7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:35:17.65 ID:PslLESF/O
 
 ダイ9ワ カレ ノ キロク セカイ ノ キオク
 
 
川 ゚ -゚) 「……どうせろくな事は書いてないと思うが」
 
夕食が終わり、部屋に戻った私は、ボストンバッグの中から一冊の古びたノートを取り出す。
杉浦ロマネスク、じいちゃんの日記だ。
 
ここには、30年前と10年前のAA界での出来事、そしてその後の事が書かれているはずだ。
ただ、あのじいちゃんの事だ。
先の手紙の様に、あまり期待するべきではないのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「兎も角、読んでみるか……」
 
私はノートのページを捲り、文章に目を落とす。
力強い達筆の、見慣れたじいちゃんの文字が並んでいる。
 
・・・・
・・・
 

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:37:10.91 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) 「来る頃だと思っていたよ」
 
从 ー从 「こんばんは、クーちゃん」
 
深夜、先日と同じような時間に、また襖の向こうに来客があった。
つい先程まで日記を読んでいたので、今日はまだ眠ってはいなかった。
部屋の電気は落とし、備え付けの小さな電気スタンドの明かりだけを点けて。
 
从 ー从 「その様子だと、来るのを待ってたって感じだね」
 
先日同様、少し掠れ気味の声で彼女は言う。
その認識は正しく、私は彼女を待っていた。
彼女自身が、明日もまた話すとも言っていた。
 
川 ゚ -゚) 「聞きたい事は山ほどあるからな。待っていても不思議じゃないだろ?」
 
来る前から色々な情報が不足したまま、この世界に飛び込んだ。
来てからも情報不足は一向に解消されず、日を追うごとに疑問も山の様に積み重なっている。
 
どいつもこいつも回りくどい。
 

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:40:16.42 ID:PslLESF/O
 
从 ー从 「そりゃそうか。じゃあ、今日は何の話にする?」
 
川 ゚ -゚) 「知ってる事を全て話せ……と言いたい所だが……」
 
从 ー从 「物事には順序があるからねえ」
 
勿体付けた言い回しだ。
誰も彼も何らかの理由があって情報を伏せているのだろうが、わかってはいても多少は腹が立つ。
 
川 ゚ -゚) 「私はお前の敷いたレールの順番通りに動いているか?」
 
从 ー从 「そんなつもりは全然ないよ」
 
ストレートな嫌味も軽くいなす彼女だが、確かにそのつもりならば、もっと行き先等を制限するだろう。
今日、北の方へ向かったのは私の意志だ。
 
川 ゚ -゚) 「こちらからの質問はない。と言うか、選ぶ時間が無駄だろう」
 
知っている事で、今話せることを話せ。
私は彼女にそう告げた。
 

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:42:10.77 ID:PslLESF/O
 
从 ー从 「ま、その方が効率的ではあるね」
 
それではと、彼女は今日会った面々の話をし出した。
 
从 ー从 「彼らはこの星の原住生物ってわけじゃないんだ」
 
川 ゚ -゚) 「どういうことだ?」
 
从 ー从 「別の星から流れ着いた、ってこと」
 
川 ゚ -゚) 「別の星……」
 
考えてみれば、この世界、この星に来る手段は、私の様に次元の裂け目通る以外にもあるわけだ。
外惑星から飛来、手段は問わないがそういった可能性もある。
彼らはそんな存在という事か。
 
从 ー从 「そうだね、宇宙船と言うか脱出ポッドかな? それに乗ってきたりとか」
 
川 ゚ -゚) 「……たまたま宇宙旅行中に、宇宙船の不具合で、といったケースか?」
 
从 ー从 「……それだったらまだ良かったんだけどね」
 

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:44:34.54 ID:PslLESF/O
 
彼らの星は無くなったのだと彼女は言う。
詳しい原因はわからないという事らしいが、彼らはそれぞれの母星が無くなる時に脱出し、
運良くここに辿り着いたらしい。
 
川 ゚ -゚) 「星が滅んだのか……」
 
宇宙では珍しい事ではない。
彼女はそう言うが、私の知る限りの知識では、元の世界では地球以外の惑星に生命体は見付かっていない。
故に、私にとってはかなり衝撃的な話ではある。
 
从 ー从 「そうだね、地球は珍しい例と言うか……」
 
川 ゚ -゚) 「遅れている、か……」
 
草原ばかりのこの世界を見れば、元の世界の方が明らかに進んでいるようにも見える。
しかし、一部かなり高度な技術が使われている物があるのは素人目にもわかる。
 
川 ゚ -゚) 「AA界が草原ばかりなのは理由があるのか?」
 
从 ー从 「発展してない理由? 厳密に言えばないね」
 
そこに住む者達が、自然のままの世界で生きる事を選んだ結果なだけだと言う。
 

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:46:04.85 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) 「彼らの元いた世界は、宇宙船を造れるほどには高度な技術があったのではないのか?」
 
近代的な暮らしに慣れた者が、そう簡単にその利便性を捨てられるものだろうか。
私なら、家電製品等の使えない世界は少々所ではなく辛いと思うだろう。
 
从 ー从 「そこはまあ、ここに来た理由に起因するんじゃないかな?」
 
川 ゚ -゚) 「来た理由……滅んだ理由か」
 
自滅、彼女はそう言った。
彼らの存在が、その星の許容量を越えてしまったからだと。
 
人口にしろ生産活動にしろ、様々な要素が星を傷付け、壊れるに至らせた。
 
川 ゚ -゚) 「近代的な暮らしはもう懲りたと言うわけか?」
 
从 ー从 「そんな感じじゃないかなー」
 
だから、雨が降ろうが雨宿りが出来そうなここに近付かないのか。
それだけが理由と決め付けるのは早計な気もするが、一応の筋は通る。
ワタナベとツン達の仲が悪いのかとも考えはしたが、そういった様子はツン達からは見受けられなかった。
 

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:48:16.84 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) (少なくとも、ビロード達はワタナベの代わりに私を迎えに来てくれたんだし、その線はないと思って良いのか)
 
しかしそれはワタナベと、という話だ。
 
川 ゚ -゚) 「そうだ、ブーンの事は知ってるか?」
 
从 ー从 「うん、知ってるよ。クーちゃんの世界で言うとこの雲みたいな子だよね」
 
私は、ブーンが飛べなくなっていることを話した。
ワタナベは雲が落ちたと話していたから知ってはいるのはわかっていたが、落ちた理由や、飛ばしてあげたい事等、
私の考えを話して聞かせた。
 
从 ー从 「落ちた理由はそうかもね。びっくりしただけ」
 
川 ゚ -゚) 「飛べない理由も心因ではないのか?」
 
この世界の大気組成が変わったらか等の理由であれば、かなり厄介だ。
残念ながら私の手に負える範囲から外れてしまう。
 
从 ー从 「うーん……心因と言えば心因だけど……」
 
川 ゚ -゚) 「それだけではないと?」
 

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:50:16.74 ID:PslLESF/O
 
从 ー从 「うん。……で、それをクーちゃんが見付けてよ」
  _,
川 ゚ -゚) 「は……?」
 
从 ー从 「それがきっと、次元の裂け目を消す事に繋がるから」
 
川 ゚ -゚) 「……どういう意味だ?」
 
突如として語られる核心。
何でもない様な話から、聞き逃せない重要な一言に繋がった。
 
从 ー从 「そのまんまの意味だよ」
 
川 ゚ -゚) 「それはつまり、ブーンがこの騒ぎの原因という事か?」
 
先の言葉を要約すればそういう事になる。
しかし彼女はそれを否定する。
 
从 ー从 「それはちょっと短絡的過ぎるなー。でも、間違いではない」
 
言葉の続きを期待したが、彼女は何も言わない。
自分で考えろという事なのか、それとも答えが見付かっていないのかだが、恐らくは前者であろう。
 

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:53:04.31 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) 「ブーンのそれも原因の1つだが、他にも原因があるという事か」
 
从 ー从 「正解」
 
じいちゃんに比べて理解が早くて助かると彼女は言うが、そのじいちゃんの日記を読んでこの可能性に気付いただけだ。
私1人の力ではない。
 
じいちゃんの日記は、本当に日記だった。
今日は何処に行った。今日は誰と会った。今日は何をした。
そんな子供の日記の様なことしか書いてなかった。
 
その文面からは、じいちゃんがAA界での生活をとても楽しんでいた事は読み取れた。
同時に、何かしら目的を持って行動しているような節も見受けられたが、その目的まではわからなかった。
ただ、じいちゃんは次元の裂け目の大本を消す方法に気付いていたんじゃないかと思う。
 
从 ー从 「……日記ね」
 
川 ゚ -゚) 「じいちゃんから見せてもらったりはしてなかったのか?」
 
彼女は見ていないという。
 

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:55:08.38 ID:PslLESF/O
  _,
川 ゚ -゚) 「となると、検閲されたわけでもないのにこんな曖昧なのはじいちゃん自身の所為か」
 
明言はされていない。
じいちゃんが感じた、この世界の有り様、人の有り様が書き綴られている。
それだけだが、それだけが全てで、それを通じて私は何かを理解しなければならない様だ。
 
从 ー从 「検閲したりはしないけどね。そっか、ロマはクーちゃんにはっきり伝えてないんだね」
 
川 ゚ -゚) 「伝えるも何も、じいちゃんからAA界の事は1度も聞いた事はないさ」
 
偶然なのか意図した物なのかはわからない。
ただ、結果として予備知識も無くここに来た以上、全て自分で考えて答えを見付けなければならない。
今更確認するまでも無く、わかりきった事だ。
 
これは私の仕事なのだ。
 
从 ー从 「ふーん……まあ、それに関しては私がとやかく言うことじゃないね」
 
川 ゚ -゚) 「ああ、こちらで処理すべき話だ」
 

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:57:07.11 ID:PslLESF/O
 
从 ー从 「じゃあ、今日はそんなとこかな」
 
川 ゚ -゚) 「随分早いな?」
 
時間にして30分も無かったかもしれない。
先日よりはかなり短い時間だ。
彼女は少々体調が悪いからと私に告げた。
そういうことなら無理をさせるわけにもいかないので、私はそれを了承した。
 
川 ゚ -゚) 「では、私はブーンの問題を解決して、他の面々から話を聞いてみれば良いのか?」
 
从 ー从 「そんな感じで1つよろしく」
 
川 ゚ -゚) 「……じいちゃんも同じことをしてたんだよな?」
 
从 ー从 「そうだね」
 
川 ゚ -゚) 「じいちゃんは、何も解決出来なかったのか?」
 
从 ー从 「ううん、そんな事はないよ」
 
じいちゃんはじいちゃんで多くの事を解決した。
ただ、それ以上に次元の裂け目が発生しただけだと言う。
 

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 22:59:05.04 ID:PslLESF/O
 
彼女が去った後、布団に横になり先程の話を反芻してみる。
今日の話は曖昧な様で幾分かは具体的であった。
 
わかる様でわからない。
今の所はそんな結論だ。
やるべき事はわかってきたが、何故それが、という結果に繋がる理由が不明瞭だ。
 
先の電化製品では無いが、内部構造はわからなくても使い方がわかっていれば望んだ結果は得られる。
であれば知る必要もないとも言える。
 
川 - -) (しかしそれは……)
 
納得いかない。
 
他ならぬ私が納得いかないのだ。
 
それに、過大評価かもしれないが、その部分、全員が勿体付けた発言をしている部分は、
私自身が答えを見付ける事を期待されているのではないかと思う。
 
じいちゃんにしろミルナにしろ、そして彼女にしろ。
それがきっと、私がここに来た理由なのだろう。
 

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:01:07.81 ID:PslLESF/O
 
川 - -) (……都合のいい考え方かもしれないな)
 
であったとしても、明日からの私のやるべき事が変わるわけでもない。
外務省のエリートとしては、そうやってモチベーションを高めるのは悪い事ではないだろう。
 
川 - -) (私はやれば出来る子なんだ……)
 
降り続く雨が屋根を叩く。
明日はワタナベの予報どおり雨が上がるだろうか。
外れたら、渡辺から傘を借りる必要がある。
 
よくわからない決意と明日の予定が交じり合い、私のAA界2日目はいつの間にか終わりを告げていた。
 
・・・・
・・・
 

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:03:05.07 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) 「少々濡れるのは仕方がないか……」
 
翌朝、雨はワタナベの予報どおり上がっていたが、足元の草原はまだ多少の雨露を湛えていた。
だが、雲1つない晴れ渡った空だ。すぐに乾くだろう。
 
今日も北の方へ向かう予定だ。
折角居場所の特定出来ている面々がいる事だし、目的の1つだとわかったブーンに詳しい話も聞いてみたい。
 
しかし、移動手段が徒歩だとそれなりに時間を取られるのが恨めしい。
自転車位あれば助かるのだが。
 
そんな事をワタナベに話したところ、自転車は無いがそれに順ずるものはあると言う。
しかも電動式だと言うから、使えるのであれば便利な事この上ないので、貸して貰えるかワタナベに頼んでみた。
 
从'ー'从 「お持たせー。はい、これだよ」
 
背後から掛けられたワタナベの声に振り向く。
自転車代わりのものは、しばらく使ってなかったので使えるかどうか見てくると言って裏に回っていたのだが、
どうやら問題なく使える様だ。
その手には何か、見覚えの有る様な無い様なものが抱えられている。
 

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:05:45.86 ID:PslLESF/O
  _,
川 ゚ -゚) 「……何これ?」
 
  ┌-┐        ∩
 / ̄ ̄ ロニlニlニlニニニ| |
 ◎---┘       ∪
 
从'ー'从 「え? これがさっき言ってた自転車みたいなものだよ?」
  _,
川 ゚ -゚) 「自転……車……?」
 
そう言ってワタナベが私の目の前に下ろしたものは、どう見ても自転車と言うよりは──
  _,
川 ゚ -゚) 「……これ、掃除機じゃね?」
 
1対の車輪の付いたコンパクトなボディ。
蛇腹状の細長いチューブ。
T字型に分かれたヘッド。
 
何処からどう見ても、クリーナー、掃除機だ。
 

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:07:29.78 ID:PslLESF/O
 
从'ー'从 「違うよー? これは乗り物だよ」
  _,
川 ゚ -゚) 「乗るの、これに……?」
 
胸を張ってそう言い張るワタナベに、私は半信半疑ながらも渋々従い、掃除機に跨ってみた。
 
从'ー'从 「違う違う、乗るのはそこじゃないよ」
  _,
川 ゚ -゚) 「え? いや、ここ以外何処に乗るんだ?」
 
私が掃除機の後ろ、車輪が付いたメインユニット部分に跨ろうとすると、ワタナベがそれを制した。
見た所、これに乗ろうとするならここ以外考え付かないのだが、そもそもこれに乗ろうという考え自体が思い付かないのはさて置き。
 
从'ー'从 「えっとね、、これをこう持って……」
  _,
川 ゚ -゚) 「こう……」
 
私はワタナベに言われるまま、掃除機のメインユニットの取っ手を持ち、右の小脇に抱える。
 
从'ー'从 「それで、もう1方の手でこれ持って、ここに足を乗せるんだよー」
  _,
川 ゚ -゚) 「こうか……?」
 
掃除機の柄、蛇腹の先を左手に持ち背後から足の間に通す。
そして蛇腹を背に当て、文字通り跨る形で掃除機のヘッドの部分に足を乗せる。
 

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:09:26.04 ID:PslLESF/O
 
从'ー'从 「うん、それでオッケー」
  _,
川 ゚ -゚) 「……」
 
从'ー'从 「あれ? どうかしたの?」
  _,
川 ゚ -゚) 「いや、どうかしたとか言う以前にだな……」
 
小脇に掃除機を抱え、背後から足の間に筒を通し、その上に跨っている様は何と言うか……
  _,
川 ゚ -゚) 「ダセえ……」
 
もう、何かどうしようもなくダサい。
知り合いに見られたら軽く死ねるぐらいダサい。
見様によっては子供が掃除機に跨って遊んでいる様にも見えなくないが、こちらはいい歳した大人だ。
なんともフォローのし様がない間抜けな姿だ。
 
こんな姿、間違ってもAAに表したくない。
 

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:11:05.77 ID:PslLESF/O
 
从'ー'从 「そうかな? 意外と似合ってるけどな?」
  _,
川 ゚ -゚) 「それは確実に褒めてないな……」
 
そういえば、昨日ツンが私の事を掃除屋と言っていたから、それを考えると似合ってなくもないかもしれない。
しかし箒ならまだしも、掃除機とかどんな間違い方をした魔女っ子だよ。
  _,
川 ゚ -゚) 「せめてこれ、後ろから足掛けちゃダメか? こういう風に」
 
乗り方を変えたところでそう簡単には拭え無さそうなダサさだが、この方がマシかもしれない。
これならセ○ウェイに乗っている様に見えなくもない。
 
从'ー'从 「それだとバランスが悪いね。これ、前に進むんだし、落ちちゃうんじゃないかな?」
 
よく見るとメインユニットから筒のほうへ板状の物がスライド出来る様になっている。
これを尻に当て、座席代わりにしろという事か。
  _,
川 ゚ -゚) 「……仕方がないな」
 
ワタナベの言う事ももっともなので、推奨された乗り方で掃除機に跨り直す。
しかしバランスを取るのが難しく、すぐに倒れそうになる。
 

57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:13:18.40 ID:PslLESF/O
 
从'ー'从 「ユニットのスイッチを入れれば、ぶわっとなって自然に立ってくれるよ」
 
川 ゚ -゚) 「スイッチ……これか」
 
スイッチを入れると、掃除機の先端から風が放出され、地面から少し浮いた。
ホバークラフトの様な原理なのだろうか、空気を推進力にしている様だ。
よく見ると、筒の背面にも無数の突起物が出ている。
 
从'ー'从 「乗ってみて」
 
川 ゚ -゚) 「ああ」
 
筒を後ろに少し倒し、掃除機のヘッドに足を掛けて乗ってみる。
ワタナベが板をスライドさせ、私の尻の高さに調整してくれたので、それに体重を掛けてみた。
 
どんな原理かはわからないが、筒からも空気が放出され、それ以上傾くのを防ぐ。
どこかにバランサー的なものが内蔵されているのだろう。
案外悪くない乗り心地だ。
 
川 ゚ -゚) 「ほう……」
 

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:15:03.57 ID:PslLESF/O
 
从'ー'从 「どうかな?」
 
川 ゚ -゚) 「問題無さそうだな、見た目はアレだが」
 
ダサさは拭えない物の、これならば移動は楽になるかもしれない。
後は速さと燃料の問題だが。
 
川 ゚ -゚) 「これはどうやって前に進むんだ?」
 
从'ー'从 「メインユニットにレバーがあるよね? それを行きたい方向に倒してみて」
 
川 ゚ -゚) 「これだな……よし」
 
私はレバーを前方に勢いよく倒してみた。
 
三川;゚ -゚) 「うお!?」
 
从;'ー'从 「た、倒しすぎ!」
 
その瞬間、一気に加速し、前方にかなりの速さで滑る様に進んだ。
振り落とされんばかりの勢いではあったが、見た目とは裏腹に安定性は高く、転ぶ事は免れた。
 

61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:17:15.19 ID:PslLESF/O
 
从'ー'从 「速度はレバーの倒し具合で変わるから、ゆっくり動かしてね」
 
川;゚ -゚) 「そういうのは先に言ってくれ」
 
そんなアクシデントはあったものの、ほんの数分で操作に慣れ、快適に動かせるようになった。
感覚的にはゲームのそれだ。まんまヌ○チャクとか言わない様に。
あまりゲームはやらない方だが、そんな私でも問題なく乗ることが出来た。
 
从'ー'从 「上手い上手い、もうバッチリだね、クーちゃんすごいなー」
 
川 ゚ -゚) 「ふむ……こんなもんか。……そうだ、これのバッテリーはどのくらい持つんだ?」
 
電動で充電式らしいが、どうやらフル稼働で24時間ぐらいは軽く持つらしい。
中々優秀かもしれない。
ただ、充電はここでしか出来ないから、切れる前に戻ってくる必要はあるだろう。
 
ここに戻らずAA界を巡る場合には向かないかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「そのための車輪か……」
 
メインユニットに付いている車輪が掃除機らしさを際立たせていたが、これは電力切れの際、移動が楽な様に付けられたものらしい。
掃除機、掃除機と馬鹿にしていたが、色々と考えられた優秀な機械の様だ。
  _,
川 ゚ -゚) 「まあ、ダサいのはダサいのだが……」


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:19:08.06 ID:PslLESF/O
 
从'ー'从 「いってらっしゃーい」
 
私は、ワタナベの陽気な声に見送られ、掃除機を緩やかに発進させた。
 
・・・・
・・・
 
川 ゚ー゚) 「やあ、ブーン、おはよう」
 
掃除機改めマシンの旅は快適で、ものの20分程度で先日、ブーンと別れた場所に辿り着いた。
そこには地面に広がった大きな白い布が存在していた。
膨れるとは聞いていたが、想像以上に広がっている。
元の何倍ぐらいあるのだろうか。
 
周りを見る限りでは、あの3人とツンはもういない様だ。
 
( ^ω^) 「お! クー、おは──」
 
川 ゚ー゚)
 
(;^ω^) 「……よう……だお」
 

67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:22:06.46 ID:PslLESF/O
  _,
川 ゚ -゚) 「……うん、やっぱりそういう反応なんだな」
 
ひょっとしたらこのマシンは、こちらの世界ではそれなりにイカシたデザインとして受け入れられているのかと若干期待したが、
ブーンの何か残念そうな物を見る目を見た限りでは、やはり残念な姿らしい。
 
(;^ω^) 「えっと……」
  _,
川 ゚ -゚) 「皆まで言うな。移動手段がこれしかなかったんだ」
 
私は何か言いたげなブーンを制し、マシンのスイッチを切り、地面に降り立つ。
地面はまだ濡れているが、この辺りに倒しておいても多分大丈夫だろう。
水に濡れるのがダメなら、ここまでの走行時に問題が起きていそうだ。
 
( ^ω^) 「今日はどうしたんだお?」
 
川 ゚ -゚) 「うん、ちょっとブーンと話がしたくてな」
 
そう切り出したものの、実際問題、何を話せば良いのかわからない。
結局はブーンの事を聞くしか出来ないが、兎も角色々と話してみることにした。
 

70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:25:05.78 ID:PslLESF/O
 
地面が濡れているので、そのまま立って話そうとしたが、ブーンは自分の上に座るよう勧めてくれた。
ブーン自身もまだ湿っている箇所もあったが、乾いた箇所を探して座り、ブーンの顔もその辺りに移動してきた。
 
川 ゚ -゚) 「重くないか?」
 
( ^ω^) 「へーきだお」
 
私はブーンの紳士的な態度と答えに満足し、笑顔を向けた。
まあ、そこで重いとか言われていたら多分顔面を踏みつけていただろうが。
 
川 ゚ -゚) 「ブーンは元の星でも空を飛んでいたのか?」
 
( ^ω^) 「うんお。飛んでたお。みんなで一緒に飛んでたお」
 
聞いてみて、いきなり危険球を放ってしまったかと思ったが、ブーンの反応は存外に軽いものだった。
話を聞く限りでは、元の星が滅んだ事や、同じ種族の仲間が誰もいなくなった事は気にしていない様だ。
元は高度な文明の世界に住んでいたのではないかと疑問に思ったが、元の星もここと変わらぬ牧歌的な星だったらしい。
 
川 ゚ -゚) 「ここにはどうやって来たんだ?」
 
( ^ω^) 「おー……、あんま覚えてないけど、何かすごい爆発して、ふよふよ飛んでたら、いつの間にかここにいたお」
  _,
川 ゚ -゚) 「……それはつまり、単独で大気圏突入して来たという事か?」
 
ブーンの言葉をそのまま解釈すれば、とてつもない丈夫さだと言える。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:27:51.53 ID:PslLESF/O
 
結論から言えば、ブーンはあまり知能が高くない。
故に、今の状況をただ有るがままに受け入れている様だ。
難しい事はわからない。それがブーンの考えだ。
 
川 ゚ -゚) 「となると、やはり何で飛べなくなったのかよくわからんな……」
 
( ^ω^) 「そうだおねー、僕もよくわからんお」
 
心因性の問題等は無縁に見える反応のブーン。
やはりAA界の大気組成とかその辺りの物理的要因を調べた方が建設的かもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「空か……飛べるものなら私も飛んでみたいな……」
 
人は独力では空を飛べない。それが私の世界の常識だ。
しかし、ここは異世界だ。
私も空を飛べるかもしれないのだ。

もっとも、元の世界の非常識がAA界でも非常識に当たる事は多々あると痛感させられているから、あまり無茶は出来ないが。
 
( ^ω^) 「僕が飛べるようになったら、クーも乗せてあげるお」
 
川 ゚ー゚) 「そうか、ではますますブーンが飛べる手段を探さないとな」
 
私は、穏やかに流れるブーンとの一時を楽しんだ。

・・・・
・・・

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:29:46.72 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) 「綺麗なものだな……」
 
その後、ブーンに別れを告げ、何処へ向かうか迷ったが、近くにあるという湖を目指すことにした。
山に向おうかとも思ったが、先に近いこちらを見ておこうかと思い立った。
雨の後で増水したり濁ったりしているかと思ったが、澄んだ湖面は穏やかな空気を醸し出している。
 
川 ゚ -゚) 「ツンの話だと、ここら辺りも誰かいるらしいが……」
 
いるにはいるが、よく知らない相手だとツンは言っていた。
敵意の有る無しはわからないが、見た目ひ弱そうですぐ水中に隠れるから交友がないらしい。
 
川 ゚ -゚) 「マシンからは降りておくかな……」
 
静音設計の掃除機、もとい、マシンではあるので、それほど騒がしいというわけでもないが、
妙ちきりんな見た目は臆病な相手には威圧感を与えるかもしれない。
まあ、それ以前に私も恥ずかしいのだが。
 
しばらく湖面を眺めていたが、何の反応もない。
昼食を取るにも早過ぎるので、マシンを置いて湖の周りを歩いて回ってみることにした。
 

76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:31:06.54 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) 「そう言えばこの世界には季節はあるのだろうか?」
 
気温や風の感じを私の常識に当てはめると、今は春から夏にかけてと言った所か。
元の世界と同じぐらいではなかろうか。
 
だからと言って、それがAA界に季節がある事に繋がるわけでもない。
たまたま今が元の世界と同じ様な季候だっただけで、AA界自体はずっと同じ季候が続いている可能性もある。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、そのくらいは聞けば答えてくれるだろう」
 
彼女は今日も来るのだろう。
こんな些細な質問にはすぐ答えてくれそうではある。
 
もし季節があるのなら、夏はここで泳いでみるのもいいかもしれない。
こんなに澄んだ湖は生まれて初めて見る。
また遊び気分になっている自分を戒めるべきかと思いもしたが、休む事もたまには必要だと割り切る事にした。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、それ以前に水着がないんだけどな」
 
遊びに来たわけでもないのだから、そんなものは当然準備していない。
仮に準備されていたとしても、用意した奴がアイツだ。
着れた物じゃない水着が入ってそうで見たくない。
こう誰もいないと、別に裸で泳いでもいいかもしれないがそれは流石に控えようとは思う。
 

79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:33:06.30 ID:PslLESF/O
 
しかし、水中を覗き込んでも全く生命を感じられない湖は少々怖いものがある。
微生物レベルではいるのかもしれないが、魚の1匹も見受けられない。
 
川 ゚ -゚) 「彼女の話では、ブーン達は原生生物ではないと言うが……」
 
では、原生生物はいるのだろうか。
ワタナベはどうなのかとか、また聞くべき事を聞いていなかったと後悔するが、それは今日の夜にでも聞いてみよう。
 
川 ゚ -゚) 「そもそもこの星はどんな星なのか……」
 
複数の滅んだ星からの脱出民が辿り着いている。
それだけでも、かなり特殊な環境な様な気もするが、この広い宇宙にとってはよくある事かもしれないのだ。
その辺りの判断基準さえ私にはわからない。
 
そういった知識を得る為にも探索を繰り返しているのだが、どうにも成果が芳しくない。
まだ3日目だ。焦り過ぎても仕方がないのかもしれないが。
 
考え事をしながらひたすら歩いていたら、いつの間にか湖を一周していた。
と言っても、川の対岸に辿り着いただけで、マシンのある場所に行く為には、川を越えねばならない。
橋などは見当たらないので、また一周して戻るか、川に入るかの二択から選ぶしかないわけだ。
 

81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:35:12.63 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚) 「まあ、膝ぐらいなら平気な水温だな……」
 
当然の如く後者を選び、履いていたブルーのスニーカーと靴下を脱ぐ。
ズボンは緩めなので、膝まで捲り上げるのも簡単だ。
 
一応、手を突っ込んでみて、水底の状態を確かめてみた。
鋭利な石などは見受けられず、特別滑りやすいという感じでもなかったのでそのまま水に足を入れた。
 
川 ゚ -゚) 「流石に少し冷たいな……しかし、心地良い冷たさだ」
 
緩やかな流れに足を取られる事もなく、川の半ば辺りまで歩いた。
演出的にはこの辺りで何かしら襲い掛かってきて然るべきだが、幸い、水面には鮫の背ビレの様な有りがちな脅威は見当たらない。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、そんな露骨に危険があるなら誰かしら注意してそうだしな……」
 
ツンの話だと、ここで見かけたのは先の臆病者だけらしいから、これといって警戒対象もないわけだ。
探すにも、水中を探れそうな道具は持ち合わせていない。
この辺りの調査はまた今度にして、今日は山に向かう方が賢明かもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「さっさと上がるか──」
 
( ´_ゝ`)
 

85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:37:17.24 ID:PslLESF/O
 
川 ゚ -゚)
 
( ´_ゝ`)
  _,
川 ゚ -゚) 「おい……」
 
( ´_ゝ`)
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
( ´_ゝ`)
  _,
川 ゚ -゚) 「お前だ、お前」
 
( ´_ゝ`)「?」
 
水の中、間延びした顔の様なものが揺らめいている。
流される事もなく、私の足元を維持していることから何らかの生物だとは思われる。
ツンの話にあった臆病者かもしれないが、それにしては逃げもせずに居座っているのが不自然だ。
 
( ´_ゝ`)「ああ、私の事はお気になさらず、どうぞ渡ってください」
  _,
川 ゚ -゚) 「いや、気にするなと言われてもな……」
 

89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/20(水) 23:40:20.68 ID:PslLESF/O
 
ズボン履きとは言え、真下からじっと覗かれているのは女性としてはいささか気分が良くない。
先に進むも、足元の顔はぴったりとついてくる。
  _,
川 ゚ -゚) 「おい……」
 
( ´_ゝ`)「何でしょう?」
  _,
川 ゚ -゚) 「何故ついてくる?」
 
( ´_ゝ`)「何故と言われても、私は川そのものみたいなものなので……」
  _,
川 ゚ -゚) 「そうか……ならばさっさと渡る事にする」
 
私はそう宣言し歩調を速めた、と言うか走った。
水飛沫がズボンやシャツに飛ぶが、気にせず走る。
しかし浅いとは言え水中、途中で足を取られ、わずかによろけてしまう。
 
川;゚ -゚) 「うおっと!?」グニッ!
 
( ゚_ゝ゚)「ギィャァァァァーッ!?」
 
そしてそのまま、乱れた足は川そのものだと言った生物の顔面を踏み抜いてしまった。
 
川;゚ -゚) 「あれ?」
 
 
 第9話 了 〜 託されたもの、受け取ったもの、そして 〜
 

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