2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:03:34.86 ID:gGP7YfEYO
 
 ダイ29ワ デアイ ノ ハテ ノ ワカレ ノ セカイ
 
 
「私のこと、ハインちゃんに聞いたんだよね?」

川;゚ -゚) 「あ、ああ、聞いた……」

告げられた言葉を上手く処理出来ない内に、続けざまにワタナベは口を開く。
聞き役に回る事の方が多かったワタナベにしては珍しい事かもしれない。

「私が、もともとこの星に住んでいた人間の最後の1人だったのも聞いた?」

川;゚ -゚) 「それも聞いた。しかし、ワタナベ、身体がないとはどういう事だ?」

その言葉の意味を理解出来ないならがも、私はワタナベに聞き返す。
このまま一方的に告げられて終わり、という展開は避けねばならないという考えが頭をよぎった故だろうか。

「うーん、それについては何て言えばいいか、ちょっと難しいなー」

全く悩んでいないような、普段と変らぬ緊張感など皆無な声でワタナベは言う。
私は、わかる事だけでいいから教えてくれとワタナベに頼んだ。

3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:05:03.58 ID:gGP7YfEYO
「うーん……そうだねー」

川 ゚ -゚) 「……」

「私が、この星に元から住んでいた人間の最後の1人だって事は知ってるんだよね?」

川 ゚ -゚) 「ああ、ハインから聞いた」

「私ね、ハインちゃんと会った時、もう死にかけてたの」

川;゚ -゚) 「死に……」

衰弱し、身動きも取れず、ほとんど死んでた様なものだったとワタナベは笑って言う。
この星の原住民が滅んだ理由はハインから聞いてはいたが、当然ワタナベもその只中にいた事は失念していた。
ワタナベは家族や友達、すべてのこの星の人間が死に逝く様を見たのであろう事を。

「あ、ハインちゃんの事は恨んでないよ。私も、ううん、私達はハインちゃんに対してずっとひどい事をして来たと思うし」

川 - -) 「私は……どちらが悪いとか、それを論じられる身分じゃない」

一歩間違えば地球に住む私達も同じ様に滅びの道を辿る所だったのだ。
今回は回避出来たが、根本的な問題を正さないとまた同じ道に向かう可能性もある。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:07:05.49 ID:gGP7YfEYO
「もう少し、私もみんなも、お星様に感謝して生きなきゃダメだったよねー」

川 ゚ -゚) 「肝に銘じておくよ」

極めて軽い口調で言うワタナベからは本人が言う様に星に、ハインに対する恨みは全く感じられなかった。
私が同じ様な立場に立たされた時、そんな風に振舞えるかは自信がない。

「それで、私はハインちゃんに助けてもらったの。星の、生命を分けてもらって」

川 ゚ -゚) 「星の……生命?」

ワタナベの話を要約すれば、延命と肉体維持、その2つを施してもらったという事だ。
私は改めてワタナベが私の何倍もの長い時を生きて来た事を知った。

「でも、それもようやくおしまい」

もう、この星でやる事はなくなったとワタナベはいう。
後は滅びに向かうだけのこの星で、誰かが何かをする必要はもうないのだ。

川 ゚ -゚) 「この星はもう、滅ぶしかないんだな……」

「うん、そうだよ」

わかりきっていた事を呟く私に、至極当然のような口調でワタナベは答える。
全てをわかって、全てを受け入れているワタナベに、私は自分が何を言うべきなのかわからずにいた。

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:08:32.52 ID:gGP7YfEYO
 
「もう、私に手伝える事はなくなっちゃったけど、クーちゃん達が無事に地球に辿り着くのを応援してるね」

川;゚ -゚) 「ワタナベは──」

「……」

川  - ) 「ワタナベは……一緒に来ないのか?」

反射的に聞いてしまったが、ワタナベがどう考えているのか、そうしてどうするしかないのか、私は既に理解していた。
ハインの話、そしてワタナベ自身の話。
この星の置かれている状況を考えれば、答えは考えるまでもないのだ。

川  - ) 「私達と一緒に、地球へ行こう」

「ごめんね。お誘いは嬉しいけど、一緒には行けないの」

川  - ) 「……」

「クーちゃんなら、もう、わかってるんだよね」

川  - ) 「……」

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:10:15.69 ID:gGP7YfEYO
  
「それでも誘ってくれるんだね」

川  - ) 「……すまない」

「どうして謝るの? 私は嬉しかったよ、ありがとう」

川  - ) 「しかし──」

しかし、ワタナベは……
私を助けてくれたワタナベは……

私は……

川  - ) 「私は……ワタナベを……」

「クーちゃん」

川  - ) 「……なんだ?」

普段と変らぬ明るい調子でワタナベが私の名を呼ぶ。
どうしてワタナベはこうも普段通りでいられるのだろうか。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:12:09.98 ID:gGP7YfEYO
 
「私は、本当だったらもう、死んでたの」

川  - ) 「……ッ」

「だからね、クーちゃん」

川  - )

「私はクーちゃんと一緒には行けないの」

川  - )

「そしてそれはクーちゃんの所為じゃない」

川  - ) 「私は……」

私の所為ではない。
ワタナベは言う。

それは裏を返せば、私にはどうする事も出来ないという事だ。

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:15:29.63 ID:gGP7YfEYO
   
川  - ) 「私は無力だ。すまない、ワタナベ」

「そんな事ないよ。クーちゃんは自分のお仕事を立派に終わらせたんだよ」

川  - ) 「でも私は……」

川  - ) 「この星は救えなかった」

川  - ) 「それに……」

川  - ) 「友達の1人も、救う事が出来なかったんだ……」

気を抜くと溢れそうになる何かを抑え、搾り出すように言葉をぶつける。
こんな物はただの愚痴だとわかっている。
どうする事も出来ないとわかっていて、自分より苦しいはずのワタナベにそれをぶつけている。

私は自分が途轍もなく弱く、どうしようもない存在だと身を持って味わった。
私は結局ワタナベに何もしてあげられなかった。

「……私も、ハインちゃんも、クーちゃんのお陰で救われたんだよ」

「ありがとう、クーちゃん」

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:17:42.18 ID:gGP7YfEYO

もういかなければならないと言うワタナベ。
どこにいくのか聞くだけの覚悟は、私にはなかった。

「それじゃあね、クーちゃん。あなたに会えて良かった」

川  - ) 「……ッ!」

ワタナベがいってしまう。

私も何かを言わなければならない。

川  - ) (何を……)

私もワタナベに告げなければならない。

川  - ) (ワタナベに……別れを……)

どうして?

川  - ) (ワタナベは……いってしまうのだから……)


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:19:47.34 ID:gGP7YfEYO
 
どこに?

川  - ) (手の……届かない所に……)

わかっていた事だ。
頭では、全部わかっている。

だのに私は、当の本人から言われてもそれを受け入れられずにいる。

何故、と問われても、私はちゃんとした答えは出せない。
それは単に私の気持ちの問題で、いうなれば私のわがままだ。

だから、私が納得し、受け入れればそれで済む話なのだ。

ワタナベは、最終的にこうなる事をわかっていて、私に協力していたのだから。
だから私も、ワタナベの労を労い、笑って見送るべきなのだろう。

川  - ) (けれど私は……}

川 ゚ -゚) 「嫌だ」

「え?」

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:21:08.53 ID:gGP7YfEYO
  
川 ゚ -゚) 「嫌だと言ったんだ」

「え……何の話、クーちゃん?」

同じ言葉を繰り返すも、ワタナベはその言葉の意味を正しく理解出来ないようだ。
それもそうだろう。
私も自分が言っている言葉の意味を上手く説明出来ないのだから。

けれど私は、その答えが間違っていないと強く思う。

そう思った瞬間、私は思わずドアに拳を叩き付けていた。

川#゚ -゚) 「ワタナベ! 私はまだ諦めない!」

「ふぇ!?」

川#゚ -゚) 「まだ時間はある」

「え、で、でも、もう……」

川#゚ -゚) 「もう、何だ?」

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:23:04.97 ID:gGP7YfEYO
 
川#゚ -゚) 「時間がない? 身体がない? 決まっていた事?」

「そう……」

川#゚ -゚) 「そんなの知った事か!」

「はわわ……」

私は再びドアに拳を叩き付け、力強く言い放つ。
そうだ、諦めるか諦めないか、それは自分の心の問題なのだ。
そんな所まで口出しをされる覚えはない。

さっきも言ったはずだ、諦めるかどうかは自分が決めると。

川#゚ -゚) 「私を誰だと思っている?」

「えっと……クーちゃん……」

川#゚д゚) 「そうだ! 現在、地球唯一の外交官、素直クールだ!」

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:25:03.94 ID:gGP7YfEYO

唯一である事、それはすなわち他に誰もいない事である。
それは言い換えれば、私が現在地球で最高の外交官であるという事だ。

そんな外交官たる私の役割は、ここできっちりと仕事をこなす事を期待されて送られてきている。
ここでワタナベの事を諦めては、画竜点睛を欠き、仕事を完璧にこなしたとは言えなくなってしまうのだ。

川#゚ -゚) 「だから、私は絶対諦めてやらん!」

三度ドアに拳を打ちつけ、すっくと立ち上がる。

また来る、と一言言い残し、私は来た道を逆に歩いていった。


「えーっと……クーちゃん……?」

「クックック……、やっぱり面白いやつだな」

「笑い事じゃないと思うんだけど……」

「クー、面白い」


背後からワタナベらしき声が何かを言っていたようだが、私は振り向かず、自分の部屋まで戻った。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:27:10.13 ID:gGP7YfEYO
 
・・・・
・・・

翌朝は昨夜の夜更かしもたたり、少々寝坊してしまった。
既に日が高いこの時間を少々と言っていいのかわからないが、どうやら皆は私が疲れているのだとみなして起こさないで
いてくれたらしい。
  _,
川 ゚ -゚) 「いや、起こせよ……」

そう呟くも誰からの返事もない。
何故なら、既にこの家にいるのは私だけらしい。

遅い目覚めから階下に降りると、全く人気を感じさせない部屋があった。
残された1人分の食事と共に置いてあった書き置きによると、全員それぞれやる事があるという事で出て行った様だ。
  _,
川 ゚ -゚) 「むぅ……」

暖め直す様、手順が記されたメモを一瞥し、それを机の上に戻す。
ご飯が温かいのでその他は冷たくても問題ないから、そのまま食べる事にした。
決して面倒臭いからというわけでなく、単に嗜好の問題だ。

24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:30:03.14 ID:gGP7YfEYO
   
川 ゚ -゚) 「いただきます」

ご飯をよそい、手を合わせ、食べ始める。
もう何度目かになるかわからないくらいのここでの朝食だが、1人での朝食はまだ数度目だ。
何となく寂しく感じてしまうのも仕方のない事だろう。

川 ゚ -゚) 「しかし……全員いないとはな……」

兄者と弟者、それにトソンは先日話していた巨大な次元の裂け目の調査に向かったのだろう。
だが、それ以外のやつらが何をしに行ったのか皆目見当も付かない。
ここを離れる事になるのだから、やっておくべき事もあれば、感慨にふける時間も必要だろう。
そう考えれば、皆色々とやる事があるのだと納得は出来る。

川 ゚ -゚) 「ミセリまでいないというのは予想外だったが」

ミセリ1人で長距離移動は出来ないだろうし、誰かに付いて行ったと見るべきだろう。
まだ風呂場にいるのかもと思ったが、さっき見て来た限りでは見付けられなかった。

川 - -) 「ごちそうさまでした」

考え事をしているといつの間にか食器から食事が消えていた。
何を食べたか記憶がおぼろげなのだが、お腹の具合を考えると自分が食べたに違いない。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:33:16.71 ID:gGP7YfEYO
 
川 ゚ -゚) 「これでは作った人に申し訳が立たんな」

次からは食事は食事でちゃんと味わってから考え事をしようと心に決め、食器を持って立ち上がる。
そのまま流しに沈めて済ませようかと思ったが、自分で洗う事にした。

川 ゚ -゚) 「さて、どうするかな」

食器を洗い終え、居間のソファに座る。
私にもやるべき事はある。
しかし、どうすればいいのかよくわかっていない。

いや、正確にはワタナベ達の事がどうすればよいのかわかっていないだけで、その他の皆を地球に連れて行く為の準備は
何をするべきなのかわかっている。

川 ゚ -゚) 「まずは調べ物だが……」

既にトソン達が次元の裂け目については調べに行っているはずだ。
トソンは地球にいた時既に、私より次元の裂け目についての知識はあった。
加えて、おそらく同行しているであろう兄者達の知識は、この手の現象については私など及びもしない知識を持っている。

であるならば、次元の裂け目については私が調べる必要はなくなる。
適材適所、あいつらに粗方任せてた方が効率はいいだろうが、一応私も立ち会うぐらいはしておきたい所だ。
万全を期す為と、多少の好奇心もある。

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:36:06.77 ID:gGP7YfEYO
   
次元の裂け目の調査は必須として、次に調べるべきはなんであろうか。
  _,
川 ゚ -゚) 「途端に調べるものがなくなるな」

先日決めた次元の裂け目を通って地球へ向かうという移動手段を取るなら、その他の手を考える必要はない。
少なくとも、調査の結果が出るまでは保留で構わないだろう。

川 ゚ -゚) 「となると後考えねばならないのは、皆が地球に適応出来るかどうかだな」

発達の度合いの差はあれど、見た感じも暮らした感じもここと地球の環境に大差はないように思える。
少なくとも、私はここで生活をしていて何かしらの体調の不良を感じる事はなかった。
私は他人より健康な方なので、個人差を考慮すると断言は出来ないが、トソン達もいることだし、あいつらの様子を見ていれば
その辺りの判断は下せるだろう。

とはいえ、私達人間がこの星で問題なく暮らせたからといって、その逆、ツン達が地球で問題なく暮らせるかといえば答えは
わからない。

もともとツン達も別の星の生まれで、この星に適応している事を考えれば大丈夫な気もするが、根拠のない予断だけで論じるには
危険な話だ。
無事地球に辿り着けても、そこで生きられなければ意味がない。

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:38:18.93 ID:gGP7YfEYO
 
川 ゚ -゚) 「うん、まずはこの辺をはっきりさせる必要があるな」

皆の生命に関わる問題だ。
適当に済ますわけにはいかないだろう。

川 ゚ -゚) 「具体的には健康診断でもすればいいのか?」

気候や地質調査なんかもやるべきかもしれないが、機材もない上に知識もない。
ついでに言えば医師の資格もない私が健康診断をした所で何かがわかるとも思えない。

川 ゚ -゚) 「兄者達に辺りに相談すべきか……ん?」

そんな事を考えていると、居間の机の端の方に見慣れぬファイルが1冊置かれていた。
いつから置かれていたかはわからないが、少なくとも昨日、ここに全員が集まった時はなかったはずだ。

川 ゚ -゚) 「これは……」

私は立ち上がり、ファイルを手に取る。
ファイルを開け、閉じられた紙に目を落とすと、そこにはいくつかの数値と解説が記されている。
何の説明かと思って隅々まで見渡すと、どうやら地球とこの星の気候や地質といった様々な環境の比較表らしい事がわかった。

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:40:18.00 ID:gGP7YfEYO
  
川 ゚ -゚) 「……」

私はファイルを閉じ、居間をぐるりと見渡す。
このファイルはいつから置いてあったのだろうか。
私の独り言を聞いて置いたのか、それとも、私がこの考えに至る事を予め予期していたのか。

誰が置いたかは考えるまでもなくわかることだが。

川 ゚ -゚) 「どちらにしろ、用意のいい話だな」

少し不機嫌そうな顔をしてみせ、ハインに聞こえるように愚痴る。
見透かされているのは癪に障るが、助かったのは事実だ。

川 ゚ -゚) (しかし、用意が良過ぎるな)

いくら星の力を持ってしても、これだけの調査を瞬間的に出来るとは思えない。
昨日の私の結論を聞いてから用意したにしろ、早過ぎる気がする。
ハインの事は簡単かもしれないが、地球の事まで調べてある。

川 ゚ -゚) 「最初からハインも皆を地球に移すつもりだったのかも知れんな」

これまでハインと接した印象では、このまま滅ぶに任せて他の皆を道連れにする様な考え方をするとは思えない。
何かしら、脱出手段を提示しようとした可能性がある。

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:43:12.55 ID:gGP7YfEYO
 
川 ゚ -゚) 「そしてその手段が、私と同じ考えだった。そうだな、ハイン?」

当然返事は返って来るはずもないが、恐らくそれが正解だろうと私は判断した。
それはつまり、この方法が実現可能で、もっとも安全性の高い方法なのだろうと推測出来る。

川 - -) 「しかし、最初っからそう言ってくれれば、余計な調査とか必要なかったんだがな」

聞こえていないはずもないのだが、悪態にも返事はない。
元より頼りきりになるつもりもないので、先の考え通り、彼女の行動も判断の指針として利用させてもらう事にする。

川 ゚ -゚) 「となるとまた私のやる事が1つなくなるわけだな」

あと考える必要がある事は、実際の脱出の際の装備について。
巨大な次元の裂け目を通る際の衝撃の緩衝の手段を何かしら考えなければならない。

しかしこれについては、大体の目処は立っている。
そもそも、目処が立っていなければあの脱出手段を提示する事はなかった。

川 ゚ -゚) 「そうなると残りは1つだけだな」

ワタナベの事。

結局それが最後に残るわけだ。

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:46:48.45 ID:gGP7YfEYO
  _,
川 ゚ -゚) 「むぅ……」

それからしばらく座したまま考えていたが、これといった妙案は思い浮かばない。
頭が働かないのは食後の満腹感の所為だと考えた私は立ち上がり、庭へ出る事にした。

川 ゚ -゚) 「そういえばここの庭はあまり見ていないな」

名も知らぬ樹木の垣根に囲まれたそう広くはない庭。
適度に刈られた草の地面が広がり、いくつかの岩が置いてある。
この庭の作りには、恐らくじいちゃんが関わっているはずだが、日本庭園と西洋のそれの中間のような感じを受ける。

川 ゚ -゚) 「お世辞にもセンスがいいとは言えない人だったしな」

敷地の外の様子と大差ない庭だ。
単に垣根で囲っただけなのかもしれない。

川 ゚ -゚) 「庭の景色と外の景色が大差ないからな」

だからこれまで、この庭を敢えて歩き回るような事はしていなかった。
私は何かいいアイデアが浮かばないかと庭を歩き回ってみたが、これといって何も思い浮かぶ事も無く、ただ徒に時間を
費やしているだけだった。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:50:16.74 ID:gGP7YfEYO
  _,
川 ゚ -゚) 「そうそういいアイデアが思い付くものでもないが……」

やはりワタナベかハインといった当事者でもいない事には考えようがない。
そもそもの科学などの専門知識不足もあるのだが、せめて誰でもいいから相談相手が欲しい所だ。

私は庭の突き当たり、位置的に恐らく風呂場を囲う垣根に両手を伸ばして体重をかけた。

川 ゚ -゚) 「ん?」

ミセ*゚ー゚)リ 「?」

川 ゚ -゚) 「何だ、いたのか」

ミセ*゚ー゚)リ 「ミセリ、いた、クー、おはよう」

垣根の下からひょっこりとミセリが顔を出した。
起き抜けに風呂場を覗いた時には見つけられなかったが、どうやら出かけてはいなかったらしい。
ミセリに聞くと、私と同じ様に庭をうろちょろしていたらしい事がわかった。

川 ゚ -゚) 「散歩か?」

ミセ*゚ー゚)リ 「お話、ミセリ、内緒」

川;゚ -゚) 「内緒って……話をしてたんだろ?」

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:53:17.41 ID:gGP7YfEYO
 
話の中身が内緒なのか、いずれにしろ、ミセリが私に隠し事など初めての事だ。
大方、話し相手のいらぬ入れ知恵だと思うが、内緒にされると何だか少し寂しく感じるのは何故だろうか。

川 ゚ -゚) 「まあ、いいや」

ミセ*゚ー゚)リ 「お?」

私はしゃがみ込みながらミセリをつまみ上げ、そのまま垣根に寄り掛かる様に座る。
ミセリは昨日からずっと地面に根、足を付けていたので、足が地面にへばり付いていないか気になったが、そんな事もなく簡単に
持ち上げられた。

ミセ*゚д゚)リ 「お話、聞こえない」

川 ゚ -゚) 「まあ、今は私と話をしようじゃないか」

胡坐をかいた膝の上にミセリを乗せ、語り掛ける。
ミセリは特に嫌そうな顔はせず、コクコクと数度頷いた。

ミセ*゚ー゚)リ 「クー、お話、何のお話?」

川 ゚ -゚) 「実はな、今悩んでる事があるんだ」

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:56:47.04 ID:gGP7YfEYO
 
ミセ*゚ぺ)リ 「悩み? クー、困る?」

川 ゚ -゚) 「うん、そうだ。ちょっと困ってるなー」

私はミセリにこの星へ来てからの事、そしてワタナベの事を順を追って1つずつ話していく。

ミセリが私の話をちゃんと理解出来ているかは定かではないが、時折挟まれるミセリの質問はそれほど的外れの物でもない。
何にせよ、ミセリに話しながら自分の中で整理を付けているようなものなので、私としてはただ聞いてくれさえいれば
ありがたかった。

川 ゚ -゚) 「そんなわけで、私はワタナベに色々と世話になったんだよ」

ミセ*゚ー゚)リ 「ご飯、大事、お家、大事」

川 ゚ -゚) 「うん、それらがしっかりしていたから、私は心置きなく仕事に専念出来たんだ」

見知らぬ土地で1人、なんて境遇で寂しさに潰されるほど可愛げのある性格はしていないが、それでもワタナベがいて、
帰る家があったからこそ、私はここでの仕事を果たす事が出来たのだ。

川 ゚ -゚) 「だから、ワタナベには感謝してもし足りない」

ミセ*゚ー゚)リ 「クー、ワタナベ、ありがとう?」

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:58:32.42 ID:gGP7YfEYO
   
川 ゚ -゚) 「ああ、そうだ。言葉だけでは足りないくらい感謝してる」

だからこそ私は、ワタナベをこのままここに残して地球へ帰るわけにはいかないのだ。
このままここで、滅びに向かうこの星にワタナベを置いて帰る事は出来ない。

川 - -) (だからと言って、ハイン1人を滅びに向かわせたいわけでもないのだがな)

ハインは星として自身の滅びの道を選んだ。
その決定を今更返る事は物理的にも不可能だし、私が口出しを出来る問題ではない。

川 - -) (随分と勝手な言い種かもしれないな)

出来る事と出来ない事、見極める事は必要だ。
見誤れば、全てを台無しにし兼ねない。
自分より遥かに大きな存在であるハインの選択を、私がどうこう出来るとは思えないのだ。

体のいい、諦めの理由を探しているだけにも見える自分の考え方に少しだけ悲しく、そして申し訳なく思う。

私は右手を地面に当て、ハインに心の中で謝罪する。
丁度吹いて来た風が私の髪をやさしく撫でたのは偶然だろうか。

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 22:59:42.72 ID:gGP7YfEYO
 
川 ゚ -゚) 「私はワタナベを地球へ連れ帰りたい」

再び風が吹く。
先程度同じ様に緩やかに、柔らかな風が私を包む。

ミセ*>ー<)リ 「お?」

風の中、吹かれるままに身をそよがせるミセリ。
吹く風は絶え間なく、私の髪を揺らす。

川 ゚ -゚) 「かまわないんだな?」

風は同じ調子で吹き続ける。
私はそれをハインの答えだと受け止めた。

川 ゚ -゚) 「ありがとう」

それが勝手な判断だとしても、それが私の決めた答えなのだ。
私はこれまで通り、私が思うようにやろうと思う。

川 ゚ -゚) 「とは言ったものの」

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:01:16.01 ID:gGP7YfEYO
  _,
川 ゚ -゚) 「具体的な手段がなぁ……」

ミセ*゚ー゚)リ 「ぐたいてき? しゅだん?」

川 ゚ -゚) 「ん? ああ、どうしようかなって話さ」

ミセ*゚ー゚)リ 「何を? ワタナベ?」

川 ゚ -゚) 「うん、ちゃんと聞いてたんだな。そう、ワタナベをさ」

結局そこに帰結するのだが、既に身体が無いと言ったワタナベをどうやって地球に連れて行くかだ。
何せ身体が無いという時点で、こちらの常識の範疇を超えている。
私が知る術だけでどうにか出来るとは思えない。

川 ゚ -゚) 「とはいえ、身体が無いと言いつつも私と会話は出来てたんだよな」

それはつまり、身体は無くともワタナベという存在がまだそこにあるという事だ。
それならばまだ手遅れではない様にも思えるが、恐らく今のワタナベの存在を維持しているのは星であるハインの力に
因る所なのだろう。

川 ゚ -゚) 「どうしたものかな……」

ミセ*゚ー゚)リ 「身体、無い、身体、作る」

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:02:22.75 ID:gGP7YfEYO
  
川 ゚ -゚) 「うん、まあ、それが出来れば一番いいんだろうけどな」

これが小説なら、サイボーグやロボットみたいな形で機械の身体が用意されていたりもするかもしれないが、残念ながら
現実はそう都合よくはいかない。

それに、そういう別の身体があったとして、その身体とワタナベを結び付ける手段がわからない。

ミセ*゚ぺ)リ 「結ぶ? 身体?」
  _,
川 ゚ -゚) 「うむ、何と言えばいいんだろうな?」

私は思いつく限りの自分の考えをミセリに話した。
SFを通り越して荒唐無稽なオカルト的な発想であったり、夢と魔法のファンタジーな発想だったり、
我ながら真面目に考えている様に聞こえない。

勿論、ふざけているわけではないし、そのくらい発想が飛躍しなければこの状況を打破出来るとは思えないのだ。
  _,
川 ゚ -゚) 「難しいもんだな」
  _,
ミセ*゚ぺ)リ 「むぅ、難しい」

私とミセリは眉をひそめ、額を突き合わせて考え込む。
思ったよりミセリがちゃんと反応してくれるので、私はそのままミセリと一緒にずっと色々考えを巡らせた。

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:03:35.73 ID:gGP7YfEYO
 
そうしているといつの間にか陽は傾き、玄関の方に誰かが帰って来た様な気配があった。

川 ゚ -゚) 「ん? もうそんな時間か。……結局いいアイデアは浮かばなかったな」
  _,
ミセ*゚ぺ)リ 「身体、ない、新しい身体、ワタナベ?」

川 ゚ー゚) 「一緒に考えてくれてありがとう。少し考えを整理してからまた相談するよ」

私はミセリに礼を言い、ミセリを地面に下ろす。
考えがまとまらないので、まずは帰る手段の調査の手伝い等を先に済ませ、ワタナベの事はその間に考えようと思う。
私はミセリをその場に残し、帰って来た人間を出迎えに室内に戻る事にした。

ミセ*゚−゚)リ 「クー、ワタナベ、一緒? ミセリ、一緒? ミセリ、ワタナベ?」

背後ではミセリがまだ考えてくれている様で、何かを呟く声が聞こえた。
私は振り向き、指で一緒に行くか? というジェスチャーしてみせたが、ミセリからの反応はない。

川 ゚ -゚) 「窓は開けておくから、好きな時に戻って来いよ」

私はミセリに一声掛け、一人室内に戻った。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:06:01.39 ID:gGP7YfEYO
 
・・・・
・・・

それから約一週間、私と他の皆は地球に帰る準備に追われていた。
やる事はそう多くはないと思っていたが、実際に調査をするとそれなりに時間を要し、また、この星に別れを告げる
時間も必要だった。

それでもその一週間で、大体の準備は整った。
ただ一つの事、ワタナベの事を除いては。

あれから一週間、私は未だに答えを見つけられずにいた。
  _,
川 ゚ -゚) 「むぅ……」

ξ゚听)ξ 「相変わらず眉間に皺が寄ってるわよ?」
  _,
川 ゚ -゚) 「ん? ああ、ツンか、早いな」

普段より少し早めに目が覚めた私は、1階の縁側で1人庭を眺めていた。
こんな時間に誰かが起きてくるとは思えなかったので、自分が起こしてしまったのかと謝罪するが、ツンはただ
なんとなく早く目が覚めただけだという。

ミセリに話した後、他の皆にもワタナベの事、そして私が考えている事は話した。
皆も色々と考えてはくれていたが、これといった妙案は見付かっていない。

ξ゚听)ξ 「そんな顔しなさんな。まだ時間はある、でしょ?」


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/09/24(金) 23:07:56.48 ID:gGP7YfEYO

川 ゚ -゚) 「そうだな……」

私はツンと共に庭に降りる。
既に外は明るく、ほどよい温度の空気が私達を包む。

ξ゚听)ξ 「きっと何か手はあるわよ」

川 ゚ -゚) 「うん、ありがとう」

いま一つ表情の優れない私を気遣う様な言葉をツンは掛けてくれる。
あまり心配させたくはないが、笑顔を浮かべられる様な心境ではない。

「クー、おはよう」

川 ゚ -゚) 「ん? ミセ……」

そんな私の背後から、ミセリの明るい声が届く。
あれからも外で過ごすことが多かったミセリだが、その明るさには私も救われていると思う。

川;゚ -゚) 「リ!?」

(#゚;;-゚)(|) 「クー、おはよう」

振り向いた私の目に映ったのは、花びらが抜けて痛ましく顔が陥没し、何かを手に抱えたミセリの姿だった。
 
 
 第29話 了  もがく手を受け止める小さな手 〜 
 

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