2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:21:51.32 ID:c0LEd3c1O
 
 ダイ11ワ カレ ト カレ ノ オナジ セカイ 
 
 
( ´_ゝ`)「……」(´<_` )
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
何とか説得に成功し、湖までもう1人のモノを連れ戻す事が出来た。
流石にあのマシンに2人乗りは無理だったので歩いてもらったが、途中、ものすごく乗りたそうな目でこちらを見ていたのに気付いてはいた。
そして現在、湖まで辿り着き、2人はご対面と相成ったわけだが、先程からずっと無言で見詰め合っている。
 
川 ゚ -゚) 「……ずっと見ていてもキモさは変わらんぞ?」
 
(;´_ゝ`)「いい加減キモさから離れてくれ」(´<_`;)
 
私の振った話題に見事に声を揃えて答える2人。
記憶や経験は同じ物で構成されている2人だ。
行動のタイミングやパターンが似通るのも無理のない話ではある。
 
(´<_`;) 「大体、俺はこいつほどキモくない」
 
(;´_ゝ`)「いや、見た目はほぼ一緒だよ?」
 

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:24:58.33 ID:c0LEd3c1O
 
川 ゚ -゚) 「では、後は若い2人に任せて、私は行くぞ?」
 
(;´_ゝ`)「え? クーちゃん行っちゃうの?」
 
(´<_`;) 「てか、その去り方は何か違くね?」
 
2人して私を引き止めるが、正直な所、これ以上私がここにいてもあまり意味がない。
と言うか、する事がない。
 
(;´_ゝ`)「いや、その、何て言うか気まずいと言うか……」
 
(´<_` ) 「俺は別に話す事もない」
 
口で何と言おうが、彼らはお互いの事をわかっている。
モノがどういう生き方をして来て、もう1人のモノに何を望んでいるか。
私が今更言うまでもない話なのだ。
 
川 ゚ -゚) 「この世界に他に湖やここと同じくらい水がある場所はあるのか?」
 
( ´_ゝ`)「いや、俺が知っている範囲ではここぐらいしかないな」
 
(´<_` ) 「この川は山に繋がっているだけだしな」
 

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:27:37.05 ID:c0LEd3c1O
 
ならばやはり答えは出ているも同然だ。
環境的な要因をとって見ても、吸収出来ない以上、彼らはここで共生していくしかない。
湖はそれなりに広いし、四六時中顔を合わせなくてもよいぐらいではあるが。
 
川 ゚ -゚) 「モノ、お前がどうしたいかはもう決まってるのだろう?」
 
( ´_ゝ`)「……ああ」
 
川 ゚ -゚) 「そしてもう1人のモノ、お前はモノがそれを口に出すまでもなく理解している」
 
(´<_` ) 「……まあな」
 
川 ゚ -゚) 「だったら私が言う事は何もないだろ?」
 
( ´_ゝ`)「……そうかもしれんが」
 
川 ゚ -゚) 「しれんが?」
 
(´<_` ) 「……こいつと2人っきりは何か……」
 
川 ゚ -゚) 「何か?」


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:30:12.37 ID:c0LEd3c1O
 
( ´_ゝ`)「気まずい」(´<_` )
  _,
川 ゚ -゚) 「そんなもん私が知るか」
 
2体のゼリー状の人型が同時にくねくねと揺れる様は軽くキモい。
元が同じなだけに、どちらも臆病者なのは変わりない様だ。
もう1人のモノも威勢はいいが、根は大差ないらしい。
 
川 ゚ -゚) 「兎に角、2人で話せ」
 
まずはそれが先決だ。
私はそう彼らに言い放ったが、本当の所、すぐに話さなくてもいいと思っている。
一緒に暮らしていれば、そのうち自然と慣れてくるだろう。
 
彼らには時間はある様だから、長い目で見ていけばいい。
 
( ´_ゝ`)「……」(´<_` )
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
納得の沈黙か不服の沈黙かはわからないが、私はやるべき事はやったつもりだ。
こいつらはこのまま放って置いても多分大丈夫だろう。
私は私でやらねばならない事がある。
 

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:33:02.31 ID:c0LEd3c1O
 
川 ゚ -゚) 「落ち着いてからでいいんだが、こっちの作業にも協力を頼みたい」
 
( ´_ゝ`)「協力?」(´<_` )
 
川 ゚ -゚) 「ああ、どちらかと言えば頭脳労働面でだな」
 
私は、先程説明した次元の裂け目の発生原因の特定についての協力を彼らに要請した。
彼らの頭脳を買っていると。
 
( ´_ゝ`)「ああ、そういう事か。他ならぬクーちゃんの頼みだ、出来る限り協力するよ」
 
(´<_` ) 「なるほどな。まあ、この星全体の事だし、あんたの頼みじゃなくても協力する事は吝かではないが」
 
( ´_ゝ`)「何カッコつけてんの? ここは素直に点数稼いどこうよ?」
 
(´<_` ) 「別に格好をつけているわけじゃないさ。この世界の住民として協力するまでだ」
 
( ´_ゝ`)「ウソつけ、お前にもスケベ根性があるはずだ」
 
(´<_` ) 「そんなものはないさ。俺は純粋に──」
 
( ´_ゝ`)「いいや、それはウソだね」
 

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:36:26.87 ID:c0LEd3c1O
 
(´<_`#) 「何故そう言い切れる?」
 
( ´_ゝ`)「そんなものは決まっている。お前は元々俺なんだ! スケベ根性がないわけがない!」
 
川 ゚ -゚) 「わー、キッモーい」
 
等と主張するモノだが、元は同じでもそういった考え方が変わったから別のモノになったのではないかと思うのだが。
変態が増殖されても扱いに困るから、どちらかと言えばもう1人のモノの方の協力に期待している。
 
(´<_`;) 「クッ……確かに……」
  _,
川 ゚ -゚) 「お前もおんなじかよ」
 
訂正。どっちもどっちだった。
 
まあ、何にせよ性格に難はあれど頭脳だけは頼りになるだろう。
彼らが何か気付く事に期待しよう。
 
川 ゚ -゚) 「取り敢えずよろしく頼む。何か気付いたらワタナベの家……知ってるか?」
 
私の問いに2人は同時に首を振る。
持参していた地図を見せ、一応の場所は伝えたが、彼らの身体の造りの事もあるので、私が時々こちらに寄る事に決めた。
 

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:39:02.23 ID:c0LEd3c1O
 
( ´_ゝ`)「把握した」
 
(´<_` ) 「調べられる範囲で調べてみよう」
 
川 ゚ -゚) 「ああ、じゃあ、またな、モノ……」
  _,
川 ゚ -゚) 「モノだと言い辛いな。どっちを指してるかわからん」
 
( ´_ゝ`)「好きに呼んでくれ。俺がモノ1とか──」
 
(´<_` ) 「いや、俺がモノ1だろ?」
 
( ´_ゝ`)「え? お前俺から生まれたじゃん? 元の俺の方が1じゃね?」
 
(´<_` ) 「元は同じなのだろ? だったら優秀でキモくない方の俺が1だろ」
 
(;´_ゝ`)「だからキモくないってば。つか、俺がキモいならお前もキモいんだって」
 
(´<_` ) 「お前の方がキモいよ。百歩譲って外見が同じだとしても、纏ってる雰囲気とか目線とか」
 
(;´_ゝ`)「雰囲気はともかく目線って何?」


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:42:36.57 ID:c0LEd3c1O
 
(´<_` ) 「事あるごとにクーちゃんの方ちら見してただろ? 主に胸を」
  _,
川 ゚ -゚) 「ほう……」
 
(;´_ゝ`)「お、お前だって見てたじゃないか? 主に脚とか」
  _,
川 ゚ -゚) 「ほほう……」
 
やれやれ、ケンカをするほど仲が良いと言うが、これでは話が進まない。
明確な嗜好の違いがわかったところで2人を爆散させ、黙らせる。
 
(;´_}{ゝ`)「正直すまんかった」(´<}{_`;)
 
川 ゚ -゚) 「……兎に角、頼んだからな」
 
川 ゚ -゚) 「兄者」
 
( ´_ゝ`)「アニジャ?」
 
川 ゚ -゚) 「弟者」
 
(´<_` ) 「オトジャ?」
 

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:45:08.52 ID:c0LEd3c1O
 
川 ゚ -゚) 「モノだと区別が付け辛いからな。名前が無いのなら私がつけてやる」
 
私はそう言って2人を交互に見比べた。
どちらも私が告げた名前を確かめる様に何度も口に出している。
 
( ´_ゝ`)「アニジャ……これはどういう意味なんだい?」
 
川 ゚ -゚) 「私の国ではな、漢字という文字があるんだ」
 
(´<_` ) 「カンジ?」
 
川 ゚ -゚) 「それではモノという字はこう書くんだ」
 
私は腰のポーチからペンとメモ帳を取り出し、“者”という字を書いて見せた。
2人は興味深げにメモ帳を覗き込んでいたが、当然と言うべきか読み方が違う事に疑問を持った様だ。
 
川 ゚ -゚) 「漢字は1つの文字でいくつかの読み方をするんだ」
 
“者”と書いて“モノ”とも“ジャ”とも読めると2人に教える。
大体において、文脈や上下に付く文字によって読み方が変化すると説明を加えた。
 

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:47:28.60 ID:c0LEd3c1O
 
川 ゚ -゚) 「で、兄者はこう、弟者はこう書く」
 
それぞれの名前をメモ帳に書き、2人に見せる。
兄と弟、その言葉自体は2人も理解している。
翻訳機がこの世界の言葉に訳してくれるだろうから。
 
( ´_ゝ`)「兄……」
 
(´<_` ) 「弟……」
 
川 ゚ -゚) 「どっちが兄だとか言いたい事もあるかもしれんが、そんな細かい事はどうでもいいだろう?」
 
( ´_ゝ`)「……」(´<_` )
 
川 ゚ -゚) 「お前達は同じモノから生まれた家族で、対等の存在なのだからな」
 
( ´_ゝ`)「家族……」
 
(´<_` ) 「対等……」
 
川 ゚ -゚) 「まあ、あまり深く考えるな。私が区別し辛いからそう呼ぶだけだ」
 

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:50:14.90 ID:c0LEd3c1O
 
名乗りたい名前があるなら自分で好きに名乗ればいい。
私はそう言ってひらひらと軽く手を振ってみせた。
名前は重要なものだし、私は私なりにちゃんと考えて付けてはみたが、それが彼らの気に入るかどうかはまた別問題だ。
 
2人は押し黙り、時折互いの様子を伺っている。
しかし、沈黙はそう長くは続かず、どちらともなく口を開いた。
 
( ´_ゝ`)「兄者か……いい名前だな」
 
川 ゚ー゚) 「そうか?」
 
(´<_` ) 「まあ、少々引っかかるとこもなくはないが、名前自体は悪くない」
 
川 ゚ー゚) 「それなら良かった」
 
モノ、いや、兄者は穏やかな笑みを浮かべ、弟者は少しはにかんだ笑みで共にその名を受け入れてくれた。
私は片手を軽く曲げ前に突き出した。
2人の視線がその手に集まった所で彼らの手を交互に指差した。
 
( ´_ゝ`)「え? 何?」
 
川 ゚ -゚) 「察しが悪いな。握手だよ、握手」
 

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:54:37.36 ID:c0LEd3c1O
 
(´<_` ) 「……誰と?」
 
川 ゚ -゚) 「お前達2人に決まってるだろ?」
 
仲直りの意味を込めて、これから共に生きる2人が握手を交わすぐらいはやっておいて欲しい所だ。
私はそう言って、2人を促した。
 
(´<_` ) 「俺はまだこいつを認めたわけじゃ──」
 
( ´_ゝ`)つ スッ
 
何か言いかけた弟者を遮り、兄者が数歩歩み寄り、弟者の方へ右手を伸ばす。
弟者は複雑な表情でそれを見るが、手は下ろしたままだ。
 
(´<_` ) 「お前、人の話を……」
 
( ´_ゝ`)「俺は嬉しかった」
 
(´<_` ) 「何がだよ?」
 
( ´_ゝ`)「お前と出会えて」
 
(´<_` ) 「……」
 

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:55:51.47 ID:c0LEd3c1O
 
( ´_ゝ`)「お前が生まれて来てくれて、本当に嬉しかった」
 
(´<_` ) 「……兄者」
 
( ´_ゝ`)「弟者、今日から俺達は家族だ。お前は俺がずっと求めていた家族なんだ」
 
(´<_` ) 「……兄者が長い間抱き続けていた孤独は知っている」
 
( ´_ゝ`)「それは弟者、お前の孤独でもある」
 
(´<_` ) 「……ああ、そうだな。俺も……」
 
( ´_ゝ`)「だが、これからは寂しくないんだ」
 
(´<_` ) 「ああ……俺も生まれてこれた事は嬉しかったよ」
 
( ´_ゝ`)つ 「弟者」
 
⊂(´<_` ) 「兄者」
 
 
   「よろしく頼む」
( ´_ゝ`)つ⊂(´<_` )
 

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:57:35.09 ID:c0LEd3c1O
 
川 ゚ー゚)
 
弟者が数歩歩み寄り、2人はがっしりと握手を交わした。
兄者は満面の笑みを浮かべているが、弟者はまだ少し戸惑ったような笑みだ。
しかし、お互いが歩み寄れたのだ。
 
この2人はきっと上手くいく。
 
川 ゚ -゚)「!」 ( ´_ゝ`)「!」(´<_` )
 
そう思った瞬間、世界が大きく揺れた。
何かが崩れる様な轟音と共に、地面が上下に震動する。
 
(;´_ゝ`)「な、なななな?」
 
川;゚ -゚) 「地震か!? 2人共伏せろ」
 
(´<_`;) 「クッ!? 何だってんだ!?」
 
立っていられないほどの揺れに私はしゃがみ込む。
幸いこの近辺は湖以外何も無い、広い草原だ。
地割れでも起きない限りはここで伏せていれば危険は無いだろう。
 

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/30(土) 23:59:07.14 ID:c0LEd3c1O
 
時間にして数分ほどで揺れは急にぴたりと収まった。
これといった被害も無く、無事に凌げた様だ。
 
川;゚ -゚) 「……どうやら収まったようだな」
 
(´<_`;) 「急に何だったんだ?」
 
(;´_ゝ`)「2人共、ケガは無いか?」
 
川 ゚ -゚) 「ああ、大丈夫だ」
 
(´<_`;) 「こちらも問題ない」
 
この世界にも地震というものはある様で、兄者の話だと以前にも何度かはあったらしい。
これといった被害を受けた事はないらしいのだが、湖に引き篭もり切りだった兄者が被害を受けていなくても
この世界のどこかでは大災害になっている可能性もあるから楽観視は出来ない。
 
( ´_ゝ`)「てか、ここ1週間で2度目じゃないかな?」
 
(´<_` ) 「そう言えば最近もいつだったか揺れたな。あれはさっきのより大きかった気がする」
 
川 ゚ -゚) 「そう珍しいわけでもないのか」
 

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:02:04.88 ID:V9Bhs3IUO
 
そんなに頻繁に起こるものなら気を付けねばなるまい。
今みたいに何もない草原に立っている時はいいが、建造物内や山の中等、それにマシンの走行中などに
遭遇した場合は多少の危険もあるだろう。
 
私は、そこまで考えて1つ問題に気付いた。
 
川;゚ -゚) 「すまん、私は一旦ワタナベの家に戻らねばならない」
 
建造物、つまりはワタナベの家が先程の地震で被害を受けている可能性は大きい。
下手をしたらワタナベが倒れた書架等の下敷きになる等の事故に巻き込まれているかもしれない。
 
川 ゚ -゚)ノ 「それじゃあ、またな。仲良くしろよ?」
 
( ´_ゝ`)ノ 「ああ、もちろん。じゃあ、またね」
 
ヽ(´<_` ) 「まあ、一応は了承した。またな」
 
私は挨拶もそこそこに、急いでマシンを起動させ、飛び乗る。
走り去る私の耳に、微かにだが2人の揃った声が届いた気がした。
 
「ありがとう」
 
・・・・
・・・
 

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:04:06.00 ID:V9Bhs3IUO
 
川;゚ -゚) 「ワタナベ!?」
 
从'ー'从 「あ、おかえりー、クーちゃん。今日は早かったね」
 
川;゚ -゚) 「ワタ……ナベ……?」
 
从'ー'从 「?」
 
マシンを最高速ですっ飛ばし、急ぎワタナベの家に帰り着いたが、室内は出かける時と全く変わらず綺麗に片付いていた。
あれだけの揺れがあったのだ、多少なりと机や椅子の位置ぐらいはずれていてもよさそうなものだが、それすらも整然と
何事も無かったように並んでいる。
 
川;゚ -゚) 「いや、地震があったからここも滅茶苦茶になっているかと思ったんだが……」
 
流石にこの短時間の間に1人で片付けるのは不可能だったはずだ。
私は急いで戻って来たわけをワタナベに説明する。
 
从'ー'从 「ああ、それなら大丈夫だよ。この家は耐震構造になってるの」
 
川 ゚ -゚) 「耐震構造?」
 

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:06:02.75 ID:V9Bhs3IUO
 
ワタナベの話によると、この家は地震に対してかなりの耐性がある様だ。
先程のぐらいの規模の地震では、コーヒーカップに波紋が出来ないほどだと言う。
どういう設計になっているかは知らないが、元の世界の常識から考えると、とんでもなく高度な技術の様に思える。
 
川 ゚ -゚) 「AA界は地震が多いのか?」
 
从'ー'从 「そんなに多くはないよ。でも、時々おっきく揺れるね」
 
週に何度も揺れるような事は珍しいらしい。
起きない時は年単位で起きないらしいから、今回の地震はたまたま起きる間隔が近かっただけかもしれない。
 
しかし……
 
川 ゚ -゚) 「その割にはやけに地震に対して強固な造りになってるんだな」
 
常日頃、地震に悩まされているのなら耐震設計にこだわるのもわかるが、そう頻度の高くない災害対策にしては
手がかかり過ぎている気がしなくもない。
もっとも、AA界の技術水準からすればこれくらい普通の事だと言われればそれまでだが。
 
从;'ー'从 「うーん……このお家は私が建てたわけじゃないからよくわかんないなー」
 
川 ゚ -゚) 「そうなのか?」


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:09:16.53 ID:V9Bhs3IUO
 
聞くまでもなく、私もワタナベが建てたとは思い難いものがある。
とてもじゃないがワタナベがそんな事を出来そうには見えない。
ならば誰が建てたのだという話になるのだが、それは……
 
从'ー'从 「うん、ロマさんに建ててもらったんだよ」
  _,
川 ゚ -゚) 「じいちゃんに?」
 
いや、それはない。
どう考えてもそれは無理だ。
 
この純和風の外見や内装については、じいちゃんの意見が入ってる可能性もあるが、先の耐震構造にしろ、
技術的側面から見てじいちゃん、と言うより元の世界の人間には不可能だ。
 
であるならば、やはり別の誰がという話になる。
 
川 ゚ -゚) (恐らくは……)
 
从'ー'从 「それまではね、穴の中に住んでたんだよー」
  _,
川 ゚ -゚) 「穴の中?」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:12:24.89 ID:V9Bhs3IUO
 
ワタナベは元々地下に住んでいたらしい。
物心付いた頃から住んでいたらしいから、どういう経緯でそうなったのかはわからない様だ。
 
それである時、じいちゃんがこの世界に来て、しばらく一緒に暮らしていたらこの家を建ててくれたそうだ。
 
川 ゚ -゚) (じいちゃんの日記にはその辺りの話はなかったな……)
 
恐らく、家が建った後に日記を書き始めたのだろう。
AA界に来た理由などは後から回顧して書き記してはあったが、大まかなものであった。
その辺りの細かい話までは書いてなかったのだろう。
 
川;゚ -゚) (しかし、やはりワタナベは30年前からいるのだな……)
 
少なくともワタナベは軽く30は越えているという事だ。
見た目はどう見ても私より若いか変わらないぐらいだ。
ワタナベの方が小柄なため、私たちが並んでいるときっと私の方が年上に見られるだろう。
 
もっとも、私は30には程遠いが。
 
川 ゚ -゚) (四捨五入したら0歳だし)
 

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:16:27.32 ID:V9Bhs3IUO
 
じいちゃんが建てたかどうかの真偽を、わざわざワタナベと議論して、明確な答えを出す必要はない。
私だってそれほど馬鹿ではないのだ。
この家の事、ワタナベの事、そして彼女の事。
 
少しずつは理解して来ている。
 
ただ、その中で意外にも一番謎なのはワタナベの存在だ。
 
从'ー'从 「あ、クーちゃんひょっとしてお昼まだじゃない?」
 
川 ゚ -゚) 「ああ、折角おにぎりを握ってもらっていたが、そのまま持ち帰ってしまったな」
 
从'ー'从 「じゃあ、一緒に食べようか? おにぎり温める?」
 
川 ゚ -゚) 「何を馬鹿な事を。この時間がたって冷たくなったおにぎりが美味いんだぞ?」
 
从'ー'从 「そうなの?」
 
川 ゚ -゚) 「そうだ。作り立ては作り立てで味があるが、こうやって寝かせたおにぎりもまた別の味があるんだ」
 
从'ー'从 「そうなんだー。じゃあ、それそのままで、お味噌汁とか温めてくるね」
 
川 ゚ -゚) 「ああ、よろしく頼む」
 

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:19:05.51 ID:V9Bhs3IUO
 
台所へ軽やかな足取りで向かうワタナベを見送り、私は部屋へ戻った。
今日はもう、出歩くのは止めて部屋着に着替える事にする。
 
川 ゚ -゚) 「何故、ワタナベなのだ……?」
 
緩い服に着替えた事で一息つけた私は、先程までの考えの続きを追う。
 
ワタナベは、次元の裂け目の件でのAA界の責任者としてはいささか頼りない。
あまりに知らない事が多過ぎるし、こちらの行動、発生原因の追求にもあまり興味がない様に見える。
 
私自身には興味がある様だが、それはあくまで客としてだろう。
じいちゃんの代わりに遊びに来た客をもてなしている様な印象を受ける。
 
無論、役割分担もある事だ。
ワタナベがそういう役で、他の誰かが調査のバックアップをするというのなら話もわかる。
 
しかし……
 
川 ゚ -゚) (ワタナベはここに1人で住んでいる)
 
以前に確かめた所、本人はそう言った。
 
川 - -) (そろそろ問い詰め時かもしれんな……)
 

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:21:04.73 ID:V9Bhs3IUO
 
<「あれ? クーちゃーん? お味噌汁、あったまったよー」
 
川 ゚ -゚) 「ああ、すぐ行く。ちょっと待ってくれ」
 
ワタナベにはきっと悪意はないと思う。
多分本当に知らないだけだ。
あの笑顔を見れば、そんな事はすぐわかる。
 
伊達に外務省勤めはしていない。
人を見る目はちゃんと養われている……はずだ。
 
そのワタナベが何故、ここで異世界からの人間を応対する事になったのか、今夜にでも確かめてみようかと思う。
 
川 ゚ー゚) 「いい匂いだな」
 
从'ー'从 「朝のやつをちょっと弄ったから、朝とは少し味が変わってるからね」
 
川 ゚ー゚) 「ワタナベは料理が上手いな」
 
从^ー^从 「えへへ、お料理は大好きだよ」
 
ワタナベにはきっと悪意はない。
 
・・・・
・・・
 

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:24:10.75 ID:V9Bhs3IUO
 
川 ゚ -゚) 「うーん……やはりじいちゃんの日記は当てにならんか」
 
私は読んでいた古びたノートを部屋の隅に投げ出し、布団にごろりと横になる。
時刻はまもなく日を跨ぐ。
 
今日は結局あの後どこへも出歩かなかったので、あまり疲れてはいない。
 
昼からはこの家の中を色々と探ってみた。
探ると言うと聞こえが悪いが、探検と言うと子供っぽいのでどっちもどっちだ。
次元の裂け目に関する資料やこの世界に関する資料等、色々と探してみた。
 
川 ゚ -゚)ヽ 「これも文字までは効果を発揮しなかったな……」
 
探してみて結構な数の本は見つかりはしたが、そのどれも私には読む事が出来なかった。
AA界の文字は私が知っているどの言語とも違ったもので書かれていて、言葉は翻訳してくれるこのイヤリングも
文字までは対応しきれてなかった。
 
何冊かワタナベに内容を聞いてみたが、どれも私の知りたい事が書かれている様な本ではなく、御伽話や童話等、
子供向けの本ばかりであった様だ。
 

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:26:21.29 ID:V9Bhs3IUO
 
しかもそれは、この星に伝わるものとは限らないらしい。
この星の伝承ならば何らかのヒントになり得るかもと、淡い期待は抱いたのだが、それも崩れ去った。
 
さらにワタナベにも読めない本があるらしく、結果、この家の書架から資料を漁るのは諦めるしかなかった。
 
それならと、家自体を探索してみる事にしたが、これと言って不審な点はなく、あったとしてもよくわからない
技術で構成された機械類だったので、やはりこちらも空振りに終わった。
 
ワタナベの話にあった穴、元々住んでいた地下へ続く扉もあったが、それは現在封鎖中との事だ。
まあ、これだけちゃんとした家があるのなら、わざわざ地下に潜る必要もないだろう。
 
川 ゚ -゚) 「昼の様な地震が何度かはあったらしいから、地下は既に潰れてるかもな」
 
そう思いはしたが、案外地下も地震対策はされているかもしれない。
地震がここ30年で起き始めたということもないだろう。
 
川 ゚ -゚) 「その辺はツン達に聞いてみてもいいかもしれんな……」
 
地震がこの30年で起き始めたのなら、それは次元の裂け目の発生と何らかの関わりがあると考えてもいいだろう。
 

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:30:11.51 ID:V9Bhs3IUO
 
川 ゚ -゚) 「そもそも、AA界で次元の裂け目が出来始めたのはいつからなんだ?」
 
迂闊だった。
30年前巨大な次元の裂け目、あれが発生し出した発端だと勝手に決め付けていたが、あれは元の世界の話だ。
AA界で出来始めたのはいつぐらいからは不明なのだ。
 
もっとも、初日の夜に見せてもらったイメージ通りなら、それはイコールと捕らえてもいいかもしれない。
だが、もう1つ疑問がある。
 
川 ゚ -゚) 「元の世界とAA界はいつ繋がったんだ?」
 
互いの星が出来た時から繋がっていたのか。
次元の裂け目が出来た所為で繋がったのか。
それにより、多少は意味合いも変わってくる。
 
元々、AA界で次元の裂け目は頻繁に出来ていたが、世界同士が繋がった所為で元の世界にも影響を与えるようになったのか。
それとも、元々繋がってはいたが、30年前に次元の裂け目が発生し出し、両方の世界に影響を与える様になったかだ。
 
後者の場合なら、今まで通りの調査の方向で良さそうだが、前者の場合ならむしろ……
 
川 - -) (AA界と元の世界の繋がりを切る方法を探すべきではないのか……?)
 
ここに住む者達を見捨てて──


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:32:57.89 ID:V9Bhs3IUO
 
川 ゚ -゚) 「いや、今まで通りの方針で行こう」
 
私は、過った考えを振り払う様に頭を振り、強い口調でそう宣言した。
この世界に住む者達は、外見こそバラバラだが、皆良いやつらなのだ。
 
しかし、どちらかと言えばAA界の方が次元の裂け目の影響は小さい様にも見える。
またあのボールのイメージの話だが、あれを見てもわかる様に、AA界の小さな裂け目が元の世界では大きな裂け目となる様だ。
AA界にあるのは小さいとも言えない、微小な物が大半で、それに触れても皆大して気にしていない様だ。
 
ブーンや兄者達の様な例外もあるから一概には言えないが、少なくとも、元の世界の様に組織掛かりで
補修作業を行っている様な事はない。
 
そこまで考えてまた別の可能性を思い付く。
それは次元の裂け目の発生原因が元の世界にある場合だ。
 
ただ、逆もまた真と考えはしたが、この可能性は捨ててもいいかもしれない。
あくまで彼女の言葉を信用するならだが、彼女の言い分では私の仕事はこの世界の次元の裂け目を消す事らしい。
発生原因がAA界にある様な事を匂わせもしていた。
 
鵜呑みには出来ないが、彼女がウソを言っているようには思えない。
 
川 ゚ -゚) 「それに、もしそれがウソなら、じいちゃんはこちらの世界に戻ったりはしなかっただろうしな」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:35:02.14 ID:V9Bhs3IUO
 
与えられた情報の断片を繋ぎ合わせるが、どれも答えにたどり着きそうにない。
問題が複数あるのも解答を難解にしている原因だが、やはり皆が情報の出し惜しみをしているのが最大の原因だろう。
 
それと、私自身の理解。
 
彼女は別として、向こうに隠すつもりがなくても、私がそれを聞かなかったから答えなかったものもあるだろう。
こちらの意図を相手が常に察してくれるわけでもない。
 
川 - -) 「何にせよ、彼女が来る前に情報の整理は必要だな……」
 
時刻は既に0時を回った。
もう間もなく、彼女が来る時間だ。
別に時間を決めているわけでもないのだが、同じ時間に来ると思って間違いないだろう。
 
彼女は察しが良く、そして私が察しが良いのも理解している。
この時間に来るというのが、暗黙の了解として我々の間に取り交わされたのだ。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、兎に角考えを進めるべきか」
 
ワタナベについて、最初の次元の裂け目の発生時期について、この家について、それから……
 

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:38:04.97 ID:V9Bhs3IUO
 
川 ゚ -゚) 「一応、地震についても聞いておくべきかな……」
 
この世界全体の風土については多少聞いてある。
滅びの道を辿った星の住人が集まったからこそ、自然のままの姿である事等は。
 
しかし、こちらから質問を切り出すのは効率が悪いと言う結論に至ってはいるので、多少考え物ではある。
これまでの流れからすると、彼女は現在の私に差し当たって必要なものから情報を開示している節もある。
 
昨夜はその辺りを盛大に皮肉ってみたが軽く流された。
まあ、あまり感情的なるのは外交官としてはふさわしくないので自重すべきであろう。
 
川 ゚ -゚) 「まずは向こうの持ち出す話題を聞くべきか」
 
得られる情報は得ておく。
その後に先の質問をぶつけてみる。
私の中でそういう結論が出た所で、襖の向こうに気配が近付いて来る事に気付いた。
 
川 ゚ -゚) (来たか……)
 
私は身体を起こし、布団に胡床をかく。
気配は緩やかに近付き、襖の前でその動きをぴたりと止めた。
 

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:40:12.75 ID:V9Bhs3IUO
 
从 ー从 「こんばんは、クーちゃん」
 
川 ゚ -゚) 「こんばんは。今日は何の話をしてくれるんだ?」
 
いつも通りの掠れ気味の声で彼女は挨拶をしてくる。
心なしか機嫌が良い様にも感じ取れるが、実の所はわからない。
 
从 ー从 「そうだね、今日はね、まずは……」
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
从 ー从 「おめでとう」
  _,
川 ゚ -゚) 「……は?」
 
よくわからないが祝福された様だ。
祝われる謂れが思い付かない私は、何とも間の抜けた言葉を返していた。
 
川 ゚ -゚) 「どういうことだ?」
 
从 ー从 「どういうって、言葉通りだよ?」


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:42:13.64 ID:V9Bhs3IUO
 
言葉通り、つまりは私に何やらおめでたい事があったらしいが、今日は別に私の誕生日でも何でもない。
宝くじは買ってないし、試験を受けた覚えもない。
当然、そういった意味でのおめでたでもない。
  _,
川 ゚ -゚) 「意味がわからん。今日はどちらかと言えば収穫は少なかったぞ?」
 
今日は午前中に兄者達に会っただけで、午後からは空振りもいい所だった。
調査の進展具合で言えば、明らかに昨日の方が実りがあった気もする。
 
川 ゚ -゚) 「少々性格に難のある、兄弟と話をしたぐらいだ」
 
从 ー从 「そう、それ」
 
パチンと、彼女が指を鳴らす音がした。
少々意外に思えたが、彼女にも感情の起伏はあるらしい。
 
川 ゚ -゚) 「あのキモ兄弟がどうかしたか?」
 
从 ー从 「だから、おめでとうなんだってば」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/05/31(日) 00:45:45.01 ID:V9Bhs3IUO
 
川 ゚ -゚) 「そりゃまあ、あの2人は何となく上手く行きそうな雰囲気になっておめでたいかもしれんが……」
 
私自身には直接的な関係はない。
調査に協力してくれる人間が2人増えた事はおめでたい事かもしれないので、それはそれでめでたいのだろうか。
 
从 ー从 「晴れて次元の裂け目の発生原因が1つ消えました」
 
川 ゚ -゚) 「……は?」
 
再び間抜けな返事が口を吐き、彼女の言葉を反芻する。
今彼女は、次元の裂け目の発生原因が1つ消えたと行った様に聞こえたが……
 
从 ー从 「だから、おめでとう、クーちゃん」
 
川;゚ -゚) 「なん……だと……?」
 
その言葉の意味を理解した私は、それだけの返事を搾り出すのが精一杯だった。
 
 
 第11話 了 〜 糾える縄の様に、人と人、世界と世界は繋がりを示す 〜
 

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