6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 16:18:54.13 ID:PIEL93S50

もう誰もいなくなった深夜のオフィスで、パソコンと向き合う。
あたりに響くのはハードディスクがカタカタと働く音だけ。それだけ。
キーボードをたたくべき俺の指は一向に進まない。傍らに置いていた缶コーヒーに手を伸ばす。

('A`)「……不味い」

コーヒーの味なんて、俺には全くわからない。
眠気が消えるという、嘘かホントかわからない効能を信じて飲み続けているだけだ。

('A`)「あー、もう帰っちゃおうかなー」

椅子の上で大きく伸びをして、オフィスの時計に目をやった。深夜二時。
終電はとっくに行ってしまっている。高い金払ってタクシーに乗る気は起きない。
結局、今夜はここで過ごすしかなさそうだ。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 16:27:26.99 ID:PIEL93S50

それから一時間ほどブラウザ内の書類と格闘して、電源を落とした。
オフィス内から一気に音がなくなる。
世界は不気味なほど静かで、何気なく窓から外を見れば雨が降っていた。
けれど、雨音は室内まで響いては来ない。

('A`)「……タバコでも吸おうかな」

立ち上がり、喫煙所へと向かった。暗い通路に俺の足音が響く。
その途中で、腹の虫が音を鳴らす。

('A`)「おなか減った」

そう言えば八時間近く飯を食ってない。近くのコンビニに行くことにした。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 16:33:19.58 ID:PIEL93S50

深夜のオフィス街。
東京なら十分に騒がしいんだろうが、それが地方都市ならば本当に静かだ。
車はほとんど通っていない。カモを待ち伏せしているタクシーが路肩にいるくらいだ。
響くのは雨音だけ。会社に忘れられていた傘を手に、俺はコンビニへとたどり着く。

('A`)「納豆巻きに、野菜ジュース、っと」

俺ももう27歳。すっかり歳をとったせいか、口にするものの栄養に気を使うようになった。
若いころの夜食と言えばジャンクフードだったのに、時の流れっていうのは悲しいもんだ。
レジに立っていた若い店員を少し羨みながら買い物を終え、再び会社へと戻った。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 16:40:51.23 ID:PIEL93S50

雨にぬれるオフィス街。冷たく響く雨音に抱かれながら、のんびりと歩いた。
小雨になってきたので傘をたたんで夜空を見上げれば、
小雨が無数の細い線となって、俺と空を結んでいた。

('A`;)「おわっ!」

そんなとき、転がっていた石ころに躓いた。
転ぶまではしなかったが、体勢が崩れて前のめりになる。

('A`)「オフィス街に石ころかよ。めずらしいな」

捨て台詞を残してさっさと会社に戻ろうと思ったのだが、
なんとなく、石ころを拾ってしまっていた。

('A`)「路傍の石、か」

掌よりも小さい、ゴツゴツとした色気も飾り気もないただの石ころ。
でも、俺はそれを拾ってしまっていた。どうしても手放す気になれなかった。



13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 16:57:44.10 ID:PIEL93S50

会社に戻り、喫煙所に入って食事をする。腹が膨れたところで食後の一服。
煙を所内に吐き出しながら、つい持ってきてしまった石ころを眺める。

('A`)「石ころ、か。
   俺たちの人生に転がっている出来事も、この石ころみたいなもんだよな。
   大体は見向きもしないで通り過ぎてしまう。転がっていたことにも気付かない」

('A`)「そんで、拾い上げた数少ない石ころも、磨いても全く光らない。
   いつしか拾い上げたことも忘れて、記憶の彼方に消えてしまう。
   今俺の手の中に残っている光る石ころなんて、ほんとうにわずかなもんだよ」

片手にタバコ、もう一方の手で石ころを転がしながら、そんなことを呟いた。


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 16:59:03.00 ID:PIEL93S50

('A`)「……でも、あの時、この石ころみたいに拾い上げとけば、
   俺たちにも別の未来があったのかもしれないな。
   俺と君の関係っていう名前の石を、あの時、俺か君のどちらかが拾っていたら、
   もしかしたらそれは、今も光り続けていたかもしれない」

('A`)「なあ、内藤君?」

問いかけるように、天井に向けて声をかけた。
けれど天井では、タバコの紫色の煙がふあっと広がって、すぐに消えただけだった。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 17:19:53.24 ID:PIEL93S50

内藤君と出会ったのは、中学生の頃だった
そのころの僕と内藤君の関係を一言で表せば、ただの他人だ。

クラスが違った。なにより所属しているグループが違っていた。
内藤君は学年で一番目立つグループ。僕はそこに入れない、
でもいじめられることもないような、当たり障りのないグループ。

中学生の頃、いや中学生から、所属するグループの壁というのは厚くなるものだ。
中高大、社会人と、そのおのおので形成されたグループ間の壁とは想像以上に精神的に厚い。
だから僕と内藤君が交わるなんて、よほどのことがなければありえないことだった。



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 17:31:21.16 ID:PIEL93S50

そして結論から言えば、中学三年間で僕と内藤君が交わることは一度もなかった。
クラスも一度たりとも同じにならなかったし、他の接点も一切なかった。
そんな過去を考えてみれば、僕が内藤君のことを覚えているなんて、奇妙としか思えないだろう。

でも、僕は内藤君のことを覚えていた。それは、彼が不思議な空気を持っていたからだ。

( ^ω^)「おっおっお」
('A`)「……内藤君、か。なんで彼があのグループにいるんだろう?」

彼はいつもニコニコしているだけで、所属するグループの会話にも積極的には参加していなかった。
そしてバカ騒ぎもしなければ、目立つグループ特有の、誰かを乏しめるような会話にも一切参加しない。

常にニコニコしているだけの、善良そうな男。
遠くから観察するだけの僕が彼に抱いていた印象は、そんな感じだった。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 17:43:26.76 ID:PIEL93S50

そんな中学生活。僕が内藤君に話しかけようとしなかったと言えばうそになる。
だけど、やっぱり違うグループの、それも一番目立つグループにいる彼に声をかけるのは、
何となく不安で、もし内藤君が僕の抱いている印象と違っていたらと考えると何だか怖くて、
それはずっとためらわれていた。

けれど、一度だけ決心して話しかけようとした。
彼が一人で帰ることが多いのをあらかじめ知っていた僕は、放課後、校門の前で待ち伏せした。

('A`;)(俺は恋する乙女かよ……)

自己嫌悪を感じたが、それでも僕は待ち続けた。
そして下校する内藤君を発見するのだが、結局、僕は声をかけられなかった。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 17:51:00.41 ID:PIEL93S50

ξ゚听)ξ「でさー、ホワイティが最高に面白かったの!」
( ^ω^)「おっおっお。そうかお」
(;'A|壁(あれは……同じクラスのツンさん……)

内藤君は、当時僕と同じクラスだったツンさんと一緒に下校していた。
ツンさんは学校でも美人で有名な女の子で、
でも性格に多少癖があって男から敬遠されていたが、人気があることに変わりなかった。
そんな彼女と、内藤君は楽しげに会話しながら下校していた。

('A`#)「ガッテム! なんだよ! 全然いい奴じゃねーよ!」

モテない中学生とはこんな風にひがむ。だから僕は、彼に声をかけることなく下校した。
今思えば、それはツンさんと会話している内藤君へのひがみというよりは、
むしろ内藤君と会話しているツンさんへのひがみだったが、
どっちにしろ、当時の僕が十分な乙女気質を持っていたことは紛れもない事実だろう。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 17:59:45.50 ID:PIEL93S50
しかし、これにより僕は内藤君へ接近する足がかりを得た。ツンさんのことだ。
幸いにも同じクラスの彼女と仲良くなりさえすれば、いつか内藤君と話す機会が来るかもしれない。
だから僕は次の日、勇気を出してツンさんに話しかけることにした。

(゚A゚;)「あの、あのあの、ツンさん!」
ξ゚听)ξ「……何?」
(゚A゚;)「えっと、えとえと、きょ、きょきょきょ今日はいいお天気ですね!」
ξ゚听)ξ「……雨だけど?」
(゚A゚;)「あ、あああ雨!? いや、いやいや、雨はいいじゃないですか! 
   雨は生命を潤す恵み! 水も滴るいい女! それはツンさんですね?!」
ξ゚听)ξ「……はあ?」
(゚A゚;)「あ、あははははは! おっと失礼! もう授業ですね! ではアディオス!」
ξ゚听)ξ「……」

ごめんなさい。俺には無理でした。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:06:22.26 ID:PIEL93S50
そんなこんなで唯一の接点も得られないまま時は過ぎ、僕は卒業を迎えた。
僕は少し離れた進学校。内藤君は近所の公立高校に通うらしい。

('A`)「結局一度も話せなかったな」

グループの仲間やツンさんに向け、いつもの笑みを向けながら卒業していく内藤君を遠目に、

('A`)「ま、こんなもんさ」

と、僕は苦笑した。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:12:51.46 ID:PIEL93S50
それからの高校生活。世渡りだけはそれなりにうまかった僕は、
目立つグループとは縁がなかったものの、ひっそりとそれなりの高校生活を送る。
大学は都会の、それなりに名の通った私立高校に決まった。
そこでもそれなりの、言ってみれば平均的な大学生活を過ごす。

何もかもが普通。いつも上を見上げては羨ましがり、でも下を見下ろしては安心する。
特別なことなど何もなく、けれど悪いこともとくに起こらない。
彼女が出来ることはなかったが、しかしいじめられることもない、飄々とした毎日は続く。
きっとこれからも、死ぬまで続いていく。

('A`)「俺にしてみりゃ上出来だろ」

そんなことを思い始めていた、思いこみ始めていた二十歳のころ。
成人式のついでに中学の同窓会が開かれるという連絡を、旧友から受け取った。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:20:22.37 ID:PIEL93S50
同窓会に顔を出せば、懐かしい人々がたくさんいた。
女はみな化粧が濃くなっていて、男は多くが派手な服装や髪形をしていた。
ドレッドヘアにしている奴もいた。ここはどこの国かと本気で疑ったものだ。

今はほとんど連絡を取らなくなっていた旧友たちと会話を交わす。
昔と変わらない調子で話せたことはとても嬉しかった。
そして、会話もひと段落して落ち着いた頃。

( ^ω^)「おっおっおっ」
('A`)「……内藤君」

外国人のよな身なりをしたやつばかりの一番目立つグループの片隅で、
地味なスーツに身を包んだ内藤君が、昔と変わらずニコニコと笑っているのが見えた。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:25:32.74 ID:PIEL93S50
('A`)「……」

僕は笑う彼の姿を、減らない酒を片手にぼーっと眺めていた。

('A`)(そういえば、俺は内藤君と友達になりたかったんだよな)

昔のことを思い出す。
確か、そのためにツンさんに話しかけて恥ずかしいことになったんだっけ。

('∀`)(若気の至りだったよな)

昔の自分を笑い飛ばすことが出来た。
二十歳。そこを越えるだけで、十代の自分とは大きな隔たりが感じられる。
実際にはあの頃と何ら変わっていないというのに、酒の勢いも手伝ったのか、
気がつけば僕は立ち上がり、内藤君の方へと歩き出していた。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:32:09.31 ID:PIEL93S50

('A`)「内藤君。隣、いいかな?」
( ^ω^)「お? 君はたしか……」
('∀`)「ドクオだよ。多分覚えていないと思うけど……」
( ^ω^)「お! そうだお! ドクオ君だお!」
('A`;)「え? 覚えていてくれたの?」
( ^ω^)「おっおっおっ」

僕は驚いていた。まさか内藤君が僕を覚えているなんて、考えてもみなかったからだ。
なぜ彼は僕を覚えているのだろう。彼と僕の間に接点なんて一つもなかったのに。
そんなことを考えながら動揺していると、内藤君は立ち上がり、僕に声をかける。

( ^ω^)「外、行かないかお?」
('A`;)「え? ああ、構わないけど……」


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:36:51.40 ID:PIEL93S50
同窓会の会場から出て、夜風に当たった。
慣れない酒で火照った頬が冷まされていく感覚が気持ち良かった。
それは内藤君もおなじようで、彼はニコニコと笑うと、
スーツの内ポケットからタバコを取り出す。その仕草が意外だった。

('A`)「内藤君、タバコ吸うんだね」
( ^ω^)「そうだお。よく似合わないって言われるお」
('A`)「悪いけど、僕もそう思うよ。内藤君のイメージに合わないなぁ」
( ^ω^)「おっおっおっ。ツンと同じことを言うんだおね」


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:42:57.34 ID:PIEL93S50
('A`)「ツンさん、か。そう言えば、内藤君はツンさんと付き合ってたのかい?」
( ^ω^)「おっおっおっ。よく誤解されるけど、ただの幼馴染だお」
('A`;)「……そうなんだ」

その一言で、昔校門の前で待ち伏せた時の記憶がよみがえってくる。
あの時の僕の乙女心は無駄もいいところだったらしい。
内藤君は煙を吸うと、気持ちよさそうに大きく息を吐く。

( ^ω^)「ツンの前でタバコを吸うと怒られるんだお。だから外に来たんだお」
('A`;)「まあ、その様子じゃ未成年の頃から吸ってそうだしね。そりゃ怒るよ」
( ^ω^)「そんなことはないお。僕は臆病者だから、ちゃんと二十歳になって吸い始めたお」
('A`)「あ……そうなんだ」

それを聞いて、嬉しくなった。
少なくとも内藤君は、法律に逆らうような人間ではなかったらしい。
まあ成人だからタバコを吸っていいという法律も、所詮他人が決めたルールに過ぎないが。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:46:33.89 ID:PIEL93S50
それから内藤君は僕にタバコを一本差し出す。

( ^ω^)「どうかお? 無理強いはしないけど」
('A`)「……もらうよ」

これも、若気の至り。
つい数時間前に大人と認められた僕は、その証とでも言わんばかりに、
タバコを一本、口にくわえる。

(゚A゚;)(……うっ!)

でもすぐにむせて、けれど体面を保つため、うまくもないのにそれを吸い続けた。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:51:10.69 ID:PIEL93S50
ニコチンで僕の頭がくらくらする中、隣で内藤君は相変わらず笑っていた。
彼は何も話してこない。僕も何も話せない。共通の話題も思い出もないから当然だ。

だけど、居心地が悪いとは思わなかった。
ここに比べれば、同窓会会場の方がよほど居心地が悪い。
それはきっと、ニコニコとした笑みを崩さない内藤君の雰囲気のおかげなのだろう。

('A`)(……だから内藤君は目立つグループにいれたのかな?)

漠然と、そんなことを思った。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:55:29.62 ID:PIEL93S50
( ^ω^)「ドクオ君のことはツンから聞いていたお」
('A`;)「え?」

タバコが短くなった頃、内藤君が突然話しかけてきた。
僕は驚いて、口にくわえていただけのタバコをぽとりと落としてしまう。
慌ててそれを拾い上げて口にくわえる。内藤君はやっぱり笑っていた。

( ^ω^)「ツンが言っていたお。ドクオ君から訳のわからないことを話しかけられたって」
('A`;)「あ……」

苦い記憶がよみがえってくる。黒歴史といってもいいほどだ。
冬の夜にいるというのに、頬が強烈に火照ってくる。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 18:59:44.22 ID:PIEL93S50
( ^ω^)「おっおっおっ。ツンは気味悪がっていたお」
('A`;)「……だろうね」

傷口をナイフでいじくられたらこんな感じがするのだろう。
うつむいた僕は、すぐにでもこの場を立ち去りたかった。だけど、内藤君は言ってくれた。

( ^ω^)「でも、僕はドクオ君を面白い人なんだろうなって思ったお」
('A`;)「え?」

予想もしない言葉を聞いて顔を上げれば、内藤君はやっぱり笑っていた。

( ^ω^)「本当は、僕も君たちのグループに入りたかったんだお」


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:04:51.25 ID:PIEL93S50
('A`;)「え? なんで?」

思わず僕は聞き返していた。だって、僕がそう思うのも当たり前だ。
誰が目立つグループから、その下の地味なグループに入りたいだなんて言うのだ。

( ^ω^)「たまたま入学式で仲良くなったのが目立つ奴だったお。
      だから僕は目立つグループに入らざるを得なかったお」
('A`)「そんなの……贅沢だよ」
( ^ω^)「なんでかお? 君はあのグループが楽しいとでも思っているのかお?」
('A`;)「そりゃ……目立つし、女の子にもモテただろうし……」
( ^ω^)「まあ、多少はそうだお。でも、それだけだお。楽しくなんて全然なかったお」

内藤君は二本目のタバコに火をつけた。
顔はやっぱり笑っている。けれど、僕にはそれがお面のように見えた。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:12:45.52 ID:PIEL93S50
( ^ω^)「ああいう目立つグループっていうのは、常に楽しいことを探してるんだお。
      でも、楽しいことなんてめったに転がっていない。
      あるとすれば、それは誰か弱い人間を乏しめる中にくらいだお。
      だからああいうグループにいる奴らは、いつも自分より弱い人間を探しているお」
('A`)「……」
( ^ω^)「それに、それは何もグループ外の人間に限らないお。
      一緒に行動しない。いい子ぶる。理由さえあれば、グループ内の人間だって
      乏しめる対象になっちゃうんだお」

内藤君が目を細めた。その時はじめて、彼の顔から笑みが消えた。


52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:19:49.54 ID:PIEL93S50
( ^ω^)「無理やり楽しいことを探す。そのために誰かを乏しめる。
      自分が乏しめられないように虚勢を張って、グループ内の意見に合わせる。
      グループの雰囲気はいつもどこかピリピリしてて、誰も信じられなかったお。
      僕はそんなの嫌だったお。すぐにでも逃げ出したかったお。
      だけど僕は臆病ものだから、そんなことはできなかったお」
('A`;)「……」

すると内藤君は、またニコニコと笑った。まるでお面をかぶるように。

( ^ω^)「で、結局僕が身に付けたのは、こうやってニコニコって笑うことだお。
      笑うってのはすごいお。
      誰かをいじめている時に笑えば、いじめられてる奴を嘲笑しているように見えるお。
      話している時に笑えば場がなごむお。本当に楽しくなくてもね」


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:26:32.33 ID:PIEL93S50
それから、内藤君はこちらを向いた。

( ^ω^)「さっきドクオ君は僕にタバコは似合わないって言ったおね?
      それはきっと、僕がいつも笑っていたからだお。
      だけど今の僕の話を聞いて、それでも君はそう思うかお?」
('A`;)「……」

僕は答えられなかった。肯定、否定、どちらをとっても内藤君が傷つきそうだったからだ。
悩む僕に向け、内藤君はやっぱり笑いながら、タバコを差し出してくれた。

('A`)「……ありがとう」
( ^ω^)「うん」

人生二本目のタバコを受け取った。今度は、最初ほどの蒸せは来なかった。
黙ったままの僕たちは、ずっと夜の空に煙を吐き出し続けた。


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:35:32.95 ID:PIEL93S50
そして、タバコは燃え尽きた。内藤君のタバコももう切れてしまったらしい。
空になった箱を残念そうに眺めて笑いながら、内藤君は最後にこう言う。

( ^ω^)「ドクオ君は、やっぱり僕の思った通りの人だったお」
('A`;)「え? どういうこと?」

内藤君は僕の問いかけに答えず、道に転がっていた石ころを拾い上げる。
それを悲しそうに眺めて、呟く。


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:36:47.25 ID:PIEL93S50
( ^ω^)「僕に本当の男友達なんていなかったお。
      今でもいないお。何でも話せる人なんてツンくらいのもんだお」
('A`)「……」
( ^ω^)「でも、あの時勇気を出してドクオ君に話しかけていたら違ったかもしれないお。
      僕たちは友達になれていたかもしれないお」
('A`)「……」
( ^ω^)「人間同士の関係って、この石ころみたいなもんだお。
      いつでもそこに転がっているのに、拾い上げなければどうなるのかわからないお。
      磨けば光ったかも知れないお。磨いても石のままかもしれないお。
      でも、どんなに振り返っても、拾わなかった石ころはもう目に見えないほど遠くにあるんだお。
      どんなに拾っていればと後悔しても、もう二度と拾えないんだお。
      ねぇ、ドクオ君。僕と君の石ころは、磨けば光ったんだろうかね?」



67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:45:02.04 ID:PIEL93S50
そう言って、内藤君は同窓会会場へと戻っていく。
小さくて寂しそうなその後ろ姿に向かって、僕は思わず叫んでいた。

('A`;)「ぼ、僕だってそうだよ! 僕が勇気を出して君に話しかけていればよかったんだ!
   僕だって君とずっと友達になりたかったんだ! 君との石ころを拾いたかったんだ!」
( ^ω^)「……」
('A`;)「だから……もう遅いのかもしれないけど……今からだって友達になれるよ!
   きっと、今目の前に僕たちの石ころは転がっているんだよ! だから大丈夫だよ!」
( ^ω^)「……」

階段を上って行く内藤君は、そのてっぺんで立ち止まると、振り返った。

( ^ω^)「そうだといいおね。でも、僕たちにはその石ころを磨けるだけの時間はもう無いお」


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:52:00.12 ID:PIEL93S50
('A`;)「……」

そうだ。僕たちには中学生のころのような、ゆっくり共有できる時間はもう残っていない。
それなのに、お互いのこともよく知らないのに「僕たちは友達だ」なんて言っても、
それは気休めや偽善に過ぎない。内藤君が嫌っていたあのグループの人間と一緒だ。
真の友情には、程遠い。

('A`;)「……やっぱり、遅すぎたのかな?」
( ^ω^)「……そうだお。きっと、遅すぎたんだお」

さびしげにつぶやく内藤君。けれどやっぱり彼は笑っていた。
多分、彼は笑うことしか出来ないのだろう。それはとても悲しいことだ。
もう彼は、本当に楽しい時も、今と同じような、
どんな風にも取れる笑いを浮かべることしか出来ないのだろう。

あの時僕が勇気を出して彼に話しかけていれば、石ころを拾っていれば、違ったかもしれない。
僕にはそれが、とても悔しかった。


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 19:58:38.41 ID:PIEL93S50
( ^ω^)「だけど、機会があれば、また一緒にこうやって話してくれないかお?」
('A`;)「え?」
( ^ω^)「そうやってゆっくりとでも話していけば、
      もしかしたら僕たちは友達になれるかもしれないお」

悔しさからうつむいていた。その顔を上げれば、やっぱり内藤君は笑っている。
笑って僕を階段の上から見下ろしている。
その笑みには、いったいどういう意味があるのだろうか。

( ^ω^)「ダメかお?」
('A`;)「え? い、いや、そんなことはない!」

さびしげに階段の上から転がってきた、内藤君の声。
僕はそれを拾い上げて、内藤君に投げ返す。


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:02:57.51 ID:PIEL93S50
('A`;)「何年後かはわからないけど、またいつかこうやって話そう!
   その時は僕がタバコをおごるよ! だから、またいつか……必ず!」
( ^ω^)「おっおっおっ。楽しみにしてるお。その時はよろしくだお」

そして内藤君の姿は、階段の向こうに消えていった。
それから僕はトイレに行って、同窓会会場へ再び戻る。

しかし、入れ違いになっていたのか、そこに内藤君の姿はもうなかった。


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:09:41.44 ID:PIEL93S50

(゚A゚;)「熱っ!」

気がつけば、タバコの火がフィルターにまで達していた。
その火が指に当たり、俺を回想の世界から引き戻す。
あたりを見渡せば、薄汚れた深夜の喫煙室。
そこに七年前の同窓会会場の面影は、影も形もない。

('A`;)「……タバコ一本分にも満たない時間だってのに、
   ずいぶんいろんなことを思い出しちまったもんだ」

左手に握っていた、路傍の石。
磨いても光らないこんなものに、よくもまあ昔を思い出させられたもんだ。
何気ないきっかけで、昔を振り返ってしまう。
それがきっと歳を取るということなのだろう。


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:20:00.75 ID:PIEL93S50
それから仮眠室でしばしの眠りにつき、朝八時、通常業務につく。
怒鳴られ、罵られ、走らされ、日常は風のように走り過ぎていく。
そして、今夜もまた会社に泊まり。深夜までパソコンと向かい合い、力尽きて電源を落とす。

疲れた。本当に疲れた。プライベートの時間すら、俺には残されていない。
食事を取る気にもなれなかった。鉛のように熱い缶コーヒーを手に、また喫煙所へと向かう。

('A`)「ふひひ。内藤君の言う通りだ。俺に石ころを磨く時間なんてありゃしないよ。
   自分一人が生き延びるので手一杯。生きるってのは辛いもんだ」
('A`;)「……って、そんなこと言ったらあんたに怒られちまうな。ごめんよ、内藤君」
( ^ω^)「別にいいお」
('A`;)「えっ!?」

顔を上げれば、喫煙所の体面席に、内藤君が座っていた。


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:26:07.46 ID:PIEL93S50
('A`;)「内藤君……何で君が……」
( ^ω^)「いつかの約束通り、タバコを一本もらいたいお」
('A`;)「え? あ、わかった……」

いるはずのない内藤君の姿を前に、素直に僕はタバコを差し出した。
ああ、本当に疲れているな。幻を見るなんて。
だけど、誰もいないんだし、幻に話しかけても構いはしないだろう。

('A`)「内藤君、七年ぶりだね。元気にしてたかい?」
( ^ω^)「おっおっおっ。面白いこと言うおね」
('∀`)「ふひひ。そりゃ悪かった」

笑いながら、タバコに火をつける。
思えばこうやって腹の底から笑うのは、本当に久しぶりのことだ。


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:33:33.40 ID:PIEL93S50

('A`)「あっちはどうだい、内藤君? こっちは死にそうな忙しさだ。
   おかげで俺もすっかり変っちまったよ。
   言葉づかいも悪くなっちまった。今じゃすっかりヘビースモーカーだ」
( ^ω^)「おっおっおっ。ホント、忙しいみたいだおね」
('A`)「ああ、ここ最近は家に一度も帰っていない。
   深夜にここに来ることが日課になっちまった。
   近いうちにそっちに行きそうな勢いだよ」
( ^ω^)「……」

内藤君はあの時と同じ曖昧な笑みを浮かべ、僕を静かに眺めている。

('A`)「正直、ここ二、三年はすっかりあんたのこと忘れちまってたよ。
   生きていくので精いっぱい。そのせいで今にも過労死しちまいそうさ。
   こうやってあんたのことを思い出したのは、もしかしたら死期が近いからなのかもな」
( ^ω^)「さあ? それは僕にはわからないお」
('∀`)「ふひひ。そりゃそうか。あんたは天使でもなんでもない。ただの死人だもんな」


89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:40:58.68 ID:PIEL93S50
('A`)「あっけないもんだな、人間ってやつは。
   成人式から何か月かして、自動車事故に巻き込まれてぽっくり逝っちまったんだって?
   三年くらい前の同窓会でツンさんに聞いたよ。彼女、話しながら泣いてたぜ?」
( ^ω^)「……」

それでも内藤君は仮面のような笑顔のまま。他の表情なんて持ち合わせていないのだろう。
きっと死んだときの内藤君も、こんな風に笑っていたに違いない。

('A`)「そんとき、思ったんだ。成人式の時以上に、切実に思った。
  中学生のころ、俺たちのどちらが勇気を出して石を拾っていれば、
  こんな未来はなかったんじゃないか、ってな」

タバコが切れたらしい内藤君。俺のタバコも短くなったので灰皿に捨て、
自分の分と彼の分のタバコを取り出し、一方を彼に投げてよこす。


91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:50:46.91 ID:PIEL93S50

( ^ω^)「たかが石ころが人の未来を左右するだなんて、考えすぎだお」
('A`)「いや、そうとも言い切れないぜ?」

タバコを受け取り、火を付けた内藤君。
対面する彼に向かい、火の付いたタバコの先端を俺は向ける。

('A`)「昨日、石ころにつまずいたよ。ちっぽけな、きったねぇ石ころだった。
  でもさ、もしかしたらあれで道路の方に俺がよろけて、
  その時たまたま車が通りかかっていれば、俺はそこで死んでいたかも知れねぇ。
  石ころってのはちっぽけなようで、意外とそいつの人生を左右するもんさ」
( ^ω^)「……」
('A`)「で、あんたの言っていた俺とあんたの間にあったっていう石ころ。
   それをどちらかが拾っていれば、あんたはもしかしたら死ななくて済んだかもしれない。
   ツンさんは泣かなくて済んだかもしれない。
   俺はこんな風に、過労死直前にならなくて済んだかもしれない」


94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 20:59:56.43 ID:PIEL93S50

( ^ω^)「そうなのかもしれないお。本当に、わずかな可能性だけど」
('∀`)「ああ。笑っちまうくらいわずかな可能性だけどな」
( ^ω^)「おっおっおっ。だからドクオは、拾えそうな石はちゃんと拾って磨いてくれお」

声を出して笑った内藤君。まるで遺言のような彼の言葉。
だけど、俺はその言葉を肯定できなかった。

('A`)「悪いが、そりゃ無理だ。いつかあんたが言ったように、俺にはそんな時間はない」
( ^ω^)「……」
('A`)「俺も歳をとったよ。
   未来なんか見ていない。少ない暇の中で考えるのはいつも昔のことだよ。
   それが歳を取るってことだ。時間がなくて、石ころなんか拾えないよ。
   大人ってのは、これまで磨いてきた石ころにすがるしかないんだ。
   そんで、すがる石がない大人は、拾っていたら変わっていたかもって想像にすがるか、
   俺みたいにこうやって、死ぬ直前まで働くしかないのさ」


98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 21:09:13.90 ID:PIEL93S50

('A`)「……さて、懐かしの対面はこれで終わりだ。
   さすがに寝なきゃ、俺も今にもお陀仏しちまいそうだ」
( ^ω^)「……突然押し掛けてすまなかったお」
('∀`)「なーに、あんたは俺の見た幻だ。だから構いはしないよ。
   しかし、すまんな。あんたの忠告は聞けそうにないよ」
( ^ω^)「いや、気にしないでくれお。死人の戯言だお。忘れてくれお」
('∀`)「ふひひ。そんじゃ、遠慮なく」

そして僕は立ち上がると、ポケットに手を入れて、あの石ころを取り出した。


100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 21:14:52.16 ID:PIEL93S50

('∀`)「これ、昨日拾った石ころだ。
    もしかしたら、これがあんたと俺の間にあった石ころかもな。
内藤君、あんたにやるよ」
( ^ω^)「おっおっおっ。そうかお」
('∀`)「ああ。あっちで磨いてもいいし、なんなら三途の川の岸辺に積み上げてもいい」
( ^ω^)「おっおっおっ。やっぱり君は面白いお」

俺は石ころを内藤君に向かってほうり投げる。
けれど石ころは内藤君の体をすり抜け、喫煙所の壁にゴツリと当たった。
その音はとても悲しげに響いたけど、それだけだった。

('∀`)「ありがとな。久しぶりに話せて楽しかったよ」
( ^ω^)「おっおっおっ。こちらこそだお」

そう残して、喫煙所を出た。
もう一度振り返れば、内藤君の姿はそこにはなかった。石ころもなかった。
ただ、二人分のタバコの吸殻が灰皿の上にあるだけだった。


104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 21:21:48.03 ID:PIEL93S50
翌日も、相変わらずの激務だった。
ここ一週間の睡眠時間を合計しても、十時間行くかどうか。
さすがに意識がもうろうとしていた。

('A`)「あーあ、こりゃ本当に死ぬかもしれんね」

そんな中、遠くの得意先までの外回りを命じられた。
こんな状態で車を運転すれば、間違いなく事故を起こす。

('A`)「遺書でも書いておくか」

冗談混じりに呟いて外のコンビニに向かい、コーヒーを大量に買った。
腹がタプタプになるまでそれを飲み干し、道を歩く。
その時、足もとに石ころを見つけた。


107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 21:30:07.56 ID:PIEL93S50
('A`;)「これは……内藤君に渡した石ころ? そんな馬鹿な……」

立ち止まり、拾い上げた。その時だった。
俺の目の前の歩道に自動車が突っ込んできて、傍の建物に激突した。

(゚A゚;)「……」

石を見つけ、立ち止まらなかったら、俺は確実に事故に巻き込まれていた。
呆然と立ち尽くす。周囲の建物から人が飛び出してきて、瞬く間に大騒ぎとなった。
事故現場を取り巻く群衆。その中に、内藤君がいたような気がした。

('A`;)「内藤君……まさかあんたが……」

けれどもう一度群衆を凝視しても、内藤君の姿は影も形も見当たらなかった。
手に握りしめていた石ころを見る。そして、思いだす。


109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 21:36:15.93 ID:PIEL93S50

( ^ω^)「おっおっおっ。だからドクオは、拾えそうな石はちゃんと拾って磨いてくれお」

昨夜、内藤君が言っていたのは、人生論のような観念的なことではなく、
事故を回避するための直接的な助言だったのだろうか?
しかしだとすると、彼が磨けとまで言ったことに説明がつかなくなる。
石をちゃんと拾ってくれ。それだけでよかったはずだ。

('A`)「どういうことなんだい? 内藤君?」

答えなんてわからない。ただ、俺が死にそこなったという事実がここにあるだけだ。
俺は生きている。どんなにそれがつらいことでも、
時間に追われて日々を過ごすにすぎないことでも、
人と人との関係を、石ころを拾うだけの余裕はまだ俺に残っている。
内藤君はそう言いたかったのだろうか?


111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/01/20(日) 21:41:59.82 ID:PIEL93S50

('A`)「とりあえず、今日は仕事できそうにねーな」

俺の傍に、警察官や救急隊員が複数人で押し寄せてきた。
事情聴取、精密検査、俺はこれらのことにこれから巻き込まれるのだろう。
さすがに会社も働けとは言うまい。
これまでの激務から、一時ではあるがようやく俺は解放されるのだ。

('A`)「とりあえず、のんびり考えますか」

見上げた空、電柱の上で、カラスがこちらを見下ろしていた。
彼から見れば、俺はさぞ小さく見えるだろうな。

まるで、俺が先ほど拾い上げた、この石ころのように。

終わり


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