- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 22:55:38.50 ID:N6QVQjGi0
- 道路に敷かれたパネルに沿って、真っ直ぐに歩く。
背筋はぴんと伸ばして、顎を少し引いて、目線はひたすらに前へ。
歩行速度は遅くも早くもなく、周囲に合わせるのが好ましい。
自分はメトロノームだと言い聞かせ、寸分の狂いなく規則的に手を振り、足を出す。
歩くという一つの行動をとっても、目指すは完璧。
完璧であるというのは、美であるということ。
美であるというのは、外観を映えさせる。
つまり、俺の存在がこの場を、地球を輝かせるという結論に至るのだ。
( ゚д゚)「ふっ……ふふふ……」
大学のキャンパスを行く俺に、周囲の視線が降り注いでいる気がした。
この完璧さに見惚れるか。
よかろう、存分に見るがいい。
その程度の願いなど容易いものだ。
常に完璧を目指す俺くらいにもなれば、心の広さも宇宙規模。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 22:57:44.39 ID:N6QVQjGi0
- ( ゚д゚)「……お」
やや自分に酔いしれていると、数十メートル先を歩く女性の姿が目に入った。
艶やかな黒髪をなびかせていた。
シャツにジーンズというラフな格好。
じゃらじゃらと小物を身につけいている訳でもなく、肩かけのバッグを提げるだけ。
余計なものをそぎ落とした結果という風で、ファッションに手を抜いているという訳でもなさそうだった。
( ゚д゚)(78点……か)
自分基準の採点ではそうなった。
一般的な女子の点数が50点なので、中々の高得点といえる。
実の所を言うと、この大学に入ってからまだ一月も経ってはいない。
我が物顔で歩いてはいたが、実は少し緊張気味だ。
ちなみに今のところの女子の最高得点は65点。大幅にランキングを塗り替えることになる。
更に言うなれば男子の最高得点が76点。
これはあくまで『俺』を抜かしたものである。
つまり彼女は俺の知るところで、今現在、大学内最高の美を誇る人間という訳だ。
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 22:59:41.50 ID:N6QVQjGi0
- ( ゚д゚)(ドラマのワンシーンを彷彿とさせるな)
美男美女がすれ違うシーン。映像にするならスローモーションにするべきだ。
セピア色になる演出を加えるのもいい。
テーマ曲が流れ、このままオープニングに映るというのも面白いか。
などといった妄想を膨らませたまま、俺と彼女はすれ違った。
流石にドラマチックな展開など起きる訳もなく、淡い期待は打ち砕かれた。
しかし、
(;゚д゚)(……んんっ?)
何か、強烈な違和感が体中を駆け巡る。
脳が揺らされたように目眩がして、目のあたりがいやに熱い。
この感覚をどこかで味わったことがある。あれは確か中学生の頃のマラソン大会。
全力で走っている最中、急な腹痛に襲われてしまい、俺は野外に設置された便所へ駆け込んだ。
見るからに不衛生なその便所には異臭が立ち込めていたが、呼吸が整っていなかったので思い切り吸い込んだ。
……そうか、この感覚に答えがついた。
くさいんだ。物凄く。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:01:14.67 ID:N6QVQjGi0
- (#゚д゚)「待て待て待てぇ―い!」
東京のコンクリートジャングルにそぐわない、熱烈な突っ込みが飛び出した。
彼女は驚いて振り向いた。俺もすこし自分自身に吃驚していた。
('、`*川「え……なんですか?」
(#゚д゚)「臭い、臭過ぎる。お前ちゃんと風呂に入っているのか!?」
('、`*川「……失礼ですね。入ってますよ」
(#゚д゚)「最後に入ったのはいつだ?」
('、`*川「えと……丁度一週間前?」
(#゚д゚)「それをちゃんと入っているとは言わんわぁ!」
よく見れば、艶やかな髪は油に塗れているだけだった。
遠目からでは分からなかったが、服も所どころ染みついている。
といった点を指摘しつつ、臭い臭いと更にのたまっていると、
もう我慢の限界と言わんばかりに女が言い返してくる。
- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:03:35.24 ID:N6QVQjGi0
- ('、`#川「ていうかアンタ誰!?」
(#゚д゚)「俺はミルナだ!」
('、`#川「ミルナ?……あ、知ってるわよ、超潔癖変人ミルナ!」
(;゚д゚)「な、なに?」
('、`#川「トイレした後に5分は手洗いするとか、コンビニで物を買う時にお釣りが出ないように払うとか!
ヘンテコな行動ばっかとるから、奇人扱いされてる人でしょ!」
(;゚д゚)「馬鹿な、俺はそんなの聞いたことが無い!」
しかし、女が出した例は、確かに俺が常日頃やっていることだった。
……俺は悪くない。
念入りに手を洗うのは清潔で良いことだし、店員が釣りを出す手間を省いてやっているんだ。
変人扱いされるのが納得いかない。
(#゚д゚)「そっちこそ、一体何なんだ!」
('、`#川「なにがよ!」
(#゚д゚)「風呂に一週間も入らないなんて、恥ずかしくはないのか!」
('、`;川「そ、そんなの個人の自由よ!」
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:05:26.23 ID:N6QVQjGi0
- (#゚д゚)「いーや、異臭をまき散らすお前の存在はもはや公害だ! 訴えられるレベルだ!」
('、`#川「ひっどーい! それが女の子に対する口の利き方!?
そもそも、お前お前って、私にはペニサスっていうちゃんとした名前があるんです!」
(#゚д゚)「黙れ! この腐った生ゴミ!!」
('、`#川「なまっ……! 言ったわねー、この変態!」
(#゚д゚)「変態とはなんだ! 俺がやっていることは善行だ!」
('、`#川「あーやだやだ生真面目な男って、アンタ絶対にもてないでしょ?」
(;゚д゚)「ななな、なにを馬鹿なことを言うか!!」
('、`#川「あらやだ図星でしたー? すいませんねぇ、だって見るからにそうなんですもの!」
(#゚д゚)「貴様……!!」
('、`#川「なによ……!!」
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:07:10.73 ID:N6QVQjGi0
- (#゚д゚)「バカ!」
('、`#川「アホ!」
キャンパスに、およそ大学生とは思えない口論が響く。
結局、見かねた他の生徒が仲裁に入るまでそれは続いた。
これが、俺とペニサスの出会いである。
( ゚д゚)ぱーぺき!のようです('、`*川
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:09:43.03 ID:N6QVQjGi0
川 ゚ -゚)「む、美味しいなこれは。レシピを知りたいものだ」
( ゚д゚)「料理はよくするんですか?」
川 ゚ -゚)「母が料理関係の職についていてな。
小さな頃から手伝いをしていたせいか、今ではすっかり得意分野だ」
大学から徒歩数分にある喫茶店は食事が美味しくて評判という話だが、
食べてみればなるほど、確かに唸らせてくれる味だった。
人通りが悪く、立地条件が良いとは言えないが、この味だけで客を呼んでいるのだろう。
小さな店に敷き詰められるように置かれたテーブルは満席。
店の外に備えられた椅子には、並ぶ客さえいる始末だった。
川 ゚ -゚)「特にこのボンゴレスパゲッティは絶品だ!
パスタの茹で加減から、ソースの絡まり具合まで、芸術的ですらある」
( ゚д゚)「それは流石に大袈裟かと」
川 ゚ -゚)「なら聞こう。このボンゴレスパゲッティに点数をつけるとしたら?」
( ゚д゚)「……96点でしょうか」
川 ゚ -゚)「ほれ見ろ。ミルナにそこまで言わせるなんて、やはり芸術だ」
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:12:27.42 ID:N6QVQjGi0
- 勝ち誇った顔をされてしまった。
どうやら俺とクー先輩は、二人とも負けず嫌いらしい。
共通点を見出したことに喜びを感じ、またその性質故にちょっとした反抗心が湧きあがる。
( ゚д゚)「味に関してはです。盛りつけ方が甘い。
恐らく、運ぶ時に崩れてしまったのでしょうがね」
川 ゚ -゚)「これだけの客だ。多少の焦りが生まれてしまうのも無理はない」
( ゚д゚)「しかし減点せざるを得ないのは確かです。総合的な点数は82点」
川 ゚ -゚)「……分かった分かった。私の負けだ」
勝った。というより、俺の方が子供だったと言うべきか。
少し恥ずかしくもなり、食事に夢中なっている振りをした。
それすらも見透かされているのか、クー先輩はにやにやとした笑みを浮かべている。
自分の頬が熱くなっていくのが分かった。
この人には敵わないらしい。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:14:00.51 ID:N6QVQjGi0
会話を続けながら、ちまちまと食べ進め、気付くと皿は空になっていた。
腹がふくれた満足感と、この時間も終わりだという喪失感が同時に押し寄せる。
食後のコーヒーを啜りながら呆けていると、すぐ目の前にクー先輩の顔があった。
(;゚д゚)「びっくりした」
川 ゚ -゚)「びっくりした。じゃないだろ全く。
人が話しかけているというのに、無視とは何事だ」
( ゚д゚)「いえ、ちょっと考え事をしていまして」
川 ゚ -゚)「どんなだ?」
「時間よ巻き戻ってくれ」と願っていたとは正直に言えるはずもない。
脳の異常を指摘されるか、とんちんかんなロマンチストだと思われるばかりだろう。
当たり障りなく「大学のレポートについてです」と答えた。
すると、
川 ゚ -゚)「こういう時にまで勉学のことを考えているのは、相手に失礼ではないか?
素直に告白のタイミングを伺っていたとでも言えば良いものを」
という、とんでもないカウンターパンチを食らってしまった。
思わずコーヒーを噴き出してしまいそうになる。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:15:58.22 ID:N6QVQjGi0
- 川 ゚ -゚)「冗談だ。君はこんな何でもない昼下がりに告白するようなタイプではないな」
( ゚д゚)「では、俺はどんな告白をすると?」
川 ゚ -゚)「誕生日に遊園地へデートに行き、最後の最後に乗った観覧車。
二人の意味深な沈黙が続く中、頂上に達するのと同時……!」
( ゚д゚)「……夢見る少女ですか。俺は」
川 ゚ -゚)「これくらいやりそうだと思ったんだが」
その告白パターンは少し前に破棄していた。
友人にうっかり話してしまい、笑い飛ばされてしまったからだ。
川 ゚ -゚)「いやしかし、私は素敵だと思うぞ。
ドラマティックな演出じゃないか、個人的には85点だ」
( ゚д゚)「駄目ですよ、それじゃ。 告白というイベントは100点、もしくはそれ以上でないと」
川 ゚ -゚)「……やはり君は夢見る少女だな」
よっぽど面白かったのか、クー先輩は口元を隠して笑った。
笑い話を言ったつもりはなかった。
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:18:24.16 ID:N6QVQjGi0
- コーヒーも飲み終え、会計を済ます。
店から出ると、テーブルの空きを待っていた客と入れ違った。
待ち侘びていたのだろう。その表情は眩しいくらいだった。
クー先輩は午後からまた大学に用があるらしいので、ここで別れることにした。
川 ゚ -゚)「楽しい食事だったよ。ありがとう」
( ゚д゚)「いえ、こちらこそ」
淡白な返事だと自分でも思った。
こちらから誘ったというのに、気の利いた台詞の一つも言えない。
ここぞという時には決められないものだ。などと自己嫌悪に陥っていたところ、
川 ゚ -゚)「また誘ってくれ。今度は大学がない日にでも」
という言葉を頂いた。チャンスはまだあるようだった。
あまり良い面を見せれた気はしないが、悪い印象を与えることはなかったようだ。
( ゚д゚)「ええ、今度は俺が弁当でも作ります」
川 ゚ -゚)「それは普通、こちらがやるべきではないか?」
( ゚д゚)「俺の料理は自己採点で93点です」
川 ゚ -゚)「それは面白い。ならば楽しみにしておこうじゃないか」
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:20:19.08 ID:N6QVQjGi0
- どうにか約束をとりつけ、そしてクー先輩は去っていった。
一挙に全身に疲れが回ったような気がした。
緊張の糸が解れたというべきか、体中の力が抜けてしまいそうな気さえする。
この頬の緩みもまた、そのせいだろう。
('、`*川「なーに、にやけちゃってるんだか」
感傷に浸っていたところ、水を差されてしまった。
同級生がエロ本を買っているのを見つけたかのような態度で、詰め寄ってくるペニサス。
( ゚д゚)「……いつから見ていた」
('、`*川「この店に通りかかったら、窓からアンタ達の姿が見えてね。
なんか面白いからそのままずっと監視してた」
( ゚д゚)「そんなことをして楽しいか」
('、`*川「もちろん。すっごくね」
( ゚д゚)「趣味が悪い」
('、`*川「そうねぇ、確かにアンタの女の趣味だけは認めるわ」
反発してこないのは、新しい切り返し方法だった。
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:23:13.98 ID:N6QVQjGi0
- ('、`*川「クー先輩かぁ、アンタも随分と上玉狙いだったのね。
ていうか、いつの間にこんなに仲良くなってたの?」
( ゚д゚)「一緒に食事したのは今日が初めてだ」
('、`*川「ふーん、にしてもサークルではそんな空気見せなかったのに……。
でさ、感触の方はどんな感じなのよ?」
( ゚д゚)「ぼちぼち」
('、`*川「悪くはなかったってことね」
女というのは、どうしてこうも人の恋愛沙汰に興味を持つのだろうか。
赤裸々に語ってしまう俺も俺なのだが。
( ゚д゚)「……それよりも、お前、それはなんだ?」
('、`*川「え?」
ペニサスの手には、ぱんぱんに膨らんだスーパーの袋があった。
透けて見えるのはスナック菓子や、カップラーメン、インスタント食材……。
('、`*川「っえーと……美味しいよね、これなんか新製品でさ」
( ゚д゚)「自炊するという約束はどうなったんだ?」
('、`*川「……自炊だけに次週に持ち越し、なんて」
(#゚д゚)「無理があるわ!」
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:26:14.77 ID:N6QVQjGi0
- 呆れてものも言えなくなった俺は、ペニサスの制止を振り切り、歩を進める
('、`*川「ちょ待ってよ、今日は少し都合が悪いんだって!」
( ゚д゚)「いったい何がだ」
('、`*川「……借りっぱなしにDVDを今日中に見ないといけないとか」
無視して、より早足にする。
('、`*川「ねぇ、お願い…って……あーもー……」
数十分も歩くと、そこにはペニサスが暮らすアパートがある。
生意気にも小奇麗なその住宅は、家賃もなかなかお高めになっているらしい。
親のすねかじりもいいとこである。
( ゚д゚)「鍵は」
('、`*川「かけてない」
( ゚д゚)「それすらありえんだろうが」
三〇八号室のドアを勢いよく開け放つ。
つけっぱなしの冷房のせいか、ひんやりとした空気が迎え入れてくれた。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:29:13.67 ID:N6QVQjGi0
- ( ゚д゚)「……なんだこれは」
丸まったティッシュペーパーがそこら中に平然と散らばっている。
食べカスも犬の食いかけのように転がっていて、脱ぎかけの衣服の上にまで存在している。
空っぽのお菓子の袋。汁のみの状態のカップラーメン。散乱するテレビのリモコンや雑誌。
片付けや掃除をしていないのを一切していないのが、一目で分かった。
('、`*川「いやさぁ、今日やろうと思ったんだけど」
( ゚д゚)「なぁ俺が先週来て、ぴっかぴかになるまで掃除してやったよな?
そしてお前は『これからは毎日掃除します』と俺に言ったよな?」
('、`*川「一日やそこらで人間は簡単には変われないものよ」
(#゚д゚)「たわけがぁ!」
『ひぃ』と短く悲鳴を上げ、ペニサスが体をびくつかせる。
こんな怒号を彼女に飛ばすのはもう何度目になるのだろうか。
( ゚д゚)「大体一日やそこらじゃないだろう……俺が何回注意したと」
('、`*川「百はくだらないわね」
( ゚д゚)「……それを分かっていて、なぜ考えを改めようとせん?」
('、`*川「なんだかんだでミルナがやってくれるから、かな?」
『馬鹿者!』とまた怒鳴りつけるも、能天気なその表情に怒りも薄れてしまっていた。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:32:04.60 ID:N6QVQjGi0
- ( ゚д゚)「今回だけだぞ」
('、`*川「わぁい!十二回目の『今回だけ』頂きました!」
( ゚д゚)「くだらない事は覚えているんだな……」
ぶつぶつと文句を言いながら、部屋の掃除を始める。
掃除機の場所や、洗剤、新品の雑巾の位置まで把握している自分が恨めしい。
ペニサスと出会ってから数か月が過ぎて、今ではこんな関係になってしまった。
偶然サークルが一緒だったり、趣味が合ってしまったせいか、良き友人関係を保っている。
しかし唯一許せないのが、ペニサスのこのずぼらな性格だった。
きつく言ったおかげで風呂には毎日入るようになったが、家事全般は相変わらず駄目駄目。
注意しても治らないので、結局数日おきに俺がやる羽目になってしまう。
別に特別な関係という訳ではない。
俺にはクー先輩という想いを寄せる相手もいる。
そう、言うなれば、気分はペットの世話をする主人……だろうか。
( ゚д゚)「ふぅ……終わりだ」
('、`*川「さっすがミルナ!私のお家も喜んでるよ!」
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:34:12.49 ID:N6QVQjGi0
- ペニサスは弄っていた携帯を放り捨て、ベッドの上で拍手を送る。
少しは手伝いをするという意志を見せてほしい。
( ゚д゚)「飯、簡単なものなら作るが、炒飯でいいか」
('、`*川「おういえー! 味は濃い目でお願い」
( ゚д゚)「把握」
言われたとおりの味付けで、炒飯を作る。
最中に冷蔵庫の中を見たところ、ビールとつまみがたっぷり詰められていた。
もう口に出すのも面倒くさい。見なかったことにしよう。
( ゚д゚)「ほれ、俺に感謝して食え」
('、`*川「神様仏様ミルナ様ー!私めに料理をお作りになってくださり感謝いたしまさー!」
そう言ってペニサスは口いっぱいに炒飯を頬張る。
この食いっぷり。やはりペットの世話をする気分という表現は言い得て妙だ。
( ゚д゚)「うまいか」
('、`*川「もひろん」
( ゚д゚)「そうかそうか、俺の分も食っていいぞ」
('、`*川「ひやったぁ!」
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:36:08.32 ID:N6QVQjGi0
- そう言えば実家で飼っている、柴犬のコンタは元気にしているだろうか。
あれも中々大食らいで、餌以外に俺の飯まで狙ってくるんだよな。
そんな物思いに耽りながら食を進めていると、あっという間に皿は空になっていた。
('、`*川「美味しかった!」
( ゚д゚)「お前、俺の二倍以上食ってたのによくもまぁその速度で」
『まぁよくあることか』と皿を流しに運び、水に浸ける。
('、`*川「やっぱミルナの作った飯はいいねぇ、インスタントとは違うよ!」
( ゚д゚)「米を炒めただけだぞ」
と言いつつも、悪い気分はしない。
('、`*川「違うのよ、そう……これは愛、愛を感じるわ」
( ゚д゚)「お前に注ぐ愛など微塵もない」
('、`*川「ひっど、だからもてないのよ」
(;゚д゚)「それとこれとはなんの関係もないわ!」
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:39:44.94 ID:N6QVQjGi0
- ('、`*川「でもさー」
( ゚д゚)「ん?」
('、`*川「もしクー先輩とミルナが付きあったら、ご飯も作ってくれなくなるよねー」
( ゚д゚)「……そんな事はないんじゃないか?」
('、`*川「あるでしょ。私だったら彼氏が女の家に行くなんて嫌だもん」
( ゚д゚)「なら、お前は自炊を早く覚えるべきだな」
('、`*川「……だよねー、ちょっと料理のレポートを書いて三日以内に私に提出してくれない?」
( ゚д゚)「ミカンの皮をむき皿に盛ります。完成です」
('、`*川「うわぁ……」
妙に居心地の悪い気分になったこの日は、大した長居もせず、洗い物を終えてすぐ帰ることにした。
見上げると、都会に相応しい、星のない夜空。
ペニサスの世話を見ない日常なんて、想像もつかない。
その言葉を発したときのペニサスの表情はどこか寂しそうで、俺はそれをぼんやりと思い浮かべていた。
- 38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:42:08.64 ID:N6QVQjGi0
- 数日後のよく晴れた日、俺はクー先輩と大学の中庭にいた。
約束通り、自分の手料理を詰めたお弁当を持って来ていたのだ。
( ゚д゚)「どうですか?」
川 ゚ -゚)「むぅ、これは……」
一口止めて、先輩は箸を止めた。
「口に合わなかったのか」と心配になり、もう一度尋ねようとすると。
川 ゚ -゚)「参った。これは美味い」
そう満面の笑みで先輩は言ってくれた。
滅多に見れそうのない貴重なそれを、俺はしっかりと脳裏に焼き付けていた。
( ゚д゚)「だから料理には自信があると言ったんですよ」
川 ゚ -゚)「すまない。しかし自己採点は甘くなるものだろ?」
( ゚д゚)「俺はいつだって公正な判断しか下しません」
川 ゚ -゚)「さすが完璧が大好きなミルナ君だな」
喋りつつ、ひょいひょいと弁当を口へと運んでいく。
「早起きした甲斐があったなぁ」とその様子を見ながら思った。
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:44:54.36 ID:N6QVQjGi0
- 川 ゚ -゚)「しかしまぁ、なんだか悔しいな」
( ゚д゚)「何がです?」
川 ゚ -゚)「私だって料理にはそれなりの自信があるんだ。
それなのに男の料理を美味い美味いと頬張るなんて、屈辱的」
( ゚д゚)「……負けず嫌いですね」
川 ゚ -゚)「む……まぁ確かにそれもあるが」
ちょっと生意気な発言になってしまったが、それを咎める様子はない。
きっと、図星に違いなかったのだ。
川 ゚ -゚)「じゃあ、こうしよう、今度は私が料理を作ろうじゃないか」
( ゚д゚)「本当ですか?」
川 ゚ -゚)「ああ、だがお弁当じゃあ私の料理テクは見せきれない。
君を私の家に招待しよう。夕飯を御馳走してやる!」
( ゚д゚)「家に……」
川 ゚ -゚)「……家に呼ぶのはまずいか?」
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:47:20.09 ID:N6QVQjGi0
- ペニサスとの関係のせいか麻痺しているが、女が男を家に招待するなんて、好意がある証拠だ。
つまり、先輩も少なからず俺と今以上の関係を望んでいることになる。
早とちりである可能性も否めないが……だからといってここで遠慮する理由もない。
( ゚д゚)「いえ、光栄です」
川 ゚ -゚)「そうかそうか、ならば徹底的に君の自身を打ち砕いてやろう」
( ゚д゚)「俺の弁当はあと二回変身を残しています」
川 ゚ -゚)「なにっ!……って弁当が変身する訳ないじゃないか、あほう」
軽く小突かれてしまった。
川 ゚ -゚)「ところで、この弁当ちょっと量が多くないか?
まぁ確かに私は人より食べるかもしれんが……」
( ゚д゚)「なら良いじゃないですか」
川;゚ -゚)「たっ、食べるといっても、ちょっとだぞ、ちょっと!
女性にこの量を振る舞う君は失礼だ!」
(;゚д゚)「え、ええー」
よく分からない内に怒りを買ってしまったようで、少しの間、先輩は不機嫌になってしまった。
……慣れが災いしたというべきか。
奴のせいで、少し多めに飯を作ってしまう癖がついてしまっているようだった。
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:50:49.42 ID:N6QVQjGi0
- すっかり先輩の機嫌も直り、しばらく談笑を楽しむ。
すると午後の授業が入っているというので、俺たちは別れることになった。
去り際、先輩が振り返り、指を唇に当てながら言う。
川 ゚ -゚)「料理、楽しみにしておくんだぞ」
さらさらの黒髪がふわりと浮きあがり、俺は見惚れてしまった。
幸い、先輩はすぐ踵を返して行ってしまったので、間抜け面を見られることはない。
('、`*川「ああいうのに男はやられる訳ね」
( ゚д゚)「……お前、なんでいつも突然現れるんだ?」
振り向くと、ペニサスが悪戯めいた表情を浮かべていた。
その心は、さながら、面白い場面に出くわしたといったところだろうか。
('、`*川「いいとこ見ちゃった〜、ホント青春してるじゃない!」
( ゚д゚)「的中」
('、`*川「ん、なに?」
( ゚д゚)「いや、なんでもない……が、お前は本当に趣味が悪いな」
('、`*川「失礼な。女の子は恋愛ネタが大好きなものなのよ」
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:52:58.59 ID:N6QVQjGi0
- ( ゚д゚)「そんな素振りなんてまるで見せん癖に」
('、`*川「じゃあ他人の恋愛沙汰を眺めるのが大好きと訂正するわ」
( ゚д゚)「ただの野次馬根性じゃないか」
そこで、ふと思い出して口にする。
( ゚д゚)「今日は授業ないと言っていなかったか?」
('、`*川「うん、ないよ」
( ゚д゚)「じゃあ、どうして学校に?」
('、`*川「ちょっとアンタを呼びに来たのよ」
『何の用だ?』と聞き返すのよりも早く、ペニサスは俺の手を掴み取る。
そしてそのまま引っ張り出した。
(;゚д゚)「ちょっ、どこに行く気だ」
('、`*川「どこって、私の家に行くに決まってるじゃない」
(;゚д゚)「何故……いや、それより手を離せ!」
('、`*川「良いから良いから、レッツラゴー!」
周囲の視線が集中していたのは、気のせいではなかった。
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:56:03.27 ID:N6QVQjGi0
- 言われるがままに、俺は彼女の家へと向かう。
道中のペニサスはやけに上機嫌で、しかし何故かと尋ねても答えようとはしない。
「着いてからのお楽しみ」と、やはり嬉しそうに言うのだった。
('、`*川「たっだいまー!」
( ゚д゚)「お邪魔しま……す」
思わず語尾が小さくなってしまったのは、感嘆の為だ。
玄関の靴が整理され、なんとスリッパまで用意されているではないか!
('、`*川「それくらいで驚いてもらっちゃあ困る!」
彼女の部屋へと踏み入る。
いつもなら、いるだけで気分が悪くなる程、散らかり汚れているはずだ。
しかし、今日ばかりは勝手が違った。
( ゚д゚)「……なんと」
ゴミ一つ落ちていない。部屋中の物が整理されている。
どこか良い香りまでする始末で、理想の女性の部屋と呼んでも差し支えない。
- 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/22(土) 23:58:27.55 ID:N6QVQjGi0
- ('、`*川「まだまだ、私の本気はこんなもんじゃないわよ!」
机の前に、無理やり座らされる。
そして訳も分からぬままに、次々と運ばれてくる料理。
ピーマンの肉詰めや、きんぴらごぼう、春巻。
味噌汁にマカロニサラダなど、バリエーションも豊富で、家庭的な品々だ。
認めたくないが、どれも生唾が湧いてくるほど、美味しそうだ。
(;゚д゚)「こ、これをお前が作ったというのか?」
('、`*川「あら、この雰囲気は手料理にしか出せないと思うけど?」
(;゚д゚)「し、しかし……」
('、`*川「いいから早く食べる!……ほら、あーん」
恐る恐る口に入れ、噛みしめる。
この時点ではまだ、見た目だけだという可能性も考えてはいたが。
('、`*川「どうよ」
( ゚д゚)「これは……」
- 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:01:23.12 ID:jwij+Q0M0
- 文句のつけようが無かった。
それどころか、俺が作ったものよりも美味い。恐らく数倍も。
何十年も料理をし続け、ようやく辿り着く境地。
そんな印象すら感じさせた。
( ゚д゚)「うまい、な」
('、`*川「でしょー?」
( ゚д゚)「お前、こんなに料理出来たんだな……」
('、`*川「凄いでしょ、ちょっとは見直した?」
( ゚д゚)「ちょっとどころか、世界がひっくり返るような衝撃があったぞ」
('、`*川「そう言われるとちょっとむかつくけど……まぁ、ね、分かってくれたでしょ?」
ふと、一瞬だけペニサスの顔が、あの時の寂しそうな顔になった気がした。
また、言葉の意味も分からなかったので聞き返す。
( ゚д゚)「なんのことだ?」
('、`*川「……私はさ、一人でもやっていけるよ?」
- 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:03:24.00 ID:jwij+Q0M0
- 思わず、胸がどきりとした。
まるで『お前は必要ない』と言われたようで。
しかし、ペニサスの本意はそういったものではなかった。
('、`*川「ほらさ、最近クー先輩と上手くいってるじゃない?
それでもし私のこと気にしちゃってるようならさ、悪いし。
だから一人でもこんなに出来ますよーって、示しておきたくて」
( ゚д゚)「俺が、お前に遠慮するとでも?」
('、`*川「ん……まぁね、ミルナは優しいから。
捨て猫を放っておけない的な理由で、私も見捨てらんなかったりしそうじゃない?」
( ゚д゚)「……自分がそんなに可愛い存在だとでも思ってるのか?」
('、`*川「だーもう、うっさいなぁ! とにかく後は先輩と仲良くやりなってことだよ!」
拗ねたような口調で、ペニサスはそっぽを向いてしまった。
視線を合わせているのは気まずいと思ったのは、俺だけではないようだった。
- 56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:05:17.51 ID:jwij+Q0M0
- 考えがうまくまとまらなかった。
妙なショックを受けている自分がいて、それが何故だか分からなくて、ますます訳が分からなくなる。
ペニサスと俺とは別に、特別な仲ではなく、特別な感情を抱いている訳でもない。
それなのに、こうして突き放されるような言葉を言われたことが、俺は悲しいのだ。
もっと言うならば、ペニサスの言っていることは『突き放す』という表現にも満たないようなもの。
ただ今まで依存し過ぎた関係を、普通の関係に戻そう。それくらいの発言だ。
それが悲しいだなんて。俺は。一体?
( ゚д゚)「……もうちょっと早く本気を見せてもらいたかったものだよ」
口から漏れたのは皮肉だった。
混乱している脳がようやく絞り出してくれたのは、そんな情けないもの。
('、`*川「能ある鷹は爪を隠すって言葉を知らないの?」
( ゚д゚)「ただの面倒くさがりだろう……まぁ、お前の心遣い、有り難く受け取っておくよ」
('、`*川「……うん、頑張りなさいよ」
これでいい。俺達はあるべき姿に戻ったのだ。
そう心の中で何度も呟く。自分に言い聞かせるかのように、何度も。
ただ、どこかで大事なものを失ったような、そんな気がしていた。
- 58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:08:31.38 ID:jwij+Q0M0
- また数日が経ち、クー先輩の家にお邪魔することになった。
「徹底的に準備しておくから楽しみにしておけと」のことだ。
一部の謙遜もないところが先輩らしい。
道中、何故だか足取りは重かった。
あの日からやけに、胸のあたりがずんと苦しいのだ。
締め付けられるとでもいうのだろうか。
上手く言葉に言い表すことも出来ず、ただただ苦しい。
一つ言えることは、どこかに自責の念があるということだった。
川 ゚ -゚)「やぁ、よく来てくれた。道には迷わなかったか?」
( ゚д゚)「先輩の道案内が的確でしたので」
川 ゚ -゚)「それなら良かった。さぁ上がってくれ」
俺の心のもやもやなど露知らず、先輩は俺を温かく迎え入れてくれた。
エプロン姿が妙に眩しく、暗い気分も吹き飛ばしてくれそうな気さえした。
そうなのだ。人の家に呼ばれておいて、辛いなどとは馬鹿馬鹿しい。
今はこの境遇にあることを喜ぶべき時なのだ。
ペニサスもそれを望んでくれた。ならば俺はこの時を満喫せねばならない。
- 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:12:12.24 ID:jwij+Q0M0
- 案内された部屋は、整然としていて、ペニサスの家とはまるで異なっていた。
先輩のイメージ通りと言うべきか、余計な小物もなく、良い意味で無機質な部屋。
川 ゚ -゚)「……どうした?難しい顔をしているな」
( ゚д゚)「なんでもありません。それにしてもさすが先輩。綺麗にされていますね」
川 ゚ -゚)「まぁちょっと君の為に掃除を張りきったというところもあるのだがな」
思わずくらりとしてしまった。
心臓が高鳴っているのを悟られたくなくて、矢継ぎ早に聞く。
( ゚д゚)「料理、手伝いましょうか?」
川 ゚ -゚)「いいんだ、いいんだ。君はここでゆっくりしていてくれ。
今日は私がもてなすと決めたんだからな」
( ゚д゚)「先輩をこき使う気分。悪くはないですね」
川 ゚ -゚)「酷い言い方をするんだな」
と微笑んで、先輩は料理の支度へと行ってしまった。
暫くすると、俺のいる部屋にも良い匂いが流れ込んで来た。
空腹のせいか、腹の虫も鳴き出してくる。
匂いを楽しんでいると、先輩がちょいと顔を出し「手伝ってくれ」と声をかけてくる。
作り過ぎた料理を運んでくれとのことだった。
- 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:14:57.46 ID:jwij+Q0M0
数回往復して、ようやく食卓の用意が整う。
机いっぱいに並べられた品々は、とても二人分とは思えなかった。
( ゚д゚)「先輩……?」
川 ゚ -゚)「ちょっとだけ作り過ぎてしまったかもな」
( ゚д゚)「ちょっと……?」
川;゚ -゚)「う、うるさいなぁ、女の手料理は無理してでも食うというのが男というものだろう!」
なんと無茶な理論を叩きつけることか。
しかしどれも美味そうなのは確かなので、一通り箸をつけたくはある。
( ゚д゚)「もう、お腹もぺこぺこです」
川 ゚ -゚)「そうか、じゃあ早速めしあがれ」
『頂きます』と両手を合わせ、すぐに料理を食べにかかる。
一品目はビーフシチュー。先ほどから嗅覚を刺激してくる一品だ。
ようく煮込まれているのか、スプーンですくい上げると、とろりと液が滴る。
( ゚д゚)「ん……」
- 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:17:46.94 ID:jwij+Q0M0
川 ゚ -゚)「どうだ?」
美味い。率直にそう思った。
一般的なものよりも野菜の甘みが強く、かといってしつこい感じもしない。
肉もスプーンでさっと切れ目が入るほど柔らかくなっていて、手間がかかっているのがすぐに分かる。
程良いトマトの酸味が効いていて、どんどん口に入れたくなってしまう。
( ゚д゚)「美味しいです。それもかなり」
川 ゚ -゚)「点数は?」
( ゚д゚)「……93点で」
川 ゚ -゚)「百点じゃないのは不服だな!」
そう言いながらも、先輩は表情をぱあっと晴れやかなものにしていた。
よっぽど嬉しかったのか、次々に「これを食え」、「あれを食え」と指示してくる。
その様子がどこか子供っぽくて、俺は言われたとおり従ってみるのだった。
川 ゚ -゚)「にしても不思議なものだな」
( ゚д゚)「何がです?」
川 ゚ -゚)「君とこうしていることが、かな」
- 67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:19:33.34 ID:jwij+Q0M0
- ( ゚д゚)「……どういう意味です?」
川 ゚ -゚)「私は君とペニサスが付き合っていると思っていたからな」
突然の発言に、俺は口に入れていたものを吹き出しそうになってしまった。
(;゚д゚)「俺とペニサスは別にそんな関係じゃ」
川 ゚ -゚)「でも、気になっているんだろう?」
そう言われて、俺はすぐに返事をすることが出来なかった。
先輩の言葉で、胸の中のもやもやと強制的に対峙する羽目になってしまう。
(;゚д゚)「俺は…その……」
川 ゚ -゚)「少し考えてみるといい。そうだな、この飯を食べ切るまでぐらいにはな」
そう言って、先輩は黙々と食事を進め始めた。
気まずい沈黙。先輩はこっちに視線を合わせようともしない。
しかし拒絶の態度ではない。あくまで俺に時間をくれようとしているのだ。
ならばと、言われたとおり考えに耽ることにした。
- 69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:22:44.30 ID:jwij+Q0M0
- ペニサスに特別な感情はないつもりだった。
しかし今こうして悩んでしまうということは、やはり彼女の存在は俺にとって特別なものとなる。
それも、想い人であるクー先輩と秤にかけて、釣り合ってしまう程だ。
もはや言い逃れも出来ない。彼女は俺の中で特別なのだ。
じゃあこの感情は一体なんなのだ。
俺にとってペニサスはどうして特別なのか。
先輩に対する感情を愛とすると、ペニサスにはどんな感情を持っているんだ。
そもそも、先輩に対する感情が愛ではなく、単なる憧れという可能性もある。
俺が目指す完璧な女性の理想像に、限りなく近い人であるからだ。
理想の女性であるから愛するのだと思っていたが、現実はひょっとして違うのか。
しかしペニサスは理想とは程遠く、むしろ、ま逆に近い位置に存在する。
やはりこの感情は愛ではなく、いつかに言ったペットに対する気持ちのようなものではないのか。
同情。そんな言葉が一瞬浮かんで消えた。
そんなものではない。
俺がペニサスに抱いている感情とはもっと違う何か、そう、もっと、もっと―――。
その時、舌の上から体全体に、電流が流れたような衝撃が走った。
- 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:26:42.22 ID:jwij+Q0M0
- (;゚д゚)「これは……」
川 ゚ -゚)「どうかしたのか?」
(;゚д゚)「先輩、この料理は一体?」
川 ゚ -゚)「どうって……ただのきんぴらごぼうだが?」
(;゚д゚)「そうじゃなくてこの味……俺、食べたことがあって」
川 ゚ -゚)「ああ、そういうことか」
先輩はきんぴらごぼうを一口放り入れて『美味い』と言った。
噛みしめて飲み込んだ後、答える。
川 ゚ -゚)「私の母はな、大学の近くで小さな小料理屋をやっているんだ。
そこは家庭的な料理を売りにしていてな、常連さんも楽しみにしてくれているらしい」
( ゚д゚)「なるほど。その方に料理を習ったのだから、同じ味付けだと」
川 ゚ -゚)「そういうことだな。どうしてミルナがその味を知っているのかは分からんが……。
偶然というものは、なかなか面白い」
( ゚д゚)「……もう一つ聞いてもいいですか?」
川 ゚ -゚)「なんだ?」
- 75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:28:49.47 ID:jwij+Q0M0
- ( ゚д゚)「そのお店は……テイクアウトはしていますか?」
川 ゚ -゚)「ん?ああ、要望する客がいたら、応じるらしいがそれがどうした?」
それを聞いて、なんだか全てが吹っ切れたような気がした。
先輩やペニサスに対する気持ちがなんなのかという疑問に答えがついた訳じゃない。
未だ秤はぐらぐらと揺れていて、どちらを優先すべきか測り損ねている。
ただ、たった一つだけ、『俺はまだ必要とされている』。
それさえあれば、俺には今どちらを選ぶべきか、分かったような気がした。
( ゚д゚)「先輩、ちょっと行く所が出来てしまいました」
川 ゚ -゚)「……そうか。全く、人を弄ぶのも大概にしておけ」
( ゚д゚)「……すいません」
川 ゚ -゚)「なんてな。実は予見していたことだ。
君は時折うわのそらになるし、私と誰かを比べているような感じもする」
- 76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:30:52.02 ID:jwij+Q0M0
- (;゚д゚)「ほ、本当ですか?」
川 ゚ -゚)「普通の人には分からないだろうが、私には分かるのさ。
……この料理を振る舞えば、挽回のチャンスもあるかと思ったが、残念残念」
先輩は、やれやれとでも言うかのように、首を振るジェスチャーをつけて言った。
無理をしているのかどうかなんて俺には分からないが、こうなった手前、長居はすべきではない。
( ゚д゚)「今日はお邪魔しました」
川 ゚ -゚)「また来ると良い。今度はペニサスと一緒にな。
先輩として、後輩にはサービスしてやらんとな」
( ゚д゚)「……はい!」
先輩が明るく振る舞うのなら、俺もこうして答えるのが正しかったのだろう。
玄関で一礼をして、立ち去った。
今すぐに会いに行こうと思うより早く、走り出していた。
なんだか凄く体が軽くて、頭もすっきりとしている。
夜風が心地良く俺の体をすり抜けて行って、後押しされているような気がした。
- 79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:33:58.47 ID:jwij+Q0M0
- 辿り着いたアパート。三〇八号室前。
インターフォンを鳴らすのすら煩わしく『どんとん』と扉を叩く。
中から『うるさいな』という声が聞こえ、すぐに扉が開いた。
ペニサスは、ぽかんと口を開け、目をぱちくりとさせた。
('、`;川「み、ミルナ?なんで一体あんたがここに……」
( ゚д゚)「邪魔するぞ」
('、`;川「ちょ、えっ、なんで!?ダメだって!」
失礼を承知で無理矢理上がり込む。
当然、スリッパなんてものは用意されていなかった。
( ゚д゚)「……なんだこれは」
('、`*川「なんだって……えと、その」
荒れ放題。という表現が正しいのだろうか。
現在進行形で食い散らかしているのか、そこら中に食べ物の空き袋やカスが落ちている。
台所には洗わないで溜まった皿が積まれていて、今にも蠅が飛び回りそうだ。
よくもまぁ、たった数日でここまで部屋を汚せるものだと感心してしまう。
- 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:35:47.55 ID:jwij+Q0M0
- ('、`*川「軽いやけ食い。的なものを……」
( ゚д゚)「するのはいいが、したらすぐに片付けろ。
あと、人の料理を自分の料理のように振る舞うの止めろ」
('、`*川「あちゃー……ばれた?」
( ゚д゚)「『ばれた?』じゃないだろうが……お前は一人じゃまともに生活も出来ないのか」
('、`*川「コンビニにさえあればなんとかなるかな?」
( ゚д゚)「この有様を見て、なんとかなるとは言えんだろう!」
('、`*川「……ごめんなさい」
( ゚д゚)「全く、やはり俺がいないとダメみたいだな?」
('、`*川「え?」
照れくさくなり、掃除を始める振りをして無視した。
そして背後で呆然と立ち尽くすペニサスの気配を感じて、言う。
( ゚д゚)「ほれ、掃除をするんだから、ベッドの上にでも避難していろ」
- 85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:38:20.11 ID:jwij+Q0M0
- ('、`*川「う、うん」
未だに混乱しているのか、やけに従順に従うペニサス。
枕を抱いて、ぼーっと俺が掃除する様を眺めていた。
('、`*川「あ、あのさ」
( ゚д゚)「なんだ」
('、`*川「これからも、ご飯作ってくれるの?」
( ゚д゚)「そうだな」
('、`*川「掃除もしてくれるの?」
( ゚д゚)「気分次第かな」
('、`*川「洗濯は?」
( ゚д゚)「……それは元からやった覚えがないんだが」
('、`*川「それと、さ」
いつのまにかに立ちあがっていたペニサスは、すぐ傍にまで来ていた。
俺の方が背が高いので、下から覗きこまれる形だ。
- 86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:40:26.71 ID:jwij+Q0M0
('、`*川「一緒に、いてくれるの?」
心の中で『百点だ』と呟いて、デコピンを食らわしてやった。
- 88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:42:14.26 ID:jwij+Q0M0
- ('、`;川「い、いたっ、何するのよ!」
( ゚д゚)「良い気味だ」
('、`*川「乙女の顔にそんなことしていいと思ってるの!?」
( ゚д゚)「蠅が止まってたんでな」
('、`*川「止まらないわよ!お風呂ならちゃんと入ってるし!」
( ゚д゚)「必死に弁明する所が怪しいな」
('、`*川「なによー、ほらっ、良いにおいするでしょ!?」
(;゚д゚)「うわっ、くっつくなよ、暑苦しい!」
('、`*川「そんなこと言って嬉しいくせに!」
(;゚д゚)「ええい、掃除の邪魔をするんじゃない!」
('、`*川「この潔癖男!掃除大好き人間!!」
( ゚д゚)「うっさい、頭くるくるぱー女!」
- 91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/23(日) 00:43:38.74 ID:jwij+Q0M0
- ペニサスに対する感情がなんなのか。
それの答えはまだ分からないが、ゆっくり分かっていけばいい。
今は一緒にいたいと思えること。
きっとそれだけで十分だ。
一人一人は完璧には程遠い俺達だが。
潔癖な俺と、頭がパーなペニサス。
二人合わせれば『ぱーぺき』ってことにしておこう。
('、`*川「ご飯作って!」
( ゚д゚)「りょーかい」
( ゚д゚)ぱーぺき!のようです('、`*川
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