2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:29:15.32 ID:zfivZaEs0
 
 ダイ28ワ セカイ ヲ ツツム キミ ノ コエ
 
 
川 ゚ -゚) 「と言っても、大した話じゃないんだが……」

巨大な次元の裂け目を通り、地球へ帰る為の手段。
そう難しく考える必要もないと私は言う。

川 ゚ -゚) 「うちのじいちゃんなんか、身1つで飛び込んで、また身1つで戻って来たからな」

( ・∀・) 「あの御方を一般的な例として考えるのは、どうかと思いますがァ」

川 ゚ -゚) 「わかってる。しかし、じいちゃんが通れたのだ、そこが1つの焦点だ」

モララーが言わんとする所は、じいちゃんの武勇伝、並外れた体力や丈夫さを指しているのだろうが、私が言いたいのは
そこではない。

川 ゚ -゚) 「じいちゃんは老人にしては、というか人間としてかもしれんが体格良かったよな?」

( ・∀・) 「ああ、そういう事でェすか」

川 ゚ -゚) 「うむ、質量の話だ」

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:30:23.68 ID:zfivZaEs0

過去に地球側の人間が起こした次元の裂け目の消失事故。
あれは単純に物量、突き詰めれは質量の話だ。
次元の裂け目を通れる量の限界以上の物体を通した結果、次元の裂け目がもたずに力場の暴走を起こしたのだ。

( ><) 「つまり……どういう事なんですか?」

(*‘ω‘ *) 「だからお前はいちいち口を挟むなっぽ」

( <●><●>) 「ビロードにはあとでわかりやすく説明いたしますので、今は話の腰を折らぬようお願いします」

専門的な話になると明らかに付いて来れてない者もいるが、その説明はひとまず後に回し、話を続ける事にする。

川 ゚ -゚) 「ここにいる我々は幸いな事に皆軽めな者ばかりだ」

もともと小さいミセリやツン達を始め、大きさはあれど軽いブーン、水を減らせば軽くなるであろう兄者達と、じいちゃんに
比べればかなり軽い部類だろう。
それはモララーとトソンが2人で次元の裂け目を通れた事でも証明されている。

(;´_ゝ`) 「水を減らせばというのが少し気になるが、それは確かにそうかもしれんな」

( <●><●>) 「我々は見た目よりも重いかもしれませんが、それでもクーの半分も──」


ナニカイッタカナ? ミシリ  イエ、ナニモ
  川 ^ー^)つ}<○><○>);;

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:31:45.82 ID:zfivZaEs0

ξ;゚听)ξ 「た、確かに私達軽い“みんな”で通っても大丈夫かもしれないわね」

(;*‘ω‘ *) 「“みんな”軽いから大丈夫だっぽ!」

やけに“みんな”という言葉を強調するのが気になったが、私はワカッテマスの頭をわし掴みにしていたその手を放し頷いた。

まあ、この場にいる中では地球人の我々3人が1番重いのは確かであろう。
順当にいけばそれは男性であるモララーなのだが、あいつは痩せ型の虚弱眼鏡で体重は軽そうだ。
トソンは小柄なので、確実に私より軽いのは確かだ。その分棒体型だけどNE!

そうなると怖い考えが頭に浮かぶのだが、深く考えるのは止める事にする。

川 ゚ -゚) 「幸い使える次元の裂け目も二ヶ所だ。二手に分ければ何とかなるかもしれない」

次元の裂け目の内層が塞がるのが約半年と聞いている。
しかしそれはあくまで1人の場合を想定しているという話だった。

(゚、゚トソン 「となると早めに片方のグループが、先輩が通った方の次元の裂け目から帰る必要がありますね」

川 ゚ -゚) 「そういう事だ」

更に言えば、後に出来た方の次元の裂け目の方が許容量は大きいと考えてもいいはずだとトソンが補足する。
これまで補修作業で実際に関わってきた経験から来る意見らしい。
発生からの経過時間により、その許容量は減っていく様だ。

5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:33:15.90 ID:zfivZaEs0

(´<_` ) 「それで、具体的にはどう分けるつもりなんだ?」

川 ゚ -゚) 「この中で重い方であろう、我々地球人をばらす必要があるだろうな」

先の方に地球人を2人、残り全員を後の方に。
そのくらいの比率が丁度良いのではと考えている。

ミセ*゚д゚)リ 「ミセリ、クー、一緒!」

川 ゚ -゚) 「うん、まあ、もう少し待ってくれ」

(゚、゚*トソン 「トソンも、クー先輩と一緒!」

川;゚ -゚) 「真似すんな。つーかお前とモララーが先に帰れ」

配分と責任を考えればこれが順当な所だろう。
少なくとも、私が先に帰るという無責任な行動は取るつもりはない。

これは私の仕事なのだ。

最後までこの星に残り、帰るのはやるべき事を終えてからだ。

( ・∀・) 「まァ、私が先に戻って色々根回しをする必要もありそうですしねェ」

川 ゚ -゚) 「ああ、その辺は任せた。私たちが戻るまでに受け入れ態勢を整えておいてくれ」

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:34:44.84 ID:zfivZaEs0

(´、`トソン 「先輩を置いてこれと一緒に帰るのは、正直嫌なのですが……」

( ・∀・) 「アハハァ、勝手に付いて来て随分な言い種ですねェ」

川 ゚ -゚) 「すまんがそれしかないんだ。それにお前にも帰ってやってもらう事がある」

法的な事や政治がらみの話はモララー、それにミルナに任せるとして、それ以外の言ってしまえば雑用だが、皆の住む所など
色々と用意してもらう物もある。

(゚、゚トソン 「ええ、そうですね。もちろんそれはわかっておりますし、そうするしかないのでしょうね……」

川 ゚ -゚) 「帰ったら飲みにでも連れてってやるから、ここは折れとけ」

(゚、゚*トソン 「はい、期待してお帰りをお待ちしております」

川 ゚ -゚) 「皆もそれでいいな?」

( ^ω^) 「よくわからないけど、クーがいいならそれでいいお」

ミセ*゚ー゚)リ 「それでいい、クーがいいならそれでいい」

ξ゚听)ξ 「あんたらねぇ、少しは自分で考えなさいよ。……まあ、それが妥当なとこでしょうね」

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:36:27.40 ID:zfivZaEs0

( ´_ゝ`) 「ならば我々2人は明日にでも次元の裂け目をもう少し調べてみるか」

(´<_` ) 「出来ればトソンも来てもらえるかな? 次元の裂け目に詳しいのだろ?」

(゚、゚トソン 「私でよければいくらでも」

(*‘ω‘ *) 「私らも何かやれることを探すっぽ」

( ><) 「それで、どうしてこういう組み合わせなんですか?」

( <●><●>) 「3人のうち軽い2人を組み合わせると必然的に残りが──」


ナニ?キコエナイ ミシリ  アババババ…
  川 ^ー^)つ}<○><○>);;

こうして具体的な方策は決まった。
後は実行に向け、準備を整え、やり残した事を果たすだけだ。

私はここでひとまず話を終え、食事を取ることを提案した。

・・・・
・・・

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:39:18.04 ID:zfivZaEs0

食事は和やかに、しかし騒がしく終わった。
考えてみればこうやって一同に揃って食事をする機会等、これまでなかった事だ。
惜しむらくはワタナベ達がいない以上、全員というわけにはいかなかったのだが。

とはいえ皆、色々と胸のつかえも取れたのか、楽しんでくれている様だったので幸いだ。

川*゚ -゚) 「兄者や弟者の食事風景は微妙ではあったが」

透明な2人が食事を摂取すると、それが体内を通る様がはっきり見えてしまう。
徐々に分解され行く所まで見えてしまうので、あんまり食事中に見たいものでもない。
水分を含め全ての物質や栄養素を吸収してしまうのがせめてもの救いだ。

そんな事を考えていると、私と同じく顔を赤くしたツンが話しかけて来た。

ξ*゚听)ξ 「何の話?」

ミセ*゚ー゚)リ 「兄者、ビミョメン?」

川*゚ -゚) 「ん、いや、何でもないよ。さっきの食事のことを思い出してただけさ」

私は、久しぶりに賑やかな食事で楽しかった事や、兄者達のことをツンとミセリに話した。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:41:17.68 ID:zfivZaEs0

ξ*--)ξ 「確かにね。うるさいくらい賑やかだったわ」

ミセ*゚ー゚)リ 「みんなワイワイ、楽しい」

川*゚ -゚) 「ああ、たまにはこういうのもいい」

そう言って私は体を後ろに倒し、湯船に深く漬かる。

食事を終えた私は、風呂に入る事にした。

折角だから誰かと一緒に入ろうと思ったのだが、恐ろしく選択肢がない事に気付いた。
真っ先に手を挙げたトソンは却下。
風呂が少し狭いというのもあるが、何だか激しく身の危険を感じる。

ビロード達3人は濡れるのが嫌いという話だった。
それはそれで不潔な気がするが、身体を拭くぐらいはしているらしいのでセーフのようだ。

ブーンが入ると風呂のお湯がなくりそうだし、兄者達は風呂に入る意味もないだろう。
加えて、男性的な性質を持っていて知性の高い2人と風呂に入ろうとは思わない。
つーか、風呂と聞いた時の2人の目付きがやらしかった。

モララーは当然論外で、簀巻きにして今はトソンが見張っているはずだ。
トソンが口車に乗せられて共に覗きに来ないとも限らないので、一応の注意は必要であろう。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:43:58.40 ID:zfivZaEs0

そうなるとツンとミセリしか残っていなかったのだが、ツンは意外に快く承諾してくれた。
お湯に漬かる習慣はないらしいので風呂が珍しいようだった。

ミセリはお湯には漬かれないだろうから私が却下しようとしたのだが、すねるので今は水を入れた桶に入って湯船に浮かんでいる。
少しぐらいのお湯は平気だとミセリは言うが、茹で上がられても困るので折衷案でそうしている。

川*゚ -゚) 「湯加減はどうだ? 熱くないか?」

ξ*゚听)ξ 「丁度いいくらいよ」

ミセ*゚ー゚)リ 「冷たくて丁度いい」

ミセリのは湯加減と言わないだろうが、どうやら2人とも風呂は気に入ってくれたようで何よりだ。
風呂も地球の風習の1つだ。
地球に行くに辺り、地球の文化に馴染める方が何かと過ごしやすいだろ。

ξ*゚听)ξ 「地球かー。クーの話で色々聞いてるからどんな星かは想像は出来るんだけど……」

川*゚ -゚) 「不安か?」

私の問いにツンは素直に頷く。
この星と地球がだいぶ勝手が違うという事を、ツンは私の話から理解している。

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:46:27.32 ID:zfivZaEs0

ξ*゚听)ξ 「ここほど自由に跳び回れなさそうよね」

川*゚ -゚) 「そういう場所も残ってはいるからちゃんと連れて行くよ」

ツンはこの星に来る前にいた星の事をあまり話したがらないが、この星と同じく自然が色濃く残っていた星だったとは聞いている。
それに比べれば地球はかなり人口的な世界だと感じてしまうだろう。

私は首をそらし、風呂を囲う木々を見る。

川*゚ -゚) 「現在私が住んでいるとこは街中だが、田舎の方に行けばここみたいなとこもある」

今日の昼間、ブーンにも話したが、子供の頃によく行っていた母方の実家に行けばまだまだ未開発の自然は残されている。

川*゚ -゚) (未開発か……)

ひょっとすると、1度はあの辺りも街中と同じかそれ以上に発展していたのかもしれない。
それが滅び、自然に還る。それを幾度も繰り返す途中があの田舎の風景なのだろうか。

川*゚ -゚) 「……ツンは地球で暮らす事に、私達地球の人間と暮らす事が嫌ではないか?」

ξ*゚听)ξ 「さっき不安だって言わなかったっけ? けど、嫌かどうかは暮らしてみないとわからないわよ」

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:48:48.30 ID:zfivZaEs0

ξ*--)ξ 「それに、地球に行く以外に他の選択肢はなさそうだし」

川*- -) 「……地球人はさ、自分が住んでいる星に見捨てられるような人間なんだぞ?」

ξ*--)ξ 「らしいわね」

今回の件で、我々地球人がとんでもない過ちを犯している事は十二分に理解出来た。
それがたとえ過去の積み重ねで、今を生きる私達に直接原因はないとしても、何の改善もせず、地球の資源を浪費し、
破壊し続けている身に責任がないとは到底言えない事だ。

ξ*--)ξ 「そうね……、でも、自分達が生きる為にやってる事でしょ?」

川*- -) 「それはそうだが、それで自分達の住む場所を失ってはどうしようもないからな」

ξ*--)ξ 「まあ、私も住む場所をなくした身の上だから、あんまり強くは言えないけどね」

川*- -) 「ツン達は星自身に見捨てられたわけじゃないだろ?」

ツン達皆の星は地球と違い、星が滅びの星になることを受け入れ、滅んだわけではない。
それが人為的な戦争や、自然災害だったとしても、それは単に定められていた星の寿命という物だ。
滅びの星、ハインは滅ぶと決まった星に滅びを告げるために滅びの因子を運んでいたと言っていた。

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:51:08.17 ID:zfivZaEs0

ξ*--)ξ 「そんな風に言われると不安が増すじゃないの」

川*- -) 「しかしそれは事実だからな。そこをちゃんと納得してから来て欲しいとも思う」

ξ*--)ξ 「……それもさ、滅びの因子であった事と同じ様に、時間をかけて考えていくものじゃないの?」

川*- -) 「……かもしれないな」

きっとツンの言う通りなのだろう。
私はただ、物語の中心にいたいだけなのかもしれない。
自分を納得させたいだけなのかもしれない。
どっちにしろ自分本位だと思う。

何となく言葉が見付からず、俯いてしまった私に桶の船が寄って来る。
自分で漕いだわけではないのだろうが、上手く流れて来たものだ。
私は桶を両手でがっしりと掴み、ミセリの方に顔を寄せる。

川*゚ -゚) 「お前はどう思う?」

ミセ*゚ー゚)リ 「ミセリ? どう? わからん」

川*゚ -゚) 「まあ、そうだろうな」

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:54:00.55 ID:zfivZaEs0

ミセリに聞いた所で、答えはわかっていたも同然なのだが、やはり予想通りの答えが返ってくる。
話を聞いていただけマシな方だ。
まだ知識レベルは子供のような物なのだからそれも仕方ないとはいえ、出来れば自分の意思でちゃんと考えて答えを決められる様に
なって欲しいと思う。

川*゚ -゚) 「というわけでだ、お前はお前でちゃんとどうしたいかを考えろよ?」

ミセ*゚ー゚)リ 「ミセリ、クーと一緒!」

川*゚ -゚) 「そういう答えを聞きたいわけではないんだが……」

とはいえ、好かれて嫌なわけでもない。
こうもストレートに意思表現をされると面食らうというか、多少の照れ臭さはあるが。
私は苦笑いと共に掴んだ桶を勢いよく回した。

((ミセ;゚д゚)リ)) 「うきょー!?」

水面を高速で回る桶の上で奇声を発するミセリ。
この程度で怯んでたら、私の運転する車には乗れないと思う。

;;ミセ;@д@)リ;; 「みょー……」

やがて桶はゆっくりと回転を止め、水面を漂う。
目が回ったのか、ミセリは桶の上でふらふらと揺れている。

18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 22:57:34.02 ID:zfivZaEs0

川*゚ -゚) 「お?」

;;ミセ;´д`)リ;; 「お?」

一際ミセリの揺れが大きくなったと思った瞬間、逆さまになるミセリの姿が見えた。
気付いた時には既に軽い水音を響かせ、ミセリは湯に落ちていた。

川;゚ -゚) 「ちょ!? お前!?」

私は慌ててミセリを掬い上げ、そのまま湯船から放り投げる様に側の地面に落とす。

ミセ;~д~)リ「あわわわわ……」

川;゚ -゚) 「大丈夫か!?」

よくわからない事をつぶやきながらふらふらと揺れるミセリに、先ほどまでミセリが漬かっていた風呂桶の水を上からかける。

川;゚ -゚) 「ツン、水! おかわり!」

ξ;゚д゚)ξ 「何やってんのよ!?」

怒鳴りながらもツンは私の手から風呂桶を奪い取り、水を汲みに跳ぶ。
そしてすぐさま戻って来たツンから風呂桶を受け取り、再びミセリにかける。

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:00:17.42 ID:zfivZaEs0

ミセ;゚д゚)リ「ぷぁっ!?」

川;゚ -゚) 「ミセリ!? 大丈夫か?」

ミセ;゚〜゚)リ「ダイジョブ、ミセリ、ダイジョブ」

どうやらすぐに茹で上がるほど弱くはないのか、大事には至ってない様だ。
そもそも本人が大丈夫とは言っていたので風呂に連れて来たのだった。

川;゚ -゚) 「すまない、調子に乗り過ぎた」

ミセ;゚〜゚)リ「うん、平気、でも、回す、ダメ」

三半規管の様なものがあるのかわからないが、ミセリは即席コーヒーカップがお気に召さなかったらしい。
私は悪乗りしすぎた事を反省し、ミセリの前に再度ツンが汲んで来てくれた水入りの風呂桶を置いた。

川 ゚ -゚) 「入るか?」

ミセ*゚ー゚)リ 「うん、入──」

20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:03:31.73 ID:zfivZaEs0

ミセ*゚−゚)リ 「?」

川 ゚ -゚) 「どうした?」

ミセ*゚−゚)リ 「……」

川 ゚ -゚) 「ミセリ?」

不意に黙り込むミセリ。
先ほどのお湯の影響があるのかと心配して手を伸ばしたが、ミセリの葉がそれを制した。

川;゚ -゚) 「ミセリ?」

ミセ*゚−゚)リ 「……」

再度呼びかけるも、返事はなく、黙り込んだままだ。
こちらの声は聞こえているようだし、黙り込んだというよりは何かに集中しているようにも見える。

川;゚ -゚) 「何が……」

ミセ*゚ぺ)リ 「……聞こえる」

川;゚ -゚) 「え……?」

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:07:51.38 ID:zfivZaEs0

聞こえる。
ミセリはそう言った。

何が、と問う私に対し、ミセリは大きく首を傾げる。

ミセ*゚ぺ)リ 「わからない。でも、聞こえる」

ξ゚听)ξ 「何? 何が聞こえるのよ?」

同じ問いを繰り返す私達にミセリはただ首を傾げるだけだ。
わからないけど聞こえる。
聞こえる内容もわからないと、わからない尽くしの回答に、私とツンもミセリと同じく首を傾げるしかなかった。

川;゚ -゚) 「わからないって……何かは聞こえるんだよな?」

ミセ*゚ー゚)リ 「聞こえる、ミセリ、聞こえる」

ξ--)ξ 「こりゃ駄目ね……」

同じ言葉を繰り返すミセリを見て、ツンは早々に結論付ける。
確かに、わかっていても多少伝達能力に難のあるミセリが、よくわからない事のニュアンスを上手く伝える事は難しいだろう。

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:11:02.65 ID:zfivZaEs0

川 ゚ -゚) 「どこから聞こえるかだけでもわからないか?」

ミセ*゚ぺ)リ 「むー……」

ミセリは大きく首を傾げ、そのまま体を捻るようにして反対側を覗き込む。
そうかと思うと今度は背を反らし、顔を空に向ける。
そして最後に俯く様な姿勢を取り、視線を地面に落とした。

ミセ*゚ぺ)リ 「こっち?」

ξ゚听)ξ 「こっちって、あんた、地面じゃないの」

疑問符を浮かべた顔で言うミセリにすぐさまツンが突っ込む。
もともと花であるミセリが根っこから音を聴いても不思議ではないのかもしれないが、地面からなら虫の類の声だろう。

ξ--)ξ 「全く、人騒がせな……」

川 ゚ -゚) 「ああ……」

ミセ*゚ー゚)リ 「?」

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:14:23.30 ID:zfivZaEs0

私は、よくわからないという顔をしたままのミセリの方を見る。
これ以上の答えは期待出来ないのはわかっているが、同時にミセリが感じたままを伝えてくれているのもわかっている。

川 ゚ -゚) 「地面ね」

私は湯船に漬かり直し、腕を伸ばしてミセリの足元に触れる。
湯船の周りには足場となる石が埋め込まれているが、ミセリがいる辺りは土の地面だ。

私は、伸ばしていた手の指を大きく広げ、地面に強く押し付けた。

川 ゚ -゚) (ハイン……お前なのか?)

地面、つまりは星が何かを告げようとしているのか。
ハインにしては、今更回りくどい事だが、もう会わないと言った手前、遠回しな手段を取らざるを得ないのかもしれない。

川 ゚ -゚) 「いずれわかる……のかもな」

ξ゚听)ξ 「何の話?」

川 ゚ -゚) 「いや、大した事じゃないさ」

必要な事なら、告げに来てくれるだろう。
あいつなら、きっとちゃんと見守ってくれているはずだ。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:17:39.27 ID:zfivZaEs0

川 ゚ -゚) 「さて、そろそろ上がるか」

私は湯船から立ち上がると、タオルを身体に巻き、脱衣所の方に向かう。
ツンも私の後に従うように付いて来る、

川 ゚ -゚) 「ん? どうした、ミセリ?」

ミセ*゚ー゚)リ 「お話、お話」

しかしミセリは、身体を軽く揺らしながら地面の上に立ったままだ。
地面、星からの音をまだ聞こうとしている様だ。

川 ゚ -゚) 「もうしばらくそこにいるのか? わかった、ドアは開けておくから好きな時に戻って来いよ」

私とツンはミセリをその場に残し、脱衣所に入る。
湯の側にミセリを置いておくのは少し心配だが、この後トソン達も風呂に入るだろうし、それとなく見させておこうと思う。

私は浴衣に着替え、皆のいる居間の方へ向かった。

・・・・
・・・

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:20:08.31 ID:zfivZaEs0

川 ゚ -゚) 「……」

不意に目が覚めた。

風呂の後、今後の予定を軽く話し合い、早めに就寝したまでは良かったが、どうにも変な時間に起きてしまった。
上体を起こし、窓の外を見てみるも、まだ夜明けまでは遠い様だ。

川 ゚ -゚) 「……」

ξ- -)ξ zzz

( -ω-) zzz

そのまま視線を下げると、ぐっすり眠っている様子のツンとブーンが見える。
部屋割りは適当に決めたが、風呂の時と似た様な理由もあり、1人部屋は避ける事にしてツンとブーンにいてもらった。

いたら確実に私と同室を希望したであろうミセリは未だ風呂場にいる。
寝る前に様子を見て来たが、ここにいる事を主張してきたので好きにさせておく事にした。
あの場所なら特に害は及ばないだろうし、折角私絡み以外で自分の意見を主張したのだし、その意思は尊重してあげたい。

もう1人私と同室を希望したトソンは1階の離れた部屋を割り当てた。
疲れているだろうし、ぐっすり眠れるよう外から鍵も掛けてあげた。
モララーも同じく、1階の別の部屋に鍵を掛けて仕舞ってある。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:23:05.59 ID:zfivZaEs0

川 ゚ー゚) 「幸せそうに眠ってるな」

再びブーン達の方に目を向けると、丁度寝返りを打ったツンの顔が見えた。
布団もちゃんと人数分あったのだが、ツンはブーンに包まる様に眠っている。
ブーンも布団はいらないという事だったが、敷布団だけは敷く事にした。

川 ゚ -゚) 「ブーンが布団に包まってたら、どことなくシュールな光景になりそうだよな」

私はそんな事を考えながら、再び自分の布団に横になる。
しかし、目を閉じても一向に眠れる気配はない。
私は仕方なく、ひとまず眠る事を諦め、ツン達を起こさぬ様部屋を出た。

川 ゚ -゚) 「静かなもんだ」

後ろ手に襖を閉め、音を立てぬよう階段を下りる。
普通に降りてもさして音は響かないだろうが、何となく雰囲気的なものだ。

1階に降りた私は、まず台所に向かい、冷蔵庫から冷えたお茶のポットを取り出した。
電気は常夜灯しか点けていないが、もう勝手知ったものなので特に問題はない。
まだ暑いと感じるような夜ではないが、少し喉は乾いていた。

川 ゚ -゚) 「もう注ぎ足してあるのか」

お茶をコップに注ぎ、飲もうとした時にその事に気付いた。
今日の夕食の際に、お茶はだいぶ減った状態で冷蔵庫に戻しておいたはずだ。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:26:11.97 ID:zfivZaEs0

川 ゚ -゚) 「いるのか? それとも……」

私はお茶を飲み干し、再びお茶のポットを冷蔵庫に戻した。
また私が眠っている間に、お茶は注ぎ足されるのだろうか。

川 ゚ -゚) 「その辺の事をもう少しハインに聞いておくべきだったな」

私1人の世話ならワタナベ1人でも十分だったかもしれないが、今日の様に全員分の食事となると、1人では大変ではなかろうか。
最も、日中いっぱい時間はあったわけだから、ワタナベ1人でも不可能という事もないとは思うが。
この家自体に何らかの自動機能が整備されている場合も考えられる。

しかし、今はその事はどうでもいい。
何らかの家事をワタナベ自身がやっていたのか、つまり今ワタナベがこの家にいるのかどうかだ。

川 ゚ -゚) 「まだ話したい事があるんだ」

私は声のトーンは落としながらも、はっきりとそう呟いた。
無人の台所ではあるが、この言葉を聞いている者はいる。
私は返らない答えに苛立つように、足を1度踏み鳴らした。

川 ゚ -゚) 「聞こえているのだろう? もう1度、話させてくれ」

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:29:31.55 ID:zfivZaEs0

再び沈黙。

どうやら答える気はないらしい。
それが答えなのかもしれない。
もう、ワタナベは話す事は出来ないのかもしれない。

ワタナベの事は諦めろとはっきりと言われたのだ。

しかし、私は……

川 ゚ -゚) 「諦めろとは言われたが、諦めるかどうかは私が決める」

今度は声を抑えず、はっきりと言い放った。
わずかな沈黙の後、ハインに鼻で笑われた様な錯覚を覚えた。

それに続いてどこからか皮肉めいた口調のハインの言葉が聞こえてくるかと思ったが、言葉の代わりに台所の隅のドアが開く軋んだ音が
聞こえてきた。

川 ゚ -゚) 「……ふむ、言ってみるもんだな」

私は躊躇う事無く開いたドアに向かい、その奥に広がる暗闇に足を踏み入れた。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:32:23.22 ID:zfivZaEs0

暗闇は単に電気が点いていない廊下で、これと行って驚く様な物もない。
確かこの廊下の奥は物置だとワタナベに聞いていた覚えがある。

1度物置のドアの前まで行った事はあったが、その時は鍵を失くしたとかで入れずに終わった。
以降、室内で調べ物をするよりは、フィールドワークに時間を割く事ばかりだったので、ここには近付いていなかった。

私は壁に手を当て、壁を伝って廊下の奥へと進んだ。

川 ゚ -゚) 「あっさりと辿り着いたな」

廊下の奥、物置とされるドアの前に立ち、ドアノブに手を伸ばした。
  _,
川 ゚ -゚) 「む……閉まってるな」

呼んでおいて鍵を閉めておくというのも解せない話だが、押そうが引こうがドアはびくともしなかった。
まさかブチ破れというわけでもないのだろうが、途方にくれた私は、ドアに背中を預ける様にもたれかかった。
  _,
川 ゚ -゚) 「どういうつもりだ、ハインのやつめ……」

どうせ返事はないだろうと高を括っていたら、以外にも返事はドアの方から聞こえてきた。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:36:25.46 ID:zfivZaEs0

「……こえる? ……ちゃん」

川 ゚ -゚) 「ん?」

誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえた気がした。
私は半信半疑ながらもドアに耳を当て、聞いてみる。

「……聞こえる? クーちゃん」

川;゚ -゚) 「ワタナベか!?」

私は、向こうが返事をするよりも速く、顔をドアから離し、ドアノブを捻る。
しかしドアはまだ鍵がかかっている様で開く事はなかった。

川;゚ -゚) 「ワタナベ! いるのか? いるならこのドアを開けてくれ!」

「……ないの……ね……ちゃん」

顔を離していてはワタナベのか細い声が聞こえないので、一旦鍵は諦め、また耳を当てる。
ワタナベが言うには、鍵は開けられないとの事だった。

川;゚ -゚) 「そうか」

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:39:57.53 ID:zfivZaEs0

「ごめんねー」

川 ゚ -゚) 「いや、構わないさ。それよりもワタナベ、その……」

聞きたい事は色々とあった。
全てを理解した私が、ワタナベに聞くべき事は数多くあるのだ。
しかし、私は自分が何を聞いていいのか、言葉が上手く続かなかった。

「おめでとう、クーちゃん」

川 ゚ -゚) 「え?」

「お仕事、無事に終わったんでしょ?」

川 ゚ -゚) 「ああ、そうだな、一応な。まだ皆を地球に連れて行くという仕事が残って……」

川;゚ -゚) 「いや、その、何だ……」

地球に皆を連れて行く。
その中にまだワタナベを入れられていない事を思い出し、誤魔化した。

先ほどからどうにも上手くない。
話したい事は沢山あるのに、私はどう切り出していいのかわからずにいる。

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:42:15.90 ID:zfivZaEs0

そんな私の様子の余所に、ドアの向こうのワタナベが笑った様な感じ受けた。

川 ゚ -゚) 「ワタナベ?」

「ん? なーに?」

川 ゚ -゚) 「いや、何だか楽しそうだなって……」

「うん、楽しいよ。だって、クーちゃんのお仕事が終わったって事は、私のお仕事も無事終わったって事なんだよ?」

自分の仕事も終わったと言うワタナベは、どこまで理解しているのだろうか。
私は、震えそうになる声を抑え、意を決して本題を切り出す事にした。

川 ゚ -゚) 「……ワタナベはどこまで知ってるんだ?」

「ハインちゃんの事?」

川 ゚ -゚) 「ああ、その辺りの全部についてだ」

「あ、ハインちゃんに名前付けてくれてありがとね。ハインちゃん、すごく喜んでたよ」

川 ゚ -゚) 「そうか。それは良かった」

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:45:04.03 ID:zfivZaEs0

川 ゚ -゚) 「そういえば、ワタナベはハインの昔の名前を知っているんだよな?」

「うん、知ってたよ」

「でも、ハインちゃんはその名前で呼んで欲しくないと言ってたから、呼ばない事にしてたの」

川 ゚ -゚) 「そうか。じゃあ、ワタナベはハインを何て呼んでたんだ?」

「お星様とか星さんだよ」

川 ゚ -゚) 「そうか……」

つまりワタナベはハインが何であるかずっと知っていたという事か。
ワタナベに全ては伝えていなかったとハインは言っていたが、流石にそこは理解していた様だ。

「うん、知ってた。ハインちゃんがどんな星か。私がどうすればいいかも」

「と言っても、私がやる事なんてここに来る人のお世話ぐらいで大した事はしてなかったんだけどね」

川 ゚ -゚) 「そうでもないさ。ワタナベのお陰でここでの暮らしが快適に過ごせたし、仕事も上手くいった」

「ありがと、クーちゃん。そう言ってもらえると本当に嬉しいよ」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/07/16(金) 23:47:51.01 ID:zfivZaEs0

普段と何ら変わる事のないワタナベの声に、私はいつの間にか安堵していた。
当然最初は、ハインの演技も疑いはしたのだが、この声はワタナベ本人に違いない。

私にはそれがわかる。

川 ゚ -゚) 「……で、ワタナベ。お前はこの後どうするんだ?」

「どうもしないよ?」

川 ゚ -゚) 「どうもしないとは、それは……」

「もちろん、ここにいるよ」

川;゚ -゚) 「それは──」

「もうないの」

川;゚ -゚) 「え?」

「もう、私には身体がないの」

私が聞くより早く、ワタナベは答えを口にしていた。
あっけらかんとしたいつも通りのワタナベの口調に、私はその意味を理解するのにしばらくの時間を必要とした。
 
 
 第28話 了  届いた声、届かない手、それでも私は 〜 
 

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