブラートに包んで言うと、若い娘さんは納得されたようでした。

(゚、゚トソン 「ちなみに、その地図上下逆さまですね。ちょっとお借りしますよ」

地図には目的地らしき地点に印が付けられていました。
現在地はおそらくこの辺りでしょうから、目的地は……あれ?


88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/27(月) 01:28:49.41 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「ここって……私が住んでいるマンションの近くですね」

ζ(゚ー゚*ζ 「そうなんですか? では、ホワイトVIP?というマンションは知りませんか?」

(-、-トソン 「……ひょっとして4階の方ですか?」

ζ(゚o゚;ζ 「はへ? 何で私の部屋が4階だとわかったんですか? もしや何か4階臭みたいなものが……」

(゚、゚;トソン 「よ、4階臭って……」

私が、管理人さん──ペニサスさんとの会話の事を説明すると、若い娘さんは納得がいったようでした。

ζ(゚ー゚*ζ 「そういう事でしたか……。ちょっとエスパーかと思っちゃいました」

そういって朗らかに笑う若い娘さん。いい加減、若い娘さんだとくどいので、名前を聞くことにします。

(゚、゚トソン 「3階に住んでいます、都村トソンです。よろしくお願いします」

ζ(゚ー゚*ζ 「あ、出嶺デレです。こちらこそよろしくです」


90 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:34:51.69 ID:nPoOuXy0O

私達は連れ立って歩き始めました。
彼女、デレさんはずっと南の方の県から来たらしいです。
ペニサスさんが仰られてた通り、私と同じ大学で、偶然にも同じ学部とのことです。

ζ(゚ー゚*ζ 「それにしても助かったなー」

(゚、゚トソン 「デレさんは方向音痴なのですか?」

ζ(゚ー゚;ζ 「う、うん、そうなんだけど……、助かったていうのはそれだけじゃなくて、
       引越しして知り合い全くいなかったから……」

ζ(^ー^*ζ 「トソンちゃんとお友達になれて嬉しいなーって」

(゚、゚トソン 「私は友達なのですか?」

ζ(゚o゚;ζ 「えぇぇ? 違うの? ……私と友達は嫌?」

嫌という訳ではなく、そんな簡単に私の様なよく知らない者を友達にしていいのか危惧していた
だけなのですが、その事を伝えるとデレさんは、

ζ(^ー^*ζ 「誰だって最初は知らない同士だよ」

そういってにこやかに微笑みました


92 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:37:22.76 ID:nPoOuXy0O

(゚、゚トソン 「それでは、友達という事で、改めてよろしくお願いします、デレさん」

ζ(゚ー゚;ζ 「硬いなぁ……。それと、デレでいいよ」

硬い……、わかってはいましたが、やはりそういう印象を受け取られるのは避けがたい事のようですね。
もって生まれた性格なのですから、こればっかりはそう簡単にどうこう出来る物ではないと思いはしますが。

私達はマンションの話やこの辺りの話など、たわいもない話をしながら家路に向かいました。

ζ(゚ー゚*ζ 「あ、ここだここだ! 見覚えあるよ」

(゚、゚;トソン 「もう少し早く気付くべきだと思うのですが……」

デレがそういったのは、マンションがほぼ正面に見えた頃です。
この分だとまた確実に迷子になりそうですね。

ζ(゚ー゚:ζ 「その時は電話するね」

(゚、゚;トソン 「私が行けない時はどうするんですか」

道すがら、携帯のアドレス等は交換しました。
大学も、デレが入学式から遅刻しそうなので、一緒に行く約束をし、3階の階段のところでお別れしました。


95 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:39:27.60 ID:nPoOuXy0O

部屋に誘われましたが、まだ片付けが終わってないと言う話をして、今回は固辞させてもらいました。
もちろん、ブーンの件があるからですが、今後はどうしましょうかね。
いずれはデレを部屋に招待することもあるでしょうし……。

(゚、゚トソン 「話して……、デレなら信じそうですが、それでも……」

話していいものかは悩みどころです。
ひとまず、部屋に戻りましょう。ブーンが空腹で倒れてるかもしれません。

(゚、゚トソン 「……あれ?」

鍵の手ごたえが違う? これは……、鍵が開いていた?
私が閉め忘れたのでしょうか? それともブーンが外に? それとも──

私は最悪の可能性に思い当たり、慌ててドアを開けました。


 〜 第二話 おしまい 〜

    − つづく −   


97 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:41:57.67 ID:nPoOuXy0O

 〜 第三話 〜


部屋に飛び込んだ私は、一見して部屋の様子の異質さに気付きました。
一言で言えば、荒らされた状態、服が散らかり、ゴミ箱が倒され、床に割れた食器も見えます。

(゚、゚;トソン 「ブーン!!!」

ブーンの姿が見当たりません。
私の頭の中に最悪の想像がちらつきます。
しかし、ブーンは見えないはず……でも、もし偶然見える人が──

(゚、゚;トソン 「ブーン! どこですか!? 返事をしてください!!!」

「……お」

(゚、゚;トソン 「ブーン! いるのですか!」

ブーンの姿が部屋の隅に見えました。よかった、無事みたいです。


99 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:44:20.09 ID:nPoOuXy0O

(;´ω`) 「お……、おかえりなさいだお、トソン」

、(-、-;トソン 「ただいま、ブーン。ケガはないですか? 一体何が──」

(;´ω`) 「ご、ごめんなさいだお……」

私の安堵のため息とブーンの安否を心配する言葉は、ブーンの謝罪の言葉によって遮られました。

(゚、゚;トソン 「え……?」

どうしてブーンが謝るのでしょう? 部屋が荒らされ、ブーンは怖い思いをして……

(;´ω`) 「……」

謝罪の言葉と沈痛な面持ち、荒らされた部屋──私は、そこで1つの可能性に気付きました。

(゚、゚トソン 「……これは、ブーンがやったのですか?」

最初にした最悪の想像よりも最悪の想像かもしれません。
この想像が間違ってて欲しいと切に願いました。


102 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:47:27.80 ID:nPoOuXy0O

(;´ω`) 「……そうだお、……ごめんなさいお」

(゚、゚トソン 「……」

言葉がありませんでした。私は、ブーンを信じてこの部屋においていたのに──
軽く、眩暈がしたような感覚に襲われ、私は視線を下に向けました。
そこで、ブーンの足元にある白い破片に気付きました。
これは──このスミレの柄は────

( 、 トソン 「……私の、コーヒーカップ」

私がつぶやくように言うと、ブーンはビクりと身体を震わせ、泣きながら謝ってきました。
私は、何の感慨も持たずにそこに立ち竦んでいました。
私自身を、別の私が観察してるようにどこか非現実的な光景が見えているような気がします。

(-、-トソン 「……部屋を片付けますから、外に出ててください」

( ;ω;) 「お? ぼ、僕も──」

(゚、゚トソン 「いいから、出ててください。……邪魔です」


104 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:50:05.18 ID:nPoOuXy0O

ブーンは、何度も謝っていましたが、私の取り付く島もない様子に諦めたのか、大人しく部屋の外に出て行きました。

( 、 トソン 「……」

自分の部屋です。自分で片付けるしかないのです。
ブーンを1人で置いていたのも自分です。全部自分で決めたのです。

それでも……、この心にぽっかりと穴が空いたような感覚に押しつぶされそうです。

(-、-トソン 「……片付けましょう」

どの位放心していたのでしょうか? 私はなんとか自分を奮い立たせることに成功し、部屋を片付け始めます。
騙し騙しですが、それでも身体は動いてくれます。

(゚、゚トソン 「水がこぼれてますね……、雑巾は……あれ? あんなところに?」

見つけた雑巾は何やら水浸しです。こんなもので遊ばなくてもよさそうなのに、何をやってるのでしょう。

(゚、゚トソン 「掃除機を……と……?」

掃除機が定位置にありません。部屋を見回すと、掃除機も引っ張り出されています。
コードが絡まり、ひどい状態ですが、乗って遊んだりでもしたのでしょうか。


105 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:52:32.55 ID:nPoOuXy0O

その後も、こぼれた洗剤をふき取り、めちゃくちゃに折りたたまれた洋服を広げたりと、作業を続けます。
見た目よりは大した被害はなさそうなのはせめてもの救いです。

コーヒーカップ以外は。

(゚、゚トソン 「覆水は盆には返らぬものですが……ん?」

割れた破片を拾い集めていると、食器棚の異変に気付きました。生乾きの食器が、不規則に押し込められています。

(-、-トソン 「これもですかね……。何でこんな事を──」

この食器は、今朝使った食器です。無精にも、洗わずに流しに放り込んだままだった覚えがあります。
ですが、この食器は、一応洗われた様な跡があり、かすかに落とされてない洗剤の手触りがします。

(゚、゚トソン 「──!」

私は、そこで1つの可能性に思い当たりました。雑巾、掃除機、洗剤、服、食器──全てが繋がります。
そういうことだったのですね──

(゚、゚トソン 「掃除……ですか」


108 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:54:47.99 ID:nPoOuXy0O

この部屋の惨状は、おそらくブーンが掃除をしようとした結果ではないでしょうか。
ブーンが1人でやれば、いくら真面目にやったとしても、こういう結果は目に見えていたので、
手伝わせたりはしてなかったのですが、そのこと自体は多分正解でしたね。

でも何故急に、こんな事をしようと思ったのか──

(-、-トソン 「私……のせいですよね……」

私が出掛けに行った言葉、ブーンはそれを1人で考えた結果、こういう行動に行き当たったのでしょう。
一生懸命考えているブーンの姿は容易く思い浮かびます。

(-、-トソン 「……」

私は涙が出そうになりました。他でもない、自分の行いに。
ブーンを疑った、自分の浅ましさに。

(゚、゚;トソン 「──ブーン!」

部屋に入れてあげなければ。今日は少し寒いくらいの気温です。
ドアを開け、外に向かって声をかけますが、何の反応もありません。

(゚、゚;トソン 「ブーン……?」


109 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:56:17.66 ID:nPoOuXy0O

(゚、゚;トソン 「いない……?」

ブーンの姿は見当たりません。一体どこに?

(゚、゚;トソン 「まさか──」

私は、先ほど自分がブーンに向けて言った言葉を反芻しました。
出て──

(゚、゚;トソン 「ブーン!!!」

私は慌てて外へ飛び出しました。


 〜 第三話 おしまい 〜

    − つづく −   


111 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:58:18.44 ID:j1vMPmvL0

 〜 第四話 〜


(゚、゚;トソン 「ハァハァ……」

外に飛び出したのはいいのですが、ブーンがどこに行ったのか、全く当てがありません。
誰かにブーンを見かけなかったか聞こうにも、見えない、見えても普通ではない生き物として認識されます。
おまけに土地勘もないときたら、本当に手詰まりです。

(-、-;トソン 「ああ、もう……、考えなきゃ……! どうすれば? どこへ?」

一縷の望みをかけて、目撃情報を聞くしかないのでしょうか。

こんな( ^ω^)生き物を見なかったか、などと聞いて回ったら、私は確実に不審者ですが、
この際、背に腹はかえられないことです。

行き先は全く当てがありません。
あれからブーンは部屋から1度も出ていませんでした。
本人が特に出たがってたわけでもなかったのと、まだ出さない方がいいかもという私の判断でそうしていました。


112 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 01:59:58.13 ID:j1vMPmvL0

それがダメなら、ブーンが思い出した記憶の中に場所に関するものはなかったか思い返してみます。
しかし、それも皆無です。何か部屋らしいものにいたことと、そこからは空が見えたこと、
2人で暮らしていたことぐらいしか覚えていませんでした。

(-、-;トソン 「……どうしたら」

ようやく少し冷静になり、状況を分析した途端、私は体の力が一気に抜けたような感覚に襲われました。
実際、気付いたら道端の塀に寄り掛かっていました。

(-、-;トソン 「体力なさ過ぎですね……」

こんな時なのに、自分の不甲斐なさに笑えてきました。
乾いた笑い声が自分の耳に届きます。何をしているのかと、もう1人の自分が問いかけてくるようです。

色々な思いが渦巻き、その中には諦めや否定の思いも浮かび上がってきます。
それらを見る度、自分の矮小さに打ちのめされ、このまま諦めて忘れてしまおうかと全てを投げ出したくなります。

「…………?」

もともと、巻き込まれただけのようなものですから。傷口が小さい内に忘れてしまった方がいいのかもしれません。

「……ぶか?」


113 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:02:17.84 ID:j1vMPmvL0

ふとそこで、何かに気付きました。
先ほどから自分の声以外の何かが聞こえて……これは、私に向けて……?」

(゚、゚;トソン 「え?」

('A`) 「大丈夫か?」
/⊂)
.|人|

(゚、゚;トソン 「あ、え?」

そこには何かがいました。
一見、貧相な人間のようですが、スケールが少々小さく感じられます。
こういった感じの小汚いオッサンはいなくもないですから、そんなとこなのでしょうか?

('A`) 「ああ、やっぱ“わかる”人間らしいな。なんとなくそんな気はしたんだが……」

('A`) 「何があったかは知らんが大丈夫か? 救急車でも呼ぶか?」

(゚、゚;トソン 「い、いえ、お構いなく……」


115 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:04:14.20 ID:j1vMPmvL0

意外にも、小汚いオッサンは親切な人のようです。
そもそも、こちらの身を案じて声をかけてくださったのでしょうから──

(゚、゚;トソン 「い、今なんと? “わかる”って──」

('A`) 「ああ、知ってるんだろ? 俺らみたいな存在のこと? お前さんからは同族の匂いがプンプンする」

(゚、゚;トソン 「同族……? では、あなたも夢見なのですか?」

(;'A`) 「お、おい! どこでその名前を!?」

それまで、淡々としていた小汚いおじさんが、急に詰め寄ってきました。
夢見、その言葉を聞いた途端に。

(>、<;トソン 「キャッ!キモイ」

(;'A`) 「あ、スマン──って、え、キモ?」

私は思わず可愛らしい悲鳴(笑うところでしょうか)と本音を口にしていました。
小汚いおじさんは、自分の礼を失した態度に気付いたのでしょうか、すぐに距離を空けました。


118 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:05:49.71 ID:j1vMPmvL0

('A`) 「悪かったな……。だが、何でその名を知っている?」

(゚、゚トソン 「いえ、キモいのはしょうがないですから」

(;'A`) 「あー……、そっちじゃなくてだな……」

(゚、゚トソン 「マンションの管理人さんから聞きました」

キモい、キモいかー……と、なにやら打ちひしがれる小汚いおじさんを余所に、私は考えていました。
この方も夢見のようです。よくよく考えれば、ブーン1人なら夢見という名前も不自然だったんです。

ブーン1人が夢見なら、ブーンはブーンでいいわけですから。
ただそれは、ブーンが忘れていただけの可能性も否めませんが。

夢見が種族の名前なら、他にブーンと同じような生き物がいてもおかしくないはずだったんですよね。

しかし、この眼前の夢見(自称)は何と言うか……
   
(゚、゚ボソ 「小汚い……」

(;'A`) 「キモいだけに飽き足らず!」


119 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:07:23.93 ID:j1vMPmvL0

(;'A`) 「ま、まあ、いいや、お前さんが大丈夫ってんなら俺は行くぜ?」

(゚、゚トソン 「待ってください、小汚い夢見さん、あなたに聞きたいことが──」

('A`) 「あー、俺ドクオ、ドクオね。流石にそれだけ連呼されるとキツいから……」

(゚、゚トソン 「この辺であなたと同じ夢見を見ませんでしたか? 白い、丸い」

この、小汚いドクオさんならあるいはブーンの位置がわかるかもしれません。
わからなくても、見かけたらおそらくわかるのでしょう。どこかで見たかも知れません。

('A`) 「そいつを探してんのか? ……で、探してどうすんだ?」

(゚、゚トソン 「え?」

('A`) 「そいつ、泣きながら走ってったぜ? 理由はお前か?」

( 、 トソン 「ええ……」

そうですか……まだ泣いていたのですか。……ごめんなさい、ブーン。
私は、あなたをひどく傷付けてしまったのですね。

でも……


122 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:08:37.83 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「そうですか、ではお見かけされたのですね? どちらへ行ったかお教え願いませんか?」

('A`) 「質問に答えてもらってねーぜ? 探してどうする?」

(゚、゚トソン 「誤解がありました。信じてあげられませんでした」

('A`) 「……」

(゚、゚トソン 「だから、謝りたいんです」

('A`) 「謝って、それで……?」

(-、-トソン 「……さあ?」

('A`) 「あ?」

謝って、それで私の気は済むかもしれませんが、ブーンはどうなのでしょう。
こんな私とは一緒にいられないと思うかも知れません。

それでも、ブーンに会って謝りたい。
部屋を滅茶苦茶にされた私は被害者の側面もあるのですが、それ以上に、
ブーンの心を傷付けた私は加害者です。


123 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:10:04.50 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「私は謝りたいんです。その後どうするかは、ブーンに決めてもらいます」

('A`) 「……」

(゚、゚トソン 「まあ、でも、あの子はちょっと優柔不断気味なとこがありますから──」

とは言え、私がブーンを探す理由は、謝りたいからだけじゃないんですよね。
まだ出会って間もないし、お互いわからないことだらけで、今日みたいに誤解して、ぶつかって
傷付け合うことだってあるでしょう。

(゚ー゚トソン 「グズグズ言うなら無理矢理連れ帰ってしまうかもしれません」


それでも、いっしょにいたいから。


私は、ブーンに会いに行くんです。


('A`) 「……はは」

(゚、゚トソン 「何かおかしいですか?」


127 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:11:18.69 ID:j1vMPmvL0

('A`) 「いいや、おかしくないさ。ただ……」

(゚、゚トソン 「ただ?」

('A`) 「クールなお嬢さんに見えたが、意外に熱いレディだね」

(゚、゚トソン 「お嬢さんでもレディでもありませんよ。申し遅れましたが、都村トソンと申します」

('A`) 「はは、よろしく、トソンちゃん」

(゚、゚トソン 「はい、よろしくお願いします、小ぎ──ドクオさん」

(;'A`) 「小ぎ──? え?」

(゚、゚トソン 「そんなことより、ブーンはどこですか、コギオさん?」

(;'A`) 「ドクオね、ドクオ。それ、人に物を尋ねる態度なのか若干疑問だけど、あっちの方」

そういってドクオさんは北の方、坂の上の方を指しました。

('A`) 「この先の方に小ぢんまりした公園がある。俺の勘だと多分その辺りだろうな」


128 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:13:04.58 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「そうですか、ありがとうございます」

そういって、私は立ち上がり、そちらへ走り出そうとしました。

('A`) 「意外と道入り組んでるけど、向こうの桜並木を辿れば多分着けるよ」

(゚、゚トソン 「重ね重ねありがとうございます」

('A`) 「いいってことよ。──そいつを頼むな。あんたなら──」

(゚、゚トソン 「え?」

ドクオさんが何を言ったのかよく聞き取れなかったので、そう尋ねてみますと、
なんでもない、気にすんな、早く探してやれ、と流されました。

確かに早く探すべきなので、そこは甘んじて受け入れておきます。
変わりに、別れの挨拶とお礼代わりに、先ほどの件をきちんと補足しておきます。

(゚、゚トソン 「先ほどの夢見の件ですが、マンション・ホワイトVIPの管理人、
      ペニサス伊藤さんからお聞きしました。お知り合いですか?」

ドクオさんは、無表情でただ、いや、知らない……ありがとうと言い、くるりと背を向け去っていきました。


130 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:14:06.54 ID:j1vMPmvL0

(゚、゚トソン 「急ぎましょう」

去り行くドクオさんの背中に軽く一礼をし、私は上り坂を走り出しました。

ドクオさんが言っていた桜並木はすぐにわかりました。

話の間に、少しは息も整えられていましたが、またすぐ息が上がります。
日頃の運動不足が大きく祟ってますね……。

私は、桜並木の下をひたすら公園を目指して走りました。


 〜 第四話 おしまい 〜

    − つづく −   


133 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:15:04.89 ID:j1vMPmvL0

 〜 第五話 〜


( 、 ;トソン 「こ……こ……です……か」

大学のあるVIP町は、小高い岡の上にあります。
必然的に、大学近辺のこの辺りは坂の多い地形になっています。
私が住んでいるホワイトVIPも同様ですね。

暮らし始めてみると、気候も穏やかで、それほど騒がしくもなく住むには良い場所だと感じましたが
難点がないわけでもありません。
その1つがこの……

( 、 ;トソン 「坂、多過ぎでしょ……」

公園の入り口にの石柱に倒れこむように掴まり立ちしている私。
もう1歩も動きたくないほど疲弊しています。

( 、 ;トソン 「……ブーンはどこでしょう」

しかし、疲弊はしていますが、私にはやることがあります。

(゚、゚トソン 「探さないと……」

その為に走ったのですから。


134 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:17:08.15 ID:j1vMPmvL0

公園は、ドクオさんの言葉通り、小ぢんまりした規模で、さほど広くありません。
それほど苦労なく、ブーンは探せそうですが……。

(゚、゚トソン 「本人が本気で隠れようと思ったら、あの小ささなら見つけられないかも……」

それ以前に、ここにいない可能性もあるのです。ドクオさんはこちらの方に、といっただけで、
それから時間も少々経っていますし、ブーンが移動していないとも限らないのですから。

(-、-トソン 「いけない、いけない……」

弱音を吐いてても仕方ありません。私に出来ることは、探すことだけなのですから。

(゚、゚トソン 「ブーン! ブーン! いませんか?」

(゚、゚トソン 「ブーン! 話したいことがあります。 出て来てもらえませんか?」

(゚、゚トソン 「ブーン!」

反応はありません。平日の午後の公園、大して人はいませんが、そのわずかな人達からは
奇異の目を向けられているのも感じます。


137 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:22:56.23 ID:nPoOuXy0O

中には、親切な子供達から、おねーちゃん人探し? ペット? などと聞かれたので、
正直にブーンの容貌を話したところ、ちょっと怪訝な顔をされましたが、一応、見たままを答えてくれました。
何も見ていないと。

(゚、゚トソン 「ここにはいないのですかね……」

30分ほど園内をうろついたでしょうか、私は隅の方にあるベンチに座って小休止していました。
やはりいないのでしょうか? もう、別の場所に行ってしまったのかも。
それとも、私の前には姿を現したくないのでしょうか?

(゚、゚トソン 「ネガティブになってても仕方がないのはわかってますが……」

こんな事をしてるなら、もっと探すべきなのはわかってはいます。
でも、正直な所、心が折れそうで足が動きません。

私を拒絶して、姿を見せないのであれば、私は──

(゚、゚トソン 「どうすれば……」

私は、目を閉じ、伸びをするような感じでベンチに背中を大きく預けました。
世界を反転させれば、私が犯した罪も罪ではなくなるかもしれません。


139 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:25:12.47 ID:nPoOuXy0O

そんな馬鹿げた妄想で何も変わりはしないとわかってはいました。
ブーンはどこにいるのでしょう。もうここにはいないのでしょうか?
私はもういないブーンを探しているのでしょうか?
ブーンに出会ったこと自体、春の日の夢だったのでしょうか。

そんな取り留めない思いが浮かんでは消え、また浮かび、私は、不意に泣きたくなりました。

(-、-トソン 「……何やってんですか、私は」

でも、私は泣きません。私にはやることがあるから。ブーンを探さなければならないから。

ブーンに謝りたいから。

(-、-トソン 「……そんな場合じゃないですよね」

(゚、゚トソン 「よし、がんばってさが──」

   /⌒ヽ
 ⊂(´ω`⊂⌒`つ

反転した世界に、泣き疲れて眠りこける白い夢がいました。


140 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:27:05.19 ID:nPoOuXy0O

(゚、゚;トソン 「ブーン!?」

私は、ガバりとベンチから飛び上がるように立ち上がり、ブーンの方に走り寄りました。
ブーンは眠っているようです。頬に涙の後が見て取れます。

(-、-トソン 「ごめんね、ブーン……」

私は、ブーンを抱え、ベンチに戻りました。
ベンチに座り、ブーンを膝の上に乗せ、そのまま寝かせておきます。

ハンカチで涙を拭いてやり、優しく頭を撫でます。
相変わらずのすべすべぷにぷにの肌に、私もちょっと落ち着きました。

・・・・
・・・

(-、-トソン 「……ん」

どの位の時間が経ったのでしょう。気付けば空は茜色に染まっています。
一瞬、自分がどこで何をしてるのかを認識できませんでしたが、すぐに思い出しました。


142 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:30:45.03 ID:nPoOuXy0O

(゚、゚;トソン 「ブーン?」

( ´ω`) 「……お」

いつの間にか私は眠ってしまっていたようです。何とも無用心な話ではありますが。
膝の上にブーンがいないことに気付き、慌てましたが、ブーンは私の隣にちょこんと座っていました。

(゚、゚トソン 「良かった。いたのですね」

( ´ω`) 「どうして……」

(゚、゚トソン 「?」

( ´ω`) 「どうして、トソンがここにいるんだお?」

(゚、゚トソン 「ブーンが部屋の前にいなかったからじゃないですか」

( ´ω`) 「それは……、トソンが出てけって──」

(゚、゚トソン 「出て行け、じゃなくて、外に出て、です。掃除の邪魔でしょう? 何もしないでごろごろされてちゃ」


143 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:32:52.10 ID:nPoOuXy0O

( ´ω`) 「そうなのかお、ごめんお……」

(゚、゚トソン 「掃除ぐらいできるようにならなきゃいけませんね。だから、次からはいっしょに掃除しましょう」

( ´ω`) 「お? でも、僕、何もできないお……。じゃまにしかならないお」

(゚、゚トソン 「そりゃそうですよ。ブーンは掃除を知らないんですから」

( ´ω`) 「おー……」

(゚、゚トソン 「だから、いっしょに掃除しましょう。私が教えてあげます。誰だって、最初は何もできないものですよ」

(゚、゚トソン 「私だって、最初は何もできなかったんです。掃除も、洗濯も、料理もね」

( ´ω`) 「トソンもかお? でも、トソンはなんでもできるお」

(゚、゚トソン 「何でもはできません。私は特に、運動系は苦手で、体力はありませんしね」

( ´ω`) 「お、じゃ、じゃあ、僕が重いもの持ったりとか──」

(゚、゚トソン 「そうしていただけるとありがたいですが、ブーンもそんなに強くありませんよね」

( ´ω`) 「おー……、そうだおね」


144 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:35:11.95 ID:nPoOuXy0O

(゚、゚トソン 「ブーンのその気持ちだけで十分ですよ。できることからやっていきましょう」

( ´ω`) 「でも、僕はトソンに迷惑──」

(-、-トソン 「ブーン……、ごめんなさい」

( ´ω`) 「お?」

(-、-トソン 「ブーンは人間になるために掃除をしようとしていたのですよね?」

( ´ω`) 「……うんお。掃除をすれば、人間に近づけて、それに……」

(゚、゚トソン 「それに?」

( ´ω`) 「掃除すれば、きっとトソンのお仕事が減って楽になると思ったお」

(-、-トソン 「……そうですか。気付かず怒ってしまって、本当にごめんなさい」

( ´ω`) 「トソンは悪くないお。僕が上手くできなくて、部屋を滅茶苦茶にしちゃって、それに……」

( ;ω;) 「トソンの大事なコーヒーカップも割っちゃったお」

(-、-トソン 「……ブーン? 確かに、あのコーヒーカップが割れてしまったのは残念です」


146 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:37:08.34 ID:nPoOuXy0O

(-、-トソン 「でも、形あるものはいつか壊れるのものなのです。それがたまたま今日だっただけ」

(゚、゚トソン 「私は、あのコーヒーカップをずっと大事に使いました。あのコーヒーカップが
      胸を張って、自分が立派に役目を果たしたと言えるぐらいにはね」

(゚ー゚トソン 「だから、あのコーヒーカップには、ありがとうってお別れをして、
      また新しいカップを買いに行きましょう。2人分のカップをね」

( ;ω;) 「トソーン、ごめんおー、ごめんおー」

(゚、゚トソン 「だから、謝らないでください。ブーンは悪くないんですよ?」

( ;ω;) 「コーヒーカップさん、ごめんお、ありがとうだお」

・・・・
・・・

ブーンが泣き止むまでしばらく、私達はベンチに座っていました。
もう、日はすっかり落ちてしまいました。

(゚、゚トソン 「ブーン、あの花は知っていますか?」

私は、そう言って一面に見られる桜を指差しました。


147 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:39:33.76 ID:nPoOuXy0O

(゚、゚トソン 「あれは桜っていうんですよ。綺麗でしょう?」

( ;ω;) 「うんお、きれいだお」

(゚、゚トソン 「あの花もね、それほど長くは咲いていられないのですよ」

(゚、゚トソン 「散ればこそ、いとど桜はめでたけれ、そんな歌もあります」

(゚、゚トソン 「だからというわけではないですが、今度からは、何か壊したり失敗したら、
      すぐに言ってくださいね。それは仕方のないことですから」

( ;ω;) 「うんお……」

(゚、゚トソン 「そう言えば、桜は“夢見草”という呼び方もあるのですよ」

(゚、゚トソン 「ブーンといっしょですね」

( ;ω;) 「僕といっしょかお?」

(゚、゚トソン 「でも、ブーンはすぐ消えちゃダメですよ?」

ブーンは私の話をあまりよくわかっていないようでした。
夢見という言葉も覚えていないぐらいなのですから、仕方がないのかもしれませんね。


149 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:42:21.14 ID:nPoOuXy0O

(゚、゚トソン 「さあ、帰りましょう」

( つω;) 「トソン、僕は……いっしょに帰っていいのかお?」

(゚、゚トソン 「いいも何も、あの部屋があなたの家です。そうでしょ?」

( つω;) 「お……」

(゚、゚トソン 「それに──」

(゚ー゚トソン 「お腹、すいてるんじゃないですか?」

そう言って、私は微笑みながらブーンに手を差し出します。

(〃^ω^) 「うんお!」

ブーンは満面の笑顔で私の手を握り返してくれました。


 〜 第五話 おしまい 〜

    − つづく −   


151 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:42:46.52 ID:j1vMPmvL0

 〜 (゚、゚トソンの日記 〜

今日もいろいろなことがありました。

同じ大学に通う予定のデレとの出会い。
デレがペニサスさんの話にあった4階の住人だという偶然には驚かされました。

デレとは友達になりました。
正直に申せば、こうも簡単に友達になるという感覚がよくわかりませんが、デレは悪い子ではなさそう
なので、これはこれでいいのかもしれません。

まあ、今日はその後の出来事でデレのこととか全て吹き飛んでしまいはしましたが。

本当に、ブーンには申し訳ないことをしました。

私がつまらない事を言ったばかりに、ブーンにあんな行動を取らせる羽目になってしまいました。
ブーンには私が色々教えなければ等と言っておりますが、私自身がもっと成長しなければなりませんよね。


153 :◆iW2kGg44LU:2008/10/27(月) 02:43:21.83 ID:j1vMPmvL0

そして小ぎ──じゃなくてドクオさん。
あの方も夢見らしいですが、ブーンよりは色々とご存知のようです。
あんな折でなければ、いろいろ聞きたいところではありました。

ブーンが見つかって本当に良かったです。
走り回ってた時は死ぬかと思いましたが。

明日にでも、コーヒーカップを買いに行きましょう。
今度はいっそのこと、ステンレスのマグカップとかにしておきましょうかね?

ブーンがちゃんとお片付けできるようになるまでは。

そしてもう1つ……

(-、-;トソン 「鍵の掛け忘れには注意ですね……」


 − 第二章 桜と私とコーヒーカップ おしまい −


   − 夢は次章へつづきます −   


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