- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:28:37.17 ID:uSms0mQu0
-
ダイ22ワ オワリ ノ セカイ
(,,゚Д゚) 「ようやくか……」
呟く様に漏れるギコの声。
ギコが何かを待ち望んでいたのは知っていた。
いや、何かではなく、もっと具体的な言葉でそれを。
しかし私は、突如現れたその姿に目を奪われ、ギコの言葉の意味を深く考える余裕はなかった。
川;゚ -゚) 「何故お前が……?」
ミセ*゚ー゚)リ 「?」
私の問い掛けには答えず、ただ黙々とこちらに向かって来る人影。
まだ距離があるので、聞こえなかっただけかもしれない。
私は一縷の望みを賭け、再び近寄る姿に問う。
川;゚ -゚) 「何でここにいるんだ? ……ワタナベ?」
从'ー'从
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:29:58.16 ID:uSms0mQu0
その人影、ワタナベは私に問いにはやはり答えず、まっすぐにこちらに歩いてくる。
正確には、こちらではなく、ギコに向かって。
川;゚ -゚) 「ワタナベ?」
从'ー'从
私の呼びかけに一切反応することなく、ワタナベはギコの前で立ち止まる。
すれ違った際に見たその目は、いつものワタナベと何ら変わりなく見えたが、その向く先だけが固定された様に
全くぶれる事はなかった。
(,,゚Д゚)
从'ー'从
無言で対峙するギコとワタナベ。
掛けるべき言葉が思い付かず、私はただ呆然とそれを見詰めていた。
(,,゚Д゚) 「ここでいいのか?」
从'ー'从
ギコの問いに反応するかの様に、ワタナベは右手を挙げ、ギコの左後方を指差した。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:31:52.54 ID:uSms0mQu0
川;゚ -゚) 「なん……」
(,,゚Д゚) 「あっちか……」
2人のやり取りの意味を聞く間もなく、ギコはワタナベが示した方へ向かってゆっくりと歩いていく。
私もその動きに釣られる様に数歩、よろける様に近付いた。
それからギコが数歩歩いた所でワタナベが手を下ろす。
ギコもその場で歩みを止め、ワタナベではなく私の方に視線を向けた。
(,,゚Д゚) 「……よくやったな」
川;゚ -゚) 「は……?」
(,,゚Д゚) 「先の兄者と合わせて、この短期間で3人も解放出来た」
川;゚ -゚) 「……」
(,,゚Д゚) 「お前さんはあいつより優秀かも知れんな」
あいつ、きっとじいちゃんの事を指しているのだろうが、こういう状況でなければそれは素直に喜びたい話だ。
こういう状況、ギコの、そしてワタナベの意味不明な行動がなければ。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:33:03.21 ID:uSms0mQu0
川;゚ -゚) (いや、意味不明じゃない……私には……)
何となく察しが着いている。
この場でこれから起こる事。
彼らの持つ空気が、それを如実に私に伝える。
(,,゚Д゚) 「これであと1人」
川;゚ -゚) 「!」
違う。
残る原因はあと2人だ。
ギコは何を言っている?
私はその答えがわかっていながらギコの名を叫ぶ。
川;゚ -゚) 「ギコッ!!!」
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:34:55.40 ID:uSms0mQu0
(,,-Д-) 「……すまん」
目を伏せ、ただ謝るギコに向け、私の足は自然に走り出していた。
しかしそんな私の前に伸ばされたワタナベの左腕が進路を塞ぐ。
川;゚ -゚) 「──ッ!? ワタナベ!?」
从'ー'从
無言で首を振るワタナベの顔には、いつも通りの笑顔が浮かんでいる。
私やギコの緊迫した面持ちとは対照的なその笑顔は、この場にひどく不似合いな気がした。
(,,-Д-)
「クー、そして花……いや、今はミセリだっけか?」
川;゚ -゚)
ミセ*゚ー゚)リ 「?」
足を止めた私達にギコが静かに語り掛ける。
私は何故かその場から動けず、ギコの言葉を大人しく聞くしかなかった。
- 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:36:13.01 ID:uSms0mQu0
(,,-Д-) 「お前達のお陰で、俺はずっと知りたかった事をようやく知る事が出来た」
しぃの事、明言されずともそれはわかる。
しかしそれは、ずっと知りたかったと同時に、絶対に認めたくなかった事実でもあったのではなかろうか。
(,,-Д-)
「だとしても俺はお前達に感謝している」
知る事が出来、自分の気持ちにも整理がついたとギコは言う。
しかしながら私には、整理という言葉が諦めという響きにしか聞こえなかった。
(,,-Д-)
「かもしれないな。……もう、希望は持てないのだからな」
今すぐに忘れろなんて事は言えない。
しかし、時間が解決してくれる事もある。
また新しい希望が、芽生える事だってきっと……。
(,,-Д-) 「疲れたんだ、もう……。それに……」
自分は罪を償わなければならないというギコ。
国の命じるままに兵器を作り、多くの生命を奪った事を。
もともと、しぃを助けられればそれでよく、死ぬつもりだったとギコは言う。
川;゚ -゚) 「死ぬ事がだけが責任を取る手段じゃないだろ!?」
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:37:47.13 ID:uSms0mQu0
(,,-Д-) 「何もないんだ。しぃも、星も、人も……何も残っていない」
川;゚ -゚) 「しかしお前はここにいる! ここで会った私達もいる!」
お前には何も残っていないわけじゃない。
自分で言ってても、薄っぺらくしか聞こえない言葉に、ギコは軽く微笑んだ。
(,,゚Д゚) 「ありがとう……。お前に会えて良かったよ」
川;゚ -゚) 「ギコッ!!!」
ワタナベの手を払い、走り出そうとした私を前方からの突風が突き倒す。
再び立ち上がろうとした私に、ギコの落ち着いた声が届く。
(,,゚Д゚) 「これは俺が決めていた事だ。お前の所為じゃない」
川;゚ -゚) 「ふざけるな!」
(,,゚Д゚) 「そうだ、最後に1つ。あいつはお前が思ってるほど馬鹿じゃないぞ? 皆の事をよく考えてるからこその悩みだ」
川;゚ -゚) 「何の話だ? 最後だとかふざけた──」
(,,゚Д゚) 「じゃあな。お前の健闘を祈っている」
やけに落ち着き払ったギコの声が私の耳に届いた瞬間、世界は光に包まれた。
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:39:27.61 ID:uSms0mQu0
- ・・・・
・・・
ギコの最後の表情は笑顔だった。
それは錯覚でもなんでもない、私と出会って初めて見せたギコの心からの笑顔だったと思う。
しかしそれは、私が見たかった笑顔とは程遠く、私にしてみれば後悔しか残らない姿だ。
何故、しぃの事を知っても、ギコの悩みは解消されなかったのか。
理由はいくつか思い付くが、それが正解かはわからない。
しぃが亡くなっていた時点で、ギコの悩みを解消するのは無理だったのだと考える事も出来る。
本人が言っていた様に、ただこのまま朽ちるのを待っていたかっただけだと。
私がした事は、ギコの決断を早めただけに過ぎなかったのかもしれない。
何の解決策にもならず、ただ徒にギコの答えを決めさせてしまったのかもしれない。
たとえもう、私の力ではどうする事も出来ない状態だったとしても。
引き鉄を引かせたのはきっと私なのだと、これから先もずっと後悔するのだろう。
「……ー!」
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:40:58.89 ID:uSms0mQu0
全てが全て、自分1人の力でどうになかるなんて考えていない。
でも、私は、この世界に来て1人でも何とかしようとは考えていたと思う。
私は自分の為、そしてこの世界の皆の為に何とかしたかった。
皆の為、空々しく聞こえる言葉だが、私がこの世界の皆を気に入っているのは確かだ。
最初は自分の、外務課の名誉の為に来ていたとは思う。
でも今は、そんな事よりはきっとこの世界の皆の為に何とかしたいと思っている。
けれど私は失敗した。
私はギコを救えなかった。
ギコは恐らく、あれが救いなのだと言うのかもしれない。
けれど私は、あんな終わりは認めたくない。
最後まで生きて、生を全うして欲しかった。
しぃの分もギコに生きて欲しかった。
「クー!」
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:42:16.40 ID:uSms0mQu0
川 - ) 「……ん」
混濁した意識の中、誰かの呼ぶ声が聞こえる。
呼ばれているのは私、呼んでいるのは……
ξ;゚听)ξ 「クー!」
川 - -) 「……ツン?」
ミセ*゚д゚)リ 「クー!? 無事? クー!? 平気?」
川 - -) 「……花……いや、ミセリだったな」
次第にはっきりして来た意識が、声の主にそれぞれ言葉を返す。
真っ暗な世界から抜け出すように、私はゆっくりと目を開けた。
川 ゚ -゚) 「どうやらお互い無事みたいだな……」
私は倒れこんだまま、体の各部位の状態を確かめるが、これといって問題はない様だ。
私は上体を起こすと同時に抱き付いて来たツンの頭を撫で、その間で潰されそうになっていたミセリを引っこ抜き、
肩に乗せた。
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:44:17.60 ID:uSms0mQu0
場所は先ほどと変わらぬ、山中。
時刻もそれほど過ぎてはいない様だ。
周りを見渡せば2人を除き全員いる。
こちらに心配そうな目を向けてくるが、どうやら全員無事らしい。
私は、いなくなった2人の内の1人、ギコがいた方向に目を向ける。
川 ゚ -゚) 「……」
そこには予想通り、巨大な次元の裂け目が縦に大きく広がっていた。
川 - -) 「……やはりそういう事か」
私は大きくため息をつき、いなくなったもう1人を探す。
しかしながらその場には見当たらず、ミセリ以外はその姿すら見ていない様だった。
川 ゚ -゚) 「そうか、ワタナベとは会っていないか……」
ξ゚听)ξ 「ええ、見かけてないわ」
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:47:09.37 ID:uSms0mQu0
( <●><●>) 「見かけてはいませんが、その……」
(;><)
言い淀むワカッテマスや不安な表情を見せる面々を見る限り、ビロードが言っていたワタナベの印象は全員に
浸透しているらしい。
すなわち死を告げる人という認識が。
川 ゚ -゚) 「そういう事か……」
私は改めて巨大な次元の裂け目に目を向け、数歩歩み寄る。
肩の上にいたミセリは、少し慌てた様な声を上げたが、恐らく危険はないだろう。
私はここから出て来たのだし。
川 ゚ -゚) (今頃向こうの世界は大騒ぎだろうな……)
多分人的被害は出ていないのだろうが、それでもミルナ達はその処理に追われているのだろう。
任されてこちらに来ていたのに申し訳ないと思うと同時に、改めて後悔の念が押し寄せて来た。
川 - -) (たとえずっと昔から答えが決まっていたとしても、この気持ちは消えんよな……)
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:49:09.64 ID:uSms0mQu0
これであと1人。
ギコはそう言った。
きっとずっとそうするつもりだったのだと、改めて思い知らされた。
それがギコが望んだ瞬間なのだと、理解する事は出来た。
だからと言って、仕方のない事だったと自分を慰めても意味はない。
あるのはギコが死んだという結果と、巨大な次元の裂け目が出来たという結果の2つだけだ。
ξ゚听)ξ 「で、これはどういう状況なの?」
いつの間にか私の背後に歩み寄っていたツンが問い掛けてくる。
3度も地震があったかと思えば、とてつもない閃光が走り、こちらへ来てみたら私が倒れていて巨大な次元の裂け目が
あったとツンは言う。
川 ゚ -゚) 「……」
あと1人。
ギコの言葉通り、あと残された原因はブーンただ1人だ。
今までは誰が原因かわからなかった事もあり、既に解放された兄者達以外には説明は避けていたが、この状況であれば
ブーン以外には話しても問題はないと言う事になる。
いや、もうブーンも含めた皆に話してもう良いだろう。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:51:00.66 ID:uSms0mQu0
川 ゚ -゚) 「……すまん、1日待ってくれ」
ξ゚听)ξ 「どういう事?」
私は皆に謝り、1日だけ説明を待って欲しいと頼んだ。
当然の如く皆は一様に不思議がったが、私の真剣な言葉の響きに納得してくれたのか、全員が頷いてくれた。
ξ゚听)ξ 「1日ぐらいなら別にいいけど……」
(*‘ω‘ *) 「1日でなんとかなるっぽ?」
話したくないなら無理に話さなくてもいいとまで言ってくれるが、流石にそれは義理を欠くと、私は明日必ず話すと
皆に約束する。
あまり詮索しないでいてくれる皆だが、今の私では全てを説明出来ないだけなのだと言い添えておく。
川 ゚ -゚) 「あいつと話して、全てを知ったら説明する。必ずな」
ξ゚听)ξ 「わかったわ……でも」
川 ゚ -゚) 「ん?」
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:52:30.91 ID:uSms0mQu0
ξ゚听)ξ 「無理はしないのよ?」
川 ゚ー゚) 「……ありがとう。大丈夫、ちゃんと戻って来るさ」
何となく空気を察してくれているのだろう。
この巨大な次元の裂け目にしろ、ここにいないギコの事にしろ、私自身の様子にしろ。
そう長くこの世界にいたわけではないのだが、皆が私の事を理解してくれて、心配してくれているのは
素直にありがたいと思う。
だからこそ、私は全ての真実を皆に話したいと思うのだ。
川 ゚ -゚) 「おっと、こいつも頼む」
私は肩の上に乗せていたミセリを掴み、ツンの方へ差し出す。
ミセリは不満げな声を上げ、自分も付いて行く事を主張したが私はそれを断った。
ミセ*゚д゚)リ 「私、クー、一緒! 約束!」
川;゚ -゚) 「すまん。今日だけだから、な?」
ξ゚听)ξ 「いいから行きなさいよ。こいつの面倒は私らで見とくから」
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:53:51.30 ID:uSms0mQu0
ミセ*゚3゚)リ 「BOOHOO!」
ξ#゚听)ξ 「うるさい、黙れ」
ミセ*>д<)リ 「うきょぉっ!?」
川;゚ -゚) 「仲良くな?」
私は一抹の不安を覚えながらもミセリをツンに預け山の麓へ向かう。
行き先はわかっている。
ただ家に帰るだけだ。
この世界の私の家に。
ワタナベがいるあの家に。
川 ゚ -゚) 「……いるよな、きっと」
私は止めていたマシンに跨り、走り出す。
日はだいぶ傾きかけ、空をわずかに茜に染めつつあった。
・・・・
・・・
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:55:44.27 ID:uSms0mQu0
川 ゚ -゚) 「ただいま」
いつも通りドアを開け、声をかける。
しかしながらいつもの様には返事は聞こえてこない。
川 ゚ -゚) 「まあ、予想はしていたが……ん?」
一見無人に感じられる室内だが、どこからかともなく良い匂いが漂ってくる。
川 ゚ -゚) 「ワタナベ?」
匂いの元はすぐに発見できた。
いつもの食卓の上に、既に晩ご飯の用意がなされている。
川 ゚ -゚) 「ご丁寧にまあ……」
わざわざ手書きのメモで、料理を温め直す手順なども残されている。
しかしながらメモには料理の事以外は何も触れられていない。
川 ゚ -゚) 「……ワタナベ」
私はもう一度その名を呟いた。
出来れば、呼びかけに答えて出て来て欲しいと思う。
私はもう一度ワタナベと話がしたかった。
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:57:07.91 ID:uSms0mQu0
川 - -) 「……もう遅いのかな」
私は2階の自分部屋に戻る。
部屋の入り口にはいつも通り洗濯され、綺麗に畳まれた私の服が置いてある。
私はそれを掴み、また階下へ降りる。
そして風呂場の方へ向かった。
川 ゚ -゚) 「何もかもがいつも通りか」
風呂場には洗い立てのタオルが置かれてあり、きちんと掃除されていた。
私は服を脱ぎ、湯に浸かる事にする。
川*- -) 「ふぅ……」
少し熱めの湯は、疲れた身体の凝りをほぐしてくれる。
この世界に来てほぼ毎日浸かった風呂だが、これがあったお陰でここでの生活が随分快適になったと思う。
川*゚ -゚) 「色々世話になったよな」
この世界に来て、この家、そしてワタナベには世話になりっ放しだ。
この世界の為という名分があったとはいえ、それを差し引いても十分過ぎるぐらいワタナベは私を持て成してくれた。
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/03(水) 23:58:39.28 ID:uSms0mQu0
川*- -) 「一度くらい一緒に風呂にでも入ればよかったかな……」
裸の付き合いをすれば、もう少し彼女の事も知る事が出来たかもしれない。
そういう事とは関係なく、日頃の労を謝して、背中ぐらい流してあげたかった。
川*- -) 「ワタナベ……」
私はまたその名を呟く。
結局の所、ワタナベに関してが1番何もわかってないかもしれない。
何故ワタナベがここで私の相手をしていたのか。
そして今日あの場で見たワタナベの姿。
ビロードの言葉。
川*゚ -゚) 「それも含めて全て聞くさ」
話すべき相手はワタナベであってワタナベでない。
私は彼女に全てを聞き出す決意をし、風呂から上がった。
・・・・
・・・
- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:00:33.00 ID:6e2kO/b30
季節はもうすぐ夏のはずだ。
明確に区分されているわけではないだろうし、元の世界の常識が当てはまるわけでもない。
しかしながら虫の声1つもしない闇夜は寂しいものだ。
AA界には極端に生物が少ない事はわかっている。
それはきっと、この星がかなり特殊な星だからだろうという想像は付いている。
川 - -) 「……」
部屋の電気を消し、布団の上に座す。
私は食事を取り、食器を片付けた後、自分の部屋で彼女を待つ事にした。
彼女が来る日は決まっておらず、今までは向こうの都合で来ていたが、彼女が今日ここに来るだろうと私は確信していた。
川 - -) 「……」
今日は星のない闇夜だ。
日によって星は見えたり見えなかったりするが、星の出ていない夜でもおぼろげな明るさが、瞼を閉じていても感じられる。
不思議な感覚だ。
こうして目を閉じていると元の世界にいるのとさして変わらない状態のはずなのに、私にはどこか違って感じられる。
だいぶこの世界に馴染んだと思ったが、いや、馴染んだからこそ元の世界との差異を感じられているのか。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:03:03.30 ID:6e2kO/b30
川 - -) 「私は……」
AA界に来て、色々な人と出会った。
私が知るところの人とはだいぶ姿形が違う人ばかりだが、その心は私が知る人と同じだ。
誰もが優しく、穏やかな世界。
だからこそ私は、この世界を、この世界に住む人の為に次元の裂け目を何とかしたいと思っていた。
結果私は、彼女が言うところの次元の裂け目の発生原因を3つ取り除く事が出来た。
そして1つ、取り除く事に失敗し、あと1つ残されている。
失敗の結果がこの星に与える影響は変わらない。
あの巨大な次元の裂け目が出来る以外は大局に変化はないのだ。
だからギコは時間が解決するといった。
全然解決だとは思えない結果だが、ギコ個人ではなく、この星に主眼を置いた場合は変わらないのだろう。
川 - -) 「失敗しても変わらない……か……」
だったら、成功したら何が変わるのか。
成功した先の結果は、どうなるのか。
それが失敗した場合の結果と何も変わらないならば、この星は……
- 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:04:11.14 ID:6e2kO/b30
川 - -) 「……来たか」
静寂の中、ゆっくりと足音が近付いて来る。
さして体重を感じさせない女性のそれが、程なくして私の部屋の前でぴたりと止まる。
从 ー从 「こんばんは……お久しぶり?」
川 ゚ -゚) 「こんばんは……そうだな、しばらくぶりだな、お前の訪問も」
若干かすれ気味ながらもワタナベの声で挨拶をする彼女。
最後に彼女と話してからもう、3週間以上は過ぎただろうか。
从 ー从 「そうだね。でもそれは、予想以上にクーちゃんが私の手助けを必要としなかったからだよ」
川 ゚ -゚) 「手助け云々の前に、答えそのものを教えてくれればそれで済んだんだがな」
从 ー从 「アハハ、まあ、そういうわけにもいかなかったしね」
川 ゚ -゚) 「ただ答えだけを知っていても、解決するには至らなかった、か?」
从 ー从 「そんなとこだね……」
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:05:52.74 ID:6e2kO/b30
彼女の様子は最後に会った時と何ら変わる事はなく、どこか楽しんでいる様にも感じられた。
彼女が言うところの予想以上の私の働きに喜んでいるのだろうか。
それとも想定外の結果を、疎ましく思っているのか。
川 ゚ -゚) 「そろそろ、答えを聞く時間じゃないかな?」
私はストレートに言葉をぶつける。
私は今日ここで、全てを聞き出すつもりでこの場に臨んでいる。
これまで同様はぐらかそうとするならば、実力行使も止むない気構えだ。
从 ー从 「うーん……そうだねー……」
川 ゚ -゚) 「……」
从 ー从 「まあ、あとはあの子1人だからね、もう話してもいいのかな?」
川 ゚ -゚) 「……もう少しごねるかと思ったが」
从 ー从 「あれ? 勿体つけて欲しかった?」
川 - -) 「いや、話が早くて助かるよ」
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:07:37.74 ID:6e2kO/b30
意外にも彼女はすんなりと話してくれるようだった。
これまでの回りくどさを考えれば、もう少し引き伸ばされるかと思っていたが、どうやらそろそろ本当に終わりは近いらしい。
私は無言で立ち上がり、入り口の襖に向かう。
从 ー从 「……」
川 ゚ -゚) 「……開けるぞ?」
从 ー从 「……そのまま無言で開けない辺りがクーちゃんらしいね」
茶化す様に言う彼女だが、私はただ一言、ワタナベには感謝しているからと答えた。
从 ー从 「その言い方だと、色々と察してはいるみたいだよね?」
川 ゚ -゚) 「当たり前だ。そもそもお前に隠す気が合ったのかが疑わしいくらいだ」
私の返答に彼女は笑い声で答えた。
そこで優秀だと言われるのも馬鹿にされている様に聞こえるが、私は甘んじてそれを受け止めた。
川 ゚ -゚) 「……」
私は襖に手を掛け、ゆっくりと開いた。
- 38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:09:57.47 ID:6e2kO/b30
从 从
川 ゚ -゚) 「ワタ……ナベ……?」
開いた襖の先、廊下に見えたのはこちらに背を向けたワタナベの姿だった。
よく似た誰かなのかと考えはしたが、AA界に来て毎日見ていた姿だ。
間違え様はない。
从 从
川 ゚ -゚) 「やはりお前はワタナベなのか?」
私の問いに答える様に、背を向けていたワタナベはその手を後頭部に当て、ゆっくりと髪をかき上げた。
从 ゚ー从
川;゚ -゚) 「!?」
- 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:12:34.95 ID:6e2kO/b30
从 ゚∀从 「はじめまして、という言い方も変だな……」
川;゚ -゚) 「お前は……?」
从 ゚∀从 「私は……特に名前はないが……ロマは後ろのやつって呼んでたな」
何とも適当な返事に少々拍子抜けしたが、彼女の言わんとせん事、じいちゃんがそう呼んだ理由はすぐにわかった。
彼女が私に背を向けると、その背後には目を閉じたワタナベの姿があった。
川;゚ -゚) 「ワタナベ……? 眠っているのか?」
从 ゚∀从 「ああ、眠っているよ」
説明すれば色々と複雑なのだがと前置きし、簡単に言えばワタナベが眠っている間は私が起きているのだと彼女は言った。
川 ゚ -゚) 「二重人格とも少し違うようだな……」
彼女はワタナベのそういった類の人格かと推測していたのだが、厳密に言えば違うらしい。
私は彼女の顔をまじまじと見る。
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:16:39.95 ID:6e2kO/b30
从 ゚∀从
顔立ちはワタナベと似ているが、少し勝気そうな目と顔を覆い隠すように伸びた髪の所為で全く別人の様にも見える。
しかし今のワタナベの状態から推測するに、日中は彼女が眠っていて、ずっとワタナベと共に私の前にいたのだ。
髪の毛で隠されていたとはいえ、上手く騙されてしまった。
从 -∀从 「騙したつもりはないんだが……まあ、私は色々と謝るべきだろうな」
川 ゚ -゚) 「何を今更」
私は怒っているわけではないと彼女に言い、仕方がない理由があったのだろうと考えていると伝えた。
川 ゚ -゚) 「だから、あとはその理由を教えてもらえばそれで済む事だ」
从 -∀从 「……だな」
彼女は深く頷き、長い話になるから座る様に進めてくれた。
私が布団の端に座ると、彼女はどこからか椅子を持ち出してきてそれに座った。
从 ゚∀从 「まずはどこから話す……どうした?」
川;゚ -゚) 「いや、その座り方はもう少し何とかならないものかと思ってな……」
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:18:09.92 ID:6e2kO/b30
彼女はごく普通に椅子に座っている。
普段渡辺が座る様に、というと伝わり辛いかもしれないが、要するにワタナベを前面とした際の普通の座り方で、
彼女の顔の方が椅子の背もたれを向く座り方だ。
よく考えたら後頭部に顔があると言う事は全て身体の向きは逆なのだから仕方がないといえば仕方がないのだが、
背もたれ越しに私を見ているその姿は、少々不自然だ。
从 ゚∀从 「慣れてくれとしか言えんな」
川;゚ -゚) 「ああ、すまん、善処するから話を続けてくれ」
彼女はまた1つ頷き、話を始める。
その頷き方も多少不自然ではあるのだが、気にしないように努め、彼女の言葉に集中する。
从 -∀从 「色々あるんだが……まずはそうだな、私の事を話すべきかな?」
川 ゚ -゚) 「任せるよ。どうせ全部聞くつもりだしな」
从 ゚∀从 「それもそうか」
彼女は右手で頭を掻き、少し考え込む様に目を閉じた。
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:20:09.26 ID:6e2kO/b30
从 -∀从 「この星は、他の星と少し違うんだ」
川 ゚ -゚) 「私は地球とこのAA界しか知らないが……」
何か気付いた事はあるかという彼女に私はそう前置きして、いくつか思い付いていた事を答える。
生物の姿が少ない事、元いた星が滅んだ人ばかりがいる事、星がなくても夜空が明るい事など、その内の数点は彼女から
聞かされていた事も含んだかもしれないが、私は気にせず挙げていく。
从 ゚∀从 「ま、それだけ気付いていれば上等、上等」
流石だと褒める彼女に、世事はいいから話を続けるように言う。
从 -∀从 「せっかちだねぇ……。夜は長いんだ、焦らず行こう」
川 ゚ -゚) 「いい加減勿体付けられるのには辟易してるんでな」
私は悪びれる様子も見せずに言う彼女に、同じく悪びれることなくストレートな言葉をぶつける。
彼女は笑ってそれもそうだろうと頷いた。
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/04(木) 00:22:42.15 ID:6e2kO/b30
从 ゚∀从 「んじゃ、単刀直入に言おう」
川 ゚ -゚) 「ああ」
从 ゚∀从 「私は星だ」
川 ゚ -゚) 「……」
何を言われても驚かないつもりではいたが、私は彼女の言葉に何も言えず、黙って彼女の目を見詰めた。
その目にはどこもふざけた様子は見られず、冗談で言っているわけではない事はよくわかった。
川 ゚ -゚) 「……星というのはこの」
私は布団、足元を指差す。
彼女はまた深く頷き言う。
从 ゚∀从 「ああ、その星だ。私はAA界そのものなのさ」
彼女の言葉が暗いままの部屋に、静かに響き渡った。
第22話 了 〜 叶わぬ思いだけが、ただ私を苛む 〜
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