7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:30:33.73 ID:bsI/5PDiO
 
 ダイ16ワ タダ ソコ ニ イテ タダ ソノ セカイ デ
 
 
川 ゚ -゚) 「話せ」
 
(;><) 「え?」
 
川 ゚ -゚) 「話してくれないか、ワタナベの事を」
 
(;><) 「え……っと……」
 
私はごく自然にビロードに詰め寄っていた。
自分でもはっきりとわかる。
私は今、明らかに怒っている。
 
その事に気付いた私は、口調を改め、なるだけ怒気は押さえてビロードに問い掛ける。
 
疑問点の1つだった事は否めない。
しかし──
 
川 ゚ -゚) 「ワタナベはさ、いつも笑顔だし、食事は作ってくれるし、おまけにそれはすごく美味いんだ」
 
(;><) 「……」
 

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:33:40.86 ID:bsI/5PDiO
 
川 ゚ -゚) 「何て言うか、良いやつだと思うんだ」
 
何らかの役目を負っているとはいえ、まだそれほど親しくもない頃から笑顔で私の世話をしてくれた。
あの人の良い笑顔を浮かべるワタナベが、怖いとはどういうことなのか、私には全く結び付ける事が出来ない。
 
(;><) 「……僕もそう思うんです。おにぎり、美味しかったんです。会えば必ず笑顔で挨拶してくれるんです」
 
川 ゚ -゚) 「ならば──」
 
(;><) 「でも……」
 
川 ゚ -゚) 「でも?」
 
(;><) 「でも……ワタナベは僕達に死を告げる人なんです」
 
川 ゚ -゚) 「死を……告げる……?」
 
そう言ったビロードの目は真剣そのもので、冗談で言っているとは思えない。
だがやはり私は、その仰々しい言葉がワタナベの笑顔に全く繋がらずに、ただ呆然とした表情を浮かべていた。
 
・・・・
・・・
 

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:35:02.62 ID:bsI/5PDiO
 
从'ー'从 「あれ? ビロード君どうしちゃったの?」
 
川 ゚ -゚) 「ん……ああ、何か体調が優れないからという事で私の部屋で寝てるよ」
 
从;'д'从 「そうなの? 大丈夫? お世話してあげないと──」
 
川 ゚ -゚) 「いや、ちょっと疲れただけみたいだから、寝てれば治るみたいだよ」
 
从;'ー'从 「そっかー。それならまあ、安心だね」
 
川 ゚ -゚) 「食事もご飯を少しおにぎりにして持って行っておくよ」
 
从'ー'从 「それがいいね。じゃあ、食事が終わったらおにぎり作るね」
 
川 ゚ー゚) 「すまないな。ありがとう」
 
ワタナベは私の礼に笑顔を浮かべ、肉じゃがもどきを口に運ぶ。
その味付けはやはりどこか懐かしい、実家の味を思い起こさせた。
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
ビロードの事を心から心配しているワタナベ。
そのビロードから恐れられていると知ったら、ワタナベはどんな風に思うのだろうか。
 

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:36:57.53 ID:bsI/5PDiO
 
从'ー'从 「どうかした?」
 
川 ゚ -゚) 「いや……ここ」
 
私は顎のところを指差し、ワタナベにご飯粒が付いている事を伝える。
ぺろりと舌を出し、指で取ったご飯粒を口に運ぶワタナベの様子を見ていると、やはり私には先のビロードの言葉は
受け入れ難いものがある。
 
从'ー'从 「ご飯粒って、いつの間にかついてるよねー」
 
川 ゚ -゚) 「まあ、あんまり意識してつける奴はいないだろうしな」
 
微笑むワタナベの前で食べる食事はいつも通り美味しかった。
沈みがちだった気持ちも少し浮かぶ。
 
川 - -) (……いつも通りだよな)
 
ワタナベの笑顔も、料理の味もいつも通り好ましいもの。
ただ受け取る自分側の問題なだけなのだ。
 
ワタナベは変わらない。
いつも通りなのだ。
 

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:40:00.22 ID:bsI/5PDiO
 
从'ー'从 「今日のはあんまり美味しくなかった?」
 
箸が止まっている私に、ワタナベが心配そうな顔で聞いてくる。
ビロードの言葉を全て否定するだけの穏やかさを湛えた顔で。
 
川 ゚ -゚) 「いや、美味いよ。いつも通り美味い」
 
从^ー^从 「そっか、よかった」
 
私はひとまず食事に集中する事にした。
腹が減っては何とやらという言葉もある。
 
いつも通りのワタナベ、いつも通りの食事。
いつもと何ら変わる事ない夕餉の席。
 
そして私も、いつも通り断片情報から答えを探すだけなのだから。
 
・・・・
・・・
 

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:42:42.46 ID:bsI/5PDiO
 
部屋に戻り、ビロードに食事を届け、私は風呂に入る事にした。
ワタナベに断り、ビロードには空いている部屋を使わせる事にして。
具合が悪いという事になっているので、ワタナベが気にしていたが、私が様子を見るということで納得してもらえた。
 
実際は体調が悪いわけでもないので、放置しておいても大丈夫だろう。
 
川*- -) 「あ゙〜……」
 
湯船に浸かり、足を伸ばす。
私のとってこの温泉の存在は間違いなくこの世界での最上の娯楽の1つだ。
疲れた身体に染み渡る熱いお湯が何とも心地良い。
 
川*゚ -゚) 「明日はどうするかな……」
 
やるべき事は元々山積みだが、さらにやる事が増えた。
ビロードの事、そしてワタナベの事。
例によってどちらも情報が少なく、ほとんど手探り状態だ。
 
川*゚ -゚) 「ワタナベの方は私が聞いてないだけだがな……」
 
聞けば答えてくれるのだろうか?
 

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:46:03.83 ID:bsI/5PDiO
 
川*- -) 「答えてくれるかもな……」
 
だが、私が答えを聞きたくないのかもしれない。
だから聞かなかった。
 
川*- -) 「自分で調べてからでも遅くないさ」
 
調べられる事はまだ色々ある。
ビロードがワタナベをああ思っていたという事は、同じ様に残りの2人もそう思っているのかもしれない。
だとすれば、ビロードよりは話が通じそうな2人にまず聞いてみるべきだろう。
 
川*゚ -゚) 「では、明日の目的はあの2人の捜索かな」
 
となると向かう先はやはり山の方か。
そう長距離を移動できるとは思えないビロードをあの辺りで拾ったのだ。
あの近辺にいたと考える方が妥当だ。
 
川*゚ -゚) 「ひょっとして、今ビロードの事を探していたりするのかな……」
 
そうであれば申し訳ない事をした。
そういった事も含めて、明日は彼らを探すべきだろう。
 

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:48:18.01 ID:bsI/5PDiO
 
川*- -) 「うん、目的は決まったな……」
 
私はお湯に深く身体を沈め、四肢を伸ばす。
全身がほぐれる様な感覚がする。
 
川*- -) 「そういえばビロードも風呂に入れるべきだったかな」
 
ずっと外にいるはずのビロードだが、先ほど抱えた時には別段変な臭いはしなかった。
そういう性質なのか、もしくは川ででも体を洗っているのだろうか。
雨の日はブーンに隠れているぐらいだから、水自体が苦手なのかもしれないが。
 
川*- -) 「まあ、まだしばらく居座るつもりなら放り込むか」
 
私はそこまで考えると、考えるのを止める。
あとはゆっくりとお湯の温かみを味わい、存分に身体と頭を休めた。
 
・・・・
・・・


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:50:34.77 ID:bsI/5PDiO
 
( ><)
 
川 ゚ -゚) 「……」
 
部屋に戻る途中、隣の部屋を覗くとビロードはどうやら布団に包まって眠っているようだ。
眠っているのか起きているのかわからない顔だが、寝息は聞こえてくる。
 
私は入り口の近くに寄せられていた食器を持ち、静かに襖を閉めて部屋を出る。
来た道を引き返し階下に降りるが、ワタナベももう眠っている。
 
川 ゚ -゚) 「洗っておくか」
 
放って置いてもワタナベがやってくれるが、頼りっ放しも申し訳ない。
そもそも、ワタナベがやってくれる事を前提にして私が不精をしているともいえる。
世話になっている身ながら、甘え過ぎかもしれない。
 
しかし、私が家事の分担を申し出た所で、やんわりと断られそうなのは目に見えている。
私には他に仕事があるのだからと。
 
実際、前にラーメンを作った時も最初は私がそんな事しなくても自分がやると言われたのだ。
それを自分が楽しみたいから作りたいと押し切って作らせてもらった。
 

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:52:44.33 ID:bsI/5PDiO
 
川 ゚ -゚) 「そういう所を含めて、ワタナベは良いやつだと思うんだがな……」
 
やはりビロードのあの言葉は私に絡み付いて剥がれない。
気付けばその事を考えている自分がいる。
 
川 ゚ -゚) 「山の方に行くならツンにも聞いてみるか」
 
明日、運が良ければツンにも会えるかもしれない。
こういう時、事前にアポを取る手段がないのがもどかしくも思うが、郷に入っては従うしかないだろう。
 
川 ゚ -゚) 「一応花にも聞いてみるかな……」
 
期待は出来ないが、それでも聞いてみる分には構わないかと思う。
そういえば、ギコやビロードの言葉のインパクトで存在を忘れかけていたが、あの花や花火もそれなりに
考えなければならない事かもしれない。
 
花火の方はまだよくわからないが、花の方は拙いながらも意思の疎通は図れる。
彼女からももっと詳しく話を聞く必要はあるだろう。
 
川 ゚ -゚) 「咲けない花か……」


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:55:11.25 ID:bsI/5PDiO
 
次元の裂け目に関しては全く知らなかった花だが、自分が咲けない事は悩んでいるようではあった。
意思を持ち、悩む。
となれば花が発生原因の可能性も考えられない話ではない。
 
あとは花火だが、あれはどうなのだろう。
ギコが言うにはあれは本能のみで行動しているような生き物、つまりは知能がないらしいという話ではあった。
であればコミニケーションは図れないと考えた方が良さそうだ。
 
観察ぐらいはして見てもいいが、あれに近くで爆発されるのは勘弁願いたいものだ。
 
川;゚ -゚) 「花火はひとまず置いておくか……」
 
私は洗った食器を綺麗に拭いて食器棚にしまい込み、台所を後にした。
物音1つしない階段をゆっくり上がり、静かに襖を開ける。
押入れから布団を引っ張り出し、早々にその上に横になった。
 
川 ゚ -゚) 「あ、カーテン……まあ、いいか」
 
窓こそ閉まっていたものの、カーテンが開けっ放しだったが一旦寝転がってしまうと起きるのも億劫なのでそのまま
電気を消した。
ここは2階だし、周りに上れるようなものもなく、誰かが侵入する様な事もないだろう。
 

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/30(日) 23:58:17.26 ID:bsI/5PDiO
 
川 ゚ -゚) 「星が見えるな……」
 
窓から空を見上げれば、瞬く星がいくつも見える。
あのどれかが地球という事はないらしいぐらいは離れている様だが、こうしていると地球にいるのと何ら変わりはなく
感じられてしまう。
 
だが実際にはここは地球から遠く離れた星で、全くの見知らぬ世界だ。
ここで出会う人々は皆、私の知る人とは違う姿形をしていた。
1人を除いて。
 
川 ゚ -゚) 「……寝よう」
 
気付けばその事を自然に考えている自分に気付き、目を閉じる。
情報がなければ答えは出せない。
そう結論付けたのだ。
 
下手な考えは休むに似たり、大人しく身体を休め、疲れを取る事に専念すべきだろう。
明日は明日でやる事があるのだから。
 
私はこの世界で、やらねばならぬ事があるのだから。
 
・・・・
・・・
 

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:00:43.33 ID:dybeInUtO
 
川 ゚ -゚) 「着いたぞ?」
 
(;><) 「もうちょっとゆっくり走って欲しいんです……」
 
翌朝、朝食を済ませ山に向かう事をビロードに伝えたら、ビロードもついて来るという事だったので
昨日同様抱えてここまでマシンで走って来た。
 
ビロードがついて来た理由がどちらかにも寄るが、出来れば仲直りの為であって欲しい所だ。
 
川 ゚ -゚) 「だらしがないな。そんなにスピードは出ない設計になってるんだぞ?」
 
私の世界の乗り物の方がもっと速いとビロードに教えると、ビロードは心底嫌そうな顔で言う。
 
(;><) 「クーの世界には絶対行きたくないんです」
 
川 ゚ -゚) 「まあ、この世界の方が暮らしやすそうだがな」
 
私はビロードを伴い、山に踏み入った。
この近辺にワカッテマス達がいるかもしないと思いはしたが、そちらの探索は後にする事にした。
その前にこの件の第三者に話を聞いておこうと思う。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:03:11.07 ID:dybeInUtO
 
ξ゚听)ξ 「あら、クーじゃない。おはよう、今日も来たの?」
 
川 ゚ -゚) 「おはよう、ツン。色々と野暮用でね」
 
幸いな事に、昨日と同じ開けた場所にツンはいた。
昨日見かけたあの謎の木の実を片手に持ち、どうやら食事中の様子だ。
やはり昨日、あの実を勝手に取らなくて良かったかもしれない。
 
ツンは私のそばにいるビロードを見ると訝しげに眉をひそめる。
 
ξ゚听)ξ 「何であんたがクーと一緒にと言うか、あいつらと一緒じゃないの?」
 
(;><) 「一緒じゃないんです!」
 
ツンの言葉を大声で否定するビロード。
その姿にさらにツンは眉をひそめこちらを見るが、私にもわからないので肩をすくめて首を振ってみせた。
 
ξ゚听)ξ 「……で、野暮用って何?」
 
川 ゚ -゚) 「うん、ちょっと岩猫の所まで付き合って欲しいんだが」
 
私の言葉にツンは、昨日断ったはずだと少し不満げな顔をみせたが、私がいわくありげな目線を送ると
その意図を察してくれたようだった。
 

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:07:47.72 ID:dybeInUtO
 
ξ--)ξ 「いいわよ。じゃあ、行きましょうか……っと、その前に」
 
川 ゚ -゚) 「うん?」
 
ツンが私に手招きをし、歩き出したが、そのわずかの間にどこへ向かうのか思い当たった。
 
川 ゚ー゚) 「おはよう」
 
(*゚ー゚) 「おはよう、クー、おはよう」
 
私が挨拶をすると、花は満面の笑みで挨拶を返してくる。
理由はよくわからないがやはり私は気に入られているらしい。
 
(;><) 「なんですか、これ?」
 
(*゚、゚) 「なんですか? お前、なんですか?」
 
人見知りする性質なのか、私のそばから離れようとしないビロードは、花を見るなり驚いた顔で
私に聞いてくる。
しかし、私が答えるよりも早く、その言葉を聞いた花がビロードに逆に聞き返した。
 

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:10:35.22 ID:dybeInUtO
 
(;><) 「僕はビロードなんです。はじめましてなんです」
 
(*゚ー゚) 「私、花、はじめまして」
 
(;><) 「はな……さんですか?」
 
ビロードが困ったようにこちらを見るが、ひとまず問題はなさそうなので放置する。
やはり花ではわかり辛いとは思うので、何か名前は考えてあげるべきか。
 
川 ゚ -゚) 「じゃあ、ビロードは花とここで待っててくれ」
 
(;><) 「え? 僕、ここにいるんですか?」
 
他に行く所があるなら行っても構わないと伝えたが、これといって思い付かなかったのか、花の方に視線を向ける。
私は2人に手を振り、ツンと一緒に山の奥の方へ向けて歩き出した。
 
ξ゚听)ξ 「それで?」
 
川 ゚ -゚) 「うん、まあ、いくつかある。1つはビロードのことだが」
 
私は、昨日ビロードを拾った経緯や、他の2人に対する態度などをツンに説明する。
ツンはうなずきながらも徐々に顔を渋めていく。
 

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:14:05.54 ID:dybeInUtO
 
ξ゚听)ξ 「……ビロードがねぇ」
 
川 ゚ -゚) 「何か思い当たることはあるか?」
 
私の問いにツンは無言で首を横に振る。
雨の日などビロード達と行動を共にすることもあるツンだが、私同様、ビロード達3人の仲は問題なく良いものだと
思っていたようだった。
 
川 ゚ -゚) 「仲が悪いわけではないと思うが、何かしらあったんだろうな」
 
ξ゚听)ξ 「そうでしょうね」
 
川 ゚ -゚) 「その辺に心当たりがないか聞きたかったんだが……」
 
ξ゚听)ξ 「ないけど、それは残り2人に聞いた方が早い気はするわね」
 
私はツンのその意見に頷き、2人の居場所について尋ねてみたが、確証はないが心当たりはあると事だったので、
探してもらうことにした。
 
ξ゚听)ξ 「それじゃ、ちょっと行ってきますか」
 
川 ゚ -゚) 「うん、すまないな。よろしく頼む」
 

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:16:54.79 ID:dybeInUtO
 
ツンは私の言葉に気にするなと片手を振って応じてくれたが、私の視線がツンから動かずにいることに気付いたのか、
探る様な目つきで尋ねてくる。
 
ξ゚听)ξ 「……他に何か?」
 
川 ゚ -゚) 「……いや、ないわけじゃないが、それはまた今度で」
 
ξ゚听)ξ 「何よ? 引っかかるわね?」
 
川 ゚ -゚) 「すまない、私も少々引っかかり中なんでね」
 
ξ゚ー゚)ξ 「何、それ?」
 
私の心底困った様な言い様に、ツンは呆れながらも笑みを返してくれた。
 
当然、ワタナベの件だが、ひとまずビロードの件が片付いてからと考えてしまっているのは逃げだろうか。
答えを先送りにするのは、自分らしくないと思わなくもないが、もう少し具体的なものが見えてきてからと慎重を期すのも
それはそれで自分らしい考えのはずだ。
 
川 ゚ -゚) 「後で必ず話すよ」
 

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:21:25.25 ID:dybeInUtO
 
私がそう宣言すると、ツンは肩をすくめ、前方に転がり込むように身体を倒すと一気に飛び跳ねて行った。
跳ねるのに思ったより助走や反動はいらないらしい。
 
川 ゚ -゚) 「さて、行くか」
 
ビロードの方はツン待ちにすると決めて、私は山の奥の方へ進む。
先日に続き、ギコに会うつもりだ。
 
川 ゚ -゚) 「というわけで、おはよう」
 
どういうわけなのかはギコには伝わらないだろうが、私は岩場までたどり着き、声をかける。
その声に反応するように、先日同様岩の中から顔が浮かび上がる。
 
(,,゚Д゚) 「また来たのか」
 
あまり歓迎といった様ではない返事だが、帰れといったニュアンスでもない。
じいちゃんとの約束から、無碍に追い返すわけにも行かないだけといった所か。
本来ならば1人でいたいのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「そりゃあ、来るさ」
 

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:23:56.91 ID:dybeInUtO
 
ギコが目的の1人だとわかった以上、進展が望めなくても様子見ぐらいはしておきたいと思う。
私がそう言うとギコは短く、そうかとだけ答えた。
 
川 ゚ -゚) 「話してくれれば手っ取り早いのだがな」
 
(,,゚Д゚) 「……他人に話すような話じゃないんでね」
 
川 ゚ -゚) 「……そうか」
 
今度は私が短く答え、視線をそらす様に空へ向けた。
ただ広がる青い空が、穏やかな山の空気によく馴染む。
 
ギコは何も言わず、私も何も言わない。
時間だけが過ぎて行く。
 
川 ゚ -゚) 「なあ……」
 
(,,゚Д゚) 「……」
 
根負けしたというわけではないが、動かねばならないのは私の方ではあるので先に口を開く事にした。
ギコの沈黙の理由、私はそれを知らねばならないのだから。
 

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:26:43.33 ID:dybeInUtO
 
川 ゚ -゚) 「諦めるには早いんじゃないのか?」
 
(,,゚Д゚) 「……遅いさ」
 
理由はわからないが、その心のベクトルぐらいは想像出来る。
一種の鎌かけだが、外れてはいない様だ。
 
表情、言葉、それらの端々から感じられる空気。
諦観。
 
ギコは何かを諦めて、この場にいるのだろう。
 
川 ゚ -゚) 「話せば、何か変わるかもしれない」
 
(,,゚Д゚) 「……か──」
 
川 ゚ -゚) 「変わらないかもしれない」
(,,゚Д゚) 「……」
 
自分が何でも出来るなどとは思っていない。
だは、私はここに遊びに来ているわけではない。
出来る事はやっておきたいし、出来ないからといって簡単に諦めたりもしたくない。
 

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:31:43.73 ID:dybeInUtO
 
川 ゚ -゚) 「どうなるかは、聞いてみないとわからない」
 
(,,゚Д゚) 「……俺の事はいい」
 
川 ゚ -゚) 「そういうわけにも行かないのは、私の目的を知っているお前ならわかるだろ?」
 
(,,-Д-) 「すまない……」
 
川 - -) 「……気が向いたら、等と悠長な事は言ってられない気もするが」
 
それでも、話したくないものを無理に聞き出すべきではないというのはわかっている。
ギコが諦めたもの、そこに至るまでの心情を考えればそんな結論に辿り着く。
 
私はまた、空へ顔を向けた。
見上げた所でそこに答えが書かれているわけはない。
それでも私は、空を見た。
 
自分より大きなものに向かい合った時、自分に何が出来るのか。
これまで考えた事はあっただろうか。
 

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:37:45.36 ID:dybeInUtO
 
川 ゚ -゚) 「また来るよ」
 
私はギコに別れを告げ、その場を後にした。
ツンが戻って来るまではここで粘るつもりだったが、よく考えたらツンはここには来たくないと言っていた。
ならば私が戻るしかないだろう。
 
(,,゚Д゚) 「ああ、またな……」
 
背後からギコの呟く様な返事が届く。
どうやらまた会ってくれる気はあるらしい。
次はもう少し答えを煮詰めてから来ようと思う。
 
ギコが何を諦めたのかを。
 
・・・・
・・・
 
(*‘ω‘ *) 「だからお前はダメなんだっぽ」
 
(;><) 「ダメじゃないんです!」
 
( <●><●>) 「2人とも、少し落ち着く必要があるのはわかってます」
 

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:41:07.53 ID:dybeInUtO
  _,
川 ゚ -゚) 「随分と騒々しいな」
 
ξ゚听)ξ 「あらクー、おかえり」
 
広場に戻ると既にツンは戻っており、私の頼みも無事に果たしてもらえた様だ。
ただ、話を聞いてくると言ってた割には2人がこの場に来ている所を見ると、
あまり話は聞けていないのかもしれない。
 
川 ゚ -゚) 「で、どういった話なんだ?」
 
ξ--)ξ 「さあね。それは当事者達に聞いた方がいいんじゃない?」
 
肩をすくめ、首を振ってみせるツンの様子からするに、やはり2人から話は聞けていないようだ。
ビロードがいる事を伝えたら、2人が飛んで来たのかもしれない。
 
(*‘ω‘ *) 「ダメだったらダメなんだっぽ」
 
(;><) 「全然ダメじゃないんです!」
 
( <●><●>) 「ダメでもダメじゃなくてもいいですから、私の話を聞いてください」
 

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:43:21.16 ID:dybeInUtO
 
川 ゚ -゚) 「……さて、どうするかな」
 
(*゚ー゚) 「どうする? クー、どうする?」
 
騒々しい3人から視線を外し、花の方に目を向ける。
花は首、茎というべきかを傾げる様にしならせ、鸚鵡返しに答える。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、話を聞かないことには始まらないしな」
 
(*゚ー゚) 「始まらない、終わらない」
 
とはいえ、明らかにヒートアップしているビロードやちんぽっぽに話は聞けそうもないので、
比較的冷静に見えるワカッテマスに話を聞く事にする。
 
川 ゚ -゚) 「というわけで、どういった状況なのかを聞きたいのだが」
 
私はワカッテマスにそっと手招きをし、ビロード達から少し離れた位置で先日ビロードを拾った経緯を説明した。
ワカッテマスは納得したように頷き、ビロードを保護した事に礼を述べてきた。
 
川 ゚ -゚) 「保護というほどのものでもないがな」
 

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:46:50.48 ID:dybeInUtO
 
( <●><●>) 「実際、ビロード1人では心配ですからね。助かりました」
 
この辺りに外敵や自然現象といった脅威は見受けられないが、それでもビロード1人だと不安だとワカッテマスは言う。
随分と過保護な気もするが、確かにビロードを見ていると危なっかしい部分は感じられるのも事実だ。
 
川 ゚ -゚) 「その件は今はいい」
 
そんな事より本題の話だ。
 
( <●><●>) 「何故、2人がケンカをしているか、ですね?」
 
私が切り出すより先にワカッテマスが答える。
私は無言で頷き、少し補足をする。
ケンカ自体は珍しくないが、バラバラに行動するほどの大ゲンカの原因が何なのかを知りたいと。
 
( <●><●>) 「それは……」
 
川 ゚ -゚) 「それは?」
 
ワカッテマスはそこで言葉を切り、考え込むように未だ言い争いを続ける2人に視線を向ける。
その視線にあるのは慈しみのそれだと感じた。
 

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:50:20.05 ID:dybeInUtO

( <●><●>) 「……実は私もよくわからないのですよ」
  _,
川 ゚ -゚) 「は?」
 
( <●><●>) 「何故ビロードがああも拗ねているのかわからないんです」
 
ワカッテマスはそう言って申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
てっきり何かしらはっきりとした原因があってケンカに至ったのだと思っていたがどうやら違うらしい。
当然、ビロードとしては理由がちゃんとあるのだろうが、ワカッテマス達2人はそれがなんなのかわからない様だ。
 
( <●><●>) 「故に我々も困っているのですが……」
 
川 ゚ -゚) 「ふむ……」
 
ちんぽっぽは、よくわからないがビロードの事だから大した事はないだろうといつも通り振舞っている様だ。
確かに、ビロードが何故拗ねているのかはわからないが、ああやって言い争っているのを見てる限りでは
普段のケンカと大差はない様に見える。
 
川 ゚ -゚) 「困ったな」
 
(*゚ー゚) 「困った、クー、困った」
 

59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:52:37.58 ID:dybeInUtO
 
私が首を傾げると、同じ様に花も首を傾げてこちらを見ていた。
花とは少し距離が離れた位置にいたが、意外に耳は良い様だ。
 
川;゚ -゚) (というか花に耳ってあったのか……)
 
聞こえてる以上あったのだろうが、外見からはよくわからない。
そもそもの身体の形状が異なる花を、人間と同じ基準で考えるのが間違っているのだろうが、その辺りは難しい話でもある。
 
日常化し過ぎてある意味麻痺してしまっているが、今回の外交は異種族交流も甚だしい。
本来ならば私自身、もう少し慌ててもよい話ではあるのだ。
 
川 ゚ -゚) 「・・・」
 
見回せば、自分とは異なる姿形の者ばかり。
しかし、その内面は私、一般的な私の知る人間とさほど変わりはしない。
 
むしろ素朴で善良な心の持ち主ばかりだ。
私が知る人のそれよりも人らしいとも思う。
 
故に私はこの世界に馴染めている。
同時に、この世界で生きる彼らを好ましく思うし、そんな彼らが困っているなら何とかしてあげたいとも思う。
 
川 ゚ -゚) 「まあ、お前達がわからないから本人に直接聞くしかないな」
 

62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:55:23.98 ID:dybeInUtO
 
( <●><●>) 「ですね。しかし……」
 
簡単に話してくれるならば苦労はないとワカッテマスは言う。
あれでも意地を張る所があるのだと。
 
確かに私もそれは少し感じていた。
普段のおどおどとした感じからすれば、思っていたよりは強情だと。
  _,
川 ゚ -゚) 「とはいえ、他に聞く当てもない以上だな……」
 
( <●><●>) 「聞けば聞くだけ余計に意固地になる可能性もあります」
 
どうもワカッテマスはビロードに直接聞くという私の意見には賛成しかねている様だ。
ならばどうするのか、と逆に問うた所、自分が直接聞くとの答えが返って来た。
 
私が聞こうがワカッテマスが聞こうが差はない気もするが、ワカッテマスはこの問題を自分達で解決したいらしい。
身内の事で、他人の手を煩わせるのが申し訳ないといったニュアンスだろうか。
 
しかしながら、この件に関しては私自身の仕事に関わる話の可能性もあるから放って置くわけには行かない。
 
そしてそれ以前に私は……
 
川 ゚ -゚) 「私はビロードの事を友達だと思っている。勿論、お前達も。だから、何とかしてやりたいと思う」
 

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/31(月) 00:57:02.24 ID:dybeInUtO

( <●><●>) 「……ありがとうございます」
 
私の言葉にワカッテマスは深く頭を下げた。
当たり前の事を言っているだけなのだから、そう大袈裟に畏まられても困るのだが、そういう性格なのだろう。
 
川 ゚ -゚) 「それで、改めてどうするかだが、結局本人に聞くしか道はないんだが……」
 
( <●><●>) 「ですね。他に知っている人がいれば別ですが」
  _,
川 ゚ -゚) 「いないからこうやって困ってるんだろうからな」
 
私は両手を広げ、首を振り、ため息を吐いてみせた。
ビロードに他に知り合いがいるとしたらワタナベを除くとブーンぐらいらしいが、昨日、私と出会ったタイミングから
考えるにブーンと話している可能性は低そうだとワカッテマスは言う。
 
川 ゚ -゚) 「当然、お前も知らないよな」
 
ふと目が合った花に何気なく問う。
花はまた、少し首を傾げて言う。
 
(*゚ー゚) 「知ってる、ビロード、困ってる」
  _,
川 ゚ -゚) 「は?」
 
予期せぬ人物から返って来た答えに、私はただ、間の抜けた言葉を返すしか出来なかった。
 
 
 第16話 了 〜 気付けばそこにあるもの 〜
 

  次へ戻る inserted by FC2 system