1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:03:08.99 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「暑い……」


俺は一人、駐車場のアスファルトの上に仰向けに寝転がりながら呟いた。
この糞暑い日に革のツナギとは大層なことで。
恐ろしい程の通気性の悪さで、恐らくトランクスまで汗でグッショリだろう。



―――― / ゚、。 /は峠に行くようです ――――




傾きかけの太陽の下、暫く一人でウダウダそうしていると、
どこからか直4エンジンの"フォーン"という乾いた排気音が響いてきた。
その音はだんだんと俺に近づいてきて、やがてすぐ近くでピタッと止んだ。


川 ゚ -゚) 「もう来ていたのか、ダイオード」


そのバイクから降りてきた女は、寝転がっている俺の顔を上から覗き込みながらそう言った。


※直4エンジン:直列4気筒エンジンの略。シリンダーが4つ直列に並んでいるエンジン。

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:06:29.80 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「よう、クー」

川 ゚ -゚) 「革ツナギとは随分と暑そうだな」

/ ゚、。 /「そう言うお前も着てんじゃねぇか」

川 ゚ -゚) 「まあ、私はまだお前達ほど上手くはないからな」


そう言いながら、クーはヘルメットを脱ぎ、フゥ〜と一つ長い溜息を吐く。


川 ゚ -゚)「ジョルジュはまだ来ないのか?」

/ ゚、。 /「あぁ」


しかし噂をすればなんとやらで、俺がそう答えたと同時に、
今度は"パァァァーー"という2stエンジン独特の甲高い排気音が聞こえてきた。
そしてその音も、じきに俺達が居る峠の頂上付近の駐車場にやって来た。

  _
( ゚∀゚)「よう、待たしたな」


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:09:10.42 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「遅ェよ、ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「つか、何でそんな暑苦しい格好してるんだ?」

川 ゚ -゚)「安全の為だ」
  _
( ゚∀゚)「まァ、クーは下手糞だからな」

川 ゚ -゚)「ストレートに酷いことを言うな、君は」
  _
( ゚∀゚)「で、そっちの野郎は何で?」

/ ゚、。 /「言うな、少し後悔してるんだから。
      それにクーの言うとおり安全なんだからいいじゃないか」
  _
( ゚∀゚)「確かにそうだわなw」


ヘラヘラと笑いながらジョルジュは言う。
そんなジョルジュを視界の隅に収めつつ俺は立ち上がり、
アスファルトの上に転がしてあったヘルメットを手に取った。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:12:10.75 ID:5i2cdT2X0

日の光に晒されていたヘルメットは熱を帯びていて、被るのが少し躊躇われた。
しかし、そんなことを言っていては此処に来た意味が無い。
俺は意を決して、ヘルメットに頭を押し込んだ。

案の定、頭だけサウナに入ったようだ。


/ ゚、。 /「じゃあやるか」


ジョルジュに向かってそう言って、俺は愛車のRGV250Γのエンジンを掛け、グローブを着けた。

  _
( ゚∀゚)「よっしゃ、じゃあ何時も通り、負けたらジュース奢りな」

/ ゚、。 /「おk、望むところだ」


俺達はクラッチを繋ぎ、横並びになって峠道に繰り出して行った。


※2stエンジン:2ストロークエンジンの略。簡素な構造と一回転に一度の爆発間隔が特徴。
※NSR350R:ホンダのレーサーレプリカ。250cc。
※RGV250Γ:スズキのレーサーレプリカ。250cc。

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:15:08.18 ID:5i2cdT2X0
     ・     ・     ・

左コーナーが目前に迫り、伏せていた上体を起こす。
途端に、空気のカベが俺を後ろに吹き飛ばそうとする。

前のコーナーで、一度俺を抜いたジョルジュを追い越し、今は俺が前に出ている。

ジワッとブレーキレバーを引く。
フロントサスペンションが沈み込み、路面の状態を教えてくれる。
今度は減速Gが、俺を前方に振り落とそうとするが、それをニーグリップで抑え込んで、
倒し込みのタイミングを探る。

ジョルジュは立ち上がり重視のラインを取り、インから俺の前に飛び出していった。

  _
( ゚∀゚)「うォらァァアア!」


センターラインぎりぎりからブレーキを緩める。
それと同時に左ステップを踏み込み、ハンドルを一瞬右にこじる。
車体は倒れるように綺麗に寝て、左コーナーを旋回していく。


※ニーグリップ:タンクを両膝で挟むことによって、体を支える。
※ライン:走行ライン。タイヤの通る道だとでも解釈してくれ。
※イン・アウト:コーナーの内側と外側。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:18:06.42 ID:5i2cdT2X0
ラインをクロスさせ、ブレーキを完全にリリースし、コーナーの丁度真ん中辺りから、
徐々にスロットルを開けていく。
荷重がリアに移り、リアサスペンションが沈んでいく。
荷重を受けたリアタイアは、路面を掴みさらにグイグイと車体を旋回させる。

再びラインがクロスする。

車体がやや起き上がったところでフルスロットルを与える。
ここで再び俺とジョルジュは横並びになった。

次は緩い右コーナーが迫る。
インを突いた俺は立ち上がりでジョルジュの前に出た。


/ ゚、。 /「しゃあ!」


ジョルジュは俺の後ろをピッタリと追走する。
S字コーナー、左ヘアピンをそのまま駆け抜け、緩い右コーナー。
インを突こうとするジョルジュを押さえて、更に右コーナー。
立ち上がりはほぼ同時で、ここで再び横並びになる。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:21:07.54 ID:5i2cdT2X0
  _
( ゚∀゚)「うりャァァアア!」


次いで左コーナー。
下りだと出口に向かってRがきつくなる厄介なコーナーだ。
既にインに居るジョルジュは俺を抑え、コーナーを抜ける。

  _
( ゚∀゚)「やりィ!」

/ ゚、。 /「畜生」


俺はヘルメットの中で悪態を吐き、シールド越しに次のコーナーを睨みつける。
アクセルを閉じてブレーキング、シフトダウン。
抜かれたらまた抜き返してやるさ。

インを突こうとする俺をジョルジュは抑える。
ならば今度はアウトから。
矢継ぎ早に迫るコーナーを、俺達は矢のように駆けて行った。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:24:07.89 ID:5i2cdT2X0
     ・     ・     ・

/ ゚、。 /「あ、コーラ切れてんじゃねぇか」


峠を下ったところにまたある駐車場。
そこに一つしかない自販機のコーラのボタンには、『売り切れ』の文字が赤く光っていた。
仕方が無いので、俺はスポーツドリンクと、ジョルジュに頼まれたコーヒーを買う。

結局あの後ジョルジュを一度追い抜いたのだが、再び抜かれ、そのまま抑えられて負けてしまった。


川 ゚ -゚)「私はお茶にでもするか」


そう言いながら、クーは俺が買った後に自販機でお茶を買っていた。
クーはまだ俺達と張り合えるようなレベルじゃないので、俺達の賭けには参加してない。
今日も、俺達がゴールした大分後にこの駐車場に着いたのだった。


/ ゚、。 /「ほらよ」
  _
( ゚∀゚)「おう、サンキュ」


俺はアスファルトの上に直に胡坐をかいていたジョルジュに向かってコーヒーを投げ、すぐ近くの車止めに腰掛けた。
プシュッ、と軽い音を立てて缶を開ける。
既に喉はカラッカラだったので、俺はゴクゴクと音を立て一気に飲み干した。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:27:09.24 ID:5i2cdT2X0

クーは自分の愛車、CB400SFに寄りかかり、俺等を眺めながらお茶のペットボトルの栓を開ける。
そして一口飲んだ後、おもむろに口を開いた。


川 ゚ -゚)「しかし早いな君達は」

/ ゚、。 /「いや、喉が渇いてたから」

川 ゚ -゚)「そっちじゃない、バイクのことだ」


首を横に振りながらクーは言う。

  _
( ゚∀゚)「なんだ? 改まって」

川 ゚ -゚)「いや、今日こそはと思ってしゃかりきになって飛ばしたんだがな。
     サッパリ着いていけなかったよ」

/ ゚、。 /「クーもどんどん上手くなってると思うよ」

川 ゚ -゚)「そうか? 嬉しいことを言ってくれるな」
  _
( ゚∀゚)「でも気ィつけろよ」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:30:07.26 ID:5i2cdT2X0

空になったコーヒーの缶をゴミ箱に放り投げるジョルジュ。
その空き缶は綺麗な放物線を描いたのだが、ゴミ箱の口に弾かれ、あさっての方向に飛んでいってしまった。
仕方なしにジョルジュは立ち上がり、それを拾いに行きながら話しを続ける。

  _
( ゚∀゚)「俺達はこれでもまだ余裕をもってやってんだからな。
     絶対に無茶な走りはするんじゃねェぞ?」

川 ゚ -゚)「大丈夫だ。そこのところは充分心得ている」
  _
( ゚∀゚)「ならいいんだけどよ。
     ……あれ、内藤さん」


ジョルジュが空き缶を拾い、顔を上げるとそこに一人の男が立っていた。


( ^ω^)「おいすー」


愛想の良い笑顔を向ける恰幅のいい男。
この人もこの峠の常連で、近くでバイク屋の店主をしている。
俺達もいろいろとお世話になっている人だ。

  _
( ゚∀゚)「一人でどうしたんですか?」

( ^ω^)「君達が居るかもしれないと思って来たんだお」


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:33:32.66 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「俺達が、ですか?」


怪訝な顔をする俺やジョルジュ、クーを見回して内藤さんは話し始める。


( ^ω^)「最近、おかしな奴がこの峠に出るんだお。君達はもう聞いたことがあるかお?」

/ ゚、。 /「おかしな奴ですか……初耳ですね」

( ^ω^)「そうかお……丁度2週間くらい前からなんだお、そいつが出るのは。
       僕の仲間が一人でここを攻めてたとき、そいつが急に現れて、執拗に煽られたらしいんだお。
       それに頭に来て、振り切ろうとして飛ばしたら、そいつも追ってきて……」

( ^ω^)「右コーナーでインに着かれたそうだお
       それで、そいつはあるタイミングで急にアウトに寄ってきたらしいんだお。
       結果、僕の仲間はガードレールに突っ込む羽目になったんだお」

/ ゚、。 /「……酷い話ですね」

( ^ω^)「幸い、突っ込む前にバイクを投げ出したお陰で、彼は軽傷ですんだけど、
       バイクはグチャグチャだったお。
       彼は言っていたお」

( メ・∀・)『気付いたら、止まることも曲がることも出来なくなってた。
      アイツはそういうギリギリのタイミングを知っているんだと思う。
      一歩間違えば自分もガードレールに刺さるだろう。恐ろしいテクニックだ。
      そんなことをやるなんて、最低の糞野郎だよ』


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:36:27.63 ID:5i2cdT2X0

( ^ω^)「って。本当に、これはただの犯罪者だお」
  _
( ゚∀゚)「とんでもねェカス野郎だな。死人が出てもおかしくねェぞ」


しかめっ面をしてジョルジュは言う。


( ^ω^)「今のところ、4人がやられていて、重傷を負った人もいるお。
       僕の仲間の時みたいに煽ってくるときもあれば、
       急にコーナーで現れてインを突いてそのままドカン、ってパターンもあるらしいお。
       君達も、気をつけるお」


最後の言葉は語気を強めて、内藤さんは言った。


川 ゚ -゚)「気をつけろとは、どうすればいいんですか?」

( ^ω^)「横に現れたら、すぐに止まるぐらいに減速することだお。
       とにかく、張り合おうとしちゃ駄目だお。
       特に、ダイオード君とジョルジュ君は上手いのはわかっているけど、
       挑発に乗ったりしないようにするお」

/ ゚、。 /「わかりました。ソイツは何に乗ってるんですか?」


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:39:15.26 ID:5i2cdT2X0

( ^ω^)「黄色いYZF−R6らしいお。
       それに黄色いヘルメットでかなり目立つらしいから、すぐにわかると思うお」
  _
( ゚∀゚)「とことん悪趣味な野郎ってことだな」

( ^ω^)「じゃあ、伝えることは伝えたから僕はもう帰るお。
       気をつけるんだお」
  _
( ゚∀゚)「有難う御座いました」

( ^ω^)「いえいえ、だお」


そう言いながら内藤さんは近くに停めてあった自分の軽トラに乗り込み、
最後に窓から俺達に向かって手を振って、行ってしまった。


川 ゚ -゚)「物騒な話だな」


内藤さんの軽トラが峠道に消えていく様を見詰めながら、クーは呟く。

  _
( ゚∀゚)「内藤さんがわざわざ忠告に来たっちゅうことは、よっぽどのことなんだろうな」

/ ゚、。 /「そうなんだろうな」

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:42:05.68 ID:5i2cdT2X0

川 ゚ -゚)「まあ、だからって変なことは考えないでくれよ?」

/ ゚、。 /「変なことって?」

川 ゚ -゚)「とっ捕まえてやろう! とか」
  _
( ゚∀゚)「へ、そんな物好きなことしねェよ」


そう言うと、ジョルジュは自分のバイクのミラーに引っ掛けてあったヘルメットに手を掛けた。

  _
( ゚∀゚)「じゃ、気をつけるってことで。とにかく走ろうぜッ!
     よく考えたら、俺達まだ殆ど走ってねェじゃねェか」

/ ゚、。 /「……そうだな」


俺は立ち上がり、空き缶をゴミ箱に向かって放った。
そして傍らに置いてあったヘルメットを被り、愛車に跨る。
エンジンは唸りを上げ、再び走れることを喜んでいるようにも見えた。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:45:04.55 ID:5i2cdT2X0
  _
( ゚∀゚)「しゃ、行くぞ〜」

川 ゚ -゚)「ああ」


ジョルジュを先頭に、3台のオートバイは夕方の峠道に繰り出して行く。
今度はお互い張り合わず、各々自分のペースで走り始める。

俺は走りながら、内藤さんのさっきの話を頭の中で転がしていた。
まあ、現実味のある話じゃないよなぁ……苦笑いしながら、俺はヘルメットの中で呟く。

でも、内藤さんのあの真剣な顔を思い出すと、何か不安のようなものも覚えた。
胸がザワつく。
何か悪い予感がする。
もっとも、俺の予感なんてもの、当たったためしは無いのだが。

そんなことを考えていたら、いつの間にかペースが落ちていて、気付いたらクーと一緒にチンタラ走っていた。
ん〜、あまり気にしないようにするべきか?
内藤さんには少し申し訳ないけど。
遠くからは、ジョルジュが攻める"パァァァーー"という威勢のいい音が聞こえてきた。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:48:17.19 ID:5i2cdT2X0
     ・     ・     ・

川 ゚ -゚)「今日は走りに行くかい?」


次の日の高校の放課後、クーは相変わらずの仏頂面で俺の前に現れ、開口一番そう言った。
最近装備を揃えて峠デビューを果たしたクーは、どうにも燃えているらしい。
これで連続3日目だ。

俺は机の上に広げたバイク雑誌の上に突っ伏したまま、「どうしようぇ〜…」と呻いた。


川 ゚ -゚)「どうした、死人のような声を出して」

/ ゚、。 /「暑うぇ」


そう、今日は胸糞悪いほど暑いのだ。なんか幽霊とか普通に出てきそうだ。
こんな暑い日にわざわざ暑苦しい格好して峠に行くのも、なんだかなぁ……


川 ゚ -゚)「じゃあダイオードは行かないんだな?」

/ ゚、。 /「どうしようぇ〜…」

川 ゚ -゚)「う〜む……ジョルジュはどうだ?」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:51:05.35 ID:5i2cdT2X0

煮え切らない返事しかしない俺に愛想を尽かし、クーは俺の斜め後ろの席のジョルジに声を掛けた。
ジョルジュは机の上に足を投げ出し、下敷きで顔をパタパタ仰ぎながら暫く悩んでいた。

  _
( ゚∀゚)「ん〜……」

川 ゚ -゚)「どうだ?」
  _
( ゚∀゚)「ダイオードも行かねェんなら、パス」

川 ゚ -゚)「そうか……」


ジョルジュの答えに、少し落胆にた様子でクーは呟く。


川 ゚ -゚)「なら仕方が無い、一人で行くとするか」

/ ゚、。 /「そううぇ……あ゙」


俺はふとあることを思い出し、顔を上げてクーの方を向いた。
忘れようか忘れまいか昨日悩んで、結局忘れ切れなかったそれを。
汗で頬にくっ付いていた雑誌のページが、ビリッと音を立てて破けた。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:54:16.89 ID:5i2cdT2X0

川 ゚ -゚)「? 何だ?」

/ ゚、。 /「内藤さんが言ってたアレ、気をつけろよ」

川 ゚ -゚)「それか。大丈夫だよ」

/ ゚、。 /「……」

川 ゚ -゚)「何だ、私の顔に何か付いているのか?」


暫くの沈黙。


/ ゚、。 /「やっぱ俺も行くわ」

川 ゚ -゚)「…どういう風の吹き回しだ?」

/ ゚、。 /「何か、嫌な予感がするんだ」


クーは怪訝そうな面持ちで俺の顔を覗き込む。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 21:57:04.70 ID:5i2cdT2X0

川 ゚ -゚)「……何だそれは」

/ ゚、。 /「いや、なんとなくそんな感じが…」
  _
( ゚∀゚)「何だテメェ超能力者にでもなったつもりか?」


後ろでジョルジュが喚いた。


/ ゚、。 /「そんな予感、当たりっこないのはわかってるさ。
      俺は超能力者でも霊能力者でもないからな。
      だけどまあ、そんな予感がしたときぐらい一緒に行くのも悪くは無いと思わないか?」
  _
( ゚∀゚)「なんだそれ」

/ ゚、。 /「よし、じゃあジョルジュも行くぞ」
  _
( ゚∀゚)「え、俺……」


眉を顰めながら、ジョルジュは俺とクーの顔に交互に視線を向ける。

  _
( ゚∀゚)「まあ、ダイオードも行くって言うんなら俺も行こうかね」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:00:20.00 ID:5i2cdT2X0
     ・     ・     ・

/ ゚、。 /「あ゙〜暑い」


やっぱりやめときゃ良かった……
照りつける太陽を恨めしく思いながら俺はぼやいた。
今日は反省して夏用ジャケットを着てきたが、それでも気温より涼しくはならない。


/ ゚、。 /「はぁ……」


溜息を一つ吐く。
いらない心配を勝手にして、挙句こんな後悔してるんだからな……
そう思うと、どこからか自嘲的な笑いが込み上げてきて、気色悪くもヘルメットの中でヘラヘラ笑ってしまった。
何だよ、悪い予感って。

とにかく暑さにダレていて集中力が湧かないものだから、俺はクーの後ろをゆっくり走っていた。

しかし、俺からすればゆっくりと言えるペースだが、クーは結構頑張っているのだろう。
前を走るクーの背中から、懸命さが伝わってくる。
いつも無表情で、顔からは何を考えてるのか今一つわかり辛いクーも、成る程、背中を見りゃわかるのか。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:03:09.82 ID:5i2cdT2X0

そんなことを考えながら左コーナーを回る。
何処かぎこちなさを感じるクーのフォーム。

コーナーを抜ける。
前の方から、ジョルジュのNSRの弾けるような排気音が聞こえる。
調子よく走っているジョルジュとすれ違うのは、これで何度目だろうか。

次の右コーナーが迫ってくる。
一層大きく聞こえてくるジョルジュの音。
それに混じって、後ろから聞こえてきたのは、どこかレーシングエンジンっぽさのある悲鳴の様な排気音。

なんか耳障りだ。聞きなれない音だな……?

不思議に思ってサイドミラーに目を遣る。

映っていたのは…………黄色い車体?

ソイツは、ペースの遅い俺を容易に抜かしていく。

目の前に現れたソイツの頭に、はっきり見えたのは黄色いヘルメット――

ソイツはコーナー手前でクーの右側、イン側に滑り込む。

横並び――

さっきまであれほど暑かったはずなのに、気味の悪い寒さが全身を包んだ。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:06:09.41 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「クー!! 止まれぇぇぇえええ!!」


俺は咄嗟に、喉を痛めそうなくらいの大声で叫んだ。

その声は届いたのか、いや届いていないだろう、何せ4台ものバイクの騒音の中だ。
畜生……
冷や汗が頬を伝う。


川 ゚ -゚)「!?」


しかし、クーはブレーキを掛けた。

鋭く光を放つCBのテールランプ。
減速を始める車体。

だが、黄色野郎も速度を合わせる。
黄色野郎のバイクはタイヤ半分だけ前に出て、左、クーの方ににじり寄る。

最悪の結果が脳裏をよぎる――

が、強いブレーキングにより、クーはコーナー入り口で充分速度を落としていた。
良かった、これなら止まれる。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:09:13.47 ID:5i2cdT2X0

黄色野郎もそれを把握したのか、諦めたようで、スロットルを開けコーナーに侵入していく。
俺はクーに追突しないように減速しながら、心の中でホッと胸を撫で下ろした。


――――束の間、"キャッ"という心臓に悪い耳障りな音が響いた。

同時に、CBのリアタイヤが激しく横滑りし始める。
恐らく、クーはリアブレーキを強く掛けすぎたのだろう。

糞、頼むから収まってくれ……!

心臓が縮み上がるような感覚を覚えながら、俺はひたすら祈った。
ただ祈ることしか出来ない悔しさに歯噛みしながら。

しかしそんな祈りも虚しく、目の前でクーの操るCBは遂にバランスを崩す。


/ ゚、。 /「糞ッ!」


投げ出されるクーの体。
思わず目を背けそうになる。
火花を散らし、アスファルトの上を滑っていくバイク。
そのままバイクは、カードレールに"ガシャ"と音を立ててぶつかった。

糞、糞、あの野郎……!


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:12:27.98 ID:5i2cdT2X0

俺はすぐにバイクを停め、クーの元に駆け寄ろうとする。
そのとき丁度、反対側からジョルジュが現れた。

ジョルジュは転がったバイク、倒れているクー、俺を見回す。
何が起きたか咄嗟に理解したのか、ジョルジュはすぐに急停止した。

  _
(#゚∀゚)「野郎ォォォオオオ!!!」


この喧騒の中でもハッキリ聞こえる程の大声を張り上げるジョルジュ。
そしてアクセルターンを極め、急加速して来た道を戻っていく。
恐らく、すれ違ったばかりのあの黄色野郎を追っていったのだろう。


/ ゚、。 /「クー! 大丈夫か!?」

川 ゚ -゚)「ああ。ちょっと手を貸してくれ」


「ほら」と俺は右手を差し出す。
すると、クーはその手を取り、若干ふらつきながらも立ち上がった。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:15:15.80 ID:5i2cdT2X0

「ほら」と俺は右手を差し出す。
すると、クーはその手を取り、若干ふらつきながらも立ち上がった。


/ ゚、。 /「よかった、とりあえずは大丈夫そうだな」

川 ゚ -゚)「ああ。速度も出てなかったし、ハイサイドにもならなかった。
     それに上手くバイクから逃げれたしな。
     ちょっと腰を打った程度だ」


そう言うと、クーは腰を擦りながら自分のバイクへと歩み寄っていく。
エンジンが掛かったままの車体は細かく振動し、リアタイヤは虚しく宙を掻いていた。


川 ゚ -゚)「……手伝ってくれるか?」

/ ゚、。 /「いや、俺一人で充分だ。怪我人はさがってろ」


俺はエンジンを止め、腰を落としクーのバイクに手を掛けると、一気に引き起こした。
車体の下にはフロートから漏れ出たガソリンで水溜りが出来ていた。
漂う刺激臭が鼻を突く。


川 ゚ -゚)「すまないな。どうだ?」


※フロート:エンジンに送り込むガソリンを溜めておくところ。

48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:18:10.04 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「……ああ、自走出来そうだな」


俺は破損箇所を調べながら答えた。
念の為にとクーが着けていたエンジンガードが活躍したようで、走行に支障をきたす様な損傷は見られなかった。


川 ゚ -゚)「そうか。それは良かった」


おかしな方向を向いたサイドミラーを直しながら、淡白にクーは言う。


/ ゚、。 /「よくねぇよ」


クーの横顔を見詰めながら俺は呟いた。
いいわけないだろ。
その声はクーに届いていたようで、クーはミラーの擦り傷から俺の顔に視線を移した。


/ ゚、。 /「よくねぇ。あの野郎、ジョルジュがとっ捕まえてきたら……」

川 ゚ -゚)「……顔が怖いぞ、ダイオード」


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:21:09.27 ID:5i2cdT2X0

そう言いながら、クーは自分の眉間を指でトントンと突いて見せる。
気付かぬ内に、怒りで皺が寄っていたようだ。
しかし俺は更に眉間の皺を深くして見せる。
するとクーは呆れ顔をし、一つ溜息を吐いた。


川 ゚ -゚)「……私が今一番懸念しているのは、自分の体でもバイクでもなくて、君達なのだが。
     怒りに任せて危ないことをするのはやめてくれ。
     自分の心配もままならないぞ」

/ ゚、。 /「でもよ……」

川 ゚ -゚)「追っていったジョルジュのことも心配だ。何も無ければいいが」


「でも」ともう一度俺が言おうとした丁度その時、ジョルジュがコーナーの向こうから現れた。
低回転でトロトロ走っていたようで、音がいつもよりずっと静かだった。

  _
(#゚∀゚)「畜生、あの野郎!」


バイクを停め、降りると同時にジョルジュは叫ぶ。
そして、心成しか左足を引きずるような歩き方で俺とクーに近寄ってきた。

51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:24:08.15 ID:5i2cdT2X0
  _
( ゚∀゚)「クー、大丈夫か?」

川 ゚ -゚)「ああ、ちょっと革ツナギを痛めた程度だ。高かったのにな」

/ ゚、。 /「ジョルジュ、どうだった?」
  _
( ゚∀゚)「どうもこうもねェよ、畜生」


ジョルジュはヘルメットを脱ぎながらそう言い捨てる。

  _
( ゚∀゚)「追い駆けてったら、チンタラ走ってたみてェで、すぐに追いついたんだよ。
     で、『この糞野郎ッ!』とか言いながら次のコーナーでインを突いて抜かしたんだよ。
     だけど上りだったからパワー負けして、それで抜かされそうになったんだけど……」


手でジョスチャーを加えながらジョルジュは話す。

  _
( ゚∀゚)「あの野郎、抜かさないで俺の横にピッタリ着いてきやがった。
     今思えば、ブレーキ掛けて離れるべきだったのかもしれねェ。
     でも俺は頭に血が上ってて、そのまま必死になってアクセル開けてたんだよ」


右手首をクイクイッと捻って、アクセルを開ける手つきを真似して見せる。


53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:27:32.47 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「それで?」
  _
( ゚∀゚)「で、次の右コーナーでだ、あの野郎急に俺の方に寄ってきやがって、
     危なくガードレールに突っ込むところだった。
     そんで、俺は咄嗟にガードレールを蹴っ飛ばして何とか立て直したんだよ」

川 ゚ -゚)「無茶をするな、君は」
  _
( ゚∀゚)「だけどお陰で足痛ェし、野郎に逃げられるし最悪だよ」

/ ゚、。 /「だからさっきから歩き方が変なのか」


ジョルジュはぶっきらぼうに「そうだ」とだけ答える。
余程悔しかったのだろう、ジョルジュは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

  _
( ゚∀゚)「クソッ、もうちょい冷静だったら曲がれたのに」

/ ゚、。 /「曲がれた?」
  _
( ゚∀゚)「ああ。冷静だったら、あれでもガードレールに突っ込まないでギリギリ曲がれたはずだ。
     野郎かなりの腕だったが、純粋にコーナー曲がるだけならマシンも技量も俺の方が上だ。
     コーナリングじゃ600ccよりも軽い2st250ccの方がよっぽど有利だしな」


55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:30:50.51 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「そうか……」
  _
( ゚∀゚)「俺が曲がれたっていうことは、お前も大丈夫なはずだ。
     次に見つけたら……」


そうジョルジュが言いかけたとき、珍しくクーが声を荒げた。


川 ゚ -゚)「だから危ないことはしないでくれと言っているだろう!」


俺もジョルジュも驚いてクーの方を見る。
その顔こそいつもと変わらない無表情だったが、怒っているのだけは伝わってきた。

俺とジョルジュは顔を見合わせる。
こんなことは滅多に無い。それにジョルジュは俺とクーのやりとりを見ていない。
ジョルジュは「なんなんだ?」と目で俺に問いかけてくる。

俺は答えに詰まってしまった。
気まずい沈黙が辺りを包む。

それを破ったのは、俺でもクーでもジョルジュでも無く、1台の車だった。


<#`∀´>「何処に突っ立ってるニダー! 危ないニダー!」


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:33:06.84 ID:5i2cdT2X0

運転手はクラクションを鳴らしながら、窓から顔を出して怒号を飛ばす。

思えば、俺達はずっと道の真ん中に居たのだ。
3台もオートバイを並べて。
滅多に車の通らない場所なので、そのことをうっかり忘れていた。


/ ゚、。 /「クー、運転出来るか?」


俺はファビョる運転手を無視してクーに声を掛ける。


川 ゚ -゚)「ああ、大丈夫だ」


腰を一捻りしてクーは答えた。

60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:36:05.32 ID:5i2cdT2X0
  _
( ゚∀゚)「これからどうする?」

/ ゚、。 /「……流石に走るってわけにはいかないな。解散するか」
  _
( ゚∀゚)「わかった」

<#`∀´>「さっさと退くニダー!」


俺達は各々バイクに跨り、ジョルジュを先頭に峠道を下っていった。
後ろからは、叫び声が木霊して聞こえてきた。


<#`∀´>「一言位謝ったらどうニダ! 謝罪と賠償を要求するニダ!」
  _
(#゚∀゚)「うるせェ!」


62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:39:04.92 ID:5i2cdT2X0
     *     *     *

(;'A`)「なんだったんだアイツは……」


ガードレールを蹴り飛ばして転倒を避けやがった……
俺の『ガードレール送り』で転ばなかった奴はアイツが始めてだ。

――面白くなったきた。


('∀`)「フ…フヒ…フヒヒヒヒ」


俺は思わずヘルメットの中で笑ってしまった。
くだらない『遊び』を、盛り上げてくれるなら……大歓迎だ。


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:42:12.06 ID:5i2cdT2X0
     *     *     *
  _
(#゚∀゚)「絶対に許せねェ! とっ捕まえてブッ殺してやるッ!」


俺の机に拳を叩きつけながらジョルジュは怒鳴る。
次の日の高校の休み時間、昨日の今日で3人が集まれば話題は決まっていた。

昨日俺が解散の判断をしたのは、3人の頭を冷やす為と、これからどうするか少し一人で考えたかったからだ。
しかしジョルジュは冷めるどころか逆に熱くなっていて、朝からずっと騒いでいた。


/ ゚、。 /「そうだジョルジュ、お前アイツのナンバー覚えてるか?」
  _
( ゚∀゚)「いや、あの野郎、ナンバープレートを着けてさえいなかったぞ」

/ ゚、。 /「そうか……」
  _
( ゚∀゚)「何かとっ捕まえるいい案ないのか?」

/ ゚、。 /「待ち伏せして網でも掛けるか?」
  _
( ゚∀゚)「なんだそれ。…まあでも使えそうかもな……」


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:45:04.49 ID:5i2cdT2X0

そう言うと、ジョルジュはなにやら思いついたのか、神妙な面持ちで一人ブツブツ呟き始めた。
俺はそんなジョルジュを視界の端に収めながらクーの方を見る。
クーは何処か不機嫌そうな顔をして、黙って俺達のやりとりを聞いていた。

俺は視線をジョルジュに戻し、徐に話し始める。


/ ゚、。 /「でも俺はそんなんじゃなくて、あの野郎を同じ目に遭わせてやりたい。
      アイツがクーや内藤さんの仲間にやったことを、アイツ自身にも味合わせてやりたい」


俺がそう言うと、ジョルジュは目を丸くし、俺の顔を凝視する。
クーも驚いたようで、視線を俺に向けた。

熱くなっていたのは、ジョルジュだけでなく俺もであった。
どうやってアイツを捕まえるか、復讐するか、昨日考えていたのは結局そればかりだった。

  _
( ゚∀゚)「言うじゃねェか、ダイオード。同感だ」


ジョルジュはニヤリと笑い、俺の肩を叩く。

  _
( ゚∀゚)「そうだよな、自分のやった事の重大さをわからせてやらないとなァ!」


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:48:04.68 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「ああ。
      相手は最新600cc、こっちは俺達とほぼ同い年の古めかしい2st250cc。
      だけど、向こうが本当に性能を発揮出来るのはサーキットだけだ」
  _
( ゚∀゚)「それに車重も30キロも軽いしな。曲がりくねった峠道じゃ、かなりの武器になる。
     それとコーナリングスピードの限界も恐らく俺達の方が上だ。
     昨日、アイツを追っかけたとき確信した」

/ ゚、。 /「やるとしたら下りだな。下りならパワー差を埋められる。
      2人で追いかけて、何とかしてコーナーでアイツをアウトに弾き出す。
      向こうも、そう簡単にコーナーでインに着かせないだろうから、色々作戦は……」


そう言いかけたとき、横でクーが長い溜息を吐いた。
そして俺達の顔を順に見詰め、遂に口を開いた。


川 ゚ -゚)「ダイオード、ジョルジュ、昨日も言っただろう?
     危ないことは止めてくれ。私の為だって言うんなら尚更だ」
  _
( ゚∀゚)「だけどよォ……」

川 ゚ -゚)「君達がライディングが上手くて速いのは充分わかっている。
     だけど向こうは、速く走る為じゃなくて人を傷つける為の技術を磨いている奴だ。
     君達にそんな技術は無いだろう?」


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:50:06.62 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「だから問題なんだよ。
      一般人から見れば、峠を攻めること自体、危険行為だ。
      それでも俺達は最低限の安全を確保してやってるんだよ」


クーの目を見据え、俺は話続ける。


/ ゚、。 /「そこに、わざわざ危険を持ち込んでくるような奴を許してはおけない。
      何も、お前がやられたからって訳じゃないんだ」

川 ゚ -゚)「だとしても、警察にでも任せればいいだろう? 君達がやることじゃない」

/ ゚、。 /「ローリング行為に興じているような俺等は警察に顔向け出来ない。
      それに警察がすぐ動くとは思えない」

川 ゚ -゚)「良い訳だ、そんなの!」


クーが声を荒げる。


川 ゚ -゚)「餓鬼みたいなことは言わないでくれ」
  _
( ゚∀゚)「お前らしくないぞ、クー」


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:53:04.65 ID:5i2cdT2X0

川 ゚ -゚)「何がだ?」
  _
( ゚∀゚)「デカイ声出してるところとか」

川 ゚ -゚)「それは私でも大きい声を出したくなるときぐらいある。
     珍しいと思うなら、それほど重大だと言うことだ」
  _
( ゚∀゚)「ふーん、そうか。
     だけどお前、自分がやられて過剰に臆病になってるだけじゃないのか?」

川 ゚ -゚)「そんなことは無い」
  _
( ゚∀゚)「そうかよ。まあアレだ、クー」


そう言いながら、ジョルジュはクーの頭にポンと手を置く。

  _
( ゚∀゚)「俺達が引き下がると思うか?」

川 ゚ -゚)「……思えない」


ジョルジュの手を振り払いながらクーは答える。


川 ゚ -゚)「だが頼む」


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:56:06.39 ID:5i2cdT2X0

ふーん、とジョルジュは鼻を鳴らし、俺の方に向き直る。
「どうするか決めてくれ」
ジョルジュの目はそう言っていた。


/ ゚、。 /「なあクー、俺達も馬鹿じゃない」

川 ゚ -゚)「充分馬鹿だ、君達は」

/ ゚、。 /「そうかもしれない。
      だけど、俺かジョルジュが『危ない』と判断したらすぐに止める。
      無茶なことは絶対にしないと約束する。
      それでいいだろ?」

川 ゚ -゚)「…………」


クーは結局何も言わなかった。
ただ黙って、不機嫌そうな顔をするばかりだった。

  _
( ゚∀゚)「……決まりだな。じゃあ早速今日やるか!」


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 22:59:55.26 ID:5i2cdT2X0

/ ゚、。 /「駄目だ」
  _
( ゚∀゚)「何で?」


ジョルジュは怪訝な顔をこちらに向ける。


/ ゚、。 /「お前の足が治ってからだ」
  _
( ゚∀゚)「それならもう大丈夫だよ、大丈夫」

川 ゚ -゚)「…………」
  _
( ゚∀゚)「……わかったよ」


それから数日間、ジョルジュは毎日のように「もう大丈夫だ。今日やるぞ」と喧しく言ってきたが、
俺はジョルジュが普段の歩き方に戻るまで待たせた。
ジョルジュが大人しく言うことを聞いたのは、クーの無言の圧力のお陰だったのかもしれない。

そして数日後、ジョルジュの足も治り、遂にその日がやって来た。


2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:04:05.68 ID:+u5raHzY0

いつも集合場所に使っている峠の頂上付近にある駐車場。
今日も俺達はそこに集まり、静かな峠でじっと耳を凝らしていた。

  _
( ゚∀゚)「……今日も現れねェのか?」

/ ゚、。 /「知らん」


俺がそう答えると、ジョルジュはつまらなそうな顔をして自分のバイクのタンクの上に突っ伏した。

これでもう三日目だ。
昨日も一昨日も張り込んでいたが、現れる気配すらなかった。
出て来て欲しいときに出て来ないとは、いやらしい野郎だ。

この糞暑い中、革ツナギを身に纏ってじっとしているのは堪える。
お陰で口数も減って、ジョルジュがたまに文句を言うだけになっていた。

なんだかんだで「心配だ」と言って着いて来たクーに至っては、
一言も喋らず、腕組みして自分のバイクに跨っていた。

  _
( ゚∀゚)「クソッ、また喉乾いたわ。もう金ねェよ」


そう言いながらジョルジュはバイクから飛び降り、だるそうに自販機まで歩いて行く。


3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:07:04.65 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「一昨日から何本飲んでるんだ?」
  _
( ゚∀゚)「覚えてねェよ」


背を向けたままジョルジュは答える。
しかし横にあるゴミ箱は、空き缶で一杯になっていた。


/ ゚、。 /「ついでに俺のも買ってくれ」
  _
( ゚∀゚)「何がいいんだ?」

/ ゚、。 /「コーラで」
  _
( ゚∀゚)「あいよ。クーは何か飲むか?」

川 ゚ -゚)「……いい」
  _
( ゚∀゚)「こうクソ暑いのに、何か飲まなきゃブッ倒れるぞ」


振り向き、眉を顰めてジョルジュは言う。
その手には、コーヒーとコーラと、お茶が器用に握られていた。


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:10:04.26 ID:+u5raHzY0
  _
( ゚∀゚)「ほらよ」

/ ゚、。 /「サンキュ」
  _
( ゚∀゚)「ほら、クー」


ジョルジュはクーのバイクのタンクの上にお茶の缶を置く。
クーは暫くそれを黙って見詰めていたが、やがて栓を開け一気に飲み干した。

そんな様子を見ながら俺もコーラの缶を開け、一口飲む。
そして徐に、バイクに括り付けてある腕時計に目を遣った。


/ ゚、。 /「……そろそろ、前にアイツが現れた時くらいの時間だな」
  _
( ゚∀゚)「そうなのか?」


ジョルジュは俺の側に来て、俺が見ていた腕時計を覗き込む。

  _
( ゚∀゚)「本当だ。
     あ〜あ、今日こそ出て来ねェかな? マジで」


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:13:04.20 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「何か聞こえてくるか?」
  _
( ゚∀゚)「全然」


首を横に振り、つまらなそうにジョルジュは答える。
それを見て、俺も肩を落とし、溜息を一つ吐いた。

やりきれねぇよ、ホント……


――そんな雰囲気の中で、さっきまでずっと黙っていたクーが突然口を開いた。


川 ゚ -゚)「何か……聞こえないか?」


俺もジョルジュも驚いてクーの方を見る。


川 ゚ -゚)「ほら、何か聞こえてくるぞ」
  _
( ゚∀゚)「嘘だァ、何も聞こえないぞ?」

川 ゚ -゚)「いいから静かに聞いてみてくれ」


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:16:13.30 ID:+u5raHzY0

そう言われて、俺とジョルジュは口を閉じて耳を澄ます。

すると、ほんの微かにだが、確かに何か聞こえてくる。
峠の静けさに混じった、ノイズの様な音が。


川 ゚ -゚)「だんだん……近づいてきていないか?」

/ ゚、。 /「……ああ、確かに」


クーの言う通り、音は徐々に大きくなってくる。
その音は、どうやら俺達がいつも走っている方向と逆、つまり山の反対側を上って来ているようだった。


/ ゚、。 /「ジョルジュ」
  _
( ゚∀゚)「あァ、コイツは聞き覚えがあるぜ」


ジョルジュは眉を吊り上げて応える。
さっきまで微かにしか聞こえなかったその音は、もう大きな叫び声の様な音になっていた。

高回転型エンジンを、目一杯回したときに出る独特の排気音。

ライダーがスロットルを開けるのを躊躇わせる、威圧感のある音だ。


7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:19:06.60 ID:+u5raHzY0
  _
( ゚∀゚)「ここまで回せる奴も、この峠にはそうはいねェ。
     十中八九あの野郎だな」


そう言うジョルジュは、既にヘルメットを被っていた。
俺もまだ中身が残っていたコーラの缶を放り投げ、ミラーに引っ掛けてあった自分のヘルメットを手に取った。


/ ゚、。 /「クー、お前はゆっくり着いて来い」

川 ゚ -゚)「……ああ」
  _
( ゚∀゚)「さて、待ち草臥れたぜェ」


エンジンを掛け、期待を込めて駐車場の入り口を睨みつける。
もう足音はすぐ近くまで迫っていた。

  _
( ゚∀゚)「来るぞッ」


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:22:04.45 ID:+u5raHzY0

ジョルジュが叫ぶ。
と同時に、一台のバイクが駐車場沿いの道路を走り抜けていく。

――見えたのは黄色い車体。

――黄色いヘルメット。

  _
(#゚∀゚)「行くぞッ!」


ジョルジュは鬨の声をあげる。
それに呼応し、エンジンの回転数を上げ、クラッチを一気につなぐ。
唸りを上げるエンジンを抱きかかえ、半ばフロントタイヤを持ち上げながら、
2台のレーサーレプリカは峠道に繰り出して行った。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:25:04.94 ID:+u5raHzY0
     *     *     *

('A`)「ん?」


急に後ろから聞こえ始めた2stエンジンの排気音。
それもかなり飛ばしているのか、甲高い音には殺気のようなものすら感じられる。
俺は不審に思い、身を捩って直接後ろを見た。

目に映ったのは、並んで猛然と加速する2台のマシン。

先行する一台は、なんとなく見覚えのある、黒いRGV250Γ。

それに続くもう一台は――――赤いNSR250R。


('∀`)「アイツか!」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:28:04.55 ID:+u5raHzY0

ガードレールを蹴り飛ばして、唯一俺の技を回避した赤いNSR。
アイツが向こうからやってきてくれた……!

嬉しくて笑い腹の底からこみ上げてくる。
顔のニヤけを抑えることが出来ない。


('∀`)「フヒヒヒヒ、今度こそ――


――今度こそ、路面の血のシミにしてやるよ。

俺はアクセルグリップを更に捻った。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:31:05.86 ID:+u5raHzY0
     *     *     *

/ ゚、。 /「捉えたぜ、この変態野郎」


駐車場を飛び出てから3コーナー目、やっと奴に追いついた。
向こうも俺達に気付いたのか、スピードを上げる。

だがそれでも充分追いついていける範囲だ。
恐らく、俺達を誘っているのだろう。
上等じゃねぇか。


/ ゚、。 /「俺が行く!」


俺は叫びながら、ジョルジュに向かって手で合図を出す。
ジョルジュが「了解」のサインを出すのを確認すると、更にスロットルを開け車体を加速させる。

風圧から逃げる為にカウルに深く潜り込む。
速度が上がるにつれ視力が落ちる。
俺は次に迫るコーナーをじっと見据えた。

左コーナー。
3台の連なったバイクはほぼ同時にブレーキングを始め、シフトダウンの度に甲高い音が峠に響く。
強引にインを突こうと、俺は何とか鼻先を奴の左側に潜り込ませようとするが、
奴はインをガッチリ塞いでそれを防ぐ。


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:34:06.57 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「簡単にはやらせてもらえねぇか」


俺は舌打ちして、コーナーの出口を睨みつけた。
まず、どうにかしてインにつくことが出来なければ、アイツをガードレールに突っ込ませることは出来ない。
1番単純なやり方じゃ、流石に無理なようだ。

3台縦に並んだままコーナーを立ち上がる。
アクセルグリップを引き千切れんばかりに捻る。

まるで生き物のように咆哮し、身震いする車体。
そのまま、短い急坂の直線を転がり落ちるように加速する。


/ ゚、。 /「此処で死んでも天国に行ける気がしないな」


俺はヘルメットの中で苦笑した。
同時に、ジョルジュに再び合図を送る。
サイドミラーに、頷くジョルジュの頭が映った。

次いで右コーナーが迫る。
前のコーナーと同じように俺はインを突こうとするが、奴もまたそれをブロックする。

互いに牽制しあうせいで、速度が落ちる。
その隙に、ジョルジュはアウトからコーナーに飛び込んでゆく。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:37:05.20 ID:+u5raHzY0
  _
(#゚∀゚)「うらァァアア!」


ジョルジュの馬鹿デカイ叫び声が木霊する。
俺や奴とは対照的に、良くスピードに乗っている。
易々と俺を抜かし、奴と横並びになった。

黄色野郎は頭を捻ってジョルジュを睨む。
俺の邪魔をしているせいで、奴はジョルジュに対処することが出来なかったのだ。


/ ゚、。 /「ざまあ見やがれ」


ジョルジュと奴が横に並び、後ろに俺が着いてコーナーを脱出し直線に躍り出る。
俺は少し置いていかれたが、立ち上がりで絶妙に速度が乗っていたジョルジュと奴の加速はほぼ互角。
この急坂とNSRの軽さも手伝ってくれているのだろう。
3台のバイクは珍しく距離のある直線を一気に駆け下る。

このまま次の左コーナーにジョルジュと奴の2台が並んで進入すれば、
さっきはアウト側だったジョルジュが今度はイン側になる。

スロットルグリップを握る手に力が入る。
タコメーターの針がレッドゾーンに飛び込んでも、パワーは衰えを知らず奴を逃がさんと更に加速する。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:40:05.12 ID:+u5raHzY0

次のコーナーが目の前に現れる。
ここでもまだ2台は横並び――


/ ゚、。 /「よし、いける……!」


しかし、奴はコーナーに入る前にフルブレーキングを敢行する。
鋭く光るYZFのテールランプ。
奴は慣性の法則に逆らいみるみる減速し、ジョルジュは奴の前に飛び出しコーナーに進入してしまった。

奴はそれを見計らい、ジョルジュの後ろにピッタリついてコーナーに入り、
ジョルジュ、黄色野郎、俺の順に3台並んで左コーナーを旋回する。

  _
(#゚∀゚)「畜生ッ!」


ジョルジュが悔しそうに自分のバイクのタンクに拳を叩きつけるのが見えた。

どうやら、俺達がしようとしていることは奴に勘付かれたらしい。
なら、むざむざやられてはくれないだろう。
なんとかして、奴を誘い出さなければならないな……
もうあの作戦しかない――


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:43:11.71 ID:+u5raHzY0

俺は2台前を行くジョルジュに向かって再びハンドサインを出した。


/ ゚、。 /「気付いてくれるか……」


そう危惧したが、ジョルジュは左手の親指を立てて見せた。

  _
(#゚∀゚)「やろうじゃねェか」


コーナーの出口で、俺は速度が落ちていた奴のイン側に滑り込む。
同時に、ジョルジュは少しスピードを落とし奴のアウト側に着ける。
これで3台横並びだ。

そのまま短いストレートを加速し、緩い右コーナーを掠めるように回り、今度は左ヘアピンコーナーが迫る。
俺は、他の2台より一足早くブレーキを掛ける。
一番内側を走っているので、旋回半径が小さくなってしまうのだ。
それともう一つ、理由があって――

ジョルジュと黄色野郎はそんな俺を置いて前に出る。
奴がイン側、ジョルジュがアウト側だ。
好機とばかりに、奴はアウトに、ジョルジュの方ににじり寄る――


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:46:10.51 ID:+u5raHzY0
  _
(#゚∀゚)「ヘッ!」


しかし、ジョルジュはタイヤ半分だけ奴の前に出ている。
一番外側を回るジョルジュは、旋回半径が大きい為、俺や奴よりスピードが速いのだ。
このコーナーでの主導権は完全にジョルジュの下にあった。

競り合いながらも、難なくコーナーを抜けていく。
俺は立ち上がり重視のライン取りをし、出口で再度奴のインに入る。
これで再び3台横並びだ。

すぐさま次のコーナーが迫る。
今度は右コーナー。
俺が外側だ。

ジョルジュは一足先にブレーキを掛ける。
俺と奴が飛び出る。
コーナリングの姿勢をとる。
ブレーキング――

激しい減速Gが全身を襲う。
油圧ピストンに押された4枚のブレーキパッドは高速で回るブレーキディスクを挟み、摩擦で焼けるように熱くなる。
サスペンションは縮み、フロントタイヤは荷重を受けて潰れる。

上手く前に出れた。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:49:04.71 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「よし!」


ブレーキを徐々に緩めながら車体を倒しこむ。
旋回――

奴が俺の方に寄ってくる。
負けじとそれを抑る。
繊細なスロットルワークで荷重をコントロールし、コーナーを回る。

コーナーの出口が見え、車体を起こす。
同時に、アクセルをガバッと一気に開ける。
エンジンはビリビリと振動し、パワーが湧き上がってくる。
リアタイヤは路面を蹴り、俺と車体を前へ前へと押し進める。
奴の左隣にジョルジュが現れた。

コーナーを脱出し、三たび3台横並びとなった俺達は、短い直線を滑り落ちるかの如く加速していった。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:52:05.46 ID:+u5raHzY0

     *     *     *

川 ゚ -゚)「ふ〜む……」


すっかり置いていかれてしまった。
あの2人と、黄色い男は速すぎる。


川 ゚ -゚)「悪いことになっていなければいいが……」


不安が募る。
幸い、遠くから威勢のいい排気音が聞こえてきているので、きっとまだ大丈夫なのだろうが。

あの2人の腕を信じていないわけじゃない。
実際、あの2人はこの峠の常連の中でも特に速いのだ。
互いに切磋琢磨した結果なのだろう。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:55:04.91 ID:+u5raHzY0

それでも、いや、だからこそ心配だった。
彼等にはその自負がある。
だから、ああ言っていたが絶対に引かないだろう。

私の言うことを聞くような耳は持っていないだろうしな。


川 ゚ -゚)「心配だ……」


でも……実は心の片隅に嬉しく思う気持ちもあったりする。

彼等は、私のためじゃないとは言っていた。
それはもしかしたら本心なのかもしれない。
だけど、半分ぐらいは私のためにやってくれていると思ってもいいだろう?


川 ゚ー゚)「……」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 21:58:04.14 ID:+u5raHzY0
     *     *     *

/ ゚、。 /「糞ッ……」


ヘルメットのシールド越しに路面を睨みつけながら俺は呟いた。

もう十数回もあの危険なコーナリングを続けている。
ドッグファイトならジョルジュと散々やってきたが、こういうラフファイトの経験は無い。
コーナーでアウト側になる度に、必死になって奴の攻撃を躱さなければならない。
更にこの暑さも手伝って、既に集中力が切れかけていた。

時々脳味噌の回転が止まる。
目が霞む。
糞ッ、もうすぐなのに……

次は右コーナー。
俺がアウト側だ。
ジョルジュは予定通りに早目にブレーキを掛ける。
ワンテンポ遅れて俺と奴もブレーキを掛ける――


/ ゚、。 /「! しまった……!」

32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:01:23.92 ID:+u5raHzY0

畜生、減速しすぎた……!
奴はタイヤ半分だけ俺の前に出る。
俺が前にいなければならないのに……!

奴が俺の方に寄ってくる。
俺の走行ラインを塞ぐ。
目の前には白く光を反射する剥き出しのガードレール――


/ ゚、。 /「畜生ッ……!」


奴は限界まで迫ってくる。
タイヤがガードレールの足を掠めた。
全身に戦慄がはしる――

もうすぐだってのに……!


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:04:05.07 ID:+u5raHzY0
………
……

  _
( ゚∀゚)「なあ、さっき言ってた『作戦』って何なんだ?」


クーが居なくなったのを見計らって、ジョルジュは俺に聞く。


/ ゚、。 /「ん? ああ、昨日色々考えてな。まずは……」


俺は自分の机にシャーペンで峠の概略図を描く。


/ ゚、。 /「下りでやるんだから、俺達は頂上の、ここのいつも使ってる駐車場で待ち伏せる。
      で、奴を見つけたら追いかけるわけだ」
  _
( ゚∀゚)「ふん」

/ ゚、。 /「そしたら、まずは簡単な方法を試してみようと思う。
      多少強引にでもインに着いて、アイツを弾き出す」


シャーペンで描いた概略図を突きながら俺は話す。

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:07:05.25 ID:+u5raHzY0
  _
( ゚∀゚)「でも簡単にインを取れるか?」

/ ゚、。 /「まあ難しいだろうな。
      そしたら、少し危険だけど一度アウトからいく。
      そうすれば次のコーナーじゃインが取れるだろう」
  _
( ゚∀゚)「なるほどね……2人でやるなら1人が牽制したりすれば上手くいきそうだな」

/ ゚、。 /「だけど、例えインを取れても相手に逃げられたら意味が無くなる」
  _
( ゚∀゚)「? どういうことだ?」

/ ゚、。 /「内藤さんが言ってたアイツに対しての対策があるだろ?」
  _
( ゚∀゚)「あの『すぐにブレーキを掛けろ』ってやつか」

/ ゚、。 /「そうだ。アレをやられたら意味が無くなる。
      自分の技のことぐらいは良く把握しているだろうから、躱される可能性は高い」
  _
( ゚∀゚)「じゃあどうすれば?」

/ ゚、。 /「アイツを嵌めるには、止まれないくらいの速度で並んでコーナーに進入しないといけない。
      簡単な方法を試して駄目だったら、アイツを『騙す』しかない」
  _
( ゚∀゚)「騙す?」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:10:04.37 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「ああ。
      アイツは最近になって現れた。ということは恐らく、あの峠の道を完全には覚えてないと思うんだ。
      だから、一見自然なように見える一定のアクションを見せ続けて、
      あるところで勘違いをさせようと思う」
  _
( ゚∀゚)「なるほどね〜」


関心したようにジョルジュは呟く。
俺はそんなジョルジュの声を聞きながら、図のある箇所を丸で囲んだ。


/ ゚、。 /「その『あるところ』ってのがここだ。
      普通峠道ってのは、左右のコーナーが交互に来るもんだが、ここは右コーナーが2回連続してる。
      それに、道の起伏や鬱蒼とした木なんかで見通しが悪い。騙すにはもってこいだろう?」

川 ゚ -゚)「成る程ねぇ」
  _
( ゚∀゚)/ ゚、。 /「「!」」


驚いて俺とジョルジュは同時に声のした方を向く。
なんと、俺達が話していたすぐ横に腕組みしてクーは立っていた。

  _
( ゚∀゚)「何時から居たんだ、オメェ?」

川 ゚ -゚)「ついさっきだ。君達の話し声が聞こえたんでな」

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:13:04.43 ID:+u5raHzY0

しかしクーはそれ以上何も喋らない。
黙って俺が書いた地図を見詰めていた。

暫く気まずい沈黙が続く。
耐えかねて俺はクーに聞いた。


/ ゚、。 /「言いたいことは無いのか?」

川 ゚ -゚)「私はもう何も言わないよ」


クーはそれだけ言うと、俺達に背を向けて教室の出口まで歩き始めた。
俺は立ち上がり、その背中に向けて声をかけた。


/ ゚、。 /「なあクー、今のところ俺にはこれ以上の案が思い浮かばねぇ。
      だから、これが駄目だったらその時は諦めるよ」

川 ゚ -゚)「そうか、好きにしてくれ」


クーは頭だけこちらに向けてそう応えた。
そのときの夕日に照らされたクーの顔が、俺にはなんだか残念そうに見えた。
なんでそんな顔をしたのか、いや、何でそう見えたのか、俺にはわからなかったが。


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:16:03.78 ID:+u5raHzY0

……
………

集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ集中しろ……

俺は歯を食いしばりながら自分にそう言い聞かせる。
集中すれば曲がれないことはない……
俺はジョルジュの言葉を思い出した。

全身の感覚が研ぎ澄まされる。
フレーム、タイヤ、サスペンションの状態が手に取るようにわかる。

一瞬の逆操舵。
車体を限界ギリギリまでバンクさせる。

自分の右膝が、右側を走る奴のバイクにぶつかった。
鋭い痛みに顔を顰める。
背中を一筋の冷たい汗が這う。

しかしそんなことには構っていられない。
タイヤのグリップ力の限界も近い。
フレームもたわんで悲鳴をあげている。

畜生、出口までもう少しだ――


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:19:16.42 ID:+u5raHzY0

要求されるのはとにかく繊細なコントロールだ。
荷重、スロットル操作、ハンドリング、どれか一つでもバランスを崩してしまえば、
後は曲がりきれずにガードレールに突っ込むか、タイヤを派手に滑らせ転倒してガードレールに突っ込むかだ。
どちらにしろ、グチャグチャのスクラップになることは免れないだろう。

俺は改めて全身の神経を集中させる。
自分の心臓の音が聞こえる。
早く、そしてやけに大きく。

全ての操作を、針の穴に糸を通すかの如く慎重に行い、
今にも破綻してしまいそうなマシンを後一歩のところで踏みとどまらせる。
マシンはいたるところで悲鳴を上げているが、それでも内側に、内側に、と旋回させる。

クリッピングポイントを過ぎる。

やっと、出口が見えた。

奴は既に加速体勢にはいろうとしている――
ここで逃がしてしまえば今までの苦労は全て水の泡だ。

早く車体を起こして俺も加速しなければ……!
タイヤの機嫌を伺いながらスロットルを開ける。
更にハンドルを少し抉る。

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:22:29.35 ID:+u5raHzY0

マシンは弾かれたかのように素早く起き上がるが、その瞬間、僅かにフロントタイヤがスライドをおこす。
心臓が縮み上がった。
不気味に揺れる車体。
思わず、スロットルグリップを握る手が緩みそうになる。

だが俺はすぐにその恐怖心を振り払い、咄嗟にグリップを握りなおした。
まだ大丈夫だ……!
自分に言い聞かせる。根拠があるとは言えない。
ただ、このままスロットルを閉じても危険だということは経験でわかっていた。

どっちも危険なら、俺はスロットルを開けて奴を追いかける。
握りなおしたグリップを思い切り捻る。
唸りを上げるエンジン。
一気に吹け上がり、タコメーターの針は勢い良くレッドゾーンに飛び込む。
願いが通じたのか、マシンの不審な挙動は納まり、一気に加速した。

遂に3台のマシンは、並んでコーナーを飛び出した。


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:25:03.65 ID:+u5raHzY0

視界の隅を景色が流れる。
鬱蒼と木が生い茂っている。
やがて下り坂から若干の上り坂に変わった。
その先がすぐにまた下りになっているせいで、先にあるコーナーが見えない。

やっとここまで来た。

最後。
これで俺の仕事は終わりだ。

俺はブレーキレバーに指を掛け……

クッと引いた。

後は頼んだぜ、ジョルジュ。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:28:18.71 ID:+u5raHzY0
     *     *     *

('A`)「畜生、かわしやがったか」


俺はメットの中で舌打ちした。
確実に仕留めたと思ったのに。

あの赤いNSRに、この黒いガンマ。
コイツらはなかなかの腕の持ち主だ。
骨がある奴に出会えて、俺は嬉しかった。

しかし、さっきからワンパターンな動きで避けてばかりだ。
万策尽きたのか、これがコイツらの限界なのか。


('A`)「少しガッカリだな」


俺は呟きながら、スロットルを開けていた。
くぐもった排気音に、倦怠感のある吹け上がり。
コーナーで最後まで執拗にあのガンマに迫っていたせいか、回転数が落ちている。
明らかにいつものパワーが無い。

しかし幸運なことに、コーナーを脱出すると珍しくそこは上り坂になっていた。

50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:31:08.14 ID:+u5raHzY0
上りでなら、流石に250ccには負けない。
馬力は2倍以上あるのだからな。
どうやら、幸運の女神まで俺の味方をしてくれているらしい。

俺は一人、ニヤッと笑った。

上りきる直前、横を走るガンマがブレーキを掛けたのか、急に減速して後退していった。
今までと、また同じパターンか。
俺はそう思って、半ば反射的に左横を走るNSRに着いて行った。

赤いNSR。
今度こそ潰してやるよ。
そういきり立ちながら、俺は前を見詰める。

上り坂を上りきったところで、前方の視界が開けた。
前に迫るコーナー。
どうなっていたのか、俺は一瞬理解できなかった。
そして理解できたとき、愕然とした。
全身から血の気が引く音が聞こえた。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:34:08.32 ID:+u5raHzY0
     *     *     *
  _
(#゚∀゚)「か か り や が っ た な ッ ! この糞野郎ッ!」


慌てたように、奴はブレーキングを始める。
みるみる速度が落ちる。
俺もそれに合わせる。

  _
(#゚∀゚)「逃がしゃしねェぜッ!」


それにもう遅い。
無駄なんだよ。
今からじゃ止まれない。

もう俺達は曲がり始めているんだ。
無理にブレーキを掛けようとすれば、タイヤが滑ってスクラップさ。
奴もそれに気付いたのか、ブレーキを離して車体をバンクさせようとした。

俺はそんな奴の方ににじり寄る。
半ばカウルをぶつけながら、奴をアウトに押し出す。

ガードレールがどんどん近づいてくる。
俺自身も衝突の恐怖に駆られる。
だがもう少し。
まァだ俺は大丈夫だ。


56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:37:06.31 ID:+u5raHzY0

もう少し……

口の中が乾く――

もう少し……

早鐘のように心臓が鳴る――

ここだ……!

俺はギリギリのところで車体を倒し、コーナーの内側に向かって曲がっていった。

残されたのは奴ただ一人。

恐らく、大驚失色して狂ったようにブレーキを掛けているか、
無理に曲がろうとバイクの上で踊っているかのどちらかだろう。

無駄なんだよ。


(;'A`)「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――


お前の負けだ、諦めな。

――――"ガシャン"


58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:40:12.96 ID:+u5raHzY0
     *     *     *

(メ)A`メ)「すみませんでした。なんか会社とかいろいろムシャクシャしててブッ!……」


ジョルジュの拳が傷だらけ奴の顔面に突き刺さり、奴はゴロゴロと転がった。
もう何度目だろうか。

その顔の傷は、全てジョルジュに殴られたためのものだった。
運良く…いや、悪かったかもな…軽傷で済んだ奴はジョルジュに引き摺り起こされ、正座させられた挙句殴られ続けていた。
全く自業自得だが。

  _
(#゚∀゚)「すまんで済んだら警察はいらねェんだよ、ボケがッ!」

(メ)A`メメ)「ヒィ!」


ジョルジュは奴の胸倉を掴んで怒鳴る。
お前が居れば警察はいらなそうだな。
俺はそんなジョルジュを見てそう思った。
かと言って同情は感じないけどな。

俺は近くに転がっている、奴のYZFに目を遣った。
ガードレールと一体化してしまったんじゃないかと思うほどグチャグチャに大破していた。


61以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:43:16.18 ID:+u5raHzY0

これでコイツも、二度とこんなことはしないだろう。
少なくとも、あそこで目一杯奴を脅しているジョルジュが居るこの峠では。

  _
(#゚∀゚)「今すぐにでもお前を殺してやろうか?」

(メ)A`メメ)「ゆ、許してくださいぃぃ……」


暫く眺めていると、上の方からクーが走って来た。


川 ゚ -゚)「……大丈夫だったか?」


クーはバイクから降り、俺、ジョルジュ、掴まれている奴、
スクラップになったバイクを順に見回してからそう言った。


/ ゚、。 /「見ての通りさ。俺もジョルジュも何とも無い」

川 ゚ -゚)「そうか。なら良かった」


クーはそう言うと、やおらジョルジュの方に寄って行った。
ジョルジはそれを見て、奴から手を放すと無理やり正座させた。


62以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:46:18.24 ID:+u5raHzY0

川 ゚ -゚)「もう二度とあんなことはしないと約束してくれ」


クーは奴を見下ろし、静かにそれだけ言った。


(メ)A`メメ)「はい、もう二度としません……」


鬼の様な形相で仁王立ちしているジョルジュから一刻も早く逃げたいと思ったのか、奴は即答した。

  _
(#゚∀゚)「甘いぜクー。せめて修理代ぐらいは貰わんとな」

(メ)A`メメ)「え? あ……」
  _
(#゚∀゚)「なァ?」


蛇に睨まれ、蛙は観念したようで、大人しく財布を差し出した。
ジョルジュは「これしかねェのかよ」と不満を言いながら、全てのお偉いさんのブロマイドを抜き取ると、
空の財布を奴に叩き返した。
ジョルジュは一瞬クーの顔色を伺ったが、クーはいつもの無表情でそれを見ていた。


/ ゚、。 /「さて、じゃあ最後に……」


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:49:03.92 ID:+u5raHzY0

そう言いながら俺は奴のバイクに歩み寄る。
突然そんなことを言ったので、ジョルジュとクーは訝しげにこっちに視線を向けた。
俺はその視線を背中に浴びながら屈み、奴のバイクからある物を引っこ抜いた。

  _
( ゚∀゚)「キー? そんなもんどうすんだ?」


ジョルジュは俺の手に持たれた物を見て尋ねる。
恐らく、そんなことを聞きながらもジョルジュは俺のしたいことを大体把握しているだろう。
その証拠に、ジョルジュはこれまでに無いくらいニヤついていた。


/ ゚、。 /「こうすんだよっと!」


俺は叫びながら手に持ったバイクのキーを谷に向かって放り投げた。


(メ)A`メメ)「あっ……」

川 ゚ー゚)「……」


そのキーは綺麗な放物線を描いて飛び、一度太陽の光を反射し"キラッ"と光ると、
後はもう何処にいったかわからなくなった。


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:52:04.60 ID:+u5raHzY0
     *     *     *

/ ゚、。 /「暑い……」


俺は駐車場のアスファルトの上に仰向けに寝転がりながら呟いた。
半袖のTシャツは既に絞れるくらいに汗で濡れている。
気持ち悪い。


川 ゚ -゚)「なぁ、ダイオード?」


クーはそんな俺の顔を上から覗き込みながら話しかける。

翌日も、俺達3人はまたこの峠に集まっていた。
でも今回は何の約束もしていない。
ただなんとなく、なんとなく此処に来ようと思い立って来てみたら、既にそこにはクーとジョルジュが居たのだ。
俺はなんで来たのか聞いた。
しかし2人とも「なんとなく」としか答えなかった。

俺は起き上がって聞き返す。


/ ゚、。 /「なんだ?」

川 ゚ -゚)「君達は全力で走るとあんなに速かったんだな。少し見くびっていたよ」

69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:55:04.54 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「ん〜、あれはまだ『全力』とは言えないぞ。なあジョルジュ?」


俺は自分のバイクのタンクの上に突っ伏していたジョルジュに声をかけた。

  _
( ゚∀゚)「へァ?」

/ ゚、。 /「昨日のアレ、全力で走ったとは言えないよな?」


ジョルジュは俺の言葉の意味を理解しかねたようで、一瞬眉を顰めた。

  _
( ゚∀゚)「ん〜……全力って言えば全力だよ。あんなラフファイト、二度としたくないね。
     速さだけに絞って考えれば、俺達はもっと速く走れるな。うん」

/ ゚、。 /「まあそういうことだ、クー」

川 ゚ -゚)「そうか……今度見てみたいものだな」
  _
( ゚∀゚)「サーキットとか、安全なところに行けば見せてやれるよ。
     もっとも、サーキットのレベルには到底及ばない代物だがな」

川 ゚ -゚)「奥が深いな」


72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 22:58:08.79 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「そこが面白いんだろ?」

川 ゚ -゚)「そうだな。……なあダイオード、ジョルジュ?」


何処かかしこまったようにそう言うクー。
俺達は少し怪訝に思ってクーの顔を覗き込んだ。


川 ゚ -゚)「ありがとうな」

/ ゚、。 /「なんだ、感謝されるようなことは何もしてないぞ?
      俺達はただこの峠の為に、お前の反対を押し切ってやったんだ。
      むしろ叱られるべきなんじゃないのか?」


笑いながら俺は言う。
それを横で聞いていたジョルジュもヘラヘラ笑っている。


川 ゚ー゚)「全く、君達は掴み所が無いと言うか何と言うか……」


そう言うクーも僅かに微笑んでいた。


73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:01:11.42 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「さて、じゃあ行きますか」


俺は近くに転がしてあったジャケットを手に取った。
日差しを吸っていて熱い。

  _
( ゚∀゚)「そうだな!」


ジョルジュもヘルメットを被り、バイクのエンジンを掛ける。


/ ゚、。 /「例の如く、負けたら奢りだ」
  _
( ゚∀゚)「OK!」

川 ゚ -゚)「私も本腰を入れて走るかな」


3人は、ほぼ同時にクラッチを繋ぎ、キツイ日差しの中峠道に繰り出していった。
懐に抱いたエンジンから響き渡る音に胸を高鳴らせながら。


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:02:34.49 ID:+u5raHzY0

〜〜〜


/ ゚、。 /「しゃあ、ジョルジュ、コーラ買ってこい!」
  _
( ゚∀゚)「畜生……」


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:05:15.59 ID:+u5raHzY0
     *     *     *

( ^ω^)「……よし、これでいいお」


ボルトを締め付け終えて、僕は手に持ったメガネレンチを台の上に置き、ゆっくり背伸びした。
ずっと屈んで作業していたためか、全身がポキポキと音を立てる。
呻き声が僅かに口から出るが、気持ちいい。


( ^ω^)「ふぅ」


ひとつ溜息を吐き、辺りを見回すと、もう夕日が差していた。
コーヒーでも飲んで一息吐こうと思い立ち、僕は作業台の片隅に置いてあるポットに手を伸ばした。
中のお湯は少し冷めていたが、疲れた体に染み入るようだった。

カップ片手に、暫く外の様子を眺めながらぼんやりしていると、何処からか聞き覚えのある音が聞こえてきた。
2stエンジン独特の排気音。
80〜90年代に流行したそのエンジンを積んだバイクは、
バイクブームの終焉と排ガス規制の煽りもあって、今ではすっかり市場から姿を消していた。

よって、そのバイクにのっている人は今は少ない。
若いころ、そのバイクブームに身を置いていた僕にとっては寂しい話だ。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:08:23.20 ID:+u5raHzY0

つまりあの音の主は大体予想が出来る。
それに、ある噂話も耳に入れていたし。
僕はすぐに着くであろう来訪客の為に、新たにコーヒーを一杯準備した。


/ ゚、。 /「こんにちは……ですよね?まだ」

( ^ω^)「おっおっ、ダイオード君かお。来ると思ってたお。コーヒーでも飲むかお?」

/ ゚、。 /「頂きます」


僕は手に持ったコーヒーを彼に差し出し、座るように促した。
彼が一口飲むのを待ってから、僕は話始める。


( ^ω^)「もう噂になってるお。君達があの男を叩きのめしたって」

/ ゚、。 /「そうですか……」


彼は苦笑いで答える。


( ^ω^)「僕も捕まえようと準備していたけど、これで必要なくなったおね」


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:11:05.85 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「その網ですか?」


彼は、床に転がされたバレーボールのネットの様なものを指差す。
これ以上あの男の被害があれば、コレを仕掛けて捕まえようと用意していたものだ。


( ^ω^)「とにかく、峠の皆を代表してお礼を言うお」

/ ゚、。 /「俺達はそんなつもりでやったんじゃないからいいですよ、そんなの」

( ^ω^)「仲間の為に、ってかお?」

/ ゚、。 /「格好つけてるようですけどね。
      大切な友達がやられて、黙ってられなかったってだけですよ。
      皆の為だとか、そんなこと微塵も頭に有りませんでしたよ」

( ^ω^)「そうかお。でもまあ結果的に皆感謝しているみたいだから、すぐに噂になってたお。
       多分、峠で会う人全員にお礼を言われるじゃないかお?」

/ ゚、。 /「少し大げさじゃないですか?」

( ^ω^)「そうでもないお。あ、でもこんな無茶はもうあまりしないで欲しいお」

/ ゚、。 /「どうですかね? また友人に何かあったら保障は出来ませんよ」


笑いながら彼は答えると、残っていたコーヒーを一気に飲み干した。


81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:14:05.33 ID:+u5raHzY0

/ ゚、。 /「じゃあご馳走様でした。殆ど全部知っているみたいですから、特にすぐ伝えることも無さそうですね」

( ^ω^)「あ、でも今度どんな荒っぽいファイトだったか事細かに話してくれおwww
       こう面白いことはなかなか無いからおwww」

/ ゚、。 /「じゃあまた時間があるときに来ますよ。丁度お客さんも来たみたいですからね」


言われてみると、確かに外からトラックのもののような音が聞こえてきた。
彼はカップを台に置き、出口に向かって歩き出した。


/ ゚、。 /「あ、そうだ」


途中で何か思い出したのかそう言うと、彼は振り返る。


/ ゚、。 /「ぶっ壊れたYZFを修理に持ってきた根暗そうな男が居たら、
      その網で縛って川にでも流しといてくださいよ」

( ^ω^)「わかったお」

/ ゚、。 /「じゃ、仕事頑張ってください」


彼はそう言うと、再び背を向けて帰っていった。


83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:17:04.73 ID:+u5raHzY0

僕が表に出ると、そこには一台のトラックが停まっていた。


(メ'A`)「あ、すいません、バイクの修理を頼みたいんですけど」

( ^ω^)「おっ、把握したお」


僕はトラックの荷台の扉を開いた。
そしてそこにあったもののせいで、僕は改めて客の顔をじっくり見なければならなかった。


( ^ω^)「……ちょっと待ってるお」

(メ'A`)「あ、はい……」

(メ'A`)「……あのガキ共……」


85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:19:06.13 ID:+u5raHzY0

(メ'A`)「……今度会ったら絶対にブッ殺してやる……」

(メ'A`)「……」

( ^ω^)「……待たせたお」

(メ'A`)「あ、え? 何ですかそのサッカーゴールの網みたいなものは」

( ^ω^)「……」

(;メ'A`)「ちょ、うわ、なにをするやめr……」


          ―――― / ゚、。 /は峠に行くようです・完 ――――



質問等(前編終了時)


77 :◆AP.EK6HqUs:2007/09/11(火) 23:01:07.64 ID:5i2cdT2X0

丁度半分ぐらいなのでここで今日は終わりにします。
明日続きから投下します。
読んでくれた方、有難う御座いました。

気付いている方もいると思いますが下ネタはバリバリ伝説です。

バイク物ってことでわかり辛いところも多いと思うので、質問があれば答えたいと思います。


78以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:02:40.23 ID:7jJKUbX10


>>77
しも…ねた…?

80以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:04:18.84 ID:bCgo6kfB0
しも・・・ねた?
バイク・・・・バイブ!?

81以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:04:50.08 ID:kYmPq90T0
乙!
下じゃなくて元だよな?とマジレスしてみる
明日も楽しみにしてるぜ

82◆AP.EK6HqUs :2007/09/11(火) 23:05:59.87 ID:5i2cdT2X0
下……ネタ……

83以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:08:33.98 ID:hErKWuyWO
乙!
チンコとか出てたっけ…?

84以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:08:52.34 ID:kYmPq90T0
お言葉に甘えてバイク関係じゃないけど質問
なんでダイオード鈴木ってマイナーなAA主役にしたの?

85◆AP.EK6HqUs :2007/09/11(火) 23:11:26.68 ID:5i2cdT2X0
>>84
工業高専の腹いせ
トランジスタがあればそっちにした

86以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:13:34.50 ID:kYmPq90T0
高専か。俺の田舎じゃいい学校なんだが嫌な事でもあったんかい?

87以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:14:41.26 ID:bCgo6kfB0
発光ダイオード

88◆AP.EK6HqUs :2007/09/11(火) 23:17:00.48 ID:5i2cdT2X0
>>86
半導体の計算は厄介なんだ……

>>87
いいえ、ただのシリコンダイオードです。

89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/11(火) 23:22:46.21 ID:CPucOr9oO
>>1乙。書き手はリアルバイク海苔?

91◆AP.EK6HqUs :2007/09/11(火) 23:26:12.50 ID:5i2cdT2X0
>>89
そうです
俺が乗っているやつは俺が書いたやつにたびたび出してる


あとがき・質問等


87以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:21:18.47 ID:+u5raHzY0
以上で終わりです。
読んでくれた方、有難う御座いました。

バイク物が書けて感無量ですよ。

質問があったら答えたいと思います。

89以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:22:27.78 ID:k3WZS9CLO
>>87
乙!
初投下……じゃないよな

90◆AP.EK6HqUs :2007/09/12(水) 23:24:48.90 ID:+u5raHzY0
>>89
以前('A`)と( ゚∀゚)は最低・利己的なようですっての書いてました

91以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:24:50.05 ID:w0Dkw7ov0
>>87
YZFってR6ですよね

92◆AP.EK6HqUs :2007/09/12(水) 23:26:42.46 ID:+u5raHzY0
>>91
そうです。もし前の年式ならドクオが勝っていたとか……

93以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/12(水) 23:28:45.48 ID:k3WZS9CLO
>>90
やっぱり、バイク好きっぽい作者だと思ったんです
しかし自分はふられるために告白が好きだったり、と言うかジョルジュ?

95◆AP.EK6HqUs:2007/09/12(水) 23:31:46.68 ID:+u5raHzY0
>>93
有難う御座います。
あの話の主人公は自分の中ではジョルジュ。
またあんな話とか最低の続きとか書きたいけどいい案が浮かばん……


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