189 ;1/15:2008/01/11(金) 04:38:42.12 ID:+GIq9TAc0
( ^ω^)「明日こそ……明日こそツンに告白するお!」

('A`)「へぇ。頑張れよ」

陽が傾き、茜色に染められた放課後の教室。

たった二人しか残っていない教室で、
だからこそその状況で、内藤ホライゾンは力の入った宣言をした。
それを聞くもう一人、周りからはドクオと呼ばれ親しまれている彼は、
どこまでも興味が無さそうに適当な相槌を打つ。

普段のドクオは友人想いであり、
例えば自分とは無縁に近い友人の色恋沙汰でも本気になって応援するような人間だ。
だが、何故か彼はやれやれとため息を吐く。

(;^ω^)「ドクオはまた失敗すると思ってるお……」

それもそのはずで、内藤ホライゾン、
通称ブーンは今まで幾度も告白の機会を逃してきたからである。

更にはその原因が彼自身の問題であることが、ドクオを呆れさせる最たるものだった。

('A`)「いいか、一度しか言わないからよく聞け。お前に足りないのは度胸だ」

(;^ω^)「その言葉、これで通算12回目だお……」

ブーンは何かを決断する毎にドクオに報告する。
最近ではもっぱら告白のタイミングのみだが、
つまりブーンは告白の機会を11回逃していることになる。

190 ;2/15:2008/01/11(金) 04:39:06.97 ID:+GIq9TAc0
さて、何故男二人がクラスメイトたち全員が出払うまで教室に残っているかと言うと、

从 ゚∀从 「よう。課題は終わったか?」

(;^ω^)「あ、高岡先生……。すいません、まだですお……」

('A`)「俺も」

冬休みの課題を三学期に持ち越していたからだ。

課題を終えてない自分の立場から教師にまで怯える様子は、成る程度胸が確かに足らない。

从 ゚∀从 「じゃあもう帰れ。もうじき陽も暮れる。あとは明日だな」

(;^ω^)「あ、良いんですかお?」

これまで二年、この時期に来れば約三年とも言える、
この高校では一番長い付き合いの教師に恐る恐る目を向けると、

从 ゚∀从 「なぁに、課題をやらずに困るのはお前らだからな」

目の前の生徒を一人前の人間として扱うスタイルを見せてくれた。

('A`)「じゃあさっさと帰ろうぜ」

( ^ω^)「わかったお」

いそいそと帰り支度を整え、数分で教室を後にする二人。

1913/15:2008/01/11(金) 04:39:33.21 ID:+GIq9TAc0
( ^ω^)('A`)「失礼します」

从 ゚∀从 「おう。気つけて帰れよ」

挨拶の後には、二人の生徒の代わりに一人の教師が静まり返る教室を独占していた。
出来の悪い生徒二人を帰らせる直前に受け取った課題を手に取り、
白紙に近いそれを捲りながら呟く。

从 ゚∀从 「……ったく、いつまでも学生気分じゃいられねぇぞ」

そこには居ない、一年生のときから面倒を見てきた生徒に呟くと、
彼女は戸締りの確認を済ませて教室を後にした。

192 ;4/15:2008/01/11(金) 04:40:03.03 ID:+GIq9TAc0
('A`)「だからな、お前に肝心なのはツンに告白する度胸なんだよ」

(;^ω^)「そういわれても……」

駅前のファーストフード店で、やたらと時間をかけてポテトを消化するブーンとドクオ。

角の席で向かい合いながら会話するのは彼らにとっての日常だ。
残り少ない学生生活。
あと何回、ここでこうして何も考えずにおしゃべりできるんだろう。

そんな事をぼんやりとブーンは考えていた。

('A`)「いいか、明日どんなことがあっても必ず成功させろ。
    もう時間なんてないんだぞ。当然機会も少ないんだ」

( ^ω^)「時間……。そうだおね。――明日こそ頑張るお!」

('A`)「その意気だ! ……て、毎回同じ話しかしてないな」

( ^ω^)「まぁ、同じのは今回のドクオの告白講座までだお。
       でも結果はいつもと違うはずだお」

('A`)「その言葉もいつもと同じだけどな」

茶化して、ドクオは目の前の紙くずを丸め込む。

それは二人の店を出る合図だった。

193 ;5/15:2008/01/11(金) 04:40:33.40 ID:+GIq9TAc0
('A`)「じゃ、明日は頑張れよ」

( ^ω^)「わかってるお。ばいぶー」

いつも通りの道でいつも通りの挨拶をしたあと、ブーンは自宅へと急いだ。

ただでさえ居残りをしたと言うのに、更には寄り道だ。

陽は沈み、驚くほど早く空の色は薄い藍色を敷き始めていた。
冷たい風が頬を叩く。二重に軍手をしていると言うのに、指先の感覚なんてほとんど無い。

極端な田舎と言うわけではなかったが、
元々人通りの少ない道は家路を急がせるのには十分だ。

中学の頃から六年近くの間愛用してきた自転車が、
小さな凹凸を踏むたびに申し訳無さそうなベルの音を響かせる。
時折少し離れた広い国道を走る車の音と小さなベルの音。

聞きなれているはずなのに、今の彼には酷く寂しく感じた。

194 ;6/15:2008/01/11(金) 04:41:02.21 ID:+GIq9TAc0
午後十時。
彼が夕食と入浴を済ませてから実に二時間近くが経過していた。

(;^ω^)「……」

彼の耳には静寂ばかりが届く。
家族たちは寝静まり、外からは一切の音が響いてこない。、
自室ですら時計の秒針のリズムと自身の唸り声、そしてかすかな暖房の稼動音しか響かないからだ。

その静かな部屋の中で、彼は己の頭で考えられうる最高の言葉を紡ごうと必死になっていた。
勿論、その言葉は想いを寄せる人――ツンに宛てたものだ。

経過した二時間のうち九割は唸るだけで過ぎていたが。

(;^ω^)「……中々思いつかないお」

この時世にラブレターは無いだろう。一度ドクオに言われた言葉だ。
当然彼にもそんなつもりは無いが、こうして言うべき言葉を文字として残しておかなければ、
相手の前で緊張、動転、動揺、錯乱、等どのような精神状態になるかわからない。

実際に彼が告白を出来ないで居るのは、単にこれだけの理由だ。

彼女を見たとき――それも告白をすると決断した時にだけ、何故か冷静さを失ってしまう。

そして結局、こんな醜態は晒せないと、自ら機会を逃してしまっていた。

195 ;7/15:2008/01/11(金) 04:41:25.21 ID:+GIq9TAc0
(;^ω^)「こんなんじゃ駄目だお……度胸……気合だお!」

ペンを握る指が震える。
それは寒さのせいだけではないだろう。

(;^ω^)「あと二ヶ月もしたらみんな卒業だお……それまでに決着をつけないと」

焦燥。
もう自分には時間が無い。
卒業をしてしまえば、もう彼女とは会えない――そんな漠然とした不安を胸にして。

卒業をする前に、どうしても自分の気持ちを伝えたいと願う。

願うだけでは実現しない。行動を起こさなければ、願いは結局願いのままなのだ。
その行動が起こせればどんなに楽なのか。
今までの自分の不甲斐無さから、彼は軽い自己嫌悪に陥っていた。

想いだけが募り、ペンは進まない。
ただ震えるだけの、寒い夜の事だった。

196 ;8/15:2008/01/11(金) 04:41:53.07 ID:+GIq9TAc0
けたたましい電子音で目を覚ます。
どうやらあれから眠ってしまったようだ。
時計を確認する前に、その音を止める必要があった。

外は暗く、深夜であることは変わりなかったからだ。
音の源は携帯。ディスプレイを見ると、親友の名前が表示されていた。
ためらう事も無く通話を開始する。

('A`)『悪い……寝てたか?』

聞きなれたはずのドクオの声は酷く枯れていた。
呼吸も少し荒いようで、電話越しでもわかる異変に疑問を覚える。
寝てる場合ではない時に寝てしまったのでむしろありがたかったと前置きし、
尋常ではない異変について問うことにした。

( ^ω^)「どうしたんだおドクオ。息が切れてるみたいだし声もおかしいお」

('A`)『ああ……ゴホッ、ちょっとまずいみたいなんだ……』

何がまずいのかと聞く前に、電話越しに酷く苦しそうに咳き込むドクオの様子に驚いて耳を澄ませる。
ここで騒いでもどうにもならないからだ。

それは十数秒の間続き、流石に素人でも分かるくらいに危険な状態だと判断して返答をさせない発言を投げかける。

(;^ω^)「大丈夫かお! 今救急車呼ぶから頑張るんだお!
       僕も今からそっちに行くから――!」

果たして、直ちに救急に連絡。
中学からの同級生の家なのだ。
説明にほとんど手間は掛からなかった。

197 ;9/15:2008/01/11(金) 04:42:17.00 ID:+GIq9TAc0
状況を伝え終え、すぐさま通学時に使用しているコートを乱暴に羽織り部屋を飛び出す。
家族には申し訳ないが、今はそんな事お構い無しだ。
靴を履きつつ、近くに放ってある二重の軍手を適当にはめると間髪入れずに外へ駆け出す。

思いがけない強風に面食らいながら一秒のロスも無く自転車に跨った時、あるものが視界に入った。

かつて祖父の乗っていた原付だ。
ドクオが遊びに来たときはいつもこれに乗ってみようという話をして、
どちらも免許が無いからと諦めていたものだ。

一秒迷った。だがそれで十分な葛藤だった。
玄関に戻り、再び外へ。跨ったことだけはある。転がしてみた事もある。
持ってきた鍵を差し込み、捻った。

( ^ω^)「……」

何も起こらない。二秒だけ彼は天国の祖父に祈った。
どうか無事にドクオの家まで行けます様にと。
ブレーキレバーを握り、アクセル側にあるボタンを押す。

かつて祖父が居た頃にほとんど毎日聞いていたプラグの点火音を、
彼は懐かしみながらアクセルを捻る。
現役から遠ざかっていたスクーターからは、頼もしいエンジン音が発せられた。

( ゚ω゚)「……待ってろお、ドクオ!」

198 ;10/15:2008/01/11(金) 04:42:47.18 ID:+GIq9TAc0
ほとんど車が通らない廃れた町が少しだけありがたかった。
何度か電柱や田んぼに突撃しそうになったものの、数百メートル進めば操作も慣れてくる。

普段の何倍ものスピードで進むあまり風は痛みを伴うほど冷たく、
二重の軍手程度では大した防寒にもならなかった。

それでも乾く目をこじ開け、寒さに耐えながらドクオの家を目指す。

普段からは比べ物にならないほどに早く到着した。
ドクオの家はそれなりに大きかったが、現在は両親が出張のため実質一人暮らしの様なものだった。

玄関のすぐ脇に原付を止め、躊躇い無く玄関へ向かう。
鍵が掛かっているという可能性が一瞬よぎったが、握ったドアノブは何の抵抗も無く受け入れてくれた。

( ゚ω゚)「ドクオ!」

家の中は生臭かった。鼻を突く臭いが充満している。異常なまでに。
通学用の革靴と運動靴の二足だけが置かれた玄関をまたぎ、一番近いリビングへと乗り込んだ。
見渡してもドクオの姿は無い。が――

('A`)「……よ、お」

リビングから壁一つ無く繋がるキッチンの片隅で、
異臭を放つ原因と共に弱りきったドクオを発見した。
食卓に両手を付き、今にも倒れそうな姿勢で迎えてくれる。
それを見て、ブーンは余計に焦る事になる。

199 ;11/15:2008/01/11(金) 04:43:36.44 ID:+GIq9TAc0
ドクオの姿勢もそうだが、口元には吐血でもしたように赤い液体がたれており、
拭ったのだろうか両腕の袖にも赤い染みが出来ていた。
ただでさえ白い顔は蒼白を越えて灰色になり、
床を見れば赤の目立つ嘔吐物が撒き散らされている。

そして、食卓の上には大量のギョーザが。

さきほどからこの家を満たしていた異臭の原因を突き止めたブーンは、
一先ずドクオをリビングのソファへと運ぶことにした。
保険で習ったとおり仰向けにせず、体をどちらか一方に向けて横にする。
('A`)「悪い……吐血したから来てもらおうかとおもったらさ……」

(;^ω^)「吐血どころの騒ぎじゃないお……」

('A`)「ゴホッゲホッ」

(;^ω^)「大丈夫かお? すぐに救急車が来るお……もう少し頑張れお」

('A`)「ああ……」

時折苦しむドクオの背中をさすりながら、ブーンはかすかなサイレン音を聞き逃さなかった。

(;^ω^)「きゅ、救急車が来たお! 分かり易いように呼んでくるお!」

その後、ブーンは原付のライトを自分に向け、道路に立って救急車を呼び込んだ。
すぐに救急隊がドクオの状態を確認し、流れるような作業で救急車へ運び込む。
その光景に圧巻されていたブーンだが、その過程でドクオの命に関わるような状況ではない事を聞いてやっと安心する。
そしてドクオの意見により同行を拒否された。

200 ;12/15:2008/01/11(金) 04:44:01.24 ID:+GIq9TAc0
(;^ω^)「大丈夫なのかお?」

('A`)「さっきの話聞いたろ? 命に別状はないし、心配するほどでもねぇよ」

(;^ω^)「でも……」

('A`)「それに、お前に徹夜させちゃまずいだろ?」

(;^ω^)「あ……」

そういえば、と彼は明日の事を考える。
明日は告白だ。
今まで何度も実行できずにダラダラと繰り返していた行動を、ドクオは優先してくれた。
またか、と一蹴されるような事でも、
自分にとっては大事なイベントであることを理解してくれている。

( ^ω^)「ありがとうだお。明日は必ず――!」

('A`)「その意気だ。足りないと思ってたけどよ、
    結構やるときゃやれるって事もわかったしな。つーか捕まるなよ」

( ^ω^)「え……?」

その意味を聞く前に、後部のハッチは閉じられ、救急車のサイレンが鳴り響き、大音量と共に走り去った。
サイレンの音が聞こえなくなった頃、ようやく彼は結論に達する。

( ^ω^)「あぁ……。度胸、かお」


201 ;13/15:2008/01/11(金) 04:44:25.73 ID:+GIq9TAc0
よくみれば、東の空に明るみが見えた。
その光は徐々に強さを増して空を照らし出す。

( ^ω^)「やれば出来る……かお」

ドクオの言葉を繰り返す。
そういえば、と、思い返すように、彼はあることに気づいた。
自分はいつまでも保守的で、
だから何をするにも踏ん切りが付かなかったということを。

告白もそうだ。
決して認識されていないわけではなく、
それなりに会話をする仲の想い人に対して、告白によって今の関係が崩れることを恐れていた。

卒業、進学、就職という人生のプロセスの中で、踏まなければならないステップに怯えていた。
通り過ぎて然るべき通過点に依存しようとしていた。

( ^ω^)「でも……吹っ切れたお……」


202 ;14/15:2008/01/11(金) 04:44:54.40 ID:+GIq9TAc0
( ^ω^)「時には後先考えずにガムシャラになるのも……少しくらいならいいおね?」

それは恐らく、ついさっきまでの自分へ、今の自分が送る言葉だろう。

( ^ω^)「……」

寒さを半ば麻痺した感覚で感じながら、綺麗な朝焼けを眺めていた。
冬の朝陽は、夏場のそれにくらべてかなり眩しいが、それでもかまわずに眺め続けた。

しずかな早朝。いつの間にか鳥たちが餌を求めて囀っている。

( ^ω^)「にんにく臭いお。もう帰ろう」

そして、来たときと同じように原付に跨り家路へと着いた。


203 ;15/15:2008/01/11(金) 04:45:35.12 ID:+GIq9TAc0
('A`)「ほれっ今だ」

(;^ω^)「いざ参らん!」

屋上へ続く階段の踊り場で、いつものように、それでいて少しちがうやり取りをした二人。
ドクオは簡単な検査の後、入院は無く薬だけを貰い何事も無かったかのように登校していた。
一方ブーンも、ちょっと眠っていたつもりが結構な時間寝ていたので寝不足にもならず元気だ。

この踊り場を抜け、屋上に出れば待ち望んだ彼女が待っている。
今まで踏み出せなかった一歩を、初めて彼は自分の意思で進めることになる。


( ^ω^)「ツン……さん……」

目の前には、彼の想い人。その後姿。
今まで求めてきた人であり、求めてきた機会である。
結果なんてどうでもいい。想いさえ伝えられれば。

彼の呼びかけに応じて、その人が振り向いた。

そして――――――







             -終わり-



 ※タイトルは無かったのでこちらで付けてあります
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