- 5 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:15:05.16 ID:OF0EoTMp0
− 第二十二章 二人と私と歪んだ夢 −
〜 第一話 〜
こんばんは、都村トソンです。
冬空が茜色に染まるわずかな時間、ほどなくして暗くなるであろう黄昏時、私は、いつものように
ブーンを迎えに公園に向かっていました。
そんな理由がなければ、冬の夕方に外を出歩く事は稀でしたでしょうが、これはこれで健康的でいいかなと思っています。
例年ならコタツに丸まり、ついつい進む手と口に、体重計におびえる日々でしたでしょうから。
(゚、゚トソン 「……この景色も見慣れましたね」
公園までの道行、いくつか気分で道を使い分けますが、そのどれも、今では皆見慣れたものとなりました。
ブロック塀しかなく、味気ない道。大き目の側溝があり、よく誰かさんが落ちそうになった道。
マキや椿の生垣が続く、目に映える緑豊かな道。春には満開の花、夏には涼しい木陰を作った桜並木の道。
目を閉じれば、それらの道を歩く自分の姿と、その隣をトテトテと歩く白い私の家族の姿が鮮明に思い浮かびます。
春に夏に秋に冬に、全ての季節を、私はブーンと共にしてきました。
- 9 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:16:42.70 ID:OF0EoTMp0
(゚ー゚トソン 「いつになく、感傷的になってしまいましたね」
冬の様相を呈す、寂しげな落葉樹の並ぶ道に物悲しさを覚えたのか、私はそんなフラッシュバックに襲われていました。
人通りもまばらな道。時折すれ違う人々は、皆一様に寒さをしのぐべく、うつむいて足早に通り過ぎていきます。
私も、下を向いて歩くことが多いですが、それは隣を歩く私の家族の目の高さが低いからに過ぎません。
歩調を合わせ、ゆっくりのんびり、私達はこの道をいっしょに歩いてきました。
坂を上り切ると、程なくして公園の入り口が見えてきます。
私達2人にとって思い出深い公園。小さなすれ違いからブーンが私の部屋を出た時も、この公園にいました。
2人で滑ったすべり台、いっしょに漕いだブランコ、雲梯、砂場、ジャングルジム。
いっしょに走り回り、いっしょに座ってお弁当を食べ、いっしょに芝生に寝転がり空を見ました。
過ぎ去った楽しい日々は、その全てが私とブーンの中に、深く刻まれています。
それは2人の、素敵な宝物です。
公園の入り口に辿り着き、その小さな門をくぐります。
意図的に下げていた視線を、ゆっくりと上げると、そこに飛び込んでくるのはいつもの──
('A`) 「よう」
(゚、゚トソン 「…………」
- 10 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:17:27.25 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「……ん? どうした」
(-、-トソン 「何か台無しですね……」
(;'A`) 「え? な、何が?」
思い出に浸っていた私は、そこに飛び込んできた期待とは相反するがっかりな存在に肩を落とします。
目前の狼狽するがっかりな存在の先に、期待していた白く丸い姿がわずかに見えましたので少し安心しました。
(゚、゚トソン 「いえ、こちらの話です。こんばんは、ドクオさん」
現実を見詰めなおし、目の前で挙動不審な動きを見せるドクオさんに挨拶を返します。
ドクオさんは、しばし納得のいかない呈で何かを言いかけては止めを繰り返していましたが、やがて諦めた様につぶやきます。
(;'A`) 「うん、まあ、いいや。どうせ詳しく聞いてもえぐられるだけだしな……」
(゚、゚トソン 「ご用件は? ひょっとして、ブーン達といっしょに遊んでただけですか?」
('A`) 「さすがにあのチビ共に付き合えるほどの若さはないな」
そう言って、苦笑されるドクオさん。
ドクオさんはブーン達をよく“チビ共”と称されますが、どちらかと言えばドクオさんの方がブーンよりは小柄です。
華奢と言うか貧相と言うか。
- 15 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:19:05.65 ID:OF0EoTMp0
恐らく、年齢的なもので“チビ共”と仰られてるのでしょうが、夢見も年をとるのですかね?
単に生きた長さだけでの事かもしれませんが、それならばどこで自分が年上だと判断してるのでしょう?
その事をドクオさんに聞くと、極めて簡単な答えが返ってきました。
('A`) 「何となく、かな? どう見てもあいつらはガキの思考だろ? 俺達は記憶は消えても、
考え方まで初期化されるわけじゃなさそうだしな」
(゚、゚トソン 「そうなのですか?」
('A`) 「まあ、想像も含む。一応、経験則込みで」
(゚、゚トソン 「見た目的にも、ブーン達が可愛い子供に対して、ドクオさんはくたびれた中年ですからね」
(;'A`) 「もう少しオブラートに包まない?」
これでもだいぶ控えてはいるのですけどね。包まないと、くたびれたが小汚いだったり、中年がオッサンだったりしますから。
私は、次からそうしますと、機械的にうなずいて、逸れた話を戻します。
- 16 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:19:58.38 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「私に御用──あの件ですか?」
('A`) 「……ああ」
しばらくの沈黙の後、ドクオさんはゆっくりと肯定の意を返されました。
いつの間にか点いていた街灯が、幾重かに重なった影を作り出していました。
(゚、゚トソン 「……そうですか。では──」
ヾ(〃^ω^)ノシ 「おー! トソーン! お迎え来てくれたのかお!」
いつの間にかこちらに気付き、走り寄ってきたブーンによって再び話は中断されます。
ある意味空気は読めていませんが、事情も何も知らないブーンですからそれは仕方のない事でしょうし、この笑顔を見れば
こちらも微笑み返さざるを得ません。
(゚ー゚トソン 「ええ、迎えに来ましたよ。今日もいっぱい遊んだみたいですね」
ブーンの額に浮いた汗をハンカチで拭き取り、軽く頭を撫でます。
この寒空の下で汗をかくぐらいですから、思いっきり走り回っていたのでしょう。
- 19 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:21:21.96 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「すみません、ドクオさん、それで──」
('A`) 「あ、悪い、また今度な……」
そう言ってドクオさんは軽く手を振り、この場を去ろうとされました。
私は、引き止めるべきか迷いましたが、そのまま、さよならと別れを告げ、去るに任せました。
( ^ω^) 「何のお話してたんだお?」
(゚ー゚トソン 「ドクオさんはブーン達といっしょに遊べるほどの体力がないそうです」
ξ゚听)ξ 「そんな感じはするわね。不健康そうな見た目だし」
ノパ听) 「手加減して遊んで──じゃなかった、修行してやるぞぉぉぉぉ!」
引き止めて、話を聞くべきだったのかもしれません。そこまでしなくとも、後日会う約束をするべきだったとも思います。
しかし、同時に、私はその話を聞かずに済むなら聞かずに済ませたいと、心の底では思っていました。
(゚、゚トソン 「次あったら、誘ってみてもいいかもしれませんね」
知らなければ、ずっとこのまま、ずっといっしょの生活が変わる事はないでしょう。
何度も1人で煩悶した事です。
- 23 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:23:48.34 ID:OF0EoTMp0
その度に、ブーンの為に知るべき事は知っておくべきと結論付けたのに、いざその場面に臨むと、私はまた迷ってしまっています。
(〃^ω^) 「お! ドクオもいっしょに遊ぶお!」
ノパ听) 「遊ぶぞぉぉぉぉ!」
ξ゚听)ξ 「……修行じゃ──まあ、いいか」
変わらない今が大切で、でも、ずっと変わらないのはきっと無理だという事は理解しています。
時が経てば人は変わり、それを成長と呼ぶのでしょうから。
(゚、゚トソン 「さあ、お家に帰りましょう」
(〃^ω^) 「うんお! 今日の晩ご飯なんだお?」
(゚ー゚トソン 「今日はですね──」
私はこの笑顔の為に、本当は何をしてあげるべきなのでしょうか。
〜 第一話 おしまい 〜
− つづく −
- 24 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:25:27.54 ID:OF0EoTMp0
〜 第二話 〜
('、`*川 「おーい、トソンちゃーん」
何の変哲もない平日の午後、3コマ目の講義が休校になり、一度自宅に戻り、自転車で買出しに出た帰り道に、
私は、大きく手を振りながら私の名前を呼ぶペニサスさんと出会いました。
('、`*川 「いやー、丁度いいところに」
(゚、゚トソン 「こんにちは、ペニサスさん。今日はお店はお休みの日ですね。買い物ですか?」
ペニサスさんの喫茶店は週に1回店休日があります。
案の定、今日はお休みでペニサスさんも私と同じ様に買出しに出られたみたいですが、ついつい買い過ぎたのことです。
私の自転車は、買い物用に後部に取り外しのきくかごを付けてましたので、まだ幾分、積載可能な範囲ではありました。
('、`*川 「悪いねー。つーか、いつの間に自転車なんか買ったの?」
(゚、゚;トソン 「しばらく前に駐輪場の事で話をお伺いに行ったと思いますが……」
- 27 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:27:28.13 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「あー、そう言えばあったね」
(゚、゚トソン 「自転車自体は昔使ってたものを実家から送ってもらいました」
('、`*川 「うん、買ったばかりにしては年季が入ってるなーって思ってた」
物を大事にする事は良い事だと、ペニサスさんは満足げに頷かれます。
私自身、この自転車は気に入ってるので、出来る限り使っていきたいものですね。
(゚ー゚トソン 「乗り慣れた自転車の方がいいですしね」
('、`*川 「……というかさ、トソンちゃん、自転車乗れたの?」
_, ,_
(-、-;トソン 「またその話ですか……」
私が自転車の話をすると、何故か皆一様に、お前は自転車に乗れたのか? 的な事を聞いてきます。
随分と失礼な話の様な気もしますが、私は体力や腕力がないだけで、運動神経そのものはそれほど悪くはありませんよ?
('、`*川 「なんつーか、イメージ的にね。どっちかといえば文学少女のイメージだったんだけど……当初は」
(゚、゚トソン 「当初は?」
- 33 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:29:40.56 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「いや、意外とアクティブと言うか、やる時はやるタイプだなってのがわかったんでね」
(゚、゚;トソン 「そうでしょうか?」
少なくとも、あなたの周りには人が集まっている、ペニサスさんはその様な事を仰られました。
確かに人はいますが、私としては、それは私自身の力ではなく、単に周りに恵まれただけだと思っていましたが。
私は、この一年近くで出会った友達と呼べる皆の顔を思い起こします。
賑やかで楽しく、時に憎らしく、でも、いっしょにいる、どれもこれも掛け替えない顔です。
('、`*川 「トソンちゃん達を見てると、ホント楽しそうで羨ましいわ」
(゚ー゚トソン 「楽しいのは楽しいですね。そして誰かに羨ましく思ってもらえるほど、私は幸せだとも思います」
少なくとも、私は今、自分が幸せだと言い切れます。
私が何の躊躇いもなく、はっきりとそう答えると、ペニサスさんは足を止め、釣られて立ち止まった私の顔をまじまじと覗き込みました。
('、`*川 「……フフ」
(゚、゚トソン 「どうされました?」
- 38 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:32:13.73 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「ううん、まさかそうはっきり言い切られるとは思わなかったんで意外というか、そう言えるだけ幸せなんだなー、ってね」
(゚、゚*トソン 「まあ、確かに、少々照れくさいものですけどね、そう言い切る事は」
ですが事実ですから。私はそう言って、再び自転車を押し、歩き始めました。
ペニサスさんも歩き出し、また2人並んで坂を上ります。
('、`*川 「……でもさ、私はその、トソンちゃんの周りの幸せな笑顔は半分しか見えてないんだよね」
不意にペニサスさんがそんな事を仰られました。
私は驚いて、思わずまた足を止めそうになりましたが、何とかそのまま次の一歩を踏み出しました。
(゚、゚トソン 「……まだ、見えませんか?」
ペニサスさんの方からこの話をされるのは多分初めてだと思います。
どんな心境の変化があったのか、それともただ口が滑った程度なのかわかりませんが、私はこの話を続ける事にしました。
先日、ドクオさんを引き止めなかったことに、負い目を感じての事かもしれません。
('、`*川 「見えないね。きっとずっと、一生見えないと思うよ」
(゚、゚トソン 「……もう1度、信じてみてもですか?」
- 41 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:33:03.02 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「……もう1度……か。でぃさん? それとも……」
(゚、゚トソン 「……最初にご自分で仰りませんでしたっけ?」
('、`;川 「……そうだっけ? ……あー……そういえば言った気も」
正しくは、2度目にその話をした時ですが、私がツンちゃんを紹介した時、ペニサスさんは確かに仰られました。
“信じて、信じ切れなかったから”と。
('、`;川 「言ったなー。うん、言った。すごい迂闊だったなー」
(゚、゚トソン 「知られたくないことでしたか?」
('、`*川 「……まあ、私の人生で最大級の悔恨だからね」
(゚、゚トソン 「……忘れましょうか?」
言葉でそう言った所で、本当に忘れらるわけではないのですが、この話をペニサスさんを含め、
誰の前でも話をしないという約束のつもりで口にしました。
しかし、ペニサスさんは、ゆっくりと首を振られます。
- 44 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:34:51.60 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「トソンちゃんは覚えておいた方がいいかな。いつかね、信じる事を疑う日が来るかもしれないから……」
(゚、゚トソン 「……ええ、自分がそれほど聖人君子だとは思いませんしね。自信を持てないこともしばしばですから」
言葉ではいくらでも取り繕えますが、実際にそんな場面に遭遇した時、私は、自分が信じている人を、信じ切る事ができるのでしょうか。
ペニサスさんは何も仰らず歩き続けられます。私も、無言で自転車を押します。
間もなく、ホワイトVIPに辿り着くという間際になり、唐突に、ペニサスさんが口を開かれます。
ファサ
('、`*川ヾ 「まあ、あれだね、信じられぬと嘆くよりも、人を信じて傷付く方がいいってやつよね」
セミロングの髪をかき上げながら、先程よりは明るいトーンでペニサスさんが仰られました。
(゚、゚トソン 「何ですか、それは?」
('、`;川 「あれ? 通じない? ……これがジェネレーションギャップというやつ?」
喫茶店の前に辿り着いた私達は、自転車を止め、ペニサスさんの荷物を降ろします。
店休日ですが、運んだお礼にコーヒーをご馳走するからと誘われましたので、私は一旦荷物を部屋に置き、再び階段を下りてきました。
普段からお世話になってますし、こんな事ぐらいでお礼など受け取るべきではありませんが、先程の話を続けるべく私は喫茶店に入ります。
ブーンは出かけているようで部屋にはいませんでした。
- 49 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:36:53.90 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「元々静かなお店ですが、BGMがないと少々怖いくらい静かですね」
それはこの店が流行ってないということかな、と、ペニサスさんは少々おどけた調子で返されますが、私は笑顔で首を振り、
何かBGMかけるか、という問いにも必要ないと答えました。
道路沿いにあるこのお店は、それなりに防音がしっかりとしているのは以前から知っていました。
('、`*川 「ちょっと待っててね。色々と起こさないと、コーヒー淹れられないから」
(゚、゚トソン 「有り物でよかったんですけどね」
私は、茶請け用に買っておいた庶凡屋のアレ以外の饅頭を取り出し、お皿を借りてカウンターに置きました。
わざわざそんな気を使わなくてもと、ペニサスさんは仰られましたが、私も食べたかったので、と微笑み返しました。
それからしばらくは、この饅頭絡みでショボンさんの話や、大学や天気など、たわいもない話で盛り上がりました。
・・・・
・・・
('、`*川 「……やっぱりあの話を聞きにきたのかな?」
話し始めてそれなりの時が経ち、訪れた不自然な、しかしお互い何らかの意図を秘めた沈黙。
それは、少し諦めた様な感じに見えるペニサスさんの一言によって破られました。
- 54 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:38:29.45 ID:OF0EoTMp0
今までは聞く事を避けていました。ペニサスさんのあの薄っすらと浮かんだ涙を見たあの日から。
しかし今日は、恐らく私の思う所を知った上でペニサスさんは誘われました。
私は……聞くべきなのでしょうね。
(゚、゚トソン 「ドクオさん……ですよね」
('、`*川 「……うん」
多分、わかってはいたことでした。ですが、当事者の口から聞いたのはこれが始めてです。
そしてその言葉が指す意味を知り、私の中にはえも言われぬ気持ちが浮かびました。
('、`*川 「あいつは……元気だった?」
(゚、゚トソン 「多分。……パッと見、不健康そうなので」
('、`*川 「プッ……そっか、変わんないね。じゃあ、元気そうだな」
私の物言いに、吹き出しながらも嬉しそうな笑顔を見せるペニサスさん。
- 56 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:39:07.12 ID:OF0EoTMp0
ペニサスさんの口から語られるドクオさんの姿。
普段の覇気のない、人生に疲れ果てた中年のような外見からは想像も付かない思い出の数々。
それは、私とブーンが、今作り上げている最中の物語と同質のもので、掛け替えのない幸せなお話でした。
('、`*川 「まあ、外見的には、ないわー、って感じだったんだけどね」
(゚、゚トソン 「やはりそうですよね。……何でアレといっしょに暮らすことに踏み切れたんですか?」
('、`;川 「……改めてそう言われると返答に困るな。うーん……何でだろ?」
私の何気ない問いに本気で頭を悩まされるペニサスさん。
どうやら、ペニサスさんの趣味がおかしいわけではないようでした。
d('、`;川 「あれかな、ブサイク犬、ブサイク猫ブームの走り?」
(゚、゚;トソン 「説得力があるような、ないような……」
どちらにしろ、見た目どうこうで決めたわけではないと仰られるペニサスさん。
同じ様な突然の状況を体験している私としましては、あれがドクオさんだったらどうしていたか少々考えてしまいます。
ブーンだったからすんなり受け入れられたところはありますし。
- 59 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:41:05.00 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「何にせよ、最初は確かに、こいつ、どうしようもなくブサイクだなーとは思ったけどさ……」
(゚、゚;トソン 「そこまでは私もさすがに……」
('、`*川 「いっしょにいてわかったけど、いい奴だったよ。いい笑顔で、まっすぐに夢を語って──」
夢を語って、そこでペニサスさんの言葉は途切れ、再び沈黙が訪れます。
やはり、ドクオさんは……、ペニサスさんは……
(゚、゚トソン 「ドクオさんは、夢を覚えておられないのですか?」
('、` 川 「…………うん、忘れてるわ」
「私のせいでね」
・・・・
・・・
- 65 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:43:11.06 ID:OF0EoTMp0
ペニサスさんのお店を辞し、部屋に戻りながら、私はペニサスさんの言葉を反芻していました。
ドクオさんが夢を忘れた理由、そしてドクオさんとペニサスさんがいっしょにいない理由。
それはペニサスさんの口から語られる事はなく、ドクオさんから聞くべきだと言われました。
私が加害者だから、私に都合の良い様に丸めた話より、真実を聞くべきだろうから、と。
私は結局、ブーンが夢を忘れている事は話せませんでした。
話せば、それはペニサスさんの救いになったのでしょうか?
自分と、同じ事をした人間が他にいる事を知って。
歪んだ夢が、他にある事を知って。
人間はそんな風に勝手なものだから仕方がないと、自分を慰める事が出来たでしょうか。
(-、-トソン 「……そんな事、出来ない人ですよね」
私はそう結論付けたからこそ、何も言いませんでした。
私が知っているペニサスさんは、朗らかで、少し調子に乗りやすく、いい加減な所もありますが、面倒見のいい優しいお姉さんです。
しかし同時に、そんなペニサスさんですら、夢を歪めてしまったという事実が私の心に暗い影を落とします。
私は、自分がペニサスさんより強い人間だとは思えません。
既に夢を失っているブーンですが、再びそれを見つけられた時、私は手放しでブーンを、ブーンの夢を応援できるのでしょうか。
- 68 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:43:57.27 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「手放しで──手を──放し──」
私は強く首を振り、目を閉じて顔を上に向けます。
思い浮かんだその場面が、一刻も早く消えてしまうように。
杞憂。
きっと私は考え過ぎです。常に最悪の事を想定する、慎重な考え方が、まず最悪な事から考える癖を付けてしまっただけなのです。
今私が考えるべき事は2つ。
(゚、゚トソン 「ドクオさんに会い、話を聞く事」
ブーンの夢の手助けをする事、そして──
(-、-トソン 「晩ご飯の準備をして、ブーンを迎えに行く事です」
私のいつもを、続ける事です。
〜 第二話 おしまい 〜
− つづく −
- 73 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:47:11.94 ID:OF0EoTMp0
〜 第三話 〜
昨日の夜半頃から振り続く雨は、空の色を灰色に染め上げています。
別に雨が灰色なわけではないのですが、水滴がフィルターをかけた、点描の様な空だと思います。
びっしりと授業が詰まった日の4コマ目の授業。
ほぼ聞いてるだけの極めて受動的な形態と、甘い単位のお陰で講義室内はまばらな人出です。
その少ない人々も大半は大航海時代の幕開けのようで、船乗りになっています。
今時珍しい手漕ぎの船ですが、これが厳しい単位の授業なら、きっと大後悔時代になっているのでしょうね。
かくいう私も眠気はないものの、そんなくだらない事を考えるくらい、先生の話は頭を素通りしています。
川つ-川 ζ(´q`*ζ (゚、゚トソン
視線を隣に向ければ、完全に夢の世界に旅立っているデレと、睡魔と必死に闘いながらも、どうやら旗色の悪い貞子の姿があります。
ミセリは本人曰く“トソンが真面目に聞いてるから、先生が嬉しがってそっちによく目を向けて寝辛い”との理由で、離れた席に座っています。
私も寝てないというだけで、それほど真面目には聞いてないのですけどね。
こうやって、霧雨の降る冬の空を、何とは無しに眺めていますし。
- 74 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:48:41.62 ID:OF0EoTMp0
考えるべき事はあっても、敢えて定めず、ただ、空を眺めているだけです。
(゚、゚トソン 「この雨なら、今日はブーンはお家ですかね……」
ただ当たり前の事を、ポツリとつぶやいてみました。
・・・・
・・・
\ζ(´ー`*ζ/ 「うーん、よく寝たー」
(゚、゚トソン 「ええ、よく眠っていましたね」
川д川 「トソンちゃんはよく起きていられるね」
4コマ目の時間帯はきついのにと貞子は言いますが、個人的には食事の直後の3コマ目の方が眠いと思いますけどね。
私は曖昧に、何となく眠気が来なかっただけだと答えておきます。さして理由がないですので、自分でも答えようがありません。
ミセ*゚ー゚)リ 「おはよう諸君」
ζ(´ー`*ζ 「おはよー、ミセリちゃん」
- 81 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:51:28.92 ID:OF0EoTMp0
だいぶ間違った登場のミセリですが、意外にも自分は眠ってなかったと主張します。
私より後方の席に座っていたので、真偽の程は確認出来ていませんが、今更そんな事を誤魔化す必要もないでしょうから本当なのでしょう。
川д川 「珍しいね。寝るために後方の席に座ってたんじゃないの?」
ミセ*゚ぺ)リ 「まあ、そうなんだけどね。眠気が来なかったのと、ちょっとばかしおしゃべりがうるさかったんでね」
後方の席はそういった寝る目的、おしゃべり目的、内職目的など様々な思惑で座る人間が多く、座席争いは時に熾烈を極めます。
元々、講義室の広さに対して余裕の有り過ぎる人員です。
前方はがらがら、中ほどにぽつぽつ、後方にびっしりというバランスの悪い配置になります。
ミセ*゚ー゚)リ 「それよっかどしたの? ぼーっと空なんか眺めちゃって?」
優等生様が珍しい、とミセリは言います。どうやら見られていたようですね。
別に優等生ではありませんし、見られていた所で何もありませんので、これに対しても、ただ何となくとしか答えようがありませんでした。
ミセ*゚ー゚)リ 「何か悩み?」
(゚、゚トソン 「そういうわけではありませんよ」
人生に悩みは付き物ですので全くないわけではありませんが、と続け、筆記用具を仕舞い、帰り支度を進めます。
既に皆には話してはある悩みですので、考えのまとまっていない今ここで、その話をする必要もないですからね。
- 83 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:53:30.91 ID:OF0EoTMp0
そんな私の言葉の意味を皆は何となく察したのか、これ以上この話題を深める事はしませんでした。
・・・・
・・・
ミセ*゚ー゚)リ 「そうそう、そのうるさかったおしゃべりが耳に入ったんだけどさ……」
講義室を出て、廊下を歩き出すとすぐにミセリが話題を振って来ました。
すぐにデレが応じ、貞子が話の続きを促すという、ある種お決まりの流れが繰り広げられます。
ミセ*゚ー゚)リ 「トソン、お前だよお前」
(゚、゚トソン 「私がどうかしましたか?」
ミセ*゚ー゚)リ 「何か物憂げに外なんか眺めちゃってるからさ、男の子達が話してたよ? あれ、意外と良くね、とかさ」
(゚、゚;トソン 「“意外と”って何ですか……?」
私は興味なさ気にそう言い捨て、それ以上何も言いませんでした。
デレや貞子はその男の子達が誰か興味深々な様で、ミセリを質問攻めにしています。
- 84 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:54:38.09 ID:OF0EoTMp0
ζ(゚ー゚*ζ 「興味ないの? 自分の事なのに」
(゚、゚トソン 「有り無しで答えれば無しですね」
それどころではない、と言う程には切羽詰っている訳でもありませんが、正直な所、話し相手にも遊び相手にも困っていない現状、
わざわざ男性とお付き合いしてどうこうという必要性も感じません。
元々、モテたいとかそういうのはなかったと思いますし。全くモテないのはプライド的には少々引っかかりますが。
ミセ*゚д゚)リ 「何だよ、トソンがモテる事なんて槍でも降りそうなくらい珍しい事なのに、少しは食いつけよ」
(^ー^トソン 「あなたの頭の上に槍でも降らせましょうか?」
ζ(゚ー゚*ζ 「確か陸上部に槍投げ用の槍あったよ」
川;д川 「何で具体的な情報をここで持ってくるの?」
どうでもいいような会話を交わしながら、私達は大学を出るべく校門の方へ向かいました。
運動部の部室は確か裏手の方だったはずですので、通り道にはありませんね。
ζ(゚ー゚*ζ 「あれ?」
ミセ*゚ー゚)リ 「ん? どうしたの……って、あのピンクのちっちゃい傘って……」
- 92 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:57:07.86 ID:OF0EoTMp0
デレの驚きの声に、その視線の先を追うと、校門のそばに薄いピンク色の子供用の傘をさした人影が1つ。
傘よりは色濃いピンクの合羽を着込み、所在無さ気に立ち尽くしています。
あれは──
ヾζ(゚ー゚*ζ 「ツンちゃーん! お迎え着てくれたのー?」
そう言いながらデレはツンちゃんの方に駆け出しました。
合羽を着てフードを被り、長靴を履いたツンちゃんは、ここから見れば人間の子供にしか見えません。
もし、見える人に話しかけられても、それほど応対には困らなかったでしょう。
まあ、子供がこんな所に立っている事自体が少々不自然ではあったのですが。
ヾζ(´ー`*ζノシ 「ツンちゃ──」
ウッサイワ! ゲシッ! アフン
ξ#゚听)ξ┌┛#)´д`*ζ
ミセ;゚д゚)リ 「おーう……」
川;д川 「ナイスキック……」
駆け寄るデレに見事なカウンターのキックを決めるツンちゃん。
何かしら理由はあるのでしょうが、雨の日に地面に突っ伏されても後が面倒なので、同様に駆け寄っていたミセリが
崩れ落ちるデレを抱きとめます。
- 99 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:59:03.37 ID:OF0EoTMp0
ζ(´д`;ζ 「いきなりどうしたの、ツンちゃん!?」
(゚、゚トソン 「あまり雨の日にお1人で出歩くのはよくありませんよ?」
雨の日はツンちゃん達も傘をさしています。
しかし、ツンちゃん達を見えない人には恐らくその傘も見えてませんので、単純に横幅の広がる傘の存在は双方にとって
危険な面があります。
ξ#゚听)ξ 「“どうしたの?”じゃないわよ! これよ、これ!」
川;д川 「これって、本? 図書館の?」
(゚、゚トソン 「……返却日、今日までですか?」
私の記憶が確かならば、この本を借りた時に私も借りましたので、返却日は同じのはずです。
今日の帰りに私は図書館に寄るつもりでしたし、デレも持参しているのものと思っていましたが……。
ξ#゚听)ξ 「そうよ! 全く、忘れんじゃないわよ! アタシがわざわざ持ってくる羽目になったじゃないの!」
ζ(´д`;ζ 「ごめーん」
- 100 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 21:59:55.90 ID:OF0EoTMp0
ミセ;゚ー゚)リ 「まあまあ……。でもさ、図書館の本って別に有料ってわけでもないんだし、1日ぐらい遅れても──」
ξ#゚听)ξ 「良くないわよ!」
ミセリの取り成しも一喝して黙らせるツンちゃん。
もちろん、ツンちゃんの言ってる事のほうが正しいので、それ以上は何も言えませんが、私はそこにあるものが
ツンちゃんの真面目さだけではない事を知っています。
(゚、゚トソン 「朝、デレに確認しなかった私も悪いですから、その辺で勘弁してあげてください。
それより、早く行かないと図書館が閉まってしまって、本が選べなくなりますから行きましょうか」
ξ゚听)ξ 「そ、そうね、トソンがそう言うんなら仕方がないわね。ほら、デレ、行くわよ?」
ζ(´д`*ζ 「はーい。ごめんねー、ツンちゃん」
ξ゚听)ξ 「いいから、ほら……」
ツンちゃんがデレに手を差し出し、2人は仲良く並んで歩き出します。
なんだかんだと言い合っていても、仲の良い2人です。ツンちゃんは傘を閉じ、デレと1つの傘に収まっています。
- 108 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:02:47.56 ID:OF0EoTMp0
ミセ*゚ー゚)リ 「ブーンちゃんは連れてこなかったの?」
ξ゚听)ξ 「あー……ブーンね……。晴れてたら連れて来ても良かったんだけどねー」
そう言ってツンちゃんはチラリとこちらを見ます。
私は苦笑して、置いてきて正解でしょう、と答えます。
雨の日は外で遊べず、家にこもる事が大半です。
ですから逆に雨の日に外出する時は、それ自体が珍しいのかはしゃいでしまいます。
私がいる時はいいですが、ツンちゃんだけだと車など危険なこともありますからね。
川ー川 「そんな風なら、雨の日もお外で遊べそうだけどね」
貞子の至極もっともな意見に、私はまた、苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
走れないにしろ、雨の日は雨の日の外での遊び方はありそうですからね。
(゚、゚トソン 「まあ、次にブーンが読みたい本はちゃんと控えてありますから、いなくても大丈夫ですよ」
ミセ*゚д゚)リ 「おお、さすがお母さん」
ξ゚ー゚)ξ 「用意がいいわね」
- 109 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:03:52.52 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「元々、私1人での返却の予定でしたからね。昨日確認しておきました」
ξ--)ξ 「それに比べて……」
ミセ;゚ー゚)リ 「自分の本すら忘れる始末……」
ζ(´ー`;ζ 「ウフフフフ……」
ξ゚听)ξ 「まあ、今朝確認しなかったアタシも悪いからね。仕方ないか」
(゚、゚トソン 「次からは朝か前日にでも私が受け取っておきますか?」
よく考えたら、図書館とは別方向のはずのミセリが付いて来ている事に今更ながら気付きます。
聞いてみると、たまには自分も図書館でも見ようかと思っている、との事らしいです。
・・・・
・・・
- 114 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:07:09.03 ID:OF0EoTMp0
雨で退屈しているヒートちゃんの元へ急ぐ貞子と別れ、私達4人は市立図書館へ来ました。
大学にも図書館はありますが、子供向けの本はどう考えてもこちらの方が充実していますから、
利用するのは専らこちらの方です。
(゚、゚トソン 「……ありましたね、良かった」
幸いにも、ブーンが読みたがっていた本は第3候補まで全てありました。
一応、第6候補ぐらいまでは控えていましたが、そこまでは必要ありませんでしたね。
私はそれらの本を手に取り、次に自分の読む本を探す事にします。
気軽に読めるミステリーにするか、少し重めの文学にするか、迷いつつうろついていると、児童向けというには
少し年齢層の高めな文学書のコーナーにツンちゃんがいました。
ξ゚听)ξ 「あ、トソン。……悪いわね、早く帰りたいでしょうに、付き合わせちゃって」
(゚ー゚トソン 「まだ閉館まで時間はありますからゆっくり選んでください。私もまだ借りる本が決まってませんし」
ブーンには、今日は図書館に寄って帰るので遅くなる事は伝えてあります。
雨で退屈はしているでしょうが、新しい本が来る事に期待をしておとなしくお留守番しているはずです。
- 118 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:09:27.17 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「ファンタジー……ですかね?」
ツンちゃんが見ているのは、文学の中でも、いわゆる御伽話や童話を扱っているコーナーでした。
ξ゚听)ξ 「そんな感じかな……」
視線は書架に向けたまま、気の無い返事を返すツンちゃん。
邪魔をするのも申し訳ないので、その場を離れようとした私でしたが、見覚えのあるタイトルを見かけ、
思わず手に取っていました。
(゚、゚トソン 「これは……懐かしいですね……」
表紙に互いの尻尾に噛み付いた2匹の蛇があしらわれたこの本。
子供の頃、夢中になって読み耽った覚えがあります。
ξ゚听)ξ 「それ、アタシも読んだわ。トソンも読んだの?」
いつの間にかこちらを向いていたツンちゃんが、私の手の中の本を指差して尋ねてきます。
(゚、゚トソン 「ええ、読みましたね。子供の頃、夢中になりすぎて暗いままの部屋で読んだりしていて
少し目を悪くしました」
- 119 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:10:09.76 ID:OF0EoTMp0
ξ゚ー゚)ξ 「何それ? でも、確かに良かったわね」
私は、ツンちゃんが借りようとして持っていた本を受け取り、そのまま他の本といっしょに小脇に抱えます。
ハードカバーの本はそれなりに重いですからね。これをもったまま別の本を探すのは、ツンちゃんには結構きついでしょう。
ξ゚听)ξ 「悪いわね、ありがと。……さて、どうするかな、2週間じゃそれだけで手一杯かな?」
(゚、゚トソン 「そうですね、結構かかるとは思いますが……」
じゃあ、これくらいにしとくかな、と言いつつも、ツンちゃんは目で書架を追っているようです。
恐らく、この次に借りる本を考えているのでしょう。
一応、ツンちゃんも本を返却する日に、借りたい本をメモしたものをデレに渡しているようですからね。
今回デレはそのメモごと忘れたみたいですが。
ξ゚听)ξ 「うーん……、この辺は粗方読んだかなー……」
(゚、゚トソン 「ツンちゃんは、こういった不思議な世界を描いた話が好きですよね?」
- 124 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:13:38.38 ID:OF0EoTMp0
ξ--)ξ 「……Where is Wonderland?」
(゚、゚;トソン 「え……?」
私の何気ない問いに、ツンちゃんは短い沈黙の後、恐らく英語で答えられました。
短い言葉だったので、聞き取れた言葉を反芻する事で何と答えられたのか理解できました。
ξ゚听)ξ 「私の記憶に引っかかってる言葉よ」
(゚、゚トソン 「夢とはまた別のですか?」
本当はもっと抽象的な感覚だけど、自分の好きな本の言葉を借りてきたとツンちゃんは言います。
それは、自分の生まれの話であり、存在意義の話なのかもしれないと。
ξ゚听)ξ 「アタシ達ってさ、トソン達から見れば不思議な存在よね」
(゚、゚トソン 「私達も、ツンちゃん達から見れば不思議な存在ですよね」
ξ゚ー゚)ξ 「まあ、そうなんだけどね。そこがわかってれば話は早いけど、結局、そこは数の問題じゃない?」
(゚、゚トソン 「人間の方が数が多いから、ツンちゃん達の存在の方が不思議と定義付けられるわけですね」
- 125 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:14:32.36 ID:OF0EoTMp0
ここは私達、人間の世界でもあり、ツンちゃん達、夢見の世界でもあります。
そこに明確な線引きは、ありはしないのでしょう。
ξ--)ξ 「もちろん、私達はこことは別の不思議な世界から来た可能性もあるわ。でも……」
(゚、゚トソン 「Wonderland for which I looked has been in the side」
私が探したおとぎの国は側にありました。恐らく、ツンちゃんが好きだと言った本からの引用です。
探さずとも、今いるこの場所が自分の居場所であり、不思議な世界なのです。
確か、そんなニュアンスで使われていたはずです。
ξ゚ー゚)ξ 「そういう事ね。だから、アタシ達がトソン達から見て不思議な存在だとしても──」
ツンちゃんはそこで言葉を切り、その小さな手のひらを私に向けます。
私は同じ様に手を伸ばし、ツンちゃんと手のひらを合わせます。
ξ^ー^)ξ 「アタシ達が帰る場所はここなのよ」
ツンちゃんはそう言ってにっこりと微笑みました。
ツンちゃんの暖かな体温が、手のひらから伝わってきます。
それは今ここに、ツンちゃんがいる証です。
ξ゚ー゚)ξつ⊂(゚ー゚トソン
- 129 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:16:16.09 ID:OF0EoTMp0
(゚ー゚トソン 「私は、そんなに悩んでいるように見えましたか?」
ξ゚ー゚)ξ 「さてね、何の事かわからないわ。……でも、まあ、あんたの好きにしなさいよ。
トソンとブーン、2人が好きなようにね」
(゚、゚トソン 「私は──」
ミセ*゚∀゚)リ 「ねートソン! トソン! これ見てこれ、ほら!」
私達の会話を、ドタドタと音を立てて走りこんできたミセリが遮ります。
ここは図書館なのですから、もう少しお静かに願いたいものですが、以前にもそう言った覚えはありますので、
多分無駄なのでしょう。
(゚、゚トソン 「何ですか、それは? 美術書……、いえ教科書みたいなものですか?」
ミセ*゚∀゚)リ 「何かデッサン用? モデルさんが載ってんだけどさ、ほらここ、どう見てもヌ──」
アホカァァッ! バキッ! プァッ!
ξ#゚听)ξつ#)゚д゚)リ.・。 ’
- 130 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:16:57.08 ID:OF0EoTMp0
- _, ,_
(-、-;トソン 「このバカは……」
思春期の中学生男子ですかと、思わず頭を抱え込みたくなってしまいました。
一体図書館に何をしに来たのかと。そういうわけのわからないものばかりを目ざとく見つけて……。
しかし、まあ、そういう不純な目で見る方が問題なのですが、子供も閲覧できる本の中に、こういうのを混ぜておくの方も
問題かもしれませ──
ζ(´ー`*ζ
つ□⊂
(゚、゚;トソン 「……デレは何を持ってきたのですか」
ξ#゚听)ξ 「物次第ではあんたにも拳が飛ぶわよ?」
ζ(´ー`*ζ 「家計簿ー。多分、誰かの忘れ物ー」
ξ#゚听)ξ 「カウンターに届けてあげなさいよ!!!」
_, ,_
(-、-;トソン 「……帰りますか」
- 137 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:19:16.15 ID:OF0EoTMp0
ζ(´д`;ζ 「ええ? 私、まだ借りる本決めてないのに」
ξ#゚听)ξ 「なら、そんなもん拾ってないでさっさと決めなさい!」
_, ,_
(-、-;トソン 「これは私が届けておきますから、デレは本を選んでください」
ζ(´ー`*ζ 「あ、この家計簿ね、なかなか豪華だよー? ほら、ここ、メロンとか──」
ξ#゚听)ξ 「めろんとかじゃないわよ! 叩き割るわよ? 見てないでさっさとする!」
ζ(´д`;ζ 「はーい……」
ツンちゃんとの有意義な問答は、おバカ2人の合わせ技によって完全に忘却の彼方へ運び去られました。
しかし、ほんのわずかのやり取りでしたが、沈む私の心を支えてくれるには十分の言葉でした。
不安も恐怖もありますが、それ以上に私はブーンを、皆を信頼していますから。
私は、ドクオさんに会って話を聞く事を決めました。
〜 第三話 おしまい 〜
− つづく −
- 140 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:20:48.53 ID:OF0EoTMp0
〜 第四話 〜
( ><) 「出来たんです!」
未だ止まぬ雨の日の午後、本日はビロード君のお宅にお邪魔しています。
もちろん家庭教師としてですが、ビロード君はこの冬、ようやく中学2年生の学習内容に追い付き、日々学習を重ねています。
(゚、゚トソン 「出来ましたか? ……こことこことここ、それとこことこことこことここが間違ってますね」
(;><) 「あうあう……」
まだまだ間違いは多々あるものの、以前の様に簡単にはへこたれもせず、前向きに問題に取り組んでくれています。
ビロード君のお母さんやワカッテマス君、そしてビロード君自身も、私のお陰だと感謝してくれますが、こうなったのは全て
ビロード君ががんばったからだと私は思っています。
私はただ、その手助けをしただけです。
(゚、゚トソン 「教科書のページ数、どこだったか教えましょうか?」
(;><) 「だ、大丈夫なんです! 確かここは……あったんです!」
- 142 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:23:09.94 ID:OF0EoTMp0
私は、必死に教科書をめくるビロード君の側からそっと離れ、部屋の隅で静かに読書をしているワカッテマス君の方へ近付きます。
最近はワカッテマス君もよく公園に出かけ、ブーン達と遊んでいるようですが、今日は雨なので部屋にいるしかないみたいです。
( <●><●>) 「やはりトソン先生のお陰だと思いますけどね」
(゚ー゚トソン 「またその話ですか? 結局は、本人の問題ですから、成績が上がったのはビロード君ががんばったからですよ」
ご謙遜を、と言うワカッテマス君に苦笑を返し、私は違う話題を振る事にしました。
(゚、゚トソン 「それは……珍しいですね、伝記ですか?」
ワカッテマス君が読んでいたのは、どちらかと言えばツンちゃんが好みそうな不思議話の本のようでした。
どうやらこの地方伝記伝承を集めた本との事らしいです。
(゚、゚トソン 「そういう話に興味ありましたっけ? どちらかと言えば、科学など、論理的に説明出来る分野の方が好みだと思ってましたが」
( <●><●>) 「ええ、確かに。これはビロードに薦められた本ですね」
読んでみるとなかなか面白いと、ワカッテマス君は私にその本を手渡しました。
パラパラとページをめくると、確かに聞き覚えのある地名等が多数目に付きます。
興味のない分野でも、知っている場所の事だったりすると、多少は興味が湧く事はよくある事かもしれません。
- 145 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:26:06.13 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚;トソン 「あの辺りは元処刑場だったとか、こういう都市伝説レベルの話はよくありますよね」
信憑性のありそうな真面目な検証を添えた内容から、どう考えても誇張してある胡散臭いものまでいろいろな話が取り上げられています。
ちなみに、この処刑場跡はミセリのマンションの近くですね。
(゚、゚トソン 「あら……?」
荒唐無稽な話の1つ中に、また見覚えのある地名を目にしました。雲井ヶ浜、と。
シャキンさんが経営する旅館がある、あの海沿いの町です。
何でも、雲井ヶ浜は元々、雲居ヶ浜と書き、雲が居る場所だったとかなんとか。
ただ、この話を読んで持った感想は、だからどうした、というものでした。
(゚、゚トソン 「そもそも、雲が居るという意味がよくわかりませんしね」
( <●><●>) 「ああ、このお話ですか。私も読みましたが、確かによくわかりませんでしたね。雲などどこにでもあるでしょうから」
(゚、゚トソン 「地形がそれらしい雲みたいな……という話は聞きましたし、実際に見ましたが……」
( <●><●>) 「あの旅行のしおりですね。あれには多少の神秘性を感じなくもないですが、それ以上は特に」
結局この話は、よくある天孫降臨の逸話などが残ってた影響ではないかと私達2人の間で結論着きました。
事実、この近くに大蛇退治で有名な伝承がありましたしね。
- 148 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:27:38.34 ID:OF0EoTMp0
(;><) 「出来たんです!」
(゚、゚トソン 「どれどれ? ……こことここ、それとこことここが間違ってますね」
(;><) 「あるぇー? おかしいんです! これで完璧だと思ったんです!」
(゚ー゚トソン 「ヒントはいりますか?」
(;><) 「ま、まだ慌てる時間じゃないんです! もう1度だけ、自分でやってみるんです」
( <●><●>) 「フフ……」
(;><) 「ワカッテマス君!? 何がおかしいんですか? ひょっとして、僕が自力じゃ絶対出来ないとでも思ってるんですか?
( <●><●>) 「そんな事はありませんよ。むしろ──」
(;><) 「いいや、絶対思ってるんです! 見てるんです! こんな問題、1人で解いてみせるんです!」
( <●><●>) 「……やれやれ」
- 153 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:30:10.23 ID:OF0EoTMp0
(゚ー゚トソン 「これでは、あまり私がいる意味がありませんね」
私はビロード君に聞こえないようにつぶやき、またその側を離れました。
何にせよ、自力でがんばろうという姿勢が芽生えているのはとても良い事だと思います。
私は、肩をすくめるワカッテマス君を促し、ビロード君のがんばりを見守る事にしました。
・・・・
・・・
(゚、゚トソン 「ただいま」
ヾ(〃^ω^)ノシ 「おかえりーだお!」
家庭教師のアルバイトを終えて家に帰ると、ここの所引きこもりっ放しで元気が有り余ってるブーンが飛び付く様に出迎えてくれました。
私はそれを両手で抱きとめ、そのまま抱え上げようかと試みましたが断念しました。
ブーンが重いのか私が非力なのか難しい所です。
(゚、゚*トソン 「どうしたのですか、そんなに甘えて? 寂しかったのですか? 着替えるからちょっと待ってくださいね」
私は、そう言ってブーンから手を離し、部屋の奥へ進みました。
- 157 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:31:03.40 ID:OF0EoTMp0
(;^ω^) 「あ、甘えてないお。それに、寂しくもないお。お兄ちゃんだから平気なんだお!」
(゚、゚トソン 「そうですか。偉いですね。でも、お兄ちゃんになっても、大人になっても、寂しい時は寂しいものなのですよ」
ブーンが寂しがってくれないと、私がいなくても平気なのかと思って私が寂しくなりますよ、と私が続けると、ブーンは着替え終わった私に
トテトテと近付き、ポツリとつぶやきます。
(〃´ω`) 「お……。ホントはお外行けなくてつまんなくて、トソンもいなくてちょっと寂しかったお」
ギュッ
(〃´ω`((-、-トソン 「ただいま、ブーン。遅くなってごめんなさいね。晩ご飯、すぐ準備しますからね」
(〃´ω`) 「おかえりだお。トソンはあったかいお……」
私は、ブーンを抱きしめ、しばらくそのまま今日あった事をお互い語り合いました。
・・・・
・・・
- 158 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:32:37.18 ID:OF0EoTMp0
(〃^ω^) 「雨が止んだら、いっしょにお散歩行くお!」
(゚ー゚トソン 「ええ、行きましょう。ブーンはどこへお散歩に行きたいですか?」
豚の生姜焼き、大根と蒟蒻の煮付け、ポテトサラダ、ほうれん草のお味噌汁、そんな有り触れた晩ご飯の食卓を2人で囲んで、
この冬の長雨が上がった後の予定を考えていました。
天気予報では、もうすぐ雨は上がるようです。
( ^ω^) 「おー……、そうだおね……、公園は絶対行きたいお。それから、大学だお。約束したお!」
公園、晴れている時ならほぼ毎日行っているのに、よく飽きないものだと感心させられます。
もっとも、行く場合は私といっしょに散歩に出るか、ツンちゃん達と遊ぶかのどちらかですから、何かしら違うことがあるので、
ブーンにとっては飽きる事のないものなのかもしれませんね。
大学は、そうですね、今度の日曜日にでも連れて行ってみましょうか。
遊べる施設などはありませんが、見るだけなら目新しく感じるかもしれませんしね。
学食は休日でも開いてますし、安くて美味しいご飯が食べられますね。
- 166 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:35:25.83 ID:OF0EoTMp0
( ^ω^) 「川の方にも行きたいお! あと、商店街、ショボンのお店とかも行きたいおね」
雨上がりの川は増水してるでしょうから少し危ないかもしれませんね。
しかし、そういった危険を教えるという意味では行ってみてもいいかもしれません。
買い物にも付き合ってもらいますか。
ブーンもちゃんと荷物持ちとしては役に立ってもらってますからね。
ショボンさん、この長雨で客足が落ちてたとしたら、また新製品とか考えてそうですよね。
出来れば、普通の新製品を作って頂きたいものですが。
( ^ω^) 「それから、それから──」
まだまだブーンが行きたい場所は上がってきそうです。
晴れたら1つずつ、いっしょに行きましょうね。
(゚、゚トソン 「……」
──この雨が続く間は、ブーン達は公園に行きません。
話しに行くなら、この雨の内の方がいいかもしれませんね。
- 169 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:36:07.22 ID:OF0EoTMp0
ドクオさんは、神出鬼没な方ですが、あの公園なら会えることもあります。
さらに特定の曜日なら、ほぼ確実に会うことが出来ました。
曜日が決まっていたその理由は、最近気付きました。
そしてその日は──明日です。
ヾ(〃^ω^)ノシ 「動物園までお散歩に行きたいお!」
(゚、゚トソン 「それはお散歩では無理ですね。と言いますか、それは単に動物園に行きたいと言ってるのですか?」
(;^ω^) 「お……、バレたお。うんお、また動物園行きたいお」
(゚ー゚トソン 「全く……。そうですね、今やってる漢字ドリルが終わったら行ってもいいですよ?」
(〃^ω^) 「ホントかお!」
私の言葉に、ブーンは喜びのあまりか勢いよく立ち上がります。食事中なのにお行儀が悪いですね。
しかしながら、すぐに何事かに気付き、表情を曇らせました。
(;^ω^) 「おー……、漢字ドリル、新しいの始めたばっかだお?」
(゚ー゚トソン 「ええ、そうでしたね」
- 173 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:38:46.78 ID:OF0EoTMp0
(;^ω^) 「おー、トソン、いじわるだお」
(゚、゚トソン 「意地悪じゃないですよ? ちゃんと終わったら連れて行ってあげると約束しますし」
(;´ω`) 「まだまだ先だおー……」
(゚ー゚トソン 「がんばればその分、早くなりますよ?」
( ^ω^) 「お! そうだおね。がんばって終わらせれば行けるんだおね?」
(゚、゚トソン 「ええ、必ず連れて行ってあげますよ」
(〃^ω^) 「約束だお!」
(゚ー゚トソン 「約束です」
何事にも前向きなのはブーンの良い所です。
私は、晩ご飯の後片付けが終わるとすぐに、漢字ドリルを開いたブーンを見て微笑まざるを得ませんでした。
〜 第四話 おしまい 〜
− つづく −
- 174 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:39:40.66 ID:OF0EoTMp0
〜 ( ^ω^)の日記 〜
2月×日 雨
今日も雨だったお。公えん行けなくてしょんぼりだったお。
早く雨がやんでほしいお。
雨がやんだらヒートと公えんできょうそうするやくそくしたんだお。
この前はまけちゃったお。こんどはブーンがかつんだお。
トソンともやくそくしたお。
いっしょにおさんぽに行くんだお。
公えんに行って、大がくに行って、川に行って、おまんじゅう食べるんだお。
どうぶつえんに行くやくそくもしたお。
でも、かん字のドリルをおわらせないとダメなんだお。
かん字、大へんだお。でも、やるってやくそくしたんだお。
ちゃんとおわらせて、トソンといっしょにどうぶつえんに行くんだお。
ぜったいだお。
- 180 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:41:43.38 ID:OF0EoTMp0
〜 (゚、゚トソンの日記 〜
冬の長雨がようやく終わりに近付いてきています。
毎朝、窓の外を見てはしょんぼりとしていたブーンですが、このニュースにはすごく喜んでいましたね。
明日か、明後日には上がっているかもしれません。
雨が上がった瞬間にでも、ブーンは飛び出して行きそうですが、その場合は跳ねた泥やらで帰ってきたら即、
お風呂に放り込まなければダメでしょうね。
その場にいたら私も付き合わされそうですが、さすがに雨上がりの公園を走るのはちょっと遠慮したいです。
明日はドクオさんに会いに行きます。
明日ならきっと、ドクオさんはいると思います。
そしてもう1つ、……しかしこれはお節介ですかね?
私は、自分のためにやっている事だとは思っています。
その結果が、他の人達の為にもなるなら、それは喜ばしい事かもしれません。
でも、それは私の独りよがりなのかもしれません。
私には、その答えは出せませんが、私の自身の答えは、もう決めたつもりです。
- 181 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:42:59.53 ID:OF0EoTMp0
〜 第五話 〜
今日もまだ、雨は降り続いています。
雪に変わる事がない所を見ると、今年は暖冬なのでしょうか。
私は、授業が終わるとすぐに公園に向かいました。
1ヶ所だけ寄り道をしましたが、部屋には戻りませんでした。
雨は今日中には上がると今朝の天気予報は告げていました。
(゚、゚トソン 「こんにちは、ドクオさん。傘、お持ちだったんですね」
公園のベンチにはただ1人、使い古された黒い傘をさしたドクオさんが座っていました。
('A`) 「……こんな雨の日に珍しいな」
(-、-トソン 「その方が話しやすそうでしたので……」
その言葉で察されたのか、それとも、私が現れた時点で予期されていたのかはわかりません。
ドクオさんは、そうか、と短く呟かれると、私に隣に座るように促されました。
私は、持参していたタオルでベンチを拭き、浅く腰掛けました。
- 184 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:44:46.69 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「……じゃあ──」
(゚、゚トソン 「その前に話しておきたい事が」
私は、話し出そうとしたドクオさんをそう言って遮りました。
今日話しに来たもう1つの目的、いえ、むしろ、こちらの方が本来の目的かもしれません。
何せ、ドクオさんにしか聞けない事なのですから。
(゚、゚トソン 「ペニサスさんにお話を聞きました。1つを除いた全てを」
('A`) 「……」
(-、-トソン 「ドクオさんが見えなくなってしまった時の事以外は……」
('A`) 「……」
(゚、゚トソン 「その事だけは、ドクオさんから聞いてくれ、と言われました」
('A`) 「…………そうか」
長い沈黙の後、ドクオさんは先ほど同様、いつもの覇気のないトーンで短く答えられました。
私は、続く言葉を待つべく、無言で前を見つめていました。
- 190 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:46:13.23 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「……夢を忘れる話はしたよな?」
(゚、゚トソン 「ええ」
('A`) 「……俺も忘れている」
(゚、゚トソン 「……そうですか」
想像はしていた事実。その言葉が指す意味。
心の通い合ったはずの2人が、離れ離れに事なってしまった原因。
(゚、゚トソン 「ペニサスさんを、恨んでおられるのですか?」
('A`) 「いや、別に」
(゚、゚トソン 「では、何故……」
('A`) 「さあな? それが、俺達のルールなのかもしれない。本当は、心の底では恨んでるのかもしれない」
本当の所はわからない。
('A`) 「ただ、あいつからは俺が見えず、俺は夢を忘れたという事実があるだけだ」
わからなくても今ここにいる事が事実で、2人の現実なのだと。
- 191 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:47:09.26 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「何とかならないのですか?」
('A`) 「何とかね……」
ドクオさんは素で苦々しい顔をさらに苦々しくさせ、うつむき加減で呟かれました。
しかし、すぐに何事かに気付き、口を開かれます。
('A`) 「すっかり忘れる所だった。トソンちゃん、あんたは何となると思ってるんだろ?」
(゚ー゚トソン 「ええ、思ってますよ。じゃなきゃ、ブーンの夢が叶わないじゃないですか?」
私は、ブーンが夢を思い出す事で、ブーンが夢を叶える事で、ドクオさんとペニサスさん、2人の事も何とかなるのではと考えています。
甘い見通しではありますが、同じく夢を無くした同士、どちらかが思い出せばそのきっかけぐらいは作れるかもしれません。
('A`) 「そう簡単にはいかんとは思うが……」
(゚、゚トソン 「ドクオさんも、同じ考えだったのでは?」
('A`) 「……ないとは言えなかったな。スマン」
(゚、゚トソン 「謝られる必要はないでしょう。例え、それが自分の利益の為の手段であっても、結果的に私達も助かるのですから」
- 195 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:48:53.01 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「……本当に……助かると思ってるのか?」
(゚、゚トソン 「それは……」
ドクオさんの言葉が、ほんの少し熱を帯びた様に感じられました。
どこか諦めた様な、いつもの覇気のないトーンではなく、少しだけ、言葉に力がこもっています。
('A`) 「俺と、あいつとの間で何が起こったかを聞いても、助かると言えるか?
(-、-トソン 「それは……聞いてみないとわかりません」
至極当たり前の返答、ですがこれはウソです。
既に私は、自分の中で答えを出しています。
この事を聞くのは、ほんの少しの好奇心と、ブーンの夢を取り戻すための手段なのです。
('A`) 「……聞くのか?」
(゚、゚トソン 「興味はあります。下世話な好奇心という意味でも、私達の夢のためにも」
('A`) 「正直だな」
- 198 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:50:00.31 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「気を悪くされたらすみません」
('∀`) 「いいや、そういうお前さんの正直な所は気に入ってるしな」
(゚、゚トソン 「──」
(゚、゚トソン 「では、ぜひお聞かせ願えますか?」
(;'A`) 「……なあ、今の沈黙は何? ちょっと口だけは動いてたみたいだけどさ」
(^ー^トソン 「聞かない方が宜しいかと」
(;'A`) 「……うん、そうする。つーか、ここって超シリアスな場面な気がするんだけど、何か余裕あるよね」
(゚、゚トソン 「まあ、真面目な顔をされると、こちらは笑いを堪える努力をしないといけませんしね」
(;'A`) 「……うん、取り敢えず話すね。なるべく普通の顔で」
ドクオさんは再び諦めた様ないつもの調子に戻り、淡々と語り始められました。
ずっと昔、ドクオさんとペニサスさんの間に起こった事を。
2人を、引き裂く結果になった日の事を。
- 205 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:51:47.16 ID:OF0EoTMp0
正直、回想とかで無邪気にはしゃぐキ──ドクオさんを見るのは願い下げなので、起こった事を端的にまとめてみます。
(;'A`) 「……気のせいかな、何か今すごく……いや、気のせいだよな、うん」
ドクオさんの夢は、おそらく旅とかそういった類のどこかに行く事だった。
この辺りは、忘れているので曖昧らしいですが、その後にあった事は覚えているらしいので、そこからの推測とのことです。
ある日、その夢が叶うチャンスが訪れ、自分は旅立つつもりだった。
だが、しかし、それをペニサスさんに止められた。
部屋に閉じ込めるという物理的手段によって。
('A`) 「そして、ようやく部屋を出された俺が見たものは、目の前にいる俺を必死に探すあいつの姿さ」
姿は見えず、声は届かず、ドクオさんの夢は歪み、ペニサスさんはドクオさんを失った。
('A`) 「しばらくはそばにいたんだけどな。いつの間にか眠っちまっていた」
そして気付いた時は、別の場所にいたそうです。
('A`) 「まあ、色々あってこっちに戻って来た時には、あいつはちゃんと俺のいない生活を送っていたからな」
- 206 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:52:27.40 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「だから、今の様に少し離れた位置で見守っておられるのですか?」
('A`) 「別に、見守ってるとかじゃないさ。ただ、他に行くとこもないだけ、住み慣れたこの街にいるだけさ……」
(゚、゚トソン 「ペニサスさんは、今でもドクオさんのことを後悔されています」
('A`) 「……もう、何年、何十年も前だ。……そうだ、忘れろって伝えてくんね?」
(゚、゚トソン 「それはご自分でお伝えください」
(;'A`) 「出来ないから頼んでるんじゃねーか……」
もう1人、伝える事が出来た相手がこの街にいたのでは、と聞いてみると、そちらにも断られたそうです。
ただ、自分が夢をなくした事だけは伝わったようだ、とも。
音も立てずわずかに降り注ぐ雨が、私達の傘を撫でます。
黒い傘、白い傘、そしてもう1つ──
(゚、゚トソン 「ドクオさんの夢をご存知なのは、ペニサスさんだけなのですか?」
('A`) 「ああ、他には話してなかったはずだ。もっとも、俺の記憶はあまり当てにならんがな」
- 209 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:54:22.50 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「では、私がペニサスさんから聞いて、それをドクオさんにお伝えすれば、ドクオさんは夢を思い出し、
ペニサスさんがドクオさんを見えるようには──」
('A`) 「ならんだろうな」
(゚、゚トソン 「それは──」
('A`) 「誰かにこれがお前の夢だ、と言われた所で、俺自身がそれを思い出し、認めないことにはそれは自分の夢じゃない」
ドクオさんは再び冷めた平坦な調子で、しかし、はっきりとそう言い切られました。
どこにその根拠があるのかはわかりませんが、恐らく本当なのだろうというのは、ドクオさんの目を見ればわかります。
(-、-トソン 「ということは、ブーンにも当てずっぽうで言っても仕方ないのですね」
('A`) 「ああ、恐らくあいつ自身がそれを思い出さないとダメだろうな」
私は傘を閉じ、立ち上がりました。
雨はもう、間もなく上がると信じています。
('A`) 「ん? まだ、お前さん達の方の話が終わってな──」
私はドクオさんの言葉を制し、大きめに息を吸い込みます。
- 211 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:55:37.09 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「実は、ブーンも夢を忘れてるんですよ。私と会う前から」
(;'A`) 「おい、何だ急に? 俺はそのことは知ってるぞ?」
(゚、゚トソン 「ですから、私は、ブーンの夢を思い出させるつもりです」
(゚、゚トソン 「それが出来たら、きっとドクオさんの夢を思い出すヒントぐらいにはなると思うんですよ」
私は言葉を切り、その場でゆっくりと振り向きます。
(゚ー゚トソン 「どう思います?」
('、`*川 「……どうって言われてもねぇー、がんばれ? ぐらいしか言えないかな?」
私の視線の先には緑の、意外に可愛らしい傘をさしたペニサスさんが立っています。
もちろん、ペニサスさんがここにいるのは、私がこの場でドクオさんに会うことをお伝えしましたからです。
(;'A`) 「おい、どういうつもりで──」
(゚、゚トソン 「どうせペニサスさんからはドクオさんは見えないんですから、かまわないでしょう?」
何なら同時通訳でもしましょうか、という私の申し出を、ドクオさんは重々しい顔で首を振ってお答えされました。
- 216 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:57:13.54 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「そこにあいつがいるんだね」
(゚、゚トソン 「ええ、何なら──」
('、`*川 「いや、いいよ。今はトソンちゃんといっしょにいる子のお話なんでしょ?」
(゚、゚トソン 「いえ、どちらかと言えば、ペニサスさんとドクオさんのお話です」
私は、今ここで聞いた事、ドクオさんがペニサスさんを恨んでいない事、でも、引きずらないように忘れろと伝えたかった事、
ドクオさん自身も、夢を取り戻す努力をしている事、それらを全てペニサスさんにお伝えしました。
途中、とんでもなく渋い顔をしたドクオさんが目に入りましたが、敢えて無視しました。
伝えろと言ったのはご自分ですのに、随分とひどい顔ですよね?
('、`*川 「……そか。……ありがとう」
(゚、゚トソン 「それは何ですか?」
私は、素っ気無く見えるペニサスさんの心情を慮り、別の話題を振ってみます。
ペニサスさんの傘を持つ手とは反対の手に提げた袋を指差し、尋ねました。
ペニサスさんは、私を見て雨の様子に気付かれたのか、傘を閉じ袋を手渡しながら仰られます。
('、`*川 「コーヒーよ。外は寒いでしょうからね……」
- 220 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 22:59:11.66 ID:OF0EoTMp0
私はその意図を汲み、コーヒーを備え付けられていた紙コップに注ぎ、ドクオさんに手渡します。
ドクオさんは渋面のままでしたが、私が頭にかける素振りをすると、渋々と受け取られました。
('、`;川 「今、無理やり渡そうとしなかった?」
(^ー^トソン 「気のせいですよ」
私がにこやかにそう伝えると、ペニサスさんは何故か吹き出されました。
少々心外に思い、理由を尋ねると、ドクオさんが相変わらずの(扱いの)ようで安心したとの事です。
('A`) 「……美味いな」
(゚、゚トソン 「美味しいそうです」
('、`*川 「……当たり前よ」
私達3人は無言でコーヒーをすすりました。
いつの間にかドクオさんも傘をたたみ、立ち上がっていました。
しかし、視線は、ペニサスさんと同じ方向のままです。
- 224 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:01:25.33 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「……で、トソンちゃんはこんな場面を作り出しておいて何がしたかったんだ?」
(゚、゚トソン 「別に何も。2人をここで引き合わせた事でおしまいです」
('、`*川 「実際は会えてないんだけどね」
(゚、゚トソン 「そうですね。でも──」
私は、言葉を切り、ドクオさんの方へ目を向け、次いでペニサスさんの方を向きました。
2人共、無言で私の言葉の続きを待っておられるようです。
(-、-トソン 「でも、向かい合う事ぐらいは出来るんじゃないですか?」
('A`) 「「……向かい合う、か」」('、`*川
期せずして2人の言葉が綺麗に重なりました。
ペニサスさんはそれに気付く事はありませんが、ドクオさんは少しばつが悪そうに顔を背けました。
(゚、゚トソン 「ここから先は、お2人の問題です。私が口を挟んでいい物でもないのでしょう」
でも、2人がお互いに言葉を交わせない状態だから、私がその仲立ちをしただけです。
それが、お世話になった2人の助けになりたいと思う私の気持ちです。
- 227 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:02:54.92 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「見えなくても、離れていても、お2人はお互いを思っている。それがわかっただけでも、いいですよね?」
('、`*川 「……無茶苦茶ね。随分と乱暴だわ」
(゚ー゚トソン 「私は子供なので、空気も読めませんし、無茶もしますよ」
('A`) 「……どこが子供なんだかな。気ぃ使い過ぎだろが」
ドクオさんの気持ち、ペニサスさんの気持ち、その2つを知って何もせずに我慢していられるほど大人ではありません。
私は子供なのです。自分が正しいと思った事をやっただけです。
それが間違っているのなら、大人である、お2人が正してください。
(゚ー゚トソン 「でも、今2人は向かい合ってますよ」
('A`)「「……」」('、`*川
私が数歩下がる事によって、お2人の間に遮蔽物がなくなりました。
顔は見えますから、この際ベンチはカウントしないでおきます。
話している内にドクオさんはこちらに視線を向けており、ペニサスさんは最初から私の方を向いていました。
- 234 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:06:04.32 ID:OF0EoTMp0
('、`*川 「……帰るわね」
(゚、゚トソン 「はい、色々と失礼致しました」
('、`*川 「……いや、私は礼を言うべきなんだと思うわ。ありがとね、トソンちゃん。それと……」
('A`)「……」
('、`*川 「今更謝ってどうこうってつもりはないわ。でも、またあんたのその貧相な姿を見てやるわよ、絶対にね」
('A`) 「……」
('ー`*川 「またね、ドクオ……」
('A`) 「……貧相は余計だ、バカ。またな、ペニサス」
届くはずのないその声に答えるかの様に、振り向いて歩き始めたペニサスさんは、挙げた右手をひらひらと振って返されました。
・・・・
・・・
- 238 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:07:00.05 ID:OF0EoTMp0
雨はすっかり上がり、日の光さえ射しています。
もう間もなく沈む時間帯ではありますが、久しぶりのお目見えですね。
('A`) 「あー……何だ、多くは言わん。礼も言わん。ギブ&テイクだ」
ドクオさんはそう言って1枚の紙を差し出されました。
何の変哲もないメモ用紙ですが、それには住所らしきものが記載されていました。
('A`) 「例の荒巻ってやつの住所だ」
(゚、゚トソン 「!」
('A`) 「……いや、だった、かな?」
(゚、゚トソン 「どういうことですか?」
('A`) 「もうそこにはいないって事さ」
ドクオさんは再び顔を背け、面倒臭そうにそう言われました。
いないというのは引っ越されたのか、それとも──
- 241 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:08:18.83 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「ああ、死んでるよ」
件の人物、荒巻さんは1年以上前にお亡くなりのようでした。
元々、ご高齢の方でだったらしいので、恐らく老衰かご病気かではないかと。
それ以上詳しくはわからなかったそうなので、後は自分で調べるしかないみたいですね。
('A`) 「……生前、その荒巻ってやつは白い生き物の話もしていたらしい」
(-、-トソン 「そうですか。では、やはり──」
<「トーソーン!!!!」
(゚、゚トソン 「あの声は──」
ヾ(〃^ω^)ノシ 「やっぱりトソンだおー! 雨上がったお! 待っててくれたのかお! 晴れたお! お外で遊ぶお!」
(゚ー゚トソン 「もう来たのですか。早いですね。雨は上がったばかりですよ?」
(〃^ω^) 「お! ずっとお空見てたお! お日さまがこんにちはだお! お外行けるお!」
('A`) 「興奮し過ぎだろ……」
- 246 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:10:03.48 ID:OF0EoTMp0
(〃^ω^) 「お! ドクオ、おいすー! いっしょに遊ぶお!」
(゚、゚トソン 「ドクオさんは貧相ですから、ブーンといっしょに遊べるほど──」
('∀`) 「よし、いいだろう。たまには遊んでやるよ」
ヾ(〃^ω^)ノシ 「ホントかお! やったおー!」
(゚、゚;トソン 「よろしいのですか?」
('A`) 「まあ、たまにはな……」
ヾ(〃^ω^)ノシ 「お! ツン! ヒート! 2人とも来たのかお!」
ξ#゚听)ξ 「来たのか、じゃないでしょうが!? 何でいっしょにいたのに私を置いて行くのよ?」
ノハ*゚听) 「晴れたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
(゚、゚トソン 「一気に賑やかになりましたね」
('A`) 「お前さんの周りはいつも賑やかじゃないか」
- 248 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:11:13.25 ID:OF0EoTMp0
(゚ー゚トソン 「それもそうですが……」
ええ、私の回りは賑やかで、いつも幸せなのです。
ペニサスさんはそんな私の幸せを、半分しか見ることが出来ないと仰られていました。
(゚、゚トソン 「私は、ペニサスさんにもっと私の幸せを見せ付けたいです」
('A`) 「……ああ」
(゚ー゚トソン 「だから、ペニサスさんがブーン達を、そしてドクオさんを見る事が出来るようにしたいんです」
('A`) 「…………出来るかねぇ」
出来ますよ。きっとね。
そしてブーンの夢も、きっと見つかります。
(〃^ω^) 「じゃあ、鬼ごっこだお! 鬼はツンだお!」
ξ#゚听)ξ 「またアタシ!? つーか何でいつもいつも鬼はアタシなのよ?」
('A`) 「まあ、鬼だしな」
ξ#^ー^)ξ
- 253 : ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:12:05.51 ID:OF0EoTMp0
:(゚A(#): アババババ……
ノハ*゚听) 「鬼が暴れだしたぞぉぉぉぉ!」
ヾ(〃^ω^)ノシ 「逃げるおー!」
ξ#゚听)ξ 「待てや、コラァー!!!」
(〃^ω^)つ 「お! トソンも逃げるお! つかまると“ですとろい”だお!」
⊂(゚、゚;トソン 「よくわかりませんが、怖そうな響きですね……」
私達は広がる青空の下、手を取り合って走り出します。
柔らかく、暖かな手の感触は、出会った時からずっと変わる事がありません。
その手はきっと、明日も掴んでくれると信じています。
( A ) 三ξ#゚听)ξ 三(〃^ω^)(゚ー゚トソン 三ヽノハ*゚听)ノ
− 第二十二章 二人と私と歪んだ夢 おしまい −
− 夢は次章へつづきます −
- 262 :??? ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:14:06.52 ID:OF0EoTMp0
< K県鎌倉市 >
(゚、゚トソン 「おはようございます。トソ(ン)と旅するのお時間がやってまいりました」
(゚、゚トソン 「本日旅する場所はこちら、K県鎌倉市、情緒溢れる歴史深い建造物が多々ある、古都の趣を色濃く残した街です」
(゚、゚トソン 「早速行ってみましょう」
< K県鎌倉市 八幡宮 >
(゚、゚トソン 「まずはこちら、有名なT八幡宮です」
(゚、゚トソン 「何が有名かあんまり覚えてませんが、取り敢えず境内にリスがいます」
(゚、゚トソン 「……あ、カンペによると、源氏の氏神として尊崇されてたみたいです」
(゚、゚トソン 「まあ、そんなことよりもリスがかわいいです」
(゚、゚トソン 「手渡しでエサあげられます。あげていいのかわかりませんが、結構太ってますね」
(゚、゚トソン 「……はいはい、わかってますよ、リポートね、リポート」
- 263 :??? ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:14:45.66 ID:OF0EoTMp0
(゚、゚トソン 「色々と法事とかにも使われたりするんじゃないですか?」
(゚、゚*トソン 「あ、リス寄って来ましたねー」
・・・・
・・・
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
dζ(´ー`*ζ 「──って夢見たんだー」
(゚、゚;トソン 「えーと……はい?」
つ^ω^)
ζ(´ー`*ζ 「だから、トソンちゃんが旅番組のリポーターで、鎌倉行くの」
(゚、゚;トソン 「いや、夢の中身はわかったんですが、何故そんな夢を?」
ξ;゚听)ξ 「しかもやたらとリス推しの謎のリポート……」
(〃^ω^) 「リスさんかわいいお!」
- 265 :??? ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:15:19.46 ID:OF0EoTMp0
ζ(-へ-*ζ 「夢だからねー。何でそんなんだったかわかんないよ」
(゚、゚;トソン 「相変わらずデレはそれをテレビで見てたのですか?」
ζ(´ー`*ζ 「そうだよー。まあ、多分あれだよ、お題?」
ξ;゚听)ξ 「そうだけど、ぶっちゃけ過ぎでしょうが」
(゚、゚;トソン 「そんなのありましたっけ?」
dζ(´ー`*ζ 「鎌倉とトソンの法要ってのがあったよ」
(゚、゚;トソン 「……法要ではなく抱擁です」
ζ(´д`;ζ 「あれ?」
_, ,_
(-、-;トソン 「プール以来のひどい投げやりですね……」
(〃^ω^) 「鎌倉行ってみたいお!」
− 鎌倉とトソンの抱擁 おしまい −
- 266 :('A`)の年越し ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:15:58.34 ID:OF0EoTMp0
< 大晦日 公園 >
('A`) 「また1年が終わるな……」
('A`) 「……大晦日か」
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
< ペニサス宅 ○○年前 >
('、`*リル 「ドクオ、鐘撞き行くぞ、鐘!」
('A`) 「マンドクセ」
('、`*リル
(メ;A;) 「うわーい、鐘撞き♪ 鐘撞き♪ 嬉しいなぁ〜」
('、`*リル 「でしょー? ほら、さっさと用意しなさいな」
- 272 :('A`)の年越し ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:18:45.22 ID:OF0EoTMp0
(;'A`) 「つーか、よくこの寒い中、夜中に外を出歩く気になるよな
('、`*リル 「このくらい寒い内に入んないわ。日本人なら大晦日のイベントぐらいちゃんとこなしなさいよ」
('A`) 「日本人ね……。俺は人じゃねーとは思うが……」
('、`*リル 「まあ、東南アジア系よね、見た目は。寒さに弱いのも仕方ないか」
(;'A`) 「それ、どういう意味?」
('、`*リル 「いいからさっさと行くわよ? ほら、手袋貸してあげるから」
(;'A`) 「これ、軍手じゃねーか……」
('、`*リル 「手袋には変わりないでしょうが」
(;'A`) 「まあ、そうだけど……デカいな」
('、`*リル 「ありゃ、ホントだ。まあ、今日はそれで我慢しなさい。来年、子供用買ってあげるからさ」
- 273 :('A`)の年越し ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:19:37.49 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「……来年ね。素直に明日って言えよな」
('、`*リル 「ん? 何か言った?」
('A`) 「何も言ってねーよ。ほら、行くぜ?」
('、`*リル 「何よ、急に張り切っちゃって? 待ちなさいよ」
・・・・
・・・
─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─※─
('A`) 「……来年が翌年のクリスマスのことだとは思いませんでした」
('A`) 「……滅茶苦茶だったよな、あいつ」
('A`) 「……」
('A`) 「……日本人らしく、イベントにでも参加してみますかね」
・・・・
・・・
- 277 :('A`)の年越し ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:21:18.54 ID:OF0EoTMp0
< 智維斎寺 >
ゴーン!
('A`) 「お、やってる、やってる。……まあ、当たり前だが」
('A`) 「ここも変わらんな。相変わらず寂れてる」
<「おー! ゴーンってすごい音がしたお!」
<「面白かったぞぉぉぉぉ!」
<「うし、次は神社──」
('A`) 「ん? 今の声は……あいつらか」
('A`) 「あいつらもこことは……。見つかると色々と面倒そうだから隠れとくかね」
(;'A`) 「てか、いい加減誰かドクオちゃんをどうにかしてくれ……」
ω・`) 「……」
・・・・
・・・
- 280 :('A`)の年越し ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:22:34.37 ID:OF0EoTMp0
< 智維斎寺 社裏手の森 >
('A`) 「ここなら誰も来ないだろ」
('A`) 「やれやれ……」
('A`) 「……」
('A`) 「寒いな……」
('A`) 「寒いのは毎年のことじゃねーか」
('A`) 「……」
('A`) 「寒いな……」
('A`) 「……うん、寒い」
('A`) 「……」
('A`) 「……あいつは、来たのかな」
ガサガサ……
- 286 :('A`)の年越し ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:27:06.35 ID:OF0EoTMp0
(;'A`) 「!?」
(;'A`) 「隠れるか……」
ガサガサ……
(;'A`) (誰だよ……)
ガサガサ、ガサガサ……
(;'A`) (…………ひょっとして──)
ガサガサ
(´・ω・`)
(;'A`) (あいつは……ショボンじゃねーか)
(´・ω・`) 「ふう……やれやれ」
(;'A`) (何でこんな所に)
- 288 :('A`)の年越し→ドクオとショボン…時々ペニサス ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:28:12.09 ID:OF0EoTMp0
(´・ω・`) 「あれ? おかしいな……確かに見かけた気がしたんだけどね」
(;'A`) (……あいつ、ひょっとして俺を探してるのか?)
(´・ω・`) 「うーん、いない……ガサ……ん?」
(;'A`) (やべ!? バレたか?)
(´・ω・`) 「あれ? こっちから音がしたような……?」
(´・ω・`) 「…………」
(;'A`) (頼む……! こっちを見るな……!)
(´・ω・`) 「…………」
(;'A`)(こっち見るな……! こっち見るな……!!)
(´・ω・) 「…………」
(・ω・`) 「…………」
- 292 :ドクオとショボン…時々ペニサス ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:29:27.29 ID:OF0EoTMp0
(;'A`) (頼むから、こっちを見ないでくれ)
(´・ω・) 「…………」
(・ω・`) 「…………」
(´・ω・) 「…………」
(・ω・`) 「…………」
(´・ω・) 「…………」
(´・ω・`)
((((;゚A゚))) 「うわあぁ──」
(´・ω・`) 「あれ? 気のせいかな」
(;'A`) 「ぁぁ──って、あれ?」
(´・ω・`) 「まあ、いいか」
(;'A`) (ん? 何を置いたんだ?)
- 294 :ドクオとショボン…時々ペニサス ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:30:11.65 ID:OF0EoTMp0
(;'A`) (……てか、俺、何で必死に隠れてたんだろ? 別にショボンに見つかっても何もないんだが……)
(´・ω・`) 「……あー、これは独り言なんだけど」
('A`) 「……」
(´・ω・`) 「このお餅は僕とペニちゃんが搗いたんだ。こっちのお菓子は、ペニちゃんが作ったお店用の試作品」
(´・ω・`) 「この森には有り難い神様がいそうな雰囲気だから、これはお供えとして置いておくかな……」
(´・ω・`) 「じゃあ、僕はこれで………………また、君達がいっしょにいられる日は……くるよね」
ザッザッザ……
('A`) 「……随分とデカい独り言だ事で」
('A`) 「全く……」
('A`) 「ここは寺だろうが。神様ってなんだよ……」
- 299 :ドクオとショボン…時々ペニサス ◆xJGXGruetE:2009/01/19(月) 23:32:09.65 ID:OF0EoTMp0
('A`) 「餅か……」
('A`) 「……美味いな」
('A`) 「……また、いっしょに……か」
('A`) 「……さあね。明日は明日の風が吹くさ。俺にはわからんよ」
('A`) 「だがショボン、……ありがとよ」
('A`) 「……そして」
('∀`) 「何だこりゃ? 随分、洒落たもん作るようになったんだな……」
('A`) 「……まあ、頂いとくよ」
('∀`) 「いつか、礼は言いに行くさ……。いつか……な──パク」
;;(;゚A゚);;
− ('A`)の年越し&ドクオとショボン…時々ペニサス おしまい −
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