3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:11:52.38 ID:XCiMpF5lO
 
 ダイ5ワ セカイ ノ ムコウ ニ アル セカイ
 
 
世界は闇に包まれた。
 
単に自分が目を瞑っていただけだと気付くのにさほど時間はかからなかった。
 
永遠に続くとも一瞬で終わるとも感じられる浮遊感。
私は、閉じられていた目蓋をゆっくりと上げた。
瞳に映るのは、何とも形容のし難い歪み。
 
震える、揺れる、回る。
 
私なのか世界なのか。
私が見ている世界なのか、世界が見ている私なのか。
 
考える事が全て外に漏れ出す様な、それとも外から考えを押し付けられているのか。
主体は私、それとも世界か。
 
目まぐるしく緩やかに変化する世界を前に、私はただただ流される。
 
飛び込んだはずだった。
落ちて行くイメージはあった。
 


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:14:42.10 ID:XCiMpF5lO
 
私は何処へ向かっているのかわからない。
私は何処へ向かっていたのだろう?
 
混じる。
 
私と世界。
 
世界と私。
 
私は──
 
世界は──
 
程なくして、真っ白い何かが全てを覆った。
 
それが光と呼ばれるそれだという事に安堵した。
 
 
私は、次元の裂け目を潜り抜けた。
 
 
川 - -) 「……う」
 

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:17:39.44 ID:XCiMpF5lO
 
時間や空間、思考に感覚、その他諸々が全て認識出来なくなったり、全て溶け合った様な時が過ぎた。
あれを人の言葉で表すのは到底無理そうで、そう何度も味わいたい感覚ではない。
下手をすれば自分もあの一部になりそうな気がした。
 
川 - -) 「……着いた……のか?」
 
棒を突っ込まれてぐるぐると掻き回された様な頭が段々と鮮明になる。
歪んでいた世界の継ぎ目をどうやら無事に抜けられたらしい。
履いたスニーカー越しに地面を、開いたフードの前面に風を感じ、私はゆっくりと目を開く。
 
川 ゚ -゚)
 
そこは一面緑の世界だった。
  _,
川 ゚ -゚) 「ええー?」
 
私は思わず眉をひそめ、何とも言い様のない呻きを洩らしてしまった。
この光景は予想していなかった。
 
これまでの話を聞く限りでは、向こう側、いや、もうこちら側になっているので、混同を避けるためにAA界と呼ぶことにするが、
かなり技術の発達した世界だと思い込んでいた。
 

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:20:15.51 ID:XCiMpF5lO
 
川 ゚ -゚) 「しかしこれはどう見ても……」
 
田舎と言うか未発達な世界に見える。
しかし田畑はなく、山なども見えず、樹木もない。
あるのは背の低い草、牧草地とも言うべき草原が広がっている。
 
川 ゚ -゚) 「いや、そう決め付けるのは早計だな」
 
ここは牧場、もしくは単に未開な部分なだけかもしれない。
先に進めば都市部があり、高度な技術の粋を集めた巨大な建造物があるのかもしれない。
ただ、この場で180度周りを見回しても、そんな陰は見当たらないので、あるなら相当遠くにあるのだろうが。
 
川 ゚ -゚) 「それはそれとして……」
 
前方に広がる草原。
右方、左方、そして後方も次元の裂け目がある以外は同じ様に草原が広がっている。
 
川 ゚ -゚) 「……どうすればいいんだ?」
 
草原以外見事に何もない場所だ。
どこへ向かえば良いのか皆目見当も付かない。
 

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:23:17.54 ID:XCiMpF5lO
 
川 ゚ -゚) 「またこれに飛び込むわけにも行かんしな……」
 
現在唯一目に付く草以外のオブジェクトは、私が通ってきたこの次元の裂け目だけだ。
空には太陽も雲もあるが、行き先に指定できないそれらは除外した。
 
川 ゚ -゚) 「聞いてはいたが、本当に元の世界と変わらんな」
 
空があり、地面があり、空気がある。
多少気圧が低く、元の世界でいう高地に近い状態らしいが、基本的な部分は温暖湿潤気候といった所のようだ。
 
ただ、空に浮かぶあれが太陽だとすると、色々と矛盾が出て来はするのだが。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、今はそんな事より……そういえば……」
 
じいちゃんの日記を調べれば、どうするべきかわかるかもしれないと思ったが、その前にミルナから渡された手紙があった。
何でも、じいちゃんが次にAA界に向かう人の為に記したらしい。
こちらに来て判断に迷ったら開けろと言い添えられていた。
 
川 ゚ -゚) 「これだな」
 
大切に保管されていたのか、数年を経たはずの封筒は綺麗な白を保っていた。
私は、糊付けされた口を丁寧に開き、書面を取り出す。
 

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:25:18.44 ID:XCiMpF5lO
  _,
川 ゚ -゚) 「……開く前にオチが見えた気がする」
 
畳まれた便箋は、裏からでも毛筆で書かれた太い文字が判別できる。
一部だけであるが、文字の大きさ等も考慮に含めて、それとなく察する事が出来た。
 
川 ゚ -゚) 「突き進め……うん、大体予想通りだな」
 
お得意の精神論に則った一言が記されていた便箋を、無造作に封筒に戻し、バッグに押し込んだ。
ミルナはこの内容をわかってて渡したのだろうかと考えるも、多分知らなかったのだろうと結論付けた。
 
彼の合理的な性格なら、知っていたら言伝ていたような気もする。
携行制限があるこの状況に、無駄と判断できる物は挟まないだろう。
 
川 ゚ -゚) 「さて、本格的にどうするか迷うな」
 
何にせよ、ただここに突っ立ていても仕方がないだろう。
日記の方は見ても無駄だとしか思えないので、後で暇な時にでも眺める事にする。
 
考え込むうちに無意識に胸に当てた手に固い感触を感じ、すぐにそれが何かを思い出し、イヤリングを左耳に付けてみた。
 
私は、再び周りに視線を巡らせる。
 

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:28:08.10 ID:XCiMpF5lO
 
川 ゚ -゚) 「右……東かな、太陽的に……何もなし。北……西……ん?」
 
左手の方に、先程見た時には気付かなかったが何やら細いシルエットが見える。
棒の様にもしか見えないが、ひょっとしたら看板か何かかもしれない。
 
しかし、先程見た時には何もなかった様な気もしたのだが、他に当ても見当たらないのでそちらに向かう事にする。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、見落としでもしたんだろう」
 
次元の裂け目を抜ける際に、何やらぐるぐる回ったしな。
頭の中がまだ攪拌されてる様な、すっきりしない心持だ。
 
私は、便宜上西の方角であろう方向に歩く。
元の世界と同じ様な春の穏やかな気候で、散歩には丁度良い気温だ。
 
川 ゚ -゚) 「……ん? 看板……じゃないのか?」
 
近付くに連れ、シルエットから塗装されたオブジェクトに移行すると、どうやらそれは期待とは違うものらしい事がわかった。
 

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:31:08.31 ID:XCiMpF5lO
 
 (><)
.⊂(  )⊃
(<●><●>)
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
  _,
川 ゚ -゚) 「何だこれは?」
 
辿り着いた先で見たものは、何と言えば良いのかわからない、不思議なオブジェクトだった。
一見、木製ともプラスチック製ともつかない、何やら人形のようなものを組み合わせたような柱。
目が細かったり大きかったり小さかったり、少なくとも、人間を模してるとは思えない形だ。
 
これに一番近いものを記憶の中から探り出してみると、導き出された答えは……
  _,
川 ゚ -゚) 「トーテムポール?」
 
そう、ネイティブアメリカンのあれだ。
そんな感じの構成の様だが、ここには起源を表したいような家は無く、広がるは草原ばかりだ。
道案内はしてもらえそうもない。
 

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:33:27.40 ID:XCiMpF5lO
 
川 ゚ -゚) 「期待外れだったか……ん?」
 
 (><)σ
.⊂(  ) ノ
(<●><●>)
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
川 ゚ -゚) 「あれ?」
 
よくよく目を凝らしてみると、トーテムポールの一番上の人形が北の方を指している。
 
川 ゚ -゚) 「……その方角へ進めという事か?」
 
問うても答えが返らない事はわかってはいるが、私は思わず呟いていた。
どうするべきか考えるも、現状は何処へ向かう当てもないのだ。
迷う必要もないのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、行ってみるしかないか」
 
私はトーテムポールの指差した方向へ向かう事にした。
 
・・・・
・・・

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:36:14.99 ID:XCiMpF5lO
 
ヽ(><)
.  (  )⊃
(<●><●>)
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
 
川 ゚ -゚) 「……こっちか」
 
・・・・
・・・
 
 (><)
.  (σ )σ
(<●><●>)
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
 
川 ゚ -゚) 「次はこっちと……」
 
・・・・
・・・

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:39:05.29 ID:XCiMpF5lO
 
 (><)σ
.⊂(  ) ノ
(<●><●>)
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
 
川 ゚ -゚) 「で、こっちと……」
 
行く先々に立っているトーテムポールに従い、その方角に突き進む。
奇しくも、じいちゃんの手紙通りになっている気もするが、多分偶然だろう。
 
景色は相変わらず草原以外何もない、殺風景な世界だ。
この奇妙なトーテムポールが唯一の人工物に思える。
 
一体誰が建てたのかは謎だが、何にせよ、案内標識の代わりに建てたのだろう。
まあ、これが本当に道案内代わりとは限らないのだが。
 
最終的に、ぐるっと回らされただけでしたというオチが待っていないとは言い切れない。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、あの次元の裂け目が見えでもしたら、この柱はへし折るがな」


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:42:08.46 ID:XCiMpF5lO
 
兎に角、出来れば日が落ちる前に誰かしらAA界の人間と接触したい。私は外交交渉に来ているのだ。
既に外交のイメージとはかなり遠ざかったスケジュールで進行しているが、何にせよ、人と会わないことには始まらない。
それが未知との接触だとしても、話の出来る相手を探さねばどうにも話が進まない。
 
川 ゚ -゚) 「さて行く……ん?」
 
.(;><)σ
.⊂(  ) ノ
(<●><●>)
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
 
ふとトーテムポールを見上げると、一番上の顔らしき部分に薄っすらと水滴が滲んでいる。
 
川 ゚ -゚) 「雨でも降ったのか?」
 
そうであれば厄介だ。
携行品の中に雨具はあっただろうか。
 
川 ゚ -゚) 「少し歩を早めるか……」
 
私は、またトーテムポールの指す方へ早足で歩き出した。
 
・・・・
・・・

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:45:03.92 ID:XCiMpF5lO
  _,
川 ゚ -゚) 「……ん?」
 
今までよりは幾分長い距離を歩くも、次のトーテムポールは見付からない。
それで少しばかり不安に駆られて後ろを振り返ってみると、そこにはトーテムポールが建っていた。
 
ヽ(;><)
.  (  )⊃
(;<●><●>)
 (⊃ ⊂)
.(;*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
 
川 ゚ -゚) 「あれ? 見落としてたか?」
 
私は不審に思うも、目下の所唯一の指針であるトーテムポールまで逆戻りする。
さほどの距離を空けずに気付けて幸いだが、もう少し気を付けて進むべきだろう。
 
川 ゚ -゚) 「やっぱり雨が……?」
 
そのトーテムポールに近寄ってみると、1つ前と同じ様に、一番上の人形の顔らしきものに水滴が付いている。
1つ前と違うのは、2つ目、3つ目の人形にも同じく水滴が浮かんでいた事だ。
 

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:47:18.05 ID:XCiMpF5lO
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
雨だとしたら、先程よりは自然な光景かもしれない。
一番上だけではなく、全体的に湿っているのだから。
 
だがしかし、周りの草には何の水気も感じられない。
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
私は無言でトーテムポールに触れてみた。
硬質な手触りで、中身は意外と詰まっているのかずっしりとした手応えがある。
 
ヽ(;><)
 
川 ゚ -゚) 「……まあ良いか」
 
私は一言呟き、トーテムポールから離れ、その指が指す方向へ向かおうとした。
 
川 ゚ -゚) 「ん? そっちだとさっきの場所に戻らないか?」
 

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:50:15.22 ID:XCiMpF5lO
 
.(;><)σ サッ
.⊂(  ) ノ
(<●><●>) !
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *) !
. (   )
.  v v    
 
 
川 ゚ -゚) 「……ほう」
 
(;><)σ 「あれ?」
 
何気なく投げかけた私の言葉に、一番上の人形が反応した。
反対の手を挙げ、別の方向を指差すが、その方向がさっきまでいた方向だ。
 
( <●><●>) 「引っ掛けられたのはわかってます」
 
(*‘ω‘ *) 「アホぽっぽ」
 サッ
ヽ(;><) 「!」
 

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:53:08.52 ID:XCiMpF5lO
 
川 ゚ -゚) 「なるほど、ずっと君達が先回りしていたのか」
 
ヽ(;><)
.  (  )⊃
(;<●><●>)
 (⊃ ⊂)
.(;*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
  _,
川 ゚ -゚) 「もう種は割れてるんだ。どういうつもりか説明してもらおうか?」
 
私はトーテムポールの方へ歩み寄る。
どういう意図なのかはわからないが、どうやら私は遊ばれていたらしい。
 
何の事はない、未知との接触は既に果たしていたようだ。
 
川 ゚ -゚) 「さて、まずは君達が何なのか──」
 

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:56:16.49 ID:XCiMpF5lO
 
(;><) ニゲルンデス!
.⊂(  )⊃
(<●><●>) ヤレヤレ…
⊂(    )⊃
..(*‘ω‘ *) ポ!
. (   )
.  v v    ぼいんっ
 
   川
 ( (  ) )
 
  _,
川 ゚ -゚) 「おい!? コラ、待て!」
 
トーテムポールは脱兎と言うに相応しい跳ねっぷりで逃げ出した。
追い掛けようにも速過ぎて既に影も形もなく、早々に諦めるしかない状況だ。
私は、大きくため息を吐き、草原に腰を下ろした。
 
川 ゚ -゚) 「参ったな……」
 

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/01(金) 23:59:05.87 ID:XCiMpF5lO
 
時間にして2時間程、結構な距離を歩いた。
一応、曲がった方向と大体の歩数はメモしてあるから、ここから次元の裂け目に戻る事も可能だが、それも少々癪に障る。
 
川 ゚ -゚) 「どうするかな……」
 
そのまま身体を倒し、地面に横になってみた。
草に覆われた地面に、石らしき感触はなく、中々寝心地が良い。
気温がこれ以上下がらないのであれば、こうやって野宿する事も可能だろう。
 
川 - -) 「そういうわけにもいかんがな」
 
ここは未知の場所だ。
どんな危険があるのかわからない場所で、そんな迂闊な事は出来ない。
早めに話の通じる相手を探さなければならない。
 
川 - -) 「まあ、あれにも話は通じていたみたいだが」
 
私は左耳のイヤリングに手を伸ばし、弄ってみる。
一応役割は果たしてくれているらしい。
次元の裂け目を抜ける時に壊れでもしたらどうしようかと思っていたが、それは杞憂に終わった様だ。
 

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:01:25.42 ID:2LVxqCMZO
 
川 ゚ -゚) 「はあ……」
 
また1つ、大きなため息を吐き、目を開けた。
目を凝らして見ても、この空は元の世界の空と何らか変わる所のない、澄んだ青だ。
 
川 ゚ -゚) 「段取り悪過ぎだな」
 
赴いたこちら側の不手際か出迎えた相手側の不手際か、張り切って外交の場に出向いた物の、未だ進展がある所か交渉相手にすら出会えない始末。
日々を無為に過ごす焦燥感に囚われながらしがみ付いていた外務省に、ようやくそれらしい仕事が回って来たらこの体たらくだ。
 
川 ゚ -゚) 「……なるほど、私は浮かれていたのかもしれんな」
 
現状を分析して気付く事が1つ。
我ながら迂闊過ぎるとは思っていたが、この仕事を受けたのも、その日の内に次元の裂け目に飛び込んだのも、結局そういう事だったのだろう。
 
昔じいちゃんが語ったあの場所を知るチャンスに、子供のようにはしゃいでいただけだ。
 
川 - -) 「やれやれ……我ながら間抜けな話だ」
 
過ぎた事を悔やんでいても仕方がない。
今は私がここにいるという現実を考えなければならない。
 

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:04:01.87 ID:2LVxqCMZO
 
川 ゚ -゚) 「まあ、まだ何もしていないしな」
 
何故か反省モードになってしまっていたが、まだ成果も上げていなければ失敗もしていないのだ。
私は勢いよく立ち上がり、背の草を払う。
 
そしてそのまま歩き出す。
方角は最後にあのトーテムポールが指していた方向。
どうせここまで乗せられたのだ。最後まで乗せられてみようと思う。
 
川 ゚ -゚) 「と言っても、もういないから直進するしかないのだがな……」
 
日はまだ高い。
元の世界を出たのが昼過ぎ頃だったが、感じとしては丁度真昼頃のぐらいに感じられる。
時計は正常に動いてはいるが、両方の世界で時間は完全に同期しているわけではないのかもしれない。
単に出現位置と時差の問題かもしれないが。
 
川 ゚ -゚) 「そう言えば元の世界との位置関係はよくわかってないよな」
 
何と言っても次元を越えているのだ。
どういう位置関係なのか見当もつかない。
所謂、平行世界なのか、それとも別の星なのか。
 

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:07:03.02 ID:2LVxqCMZO
 
川 ゚ -゚) 「ん? これは……」
 
しばらく歩くと、不自然に草が倒された場所があった。
どうやら何らかの記号を模していると思われるが、これは……
 
川 ゚ -゚) 「矢印?」
 
アルファベットのEかTの書き損じに見えなくも無いが、不恰好ながらも矢印と認識する事も可能だ。
そしてその矢印は、現在の進行方向からわずかに左を指している。
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
私はその矢印に従い、進路を左にずらした。
一番考えられるのは、先程のトーテムポールの仕業なのだが、そこにあるものが悪意か善意かはわかっていない。
先程は遊ばれたような事を言ってしまったが、よく考えなくても彼らの動機は不明なのだから、必ずしもそうだとは限らないのだ。
 
もちろん、最悪の場合も考えて行動する必要はあるが、今は他にアクションを仕掛けて来る相手もいない。
乗りかかった船、とは少し意味合いが違う気もするが、他に指針もない。乗ってみるのも一興だ。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、じいちゃんの事を鑑みれば、そう酷いおもてなしを受ける覚えもないしな」
 
友好的な相手だから、こうやって武器も持たずに1人で赴いているのだろうし。
 

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:10:12.61 ID:2LVxqCMZO
 
ここでうだうだと迷っていても仕方がない。
最悪の事は、またその時になったら考えよう。
私はその後、草の矢印に導かれるままに歩みを進めた。
 
・・・・
・・・
 
それからまた2時間ほど、私は歩き続けた。
元の世界の時間なら既に日は落ちて掛けている頃だろうが、未だ空は明るい。
 
途中から矢印は消えた。
大体30分ほど前、前方遠くに山らしきシルエットが見えてから、その方向に向かう矢印が示されて以降は見当たらない。
これまで、10ないし15分程度で次の矢印が見つかっていた事を考えると、目的地はあの山だと推測するのが正しそうではある。
 
ようやく見つけた空と草原、トーテムポール以外の景色だ。
矢印がなくてもあれに向かったのではないかと思う。
そのくらい何もない、単調な世界に辟易して来ていた。
 
川 ゚ -゚) 「何も考えすに散策する分には良いのだがな……」
 
澄んだ青空に澄んだ空気。
元来は田舎者の私には気持ちの良い世界ではあるが、やはりここは未開の地なのかと思わざるを得ない。
 

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:13:33.51 ID:2LVxqCMZO
 
そんな事を考えながら歩き続けるも、前方の山にはまだ辿り着かない。
裾野はさほど広くは無いが、その割には高さはかなりの物だ。
よくよく見ると、随分とバランスの悪い山のようだ。
 
川 ゚ -゚) 「人工的な物の可能性もあるか」
 
何であれ、目指す方向は変わらない。
ここまで4時間以上歩いたのだ。
ようやく訪れた変化を見過ごすわけにはいかない。
 
川 ゚ -゚) 「山だろうが何だろうが、登れと言われれば登ってやるさ」
 
山を登るのに理由は要らない。
そこに山があるから、かの偉大な登山家……誰かは知らん、は、そう言いました。
 
理由など、後から付いて来るもんだ。
 
下を見るな、上を見上げろ。兎に角突き進め、ゴー、ストレイト。
 
等と疲れから来るおかしなテンションに任せて、無駄に発破を掛けながら歩いていたら足元が疎かになっていた。
 

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:16:02.85 ID:2LVxqCMZO
 
川 ゚ -゚) 「あ……」
 
从 д 从 「むぎゅう!?」
 
何か柔らかい物を踏んだ。
草ではない、土でもない何か。
踏んだら音がした事から、何かしら生物なのかもしれない。
もしそうならば、ファーストコンタクトとしては最悪の部類だろう。
 
いや、待て、虫とかそういった類ならば、潰した所でさしたる問題ではない。
踏めるような足元にいたのだ。むしろその可能性が高いのではないか。
 
从;'ー'从 「あーのー、出来れば足を退けてもらえると助かるんだけどー」
 
川 ゚ -゚) 「む? ああ、すまない」
 
このまま踏み躙るか迷っていると、足元から間延びした声が届く。
私は足を退け、倒れている何かに手を伸ばし、引き起こした。
 
从;'ー'从 「ごめんねー」
 
川 ゚ -゚) 「いや、謝罪をするならこちらの方だろう。踏んでしまってすまなかった」
 

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:19:50.42 ID:2LVxqCMZO
 
引き起こした物体は、自分から謝罪の意を示してきた。
こんな所で横になって空を見ていた自分が悪いのだと主張するが、それを言うなら道路でもないこんな所を歩いてた私も悪い。
 
从'ー'从 「アハハ、じゃあ、お互い様だねー」
 
川 ゚ -゚) 「そんな所だな」
 
表面上は応じつつも、私は素早く相手を観察していた。
ようやく見つけた話の通じる人間だが、これを私の知っている人間と同じ様に考えて良いものかはまだわからない。
 
少なくとも、外見上は普通の女性にしか見えない。
年の頃は私と大差なく、私よりは少し小柄だ。
 
先程のやり取りから察すると、理性と知性、それに礼儀といったこちらでいう常識的な事は弁えている様にも見える。
それだけで結論を出すわけにはいかないが、ここで情報を得るべくアプローチを仕掛けない手はない。
 
川 ゚ -゚) 「すまないついでに少々聞きたい事がある」
 
从'ー'从 「はい?」
 
川 ゚ -゚) 「この世界の政府、中枢機能がある街がどこにあるか知らないか?」
 

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:22:08.54 ID:2LVxqCMZO
 
从'ー'从 「せいふ? ちゅうすうきのー?」
 
川 ゚ -゚) 「こちらの世界の偉い人がいる場所だ。知らないか?」
 
从'ー'从 「えらい人……こちらのセカイ……」
 
私の言葉をそのまま呟き、考え込む目の前の彼女。
先のトーテムポールに比べると、やはり普通の人間と大差なく見える。
物ではなく、人扱いするべきだろうと考え直した矢先に彼女からの反応があった。
 
从'ー'从 「ひょっとして、向こう側の世界の人?」
 
川;゚ -゚) 「!」
 
どうやら当たりを引き当てたらしい。
4時間の道行は無駄足とならずに済みそうだ。
私は湧き上がる興奮を押し殺す様に努め、彼女の言葉を肯定し、矢継ぎ早に質問を繰り出そうとする。
 
川 ゚ -゚) 「そうです、こちらで言う所の、向こう側の人間ですね。早速ですが、質問が──」
 
从'ー'从 「そうなんだー!? 良かったぁー」
 

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:24:18.71 ID:2LVxqCMZO
 
川 ゚ -゚) 「良かった?」
 
彼女が言うには、彼女が向こう側の世界から来る人、つまりは私を迎えに行く役割を担っていたらしい。
となるとやはり、ここで出会えた事は僥倖と言える。
 
だがしかし、多少引っかかる点もある。
彼女は迎えに来ずに、こんな所に寝転がっていたのだから。
 
从;'ー'从 「その、私が行くと途中で迷いそうだったんで……」
 
自分では辿り着けない可能性も考慮して、代わりの者に迎えに行ってくれる様頼んだらしいのだが……
  _,
川 ゚ -゚) 「それはその、トーテムポール的なアレか? 顔が3つの」
 
从'ー'从 「とーてむ?」
 
私がその特徴を詳しく説明すると、それだと彼女から肯定の意見を引き出せた。
いくつかの会話でわかったのは、このイヤリングは、通訳としての機能は十分に果たしてくれているが、あまり一般的ないし、
生活からかけ離れた固有名詞は辞書に未登録なのか、翻訳されない様だ。
 
それはそれとして、あのトーテムポールには少し悪い事をしたな。
向こうの案内の仕方も少々不可解だったが、結果的にはここまで案内してくれたのだ。感謝して然るべきだろう。
次に見かけたら、礼の1つでも述べなければ。
 

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:27:28.84 ID:2LVxqCMZO
 
川 ゚ -゚) 「なるほどな……。しかしその、君は──」
 
そこまで話して、私は重大な事を失念しているのに気付いた。
私はバッグのポケットから名刺を1枚取り出し、彼女に手渡した。
 
川 ゚ -゚) 「申し遅れた。私は外務省特務大使の素直クールだ」
 
彼女は受け取った名刺をしげしげと眺め、黙り込む。
そういえばこちらの文字は読めるのだろうか。
その辺りを考慮せず名刺を渡す意味はあったか疑問だが、言葉が通じているのだから読めなくても支障はない。
これは形式的なものだと割り切る事にする。
 
ちなみに、名刺は出立前にモララーから手渡された。
事前に用意していたらしい。
 
肩書きを見て、少しだけあの馬鹿に対する好感度が上がった気がしなくもない。
数値で表すとまだマイナスだが。
 
从'ー'从 「えっと、クールさん?」
 
川 ゚ -゚) 「プライベートならクーで良いよ。皆からはそう呼ばれている」
 
从'ー'从 「あ、うん、クーちゃん。私はえっと、Wild and tactlessness animal natural aggressive back eccentricity──」
 

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:30:01.99 ID:2LVxqCMZO
.  _,
川;゚ -゚) 「わい──? ちょ、ちょっと待ってくれ、翻訳機の調子が……?」
 
从;'ー'从 「あ、ごめん、ちょっと待ってね、えっと……」
 
彼女はそう言って胸ポケットから何やらメモ用紙の様なものを取り出した。
私がそれに注目してる事に気付くと、彼女から忘れそうな事はメモしているという答えが返ってきた。
実際は自分で書いているわけじゃないんだけど、と彼女は微笑みながら付け加える。
 
从'ー'从 「寝る前に枕元にメモを置いとくと、次の日忘れちゃダメなことがちゃんと書いてあるんだ」
 
川;゚ -゚) 「それってちょっと……ああ、ええっと……」
 
誰か他の人が、とも思ったが、彼女は1人暮らしらしい。
しかし、自分の名前をメモしているのもどうかと思ったが、本来の発音だと長いので、こちらの世界流に直した物だと言う。
 
从'ー'从 「私はワタナベだよ。そっちの世界風に言うとね」
 
川 ゚ -゚) 「了解だ。よろしくな、ワタナベ」
 
从^ー^从 「よろしくね、クーちゃん」
 

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:34:17.12 ID:2LVxqCMZO
 
ようやくAA界の人間と接触出来た。
これで外交交渉も一段階進むかもしれない。
 
しかしながら、彼女、ワタナベはAA界の外交官というイメージはない。
どちらかと言えばおっとりしている様に見えるし、実際に話してみても同じくのんびりとした印象を受ける。
もちろん、それが仕事に直結するわけではないが。
 
川 ゚ -゚) 「で、ワタナベはこちら側と向こう側との事情を知っているんだよな?」
 
从'ー'从 「知ってるよー。一緒にがんばろうね、クーちゃん」
 
川 ゚ -゚) 「一緒に?」
 
从'ー'从 「あれ? クーちゃんはロマさんの代わりに来たんじゃないの?」
 
川 ゚ -゚) 「ロマ……杉浦ロマネスク? じいちゃんを知ってるのか?」
 
从'ー'从 「え? クーちゃん、ロマさんのお孫さんなの!? うわぁー、すごいなー」
 
緩い口調にどうにもペースを狂わされがちだが、彼女がじいちゃんと面識が有り、私がAA界でやるべき事を知っている様だ。
私はその件を詰めるべく、仔細を彼女に聞き出そうとした。
 
从'ー'从 「クーちゃんここまで歩いてきたんだよね? 疲れてない?」
 

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/02(土) 00:36:26.91 ID:2LVxqCMZO

川 ゚ -゚) 「え、うん、まあ、多少は疲れているが、仕事の話が出来ないほどでも……」
 
从'ー'从 「それじゃ、お家で話そ? そこがクーちゃんの泊まる場所だよ」
 
川 ゚ -゚) 「ワタナベの家? なるほど、私はホームステイという形を取る事になるのか」
 
他に当てもない私は、彼女に深く礼を述べ、家に向かう旨を了承した。
ようやく順調に進みだした事態に、少し口元が緩む。
 
川 ゚ー゚) 「そこはここから遠いのか?」
 
从'ー'从 「ううん、すぐだよ。ほら、あれ」
 
私は、ワタナベが指差す方向を凝視する。
山のある方角、草原の中に1つの建造物のシルエット。
近付くに連れ、徐々に露になるその詳細。それは──
  _,
川 ゚ -゚) 「……うん、家だな」
 
从^ー^从 「私の家にようこそ、クーちゃん」
 
それは所謂、庭付き一戸建ての木造住宅だった。
 
 
 第5話 了 〜 緩やかに目まぐるしく回り出す歯車 〜


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