2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:38:00.16 ID:b7NaDgvJ0
 
 ダイ20ワ アナタ ガ ミテイタ セカイ ノ ザンカ
 
 
川 ゚ -゚) 「どういうことだ?」
 
(,,゚Д゚) 「……」
 
問い掛けるも返事のないギコ。
その目はまっすぐに花の方に向けられたまま微動だにしない。
 
川 ゚ -゚) 「知り合いなのか?」
 
(*゚ー゚) 「知らない、はじめまして、さっきはありがとう」
 
質問の矛先を変えてみるも、こちらからも芳しい情報は得られない。
どうやらギコだけに何か心当たりがあるようだが、こちらの言葉が全く聞こえていないような素振りでギコはただ立ちすくむ。
 
川 ゚ -゚) 「兄者……は知らないよな」
 
(;´_ゝ`) 「うん、急にこちらに振られても困るかな」
 
一応この場にいたもう1人に聞いてみるも、当然のごとく首を捻るだけ。
周りを見回しても、他に答えてくれそうな人は思い付かない。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:39:30.43 ID:b7NaDgvJ0
 
私達のそんな様子に気付いたのか、ツンとブーン、それに弟者がこちらに歩み寄る。
 
ξ゚听)ξ 「どうしたの?」
 
川 ゚ -゚) 「いや、どうしたと言うか、まあ……」
 
私はちらりと目をギコの方に向け、ツン達に指し示す。
弟者は兄者から状況を聞いているようだが、ブーンは全く何もわかってなさそうな表情でニコニコしている。
 
( ^ω^)

川 ゚ -゚) 「無事合流出来たのだな。しかし、意外と速かったな」

私はこちらに笑顔を向けるブーンに笑って手を振る。
まだそれなりに距離もあると思っていたのだが、ツンはさして時間をかける事もなくブーンを連れて戻って来た。
本気を出せば同じ様に跳ねて移動するちんぽっぽ達よりその機動力はかなり上なのかもしれない。

ツンは肩をすくめ、まあ、こんなものだと事も無げな口調で言う。

川 ゚ -゚) 「しかし、ブーンはともかく、お前ら2人も速かったな」

ブーンと一緒にいたはずの兄者と弟者も既にこの場に来ている。
流石にこの2人をツンが運んで来たとは思えない。
ブーンと一緒に運ぶのは吸われるだろうし無理がある。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:41:08.89 ID:b7NaDgvJ0

(´<_` ) 「川を遡って来たからな」

( ´_ゝ`) 「泳ぎには自信がある」

ブーンをツンが連れて行ったので歩調を合わせる必要がなくなったからだと2人は声を揃える。
いつもは流れのない湖に浮かんでいる所しか見た事がなかったので、そんな特技があったとは意外だ。

とはいえ水棲生物なんだし、泳ぎが得意なのもある種当然とも言えるが。

川 ゚ -゚) 「まあ、それはさておき……」

私は先ほどから逸れることなく左肩に感じる強い視線に注意を戻す。

(,,゚Д゚)  (゚ー゚*)

真剣そのものの目で花を凝視するギコに、私は再度同じ質問をぶつける。

川 ゚ -゚) 「似ているとはどういうことだ、ギコ?」

聞こえてるはずの私の問いに、ギコは何の反応も示さない。
周りを囲む面々に視線を向けるも、全員どういうことかわからないようで首を振るだけだ。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:43:35.88 ID:b7NaDgvJ0

(,,゚Д゚) 「昔の……知り合いに似ているんだ」

ほんのわずかの間の後、ギコは普段よりもいっそう低い声で呟いた。
思わず聞き逃してしまいそうなほどだったが、この距離にいた私にはちゃんと聞き取れた。

似ている、それはつまり花がギコの言うところの知り合いと似ているという事だ。
普通なら花と似た人間というのもあまり想像つかないが、この花は人のそれに似ているし、かわいいと言える感じでは
あるのでそういうこともあるのかもしれない。

しかし……

川 ゚ -゚) 「知り合い……ね……」

ギコがその言葉につまり、搾り出す様に言葉を続けた事に私は気付いていた。
知り合いという言葉に、微妙なニュアンスが含まれている。
それはきっと、ギコが私に語りたがらない原因と直結したものだと何となく察せられた。

(,,゚Д゚) 「……ああ、昔のな」

私はギコの視線を追い、花の方に目を向ける。
ギコとにらめっこでもしているかの様に、ギコに向けてころころ表情を変えていた花だが、私が顔を向ける気配に気付いたのか、
花も私の方へ顔を向ける。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:45:23.84 ID:b7NaDgvJ0

(*゚ー゚) 「クー、知り合い? 私、知らない?」

川 ゚ -゚) 「ああ、お前にもちゃんと紹介しておこうな」

ギコは私の話から花の事を知っていたが、花はギコの事を知らないはずだ。
前に話したかもしれないが、覚えてないか目の前のギコが話の中のギコと繋がっていないかもしれない。
花はそう賢いわけでもなく、記憶力も良い方でない事はわかっている。

川 ゚ -゚) (……記憶力が良くないという事は、それはつまり過去にギコと会っていても覚えていない可能性もあるな)

似ているというギコの言葉通り、実際に花本人がギコの知り合いだったとしてもそれを花は覚えていないかもしれない。

しかし、私の考えはギコの言葉で即座に否定された。

(,,゚Д゚) 「いや、似ているとはいえ、本人のはずはないんだ……」

川 ゚ -゚) 「そうなのか?」

(,,-Д-) 「あいつは植物じゃなかったし、それに……」

川 ゚ -゚) 「もういない……か?」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:46:45.83 ID:b7NaDgvJ0

(,,゚Д゚) 「……」

ギコの言葉を継いだ私に、ギコははっとした表情でこちらを凝視する。
流石に私も馬鹿ではない。
これまでの会話や今のギコの様子、知り合いという言葉の重み等からそのくらいは察しが付く。

私は外交官なのだ。
相手の心をわからずして交渉は出来ない。

川 ゚ -゚) 「……」

私は無言で視線を逸らすことなくギコを見る。
しばらくの後、ギコは不意に目を伏せ、観念したかの様に吐き出した。

(,,-Д-) 「ああ……」

川 ゚ -゚) 「……」

そんなギコの様子に、申し訳なく思いながらも頭の中で色々な可能性を考慮して考えを巡らせていた。
おそらくこれがギコが次元の裂け目の発生原因である理由。
心の奥にある、ギコの悩みだ。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:48:42.62 ID:b7NaDgvJ0

私はこれを解き明かし、ギコを助けなければならない。
ギコは私が知る誰よりも昔から発生原因だ。
それは裏を返せば、誰よりもリミットが近い事を示す可能性がある。

リミットオーバーがどういう結果をギコにもたらすのか、今のところ不明だ。
しかしながら、どう考えてもいい方には転ばないであろう事も想像がつく。

(,,-Д-) 「……」

川 ゚ -゚) 「……」

気になるのは当人がむしろそれを待ち望んでいるように見える所だが、私はそれをはいそうですかと受け入れる
わけにもいかない。
原因追求にこの世界に来た身である事と、何よりギコの事が心配だからだ。

果たしてギコのリミットはいつなのか。
焦る気持ちを抑え、私はこの機会を逃さぬ様、言葉を選ぶ。

川 ゚ -゚) 「お前はなぜこの星に来たのだ?」

(,,゚Д゚) 「……帰る所を、失くしたからさ」


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:51:28.74 ID:b7NaDgvJ0

帰る星を失った。
自分が住んでいた星が滅んだからだとギコは言う。
この問いに対する答えは、予測出来たと言うよりは彼女の言葉から確証があった。

しかし私には、その言葉が別の意味も孕んでいる様な気がしてならなかった。
ひどく悲しい響きの、しかしどこか懐かしい響きの……

川 ゚ -゚) (帰る場所……)

不意に脳裏に浮かぶ一つの顔。


( ФωФ)


懐かしいその顔から、私は同じ言葉を聞いた覚えがある。

川 ゚ -゚) (それがギコとじいちゃんの間にある共感か……)

私は直接的には当時の事は知らない。
まだ私が生まれる前の事だ。

しかし私は、じいちゃんからその事を聞いた。
じいちゃんの寂しそうな目の理由を。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 21:54:58.35 ID:b7NaDgvJ0

じいちゃんは少し驚いた顔をして、やさしく私の頭を撫でてくれた。

あの時、じいちゃんから聞いた同じ言葉は、連れ合いであるばあちゃんを亡くした事から漏れたものだ。
帰る場所だった自分の家が、その日からすごく遠い、空虚なものに感じられたのだと。

同じく大切な人を亡くしたらしいギコが、じいちゃんに共感を抱いたのも不思議はない。

川 ゚ -゚) 「場所を変えようか」

私はギコの返事を待たずに歩き出す。
山の奥、いつもギコが篭っていた岩の方へ。

兄者に眼で合図を送ると、その意を汲んでくれたのか、兄者は深く頷いた。
兄者はツンとブーンの方へ行き、2人に話しかけている。

ビロード達はまだ話し込んでいるようだった。
楽しそうに見えるその顔を見れば、仲直りは上手くいっているのだろう。

私は花を肩に乗せたまま歩き続ける。
ギコは無言ではあったが、付いて来てくれる様だった。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:00:13.89 ID:b7NaDgvJ0

程なくして岩場に着き、ギコは私を素通りし、いつもの場所へ戻る。
しかしながら岩の中には入らず、岩の前に立ち、私の方へ向き直った。

(*゚ー゚) 「ごつごつ、岩だらけ」

川 ゚ -゚) 「お前がいた場所にはこんな大きな岩はなかったな」

私は見たままの感想を口にする花の頭を撫で、しばらく大人しくしてくれるように頼んだ。
話の邪魔になりそうなら置いて来た方が良かったかもしれないが、花がいた方がギコが話してくれそうな気もした。

(,,゚Д゚) 「随分と懐いてるな」

どう切り出すかを考えるよりも先に、ギコの方から話し掛けて来た。

川 ゚ -゚) 「うむ、何故か妙に懐かれたな」

たまに話し相手にはなってやったものの、他にもやるべき事がある以上、そう構ってあげられたというわけでもない。
むしろあの場所に住んでいたツンの方が一緒にいた時間は長かったはずだが、明らかに私の方に懐いている。

(,,゚Д゚) 「刷り込みというやつかもしれんな」

川 ゚ -゚) 「うん?」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:03:32.03 ID:b7NaDgvJ0

ギコの話によると、花がいつから自我に目覚めたかは定かではないが、その際に最初に見た意思の疎通図れるものに
ある種、親に向けるような感情を抱いたのかもしれないという事だ。

川 ゚ -゚) 「親ねえ……」

(*゚ー゚) 「?」

私は花の喉?を撫でながら複雑な気持ちで言葉を吐き出す。
ギコの説明はわからなくもないが、まだ一児の子持ちとなるには若過ぎると思う。

いや、ホント若過ぎると思うよ?

(,,゚Д゚) 「先に兄者が言っていた様に、意思を持ち、自分で動ける植物は例がないから推測に過ぎんがな」

どうやら兄者の説明をギコも聞いていたらしい。
ただ花に気を取られていただけではなかった様だ。

そう言えば兄者たちの事をギコには紹介しそびれたが、まあ、これまで私が相談した内容から彼らが兄者達だと
理解はしているだろう。

同様に兄者達もギコの事をわかったはずだ。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:04:39.66 ID:b7NaDgvJ0

川 ゚ -゚) 「突然変異というわけか」

元々花が植物的な存在ではなく、動物の可能性もあるのだが、それにしては近くに群生していた他の花、この場合は意思を
持たない植物のそれと姿が似過ぎている。
花が擬態した可能性も考えられるので、言い切る事は難しいが。

(,,゚Д゚) 「それは……いや、まあ、何にせよ、研究設備もないここではその辺りを深く知る事は難しいだろうな」

川 ゚ -゚) 「ん? まあ、無理に知らなくてもいいけどな」

どちらにしろ、花は花であるし、意思の疎通が図れるなら花がどうしたいかはわかる。
別に出生の謎が知りたいわけでもないのだし、ただ友達として話すだけならそれで十分だ。

それよりもまず私が考えるべきはギコの事だ。

川 ゚ -゚) 「確か昔、研究員の様な事をしていたと言っていたが、植物学が本職なのか?」

(,,゚Д゚) 「いや……俺は鉱物学を生業としていた」

川 ゚ -゚) 「では、植物に詳しいのは単なる趣味か? それとも……」

植物学に詳しい知り合いがいたかだ。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:05:48.84 ID:b7NaDgvJ0

私は皆まで言わず言葉を切った。
本来なら、言いたくない事まで聞き出したくはないのだが、現状においてはそう悠長な事も言ってられない。

私はギコをじっと見詰め、無言で訴えかける。

(,,-Д-) 「お前はあいつよりはずっと勘がいいな」

正解だとギコは言う。
ギコの亡くした大切な人が、植物学の研究員だったという事だ。

(,,゚Д゚) 「彼女の名は、しぃといった」

(*゚ー゚) 「しぃ?」

ギコ花の方へ視線を向け、呟くようにその名を口にした。
花はその言葉を、首を傾げ、オウム返しに答える。
ギコが亡くした大切な人、しぃは、ギコとは違う星で植物学の研究をしていたらしい。

星が違うといっても、互い星は近く、親しく交流していた。
そして研究者同士、合同研究や調査で一緒になる事はしばしばだったという。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:07:05.41 ID:b7NaDgvJ0

(,,゚Д゚) 「植物学において、俺の持つ鉱物学の知識は有用なものだったしな」

同じ様にギコも、しぃの持つ知識が有用で、必然的に会う機会も増えたらしい。

とはいえお互い研究第一で、色気も何もない付き合いだったが、いつしか共にいる時間がとても心地よいものになって
いった自覚があったということだ。

自分だけでなく、おそらくしぃにも。

(,,゚Д゚) 「仕事以外でも会う様になったし──」

ギコはそこで言葉を切る。
無言で聞く私に、少々ばつの悪そうな顔を見せた。

(,,゚Д゚) 「いや、こういう話は別にいらんな」

親しい相手だった事がわかればそれでいいのだからとギコは言う。
しかし私は大きく首を振り、そこまで話したなら続きを話せとせがむ。

(,,゚Д゚) 「今は花の話だろ? 俺がどうこうは関係ない」

川 ゚ -゚) 「馬鹿な事を言うな。女の子はそういった恋バナが大好物なんだぞ?」


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:09:21.60 ID:b7NaDgvJ0

(;,,゚Д゚) 「いや、今はそんな話いいだろ……」

珍しく動揺するギコに、なおも私は続きを話すように促すが、強引に話を切られてしまう。
勿論、女の子云々は本気ではなく、単純にギコの心因を知る為ではあったのだが、かわされてしまった。

女の子ではあるものの、他人の恋の話など、正直言えばどうでもいい所はある。


自分にはないのだし。


(,,゚Д゚) 「と、とにかく、しぃが研究していた植物の中にはこの花の様に意思を持ち、自走する様な種類はなかったが……」

川 ゚ -゚) 「が?」

(,,゚Д゚) 「そういった植物を研究している部署もあったらしい」

ギコが言うには、人工的に意思を持った植物を作る研究をしていた部署は確かにあったという。
しかしながら、それが成功したという話は聞いてはいなかったとの事だ。

川 ゚ -゚) 「ふむ……しかし、なぜ植物に意思を持たせる研究などがあったんだ?」

一考してみてもこれといって有用な使い道は思いつかない。
資源として使うなら意思を持っていると余計に邪魔になるだろうし、思いつくのは愛玩動物(?)としてぐらいだ。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:11:04.25 ID:b7NaDgvJ0

川 ゚ -゚) (やはり、リアルフラワーロックぐらいだよな……)

(*゚ー゚) 「?」

左肩に視線を向けると、花は首を傾げて答える。
状況を理解してくれているのか、私とギコの話の邪魔にならぬ様、先ほどから何も言わずにいてくれている。

(,,゚Д゚) 「いや、用途は色々あるんだ」

植物の持つ性質、光に向かう性質や、水を求めるそういった本能的な部分での特質を、意思を持つ事で人間に伝達させるのが
目的だったらしい。
惑星開発など、そういった分野への利用が主な目的だ。

川 ゚ -゚) 「なるほど。しかしそれなら、動物でもよかったんじゃないか?」

同じ様な性質を持つ動物もいたはずだ。
それならば最初から意思を持つ、動物の方が研究も早かったのではと素人考えで思う。

(,,゚Д゚) 「まあそうだな。しかし、利点も多かった」

特定の条件下において、動物よりも強い耐性を持つ植物の方が有用性が高かった事や、元々の意思に左右されず、目的の為
だけに伝達させることが出来る等、研究する価値はいくつもあったとギコは言う。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:13:40.48 ID:b7NaDgvJ0
  _,
川 - -) 「……まあ、研究者がどういうものか知らんわけでもないがな」

私は不機嫌さを隠す事もなく呟く。
変に人道主義を振りかざす気はないが、ギコの言葉は植物なら元々意思はないからどう扱っても良いと言っている様なものだ。

しかしながら、自分にそれを責める事が出来るのかといえば、それもまた首を振らざるを得ない。
植物にしろ動物にしろ、人と同等に扱ってはいないし、今もこうやって平気で草の上に立っている。
そんな事をいちいち考えていたら生きて生きないのもまた事実だ。

不機嫌な原因はそれを理解している自分にあり、そう考えるのに至ったのが、今こうやって私の左肩の上に意思を持った植物が
いるからだ。
でなければ考えもしなかっただろう。

そしてそれがまた、人が、自分が勝手な生き物だと思うしかなく不機嫌なのだ。

そんな私にギコは何も言わない。
聡明なギコの事だ、私と同じ様な考えを辿り、もう揺らぐ事のない自分のスタンスを自分の中で決めているのだろう。
私の青い逡巡など、彼からすれば子供の悩みなのかもしれない。

川 ゚ -゚) 「で、その研究は成果を結んではいなかったんだな?」

(,,゚Д゚) 「ああ、俺が知ってる限りではな」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:16:20.34 ID:b7NaDgvJ0

最後に研究の事を聞いた時には、そんな話は聞かなかったとギコは言う。
しぃはそちらの専門ではなかったし、彼女が知らないだけの可能性もあったので絶対とは言えないがとギコは付け加える。
それほど詳しく聞く様な話でもなかっただろうからそれも当然だ。

川 ゚ -゚) 「ん……?」

(*゚ー゚)

大人しくしている花だが、どうも何か違和感がある。
こう長く大人しくしているのが珍しい、というか、大人しくしていられるのは珍しいことだ。

私とツンが花の前で話している時、よくわからない話でも口を挟もうとする。
何かしら構って欲しいのであろう。

(*゚ー゚)

しかし今は妙に大人しい。
表情こそ変わらぬものの、どこかしら考え込んでいるような空気さえを感じる。
これまでの花では見られなかった事だ。

川 ゚ -゚) (当然、ギコ、またはギコの話の所為だと考えるのが妥当なのだろうが……)

現状では判断がつかない。
私は、花を気にしつつギコに話の続きを促す。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:19:19.97 ID:b7NaDgvJ0

(,,゚Д゚) 「何かしら成果があれば、正式な発表があったはずだ」

機密が漏れる可能性を恐れ、発表を伸ばす事もあるが、それよりもまず成果をを示す事による利益の方を取るはずだと
ギコは言う。

(,,-Д-) 「その分野における優位性、発言力の強化、信頼、そして名誉だ」

少なからず自尊心の強い人間の集う世界で、最後のそれが研究員を突き動かす最大の要因になる事はしばしばだ。
世の為人の為という漠然とした概念よりは確実に強く。

時に過ちを起こさせるには十分なほどに。

川 ゚ -゚) 「過ち……」

(,,゚Д゚) 「俺のいた星、そしてしぃのいた星が滅んだ原因はそれだ」

ギコは淡々と、起こった過去に起こった事実だけを私に告げる。
それが事実なのかどうか私には判断はつかず、どこまで客観的な事実なのかもわからない。
しかしギコが語る事実は、おそらくそれが事実なのだと思わされるぐらいには理解出来る話であった。

(,,゚Д゚) 「友好関係を結んでいたはずの俺達の星は、最終的に星間戦争を引き起こすまでに至った」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:22:38.14 ID:b7NaDgvJ0

馬鹿げた話だとギコは言う。
だが、その馬鹿げた話を語らねばならなくなったのも自分達の所業の結果だ。
ギコはそういって目を落とした。

揺ぎ無い色を湛えていた瞳がわずかに曇った様に見受けられた。

(,,-Д-) 「……」

川 ゚ -゚) 「……」

薄情な話だが、今の私にとってはギコたちがいた星が滅んだ原因はさして重要ではない。
必要なのはギコの事、つまりはしぃがどうなったかという事だ。
ギコがここにいて、次元の裂け目の原因となってる以上、結末はわかっている様なものだ。

そこに至る経緯、ギコの心情を知る事が必要なのだ。
過去に起こった事実は変え様もなく、救えはしないが、今目の前にいる男はまだ救えるのだから。

それに、この話は彼女から聞いていたはずだ。
彼らは皆、星が滅び、ここに来たと。
あの言い方ではここにいる皆がそうであるということだが、それは流石に偶然にしては出来過ぎている。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:25:40.66 ID:b7NaDgvJ0

川 ゚ -゚) (何かしら、人為的な……いや、人の手で操作出来るそれを超えているよな……)

ともかく、彼らは住んでいた星が滅び、ここに来た。
ブーンや兄者からはその事が事実である事を確認出来ている。
まだその事を詳しく聞いていない面々もおそらくそうなのであろう。

ビロード達やツンも、きっとそうなのであろう。
流石に花や花火もそうだとは断言出来なさそうだが。

彼らが何かしら、この星の大気圏を突破出来る手段を持っているとは思えない。

ふと気付くと、ギコは黙ってこちらを伺っていた。
どうやら私が何か考え事をしている事に気付いたのか、次の言葉を待っていてくれた様だ。

私は逸れかけた思考を戻し、ギコに問い掛ける。

川 ゚ -゚) 「逃げるという手はなかったのか?」

(,,゚Д゚) 「……残念ながら俺もしぃも国家研究員だった」

国家研究員、言葉の響きからするに私と同じ国家公務員というわけか。
立場上、有事の際こそ必要とされる力である。
望む道とは別の方向で、そして紛争が長引けば長引くほど。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:29:07.60 ID:b7NaDgvJ0

(,,゚Д゚) 「その選択を選ばせてもらえる様になったのは、どちらの星も滅ぶという状況が確定した時だ」

逃げ切れるはずがないとわかりつつも、脱出ポッドに乗った。
今から逃げても爆発する星の影響からは逃れられないのだが、それでも一縷の望みを賭け、脱出したとギコは言う。

(,,゚Д゚) 「こうして生きているから言うわけじゃないが、俺はあの時死んでも構わなかった」

自分がやっている事がどういうことかわかっていながら、戦争の為の研究を続けていた身だ。
むしろあの場で死ぬべきだったと思うとギコは言う。

(,,゚Д゚) 「しかし……」

川 ゚ -゚) 「……」

(,,-Д-) 「しかし、一目あいつに……しぃに会って死にたかった」

努めて感情を抑えた声で、しかしわずかに声を震わせてギコは言う。
出来ればあいつだけは助けたかったと、呻く様な言葉が漏れる。


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:34:09.33 ID:b7NaDgvJ0

川 ゚ -゚) 「……」

今ある状況の全てを考えれば、それが叶わなかったことは聞くまでもなくわかっている。
しぃを助ける所か、会うことも叶わなかったとギコは言う。

(,,-Д-) 「二つの星の爆発で俺は死んだと思っていた」

しかし気付けばこの星にいたという。
よく壊れなかったと感心せざるを得ない脱出ポッドとともに。
この星から出る手段を失った状況で。

川 ゚ -゚) 「……そうか」

ギコがここに来た経緯、そして抱えているものはおおよその所わかった。
しかしながら、私はそれをどうすればいいのだろう。

(,,-Д-)

目の前で沈黙する顔に別の顔が重なる。

( ФωФ)

じいちゃんもまた、同じ思いを抱えていた。
30年前、単身次元の裂け目に飛び込んだのは半ば自棄、死んでも構わないという思いがあったからだろう。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:36:34.14 ID:b7NaDgvJ0

川 ゚ -゚) (……しかし)

じいちゃんは生きる道を選んだ。
この世界を知り、自分がやるべき事を知り。

それを考えると、目の前で何十年もうじうじと引きずっている男はどうしようもない駄目なやつに見える。
けれどそれは、自分の生命よりも大切なものを失った事のない、子供の勝手な考えだ。

誰もがじいちゃんの様には強くない。
あのじいちゃんでさえ、ばあちゃんの事を考える事が辛いから、己自身で動き回る事を選んだのかもしれない。

川 ゚ -゚) 「……それで、ギコはどうしたいんだ?」

(,,-Д-) 「……どうも」

半ば予想出来ていた答えに、私は盛大なため息で答える。
おそらくこの話を聞きだすところまで辿り着いていて、そして同じ様な境遇にあったじいちゃんがどうにも出来なかった話だ。
返る答えはそれしかないのだろう。

このままただ朽ちたい。

やるべき事を見つけたじいちゃんと違い、ギコはここでその時を待っている。


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:39:20.28 ID:b7NaDgvJ0

川 - -) (何ともデカい宿題を出されたもんだ……)

じいちゃんが解決出来なかったギコの心因。
それは同じ経験を有しているが故に、ギコの気持ちが痛いほどわかってしまったのも原因の1つかもしれない。

だから後進に託した。
そういうことなのかもしれない。

私は顔を上げ、ギコに言う。

川 ゚ -゚) 「卑怯な言い方だが、事はお前だけの問題じゃないんだ」

ギコが次元の裂け目の発生原因である以上、その心の問題を解かねばならない。
出なければ、AA界、そして私がいた元の世界にまで影響を及ぼすと主張する。

(,,-Д-) 「……時間が来れば解放されるんだろ?」

川;゚ -゚) 「クッ……」

ギコはその事を知っている。
それもわかっていた。
だからこそ、協力的でありながらも自身の問題は棚上げにしているのだ。

ただ己の、終わりの時を心待ちにしている。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:41:41.77 ID:b7NaDgvJ0

川 ゚ -゚) 「……」

目を閉じ、うつむくギコから視線を外し、花の方に目を向ける。

(*゚ー゚)

相変わらず無言で、さらには私の方を振り向きもせずギコの方を見詰めている。
私達の話が花には理解出来たのか疑問だが、花の様子がどことなくおかしいのは何となく察せられる。

川 ゚ -゚) 「……不本意だがお前の話は一旦置いておくとして、ギコ?」

(,,゚Д゚) 「何だ?」

川 ゚ -゚) 「花がそのしぃに似ている理由は何だ?」

(,,゚Д゚) 「それは……」

先の話を総称すれば、わからないと答えるしかない気もするが、似ているなら無関係と切り捨ててしまうのも惜しい繋がりだ。
実際に植物に意思を持たせる研究が行われていたのなら、何かしら推測が出来ないだろうか。

(,,゚Д゚) 「……いくつかはある」

あまり考えたくない話だが、と前置きをし、ギコは続けて口を開く。


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:44:15.99 ID:b7NaDgvJ0

(,,゚Д゚) 「まずしぃも俺と同様、自身が望む研究を続けられていたとは思えない」

戦時下における最優先事項。
言うまでもなく兵器開発といった類であろう。

川 ゚ -゚) 「兵器ねえ……」

(*゚ー゚)

肩に乗る花に目を向けるも、これが兵器とは到底思えない。
例外的に兄者達には兵器にもなり得るが、あれは例外も例外だろう。

それに仮に花が兵器だとしても、しぃと似ている事の理由にはならない。

この広大の宇宙での事だ。
常識的に考えれば他人の空似という答えが一番理に適うとは思うのだが、この星には何かしら超常的な力が働いているのも
また事実だ。

ここは因果関係を疑ってかかってもいいと思う。


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:47:47.59 ID:b7NaDgvJ0

川 ゚ -゚) 「兵器だとしたらどんな兵器だ?」

(,,゚Д゚) 「すぐに思いつくのは、ガスか水か、何か有毒なものを吐き出させるかだが……」

これまでそばにいた感じではそんな様子は微塵も見せなかったし、現在もこうやって私の肩の上にいる。
そんな物騒な物は付いてなさそうではある。

(,,゚Д゚) 「直接的な兵器とは限らない可能性もあるが……」

通信や調査など、先に話しにあった植物に意思を持たせる研究が目指した地点だ。
あれは軍事利用も可能だろうとギコは言う。

川 ゚ -゚) 「しかし、流石に不便じゃないか?」

星間移動を可能とするほどの技術欲をもった星で使うには、いささか物足りないのではないかと考えられる。
辺境開発などの分野ならまだしも、すぐ近場で使う類のものだ。

(,,゚Д゚) 「目新しい分野だからな、まだ解析されてないという強みはある」

川 ゚ -゚) 「なるほど……」

高度に発達したものがあるとはいえ、ほんの少し前まで友好関係にあった星のものだ。
お互いの持つ技術は同じ様なもので、当然使い方は知られ過ぎている。


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:54:04.60 ID:b7NaDgvJ0

(,,゚Д゚) 「どちらにせよ、元々しぃがいた研究分野よりは戦時下での有用性はあったはずだ」

彼女が研究していたのは緑化推進。
植物の成長を促す様な研究をしていたらしい。
戦時下に置いては真っ先に切り捨てられそうな分野ではある。

川 ゚ -゚) 「……となるとそこから移動させられた可能性もあるのか」

とはいえ、たとえしぃが植物に意思を持たせる研究に関わる事になったにしろ、やはり花がそのしぃに似ている事には
直接的に結びつくわけでもない。

取り敢えず研究の過程で自分の顔をモデルにしたという事も考えられるが。
さらに、これは小説の読み過ぎかもしれないが、別の考えも私の頭の中にはあった。

川 ゚ -゚) 「なあ、しぃって人に心当たりないか?」

私は取り敢えず後者の考えは置いておき、花に問い掛ける。

(*゚ー゚)

しかし花は何も答えず、さらにギコさも見ていない様な目で、ただ前だけを見ていた。
まるで意思を無くしたかの様に、ただ私の肩に咲いてるかの様な錯覚を覚えた。


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/10(水) 22:57:04.16 ID:b7NaDgvJ0

川;゚ -゚) 「どうした?」

若干の焦りを覚えながら再び問う私に、今度はくるりとその顔を私の方に向けた。
安堵のため息を付く私に、花はにっこりと微笑んで見せ、またギコの方を見る。

(*゚ー゚)

(,,゚Д゚) 「……」

やはり似ていると、ギコの呟きが耳に届くが、私は何かを言うよりも早く、これまで沈黙を保っていた花が口を開く。

(*゚ー゚) 「ギコ」

川 ゚ -゚) 「!」

(,,゚Д゚) 「!」

(*゚ー゚) 「ギコ……しぃ……」

花は2人の名前を呼ぶ。

それは私の言葉をただ今覚えただけとは思えない、どこか暖かい響きを湛えていた。
 
 
 第20話 了 〜 想いを繋ぐ、繋ぐ先を忘れた想い 〜


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