2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:09:24.55 ID:4Ly1m2upO
 
 ダイ15ワ セカイ ノ カタチ ハ ダレ ノ カタチ
 
 
川 ゚ -゚) 「捕まえた」
 
(;><) 「おうふ!?」
 
走り去るビロードを追い掛け、その頭を抑える。
マシンに乗るまでもなく、ストロークの短いビロードを捕まえるのは容易かった。
確か移動手段は退化して、ちんぽっぽに依存しているのではなかっただろうか。
 
(;><) 「放してくださいなんです」
 
川 ゚ -゚) 「流石にそう意味ありげに呟かれて逃げ出されたりしたら話を聞かないわけにもいかんだろ?」
 
尚ももがいて逃げようとするが、その力は思った以上に弱い。
私はビロードの脇に後ろから手を入れ、抱えあげる。
質感こそ硬いものの、中身が入ってないのかと疑わんばかりに軽い。
 
ああやって3人重なった1番上にいるのだから、軽い方が都合がいいのかもしれない。
 

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:12:37.20 ID:4Ly1m2upO
 
(;><) 「何でもないんです」
 
川 ゚ -゚) 「何でもないのにわざわざ1人でこんなとこまで来ないだろ?」
 
尚もじたばたと暴れるビロードを抱えたまま、マシンのそばまで戻る。
 
川 ゚ -゚) 「それで、あの2人はどこだ? そこまで送るか?」
 
(;><) 「知らないんです! 別行動なんです!」
 
私は抱えたままのビロードの顔を覗き見る。
それに気付いたビロードは、顔を明後日の方へ背けた。
  _,
川 ゚ -゚) 「あからさまに……」
 
(><;)
 
本人の言を借りれば、3人は仲良しでいつも一緒という事だった。
ワカッテマスの話では、3人それぞれに役割分担が出来、それ以外の部分は退化してきている部分もあるから、基本的には
常に3人一緒に行動しているという。
 

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:15:31.89 ID:4Ly1m2upO
 
それがこうやってビロード1人でいるということは、当然、何かあったと考えるより他はない。
 
川 ゚ -゚) (この様子なら、他の2人が危険な目にあっているということもなさそうだが……)
 
こちらに助けを求めてきたわけでもなさそうなので、少しは安心したが、そうなると何故ここにビロードが
1人でいるかが問題だ。
 
川 ゚ -゚) 「2人とケンカでもしたのか?」
 
(;><) 「!」
 
(><;) 「し、してないんです。別にケンカとかそんなのしないんです」
 
川 ゚ -゚) (いちいちわかりやすいな……)
 
仲がいいほどケンカする、ビロード達3人、といっても、主にビロードとちんぽっぽの2人だが、よくケンカというか
言い争ったりしているのは目にした。
 
そのどれもが些細な口ゲンカレベルで、見ていて微笑ましいぐらいのものだったから放置していたが、
今回は少し程度が違うのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「2人がどこにいるのかは知らないのか?」
 
私は再び同じ質問をする。
しかし、意地を張って教えないだけかと思ったら、どうやら本当に知らない様だ。
 

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:19:55.37 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「私はそろそろ家に帰りたいんだが、お前はどうするんだ?」
 
(;><) 「僕は1人で大丈夫ですから、クーは帰っていいんです!」
  _,
川 ゚ -゚) 「大丈夫そうに見えないから聞いたんだがな……」
 
無駄な抵抗だと悟ったのか、暴れるのを止めたビロードを抱えたままマシンを起こす。
流石にビロードとマシン本体を同時に抱えるのは厳しいが、何とか両手に抱え、マシンに跨った。
 
川 ゚ -゚) 「この辺りにいるのか?」
 
(;><) 「知らないんです!」
 
軽く山の周りを走ってみたが、残りの2人は見受けられなかった。
大体いつも川の辺り、またはワタナベの家の東側近辺で出会うビロード達だ。
ビロード1人でここまで来たとは考え難い。
 
3人、ないし1番移動力に優れたちんっぽっぽと一緒にここまで来て別れたと考えるのが妥当なのだが、
そのちんっぽっぽ達の姿は近辺に見られない。
 
川 ゚ -゚) 「置いて行かれたか」
 

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:23:03.38 ID:4Ly1m2upO
 
(;><) 「違うんです! 僕が置いて行ったんです!」
 
川 ゚ -゚) 「ふむ……やはりケンカでもしたのか」
 
(;><) 「あ……」
 
またもわかりやすい反応を見せ、押し黙るビロード。
ビロードが1人でここにいる原因はケンカでの所為で確定のようだが、今回のそれは普段よりは
大事なのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「悪い事は言わん。ちゃんと謝るなり、謝らせるなりして仲直りしろ」
 
(;><) 「……」
 
川 ゚ -゚) 「お前達は3人で1人のようなもんだろ?」
 
(;><) 「クーもそんな事言うんですね……」
 
川 ゚ -゚) 「うん?」
 
何気なく、仲が良いという意味でそういったのだが、どうやらその言葉がビロードの機嫌を損ねたようだ。
見るからに不機嫌そうな顔を浮かべ、そっぽを向く。
 

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:28:42.22 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「どうした?」
 
(>< )
  _,
川 ゚ -゚) 「この状況で無視とはいい度胸だな……」
 
私は無言でマシンの速度を目一杯上げる。
この2週間あまりでこのマシンの扱いにもだいぶ慣れた。
最高速まで上げても問題なく走らせられる。
 
(><;) 「……」
 
川 ゚ー゚)
 
むしろ、このくらい速い方が私好みだ。
やはり皆が思う所のスピード狂という認識はあながち間違いでもない様だ。
 
(><;) 「く、クー? ちょっと速過ぎじゃないですか?」
 
川 ゚ー゚) 「そんな事はないさ。走り易い所だし、こんなもんだろ」
 

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:34:51.86 ID:4Ly1m2upO
 
(><;) 「で、でも地面が……」
 
そっぽを向いていたビロードだが、現在は私に小脇に抱えられた状態にある。
私の方を見ないという事は、視線は必然的に下方に向く。
マシンによって掻き分けられる草が舞う様を間近に目にしているはずだ。
 
川 ゚ -゚) 「……私が今この手を放したらどうなるだろうな」
 
私はビロードを抱えた左の手を少し緩める。
ビロードはそれに敏感に反応し、私の顔を見上げた。
 
(;><) 「ボソッと怖い事言わないでくださいなんです!」
 
勿論落とす気はないが、脅しの効果は確実にあった様で、ビロードは背けていた顔をこちらに固定させて、
様子を覗っている。
私はマシンのスピードを落とし、ビロードの顔を見据えて言う。
 
川 ゚ -゚) 「で、ケンカの原因は何だ?」
 
(><;) プイッ
 
川 ゚ -゚)
 
(><;)
 

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:37:50.12 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ー゚)
 
(><;)
 
私は、再びマシンの速度を上げる。
それと同時に、少しばかり背の高い草むらの方へマシンを向けた。
 
(><;) 「ちょ、クー、早過ぎなんです! てか、草! 顔に刺さるんです!」
 
川 ゚ -゚) 「何だ? 草を踏む音で何を言ってるのか聞こえないんだが?」
 
私はさらにマシンの操作レバーを倒す。
それにより、ほぼ限界までマシンは加速した。
 
(:><) 「いや、だから速度落とせって言ってるんです!」
 
当然、ビロードの声は聞こえているが、私は一切速度は落とさずにマシンを走らせる。
尚も喚くビロードを無視し、それから約20分ほどでドライブは終わりを迎えた。
 
川 ゚ -゚) 「ん? どうした、速度は落としたぞ?」
 
(ヽ><) 「お、遅いんです……」
 

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:43:32.59 ID:4Ly1m2upO
 
私は心なしか疲れた表情を見せるビロードを抱えたまま、マシンから降りる。
 
川 ゚ -゚) 「遅い? もっとスピードを上げた方が良かったか?」
 
(;><) 「そっちの遅いじゃないんです!!!」
 
つっこむ元気があるなら大丈夫だろう。
私はビロードを下ろし、マシンをいつもの位置に片付ける。
 
流石に疲れたのか、ビロードは逃げもせずそれをじっと見守っていた様だ。
 
川 ゚ -゚) 「よし、お前も来い」
 
(;><) 「はい? てか、ここどこなんですか?」
 
そう言ってビロードは辺りをきょろきょろと見回し始めた。
今更という気もするが、言わずもがなここはワタナベの家だ。
 
川 ゚ -゚) 「私はこれから調べ物があるんでな。お前はゆっくりしているといい」
 
(;><) 「え? あの?」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:47:41.62 ID:4Ly1m2upO
 
私は再びビロードを抱え上げ、室内に入る。
迎えに出て来たワタナベに、抱えたままのビロードの顔を向ける。
 
从'ー'从 「おかえり、クーちゃん。お客さん?」
 
川 ゚ -゚) 「ただいま。そんなとこだ。途中で拾ったんでな」
 
(;><) 「拾ったって……勝手に連れて来たんじゃないですか?」
 
ビロードは慌てて抗議するが、私はビロードを居間のソファーに下ろし、人差し指を突きつけて言った。
 
川 ゚ -゚) 「お前を1人であんなとこに置いて帰るのも忍びないだろ?」
 
文句があるならあの場にいた理由を話せとビロードに問うが、ビロードはまた顔を背け、だんまりを決め込む。
 
(><;) 「……」
 
川 ゚ -゚) 「……やれやれ」
 
私はワタナベに適当にビロードの相手をしてもらう事を頼み、部屋に戻った。
私には当面のやるべき事、じいちゃんとギコの接点を探すという仕事が残されている。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:51:27.88 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「……とは言うものの、手がかりはこの日記しかないんだがな」
 
私は部屋儀に着替えると、バッグからじいちゃんの日記を取り出す。
私はその古びた日記を開き、パラパラとページを捲るが、程なくしてギコらしき人物の事が記述されている
ページを見付けた。
 
川 ゚ -゚) 「その頃も岩の中からは出て来てないのか……」
 
あの話し振りからはもっとフランクな間柄で、共に調査でもしていたのかと想像していたが、どうやら
そういうわけではないらしい。
ギコはあの場から動かず、何かあればじいちゃんがあの場まで行って相談していた様だ。
 
川 ゚ -゚) 「動かない……それとも動けないのか……」
 
どちらなのか今はわからない。
ブーンと同じ様にあの岩全体がギコで、顔だけを動かしている可能性もある。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、そこはどうでもいいか……」
 
どちらかと言えば、今問題なのはギコの態度の方だろう。
この日記には話の詳細までは書かれてないが、世間話から時限の裂け目の話まで、それなりに頻繁に話しを
していた様に覗える。
 

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:55:27.56 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「次元の裂け目に付いては、具体的な話が書かれてないのが念の入った事だが」
 
件の話、大事等、違う言葉でぼかして書かれている。
ギコが言った様な理由、そして彼女が言ったテストという言葉。
やはりじいちゃんもその辺りに一枚噛んでいると見るべきなのだろう。
 
自分でやれと。
自分で答えを探せと。
 
川 ゚ -゚) 「……ま、確かにあのじいちゃんなら言いそうな事ではあるな」
 
昔気質で、孫には甘かったじいちゃんだが、そういう所はしっかりしていた。
こちらがちゃんと自分のやるべき事をちゃんとやったら甘やかす様な感じで。
 
川 ゚ -゚) 「結局甘やかすんだがな」
 
だから多分、ギコに次に来る人の事も頼んでいたのだろう。
こちらが自力でギコまで辿り着いたら協力する様にと。
 
そう考えると色々と辻褄は合う部分も見えてくる。
この家も然り。
 

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 22:57:34.01 ID:4Ly1m2upO
 
質素を好むじいちゃん1人なら、もっと簡易な住居ないし、野宿で済ませたかもしれない。
ただ、この家に関しては後進の為だけでなく、ワタナベとの関係もあったかもしれないが。
 
川 ゚ -゚) 「……おっと、今はじいちゃんではなく、じいちゃんとギコの接点の話だよな」
 
軽く頭を振り、それかけてた思考を本筋に戻す。
やはり日記を見ても、じいちゃんはギコの悩みを知っていたように感じ取れる。
 
川 ゚ -゚) 「知っていて、そしてそれが発生原因だとわかってて放置か……」
 
それに関しては甚だじいちゃんらしくないと思えた。
私は顎に手を当て、しばし考える。
視線を日記から上げ、前方に向けた辺りで、部屋の襖がわずかに開かれている事に気付いた。
 
川 ゚ -゚) 「……ん?」
 
|<)|
 
そこから覗く目に見覚えがある、というかどう見てもビロードだ。
何のつもりかはわからないが、少々行儀が悪いと思わざるを得ない。
 

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:00:05.12 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「あれ? どこにやったっけな……」
 
私は敢えてそれに気づかないフリをしながら立ち上がる。
部屋の奥に向かうと見せかけて、ビロードから見えない位置辺りで壁伝いに入り口の襖の方へこっそりと
忍び寄る。
 
そして勢いよく、入口の襖を開いた。
 
(;><) 「わ、わ!?」
 
川 ゚ -゚) 「覗きとはあまり感心せんな」
 
襖に寄り掛かる様に覗き込んでいたビロードは、突然支えを失い、部屋に転がり込んだ。
私は仰向けに寝転ぶビロードを上から覗き込んだ。
 
(;><) 「の、覗いてたわけじゃないんです!」
 
川 ゚ -゚) 「ほう……では、何をしていたんだ?」
 
少し意地悪げに口元を歪め、ビロードに問いただす。
ビロードはおろおろと左右を見回し、私の顔をで視線を止めるが、すぐさま視線を足元に落とす。
 

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:01:14.56 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「ん? どうした。まあ、私が魅力的過ぎて覗きたくなる気持ちもわかるが──」
 
(;><) 「そんなんじゃないんです!」
 
川 ゚ -゚)
 
……全否定とはいい度胸だ。
これは少し口のきき方というものをレクチャーしてやる必要があるかもしれない。
 
そう思い、ビロードの頭頂に手を伸ばしかけた私に、ビロードはぼそぼそと口を開く。
 
(;><) 「忙しそうだったんで声をかけていいのか悩んでたんです」
 
川 ゚ -゚) 「……ふむ、それならまずノックをするなりしてみればよかったんじゃないのかな?」
 
私はそう言って伸ばしかけていた手の向きを変え、入り口を指差すが、入り口は襖だ。
あまりノックに向いているとは言い難い。
ビロードもそう思ったのか、少し困った顔でこちらを見つめている。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、それはいいか。それで、何の用だ?」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:03:34.00 ID:4Ly1m2upO
 
私はその話を打ち切り、本題を切り出す。
ワタナベに相手を任せていたのだが、ワタナベは食事の準備か何かだろうか。
出来れば居間で大人しくしていて欲しかったというのは私の我侭な考えか。
 
ビロードをここに連れて来はしたものの、具体的にどうするかは全く考えていなかった。
単純にあの場に1人置いておくのがはばかられたかられただけだと、先に説明した理由だけしかない。
 
(;><) 「別に用というほどのものがあるわけでは……」
 
言い淀むビロード。
先ほどから気になってはいたが、どうも少し怯えている様にも見える。
 
川 ゚ -゚) 「なあ、ビロード」
 
(;><) 「はいなんです」
 
川 ゚ -゚) 「私はこう、何というか不躾な物言いだが、別に怒っているわけではないぞ?」
 
1人であの場にいた理由を話さない事に少し不満は感じたが、それ以外は普段通りだ。
ビロードをここに連れて来たのも、単に心配だったからだとビロードに伝える。
 

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:06:03.65 ID:4Ly1m2upO
 
(;><) 「……ごめんなさいなんです。クーが怒ってないのもわかってるんです」
 
これまでにも会えばそれなりに話はした仲だ。
幸いにも私の話し方等は理解してくれていた様だ。
私はその事に少し安心して部屋を出る。
 
( ><) 「クー?」
 
川 ゚ -゚) 「ちょっと待ってろ。すぐ戻る」
 
私は階段を降り、台所に向かう。
ワタナベはやはり晩ご飯の支度をしていた。
 
ビロードが居間から出た事には気づいていない様で、私は冷蔵庫から飲み物を取り出すと、ビロードと二人、
私の部屋にいる事を渡辺に告げた。
 
从'ー'从 「うん、わかったよー」
 
川 ゚ -゚) 「すまんな。世話をかける」
 
从'ー'从 「気にしないで、ここが今はクーちゃんの家なんだからね」
 
川 ゚ー゚) 「ありがとう」
 

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:09:14.39 ID:4Ly1m2upO
 
从'ー'从 「それに、お客さんが来る事も珍しいから私も楽しいんだ」
 
私はコップに果物ジュース風の飲み物を注ぎ、両手に持って台所を出た。
言われてみれば確かに、ここに私以外の誰かが来る様な事はなかったかもしれない。
 
川 ゚ -゚) (……ビロード達はワタナベと知り合いだったはずだが)
 
私がこの世界に来た時に、ワタナベの代わりに迎えに来たくらいだ。
そう親しくもないわけではないはずなのだが。
他にもツンやギコもワタナベの事は知っていた。
 
これだけの設備が揃い、食料もあるこの家に誰かが押しかけて来ても不思議はないように思えるが、今の所は
誰も来ていない。
 
川 ゚ -゚) (前に彼女に聞いた、文明の嫌悪という理由だけでは少し弱すぎる……)
 
元々は別の星の住人で、その星が滅んでAA界に流れ着いた。
滅んだ原因は不明だが、それに文明の発展が大きく関わり、それに嫌気がさしたという説明の筋は通る。
 

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:11:50.50 ID:4Ly1m2upO

だがしかし、この家という文明は嫌っても、ワタナベという人を嫌う理由にはならない。
勿論、ワタナベが嫌われている話ではないが、仲が良いなら遊びに来るぐらいはしても良さそうだが。
先に述べた様に、今の所は少なくとも、私の在宅中に誰かが尋ねてきた様子はない。

川;゚ -゚) (その辺りをツンに聞くのを忘れてたな……)
 
これは完全に私のミスだ。
もう10日以上も前に思いついていた事だ。
やる事が多々あったとはいえ、やるべき事を忘れるわけにはいかない。
 
川 ゚ -゚) (まあ、丁度良い。ビロードにその辺も聞いてみるか)
 
あの様子ではケンカの原因は話してもらえそうにない様だから、別の話を振ってあげてもいいだろう。
それで空気が良くなった所で本題、ビロード達のケンカの原因を聞いてみる事にしよう。
 
私はそう結論付け、自分の部屋の襖を開けた。
 
川 ゚ -゚) 「ほれ」
 
( ><) 「ありがとなんです」
 
私はビロードにジュースのコップを渡し、その向かいに座る。
畳みにちょこんと直に座っていたビロードに座布団を勧めた。
 

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:14:51.36 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「こうやって尻の下に敷くんだよ」
 
( ><) 「こうですか?」
 
ビロードは私がやる通りに、恐る恐る座布団を敷く。
先ほど、居間のソファーのクッションは使ってた様にも見えたが、座布団は少し勝手が違うのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「さて、色々と話を聞きたいところだが……」
 
( ><) 「……」
 
居住まいを正した私に、再び緊張した様に身体を強張らせるビロード。
やはりこのままでは話を聞く所ではないだろう。
 
川 ゚ー゚) 「話したくない事は無理に話さなくても良いさ」
 
( ><)
 
私のこの言葉に、ビロードの緊張が少し緩んだのがわかった。
無理やり聞き出すのは性に合わない。
 
だが、最低限聞いておかなければならない事もある。
 
川 ゚ -゚) 「しかし、これだけは教えてくれ」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:16:09.41 ID:4Ly1m2upO
 
( ><)
 
川 ゚ -゚) 「あの2人に何かあったわけじゃないんだな?」
 
2人は無事なのか、その安否を確認する。
今更という話かもしれないが、やはりその辺りは本人の口から聞いておきたい。
 
( ><) 「……クーはやさしいんですね」
 
川 ゚ -゚) 「何だ突然? 私は元々やさしいし、やさしくなかろうが友達の心配をするのは普通だぞ?」
 
私は少し不機嫌な顔をしてみせて、ビロードに言う。
怒ってはいないのだが、心外だというポーズをとる。
 
(;><) 「ご、ごめんなさいなんです」
 
川 ゚ー゚) 「冗談だよ。それで……」
 
( ><) 「元気なんです。ワカッテマス君も、ちんぽっぽちゃんも、2人とも何でもないんです」
 
川 ゚ー゚) 「そうか。それなら良かった」
 

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:19:21.28 ID:4Ly1m2upO
 
私の笑顔にビロードの顔も緩むのがわかった。
これならいつもの仲良しケンカレベルと考えてもいいかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、お前も色々あるだろうから、他に行くとこないならしばらくここにいれば良いさ」
 
( ><) 「え?」
 
川 ゚ -゚) 「幸い、部屋はたくさんある。外に危険があるのかよくわからんが、ここなら危険はないしな」
 
お前1人で外をうろうろしているとどうにも心配だと言葉を続けた。
ビロードは少し複雑な表情で私に聞き返してくる。
 
( ><) 「他には何も聞かないんですか?」
 
川 ゚ -゚) 「聞いて欲しいのか? 話したかったら聞いてやるが、話したくない事は話さなくていいさ」
 
いくつか調査に関係する事で聞くかもしれないが、それも答えたくないものは答えなくていいと付け加える。
すんなり話してもらえるならそれが一番楽なのだが、今回の件に関わる人間はどいつもこいつも口が堅い。
だからビロードがそうであっても今更慣れた話だ。
 
諦めているわけではないが、聞きだす事も含め自分の仕事だと割り切る事に決めたのだ。
 

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:22:17.96 ID:4Ly1m2upO
 
( ><) 「ごめんなさいなんです」
 
川 ゚ -゚) 「お前が謝る話じゃないさ」
 
どうせ最終的には聞く事は聞くからと、私はビロードに微笑んでみせた。
ビロードもだいぶ警戒を解いてくれたようで、その表情は穏やかだ。
 
川 ゚ -゚) 「じゃあ、早速聞くぞ?」
 
( ><) 「はいなんです」
 
川 ゚ -゚) 「ギコ、または岩猫と呼ばれてるやつの事は知ってるか?」
 
( ><) 「知らないんです」
  _,
川 ゚ -゚) 「……役に立たんな」
 
(;><) 「ええ!?」
 
私が眉をひそめ、本音を口にするとビロードはひどく狼狽してこちらを見つめる。
半分ぐらいは場を和ます冗談のつもりだったが、半分は本気だ。
これが聞けないとなると、他にはあまり聞く事がない。
 

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:26:25.93 ID:4Ly1m2upO
 
(;><) 「ど、どんな人なんですか? 名前は知らないけど、知ってる人かも……」
 
川 ゚ -゚) 「山の中だな。お前がさっきうろついてた」
 
その住処や特徴も教えたが、やはりビロードは会った事がないようだ。
流石に発生原因の話はするわけにはいかないので、単にギコが悩みを持ってる事だけを話す。
 
川 ゚ -゚) 「お前も一応男だろうし、何か男が悩みそうな事とかわからないか?」
 
( ><) 「そうですね……僕だったら……誰かと一緒にいて自分──」
 
(;><) 「な、悩みは人それぞれだと思うんです。だから、わかんないんです」
  _,
川 ゚ -゚) 「チッ、引っ掛からんか」
 
さり気なく誘導を仕掛けてみたが、あっさりと見破られてしまった。
意外に勘は悪くない様だ。
 
(;><) 「ひどいんです」
 
川 ゚ -゚) 「冗談だよ。まあ、もうやらない。多分」
 

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:29:39.59 ID:4Ly1m2upO
 
(;><) 「多分って……」
 
不満そうにこちらを睨むビロードだが、諦めたわけではないとさっきも言ったはずだ。
無理には聞かないが、聞けるなら聞く。そんな感じだ。
 
とはいえ、ギコの件はビロードには期待出来そうもないから別の話をする必要がある。
本来なら他の2人が知ってそうか聞くべきかもしれないが、今は警戒されそうなので止めておく事にする。
 
川 ゚ -゚) 「そうそう、じゃあ、しゃべる花とか花火は知ってるか?」
 
( ><) 「わかんないんです」
  _,
川 ゚ -゚) 「……そうか」
 
(;><) 「クー、何かすごい怖い顔したんです」
 
わかってたと言えばわかってた話ではある。
これまでもビロード達3人とは何度となく会話は交わしている。
その中では一番子供の様な考え、知識レベルだったのがビロードだ。
 
知らない事が多くて当然だ。
結局、こちらから質問を選ぶより、ビロードが知っている事話してもらう方が効率は良い。
 

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:32:50.09 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「うん、まあ、想定の範囲内だ。では、ビロード、私に何か聞きたい事はあるか?」
 
( ><) 「特にないんです」
 
川 ゚ -゚) 「……お前さあ、よく空気読めとか言われない?」
 
(;><) 「い、言われるんです」
 
私は大きくため息を吐き、畳に横になった。
凡そ交渉相手を前にした外交官の態度とは思えないが、何だか疲れてしまったのだから仕方ない。
 
(;><) 「ごめんなさいなんです……」
 
川 - -) 「いや、お前が悪いわけじゃないんだ。すまんな。今日は少し疲れたんでな……」
 
申し訳なさそうに言うビロードに私は片手を振って答える。
休暇明けの探索一日目だ。
少し張り切り過ぎたかもしれない。
 
もう間もなく食事も出来るだろう。
今日は食事を取って風呂に入り、早めに休むか。
 

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:34:55.28 ID:4Ly1m2upO
 
どうせまだ彼女は来ないだろう。
もう少し行き詰るか、先に進むかしないと出て来ないと踏んでいる。
 
川 - -) 「今日はこのくらいにしとこう。お前も晩ご飯食べるよな?」
 
一応ビロード達がツン同様、おにぎり等を食べられるのは知っている。
前に会った時に、お裾分けした覚えがある。
3人に渡したので、その時は私がかなりひもじい思いをしたが。
 
( ><) 「……」
 
川 ゚ -゚) 「ん?」
 
当然食べるものだと思っていたビロードから返事がないので、私は身体を起こし、ビロードを見る。
ビロードは何やら難しげな顔で考え込んでいた。
 
川 ゚ -゚) 「どうした? 食べないのか?」
 
前に見た食べっぷりからは、こちらの食事が口に合わないという事はなさそうなのだが、
やはりビロードからの返事はない。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:37:48.41 ID:4Ly1m2upO
 
( ><) 「食べないんです」
 
川 ゚ -゚) 「腹が減ってないのか? それとも、どこか体調でも崩したか?」
 
ようやく帰って来た答えは、食事はいらないという予期せぬものだった。
私はビロードの方に近付き、額に手を当てる。
 
(;><) 「な、なんなんですか?」
  _,
川 ゚ -゚) 「冷たい……というか、お前に熱があるかどうかとか私にはわからんな」
 
ビロードの肌は私が知る所の人間の肌とは大きく異なるのだ。
こちらの常識で計ろうとしても無駄だったと思い出す。
 
ビロードが言うには、どこも体調は悪くないということだからそれは素直に受け止めておく事にした。
 
川 ゚ -゚) 「では、何故食べないんだ?」
 
( ><) 「……それは」
 
押し黙るビロードに私は再度問いかけるが、やはり要領を得ない答えしか返らない。
外では普通におにぎり等を食べていたビロードだ。
他に思いつく理由といえば室内での食事である事と、私以外に同席者がいる事ぐらいだが……。
 

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:39:46.20 ID:4Ly1m2upO
 
川 ゚ -゚) 「ワタナベか?」
 
(;><) 「!」
 
私は咄嗟に思い付きを口にしてみたが、ビロードの反応からするとそれが理由のようだ。
 
川 ゚ -゚) 「なるほど……」
 
そう考えればビロードが居間に居ず、こちらに上がって来たわけもそれなのかもしれない。
しかし何故ワタナベが、となると理由は不明だが。
 
川 ゚ -゚) 「ひょっとして恥ずかしいとかそういうのか?」
 
ビロードはどちらかと言えば気弱なタイプで、人見知りをするのかもしれない。
私の時は他の二人も居たから自然に慣れていけたのかもしれないが、今は違う。
 
川 ゚ -゚) (いや……よく考えたら私より前にワタナベの事は知っているはずだよな)
 
先にも述べた様に、ビロード達三人はワタナベの代わりに私の迎えに来た。
あれが迎え方として正しかったかはさて置き、ワタナベとそれなりに話せる間柄でなければその役目も
引き受けなかったのではないだろうか。


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/28(火) 23:42:42.18 ID:4Ly1m2upO
 
(;><) 「……いんです」
 
川 ゚ -゚) 「ん? 何だって?」
 
等と考え事をしていたらビロードの言葉を聞き逃してしまっていた。
私はビロードに謝罪し、もう一度言ってくれる様に頼んだ。
 
(;><) 「……怖いんです」
 
川 ゚ -゚) 「怖い? 何がだ?」
 
(;><) 「……ワタナベが、怖いんです」
 
川;゚ -゚) 「は……?」
 
明らかに怯えた様子のビロードの言葉は、とても冗談で言っているようには見えない。
だがしかし、これまでワタナベと共に暮らして来た私は、その言葉を額面通り受け止める事は到底出来なかった。
 
 
 第15話 了 〜 知るべき時、知るべき事、そして知る意思 〜
 

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