119 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:28:29.60 ID:nzTtsNdm0
クリスマスと言えばサンタだ。
夢と欲望に満ち溢れた少年少女たちのために、お望みのプレゼントを差し上げる役だ。
魔法のソリや、空飛ぶトナカイなんて便利なものはありゃしない。
いよいよ使い物にならなくなってきたこの崩壊寸前の車だけが足だ。
この車を買った頃は、相当に多忙な生活を送っていた。
本業であるプレゼントの確保・配達に、テレビや雑誌の取材はひっきりなしだった。
毎週日曜にはラジオのパーソナリティーを勤めていた。生放送だ。
年に一度は、クリスマススペシャルということで一日中マイクとコンニチハさせられた。
あの頃はよかった。みんなサンタのことを信じていた。
子供も大人も、クリスマスになればサンタがやってくると信じていた。
しかしだ、いつの頃からかサンタの存在は架空ということにされてしまっていた。
サンタを信じていいのは子供まで、なんて妙なルールまで作られた。
クリスマスの夜に、枕元や靴下にプレゼントを入れておくのはサンタではなく親の仕事になってしまっていた。
あの頃はよかった。
居酒屋の親父にそう愚痴ったら、歳だねえと言われた。
俺はサンタの中でもとびきり若い方だ、そう言い返してやった。
サンタという言葉を出したのがマズかった。
親父は哀れみを込めて笑い出した。
あまりにも良く笑うもんだから、カッとなってオフェンスがアップした。
親父を殴りつけたら出入り禁止をくらった。
酔いは怖い。

120 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:29:39.07 ID:nzTtsNdm0
子供達の親がサンタの代わりをするもんだから、当然仕事は無かった。
あったとしても、ホンモノのサンタの存在を知っている人達からの、僅かな依頼をこなすだけだ。
それも年に一度だけ。食っていけるわけがなかった。
ハロワに行くときは歯軋りした。面接の時も歯軋りしたら落とされた。
床屋で「今日は仕事お休みですか?」と聞かれるのがたまらなく嫌だった。
年中休みだ、バカヤロウ、とは言えなかった。多忙だった日々を思い出して、鬱になった。
世間はサンタの存在を嘘ということにして、自分達の都合の良い存在に変えた。
ある時は教育の道具だった。
いい子じゃなくても、プレゼントは差し上げます。
ある時は客寄せの道具だった。
サンタが配達するのはピザじゃねえ。
挙句の果ては笑い者だ。
サンタを信じて何が悪い。
復讐心は段々と膨らんでいった。
俺はもう耐えられなかった。世間に復讐してやる、そう思った。我ながら短絡的だった。
夢を忘れた大人が、子供達に夢を与える。矛盾している。おこがましい。
夢を与えたのは誰だ、サンタだ。そのサンタを除け者にしたのはお前達だ。
ならば今度は悪夢を与えてやる。それが筋だ。
「クリスマスにはサンタがやってくる。」
来年からは、恐ろしい一文になるはずだ。

121 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:30:09.17 ID:nzTtsNdm0
('A`)「うー、気持ち悪い・・・」

景気づけに飲んだ酒は、予想以上に強烈だった。
何も考えずにガバガバと飲み、後で後悔した。
しかし復讐は今日じゃないと駄目なんだ。
ガンバレ俺。

両手合わせて、袋がふたつあった。
片方はボロボロの袋で、悲しくなるほどコンパクト。
もう片方はゴミ袋だ。復讐に使う道具なんだ、これで充分だ。
二つの袋をさっさと車に乗せ、自分も乗り込む。
キーを挿してエンジンをかける。今日は一発でかかった。
幸先がよろしい。

まずは本業を済まさなくてはならなかった。
とは言っても、配達はたったの二件。
他のサンタと手分けして配達することになっていた。
俺達は日本全国を担当しているので、この件数は日本に限った場合だ。
世界中の依頼を合わせれば、流石にこれほどまでにひどくはない。
それでも二桁を超えることは無いが。
悲しい。

('A`)「うし、行くかー」

ボロ車のアクセルを踏んだ。
ガリガリと嫌な音がした。

124 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:30:48.81 ID:nzTtsNdm0
インターホンを鳴らすと、体躯のいい男が出てきた。

('A`)「ちーす、サンタです」

(´・ω・`)「やらないか」

('A`)「は?」

(´・ω・`)「いや、何でもない、忘れてくれ」

とにかく俺は家の中へ招き入れられた。
家の中はひどく痛んでいた。
あまり裕福ではないのだろうか。
余計なお世話かもしれないが、内心で同情した。

男に案内された部屋には、だらしもなくいびきをかいている女の子がいた。
おそろしく汚いいきびきだったが、顔は随分と可愛らしい造りだった。

(´・ω・`)「あー、ウチの娘に妙なことをしたら、責任をとってもらうからな」

('A`)「え?は、はあ、責任ですか?」

いきなり何を言い出すんだ、この親父は。

(´・ω・`)「僕の婿になってもらう」

最早相手をする気にはならなかった。
さっさと仕事を済ませて、料金を頂いてから家を出た。


125 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:31:20.78 ID:nzTtsNdm0
時刻は一時を少し過ぎていた。ふと昔のことを思い出す。
まだプレゼントが残っているというのに、非情にも空が明るくなっていく様を見てひどく慌てていた。
懐かしさで全俺が泣いた。

去年の今頃は居酒屋で、店主の親父をぶん殴っていた。
その時は、来年はどこで飲もうかと真剣に悩んでいたが、今はその必要が無かった。
復讐という、酒よりも大事なイベントが残っている。
俺は車からゴミ袋を取り出した。黒い包装紙に包まれたプレゼントが
ぎっしりと詰まっている。詰めすぎたかもしれない。袋が僅かに破れている。
中から一つだけプレゼントを取り出し、ポケットにしまった。
辺りを見回す。一際派手な家を見つけた。
クリスマスに相応しい装飾品をふんだんにあしらっていた。
街中の一部分だけを切り取ってきたかのようだった。
こういう家には大抵子供がいるもんだ。
それもとびきり愛されている、甘ったれの子供が。
俺は手始めにその家を狙った。

128 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:32:11.27 ID:nzTtsNdm0
家の周りを一周する。
見つけた窓を片っ端から、鍵が開いていないかどうかチェックする。
一つだけ開いていた。ほんの少しだけ窓を開け、中の様子を窺う。
真っ暗なので、視覚では完全に把握することはできなかった。
耳をすませると、小さな寝息が聞こえてきた。人が寝ているようだ。
それ以外に人の気配は無い。チャンスだ。

('A`)「起きるなよ〜・・・」

静かに窓を開け、静かに部屋へ侵入する。
カーテンを少しだけ動かすと、月明かりで僅かに部屋の様子が見えた。
どうやら子供が眠っているらしい。少しばかり立派なベッドにかけられた布団が
膨らんだり萎んだりしている。そのタイミングに合わせるように、寝息が聞こえてくる。
俺は静かに、寝息の主の顔を覗いた。

('A`)「(ハッ、いかにも甘やかされてそうな顔だな)」

小太りで、キンタマのような口をしていた。
目はミミズが這っているような形で、寝ているのに笑顔のようだった。
変な顔だと思った。

130 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:32:42.42 ID:nzTtsNdm0
('A`)「(まー、笑顔でいるのはいいことだボウズ、これはおじちゃんからのプレゼントだ)」

内心で語りかけながら、そっと枕元にプレゼントを置いた。
これでよし。明日の朝になれば、ご両親は泣いているだろう。
ざまあみろ!と叫んでやりたかったが、それは明日か明後日くらいのニュースを見ながらでも構わない。
ここは黙って退散することにした。


不意に腕を掴まれた。
体が大袈裟に動き、上半身に静電気のようなものを感じた。
振り返ると、キンタマ口のボウズが笑顔で俺を見つめていた。

( ^ω^)「サンタさんだお!」

無邪気だった。
見知らぬ人間を前にした少年の台詞では無いように思えた。
それもそのはず、俺のことを本気でサンタだと思っているようだ。
しかしそれは幸運だった。適当に誤魔化してずらかろう。


132 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:33:35.81 ID:nzTtsNdm0
('A`)「こんばんは、ミキオ君」

( ^ω^)「僕はミキオじゃないお」

('A`)「黙れ、今のお前はミキオなんだ」

( ^ω^)「そんなの変だお!」

('A`)「プレゼントは欲しくないか?ミキオ」

( ^ω^)「はい、僕はミキオですお」

何て扱いやすい馬鹿。

('A`)「ようし、それじゃあミキオ君、その手を離してくれないかな」

( ^ω^)「その前にプレゼントくださいお」

('A`)「実はプレゼントはもう枕元に置いてあるんだ」

ミキオは俺が置いておいた黒いプレゼントを手にした。
急いでそれを手に取ると、フフフと笑った。

( ^ω^)「プレゼントは頂いたお、これでアンタの言うことを聞く必要はなくなったお」

腹の黒さに唖然とした。
末が恐ろしいガキだ。


133 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:35:19.86 ID:nzTtsNdm0
('A`)「あのねえ、サンタさんは忙しいの。頼むから離してちょーだい」

( ^ω^)「ていうかサンタさん、嘘はついちゃ駄目だお」

恐ろしいガキだと、改めて思った。
もうバレてしまったのか。しかしそれを認めるわけにはいかない。

('A`)「ウソジャナイヨー、ボクサンタダヨー」

( ^ω^)「そんなの知ってるお」

何だ、何が言いたいんだ。
不意に、ボウズが俺のプレゼントを突きつけてきた。

( ^ω^)「僕がお願いしたのはwiiだお
      こんな筆箱みたいなwiiは見たことないお
      騙そうったって、そうはイカのキンタマだお」

キンタマの口からキンタマという言葉が出てきたので、思わず笑い声をあげそうになった。

生憎、wiiほどのサイズのプレゼントは無かった。
そもそも俺の用意したプレゼントは、全てコンパクトなもので
誤魔化せるようなサイズは無かった。
俺は困った。いっそこの腕を振りほどいてやろうかと思ったが
そのせいでガキが騒ぎ出して、親が飛び込んできたりしては事だ。
まだ復讐は始まったばかりだ。騒ぎを起すのは避けたかった。
しかし、いつまでもここでいるわけにもいかない。
手を出すのは、いよいよという時だけにしておこう。


137 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:39:09.58 ID:nzTtsNdm0
俺があれこれと思案していると、またミキオが言葉をぶつけてきた。

( ^ω^)「サンタが子供から夢を奪っちゃ駄目だお!」

ミキオは、プレゼントを渡さない俺へのあてつけのつもりで言ったのだろう。
それでも、俺はミキオの言葉が強く頭に残った。
今の自分を責められているような気持ちになった。

サンタの仕事は子供に夢を与えることだった。
年に一度だけプレゼントをくれる、子供達の夢だった。
今はもう、その役目は大人に奪われてしまった。
その大人たちは、偽物の夢を子供達に与える。
それが憎ったらしくて、歯がゆくて、復讐を決意した。
同じだ。まるで同じだ。いいや、まだまだ俺の方が下劣だ。
復讐心にかられて、子供から夢を奪うようなことをしている。
大人たちへの憎悪だけで動いてた。
自分が情けなくなった。
今まで幸せにしてきた子供達を、今までサンタとして生きてきた自分を
裏切っているような気持ちになった。
それをミキオに言われたような気がした。

138 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:41:44.57 ID:nzTtsNdm0
('A`)「でも、どうせ、大人になればわかるんだ、サンタなんていないって」

自分を慰めるように言った。正当化にも似た慰めだった。
サンタが言う台詞ではないと思った。
しかし事実だ。子供は、大人になればサンタはいないということを知る。
厳密には、サンタはいないのだと知ったつもりになる。

ミキオは悲しげな表情をした、ような気がした

( ^ω^)「・・・みんなそう言うんだお、サンタなんていないって、サンタなんて嘘だって」

ミキオの声は、さっきとはうってかわって、悲しそうな声になっていた。

( ^ω^)「学校の友達も言うんだお。先生も言うんだお
      お父さんもお母さんも、近所のオバサンも
      僕は子供だって、馬鹿だって、そう言って嫌味に笑うんだお・・・
      サンタさんにまでそう言われたら、僕は自身を無くしてしまうお・・・」

サンタがそう言うのだから、サンタはいないと思うのが普通だろう。
しかしミキオは、どうしてもサンタを信じたいようだった。
皆に馬鹿にされても、サンタにサンタを否定されても、それでもサンタを信じていた。

( ^ω^)「僕は昔、ホンモノのサンタさんを見たことがあるお
      ピザを配達するやつじゃないお、お母さんやお父さんでもない
      ホンモノのサンタさんだお
      ソリには乗ってなかったけど、車に乗って、袋を持って・・・
      サンタがいないだなんて、それこそ嘘だお」

139 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:44:20.00 ID:oTog6ubj0
ミキオを見ていると悲しくなった。責任を感じた。
もうサンタは必要ないのだと悟った。
不本意でも、もうホンモノのサンタは消えた存在なのだ。
嘘になってしまった。なくなってしまった。
いつまでもありもしない夢を与えることは、それこそ酷な事のように思えた。
ミキオのように、消えた存在を信じ続ける可愛そうな子供を縛っているのは
他でもない、ホンモノのサンタだった。
サンタはもう、必要ない。

141 名前:ドクオサンタは復讐するようです 13/14:2007/11/26(月) 00:44:58.06 ID:oTog6ubj0
('A`)「悪いな」

( ^ω^)「え?」

('A`)「サンタは今日限りで廃業だ」

( ^ω^)「え?え!?」

('A`)「もうパパやママがいるだろう、サンタがプレゼントを届ける必要なんてないんだよ」

( ;ω;)「な、何でだお!サンタさんはまだまだ必要だお!
      大人にはできない、大事な仕事なんだお!」

('A`)「そのせいで、夢に縛られて大人になれない奴がいるからな
    例えばお前みたいな、な」

( ;ω;)「ぼ、僕のせいかお?」

('A`)「そうじゃない、誰も悪くない、大人になれば夢を忘れる、それだけだ」

( ;ω;)「僕はそんな人間にはなりたくないお・・・夢を忘れたくないお」

('A`)「駄目だ、そういう大人にならなくちゃ駄目なんだ
    お前がしがみつくのは夢じゃなくて、社会なんだ
    いつまでも子供じゃ駄目なんだ
    だから俺達は、邪魔しないように引っ込むだけだ」

( ;ω;)「嫌だお!わけわかんないお!サンタさんが好きな大人でもいいお!
      サンタさん辞めちゃ嫌だ!嫌だ!嫌だお!」

142 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:45:54.87 ID:oTog6ubj0
ミキオが騒いだせいだろう、廊下で足音がした。早足だった。
俺はミキオの持っていた黒のプレゼントをひったくった。
ラムネのお菓子が入ったプレゼントだ。
食えば死ぬ、助かってもひどく苦しむことになる。
そんな物騒な代物だった。
代わりにサンタ帽を被せてやった。最後のクリスマスプレゼントだ。
一瞬だけ、ミキオの声が止まった。

('A`)「メリークリスマス!」

お決まりの台詞を残して、俺は窓から逃げた。
すぐ後に女の声がした。ブーンと言っていた。
そうか、あの子の名前はブーンか。

143 名前:ドクオサンタは復讐するようです:2007/11/26(月) 00:46:36.66 ID:oTog6ubj0
面接では、やはり十数年間の空白について質問された。

(´・ω・`)「この間は、何をしていらっしゃったんですか?」

('A`)「サンタです」

堂々と答えてやった。俺のサンタとしての、最後の意地だった。
失笑を買った。嫌味な笑い声に、最後の意地も潰された。
これでいいのだ。サンタとは、そういうものだ。

('A`)「ありがとうございました!」

去り際に、大声で礼を言った。本心だった。
ようやくサンタともおさらばだ。実に清々しい。
帰りに、いつか殴った居酒屋の親父と出会った。
向こうは忘れていたようだが、すぐに思い出してくれた。
俺はあの時のことを謝った。
これでいいのだ。

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