3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 22:56:07.89 ID:YhUCIN24O
 
 ダイ8ワ フカソク ナ セカイ フカセツ ナ セカイ
 
 
川;゚ -゚)
 
突如として訪れた想定外の状況に、私は微動だに出来ずにいた。
頬を一筋の汗が伝い、辛うじて時が動いている事を知覚出来る。
 
ζ(。▽。ζ
ζ   .ζ
 
眼前の逆さ人形はこちらをじっと見詰めているが、小刻みに身体が震えている。
アンテナだか髪だかわからない、もみ上げ部分の螺旋状のものでバランスを取っている様だ。
 
川;゚ -゚) 「!」
 
刹那、逆さ人形が消えた。
それが上に跳んだのだと気付いた時には、既に私の背後に着地していた。
 
川;゚ -゚) 「速いな……」
 

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 22:59:18.21 ID:YhUCIN24O
 
しかし、どうやって跳んだのかは理解出来た。
あのもみ上げの螺旋部分、あれの弾性を利用して、ひずみエネルギーを蓄え、それを開放する事で跳んでいる。
まどろっこしく説明したが、簡単に言うとあれは……
 
川 ゚ -゚) 「バネだな」
 
依然こちらをじっと見詰めているバネ人形。
距離は徐々に詰まっているが、何かを仕掛けてくるという様子はない。
しかし、あの速さでこちらに向かって跳んでこられたら回避は難しいだろう。
 
元より、AA界の生物と争う目的で来ているわけではないので、思い切って声を掛けてみる。
 
川 ゚ -゚) 「ああ、突然来て驚かせたりしてたらすまない。私は別の世界から来た人間で、クーと言う。敵意はない」
 
両手を肘から曲げ、上に伸ばす。
ホールドアップ、通じるかはわからないが、敵意がないことを示そうとしてみた。
 
ζ(。▽。ζ
ζ   .ζ
 
私の言葉が理解出来たのかはわからないが、跳び立つ事はせず、無言でこちらを見詰めるバネ人形。
ひょっとしたら、しゃべれないのかと思い始めた時、バネ人形に動きがあった。
 

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:01:51.25 ID:YhUCIN24O
 
ξ(。▽。ξ
 
川 ゚ -゚) 「!」
 
バネを縮め、頭が地面に触れるかと思った瞬間、前方に倒れ込み、その身をくるりと一回転させた。
そしてそのまま両の足で大地に立ち、こちらを振り返った。
 
ξ゚听)ξ「ああ、やっぱりあんたがそうなのね」
 
川 ゚ -゚) 「話せるのか?」
 
ξ゚听)ξ「ええ、はじめまして、私はツンよ」
 
目の前のバネ人形、ツンが言葉の通じる相手であった事に安堵し、改めて挨拶を交わす。
どうやら彼女の方も敵意はない様で、単にこちらの様子を伺っていただけらしい。
いささか派手な偵察だが、彼女にとっては普通に移動していただけなのだろう。
 
川 ゚ -゚) 「こちらの事情は理解しているのか?」
 
ξ゚听)ξ「まあ、漠然とはね。ロマの代わりなんでしょ? んで、ワタナベのとこにいる」
 

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:04:32.17 ID:YhUCIN24O
 
話を進めて行く内に、ツンが先程会ったブーンよりは知識レベルが高い事がわかった。
と言っても、ブーンが小学生かそれ以下ぐらいなのに対し、ツンは中高生といったとこだろう。
私の事は、別の世界から来た掃除屋といった認識のようだ。
 
川 ゚ -゚) 「掃除屋?」
 
ξ゚听)ξ「あんたらって、あのピリってするやつを掃除しに来たんでしょ?」
 
もちろん、次元の狭間の事だろうが、ブーンとは違い、その存在を知覚していた様だ。
消す事は出来ないにしろ、力場である次元の狭間に触れれば多少の違和感は感じるはずだ。
それは元の世界でもそうであった。
これに関しては知覚していないブーンが鈍いだけなのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「認識は間違ってないな。出来ればその本を断ちたいのだが、それに関して何か知らないかな?」
 
ξ゚听)ξ「本……どうやって出来てるかって事?」
 
川 ゚ -゚) 「そうだ」
 
ツンはしばし考え込むが、残念ながらその原因はわからないと言う。
そんなに簡単にわかるとは思っていなかったから落胆はないが、ツンは少し申し訳なさそうな顔をした。
 

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:06:58.36 ID:YhUCIN24O
 
ξ--)ξ「わざわざ掃除に来てくれたのに、協力できなくて悪いわね」
 
川 ゚ -゚) 「いや、気にしないでくれ。それも込みで自分の仕事らしいからな」
 
それに、次元の裂け目以外のこの世界の事は聞けそうなので、今の私にとって十分に有用な存在だ。
私は、質問の許可を得てこの世界の色々な事を尋ねてみた。
 
川 ゚ -゚) 「ワタナベ以外に知り合いはいるのか? この世界には何人ぐらい人がいるんだ?」
 
ξ゚听)ξ「いるわよ。全体で何人とかはわからないけどね」
 
川 ゚ -゚) 「出来れば紹介してもらえると助かるんだが」
 
ツンが知らなくても、他の人が発生原因を知っているかもしれない。
そういった前置きでツンに紹介を頼んだ。
ツンは別に隠す様な話でもないが、何処にいるかまではわからないと言う。
それでもいいならと、名前と特徴を知っている順に挙げてくれた。
 
その中には、先ほど会ったブーンの名前もあった。
 

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:10:43.32 ID:YhUCIN24O
 
川 ゚ -゚) 「ブーンならさっきこの近くで会ったな。
 
ξ゚听)ξ 「ああ、アイツは確かにいつもこの辺にいるわ」
 
折角だから、ブーンの事も少し詳しく聞いてみた。
飛べなくなった原因、それがいつ頃か等、ブーンを空へ飛ばせてあげるために何かしら手がかりが欲しかった。
 
ξ゚听)ξ 「確かに原因はそれかもね。なんだっけ、その……」
 
川 ゚ -゚) 「次元の裂け目、ワタナベは星の傷だと言ってたな」
 
ξ゚听)ξ 「ああ、そうそう、星の傷だったわね。落ちたのはそれに触れたからだと思う」
 
ツンの考えは私の考えと一致していた。
しかし、飛べなく原因はわからない様だ。
本人が馬鹿だから、飛び方を忘れてしまったのではないかと推察は述べてくれたが。
 
川 ゚ -゚) 「それは手厳しいな」
 
ξ--)ξ 「あれは単純だから。今まで自分がどうやって浮いてたかなんて、考えた事もなかったんでしょ」
 
頷けなくもない意見だが、ブーンの生態が元々空に浮かぶ生き物なら、そういったものは本能的に理解、または理解してなくても
自然に身体がそれに適応するのではないかと思う。
それが出来なくなった原因がどこかにあるのだろうとは思うが、それを調べるには情報が足りていない様だ。
 

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:13:08.81 ID:YhUCIN24O
 
川 ゚ -゚) 「なるほどな。まあ、それは追々──グゥ」
 
川*゚ -゚) 「失礼……追々考える事にするよ」
 
はしたなく自己主張を始めたお腹が、食事の途中であった事を思い出させる。
ツンは笑って、食事の邪魔をして悪かったと言い、食べながらで話しましょうと提案してくれた。
流石にそれは悪いと言うか、行儀が悪い気もしたが、会食しながら歓談するのも外交ではよくある事かと思い直し、ありがたく受け入れた。
 
川 ゚ -゚) 「ツンも1つ食べるか?」
 
ξ゚听)ξ 「え?」
 
会食と言うからには、自分1人が食事を取るわけにはいかない。
残り2つおにぎりの内、まだ開けてない方をツンに差し出してみた。
 
差し出して見てから、ツンがこういったものを食べるのかわからない事に気付き、引っ込めるべきか迷ったが、それより先にツンからの返答があった。
 
ξ*゚听)ξ 「いいの?」
 
川 ゚ -゚) 「ああ、自分だけ食べるのも気が引けるし、食べられるのなら是非もらってくれ。美味いぞ」
 

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:15:51.87 ID:YhUCIN24O
 
意外にわかりやすい反応を見せ、ツンがおずおずと聞いてくる。
聞きながらも既に手が伸びて来ているのだから、渡さないわけにもいくまい。
私は、ツンにラップに包まれたままのおにぎりを手渡した。
 
川 ゚ -゚) 「外側の透明な包みは食べられないからな」
 
ξ*゚听)ξ 「知ってる。頂くわね」
 
そう言うなり、ツンはおにぎりのラップをむしり取り始める。
言葉通り、ラップの存在は知っているようで、ちゃんと結び目から綺麗に剥がしていた。
 
私はツンの方へ数歩歩み寄り、腰を下ろした。
ツンも私に倣い、隣に腰を下ろす。
 
ξ*゚听)ξ 「美味しい……」
 
川*゚ -゚) 「ああ、美味いよな」
 
普段、ツンは木の実など果物を食べているらしい。
この辺りにそんな木の類は一切見かけないのだが、どうやら山の方にはある様だ。
ツンは山の方に住んでいると教えてくれた。
 

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:19:30.71 ID:YhUCIN24O
 
ξ゚听)ξ 「まあ、今日は雨になりそうだから、山から離れてきたのよ」
 
川 ゚ -゚) 「雨? どういうことだ?」
 
雲のないこの空で雨が降ることも不思議な話だが、雨が降ると山から離れなければならないというのもよくわからない。
むしろ、木のある山の方が雨宿りには最適なのではと思われる。
 
ξ゚听)ξ 「ああ、そっか、クーの世界には雨の木はないんだったわね」
 
川 ゚ -゚) 「雨の木?」
 
ξ゚听)ξ 「ええ、雨の木よ。ほら、あっちの山」
 
そう言ってツンは自分が住んでいるという山、方角にして南西の方を指差す。
川はほぼ真西から流れて来ているから、あの山に繋がるように途中で大きく曲がっているのだろう。
 
ξ゚听)ξ 「あそこにね、雨の木が生えてるの」
 
ツンの説明では、雨の木に雨の実がなり、それが爆ぜると空に水滴が舞い上がり、雨となり地表に落ちるそうだ。
 

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:21:25.62 ID:YhUCIN24O
  _,
川 ゚ -゚) 「……それって、物凄い大爆発じゃないのか?」
 
雨はこの世界全体に届くと言うのだから、その雨の実とやらは相当大きく、とてつもない勢いで爆発するのではないのかと考えられた。
しかし、そういった事はないらしく、大きさも精々グレープフルーツ程度の様だ。
では、何故届くのかと言う話だが、風、ないし大気に乗り、星全体を覆うように循環するらしい。
 
詳しいメカニズムは例によってわからない。
大気成分も調べたわけではないし、元の世界の常識で考えても仕方のないことだから、それはそういうものだと流す事にする。
 
ξ゚听)ξ 「流石に近くにいるとびしょ濡れだからね」
 
川 ゚ -゚) 「それはただの水なのか?」
 
植物が実をつけるのは、基本的に増える為のはずだ。
ならばその爆ぜるという行為によって、種などが全土にばら蒔かれるのではないかと考えられる。
 
ξ゚听)ξ 「ただの水だと思うわ。種はないみたい」
 
爆ぜた瞬間は種が落ちる事もあるらしいから、何かしらの意味はあるのだろうが、ツンはよく知らないと言う。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:24:16.69 ID:YhUCIN24O

研究者というわけでもないから当然といえば当然だ。
それ自体の仕組みを知らなくても使うことに支障はない。よくある話だ。
私も、電化製品の内部構造を全て熟知しているわけではない。

 
ξ゚听)ξ 「種は美味しいんだけどね」
 
それもその木が全土に広まらない理由なのかもしれない。
 
おにぎりを食べ終え、お互いの世界の話をしあう。
そのほとんどが、次元の裂け目とは関係のない、たわいもない話ばかりだったが、そのほとんどが未知の興味深い話だった事もあり、
私にしては珍しく話が弾んだ。
やはり、食事を共にするという事は、外交において1つの有効な手なのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「なるほどな。色々と面白い話が聞けたよ、ありがとう」
 
ξ゚听)ξ 「それは私も同じよ。久しぶりにそっちの世界の話も聞けて楽しかったわ」
 
川 ゚ -゚) 「じいちゃんからも話を聞いてたのか」
 
見掛けで判断していたが、実際は相応に高い年齢なのだろう。
よくよく考えたら、ワタナベもいくつぐらいか聞いていない。
30年前にもじいちゃんと会っているのなら、私よりは年上という事になる。
 
例によって、元の世界常識、と言うよりは人間のか、で考えても仕方がない。
この場合は経た年齢より、知識レベルで判断した方が良いかと思う。
 

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:28:01.48 ID:YhUCIN24O
 
川 ゚ -゚) 「そういえば、雨はもうすぐ降るのかな?」
 
ここで雨に降られたら、ワタナベの家までびしょ濡れで帰らなければならない。
帰れば風呂も着替えもあるし、濡れて帰っても大した問題ではないが、服が張り付く感触はあまり好きではない。
 
川;゚ -゚) (いや、問題があったな……)
 
私は視線を胸元に落とす。
白のTシャツに薄青のラフなシャツ、上のシャツは羽織ってるだけで、ボタンは留めてない。
そしてシャツの下には例のアレが……
 
川;゚ -゚) (雨で下着が透けるのは少々洒落にならん)
 
ξ゚听)ξ 「もう数時間は大丈夫よ」
 
ツンの説明では、今から帰れば雨が降り出す前に十分間に合うと言う。
私はツンの回答に安堵したが、そのツンはどうするのだろう。
ここにいると濡れるだろうし、ツンもワタナベの家に連れて行った方が良いのではなかろうか。
 
それにブーンもだ。
見るからに水を吸いそうなブーンだ、雨に濡れると少々まずいのではなかろうか。
 

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:31:09.73 ID:YhUCIN24O
 
ξ゚听)ξ 「ああ、それなら大丈夫よ。まあ、私もその準備があるからちょっと早めに来たんだけど」
 
川 ゚ -゚) 「準備?」
 
ツンが雨が降るのをわかっててここに避難して来たという事は、ここに何らかの雨避けの手段があるという事だろう。
私は、その事に気付き、それなら自分は雨が降り出す前に戻るべきかと南の方、帰り道の方を振り向いた。
 
 (><)σ
.⊂(  ) ノ
(<●><●>)
 (⊃ ⊂)
..(*‘ω‘ *)
. (   )
.  v v    
 
  _,
川 ゚ -゚) 「……」
 
振り向いた先には、先日出会ったトーテムポールがいつの間にか立っていた。
先日同様、とある方向を指し示しているが、それはどうやらワタナベの家の方角らしい。
 

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:33:59.70 ID:YhUCIN24O
 
川 ゚ -゚) 「いや、君らの事はワタナベからもツンからも聞いたから、今更案内板のフリはしないで欲しいんだが……」
 
(;><) 「バレてた!?」
 
( <●><●>) 「だから言ったでしょう?」
 
(*‘ω‘ *) 「当たり前だっぽ」
 
どうやらトーテムポールの頭頂、ワタナベから聞いた名前はビロードだったか、また柱のフリをすればバレないと考えていた様だ。
物凄く馬鹿にされてるのか、物凄く馬鹿なのかは判断に迷うとこだが、残り2人の反応からして後者の様な気もする。
 
川 ゚ -゚) 「ビロードにワカッテマス、それにちんぽっぽだったな。私はクーという。昨日はありがとう、助かったよ」
 
私は3人に先日の礼を述べ、少し話を聞こうかと思ったが、それはツンに遮られた。
 
ξ゚听)ξ 「ほら、3人とも、行くわよ?」
 
( ><) 「はいなんです」
 
川 ゚ -゚) 「ん? 何処へ行くんだ?」
 
話の流れからするに、大方、雨宿りの場所なのだろうが、ツンからは意外な言葉が返ってきた。
 

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:36:42.55 ID:YhUCIN24O
 
ξ゚听)ξ 「ブーンの所よ」
 
川 ゚ -゚) 「ブーンの所?」
 
そう言ってツンは歩き出す。
見たところ、今は頭のバネは使わず、普通に歩いている。
ツンに聞くと、あれは長距離や緊急移動用との事だ。
 
トーテムポールの3人は、相変わらず飛び跳ねながら移動している。
あの3人の構造がどうなっているのか気になるので、歩調を合わせ、聞いてみる事にした。
 
川 ゚ -゚) 「君達はこう、三位一体的な感じなのかな?」
 
( ><) 「僕達3人は仲良しなんです」
 
( <●><●>) 「ビロード、クーはそういう事を聞きたいわけではないのですよ」
 
真ん中の彼、ワカッテマスが言うには、彼らは一応それぞれ独立した個体らしく、バラバラになる事も出来るらしい。
しかし、長い時を経て、お互いに役割分担が出来てしまい、それ以外の機能が退化しつつもあるので、基本的には三位一体で行動している様だ。
 
(*‘ω‘ *) 移動、運動担当 ( <●><●>) 頭脳担当といった具合に。
 

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:38:31.61 ID:YhUCIN24O
 
(;><) 「あれ、僕の担当は何なんですか?」
 
( <●><●>) 「それは……」
 
(*‘ω‘ *) 「飾りっぽ」
 
(;><) 「ヒドいんです!」
 
ムードメーカー、賑やかし担当といった所だろうか。仲の良い3人だ。
 
(;><) 「足の方が飾りなんです。偉い人にはそれがわかんないんです!」
 
(*‘ω‘ *) 「黙れっぽ」


   川
   ∧∧
.  (   )
. (*,UU,*) ポッ!
  (⊃ ⊂)
..(<●><●>)
. ⊂(  )⊃
Σ(><)そ ゴチン!



34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:41:47.03 ID:YhUCIN24O
 
ビロードの物言いに機嫌を損ねたのか、ちんぽっぽが大きく跳ね、空中で一回転し頭から落下した。
当然、一番上のビロードの頭が地面に鈍い音を打ち鳴らす。
 
(;><) 「痛いんです! ぽっぽちゃん、ヒドいんです!」
 
川;゚ -゚) 「な、仲良くな?」
 
ワカッテマスがいつもの事だから気にするなと呆れた様に言う。
ケンカをするほど仲が良いという事なのだろうか。
そんな事を考えていたら、前方に白い塊が見えて来た。
 
( ^ω^) 「おー? みんな揃ってどうしたんだお? おいすー」
 
ξ゚听)ξ 「どうしたじゃないでしょうが。今日は雨になるわよ」
 
こんなすぐに再会するとは思っていなかったが、私は一応ブーンに挨拶をする。
予めツンからブーンの所へ行くとは聞いていたが、ここで何をするのか見当も付かない。
てっきり、ブーンが雨避けの場所を確保していて、それ目当てでブーンを探していたのかと思っていたが、どうも違うらしい。
周辺に、雨を凌げそうな場所は何もなく、ブーンは別れた時と同じ草原にいる。
 

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:44:46.28 ID:YhUCIN24O
 
( ^ω^) 「今日は雨なのかおー。知らなかったおー」
 
ξ゚听)ξ 「のんきねえ……。まあ、あんたは濡れても大丈夫だからね」
 
川 ゚ -゚) 「ブーンは濡れても大丈夫なのか? パッと見、一番ダメそうに見えるが」
 
見た目、質感共に布団と言うか綿の様なブーンだ。
雨に濡れると水を吸ってしまって大変そうにも思える。
防水加工でも施されているのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 
ξ゚听)ξ 「ブーンは濡れても膨れるだけだからね」
  _,
川 ゚ -゚) 「膨……れる……?」
 
その言葉が何を指すのかよくわからなったが、ツンはそのままの意味だと言う。
ブーンは水を吸うとその表面積が広がるらしい。
   _,
川;゚ -゚) 「え? どういう事?」
 
ξ゚听)ξ 「だから、こう、伸びるのよ、身体が、全体的に……説明がめんどくさいわね」
 
(*‘ω‘ *) 「見せたが早いっぽ」
 

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:47:14.33 ID:YhUCIN24O
 
いつの間にかちんぽっぽが、正確には頭頂のビロードだが、両手を合わせ、そこに水を湛えていた。
そしてそれをブーンの身体の端に振りかける。
 
( ^ω^) 「お?」
   _,
川;゚ -゚) 「うお!?」
 
その瞬間、モコモコとブーンの身体が膨らみ、確かに広がった。
ブーンは水を吸収し、ある一定の大きさまでは膨れられるらしい。
 
ξ゚听)ξ 「よくわかんないけど、そういう体質なのよ」
 
膨れられるとは言ったが、自分で制御する事は出来ない様だ。
どういった意図で身体がそんな反応を示すのか興味はあるが、調べ様も調べる意味もなさそうなので、
それはそういうものだと受け入れるしかない。
 
川 ゚ -゚) 「なるほどな。しかし、それだけではブーンを探していた理由がよくわからんな」
 
( <●><●>) 「それも実際にお見せした方が早いでしょうね」
 
ワカッテマスがそう言い、他の面々もそれに頷いた。
唯一、ブーンだけがきょとんとしていたが、単に私がツン達に同行して来た理由を理解していないだけで、
自分がやる事はわかっているらしい。
 

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:49:05.18 ID:YhUCIN24O
 
 ( ^ω^) 「お!」
∩ξ゚听)ξ∩ 「よっと……」
 
ツンが掛け声と共にブーンを抱え上げる。
しかし、広がる前のブーンでも、身体の小さなツンを覆い隠すには十分の大きさなので、ツンは完全にブーンで見えなくなった。
 
.( ^ω^)
/   \<「準備はいい?」
 
( ><) 「いつでもどうぞなんです!」
  _,
川 ゚ -゚) 「何をす──!」
 
 
.( ^ω^)
/   \
  川
     ポイーンッ!
.( (  ) )
∫   .∫
∫   .∫ ビヨーン!
∫゚听)∫
 


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:52:18.89 ID:YhUCIN24O
 
勢いよく空に打ち出されるブーン。
どうやらツンが頭のバネで飛ばしたようだ。
 
ブーンは空中で大きく広がり、ゆっくりと舞い降りてくる。
 
( ><) 「オーライ、オーライなんです」
 
( <●><●>) 「ぽっぽちゃん、もう少し右です」
 
(*‘ω‘ *) 「了解っぽ」
 
ビロード達3人は、どうやらその落下点を計っている様だ。
ワカッテマスが指示をし、それに合わせちんぽっぽが動く。
ビロードは掛け声だけで、役に立っている様には見えない。
 
川 ゚ -゚) 「……なるほど」
 
ブーンが落下し、ビロードに被さった時にその意図がようやく掴めた。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:54:53.81 ID:YhUCIN24O
 
. ( ^ω^)
 /   \
 |      |
 |      |
 |      |
  (   )
   v v    
 
4人重なった彼らの姿は、閉じられた傘の様だった。
 
ξ゚听)ξ 「もっと、こっちかしらね……」
 
川 ゚ -゚) 「私がやろう」
 
落ちてくるブーンをキャッチした所為か、多少の位置ずれが見られたので、ブーンを動かして調整した。
と言うか、そもそも私がブーンを乗せてやればよかった気もするが、
ブーンは飛ぶ事が好きなので楽しみを奪うのも考えものかと思う。
 
( ^ω^) 「最近は雨が降ってなかったから飛ばせてもらえなかったお。今日はいっぱい飛べたお」
 
ブーンはそういって嬉しそうに笑った。
この体勢だと、ブーン1人濡れそうだが、顔は内側に移すらしいから心配はいらない様だ。
 

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/14(木) 23:58:44.14 ID:YhUCIN24O
 
川 ゚ -゚) 「長さは雨で伸びるとして、これだと少し狭くないか?」
 
どうせ雨の間寝てるから問題はないとツンは言う。
ちんぽっぽに寄り掛かっていれば雨は十分凌げるからと。
 
ξ゚听)ξ 「さ、そういうわけだから、私達は気にしないでクーも帰りなさいよ」
 
確かに、これ以上ここで時間を取るると、帰り着く前に雨に降られそうだ。
私は、5人に再会の約束をし、この場を離れることにした。
 
まだ話し足りないし、全員でワタナベの家で雨宿りをすればいいと提案したかったが、それは控える事にした。
彼らには彼らの生き方、生態系とでも言うべき物がある。
無闇にそれを壊すべきではないだろう。
 
それに彼らはワタナベと顔見知りのはずだ。
にもかかわらず、確実に雨を凌げるはずのワタナベの家に行かないのは何かしら意味があるのかもしれない。
 
( ^ω^) 「またお空を飛ばしてお!」
 
川 ゚ー゚) 「ああ、今度はもっと長く飛べる方法を考えてから来るよ」
 
私は、ブーンの陽気な声に見送られ、ワタナベの家に引き返す道を急いだ。
 
・・・・
・・・
 

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/15(金) 00:00:47.37 ID:G/+hgg+YO
 
川;゚ -゚) 「ただいま……」
 
ツン達の心遣いも空しく、ワタナベの家に辿り着く直前に雨に見舞われた。
異世界の雨はどんな物か多少の危惧はしていたが、ただの水の様だとしか感じなかった。
ただ、何かしら有害なら予めワタナベ、と言うかそのメモに注意喚起されてそうなものなので、あまり心配はしていなかったが。
 
むしろ……
 
从'ー'从 「おかえりー。あれ、雨?」
 
川;゚ -゚) 「ああ、雨だ。ちょっと着替えてくるからまた後でな」
 
私は腕を胸の前で組んだ尊大な姿勢のまま、出迎えてくれたワタナベの横を通り2階へ急ぐ。
 
从'ー'从 「お風呂入ったら? あったまるよー」
 
川川 ゚) 「そうさせてもらう」
 
無愛想だとは思いながらも、振り向かずに返事をする。
帰ったら、アイツは絶対に殴らねばならぬと決意を固めつつ。
 
・・・・
・・・
 

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/15(金) 00:03:21.21 ID:G/+hgg+YO
 
川*゚ -゚) 「やれやれ、ようやく人心地つけたよ」
 
从'ー'从 「お疲れさま。ごめんね、雨のこと忘れてて」
 
ワタナベの話では、雨が降るのはわかっていたらしい。
それを伝え忘れていて申し訳なかったと謝られたが、それなりに有意義なものも見れたし、気にするなと返しておく。
 
川 ゚ -゚) 「この雨はどのくらいで止むんだ?」
 
从'ー'从 「うーんと……、明日の朝には止むみたいだね」
 
もっと大規模に、三日三晩降り続いたりするのかと思っていたが、意外に早く止むようだ。
もっとも、雨だろうが傘を差してでも探索は続けるつもりではあったが。
 
時期によってはもっと長く降り続く事もあるらしい。
全ては雨の実の成長次第の様だ。
 
川 ゚ -゚) 「不思議なものだな……」
 
从'ー'从 「そう? 何もないお空から雨が降って来る方が不思議だと思うけどな」
 
恐らく、私の世界の事を指しているのだろうが、厳密には何もない空から降ってくるわけではない。
大気中の水分が凝結して落ちてくるのだ。
無から有が生じるわけもない。
 

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/15(金) 00:07:35.53 ID:G/+hgg+YO
 
しかし、そんなこちらの常識を振りかざし、AA界の方がおかしいのだと力説する気は毛頭ない。
AA界では、雨の実が雨を降らせる事が常識なのだ。
 
川 - -) 「難しいな……」
 
从'ー'从 「何が?」
 
心の中で呟いたつもりの言葉が、どうやら口をついて出ていた様だ。
こんな所で1人暮らしの弊害が出るとは思っていなかったが、誤魔化すほどの話題でもないので正直にワタナベに話す。
 
川 ゚ -゚) 「こちらの常識で測れない事が多くてな。どうにも失敗を重ねてしまう」
 
今こうしている内にも、些細な事で不興を買っている可能性もあるのだ。
私が知らないだけで、ワタナベが不快に思う所作が無いとは言い切れない。
 
改めて常識、共通認識というものの有り難さが身に染みる。
 
从'ー'从 「うーん……それは仕方がないんじゃないかなー」
 
川 ゚ -゚) 「そう割り切りたいが……」
 
私は仕事でここに来ている。
国と国との折衝だ。堅く考えなければならない部分ではあるが……
 

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/15(金) 00:11:16.69 ID:G/+hgg+YO
 
川 ゚ -゚) 「……割り切るか」
 
いい加減、現実を認めようか。
仕事で来てはいるが、どう考えても外交という空気ではない。
調査と言えばまだ聞こえはいいが、やっている事は何と言うか、探検的な何かだ。
 
从^ー^从 「そうそう、間違ったら謝ればいいよ」
 
笑顔でそう言うワタナベに、私は苦笑を返す。
このゆったりとした会話を、外交と呼ぶには無理が有り過ぎる。
 
川 ゚ -゚) 「この世界に、建造物はここしかないのか?」
 
从'ー'从 「うーん……あるといえばあるけど……」
 
川 ゚ -゚) 「ほう……そこには誰が住んでいるんだ?」
 
从'ー'从 「内緒。……と言うか、多分誰も住んでないかな」
  _,
川 ゚ -゚) 「何だそれは?」
 

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/15(金) 00:16:36.06 ID:G/+hgg+YO
 
詳しく聞こうとするも、よくわからないとはぐらかすワタナベに、違う質問をする事にした。
 
川 ゚ -゚) 「ツンやブーン、それにビロード達に会ったが、彼らはここで雨宿りをしたりしないのか?」
 
从'ー'从 「あの子たちは自然の方が好きだからね。多分、この辺りには寄り付かないんじゃないかな?」
 
川 ゚ -゚) 「そういうものなのか……」
 
漠然とした理由だが、そういうものだと言われれば、納得するしかないのが今の私の状況だ。
気になるなら今度ツン辺りに聞けば良いかと思い、この件はこれまでにする。
 
川 ゚ -゚) 「じゃあ…………いや……」
 
从'ー'从 「どうしたの?」
 
ワタナベに聞きたい事は山ほどある。
この世界の事、次元の裂け目の事はもちろんだが、ワタナベ個人の事もだ。
年齢然り、家族構成、こんな所に1人(?)で住んでいる理由等、挙げればキリがない。
 
しかし、聞いていいものなのか憚られる。
何らかの理由(わけ)有り、その一点だけは揺ぎ無いだろうから。
 

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/15(金) 00:18:45.03 ID:G/+hgg+YO
 
川 ゚ー゚) 「また今度で良いよ」
 
時間は無限にあるわけではない。
あの次元の裂け目が塞がるのにかかる時間は約半年。
元の世界の技術者達がはじき出した数値だ。

それを過ぎれば、私は元の世界に戻れなくなる。
 
あの次元の裂け目から戻れなくなった所で、2度と戻る事が出来ないというわけではない。
ひょっとしたらまた10年後、また元の世界と繋がるかもしれないのだ。
 
だからと言って楽観は出来ないし、10年は長過ぎる。
しかし、この問題を解決する為に、10年ぐらい居座るのは、政府方針としては悪くない気がする。
 
こう言ってはなんだが、じいちゃんは何故2回目の来訪から戻ったのだろうか?
 
あの人の性格からすれば、報告の必要のあった1回目ならまだしも、明確な意図を持って飛び込んだ2回目の来訪で、
問題を解決させないまま戻った理由がわからない。
 
報告や対策の為と理由付ける事も出来るが、じいちゃんよく知っている私からすれば、腑に落ちない箇所ではある。
 
从'ー'从 「そう? じゃあ、晩ご飯の支度するね」
 
川 ゚ー゚) 「ああ、よろしく頼むよ」
 

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/15(金) 00:22:19.67 ID:G/+hgg+YO
 
台所にいそいそと向かうワタナベを見送り、私はまた考えを進める。
 
結局の所、今は少しずつでも情報を集めるしかない。
常識に囚われず、常識を忘れず、その塩梅が難しい所だが、泣き言を並べても始まらない。
 
川 ゚ -゚) (常識ね……)
 
普通という言葉は自分の為のものだ。
自分の普通が、必ずしも他人の普通ではないのだから。
 
川 ゚ -゚) (そう言えば、ブーンが飛べる方法も探さないとな)
 
この家に書庫ないし、本棚はあっただろうか。
雨により探索は中断されたが、室内でも調査は続けられるのではと思い、そこであることに気付く。
 
川 ゚ -゚) 「日記……」
 
私は、持って来た荷物の中に、じいちゃんの日記があることを思い出した。
 
 
 第8話 了 〜 世界の違い、人の違い、でもそれは、同じ世界でも 〜
 


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