2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:03:26.39 ID:InlL6JA00
 
 ダイ23ワ カノジョ ノ セカイ ノ アル スガタ
 
 
从 ゚∀从
 
目の前にいる彼女は、自分が星だという。
比喩的な表現で、人が死んだ際等に星になったなどと言われるが、当然それとは違う様だ。
何故なら彼女は私の目の前で生きているから。

川 ゚ -゚) 「どういう意味なのだ?」

从 ゚∀从 「疑りも否定もしないんだな」

川 ゚ -゚) 「今更、だろ?」

今更、全てを話すと言った彼女が嘘を吐く理由がない
今更、この世界の有様を目にした私が信じない理由がない。

从 ゚∀从 「星の意思、とでも言うべき存在なのかな、私は」

無論、この星そのものといっても、今見ている彼女の姿が星であるというわけではない。
彼女、つまり星の意識がワタナベという身体を通してこの場にいるのだと彼女は言う。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:04:35.43 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「何の為に?」

从 ゚∀从 「立場的にはクーと同じ様なもんだな」

話す為だと彼女は言う。
星の姿のままでは、その意思を伝えるのも難しいからだと。

川 ゚ -゚) 「それはわからない話でもないが……」

从 ゚∀从 「何故、こんな姿なのか?」

私の言葉を引き継いだ彼女に頷いて返す。
色々と回りくどかった理由が、問題の解決の為だったとしても、彼女がワタナベという身体を通してこの場にいる理由は……

川 ゚ -゚) 「ん? お前とワタナベは別物なのか?」

先の話を思い返してみると、そういう結論に達する。
彼女はワタナベの身体を通して、といった。

从 ゚∀从 「そうだな、別だ。私はワタナベに宿っている、といった方がわかりやすいのだろうな」


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:06:17.86 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「何故だ?」

何故ワタナベなのか。
何かしらワタナベでなければならない理由があったのだろうか。

从 ゚∀从 「理由はあった……が、偶然に因る部分も大きいな」

私は彼女のどちらとも取れる意見に眉をひそめるが、物事には順序があると彼女は言う。

从 ゚∀从 「先にこの星のことを話そう」

私は無言で頷く。
私には推測は出来ても事実を知る事までは出来ないので、話の主導権は彼女に渡す他はない。

从 ゚∀从 「この星が特異なのはさっき話したよな」

川 ゚ -゚) 「ああ、私は地球とこの星しか知らないので、それが本当に特殊なのかの確信はないがね」

正しくは、知らないというより暮らした経験なのだが、それでもこの星はかなり不思議なのではないかと考えられる。
その最たるものが……


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:07:37.83 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「生物が少ない……これはまあ、全くいない星もあるのだから不自然ではないのかもしれないが」

生物がいない星は、その星が生物が住むに適した環境でないからだという理由を基にすれば、これだけの良環境で
生物が少ないのはやはり不自然だとも考えられはする。

しかしながらそれ以上にこの星には不自然な点がある。

川 ゚ -゚) 「住んでいる者の共通項だろうな」

从 ゚ー从 「具体的には?」

緩んだ彼女の口元から、この答えが限りなく正解に近いことが窺い知れる。
もちろん、私はその答えがわかっている。
そもそも、答えは彼女が教えてくれたはずだ。

川 ゚ -゚) 「滅んだ星の人間が集まっている事」

从 ゚∀从 「正解だ」

あまりに不自然過ぎるこの事が、この星の一番特異な点だ。
どう考えても、これは偶然じゃないのだろう。
その理由まではわからないが、それがきっとこの星の問題の核心に繋がるのだと私はおぼろげながら考えていた。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:09:18.68 ID:InlL6JA00

私は彼女に目で正解の解説を促した。

从 ゚∀从 「望み通り、勿体付けずに言えば、この星は滅びの星だ」

川 ゚ -゚) 「滅びの星?」

从 -∀从 「正しくは、滅びを告げる星、とでも言った所かな」

川 ゚ -゚) 「滅びを……告げる……」

彼女の言葉を正しく理解出来たとは言い難い私は、詳しい解説を彼女に望んだ。
彼女は我ながら曖昧な概念だがという前置きを、申し訳なさそうに頭を掻きながら付け加える。

从 ゚∀从 「この星の公転軌道は滅茶苦茶だ」

ないと言ってもいいと彼女は言う。

川 ゚ -゚) 「それは、流星や隕石のような、星の欠片という様な……」

从 ゚∀从 「いや、この星はちゃんと生きてるさ」

彼女はそう言って、椅子に座ったまま両手を広げて見せた。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:10:28.90 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「それもそうか。すまん、続けてくれ」

从 ゚∀从 「で……だ、この星は意思を持ち……なんて事を星の意思である私が言うのも変な話だな」

从 -∀从 「とはいえ、自分の意思で動いてるとも言い難いのだが」

川 ゚ -゚) 「この際、原理とかそういうのはいいさ。事実だけを教えてくれ」

彼女は頷き、再び解説を始める。
彼女の話し振りを聞く限りでは、流石にここまで来て誤魔化すつもりは毛頭ないらしい。

从 ゚∀从 「この星は、別の星に引き寄せられる」

川 ゚ -゚) 「別の星?」

从 ゚∀从 「そう、別の星。滅ぶ予定の星にさ」

川 ゚ -゚) 「滅ぶ……予定……」

从 ゚∀从 「何でそれがわかるか、というのは説明が難しいんだが、本能というか与えられた役割というか……」

川 ゚ -゚) 「……」


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:13:06.88 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「ともかく、そういう風に作られた、いや、作り変えられたが正しいんだが」

川 ゚ -゚) 「作られ……」

从 ゚∀从 「人工的って意味じゃねえぞ?」

川 ゚ -゚) 「では、神、または創造主とでもいう概念か?」

从 ゚∀从 「察しがいいな、そんなとこだ。実際にそういうものがいるかどうかはともかく、この星には今はそういう役割がある」

川 ゚ -゚) 「ふむ……今は、ね……」

少々曖昧な点が残るが、それは追々わかると彼女は言う。

正直な所、星の生誕、滅亡等、話のスケールとしては私の理解の及ぶ範囲を超えている。
それに至るまでに、私の何万倍もの年月を経た結果の話だ。

川 ゚ -゚) (……信じるしかないのだろうな)

眼前の彼女は、面影こそワタナベに似た感じはあるものの、その雰囲気は明らかに違う。
ワタナベとは違い、どこか勝気そうで、自信に満ちた顔をしている。
いつの間にか口調も多少乱雑になっているが、これまではワタナベを装っていたのだろうからこちらが本来の話し方なのかもしれない。


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:14:18.96 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「んで、まあ、この星は滅ぶ予定の星に向かい、滅びの因子を植え付ける」

川 ゚ -゚) 「滅びの因子?」

オウム返しに聞き返す私に、これも説明は難しいと彼女は言う。

从 ゚∀从 「さっき言った、滅びを告げるってやつがこれさ」

彼女は少し大袈裟に両手を広げて見せ、首を振る。
その言葉にどこか自嘲的な響きを覚えたのは、きっと勘違いではないのかもしれない。

从 ゚∀从 「具体的には、滅びの引き鉄を引く人間にこれを植え付ける」

川 ゚ -゚) 「引き……」

川;゚ -゚) 「おい、それって……」

从 ゚∀从 「やはり察しがいいな。多分、クーが考えてる通りだ」

結論を急ぐつもりはなかったが、一連の話の連続性を考えれば自ずと答えは見えてくる。
滅びの因子、滅んだ星、残された者。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:16:05.55 ID:InlL6JA00

川;゚ -゚) 「この星にいる者全員……」

从 ゚∀从 「ああ、元いた星を滅ぼした者、という所だな」

川;゚ -゚) 「ッ……」

辿り着いた答えは予想通りのものだったとはいえ、やはりにわかには受け入れ難いものであった。
この星で出会った彼らの顔を思い浮かべれば、それはある意味当然だ。

从 ゚∀从 「……少し勘違いしてるようだな」

川 ゚ -゚) 「勘違い?」

从 -∀从 「それもまあ、仕方ないと思うが……」

彼女は頭を掻きながら話を続ける。
関係のない話だが、彼女が頭、特に後頭部辺りを掻くと、それはワタナベの顔を掻き毟ってるのではと心配になる。

从 ゚∀从 「今ここに住んでいる連中が直接的に星を滅ぼしたというわけじゃない」

川 ゚ -゚) 「どういう事だ?」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:17:23.38 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「あくまで引き鉄を引いただけ、彼らの行動の1つが、滅びに向かう最初の要素であっただけさ」

例えば、誰かが水道の蛇口を捻り、水を出したとする。
その事自体が分水嶺となり、以降、滅びの道を歩んだとしたら、結果的にはその誰かが星を滅ぼしたことになると彼女は説明する。
  _,
川 ゚ -゚) 「どういうことだ? 例えがよくわからん」
.  _,
从 -∀从 「うーん……何と言えばいいんだ?」

彼女は私と同じ様に眉をひそめ、また頭を描く。
その仕草はどうやら彼女の癖の様だが、ワタナベが大丈夫なのか気になってしまう。

从 ゚∀从 「そいつが水を使った為に、その星の水の供給量が需要を下回り、それで世界に綻びが生じ、滅んだ場合……でわかるか?」

先程とあまり変わっていない様な彼女の説明に曖昧に頷き返して、頭の中で噛み砕く。
言わんとすることは何となくわかる。
何かしらの行動の結果、星が滅ぶ方向に向かった瞬間、つまりは滅びの引き鉄を引いたという事か。

しかしそれは……
  _,
川 ゚ -゚) 「それはそいつの所為じゃないだろうし、その程度で滅ぶなら、遅かれ早かれそうなる運命だったのではないか?」


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:18:53.18 ID:InlL6JA00

先の話だと、とんでもなく理不尽に滅びの引き鉄を引いたという烙印を押し付けられたという感じしかしない。
これではあまりにも……

从 ゚∀从 「その通り。全ては偶然に因る所で、そいつらには何の責められるいわれはないだろうな」

川 ゚ -゚) 「……無茶苦茶な話だ」

从 ゚∀从 「かもしれない。しかし、事実だ」

そういうものだと彼女は結ぶ。
人1人の力が到底及ばない、理不尽な力もあると。

川 - -) 「それがこの星の力か……。まるで神か何かにでもなったかの様な物言いだな」

皮肉交じりに呟くも、彼女も似た様な口調で呟く。
この星の力も、その神とやらに与えられた役割なのだと。

川 ゚ -゚) 「……かもしれんな。すまんな、少し感情的になった」

从 ゚∀从 「いや、クーがそう思う理由はわかる。それに関しては、礼を言うべき話でもあるしな」

川 ゚ -゚) 「それが私の役割だ。礼を言われる筋合いはない」


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:20:31.52 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「それでもさ。それに、使命感だけで動いてたわけじゃないだろ?」

川 ゚ -゚) 「それは……」

从 -∀从 「そうじゃなきゃ、そんなに凹んだ顔はしてないだろ?」

川 ゚ -゚) 「……ギコのあれは、巨大な次元の裂け目というのは?」

私の問いに、もう少しだけ順を追わせてくれと彼女は先の話を続ける。

从 ゚∀从 「で、滅びの因子を持ったものは、住んでいた星が滅んだ後、この星に流れ着く事になる」

川 ゚ -゚) 「何の為に?」

从 ゚∀从 「滅びの因子を返してもらう為、というところかな」

川 ゚ -゚) 「にしては色々と納得がいかない点があるが?」

从 ゚∀从 「心因、解放、その辺りの話だな」

私は無言で頷き、話の続きを促す。
この流れなら割合早くギコの話に辿り着きそうだ。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:24:08.52 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「一旦、人の心に根付いた滅びの因子は、その身を糧に成長をする」

宿主を蝕む事はないし、そのことで当人の身体が気付く事はないだろうと彼女は言う。

从 ゚∀从 「その糧にするって部分が、心因……心……要は悩みだな。ただの悩みではなく、根源的な」

簡単には解かれない様に、心の深い部分に結びつく。
この星に辿り着く前に解かれない様に。

从 ゚∀从 「で、それが解かれる事でこの星に育った滅びの因子が還元されるんだ」

川 ゚ -゚) 「滅びの因子は増えるわけか……しかし、何の為だ?」

そう彼女に問うが、それは後だとかわされる。
彼女の目を見詰めるも、そこには何の動きも察する事は出来なかった。

从 ゚∀从 「そして、それを解く為の手段が2つ」

川 ゚ -゚) 「悩みを解消する事による解放と、時間による解放」

从 ゚∀从 「正解……だが、実はもう1つある」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:26:21.97 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「……続けてくれ」

从 ゚∀从 「正しくは、時間による解放というのが少々大きく解釈出来るって話なんだが……」

川 ゚ -゚) 「……」

从 ゚∀从 「生命の時間を使い果たせば……つまりは死ねば解放される」

半ば予測していた彼女の答えに、少しだけ痛んだ胸を押さえ、さらに彼女に問う。

川 ゚ -゚) 「……ギコは」

从 -∀从 「……自殺だ」

从 ゚∀从 「……いや、私が殺したと言ってもいいのだろうな」

川 ゚ -゚) 「お前が? どうやって……」

从 ゚∀从 「もう1つのリミットさ」

川 ゚ -゚) 「もう1つの……?」

私は、彼女のその言葉の意味を推し量るべく、またも彼女の目を見るが、彼女は目を閉じて首を振り、ちゃんと話すと
短く答えた。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:28:32.41 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「自分の中の滅びの因子を見つけ、それに身を委ねる。そうすればその場で解放される」

川 ゚ -゚) 「身を委ねる?」

从 -∀从 「悩みを理解し、それを諦める事。そうすれば、終わりの時間を早められるのさ」

ギコは自分が滅びの因子である事を知っていて、自分の悩みも理解していた。
そしてそれが叶わぬ事を知り、答えを決めた、すなわち諦めたのだと彼女は言う。

从 ゚∀从 「ギコが自分が滅びの因子であることを知っていたのは、ギコ自身とロマに因る所だ」

それに、その事を伝えたのは彼女自身なのだから、私が気に止む話しではないと彼女は言う。
そういう問題ではないと反論したいところではあるが、多分そうする事に意味はないのだろう。
それはきっと私の自己満足で、結局、どう思うかは私自身の問題なのだ。

過程はどうあれ、私は今日の事を忘れる事は出来ない。
ずっとそれを抱えて行き、自分で折り合いをつけるしかないのだ。

川 ゚ -゚) 「……そうする事、リミットを越える事で巨大な次元の裂け目が出来るというわけか」

頷く彼女に、私は頭を切り替えて言葉を続ける。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:30:08.81 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「巨大な次元の裂け目が出来る意味は何だ? 生き残ること以外の解放による差は?」

从 ゚∀从 「前者は後で。後者は厳密にはないな。どちらにせよ、解放された時点で滅びの因子はこの星に還元される」

川 ゚ -゚) 「ならば……そうか、安全に解放する手段が悩みの解消しかないわけか」

从 ゚∀从 「そういう事。滅びの因子はそいつの根深い所に植わっているからな……」

事象の説明としては納得してもいいが、そうなると解放の結果で出来る巨大な次元の裂け目についてが気になる所だ。
そもそも、滅びを告げる星が何故元の星、地球と密接に繋がっているかなのだが、その事を聞くと彼女は少々申し訳なさそうに
目を伏せた。

从 -∀从 「……それについては偶然としか言い様がないな」

意図したものではないと彼女は言う。
そして、巻き込んでしまってすまなかったと頭を下げたが、私に謝られても仕方がない話でもある。
この件は地球全体に関わる話であろうし、私はその件はひとまず置いておいて彼女に続きを促した。

从 ゚∀从 「そうだな、では先にこの星の目的を教えておこうか

川 ゚ -゚) 「目的は滅びの因子を集める事じゃないのか?」


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:32:09.48 ID:InlL6JA00

循環、再生産といった意味合いで回収しているのかと思ったが違うらしい。
そういえば、成長させた滅びの因子を回収したなら、その成長分がどうなるかは今の所話には出て来ていない。

川 ゚ -゚) 「その余剰分はどうなるんだ?」

从 ゚∀从 「ある目的の為にここに蓄積されているよ」

彼女はここと言って自分を指差した。
つまりはこの星にと言いたいのだろう。

川 ゚ -゚) 「ある目的?」

从 ゚∀从 「……滅びさ」

川 ゚ -゚) 「滅び? 何の……」

彼女は再び自分を指差す。
それが意味する所は考えるまでもない。
この星は自らの滅びの為に他の星に滅びを告げているという事か。

川 ゚ -゚) 「何故……と問うのは意味がないのだろうな」


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:34:13.51 ID:InlL6JA00

そういう風に作られたから。
先に彼女はそう言った。
きっとこれもそういう事だろう。

从 ゚∀从 「そんな所かな。滅びという負を無限に引き受け続けるには、星1つじゃ足りないからね」

滅びの因子は星を安全に滅ぼす為の措置のようなものだと彼女は言う。
滅びが他の星に広がらぬ様、回収する必要があるのだが、その媒介に人を使うことで成長する。
人が負の意識を持ち、滅ぶ生物だからそれは仕方がない事だと。

川 ゚ -゚) 「その話だと、今のシステム……一連の流れは本意じゃないというか間に合わせなのか?」

从 -∀从 「他に手段があれば滅びを成長させずに済むのかもな」

この星の滅びが目的だと彼女は言ったが、それは結果論の様だ。
滅びの蓄積に星がもたないだけという事か。

であればまだ救いはあると思いたいのだが、彼女は首を振る。
もう遅過ぎると。

从 ゚∀从 「あと1つ。それでこの星は役目を終え、緩やかに滅びに向かう」


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:35:31.03 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「……」

从 ゚∀从 「……」

私は無言で彼女を見詰める。
言いたい事は多々あるが、言ってどうなるものでもない。
少なくとも、私にこの星を救う事が無理なのは言われるまでもなくわかる。

私と私の星、地球の技術力で今の話を元にこの星を分析して、解決策を導き出す事は到底不可能だ。
さらに言えば、この世界に来る手段、それはもうあと1つしかない。
先ほどギコがいたところに出来た次元の裂け目だけがこの星との繋がりだ。

私が来た次元の裂け目もあるが、あれは強度的にあと1度しか使えないと聞いている。
使えば片道切符で、帰る術を失う。

帰らないと決めた所で、地球から1人、2人呼んだとして何が出来るというのだろうか。

从 ゚∀从 「……これはもう、決められた運命だから」

私が気にする必要はないと彼女は言う。
彼女は私が何を考えているのか理解している様だ。

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:37:31.40 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「……お前とワタナベは繋がっているのか?」

从 ゚∀从 「一方的にな。私はワタナベの考えや感情を見る事が出来るが、ワタナベからは不可能だ」

川 ゚ -゚) 「そうか……」

だから私の考え、私の考え方の方向もすぐ察する事が出来たのかもしれない。
彼女は眠っている間もワタナベを通して私を見ていたのだろうか。

从 -∀从 「で、クーの星、地球とこの星の関係、それと次元の裂け目の話だな」

川 ゚ -゚) 「ああ」

从 ゚∀从 「簡単に言えば、役目の引継ぎだな」

川 ゚ -゚) 「引継ぎ……」
  _,
川 ゚ -゚) 「それはまた重大な話をさらっと言ったな?」

从 -∀从 「苦情は後で聞く。取り敢えずメカニズムの説明だけを先にさせてくれ」

以前、この星に来たばかりの頃に彼女から受けた説明では、この星と地球は繋がっているという事だった。
その繋がりの発端が巨大な次元の裂け目だという事も聞いている。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:38:49.75 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「次元の裂け目はこの星と地球を繋ぐパイプの様なものだ」

巨大なものから小さなものまで、全て2つの星の間で繋がっている。
それもわかっている。
だから私はその原因を取り除きにこの星に来たのだし、また、この星に来れたのだ。

从 -∀从 「正直な話、あれを通って人がこっちに来るのは想定外だったんだが……」

本来はこの星から地球にある物を送る為の経路で、その逆は考えていなかったらしい。
じいちゃんの無茶が彼女の思惑を上回ったという事だ。
我が祖父ながら無茶苦茶な人だと思う。

付け加えれば、じいちゃんの知識から想定した地球の技術力で、こちらに来るための力場軽減用の設備や装備を作れるとも
思わなかったと彼女は言う。
応用力が高いというべきか、地球人の調査解析能力に感心していた。

私は、次元の裂け目を通ってこの世界に来た時のことを思い出していた。
時間や空間、思考に感覚、その他諸々が全て認識出来ない、全て溶け合った様な感覚だ。
文字通り次元、空間を越え、地球からこの星に辿り着いたという事実だけでは説明出来ない何か。

それはきっと……


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:40:17.44 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「で、それは何を送っていたのだ?」

不意に浮かんだ考えを一旦置いておき、今は話を続ける事に専念する。
得られた情報からの考察は後からでも出来る。
今は情報を得る方が先決だ。

从 ゚∀从 「この星の記憶、滅びの星のメカニズム、そして滅びの因子の種って所だな」

要するに先に言った引継ぎがこれだと彼女は言う。
さらに前に彼女が述べた、作り変えられたという部分はこれを指すのだろう。

川 ゚ -゚) 「ふむ、では地球が選ばれた理由は何なんだ?」

从 ゚∀从 「それが偶然って話。とはいえ、選考基準もあるんだがな」

滅びの因子を還元する過程で出来た次元の裂け目は、当初無作為にどこかの星に繋がるという。
その繋がった星の中から、役目を引き継ぐのに最適な星を探すという事らしい。

川 ゚ -゚) 「なるほど、確かに偶然だな。しかし、地球がその選考基準をクリアしたという必然もあるわけだな」

私は彼女にその選考基準とやらを詳しく聞いてみた。
彼女は星の規模や年齢、その他いくつかの条件を挙げたが、それはさほど重要でもないという。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:42:10.78 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「最終的には、星に直接聞く」

川 ゚ -゚) 「星に?」

从 ゚∀从 「……見ての通り、この星は生物がほとんどいない」

正確には、この星土着の生物がいないという事らしいが、確かにこの星には生物は数えるほどしかいないようだ。
微生物などはいるらしいが、知的生命体の話に留めておくと彼女は言う。

从 ゚∀从 「元々はいたんだが、逃げるか死滅していった」

川 ゚ -゚) 「理由は?」

从 ゚∀从 「異常気象、といったとこかねぇ」

決まった公転軌道がなく、滅ぶ星に引き寄せられるこの星は当然の様に気候が安定しない。
極寒の時期もあれば、猛暑に包まれる時期もある。
当然、作物が育たないなど、住むには不向きな環境となり、そこに生きる人間は減っていった。

中には脱出した人間もいたらしいのがせめてもの救いだが、どうにも居たたまれない話だ。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:43:32.85 ID:InlL6JA00

从 ゚∀从 「現在は全て回収し、終わりの時を待っている状態だから気候は安定しているけどな」

それで、と彼女は左手の人差し指を立て、本題だと話を続ける。

从 -∀从b 「滅びを告げる星になる事を受け入れれば、こういった未来が待っている」

最終的にはその星が滅ぶ事も含め、後継者候補の星に告げ、受け入れるかどうかを問うと彼女は言う。

川;゚ -゚) 「……地球はそれを受け入れたという事か」

つまり、我々人類は地球という星に見捨てられたというわけだ。
今更彼女の話を信じないわけではないが、流石にこの話には私も衝撃を受けざるを得ない。

しかし、その反面、それも仕方ないと思わざるを得ないのも確かだ。

川 - -) 「そうか……そうだな、地球は確かに人間を恨んでいるかもしれないな」

度重なる紛争、その都度傷付けられる星。
傷付けた当事者である人間でさえ、星の有様に綻びが生じていると判断している現状だ。
地球が人間を見放しても何の不思議もない。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:46:13.74 ID:InlL6JA00

从 -∀从 「……」

彼女は何も言わない。
しかし、無言が彼女の肯定であろう事は察せられる。

同じく星である彼女は、愚かな人間を哀れんでいるのだろうか。
恐らく過去に同じ決断を下した彼女は何を思って私をこの星に受け入れたのだろうか。

私は大きく息を吐き、気を取り直して話の続きを彼女に促す。

从 ゚∀从 「次元の裂け目の役割はわかったと思うが、1度に全ては伝えきれない」

何度かに分けて伝えるのだが、全ての滅びの因子から次元の裂け目を作らなければならないほどの量でもないらしい。

从 ゚∀从 「そんなに数はいらないんだ。5本も繋げば大体伝え終える」

小さな次元の裂け目はその余波で、何かを伝えているわけでもないという。
この星の滅びの余波が地球に伝わっているだけだと。
全て伝え終えれば、この星と地球の接続は切れ、それもなくなるはずだと彼女は言う。

川 ゚ -゚) 「5本……」


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:49:34.09 ID:InlL6JA00

最初の1本目は意思確認用のそれだからカウントされていない様だ。
最初の1本、ばあちゃんと多くの人の生命を奪い、じいちゃんがこの星に来る事になった巨大な次元の裂け目。

从 -∀从 「……それに関しては、すまないとしか言えんな」

川 - -) 「……全てを滅ぼす術を伝えようとしているお前が謝るのもおかしな話だな」

从 -∀从 「……だな」

再び、すまないと謝る彼女に、私も言い過ぎたと謝る。
彼女があの30年前の事件以降、巨大な次元の裂け目が出来る場所を人気のない場所に誘導している事には気付いている。
その為の地球の地図を私に持たせたのだろう。

あの時、ギコをワタナベが誘導したのはそういう事だ。

川 ゚ -゚) 「しかし、あと1本か……」

残された1つ、ブーンにある滅びの因子。
これが解放され、巨大な次元の裂け目が出来れば、全て伝え終えるという事か。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:51:04.19 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「ん? 巨大な次元の裂け目が出来なければどうなるんだ?」

从 ゚∀从 「そりゃもちろん、全てを伝えきれないから引継ぎ失敗さ」

川;゚ -゚) 「……それは地球が滅ぶ方向には向かわないって事か」

てっきり、滅びは不可避の方向で進んでいるかと思えば、やけにあっさり回避手段がある事に拍子抜けした。
こういうものはもっと悲劇的に突き進み、最後の最後で打開策が見つかるぐらいがセオリーではないのだろうか。

从;゚∀从 「いや、まあ、そんな派手な展開にはなる必要もないんじゃないかと思うが……」

現実はそんなものだと彼女は肩をすくめる。
更にクーは意外にもロマンチストなのだなと馬鹿にされる始末だ。

そう言われれば返す言葉もないかもしれない。
非日常の塊である異世界の風にあてられ、存外に虚構の物語に毒され過ぎているのか。

現実にそんな英雄譚は必要ないのだ。
脅威が容易く避けられるのならそれに越した事はない。

私が英雄になる必要はない。

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:52:57.15 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「兎に角、まだ望みはあるという事か」

从 ゚∀从 「そういう事だ……」

ようやく色々な点に符号がいったが、未だいくつかの不明な点は残されている。
しかし、ここで気になる点はやはり彼女の、いやこの星のと言うべきか、その立ち位置だ。

地球をこの星の後継者にしたいのなら、偶然とはいえ迷い込んで来たじいちゃんや、その後任である私に協力する必要はない。

川 ゚ -゚) 「……止められるのだな?」

从 ゚∀从 「ああ」

川 ゚ -゚) 「止めてもいいんだな?」

从 ゚∀从 「……ああ」

川 ゚ -゚) 「何故だ?」

从 ゚∀从 「ん?」

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:54:05.47 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「お前も、今の地球と同じ経緯を経て、滅びを告げる星になったのか?」

从 -∀从 「ああ、そうだ。……もう随分昔の話だがな」

川 ゚ -゚) 「納得ずくで滅びを告げる星になったのだろう?」

从 ゚∀从 「……そうだ」

川 ゚ -゚) 「地球もそれに納得した。だから今引き継いでいるんだろ?」

从 ゚∀从 「ああ」

川 ゚ -゚) 「だったら何故、それを止める手段を私に示す?」

この星が決め、それを地球が受け入れた。
だったらそれを止める必要は彼女にはないはずだ。
彼女も今の地球と同じ思いで滅びを受け入れたのなら、私達に手を貸す必要がないはずだ。

从 ゚∀从 「……後悔、かな?」

川 ゚ -゚) 「後悔?」

从 ゚∀从 「滅びを受け入れた事への、そして、この星に住む者達を滅ぼした事への」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/15(月) 23:56:52.63 ID:InlL6JA00

川 ゚ -゚) 「住まう星に対して同じ事をしている私が言うべき話でもないが、同情する価値はあったのか?」

从 ゚∀从 「さあな……わからん」

从 -∀从 「だが、どんな生命でも生きる権利はあったとは思うよ」

滅ぶ生命を見続けるのは、ただ悲しかったと彼女は言う。

川 ゚ -゚) 「……やさしいんだな」

从 -∀从 「そんなんじゃないさ……」

私は辛うじてそれだけ言う事が出来た。
彼女の言葉は、自分を滅ぼすであろう相手に向けて言う言葉ではないと思うが、それが本心であろう事は信じられる。
彼女はこの星であり、この星の生命の創造主のようなものでもあるのだ。

自分の子供達を滅ぼす決断をせねばならなかった彼女の悲しみは、深いものなのだろう。

川 ゚ -゚) 「残り1つ……必ず、守ってみせるさ」

从 -∀从 「……頼む」

世界が壊れる間際に全てを知った私は、彼女の心からの言葉に大きく頷いてみせた。
 
 
 第23話 了 〜 全てを知り、全てを受け入れ、私は選ぶ 〜
 

  次へ戻る inserted by FC2 system