2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:50:04.29 ID:47nHI0qm0
 
 ダイ26ワ アナタ ガ アイシタ ヤサシイ セカイ
 
 
( ^ω^)

切っ掛けはわからない。
たまたま、じいちゃんが他の解放した人間に話していたのを聞いただけなのかもしれない。
自分の中の違和感に気付いたのかもしれない。

何にせよ、ブーンは自分自身が滅びの因子を持った人間である事に気付いていた。

ξ;゚听)ξ 「ちょっとクー、それってどういう事よ?」

私の後ろで会話を聞いていたツンが詰め寄って来る。
どうもこうも、言葉通りの話だ。

ブーンが滅びの因子を持ち、この星で最後に残った解放されていない人間であるという事。
そしてその事を、ブーン自身が気付いていたという事だ。

勿論、ツンが聞きたい事はそういう事ではないのだろう。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:51:21.41 ID:47nHI0qm0
  
何故ブーンが気付いていて、それを誰かに言わなかったのか。
私が、ブーンが気付いていることを知っていたのか、という事だろう。

川 ゚ -゚) 「ブーンが滅びの因子を持っていた事はハインから聞いていた」

次元の裂け目の発生原因として聞いたのがブーンの事だ。
奇しくも一番最後になってしまったが、そのこと自体は早くから知っていた。

川 ゚ -゚) 「ブーン自身がその事に気付いてると思ったのは……推測、かな」

私がその事に気付いたのは、2つの点からだ。
1つは、ブーン自身の話だ。

もう1つは、ギコが最後に残した言葉。
あれが何を指していたのか、最初はよくわからなかったが、消去法で考えるとブーンの事だとしか思えない。
ギコはブーンと話した事もあった様だし、ひょっとしたらそういう話もしていたのかもしれない。

では、何故ブーンがそれを隠していたかだが、それは……

川 ゚ -゚) 「なあ、ブーン、飛べない事がお前の悩みなのか?」

( ^ω^) 「お……」


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:52:13.01 ID:47nHI0qm0
   
正直な所、私の考えは推測でしかない。
しかしながら、もしブーンが滅びの因子とこの星の滅びの因果関係を全て理解していたとしたら、ブーンがどんな行動を取るか、
想像するのは容易い様にも思える。

川 ゚ -゚) 「飛べないのが悩みじゃなくて、悩んでいるから飛べなくなったんじゃないか?」

私がはっきりと言い放つと、ブーンは私から目をそらすようにその顔を裏側に移動させた。
その事が私の言葉が恐らく正解なのだろうという確証に繋がる。

ミセ*゚д゚)リ 「ブーン、隠れた、ブーン」

川 ゚ -゚) 「ブーン」

肩の上のミセリに黙っているように告げ、声を強めてブーンに呼びかける。
すぐには反応はなかったが、しばらく待つとまたひょっこりと顔を出した。

( ´ω`) 「どうして……」

川 ゚ -゚) 「ん?」

( ´ω`) 「どうしてわかったんだお?」


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:53:03.63 ID:47nHI0qm0
 
ブーンは悪戯がバレた子供の様なしょんぼりした顔を浮かべ、ツンと同じ様な事を聞いてくる。
私はほとんど勘の様なものだがと前置きをし、実際、今考えている最中の筋道をブーンに説明する。

川 ゚ -゚) 「そもそも、お前は飛び方を知らなかったしな」

本能で飛んでいるようなものが、飛び方を忘れるという事は考え難い。
そうなるとどこか身体に異常があったと考えるべきだが、ブーンの頑丈さを考えると小さな次元の裂け目にぶつかった程度では
傷1つ付きそうにもない。

川 ゚ -゚) 「そうなると心因、滅びの因子が関わってくるのだが、今まで誰1人それで身体の不調を訴えたものはいないからな」

唯一ギコだけは何となくわかるようなことを言っていたが、身体に害はないようだった。
そうなると考えられるのは、やはりまた心因、悩みだ。
悩んでいるから調子が悪い、だから飛べないのではないかと思い付いた。

川 ゚ -゚) 「それで、何で悩むのか、という話になるわけさ」

( ^ω^) 「お?」

ミセ*゚ぺ)リ「?」

( ><) 「つまり……どういう事なんですか?」


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:54:08.05 ID:47nHI0qm0
  
わかっているはずなのに不思議な顔をするブーンと、首を傾げるミセリ、わかってそうもない顔でこちらを見るビロード。
他を見回すと、何となくは私の言わんとする事がわかっているようだ。

川 ゚ -゚) 「何で悩むというより、何で悩めるのかと言うべきか」

悩む為には悩む原因が必要だ。
飛べない事が悩んだ結果の副産物なら、悩みは別の何かになる。
そうなれば悩みの原因は1つ、自分が滅びの因子である事だ。

川 ゚ -゚) 「この仮説だと、自分が滅びの因子である事自体が悩みという、何とも順番がおかしい話になるのだが」

ひょっとしたらブーンはそれまで悩みとは無縁だったのかもしれないと私は考えている。
だから仕方なく、という言い方も変だが、滅びの因子である事自体が無理矢理悩みにされてしまった、つまり気付かされて
しまったのではないかと結論に達した。

( ^ω^) 「お……」

川 ゚ -゚) 「どうだ? 何か思い当たる事はあるか?」

( ´ω`) 「おー……」

ブーンは私の問い掛けに、再び顔を一周させ、しょんぼりとした顔を浮かべた。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:55:18.83 ID:47nHI0qm0
   
ξ゚听)ξ 「どうやらそれで間違いなさそうね」

ツンがブーンの上にひょいと飛び乗り、その頭を足で数回踏み付ける。
無理矢理頷かされているブーンだが、反論もない所を見ると、私の考えは間違いではないらしい。

川 ゚ -゚) 「しかし、どうするべきかな……」

ξ゚听)ξ 「どうするって?」

そこまでわかったのならば、悩みを解決して滅びの因子を解放させればいいだけじゃないのかとツンは言う。
確かにその通りだが、実の所、話はそう簡単ではないのだ。

川 ゚ -゚) 「今の推測にはまだ大きな矛盾があるんだ」

ミセ*゚ぺ)リ 「むじゅん?」

( ・∀・) 「滅びの因子であァる事が悩みだと、解放される手段が滅びの因子を解放する事になりますからねェ」

( ><) 「つまり……どういう事なんですか?」

(*‘ω‘ *) 「後で説明してやるからお前は口を挟むなっぽ」


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:56:04.15 ID:47nHI0qm0
 
ちんぽっぽがビロードに説明している間、私はブーンの方を見詰めていた。
相変わらずしょんぼりした顔で、何も言わずにツンに踏まれるがままにしている。

ξ#゚听)ξ 「何であんたはそんな大事な事黙ってたのよ?」

( ´ω`) 「おー……ごめんお……」

どうやらツンはブーンに隠し事をされていた事がお気に召さないらしい。
普段から何かと気にかけていただけに、裏切られたような気分なのかもしれない。

川 ゚ -゚) 「ツン、その辺で勘弁してやれ」

とはいえ、ブーンも悪気があってそうしていたわけではないのだろう。
私はツンに声を掛け、ブーンから降りるように言う。

ξ#゚听)ξ 「けど……」

(゚、゚*トソン 「はい、バネっ子ちゃんはこっちにいらっしゃい」

渋るツンをいつの間にか背後から近付いたトソンが抱き上げる。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:57:31.56 ID:47nHI0qm0
  
ξ#゚听)ξ 「誰がバネっ子よ! 私はツンよ!」

(゚、゚*トソン 「ツンちゃんも小さくてかわいらしいですね」

全く聞く耳持たず、ツンに頬擦りするトソン。
こいつはさっきからマイペースだ。
話は聞いている様だが、どうも未開の地に少し浮かれ気味なのかもしれない。

取り敢えず2人は置いておき、私はブーンとの話を続ける事にする。
先の矛盾を考えれば、滅びの因子になった事がブーンの悩みではないと考えざるを得ない。
となれば恐らく、滅びの因子になった事で起きた何かがブーンの悩みではないかと私は思う。

しかしながらその、肝心の何かがわからない。

川 ゚ -゚) 「なあ、ブーン」

( ´ω`) 「お?」

川 ゚ -゚) 「お前の悩みは何だ?」

わからないなら本人に直接聞く。
私はまずはもっとシンプルな手を打つ事にした。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 22:58:45.06 ID:47nHI0qm0
   
( ´ω`) 「それは……」

川 ゚ -゚) 「……」

言えない事なのか、それともわからないのか。
あるいはそのどちらともなのかもしれないが、私はブーンの言葉を待つ事にした。

( ´ω`) 「お……」

ミセ*゚ぺ)リ 「ブーン、大丈夫? クー、いじめる?」

川 ゚ -゚) 「いや、いじめているわけではないのだが……」

黙っているブーンをずっと見つめていると、肩にの上にいたミセリに手というか葉でペチペチと叩かれた。
痛くも何ともないが、いじめていると思われるのは心外なのでミセリに説明をする。

川 ゚ -゚) 「このままブーンを放っておくわけには行かない。私もお前と同じ、ブーンの事が心配なんだよ」

ミセ*゚ー゚)リ 「そう? クー、心配? ブーン、心配?」

( ´ω`) 「ごめんお……」


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:00:22.46 ID:47nHI0qm0
 
川 ゚ -゚) 「ブーン?」

ミセリに説明をしていると、割って入るようなブーンの謝罪の言葉が聞こえた。
何に対しての謝罪なのか、回答の拒否でないことを祈りながらブーンの方へ顔を向ける。

( ´ω`) 「それと、心配してくれてありがとうだお」

川 ゚ -゚) 「……話してもらえるか?」

( ´ω`) 「お……」

私の問いにブーンは短く返事をし、私の方に向かって近付いて来た。
何をするのかと思ったが、私を素通りし、山の外れの方に向かって歩いて行く様だ。

川 ゚ -゚) 「ブーン?」

私がブーンの名を呼ぶと、ブーンは目配せで着いて来て欲しいと伝えて来た。

川 ゚ -゚) (2人きりで話したいという事かな……)

視線を皆の方に向けると、私と同じ考えなのか、兄者と弟者、それにモララーが頷いた。
ツンが自分も行くと言って暴れている様だが、トソンががっちりと抱きかかえている。
私はミセリを地面に降ろし、ここで待っている様に伝えた。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:01:43.11 ID:47nHI0qm0
  
川 ゚ -゚) 「じゃあ、ちょっと行って来るよ」

( ・∀・) 「こちらはご心配なァく。色々とお話を聞かせてもらってますのでェ」

モララーによろしく頼むと短く告げ、ブーンを追う事にする。
追うまでもなく、視界に入る場所で待ってくれているようなので、小走りで追い着くとそのままブーンを抱え上げた。

( ´ω`) 「お?」

川 ゚ -゚) 「お前が歩くよりこちらの方が早いからな。それで、どこに行けばいい?」

2人で話せれば場所はどこでもいいような反応だったので、折角だから眺めの良い、山の外れの崖の方まで歩く事にする。

( ´ω`) 「お? 何か音がするお?」

川 ゚ -゚) 「ん? ああ、そうだな、多分あれじゃないかな」

ブーンの言葉に私は少し進路を変え、山を下る。
雨の木の隙間を塗って音の聞こえる方へ向かうと、そこには小さな川が広がっていた。

( ´ω`) 「川があるお」

川 ゚ -゚) 「ブーンは知らなかったのか。まあ、私もツンから話に聞いただけではあったのだがな」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:03:12.25 ID:47nHI0qm0
   
通常、この世界の雨は雨の実が弾けて満遍なく行き渡るのだが、一部の雨の実は弾ける前に地面に落ちる事がある。
それらから染み出した雨が集まり、やがて小さな流れになり、川になるのだとツンから聞いていた。

川 ゚ -゚) 「この川がブーンや兄者達がいたあの湖に繋がっているらしいぞ」

( ´ω`) 「おー」

どうやらブーンはその話を知らなかったらしい。
それ以前に川が雨水が集まって出来ている事も知らなかった様だ。
まあ、知らなくても生きていく事に影響があるわけでもない話ではある。

川 ゚ -゚) 「綺麗なもんだな」

( ´ω`) 「そうだおね」

最も下流にある兄者達がいる湖の辺りでも十分水は澄んでいるが、上流ともなると、より一層水は透明度を増している。

川 ゚ -゚) 「子供の頃を思い出すな」

( ´ω`) 「お?」

子供の頃は、毎年夏になると母方の実家である田舎の方で過ごしていた。
山間の古い集落で、村と呼ぶのも躊躇われるほどの過疎区であった。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:05:32.57 ID:47nHI0qm0
 
川 ゚ -゚) 「昔はよく、暑い日はこんな山の中にある川に泳ぎに来たものさ」

私はブーンを川辺の岩の上に降ろし、しゃがみ込んで右手を水に浸した。

川 ゚ -゚) 「おお、これはかなり冷たいな」

私は右手に付いた水を振り払い、再びブーンを抱え上げる。

川 ゚ -゚) 「この冷たさでは泳げんな。もう少し気温が上がって来たら気持ちよいかもしれんが」

どことなく、私が知る田舎を思い出させる風景に、少しばかりの郷愁に捕らわれる。
あの村には就職してからは1度も行っていない。
無事に帰れたら、今年の夏は久しぶりに行ってみようかと思う。

( ´ω`) 「泳ぐのって、気持ちいいのかお?」

川 ゚ -゚) 「ああ、気持ちよいぞ。暑い日は特にな」

水を吸うブーンは、まともに泳いだ事はないのだろう。
それを考えると、少々無責任にはしゃぎ過ぎた気もするが、ブーンも飛べない私に空を飛ぶ話をしていたのでおあいこだろう。
それに私は、ブーンの空を飛ぶ話を聞くのは楽しかったから、ブーンも同じ様に思ってくれるのではないだろうか。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:06:57.39 ID:47nHI0qm0
  
( ´ω`) 「僕も泳いでみたいおー」

川 ゚ -゚) 「そうだな……」

それは難しい、と言おうとして、よくよく考えればブーンも一応は泳げるのではないかと思い直す。
ブーンも際限なく水を吸うわけでもないだろうし、ある程度水を吸ってしまえば後は普通に泳げそうだ。

もしブーンが際限なく水を吸うのなら、雨の日とかとんでもなく広がっていそうではある。
長雨ならこの星を覆い隠すぐらいに広がってしまいかねない。

川 ゚ -゚) 「泳いでみるか?」

( ´ω`) 「おー? 泳いでみたいけど、お水なくなっちゃいそうだお」

川;゚ -゚) 「そんなに吸うのか?」

ちょっと試してみたい衝動に駆られたが、ここで大きく広がられたら色々と面倒な事になりそうだから止めておくべきだろう。

川 ゚ -゚) 「海でもあればいいのにな」

( ´ω`) 「おー、海、前にお話聞いたお。すごく広い湖だお」

私は本題を切り出すことなく、ブーンとの会話を楽しみながら川に沿い、歩いて行った。
差し迫った事態にありながらも、ブーンと話す穏やかな時間は私の心をひどくなだらかにしてくれた。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:09:27.78 ID:47nHI0qm0
   
・・・・
・・・

川 ゚ -゚) 「この辺でいいかな」

( ´ω`) 「お……」

川が滝に変わるまで歩き、流石に滝の側ではうるさくて話をし辛いので、そこから少し離れた山の外れの崖の方に腰を下ろした。
崖の下には先ほどの滝から流れてくる川が見える。

川 ゚ -゚) 「なかなか眺めのいい場所だな」

眼下を流れる川は地平線の先に消えるまでずっと続く。
穏やかで澄んだその様は、私が知るどの川よりも綺麗だと思う。
視線をどこをに向けても草原と空ばかりしかないが見えないが、いつの間にかそれが私の見慣れた風景になっていた。

この世界にそれほど長くいるわけではないが、この世界は私にとって居心地が良い。
利便性の面から言えば、何の開発もなされていないこの世界は不便な事この上ないが、流れる時間がすごく穏やかに感じられる。
私個人というよりは、人にとっての原風景のような、どこか懐かしい世界だ。

地球にもきっとこんな時期があったはずなのだ。
それを私は、地球人としての私がどこかに記憶しているのかもしれない。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:11:08.95 ID:47nHI0qm0
 
川 ゚ -゚) (今は見る影もないがな……)

今の地球は歴史の一時期にあるほどの文明の発達はないが、AA界の様な緑に囲まれた世界でもない。
ほどほどに発展し、ほどほどに自然を残した中間の世界だ。

現在地球は何度目かわからない発展の時期で、これからまた自然は失われていくのだろう。
そしていつかまた文明は滅び、自然に還り、また人の手がそれを壊し、文明を作り上げて行く。

人間はもう何度目かわからないループを繰り返し、地球という星の上で我が物顔で振舞って来た。
今、その付けを払えと地球自身が訴えて来ても、それが正当な事だと私には思えてしまう。

川 ゚ -゚) (だからといって、それを受け入れるわけには行かないのだが)

私は今の地球が嫌いではないし、家族や友人など、守りたいと思う人達もいる。
地球が滅びたがっているから滅ぶに身を任せるという選択肢を取る気は毛頭ない。

それがまだ先の、私の死後の話であっても。

星の意思を無視した、人間のエゴだとしても。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:12:23.81 ID:47nHI0qm0
  
( ´ω`) 「おー、風が気持ちいいお」

相変わらずしょんぼりとしたままの顔ので言うブーンに目を向ける。
そろそろいつもの笑顔になって欲しい所だが、ブーンはブーンで誰にも言えずにずっと悩んでいたのだろう。
出来れば相談して欲しかったのだが、私やツン達に心配をかけたくないとでも考えて黙っていたのだろうか。

川 ゚ -゚) 「さてと……」

( ´ω`) 「お?」

私はごろりと倒れ込み、隣にいたブーンの上に身体を預けた。
ブーンを布団にしたような体勢だが、前から一度やってみたいと思っていたのだ。
背後の山の方から草の揺れる音がした気がするが、私は気にせず目を閉じた。

川 - -) 「うむ、これは中々いいな」

時々座らせてもらっていたから知ってはいたが、ブーンの上はふかふかでとても寝心地が良い。
このまま何も考えずに風に吹かれながら昼寝が出来たら最高だろうな。
場所的に寝返りなど打とうものなら怖いものがあるが。

( ´ω`) 「クー?」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:13:58.01 ID:47nHI0qm0
   
声が間近から聞こえることから、恐らくブーンが顔を私の近くに寄せたのだろう。
私はその声に目を閉じたまま答える。

川 - -) 「話したくなければ、無理には聞きたくはないな」

( ´ω`) 「お……?」

川 - -) 「とはいえ、聞かないと私のいた地球という星が滅ぶので最終的には聞かねばならぬのだが」

( ´ω`) 「お……」

川 ゚ -゚) 「まだ時間はある。だから、出来れば自分から話して欲しいと思ってる」

目を開けると、そこにはやはりまだしょんぼりとしたブーンの顔がすぐ近くにあった。
私は右手を伸ばし、その額に当りそうな部分を撫でてみた。

実を言うと私は、ブーンが何故話せずにいたかの理由に見当が付いている。
心優しいブーンが至った結論。
ブーンが解放されることで失われるもの。

それらを繋ぎ合わせて考えてみれば、答えはさほど難しくはない。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:15:51.06 ID:47nHI0qm0
 
川 ゚ -゚) 「ここはいい世界だな」

私の言葉に傍らのブーンが頷く。

空が、大地が、水が、そして風が。
全てが穏やかで、永遠に時を刻み続けてくれるような錯覚に陥る。
しかし、この世界はそう遠くない未来に終わる。

星自身がそれを選んだ。

川 ゚ -゚) 「自分が何でも出来るなんて思っているわけじゃない」

この星が滅ぶ事は、とても悲しい事だと思う。
それほど長くいたわけではないが、私はこの星を気に入っている。

私よりはずっと長くこの星にいたブーン達は、私以上にこの星が好きなのではないかと思う。
発端はどうあれ、住む場所を失った自分達を受け入れてくれたこの星が。
そこに作為があったとしても、それは宇宙全体のシステムの様なもので、ブーン達にもこの星にも罪はないはずだ。

だから私は、この星を、ハインを滅びから救いたいと思った。
けれどそれはあまりにも遅過ぎて、私が来た時にはこの星の運命は決まっていた。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:17:01.43 ID:47nHI0qm0
  
川 ゚ -゚) 「だけど、何かは出来ると思いたい」

それを私は未だ割り切れてないし、最後まで足掻くつもりではあるが、それはまたこの先の話だ。
今はまず、ブーン達の事を解決しようと思っている。

きっとまだ、私に出来る事が残されているはずだから。
それが彼らにとって、そしてハインにとって正しい事なのかわからないが、私は私の考えで動く。

ここまでそういう風に示唆してきたのは他ならぬこの星自身だ。
私は私の考えで、私に出来る事をするのだ。

川 ゚ -゚) 「私はお前達を守りたいんだ。友達としてな」

それが私のやりたい事で、理由だ。
外交に来たはずが最終的には駆け引きも何も一切なく、ただの気持ちで得た答えだ。

川 ゚ -゚) 「私はブーンが考えている事もわかっているつもりだ」

( ´ω`) 「お? 僕の……?」

川 ゚ -゚) 「ブーンが何故何も言えなかったのか、私はわかってるつもりだよ」

( ´ω`) 「お……」


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:18:29.80 ID:47nHI0qm0
   
川 ゚ -゚) 「お前はやさしいな」

私は再び手を伸ばし、ブーンの頭を撫でる。
ブーンは何も言わず、されるがままにしている。
私はただ、時を待つ事にした。

川 ゚ -゚) 「……」

( ´ω`) 「……」

どれほどそうしていたかわからない。
吹く風に身を任せ、滝の音を耳にする。
この星の生きてきた時間に比べればほんの一瞬の長さしかないその時間は、私にこの星の今を十分に伝えてくれた。

( ´ω`) 「僕は聞いちゃったんだお」

川 ゚ -゚) 「うん」

( ´ω`) 「ある日、お散歩してて、いつもより遠くまで行ったら、この山に着いたお」

川 ゚ -゚) 「随分歩いたな」


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:20:16.03 ID:47nHI0qm0
 
( ´ω`) 「歩いてないお。お空飛んでだお」

川 ゚ -゚) 「ああ、そうか。この星に来た最初の頃は飛べてたんだっけな」

以前にブーンや他の皆の話を総合した結果、ブーンは次元の裂け目に触れたショックで飛べなくなったんじゃないと推測した。
しかしながらそれは間違いだったわけだが、ともかく、ブーンはこの星に来てずっと飛べなかったわけじゃない。

( ´ω`) 「それで、山の方に向かって飛んでたら、話声が聞こえたお」

川 ゚ -゚) 「話……」

( ´ω`) 「ロマネスクさんと誰かがお話してたお」

川 ゚ -゚) 「じいちゃんか……」

じいちゃんがこの山で話していたとなると、相手は自ずと限られてきそうだ。
無論、私が会った事がない相手の可能性もあるが、昨日のギコの言葉を考えるに、恐らく相手はギコだったのだろう。

( ´ω`) 「難しいお話でよくわかんなかったお。でも、ここがなくなっちゃうって聞こえたお」

川 - -) 「ああ……」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:21:51.12 ID:47nHI0qm0
  
ブーンは2人の話からわからないなりに何かを感じ取った様だ。
そして悩み、自分が滅びの因子である事も何となくわかったという。
ギコと同じ様に漠然とだが自分の中の違和感に気付いたらしい。

( ´ω`) 「僕はどうすればいいのかわかんなかったお」

( ´ω`) 「いっぱい考えたけど、僕はバカだから、何にも思い付かなかったお」

( ´ω`) 「みんなに相談したかったけど、ここがなくなっちゃうって知ったらみんな悲しむお」

( ´ω`) 「それで何だか心が重くて、悲しい気持ちになってたら、いつの間にかお空を飛べなくなってたお」

川 ゚ -゚) 「ブーン……」

私は横になったまま、上体を引き寄せ、ブーンに頬を寄せた。
どうやらじいちゃんには直接聞いたらしいが、じいちゃんもその時はまだ、方針が定まっていなかったのか、その事は
あまり他の人に言わない方がいいと提案されたらしい。
しかし、むやみに吹聴して混乱するのを避けたかったのはわかるが、あまり良い対応とは言い難いものである。

( ´ω`) 「僕はみんなと一緒にいたいお」

川 - -) 「ブーン、お前は本当にやさしいな……」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:24:01.02 ID:47nHI0qm0
   
私はブーンの頭を抱きかかえる様にして身を寄せた。

結局、ブーンの悩みは、自分が解放される事で、この星が滅ぶ事に繋がるのが嫌だったのだ。
先に皆の前でした私の推理はほぼ正解だったと言える。
滅びの因子になった事で悩みが出来た。

1つ間違っていたのは、滅びの因子になった事が悩みの原因ではなくその先、星が滅ぶ事、そしてその結果、皆と離れ離れに
なる事が嫌だったのだろう。

そうなるとやはり、因果関係や順番がおかしい事になるのだが、全く悩みのなかったブーンが特異な例なのかもしれない。
私は医療やカウンセリングの専門家ではないから本当の所はわからないが、悩みが出来るまで滅びの因子は潜伏し、悩みが
出来た途端に結びつくといった性質でも持ち合わせているのかもしれない。

あくまで推測の域を出ないこの部分を考えても今は不毛な事だ。
私が今やるべきはブーンの悩みを解決する事なのだから。

川 - -) 「ブーンはさっきの私の話、どうしてこの星が滅ぶかはわかったか?」

( ´ω`) 「わかったお。昔の人がお星様を傷付けちゃって、お星様が怒ったんだお」

川 - -) 「そうだな、そんな感じだ」


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:26:43.05 ID:47nHI0qm0
 
この星の滅びは止められない。
他ならぬこの星自身、ハインに言われたのだ。
頭でそれが理解出来ていても、それを甘んじて受け入れるのは癪に障るし、何とかしたいと今でも思っている。

しかし、それに固執する前にやるべき事がいくつかある。
1つは地球を滅びの星にしない事。
ハインとも約束をしたし、私達地球人類が生き残る為には是非とも果たさねばならぬ事だ。

そしてもう1つがこの星にいる皆を無事に逃がす事。

川 ゚ -゚) 「地球の話、覚えてるか?」

( ´ω`) 「覚えてるお。クーのいたお星様だお。人がいっぱいて、山とか海とかあって、車とか飛行機とか飛んでるんだお」

川 ゚ -゚) 「そう、その地球だ。車飛ばないがな」

ブーンは私がした地球の話をちゃんと覚えていてくれたようだ。
何度となくあの湖のほとりでブーンと色々な話をした。
ブーンは地球の話を興味深げに聞いてくれていた。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:29:49.45 ID:47nHI0qm0
  
川 ゚ -゚) 「なあ、ブーン」

( ´ω`) 「お?」

川 ゚ -゚) 「地球に来ないか?」

( ´ω`) 「地球に……?」

川 ゚ -゚) 「勿論、皆と一緒にだ」

( ´ω`) 「みんなと一緒に……地球に?」

私の言葉に、ブーンの顔が移動して裏側に隠れてしまった。
どうもそれがブーンの考え事をする時の癖らしいが、それほど時間を空けずにブーンの顔は元の位置に戻って来る。

( ´ω`) 「おー? 地球って、ブーンみたいな人いないんだおね?」

川 ゚ -゚) 「そうだな。ツンやビロード、兄者やミセリみたいな人もいないな」

( ´ω`) 「そんなとこに僕が行ってもいいのかお?」

川 ゚ -゚) 「いいに決まってるだろ?」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:31:38.57 ID:47nHI0qm0
   
川 ゚ -゚) 「それに、ブーン達とはだいぶ違う姿をしている私がここに来ても、誰も文句を言わなかっただろ?」

川 ゚ -゚) 「だから、ブーンが地球に来ても誰も文句は言わないさ」

( ´ω`) 「おー」

川 ゚ー゚) 「心配するな。もしブーン達に失礼な事をぬかすやつがいたら私がとっちめてやる」

川 ゚ー゚) 「こう見えても私は偉いんだぞ? なんせ地球上に2人しかいない外交官の1人なんだからな?」

すごいおー、と素直に感心するブーンに私は少し罪悪感を感じてしまうが、別にウソは言っていない。
外交に関わる部署は現在の所外務課のみだし、職員も課長と私の2名だ。
偉くはないかもしれんが、この件が終わったら外務課を省に格上げするよう要求するつもりなので、いずれ偉くなる予定だ。

だから私は間違った事は言っていない、と思う。

その後も私は、地球の楽しい話をブーンに語って聞かせる。
不思議なもので、毎日がルーチンワークの様だった私の毎日でも、こうやって日常から離れて改めて見直してみると楽しい事が
いくつも目に付く。

書類整理だろうが荷物運びだろうが牛の世話だろうが、あれはれでちゃんと私は向き合って真面目に取り組んでいたのだ。
私の地球での毎日は無駄ではないと今なら思える。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:33:05.24 ID:47nHI0qm0
 
( ^ω^) 「それだけ広い海なら僕も泳げそうだお」

川 ゚ー゚) 「ああ、きっと泳げるさ。広がっても太陽の光で乾かせばいい」

いつしかブーンの顔には笑顔が戻り、いつかの様に地球の話に花を咲かせる。
地球に帰ったら色々とやる事が増えそうだ。
省に格上げと同時に人員の増員も要請する事にしよう。

川 ゚ -゚) 「とまあ、そんなわけだからさ、ブーン?」

( ^ω^) 「お?」

川 ゚ -゚) 「お前達が一緒にいられる場所は私が用意してやる」

( ^ω^) 「お……」

川 ゚ -゚) 「だから、安心しろ。もう悩まなくていいんだ」

川 ゚ー゚) 「あとは敏腕外交官である私が何とかしてやる」

そう言って私は、ブーンに向けて自信に満ちた笑みを浮かべてみせた。
ブーンはしばらく私の顔をじっと見詰めていたが、やがてにっこりと微笑み頷いてくれた。

(*^ω^) 「うんお! クーにお任せするお!」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:35:03.04 ID:47nHI0qm0
  
川 ゚ -゚) 「よし、じゃあ、最後の仕上げだ」

( ^ω^) 「お?」

ブーンは私の言った最後の仕上げという意味が全くわかっていない様で、その顔に疑問符を浮かべている。
私は多くは説明せず、立ち上がり、ブーンを抱え上げた。

( ^ω^) 「お? 何するんだお?」

皆の所に戻るのかというブーンに、私は違うと首を振る。
戻る前に私とブーンにはやるべき事が1つ残っているのだ。
それに戻らずとも、暇人共がどうしているか気付かぬ私ではない。

川 ゚ -゚) 「何って、決まってるだろ?」

川 ゚ー゚) 「飛ぶんだよ」

(;^ω^) 「お……、飛ぶって、どうやってだお?」

川 ゚ -゚) 「そんなものは知らん」

(;^ω^) 「お?」

川 ゚ー゚) 「しかし、お前は飛べるだろ? もう、悩みはなくなったんだ」

( ^ω^) 「お……でも……」


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/04(金) 23:37:13.48 ID:47nHI0qm0
   
川 ゚ー゚) 「大丈夫、きっと飛べるさ。私も一緒に飛ぶんだ、飛べないわけがない」

( ^ω^) 「お? クーも一緒に?」

一瞬嬉しそうな顔をしたブーンだが、すぐ崖の下に目をやり、心配そうな顔をこちらに向けた。
飛べずに落ちた時の心配をしている様だが、下は川だ。
万が一の時でも大丈夫だと考えているし、その万が一もないと私は信じている。

川 ゚ー゚) 「ほら、行くぞ。男が細かい事を気にするんじゃない」

私はブーンを両手に掴んだまま目の前に広げる。
そのままブーン越しに崖下を見ると、結構な高さがある事に気付き、少したじろぐが、言い出したのは私だ。
ブーンを信じてそのまま歩を進める。

川 ゚ -゚) 「よし、行くぞ? 準備はいいな?」

(;^ω^) 「準備とかないし、飛び方もよくわかんないお。でも……」

(*^ω^) 「クーと一緒なら、飛べる気がするお!」

川 ゚ー゚) 「よく言った!」

私はブーンのその言葉を合図に、中空に足を踏み出す。
そのまま倒れ込む様にブーンに捕まり、その身を空に躍らせた。
 
 
 第26話 了  だから私は皆と共に生きる道を探す 〜 
 

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