- 1 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 17:46:10.35 ID:m6any+Z60
風の噂に大学は気楽な場所だと聞いていた。
事実、二年上の先輩は、この地方では偏差値で最上位にランクされる私大に入り、
気ままなキャンパスライフを送っている。
しかし、大学生活は金が掛かるものだ。
大学生のアルバイトとして定番と言えば、やっぱり家庭教師だろう。
一応ではあるが国立大学に通う大学生という肩書きは、少なくとも高校生以下に対してはある程度の効力を持つ。
受験戦争を勝ち抜いたという勲章だ。
現在戦争真っ直中の高校生にとっては、眩しい存在であるのかもしれない。
最近知ったのは、その勲章がミュージシャン崩れのスタジオオーナーにも効力を発揮すると言うことだ。
〜( ^Д^)プギャーは背負っていくようです〜
- 3 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 17:48:47.74 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃーい」
洋風の一軒家から元気よく出てきたのは、俺の教え子であるミセリ。
十八歳高校三年生。身長は百五十センチ台で態度のでかさは二メートルオーバーの超高校級だ。
ミセ*゚ー゚)リ「ほらっ、早く入って! 寒いから」
( ^Д^)「あーい」
怒鳴るような言葉にうなずきながら、招かれるまま家の中に入る。
こいつの家庭教師を始めたのは、去年の四月だった。
大学に合格し、ちょうどバイトを探していた俺に、知人のスタジオオーナーが声をかけてくれた。
もちろん、その知人の男性がミセリの父親。
本名はシャキン、現在三十八歳。
- 6 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 17:52:09.69 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「コーヒー飲む?」
( ^Д^) 「すぐ出せるならもらう」
ミセ*゚ー゚)リ「アイスクリーム食べる?」
(;^Д^)「そんな時間あるのかよ。今何月か知ってるか?」
ミセ*゚ー゚)リ「十月」
( ^Д^)「今日から十一月だ、馬鹿」
ミセ*゚ー゚)リ「ばかって言うなっ!」
キッチンから大きな声が返ってくる。
ため息をつきながら、カバンから教材を取り出す。
正式な斡旋を受けて得た仕事ではないから、教材は全て自前だ。
半分は過去に自分が使ったもので、残り半分は習熟度を見ながら買い足していったものだった。
- 9 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 17:55:21.79 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「うっわー、もう準備してるしー」
コーヒーカップを二つ持って居間に戻ってきたミセリが、心底嫌そうな声で言った。
ミセ*゚ー゚)リ「ねー、少し休憩しようとか思わないの?」
( ^Д^)「働く前に休めるかよ」
ミセ*゚ー゚)リ「意外と律儀だけど心は狭そー」
( ^Д^)「でかすぎる態度よりはましだ」
ミセ*゚ー゚)リ「誰に雇われてると思ってるのよ」
( ^Д^)「少なくともお前ではない」
言って、コーヒーを一口飲む。
温度は少しぬるく味はやけに苦かった。
おそらく嫌がらせだろう。
- 10 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 17:58:46.82 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「宿題にしてた問題はやったか?」
一応仕事をしに来ている俺は、コーヒーを飲みつつそう尋ねる。
ミセリは、ぷい、とそっぽを向き、
ミセ*゚ー゚)リ「コーヒー飲み終わるまで勉強の話はしません」
(;^Д^)「お前なぁ……知ってるか? あと二ヶ月もたったらセンターだぞ?」
ミセ*゚ー゚)リ「あたし私学志望だし」
( ^Д^)「あそこもセンター必須だろうが」
ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃんの大学とは配点が違うもん」
(;^Д^)「……そうですか」
呟きながら、やけに苦いコーヒーをまた口に運ぶ。
( ^Д^)「……」
ミセリはお兄ちゃんと言った。
その言葉は俺とミセリの出会いが家庭教師を始める以前にあったことを示している。
- 12 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:03:48.58 ID:m6any+Z60
※
こいつと初めて顔を合わせたのは五年前の夏。
俺が高校一年の頃で……それは同時に、俺がバンドを始めた時期とも重なる。
きっかけはシャキンさんの一言だった。
(`・ω・´)「手はでかいな」
その人はいきなり俺の左手を掴み、そう言った。
ただでさえ初めてのスタジオで萎縮していた俺は、緊張で何も言えなかった。
バンドを始めたきっかけは、友人から借りたCDだった。
洋楽が好きでマイクを持ったら放さない性格のそいつは、CDを聞いたばかりの俺を軽音楽同好会の部室へ連行した。
そして、その場で俺のバンドへの加入が決まった(最初からパートはベースに決まっていた)
体よく罠にはめられた格好だが、それほど嫌だったわけではない。
むしろ未知の興奮に酔いしれていたと言ってもいい。
その興奮は初めてベースを触った十分後には消えていたが。
それまでこれと言った趣味を持たなかった俺は、あっさり音楽にはまった。
スタジオでその人……シャキンさんと顔を合わせたのは、その出来事から十日がたった土曜日の昼だった。
- 13 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:09:01.88 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「初心者か?」
シャキンさんは俺に聞いた。
俺は慌ててうなずく。
( ^Д^)「は、はいっ」
(`・ω・´)「よっしゃ。俺が教えちゃる。今から家来るか?」
(;^Д^)「……えっ?」
(`・ω・´)「用事でもあるか? どうする?」
(;^Д^)「え、えっと……」
(`・ω・´)「まぁいい。来てから考えろ」
緊張して真っ白になった俺の頭が色を取り戻したのは、シャキンさんの車に乗せられしばらくがたってからだった。
そんなこんなで、出会ったその日に俺はシャキンさん宅へ招待された。
そしてそこに当時十三歳のミセリがいた。
――…
―…
- 16 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:13:01.40 ID:m6any+Z60
※
ミセ*゚ー゚)リ「数学嫌い」
問題集に目をやりながら、ミセリが呟く。
だが、俺の記憶が確かならこいつは理系を志望しているはずだ。
( ^Д^)「学部変えるか?」
ミセ*゚ー゚)リ「いや」
( ^Д^)「数学嫌いならやっていけないだろ」
ミセ*゚ー゚)リ「現代文とか古文とかもっと嫌いだもん」
( ^Д^)「そうかよ。終わったか?」
ミセ*゚ー゚)リ「終わった」
( ^Д^)「じゃあ次はこれだ」
用意していた新しい参考書を渡す。
怒気のこもった視線で睨みつけられたが、気にしていたら勉強が進まない。
- 17 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:18:10.38 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「これ、すごく難しいんだけど」
( ^Д^)「二次対策だ」
ミセ*゚ー゚)リ「意味わかんない……お兄ちゃん、大学でこんなことやってるの?」
( ^Д^)「もっと難しいことだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「はぁ、何それ」
大袈裟なため息。
抜けかけた気を引き締めるため、後ろから頭を小突く。
( ^Д^)「真面目にやれ」
ミセ*゚ー゚)リ「わかってるけど……でも、こんな知識、何の役にもたたないでしょ?」
( ^Д^)「たつんだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、この問題解いたら何がわかるの?」
( ^Д^)「イチゴジャムの作り方」
ミセ#゚ー゚)リ「んあーっ!」
ミセリが壊れた。
- 19 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:22:12.85 ID:m6any+Z60
ミセ#゚ー゚)リ「なに!? なになになにっ!? お兄ちゃんもしかしてあたしで遊んでる!?」
( ^Д^)「楽しいのは楽しいぞ」
ミセ#゚ー゚)リ「最低っ! 人が真面目に勉強してるのに!」
( ^Д^)「真面目に勉強してる人間は口を動かさない。黙ってやれ」
ミセ#゚ー゚)リ「イチゴジャムなんて作れなくていいもんっ!」
( ^Д^) 「じゃあリンゴジャムか」
別の問題集を差し出す。
ミセ#゚ー゚)リ「ちょっと!」
叫んで、ミセリは立ち上がった。
どうやらしばらく仕事は中断のようだ。
添削中だったノートを閉じ、ボールペンのふたを閉める。
- 20 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:25:49.27 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「十分だけ休憩」
ミセ#゚ー゚)リ「知らない! 人のことばかにして!」
( ^Д^)「場を和ませるジョークだろ」
ミセ#゚ー゚)リ「明らかに人をばかにしておいて、よくもそんなことをっ……」
( ^Д^)「叫ぶ前に問題をやれ。こんなことじゃ、シャキンさん帰ってくるまでに終わらないぞ」
時計を見ると、時間は午後九時。
勉強を始めたのが八時過ぎだったから、こいつの集中力は一時間も続かないことになる。
シャキンさんの帰宅時間は不規則だが、十時前後になることが多い。
シャキンさんが帰ってきたらもう勉強どころではないのだから、今のうちにある程度は進めておく必要があった。
- 22 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:30:11.15 ID:m6any+Z60
( ^Д^) 「あと五分」
ミセ*゚ー゚)リ「……わかったわよ」
渋々と言った調子でうなずいて、ミセリは椅子に腰を下ろした。
それからだらしなくテーブルに突っ伏し、
ミセ*゚ー゚)リ「……一浪しようかな」
( ^Д^)「するなよ」
ミセ*゚ー゚)リ「どうしてよ」
( ^Д^)「俺の能力が疑われる」
ミセ*゚ー゚)リ「疑うまでもなくゼロよ」
( ^Д^)「お前の評価はどうでもいいんだよ。結果を出せ、結果を」
ミセ*゚ー゚)リ「また偉そうに……努力してるのは誰だと思ってるのよーもー」
- 23 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:32:37.34 ID:m6any+Z60
そう呟きたくなる気持ちは、痛いほどわかった。
俺だってあの熾烈な受験戦争をくぐり抜けた人間だ。
しかもミセリの志望する大学は偏差値にして5ほど俺の学部よりレベルが高い。
努力の量も俺よりは多いはずだ。
だからといって賛同したら今後の勉強に支障を来すから、口には出さないが。
ミセ*゚ー゚)リ「あー、もっと楽しい人生を送りたいー」
( ^Д^)「……!」
ミセリが言った。
それは何気なく出した一言だったのだろう。
だが俺の心は揺れた。震度で言うなら五強くらいは揺れたと思う。
慌てて開きそうになった口に手をやる。
ポケットから煙草を取り出し、当てつけのように火をつける。
- 24 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:37:19.36 ID:m6any+Z60
ミセリが俺を見た。
その視線を、気付かない振りをしてやり過ごす。
休憩時間だったはずの十分が終わる。
( ^Д^)「……時間だ」
ミセ*゚ー゚)リ「うー……」
煙草をくわえながら言うと、ミセリはさっきよりいっそう人相の悪い顔でこっちを睨む。
それでもペンを手に取った。
ほっとすると同時に、体中から力が抜けた。
- 25 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:40:50.83 ID:m6any+Z60
※
――初めてこの家に招待されたとき。
当時十三歳だったミセリは、俺を拒絶した。
(`・ω・´)「あー……悪いね、プギャー坊。あーゆーヤツなんだ、許してやってくれ」
シャキンさんは困ったようにそう言った。
当時の俺は意味もわからず、ただその場に立ちつくしていた。
(`・ω・´)「まだ半年たってないんだわ」
詳しい話はその日のうちに全て聞かされた。
今思えばシャキンさんは探していたのだろう、“あーゆーヤツ”と仲良くなれる人間を。
- 26 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:43:37.96 ID:m6any+Z60
大学生やフリーターのたまり場となっている音楽スタジオで中学生の娘につり合う存在を探したら、
どうしても素人の高校生に落ち着くだろうと思う。
年が離れすぎてもいけない、雰囲気にかぶれていてもいけない。
娘の成長を待っていたら手遅れになる可能性もある。
俺は必然ではなく偶然で選ばれたのだ。
(`・ω・´)「あの言い方はまずかったかな……ごめんな、いきなりこんな場所つれてきて」
( ^Д^)
「いえ……俺は大丈夫ですけど……」
シャキンさんはミセリに向かって、俺を新しい家族だと言って紹介した。
シャキンさんらしい、勇み足の失言だった。
理由を聞けば全て納得できた。
ミセリは母親を失った直後だった。さすがに死んだ原因まで詳しく聞いたわけではない。
シャキンさんはただ病気だと言った。
当時十三歳のミセリはどう思ったことだろう。
自分に置き換えて考えてはみたけれど、わからなかった。
俺の想像力に限界があったのだと思う。
- 28 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:46:39.21 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「何でもいいんだ。あいつと話してやってくれ。
殴られて怪我でもしたら、俺が責任取るからよ」
( ^Д^)「……はい」
後から考えれば、それは随分と無責任な責任だったが、当時の俺は素直にその言葉にうなずいた。
今考えればうなずく理由など見当たりもしないのに。
あれは同情だっただろうか。
幼くして母親を失った少女に対する憐憫? 今考えたってその理由はわからない。
ただ、現在のミセリが同情を嫌うであろうことはわかっていた。
最近、自分のミセリに対する態度が、当時の感情を否定するための行動に思えていた。
否定しなければならない理由を、俺が持っていたからだ。
- 29 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:56:09.16 ID:m6any+Z60
※
(`・ω・´)「プギャー!」
そんな声が響いたのは十一時を過ぎた頃。
ご主人のお帰りだ。
(`・ω・´)「プギャー! よく来たっ! 寿司食うぞ!」
( ^Д^) 「お帰りです。シャキンさん」
ミセ*゚ー゚)リ「うっわー、お父さんお酒くさぁ」
(`・ω・´)「んー、一人娘、その嫌そうな顔は何事だー」
ミセ*゚ー゚)リ「近寄らないでっ! 停学になるでしょ!」
(`・ω・´)「ならないって」
シャキンさんの帰宅を十時と予想していたおかげで、勉強はもう終わっていた。
勉強が終われば俺の仕事は終わりだ。
だが、シャキンさんの帰宅を待って家路につくのは、もうだいぶ前から暗黙の了解になっていた。
- 30 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 18:59:28.43 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっとお兄ちゃん、この酔っぱらいをどうにかして」
ミセリがそう言って、同族嫌悪の視線を俺に向ける。
ちなみに、この場合の同族とは俺とシャキンさんだったりする。
以前、シャキンさんに勧められるままに酒を飲み、完璧に潰れたことがある。その余波だ。
ミセ*゚ー゚)リ「ほらお兄ちゃんっ!」
叫ばれた。
ため息を付いて立ち上がり、ご機嫌なシャキンさんの肩を持つ。
( ^Д^)「シャキンさん、寝室行きますよ」
(`・ω・´)「おー、プギャー、いつもわりーなー」
( ^Д^)「気にしないで下さい」
言いながらシャキンさんを引きずり、階段に向かう。
全身が脱力しているものの、酔ったときのシャキンさんは素直だ。
泣き上戸でひたすらからみ続けた俺とは違う(ミセリ談)。
居間に続く戸を開け放ったまま、階段に足をかけた。
その時だった。
- 32 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:02:52.32 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「ペニサス!」
シャキンさんが叫んだ。
俺は思わず息をのむ。
ペニサスというのはシャキンさんの奥さん……
そして、ミセリの母親の名前。
(`・ω・´)「いねーなー……おーい! どーこだー」
(;^Д^) 「シャキンさん、ちょっと、それは……」
(`・ω・´)「プギャー!」
( ^Д^)「……はい」
(`・ω・´)「先に逝かれちまうってのは……寂しいもんだなぁ……」
( ^Д^)「……」
- 35 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:08:13.32 ID:m6any+Z60
シャキンさんはそれを最後に沈黙した。
ほとんど眠ったようなシャキンさんを寝室へ運び、ベッドに寝かせて布団を掛ける。
電気を消し、静かに部屋を出る。
( ^Д^)「ミセリ」
ミセリは俺に背を向けて椅子に座っていた。
( ^Д^)「……ごめん」
ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃんが謝ることじゃないわよ。何言ってるの?」
( ^Д^)「シャキンさんもさ……ほら、悪気はないから」
ミセ*゚ー゚)リ「あってもなくても別にいいわよ」
ミセリが俺に顔を向ける。
ミセ*゚ー゚)リ「もういなくなった人のこと考えたってしょうがないでしょ?」
( ^Д^)「それでも考えちゃうから辛いんだろ」
ミセ*゚ー゚)リ「そんな時期、もう終わったもん」
( ^Д^)「そうか……。じゃ、俺帰るわ」
呟いて、カバンを手に取る。
帰ると言いつつ、どうにも帰りにくい雰囲気だった。
- 38 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:11:29.64 ID:m6any+Z60
こんなことは初めてではない。
シャキンさんは別に完璧な人間じゃない。
酔えば弱さも見せるし、酔っていなくたって少なくとも完璧ではない。
ミセリはどうだろうか。
昔のミセリは違った。
俺と出会ってすぐの頃のミセリは、その年齢を考えれば異常なほどシャキンさんに依存していた。
そしてシャキンさん以外の他者を拒絶した。
ミセリの態度は徐々に軟化した。
俺がそれに気付いたのは、軟化がだいぶ進んでからのことだった。
そして同時に、ミセリが他者に対して明確な壁を作っていることにも気付いた。
……気付いたときに、すでにそれは強固に構築されたあとだった訳だが。
- 40 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:15:08.33 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「どうしたの?」
ミセリに尋ねられる。
苦笑しながら首を振り、
( ^Д^)「何でもない。……また来週な」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。バイバイ」
( ^Д^)「……じゃあな」
追い出されるように家を出た。
いつものことだ。もう、慣れている。
- 42 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:18:18.48 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「ふぅ……」
外はもう暗闇に包まれており、月の光と街灯だけが辺りを照らしていた。
煙草を吸いながら、思考を巡らせる。
――傷に触れないことで守られるものはどれだけあるだろうか。
痛みや苦しみか?
それは守るに値するものだろうか?
俺は、大切な人を失った経験なんてない。
両親は健在、祖父母も元気いっぱいだ。
俺が安心して煙草を吸い始めた理由が、実はここにある。
兄弟は下に一人、生意気なのがいるだけだ。
あいつは人生楽しめればそれで満足なタイプの人間だから、たぶん俺以上に長生きすることだろう。
敵も味方も大勢作るタイプの人間だ。
……ミセリはどうだろう。
- 44 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:23:17.07 ID:m6any+Z60
あいつは敵も味方も能動的には作ろうとしないだろう。
割合で言えば敵の方が多いかもしれない。
味方は拒否するだろう。これは推論ではなく結果だ。
大切な人を失った経験はない。
ただ、大切にしたい人に拒絶された経験はある。
それは思いのほか辛い経験だった。
じゃあ失うことはどうだろう。
( ^Д^)「……わかんねぇな」
想像も出来なかった。
夜空を見上げ、深いため息をつく。
( ^Д^)「俺は……どうしたいんだろう」
俺の持つ感情が同情ではないその言い訳を作ろうと努力しながら、結局、何も出来ないままだった。
ミセリのセンター試験が終わる頃には、もうほとんど諦めていた。
- 46 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:25:32.26 ID:m6any+Z60
※
(`・ω・´)「プギャー」
シャキンさんが日本酒のビンを持ってやってきた。
時間は午後九時。
今日はお早いお帰りだった。
(`・ω・´)「飲むぞ」
(;^Д^)「いや、ちょっと待ってください。俺は教師です。
酒飲みながら教壇に立つ教師はいませんよ」
(`・ω・´)「そんな細かいこと気にするな」
(;^Д^)「気にしますって。ミセリもセンター終わっただけで、本番はこれからなんですから」
(`・ω・´)「諦めろ、プギャー」
何を諦めるのか全く理解できない。
- 47 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:29:14.52 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「あと一時間待ってください」
ミセ*゚ー゚)リ「……酒くさ」
言いながらミセリに目をやる。
疲れた表情でペンは止まっていた。
( ^Д^)「それからシャキンさん、飲むなら寝室で飲んでください」
(`・ω・´)「なぁんだ、プギャー。お前にとってベースの師匠は誰だっけ?」
( ^Д^)「T・M・スティーブンスです」
(`・ω・´)「……」
(;^Д^)「ジョークですよ。ほら、ミセリのやる気が急降下してますから」
そう言ってシャキンさんを居間から押し出す。
- 48 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:31:58.66 ID:m6any+Z60
背中を押して寝室まで強制的に連れて行った。
( ^Д^)「すぐ同席させてもらいますから」
(`・ω・´)「つれないなー。ミセリなら合格するだろう?」
( ^Д^)「あいつの志望大学、結構レベル高いんです。
邪魔したらまた怒られますよ」
(`・ω・´)「ミセリ最近つれないんだよなー」
(;^Д^)「そんな余裕ないですって」
時計を見てため息をこぼす。
この家には俺の仕事を邪魔する人間が二人もいる。
片方が依頼人で片方が仕事相手なのだからどうかしてる。
- 50 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:34:58.60 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「プギャー、彼女はできたか?」
(;^Д^)「……はい?」
突然、全く脈絡のないことを聞かれる。
シャキンさんはグラスの日本酒を勢いよく飲んで、
(`・ω・´)「ミセリはどうだ? あれで結構いい女だろ」
(;^Д^)「い、いや……その、どう、とか言われても……」
(`・ω・´)「あいつ最近冷たいんだわ。近付けば近付くほど温度下がる。
なぁ、プギャー。どうにかできねぇか?」
( ^Д^)「……昔失敗したじゃないですか」
あれはミセリが中三だった年のことだ。
あいつの誕生日に、予告無しでパーティを開いた。
出席者は俺とシャキンさん。
渋々パーティには出席したミセリは、しかし、俺の買ったプレゼントの受け取りを拒否した。
それは想定したいたよりも、ずっと大きな拒絶だった。
- 52 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:39:38.19 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「嫌われてるなんて思ってませんよ、俺も。でも、必要とされてないこともわかりますよ」
(`・ω・´)「あいつに仮託するな。プギャーはどう思ってんだ?」
( ^Д^)「……五年前の俺は同情しているように見えましたか?」
尋ねると、シャキンさんは真剣な表情で口を閉ざした。
( ^Д^)「考えてるんですよ……最近ずっと。
俺はそんなに深い人間じゃないし、これといって特別に強いわけじゃない。
だからあの時、シャキンさんの言葉にうなずいたのは、たぶん同情ですよ」
ため息をつき、続ける。
( ^Д^) 「だって俺知りませんでしたから。何かを失った人間に会ったのは、あの時が初めてだったんです。
……同情から始まってるんですよ、俺の気持ちは」
(`・ω・´)「今はどうだ?」
( ^Д^)「言い訳考えてみたけど……見つかりませんでした」
(`・ω・´)「諦めたのか」
( ^Д^)「諦めかけてはいます」
(`・ω・´)「そうか」
微笑んで、シャキンさんは大きくため息をこぼした。
- 54 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:43:25.82 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「考えてみりゃ、あいつが大学に入れば、プギャーがこの家に来る理由も無くなるわけだしな」
( ^Д^)「あぁ……そう、ですね……」
(`・ω・´)「なんだ? 今気付いたのか?」
( ^Д^)「あ、まぁ……」
自分に少し呆れた。
こんな関係でも、いつまでも続けばそれでいいと思っていた。
( ^Д^)「……下行きます」
(`・ω・´)「もう少しよく考えろや」
( ^Д^)「考えますよ。……きっと、延々と」
(`・ω・´)「そうか」
( ^Д^) 「じゃ、またあとで」
(`・ω・´)「早く来いよ」
シャキンさんは手をあげて俺を送り出した。
それから部屋のコンポの電源を入れる。
八十年代、世界を席巻したヘビーメタルの大御所の代表曲。
重い低音が壁を通して外に漏れていた。
- 57 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:51:48.84 ID:m6any+Z60
- ( ^Д^)「……お待たせ」
居間に戻ってくる。
ミセリは、一応、参考書に目を向けていた。
俺が入ってくるのを見ると、不意に椅子から立ち上がり、それから自分の顔を俺の顔に寄せる。
思わず赤面した俺の口元にミセリは鼻をよせ、
ミセ*゚ー゚)リ「……飲んでないでしょうね」
(;^Д^)「お前なぁ……当たり前だろうが。これでも立場はわきまえてる」
虚勢を張りながら答える。
ミセリは満足そうにうなずくと、
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ許す」
( ^Д^)「何も悪いことしてねぇよ」
ミセ*゚ー゚)リ「そういえば、今度ライブやるんだって?」
椅子に座ったミセリが、そう尋ねる。
ミセ*゚ー゚)リ「来週の土曜日」
( ^Д^)「あぁ……そんなもん、一月に一回はやってるんだ。別に珍しくもないだろ」
- 59 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:55:39.12 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「見に行っていい?」
( ^Д^)「……お前は阿呆か?」
ミセ*゚ー゚)リ「アホって言うなっ!」
至近距離で叫ばれる。
思わず目を閉じた。
ミセ*゚ー゚)リ「いいじゃない。気分転換に」
( ^Д^)「時間は大丈夫なのか?」
ミセ*゚ー゚)リ「一日サボって落ちるようなら、サボらなくても落ちるわ」
(;^Д^)「そりゃそうかもしれんが……」
ミセ*゚ー゚)リ「はい、許可」
(;^Д^)「いや……待てこら」
ミセ*゚ー゚)リ「さぁ勉強しよーっと」
ミセリが参考書と向き合う。
二週間後に本試験を控えた身として、せめて体裁を繕うと言う発想はわいてこないのだろうか。
- 61 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 19:59:45.69 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「あ、そうだ」
ミセリが振り向く。
( ^Д^)「なんだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「ライブ、お父さんも行くから」
( ^Д^)「……はっ? 大学関係のライブだぞ? どうしてシャキンさんが――」
ミセ*゚ー゚)リ「お父さんに誘われたの」
あのダメ親は何をしたいんだ。
ミセ*゚ー゚)リ「そういうことだから。ねっ、この問題わからない。教えて」
( ^Д^)「……あーいあい」
この時の俺は信じていなかった。
誰だって信じないだろう。
受験生の子を持った親が、その受験生を連れて(しかも二月だ)ライブを見に来るなんて。
普通の感覚で考えれば親も子もどうかしてる。
そして、この人達は本当にどうかしていた。
- 63 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:02:59.87 ID:m6any+Z60
- ※
初めてシャキンさんに対してタメ口を使った。
( ^Д^)「あんたはなに考えてるんだ」
(`・ω・´)「あん? なんだ、プギャー」
(;^Д^)「あ、すいません。思わず心の叫びが……」
大学の試験は二月の頭。
そんな時期に俺の所属する軽音のお偉方はライブを企画した。
今現在、このライブハウスにいる面々のほとんどはお馬鹿さんだ。
最近は頭痛の種ばかりが増えていく。
- 64 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:05:19.74 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「プギャー、順番は何番だ?」
( ^Д^)「大トリを控えたトリですよ」
(`・ω・´)「ブービーか」
( ^Д^)「ポスターでは確かに下から二番目に名前がのってます」
ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃん、緊張してるでしょ」
ミセリに聞かれる。
だが、この質問は、別に根拠があっての質問ではないだろう。
( ^Д^)「しねぇよ。もう慣れてる」
ミセ*゚ー゚)リ「慣れてないわよ。だって初めてでしょ?」
(;^Д^)「はぁ? ライブなんて高校時代から腐るほどやってるっての」
ミセ*゚ー゚)リ「その時は、客席にあたしはいなかったでしょ?」
( ^Д^)「……」
なるほど、とうなずいた。
ミセリらしい身勝手な根拠だ。
- 65 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:07:56.88 ID:m6any+Z60
m9( ^Д^)「お前ごときじゃ緊張しねえよ。プギャーww」
ミセ#゚ー゚)リ「な、なによそれ!」
狭いライブハウスに、ミセリの声は大きく響いた。
客、出演者、裏方……おそらくはこのライブハウスある全ての瞳がこちらを向く。
だがミセリは、そんなことは気にもとめず、
ミセ#゚ー゚)リ「お父さんっ。お兄ちゃんがこんなコト言ってる!」
(`・ω・´)「プギャー、俺の娘を愚弄する気か?」
(;^Д^)「あの……シャキンさんまで悪のりしないでください」
(`・ω・´)「わははっ。ジョークだ、ジョーク――っと、始まるみたいだな」
室内の照明が落ちた。
弱いライトをあびたステージで、人影がうごめく。
それから一分ほどで演奏は始まった。
二人の目がステージに向けられたのを確認して、俺は客席をあとにした。
- 66 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:12:00.97 ID:m6any+Z60
――――…
――…
見慣れない若い女がいたせいか、控え室では散々からかわれた。
シャキンさんを知っているはずのバンドメンバーは、誰一人として味方してくれなかった。
ダウナーな気分のまま演奏に突入。
当てつけのようにタイトなピッキングで攻め続けたら、演奏後、シャキンさんに真面目に怒られた。
……怒る前に原因を考えて欲しい。
そして、説教ついでというわけでもないのだろうが、何故かこんなことになっていた。
(;^Д^)「……打ち上げはどうした」
ライブハウスの片付けが終了してから十分後、本来なら打ち上げ出席中の時間。
俺は暗い夜道を歩いていた。
隣にはミセリ、シャキンさんはいない。
- 67 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:15:01.14 ID:m6any+Z60
(;^Д^)「打ち上げは――」
ミセ*゚ー゚)リ「お父さんが代理で参加してるじゃない」
(;^Д^)「……」
ミセリの答えは確かに正しい。
でもそれはどうだろうと俺は思う。
ミセ*゚ー゚)リ「お父さん、最近ステージに上がってないから、うずうずしてるのよ」
( ^Д^)「だったら上がればいいだろうに……」
ミセ*゚ー゚)リ「いいじゃない。可愛い女の子と一緒に歩けるんだから。襲うなら今がチャンスかもよ?」
( ^Д^)「……」
ミセ*;゚ー゚)リ「あーっ! うーそー! ごめんなさいっ!」
立ち止まって迫ったら悲鳴を上げられた。
せめてこれくらいの憂さ晴らしをさせてもらっても、罰はあたらないだろう。
- 68 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:17:20.38 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「もうっ。なんか今日、お兄ちゃん苛々してない?」
( ^Д^)「帰ったら勉強するぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「えーっ!?」
大袈裟な拒否反応。
まぁ、この疲れた体で勉強する気にもなれなかったから、それ自体は構わないが。
( ^Д^)「……頼むから合格しろよ」
煙草に火をつけながら言う。
( ^Д^)「これで落ちたら、俺が落としたみたいだ」
ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫。それくらいわかってる」
( ^Д^)「だったらいい」
二月の夜風は冷たかった。
体が資本の受験生、こんな冷たい風に当たってて平気なのか?……とも思った。
が、そこまでは面倒見きれない。
知識が足りていないならともかく、相手が病気なら気力でカバーも出来る。
- 70 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:19:53.16 ID:m6any+Z60
何となく無言のまま、十分ほど歩く。
家までもう少しという場所で、ミセリは口を開いた。
ミセ*゚ー゚)リ「試験の日、会場まで送ってくれない?」
(;^Д^)「……はぁ?」
思わぬことを頼まれた。
全く予想していなかった言葉だ。
呆けた俺の顔を見て、ミセリは小さく笑い、
ミセ*゚ー゚)リ「送迎付きプラン、ミセリ様ご一行ご招待、みたいな」
( ^Д^)「一人じゃねぇか」
ミセ*゚ー゚)リ「サービス業なんだから、それくらい妥協しないと」
俺は学生だと言いたかったが、それとは別の言葉を口に出す。
( ^Д^)「不安だったりするのか?」
ミセ*゚ー゚)リ「まさか」
答えは明確だった。
- 71 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:24:23.00 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「自信満々のところを見せたいじゃない」
( ^Д^)「見たくねぇよ」
ミセ*゚ー゚)リ「それくらい責任あるでしょー。あたしの先生なんだから」
( ^Д^)「不安ならついていってやるぞ」
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあいらない」
( ^Д^)「わかったよ」
うなずくしかなかった。
頼られているなんて思った自分が馬鹿だったのだろう。
( ^Д^)「正門までだぞ。中入るのは恥ずかしいから」
ため息混じりに言う。
ミセリはうなずき、
ミセ*゚ー゚)リ「それで十分」
- 73 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:29:43.24 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「どこで待ってりゃいい?」
ミセ*゚ー゚)リ「行きは地下鉄の駅前。帰りは正門前」
( ^Д^)「はいはい……んじゃ、待ってます」
ミセ*゚ー゚)リ「よろしくー」
無邪気に笑って、ミセリは立ち止まる。
家の前だ。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃーねー。今日はありがと」
( ^Д^)「次からはシャキンさんと帰れよ」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。……あっ、ねぇねぇ」
( ^Д^)「あん?」
ミセ*゚ー゚)リ「今日のお兄ちゃん、ちょっとかっこよかったよ」
( ^Д^)「……はっ?」
ミセ*゚ー゚)リ「勉強教えるよりベース弾く方が似合うね。
あ、でも来週遅れたら怒るよ? 最後なんだから。じゃ、またねー」
ミセリは何事もなかったように家に入っていく。
……俺はしばらく歩き出せなかった。
- 76 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:33:51.80 ID:m6any+Z60
( ^Д^) 「……あーもー」
頭をかきむしった。
苛立ちを全て痛みで忘れたかったが、それは消えることはなかった。
これだけ苛々しているくせに何も言い出せない自分が何より腹立たしい。
( ^Д^)「くそっ……」
吐き捨てて歩き出す。
立ち止まっていたって何も変わらない。
変わらないけれど、それでも立ち止まった。
本当は家の中まで追いかけて叫んで抱きしめて抱きしめて抱きしめてキスしたかった。
でもそれじゃ犯罪者だ。
表層上の俺自身はくだらなく思えるくらい冷静だった。
気まぐれだ、全部。
ミセリらしい気まぐれ。
その証拠に拒絶されたじゃないか。
昔ほど辛辣ではないけれど、それでも確かな拒否の言葉を。
- 77 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:37:06.65 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「……あほくさい」
忘れよう。この想いも、全て。
こんなもどかしい思いをずっと持っていたら、いつか溢れ出してしまう。
――――溢れ出したら、きっと止まらないから。
( ^Д^)「……帰ろ」
俺は煙草を取り出し、家へと歩き出した。
吹き付ける風は、やはり冷たかった。
- 78 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:39:58.76 ID:m6any+Z60
- ※
試験まで残り二日。
俺が家庭教師としてこの家に来る最終日。
ミセ*゚ー゚)リ「あーもーこんな問題やって何がわかるのよー」
( ^Д^)「ジンギスカンの作り方」
ミセ#゚ー゚)リ「出来ないっ!」
( ^Д^)「じゃあ本格キムチ鍋の作り方」
ミセ#゚ー゚)リ「聞いてもいないっ!」
いつもと変わらないやり取り。
非常に不安だったが、これがいつもの姿なのだからしょうがない。
- 80 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:43:43.63 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「もう、なんか飽きてきた」
( ^Д^)「黙ってやれ」
ミセ*゚ー゚)リ「なによー。教えてよー。先生でしょー」
( ^Д^)「お前に教えることはもう何も無い」
ミセ*゚ー゚)リ「あるわよっ!」
叫んで、ミセリは俺の前に立つ。
ミセ*゚ー゚)リ「ちょっとお兄ちゃん、ベース弾いて」
(;^Д^)「はぁ?」
ミセ*゚ー゚)リ「弾き語りして」
(;^Д^)「お前……アホか? そんな場合じゃ――」
ミセ*゚ー゚)リ「弾いて」
有無を言わさぬ口調で言って、ミセリは歩き去った。
居間を出、階段を上る足音が響く。
そして戻ってきたとき、シャキンさんのベースをその手に持っていた。
- 81 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:46:12.57 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「弾いて」
(;^Д^)「いや、だから……」
ミセ*゚ー゚)リ「弾いてよ」
( ^Д^)「……」
根負けした。
ため息と共にベースを受け取り、椅子に座る。
ベースの弾き語りなんて、滅多に見かけない。
それでも出来ないわけではない。曲を選べば十分に可能だ。
曲を選ばなくなったら、天才の領域だろう。
( ^Д^)「一曲だけだぞ」
そう言って弾き始める。
ギターを弾くようなスリーフィンガースタイル。
音量の小さい低音は聞き取りにくい。
それでもメロディとバッキングという要素を同時に成立させながら旋律は流れていく。
二分ほどで曲が終わる。
- 83 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:50:41.97 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「これでいいか?」
尋ねると、ミセリははっきりと首を振った。
ミセ*゚ー゚)リ「よくない」
( ^Д^)「なにがだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「Bメロのミュートがルーズだった」
(;^Д^)「お前……そんな技術屋みたいなこと――」
ミセ*゚ー゚)リ「今日、怒ってるでしょ」
( ^Д^)「……」
- 85 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 20:55:18.53 ID:m6any+Z60
真っ直ぐに聞かれた。
怒っている……そうだ、それはその通りだ。
本当はわかっていたんだ。
この気持ちが、簡単に諦められない物だと。
あの時のように、拒絶されるのを恐れていることを。
それでも
それでも、もう耐えられそうにない。いや、本当は限界なんて超えていた。
同情? それだって構うものか。
言い訳なんてもうどうでもいい。探すのは諦めた。
理由なんていらない。あの時の俺が側にいることを選んだ、それが選択で結果だ。
俺は今何を思う?
この気持ちだけで十分だろ。
違うか?
( ^Д^)「……ミセリ、俺は」
ミセ*゚ー゚)リ「やめて」
即答。
まるで予期していたかのように。
- 89 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:02:24.76 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「俺はお前のことが――」
ミセ*゚ー゚)リ「そういうのやめて。あたし以外の人にして」
はっきりとした拒絶。
それでも、俺の気持ちは止まらない。
( ^Д^)「それでも、お前が好きなんだ」
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ諦めて」
完全に、俺の気持ちは壁にぶち当たってしまった。
……諦めろといわれて、はいそうですかと諦めるほど、潔くは無い。
今まで積み上げてきた関係が崩れ始める。
それでも、ミセリが抱えている壁を壊すには、突破するしかないんだ。
( ^Д^)「……お前は一生そうやって生きてくつもりかよ」
尋ねると、ミセリの表情は僅かに変化した。
- 90 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:06:15.35 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「前に言ってただろ、もっと楽な人生送りたいって。簡単だよ。他人に頼れよ。
ほんの少し心を許す、それで全部問題は解決だろ」
ミセ*゚ー゚)リ「解決しないよ。お兄ちゃんがあたしを嫌いになったら? 就職して引っ越ししたら?
事故で死んじゃったらどうするの? あたしはまたお父さんに頼るの?」
( ^Д^)「俺は死なない」
ミセ*゚ー゚)リ「そんなの嘘でしょ!」
ミセリは叫んだ。
憎しみのこもった視線で俺を見る。
ミセ*;ー;)リ「だってお母さんはいなくなったよ。死んだよ? もう帰ってこないよ。
あたし、彼氏なんていなくなったらすっごく泣くよ? もう泣きやまないくらい泣くよ。
それ、お兄ちゃんの責任になるんだよ?」
ミセリの言葉につられるようにして、昔のことを思い出す。
確かにあの時のミセリはそうだった。
いつ泣きやむとも思えなかった。いつも泣いているように見えた。
シャキンさんがいなかったらどうなっていた?
そんなこと想像もしたくない。
じゃあ俺はどうだ?
- 92 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:08:19.46 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「……背負えってんなら、何だって背負うっつーんだよ」
ミセ*;ー;)リ「絶対の保証はないじゃない!」
( ^Д^)「そんなもん考えて生きていけるか」
ミセ*;ー;)リ「あたしは考えてる。いっつも考えてるよ。もうお父さんに迷惑かけたくないよ。
だったら傷つかないようにすればいいんだよ」
( ^Д^)「それは違う」
確信をもって答える。
シャキンさんがあの頃、そんなことを考えていたと思っているのか?
( ^Д^) 「迷惑が重荷に感じない人間ってのもいるんだよ。
シャキンさんがそんなことを言ったか?」
ミセ*;ー;)リ「……お父さんはたまにベースを嫌いになるよ。全然弾かなくなる。
触ろうともしないよ。普段あんなに楽しそうにしてるくせに。人間関係だってそれと同じじゃない?
お兄ちゃんだってそうでしょ? 見るのも嫌になることあるでしょ?」
( ^Д^)「……」
すぐに答えが出てこなかった。
それは確かに真実だったからだ。
- 93 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:13:59.80 ID:m6any+Z60
ミセ*;ー;)リ「帰って。勉強するから」
( ^Д^)「……」
ミセ*;ー;)リ「帰って」
全身で拒絶されていた。
もう俺の気持ちが入る余地は無いくらい、壁は積み重ねられている。
冷静に考えている自分が笑えた。
これから何ヶ月か、俺はベースを手に出来ないだろう。
カバンを持って立ち上がる。
( ^Д^)「……邪魔して悪かった」
ミセ*;ー;)リ「帰って」
( ^Д^)「わかったよ」
- 96 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:17:01.45 ID:m6any+Z60
本当は知っていたはずの場所で、結局、跳ね返される。
わかっていたはずだ。
じゃあ何故こんなことを?
可能性があるとでも思ったのだろうか。
少しはミセリが変化したとでも?
……違うな。
たぶんこれは、ただの自己満足だ。
本当に……音楽と同じだ。
( ^Д^)「頑張れよ、試験」
惨めな捨て台詞を残して、俺は家を出た。
――――…
――…
- 97 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:22:05.38 ID:m6any+Z60
- ※
二日後、最後の自己満足に身を浸した。
( ^Д^)「……寒ぃなー、チクショウ」
朝、お供の待ち合わせに指定された駅前で二時間。
当然、ミセリは来なかった。
避けられているんだ。来るはずが無い。
( ^Д^)「……」
夕方になると、今度は正門の前で延々と立ち尽くす。
見慣れない煉瓦調の門に背を預け、煙草を何本も吸った。
ミセリは来なかった。別に不思議なことじゃない。
俺が知らないだけで、門はいくつもあるだろう。
それでも待っていた。
馬鹿みたいに、冬の風をもろに浴びながら。
それは自分に対して嘘を真実だと信じ込ませる行為に似ていた。
錯覚したいんだ。まだ終わっていないと。
- 100 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:25:46.06 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「プギャー」
八時を過ぎた頃になって、シャキンさんが現れた。
俺とミセリの間で何があったか知っているのだろう。
申し訳なさそうな顔でシャキンさんは言った。
(`・ω・´)「悪かったな。……俺が余計なこと言わなけりゃ」
( ^Д^)「シャキンさんのせいじゃないです」
(`・ω・´)「ミセリは来ねぇよ」
( ^Д^)「知ってます、それくらい」
立ち上がる。
コートの背に付いた埃を落とし、もう何本目かもわからない煙草をくわえる。
- 101 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:27:49.84 ID:m6any+Z60
(`・ω・´)「酒でも飲みに行くか? 今日は何だって奢るぞ」
( ^Д^)「いいですよ。……かっこわるいじゃないですか」
(`・ω・´)「こんな時くらい――」
( ^Д^)「あいつに言付け、頼んでいいですか?」
シャキンさんの答えを遮って、煙草に火をつける。
大きく一回息を吸って、
( ^Д^)「寒かった……って、伝えてください」
(`・ω・´)「あ、あぁ。わかっ――」
( ^Д^)「それから疲れたって」
(`・ω・´)「……プギャー?」
俺は大きく息を吸う。
- 103 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:31:29.15 ID:m6any+Z60
( ^Д^) 「眠くて暇で手はかじかんで……」
なんでだろうな。
( ^Д^)
「煙草の吸いすぎで喉は痛くて受験生には変な目で見られて……!」
それでも、俺が待っていたのは
( ^Д^)
「駅員のおっさんには職質されて買ったばっかのコートは汚れて……!!」
馬鹿みたいに、待ち続けていたのは――――
( ^Д^)
「挙げ句の果てにゃ野良犬にからまれて、もう何が何だかわからねぇって」
(;`・ω・´)「お、おい、ちょい待――」
( ^Д^)「……それでも、お前のことが好きだって」
- 105 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:34:16.56 ID:m6any+Z60
煙草をかじかんだ指先で握りつぶす。
( ^Д^) 「何一つ背負わせてくれなくてもいいから好きだって……伝えてください。
それ忘れたらぶっ飛ばすぞって」
(`・ω・´)「……わかった」
( ^Д^)「お願いします」
頭を下げて、歩き出す。
冷え切った右手の、親指と人差し指の先だけが鈍く痛んだ。
( ^Д^)「あー、寒ぃな。ほんとに……寒ぃよ……馬鹿野郎」
風が吹く。
終わりを告げるように、大学のチャイムが響き渡った。
- 109 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:36:13.64 ID:m6any+Z60
※
三月は俺にとってバイトの季節。
新しい機材を買うために、金を貯めなければならない。
加えて今年は家庭教師のバイトもなくなる。
金だけではなく、バイトも探さなければならない。
( ^Д^)「……忙しいねぇ」
思い出を振り返る暇もなく、新学期はやってきた。
ちなみに、今、俺は居酒屋にいる。
名義貸し気分でサークルに名前を連ねていたら、面倒な場所に引っ張り出された。
会合の名前は“新歓コンパ”、業務は“カンパ”。
不眠不休の新米コンビニ店員である俺から、さらに金を搾り取るつもりらしい。
- 112 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:38:10.49 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「……かーんぱい」
部長の乾杯の音頭に合わせ、形だけグラスを持ち上げる。
それから一気にビールを飲み干し、ちょうど通路を通りかかった店員さんに、追加を注文。
今日の俺は飲む。
新入生の分まで飲むつもりだった。
( ^Д^)「あー、ねみー……」
春眠暁を覚えず。
まさかそれが理由ではないだろう。
精神的にも体力的にも疲れていた体に、アルコールは勢いよく浸透していった。
- 116 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:40:28.89 ID:m6any+Z60
――…
―…
コンパが始まって二時間がたった。
周囲は何だか盛り上がっている。
そう言えば二年前、この場でバンドを組まされた記憶がある。
あのバンドは練習三回本番ゼロ回で解散した。
それから自分でメンバーを探した。
我がバンドのメンバーでサークル部員の率は四割。
キーボード奏者もサークルメンバーであるはずだったが、最近携帯電話を買い換えたらしい。
せめて道連れにと思ったのだが電話が通じない。
( ^Д^)「あー……もうダメっぽい……」
呟いて、テーブルに倒れ込む。
頭は朦朧として、過去最強の睡魔が俺を襲う。
まぶたの裏に、今となっては懐かしいあの顔が貼りついていた。
- 121 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:43:19.14 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「……さーみしーなー」
目を閉じて浮かんでくるのはいつもあいつの顔だった。
あの日以来顔を合わせてないくせに記憶からは消えてくれない。
もう会えないなら、さっさと忘れさせてくれてもいいようなものを。
最近はスタジオにも顔を出していないから、シャキンさんにも会ってない。
そう言えばスタジオの名前“OF.f”は、シャキンさんがFのコードが好きだからそう命名したそうだ。
俺はEmのキーが好きな人間だから、Fはタブー。
“OF.f”と書いて“オフ”と呼ばせるあたり、シャキンさんらしさが漂ってるなぁ。
……そんなことを考えて気持ちを紛らわせても、やっぱりあいつのことが頭から離れない。
俺はとことん女々しい奴だ。
- 124 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:45:25.48 ID:m6any+Z60
「隣いいですか?」
そんな声が耳に届いた。最初は夢だと思った。
目の前が暗いのだ。
だが数秒して、暗いのはまぶたが閉じているせいだとわかった。
目を閉じたまま答える。
( ^Д^)「あーもー好きにしてー」
「じゃあ失礼します」
随分と物好きな人間だ。
ほとんど夢心地の人間の隣で酒を飲んで美味いだろうか。
敬語を使っているのは、新入生だからか。
さっさと俺に愛想を尽かせてくれればいい。
気心の知れた人間と飲む酒ほど美味い酒はない。逆は最悪だ。
- 130 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:47:34.41 ID:m6any+Z60
「ベーシストさんですか」
新入生が言った。
「手、おっきいですね」
( ^Д^)「NBAにスカウトされたことがある」
「えっ?」
( ^Д^)「ついさっき、夢の中での出来事だ」
夢心地でそんなことを呟く俺はたぶん前代未聞の阿呆だろうと思った。
「ベースは好きですか?」
新入生が再び言った。
「弾くのが嫌いになることはありますか?」
( ^Д^)「……」
少しむっとした。
- 132 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:50:13.76 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「当たり前だろう」
僅かに体を起こして言う。
( ^Д^)「長く付き合ってりゃ嫌いになる瞬間だってある。
なんか色々腹立って触りたくなくなることだってあるさそりゃ。
それでも気が付いたら音楽ばっかり考えてんだよ」
頭に血がのぼる。
( ^Д^)
「永遠に好きでいなきゃ弾く資格ないってか?
少しくらい離れていたってそれでも心のどこかでいつも想ってりゃ
それが背負ってることにはならないのかよっ!」
自分の言葉に興奮してきた。
勢いよく体を起こして隣を見る。
その瞬間だ。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ背負ってみせてよ。責任まで全部含めて」
- 139 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 21:56:01.02 ID:m6any+Z60
( ^Д^)「お前……どうし――」
ミセ*゚ー゚)リ「ボーカルに挑戦しようと思うんですけど、何かアドバイスはありますかー?」
目の前にいるのは、紛れも無く――――
想い続けて。
諦めて。
それでも、諦められなくて。
そして、一時も俺の記憶から消えることがなかった――――
俺は数秒ほど黙り、
( ^Д^)「……俺の彼女になれ」
そう言った。
( ^Д^)「お得だぞ。ボーカルになれるうえに、今ならもれなくアフターサポートサービスがつく」
ミセ*゚ー゚)リ「どうしようかなー。迷うなー」
( ^Д^)「昼飯一ヶ月タダになる券が付く」
ミセ*゚ー゚)リ「あ、それはいいかも」
ミセリは笑顔でうなずく。
そこで、俺の頭はやっと冷静になってきた。
- 140 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 22:00:17.63 ID:m6any+Z60
(;^Д^)「……お前、どうしてここにいる?」
ミセ*゚ー゚)リ「忘れないようにって言ったのお兄ちゃんでしょ。
離れたら忘れちゃうじゃない。だから同じ大学にした」
(;^Д^)「受験は?」
ミセ*゚ー゚)リ「なんか初志貫徹って古くさくない?」
(;^Д^)「いや……お前、そんな理由で志望校蹴って……」
ミセ*゚ー゚)リ「倒れたら許さないから」
ミセリは真っ直ぐに俺を見つめる。
脅迫染みた、しかし柔らかな口調。
- 143 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 22:03:41.14 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「頼るからね。お母さんの分も、お父さんの分も。
重荷じゃないって証明してよ」
( ^Д^)「……ああ」
ミセ*゚ー゚)リ「あの時、言ってくれた言葉とか、全部信じるから」
( ^Д^)「……おう」
ミセ*゚ー゚)リ「それと、一ヶ月なんて許さないから」
( ^Д^)「……なんのことだ?」
ミセ*゚ー゚)リ「あたしのこと嫌いになる期間。三日以上嫌いになったらお父さんから天罰」
( ^Д^)「あの人は天じゃねぇし」
シャキンさんの顔が思い浮かぶ。
神様みたいな笑顔のシャキンさんが頭に浮かび、少し笑ってしまった。
- 146 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 22:07:43.66 ID:m6any+Z60
ミセ*゚ー゚)リ「今までの分……全部頼るんだからね」
( ^Д^)「おう」
ミセ*゚ー゚)リ「逃げたりしたら――」
( ^Д^)「逃げねぇよ」
苦笑しながら、自信満々で答えた。
「逃げるはずねぇだろ。こんな馬鹿みたく好きなんだから」
全部、背負ってやろう。
たとえ、この先に何があろうとも。
――――俺は、こいつのことが好きだから。
fin
登場キャラクター
- 148 :◆/60jxFY0kY:2007/08/13(月) 22:08:35.22 ID:m6any+Z60
推奨BGM:http://jp.youtube.com/watch?v=Nb6MfMsADUQ
・登場キャラクター
( ^Д^)プギャー
ミセ*゚ー゚)リミセリ
(`・ω・´)シャキン
で、お送りいたしました。
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