1以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:03:27.21 ID:7LBUv78b0
 また、雪が降っている。たしか、今日はクリスマスだったはずだ。
 当然だけれど、今年も枕元にクリスマスプレゼントは存在しない。
 サンタなんていないだろうけれど、やはり心のどこかで信じていたようだ。

 ガラスの向こうを見れば、大地を埋め降り積もる雪は、止むことなくビルの谷間に吸い込まれ、空気を凍てつかせる。
 そして、音も立てずに降り積もり、音を殺して白く覆い尽くして、この街を染めていくのだ

 忘れる事はない、最後まで一人で戦ったあの人。
 忘れはしない、最後まで手を繋いでいたあの二人。
 忘れられない、夢を見続けたあの輝く力強い瞳。

 神よ、過去にはあなたを恨んだが、今更ながら一言だけ言わせてくれ。

 ありがとう。

 雲に隠れ星はやはり見えなくて、涙が出ない自分をただただ疎ましく思った。
 風は冷たく、刃のように頬を刺す。
 その凶器のような大気を胸に入るだけ吸い込んで、踊るように両の腕を広げて天を仰ぎ見た。

 視界には軽く冷たく可憐なその白い粒が、無限とも思える数を誇って、暗澹たる空から舞い降りているのが映っていた。


                 川 ゚ -゚)は聖歌を唄うようです




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:05:50.48 ID:7LBUv78b0
 
 それから、王は左側にいる人たちにも言う。
 『呪われた者ども、わたしから離れ去り、悪魔とその手下のために用意してある永遠の火に入れ』

                                      マタイによる福音書25章41



 クオリア(英:複数形 Qualia、単数形 Quale)とは、意識の現象的側面(現象的意識)を構成する個々の質感のこと。
 感覚質(かんかくしつ)とも訳される。
 簡単に言えば、クオリアとはいわゆる「感じ」のことである。
 「イチゴのあの赤い感じ」、「面白い映画を見ている時のワクワクするあの感じ」といった、世界に対するあらゆる意識的な体験そのもの。


                                      クオリア 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 甲殻機兵
 装甲人間型兵器の総称、人体を模した機体に武装・装甲した攻撃用兵器。
 操縦者の神経にナノマシンを配置し、神経をリンクする操縦方法で有名。
 精神のリンク中、仮死状態になる必要があり、そのため強力な生命維持装置を搭載している。


                                      出典:岩浪書店 広治苑/第四版


5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:08:21.24 ID:7LBUv78b0
 酷く大きな音が聞こえて、私は目が醒めた。
 私を収めていた保管用のカプセルが勝手に開いたようで、私の体は保存液と共に金属の床を転がっている。
 辺りはほの暗く、私はその暗さに合わせて主網膜素子の感度を上げた。

 POWER Auto ON 非常時対応プロセス、緊急離脱モード、モード8にて待機、動作確認を行います
 メインジェネレータ、正常稼動中/メインコンデンサ、電荷上昇中
 思考系統プログラム、演算素子系統、強制起動/ロック解除、動作確認中......異常無し
 》》内部電圧上昇、テストパフォーマンスからノーマルパフォーマンスへ移行開始
 センサ系統、及び、レーダ、ベクトロニクス強制起動/ロック解除、動作確認中......異常無し
 全アクチュエータ、強制接続/ロック解除、運動系統プログラム、及び駆動系統、動作確認中......異常無し

 指先を動かす、小指から親指へ流れるように動かし、次いで握力を試すように握って開く。

 動作テスト異常無し、内部電圧上昇......安定完了
 動作異常無し、非常時対応プロセスに従い行動開始します

 粘つく保存液から身を起し、周囲を見渡す。
 凹凸の連続した特徴的な壁面は、トラックのコンテナのそれだと分かる。私はどこかへ輸送されている途中だったようだ。
 立ち上がると全身を包むローション状の保存液が、水っぽい音を立てて肌を滑り落ちた。

 遠くから重く低い爆発音が聞こえてくる。
 データバンクを参照中......該当データなし、機能停止中、何らかの原因で戦争が発生したモノと推測。
 起動記録の情報がNULLにされていない限り、私は今回が初起動である。
 初起動と同時、私は目の前の人間をマスター認証するよう設定されているのだが、そのような人物は見当たらない。

 混乱した頭で、兎も角もココから離脱しようと結論付ける。
 その時、小さな爆発音が響き、遅れて錆びた金属が擦れる音がして、私はそちらを睨んだ。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:10:43.31 ID:7LBUv78b0
 領土内を通過していた一個小隊を、警告の上で蹂躙し、護送中であろうトラックのコンテナを相棒と二人で囲む。
 高々トラック一台分の品物を、何故無断で輸送したのか、それもこの護衛の数は異常だった。
 制圧を再三確認し、搭載されたセンサを操りコンテナの中身を確認するが、放射能も赤外線もなにも感知できない。

 ただ分かったのは、伽藍堂なコンテナの中に人間と同じくらいの物体が収まっていることだけだ。

( ^ω^)「ズール7から各員へ。対象の安全を確認、危険度は低いと判断。機体から下降し内部に突入します」

(´・ω・`)『ズール1了解、ぬかるなよ? アルファ5、護衛配置に付いて、ブーンを支援せよ』

 ラジャと了解を示す声を聞きながら機体を操り片膝を突かせ、仮死状態を解除してコクピットから這い出る。
 機体の背面ハッチから突撃銃や予備装備を引ったくり、肩、膝、腕と順に降りて、コンテナの扉に張り付く。
 古めかしいアナログ錠と閂を確認、耳を澄ますが内部から音は聞こえない。

( ^ω^)「……異常無し、コレより突入を開始するお」

 無線に告げると、予備装備の中からC4を取り出し、鍵穴の中とその他脆弱部に塗りたくる。
 電子信管を差込み、コンテナから安全圏まで距離をとると目を閉じ口を半開きにする。

 小爆発の確認、走り寄って背中を扉に押し付け、安全を確認、異常無し。
 コンテナを少し開け、異変がない事を確認すると素早く突入、銃口と視界を四方へ巡らし、危険と異常を探る。
 危険はないが、異常を発見。

 コンテナの中央に、全裸の少女が虚ろな目をして座りこんでいた。

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:13:31.42 ID:7LBUv78b0
( ^ω^)「……お嬢ちゃん、どうしたんだお?」

(´・ω・`)『ズール7応答せよ、中に一体何があった?』

( ^ω^)「えー異常を一つ発見しました。現在調査中ですお」

 リーダーを適当に誤魔化して、彼女と視線を合わせる為に座りこむ。
 少女は何も捕らえない虚空の視線をゆらゆらと揺らすと、唐突に僕の目を覗きこんだ。
 途端、殺気を全く感じさせない、けれど素早い動きで手をとり、スーツの手袋を剥ぎ取られる。

(;^ω^)「ちょっ……なにするっ!」

 不覚だ、動きから攻撃的な要素が見えなくて油断してしまった。
 素早く振り払おうにも、彼女は恐ろしいほどの握力で腕を抑え、解くどころかピクリとも動く事はない。
 だが、僕の焦燥をよそに、彼女は優しく握手だけをして淡い色の唇を開いた。

川 ゚ -゚)「指紋、声紋、虹彩、網膜パターン入手完了、マスター認証完了。おはようございます、マスター。命令を」

 電波か? いや、もしかすると、人体実験かなにかで、クスリ漬けになっていたのかも知れない。
 まるでロボットみたいな、いやアンドロイドな。ともかく、そんな風にとれる発言をして、彼女は僕の瞳を見つめていた。
 とりあえず、と、予備装備から緊急用の物品を漁る。

(;^ω^)「これ、着るといいお」

川 ゚ -゚)「それは、命令か?」

(;^ω^)「お願いだから着てくれお。激しく目のやり場に困るんだお」

 少女は少し首を傾げ、それから僕の渡したビニールシートをマントのように羽織ってくれた。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:17:32.98 ID:7LBUv78b0
(,,゚Д゚)「驚異的だぜ、精巧な容姿もそうだが、こんな高機能アンドロイドみたことがない」

 要塞に帰還した僕は、彼女に身体検査と健康診断を受けさせるため、監視施設に連れて行った。
 しかし、そこで彼女が精巧なアンドロイドだと判明し、一悶着があった。
 スパイの類かと懸念されるも、彼女はコチラの要求に素直に応じ、内部データの参照や構造を簡単に公開した。

(´・ω・`)「一体、どうしてこんなものを……まるで、ニンゲンを作ろうとしてるみたいじゃないか」

 そこで判明した事は、彼女のデータバンクには基礎知識以外あらゆるデータがなく、破壊活動をする理由がないことだった。
 優秀なプロテクトだとかそういった問題ではない、あらゆるデータがないので隠す場所がないのだ。
 そして非常に高性能な演算素子を持っていた、それはメインフレームに並ぶような特殊にも程があるシロモノだった。

(;^ω^)「分かったから抱きつくなお! うっうわっそんなとこ触ったら、アヒィ!」

 他にも様々な機能を内蔵していたが、それに遜色なく彼女の擬似思考プログラムも凄まじかった。
 彼女の思考ネットワークは、どんなチューリングテストも簡単に突破するモノなのだ。
 どんな富豪であろうと、到底個人で製作する事は出来ない。国家予算規模の大金を積んで出来たアンドロイドだ。
 スパイ的行動をとるには少々金がかかり過ぎていると言う事で、彼女の疑いは晴れた。

川 ゚ -゚)「どうしたマスター? 肩が凝っているんじゃないのか?」

 後ろから首に手を回し、抱き付くように僕の背中に圧し掛かる。
 その姿勢は、彼女のとても発育のいい素敵で絶妙に柔らかいアレが背中に押し当てられて、僕から冷静さを奪った。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:19:23.00 ID:7LBUv78b0
(#´・ω・`)「オイコラ、クソビッチ。僕のブーンになに抱き付いてんだ? ぶち殺すぞ」

(;^ω^)「いつ俺は少尉のモノになったんスかwwww」

川 ゚ -゚)「マスターは私のモノではない。私がマスターのものだ。問題ない」

(,,゚Д゚)「……ブーンをどうやら慕ってるみたいだし、いいか? 今からその子はゲストだ。お前がもてなせ」

 僕と少尉が上げる抗議の声は黙殺され、妙につやつやしている様に思えるアンドロイドを連れて、僕は司令室を出た。
 人間の命に金銭的価値をつける事は反対だが、この少女はそこらの人間より値が張る事だけは分かる。
 そう思うと、宝石の見張りを押し付けられたような気がして、なんだかいい気分ではなかった。

( ^ω^)「とりあえず、住居区に案内するお。そこで僕とキミが住むところになるお」

川 ゚ -゚)「……つまり、私とマスターの愛の巣だな」 

(;゚ω゚)「ゲホッゴホッ!」

 どんな解釈してんだよこのポンコツロボ。
 咽る僕の背中をさする彼女を見ながら、研究部からの最後の報告を思い出していた。

 この超高性能アンドロイドの機能でも、群を抜いて異常な機能がある。それは彼女の動力源、常温対消滅エンジンだ。
 大規模消費で使い切らない限り、千年単位の稼動を続ける脅威の動力源。通常、人間サイズに収まるものではない。
 この無限とも言える動力源はかなりのハイパワーで、全力で動かせば地球程度簡単に破壊できるらしい。

 ただし、このジェネレータを開発する技術力を、そもそも現在の人間は持ち合わせていない、と言う点についてはどうだろう?
 現に目の前に実在しているのだから、どこかの研究所で偶然生まれた産物なのだろうか?
 彼女は確かに兵器ではない、だが、兵器に転用すれば恐ろしい事になるのは間違いなかった。 

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:21:27.12 ID:7LBUv78b0
 要塞の奥にある居住区域、相方を追い払っただろう下士官用の小さな相部屋に私は案内された。
 適度に掃除の行き届いた、小奇麗な部屋だ。マスターか前の相方は綺麗好きなのだろう。
 四方に注意を払い、部屋の構図を端から叩きこむ。マスターは私の様子を見ながら、古い二段ベットに腰掛けた。

( ^ω^)「ちょっと軋むけど、まあ居心地のいい場所だお」

川 ゚ -゚)「マスターは上のベットで寝る事を推奨する」

 腰掛けた寝具の枕元は写真立てやらなにやらで、部屋全体から見ると少々混雑の度合いが増している。
 ベッドの上とは相部屋と言う条件下での、少ない完全なプライベート空間なのだろう。それくらいは仕方がないことか。
 だが、金属とシリコンが大半を占める私の体重で、二段ベッドの上段で寝ると言う行為をヒトは死亡フラグと呼ぶはずだ。
 正当な勧告理由になり得るだろう。

( ^ω^)「だが断る」

川 ゚ -゚)「それは何故か? マスター正当な理由を」

( ^ω^)「ここは僕のお気に入りなんだお。以上」

 『お気に入り』。データバンクを参照しても意味のない、人間にしか理解出来ない概念だ。
 それが正当な理由足り得るだろうか? だが、解決策は見つけた。

川 ゚ -゚)「ならば、私のお気に入りは、マスターの隣だ」

(;^ω^)「いやちょっ、やめてそこはさわらっいやあっ、あっあっあー……」

 彼を強引に押し倒し、腕に抱きつく形で丸くなる。小さな騒動の後、マスターのお説教は一時間に及んだ。

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:23:53.15 ID:7LBUv78b0
( ^ω^)「……おk、僕もオトナだからその条件を呑むお、僕が上のベッドだお」 

川 ゚ -゚)「いや、飲まなくていいから添寝がいいのだが」

( ^ω^)「もう、ほんま勘弁してください」

川 ゚ -゚)「むぅ……」

 仕方なく、僕はため息をついてベッドを片付けていく。
 かなり雑多であったため片付けに手間取っていると、見かねたのか彼女が手伝いをしてくれた。

( ^ω^)「えっと、これとこれと、後これを順に、あーそれは重いから僕がやるお」

川 ゚ -゚)「問題ない」

 確かに、彼女はどこにも不安を感じさせない挙動で、僕が持ち上げた荷物を枕元へ並べていく。
 けれども、僕にも並べる順序や何やらにこだわりがあったので、結局僕が並べなおす運びとなった。
 自然と彼女が下のベッドから荷物を持ち上げ、それを受け取った僕が整理すると言う作業になる。

 彼女は機械なのだから当然と言うか、その細腕に対し意外と言うのだろうか。
 ともかく、驚異的な腕力とバランス感覚を発揮し、僕のプライベート空間移行作業は極めて順調に進んだ。
 その様子を見ていると、彼女は異常な性能を誇るも、介護や生活補助の為に作られたのではないか、と疑うほどだ。

 いや考えすぎだろう、これほどの資金を掛けてまさか軍事用でない訳がない。
 たとい、軍事用にどう使うか考えあぐねてしまうような日常生活に役立つ機能も、何かしらの意図があるのだろう。
 そんな事を考えつつ目覚まし時計を受け取り、彼女へ声を掛ける段階に至って、名前が思いつかず言葉に詰まった。

( ^ω^)「……えっと、そういや名前……」


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:26:01.70 ID:7LBUv78b0
川 ゚ -゚)「名前はない。ただ、開発名:C-001、そうメモリには刻まれている」

 一瞬考えるような仕草をしたマスターのため、C001と宙に指を走らせスペルを伝える。
 彼はそのスペルを見てしばし悩み、思いついたように一言二言漏らして、なにやら悩み出す。

( ^ω^)「う〜ん……しー……こー……く、クール?」

川 ゚ -゚)「なにがクールなのだ? 頭ふやけたかマイマスター?」

 彼は一度説明しようと口を開き、思い留まって備え付けられた机へ飛びついた。
 小奇麗な机の引き出しからペンと適当な紙を取り出して、達筆な短文を書くと私の前に広げる。
 そこには

―― C001 → Cool

 と、ごく安直な言葉遊びに寄って生まれた文字が記されていた。
 なるほど、字面で見れば納得できる程度の、それでいて愛称としても、まあ通じる名前だ。
 ひどく単純だが、ニックネームとはそういった連想しやすい名前が定着しやすいことも事実だろう。

川 ゚ -゚)「……くーる」

 小さくマスターに聞こえない程度に、口に出して唱えてみる。
 なぜかそわそわと、くすぐったいような、それでいて暖かいような、不思議な感触が胸の奥で小さく疼いた。
 この感情は、なんだろうか? 理解不明だが、悪くない。いや、とても心地よい。

( ^ω^)「クール……いや、クー! これからよろしくだお」

川 ゚ -゚)「ああ、よろしくだ。マイマスター」


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:29:18.60 ID:7LBUv78b0
川 ゚ -゚)「よろしくだ。マイマスター」

 その言葉に僕が手を差し出すと、キョトンとした間があって、それからおずおずと僕の手を握った。
 ブンブンと少々強引に腕を振れば、彼女の鉄仮面のように変わらぬ表情を崩せるかと考えたが、全くの無意味。
 彼女は成されるがままに、鉄壁の無表情なまま僕に腕を振り回されて、それから僕を無言で見つめる。

川 ゚ -゚)「マスター?」

( ^ω^)「お? クー、なんだお?」

 それだけの会話だというのに、彼女は何が嬉しいのだろうか?
 僕の錯覚でなければと言う程度だが、変わらなかったはずの常の無表情を、心持ち満足気に崩す。
 そのままくるりと振り返り、彼女はベッドの上からガラクタを取り出して、てこてこと荷物運びを再開した。

 その直後、彼女は僕の秘蔵でレアでアレな宝物を、何事もないかのように手渡す。

(;^ω^)「……」

川 ゚ -゚)「マスター?」

(;^ω^)「……やっぱ、僕が持ち上げるから、クーが受け取ってくれお」

 再開してすぐに、移行作業は終わりを見せた。
 僕が最後の荷物を手に取ると、彼女はそれを受け取って上のベッドへと運ぶ。
 しかし作業が終わっても顔を上げようとせず、よく見れば彼女はその箱に興味を抱いたようだ。

( ^ω^)「それは、オルゴールっていうんだお」

 彼女が手に取り見つめていた木箱は、精巧な紋様の彫り細工を施されたオルゴールだった。

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:31:41.99 ID:7LBUv78b0
川 ゚ -゚)「オルゴール……ミュージックボックスのことだな?」

( ^ω^)「そうだお、綺麗な音なんだお」

 データバンクを参照して手元にある木製の箱の中身を理解した。なるほど、爆発物など危険物ではないらしい。
 手に取ると彼が横から手を出し、錠を外して上蓋を開けてくれる。
 箱がベルベットで覆われた中身を見せると同時、澄んだ金属質の音が連続して響いた。

川 ゚ -゚)「これが音楽とやらか?」

( ^ω^)「結構年季が入ったものなんだけど、音は錆びてないお」

川 ゚ -゚)「……」

 連続する音は音階の高低にある程度の規則性が存在し、どうやら単音ごとではなく、連続した一つとして音を聴くようだ。
 しばらくすると、音の連鎖は数秒の途切れをみせて、また連続性を初めから繰り返す。
 少し違ったのは、マスターがその音の連続に調子を合わせて、声を出したところだ。

( ^ω^)「見上げてごらん 夜の星を
      小さな星の 小さな光りが
      ささやかな幸せを うたってる」

川 ゚ -゚)「……?」

 何故そのような事をするかと、彼に向かって首を傾げて理解出来ない意を示す。
 それを見た彼は、私の意を測りかねたのか少し悩む素振りを見せて、それから驚いたように尋ねた。

( ^ω^)「……もしかして、歌がわからないのかお?」

 この彼の質問が、初めて歌のクオリアに触れた瞬間であった。

23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:33:45.17 ID:7LBUv78b0
 僕は彼女が理解出来る範囲で、可能な限り簡単に歌について説明してあげた。
 そして、僕が知っている歌を少しと、それからベッドを下から上へ移動したCDいくつかを、プレゼントする。
 部屋の隅においてある、古くて音の酷いコンポの使い方を教えると、彼女の首筋にある端子に繋いであげた。

 初めは、音を単音で捉えてそれから繋げる、なんて人間では到底不可能な方法で聴きとっていたらしい。
 だけれど、リズムとテンポの概念を理解すると、彼女は歌詞カードを見ながら、丁寧に歌い始めた。
 初めこそ、音程だけが正しいだけの酷い音痴だったのだけれど、彼女はものの一時間で人並みに歌うようになった。

川 ゚ -゚)「二人の進度、どれほど? ここの戦法はNO GUARD!!
     好感度はワード? カード? 一世一度のセミヌード
     ベッドは2人のアイランド? これでリード? バージンロード
     私にはEarly? それでもこの際だ、あり!」

 かなり電波だが抑揚の難しい曲も、彼女は丁寧にそして流暢に歌っていく。
 ただこの歌を、歌詞カードを見つめながら無表情のまま、淡々と歌う姿はかなり異質な雰囲気を醸し出している。
 声はオリジナルに近い、アップテンポでカワイイ声なのだから、一層シュールさを増していた。

川 ゚ -゚)「広がるよ世界 眩暈するくらい
     Cryin′Smillin′Fallin′Flyin′Charmin′Wedding Heroine!
     腕を伸ばしてよ ぎゅっと掴むから
     朝も昼も夜もずっと 抱きしめて」

 歌い終わるまでに、彼女の歌の上手さは目に見えて発達した。
 小さな体に詰められた成長力や学習速度といった才能が、人間を圧倒的に上回るスペックを誇るのだろう。
 それだけではない、どこか彼女の歌声には、惹きつけられるものが存在するのだ。

 その魅力を感じ取った人間は、偶然にも僕だけではなかった。

25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:35:39.90 ID:7LBUv78b0
 小さな物音を感じ取って、私はそちらへセンサ類を総動員し警戒の姿勢をとる。
 振り向き、人間で言う眼にあたるメインカメラが捕らえたのは、私の検査を担当した研究者風の男だ。
 渡された人物ファイルからデータを参照する、研究部所属、ギコ、階級は中佐。

 一応客分であり、スパイではないと言い切る物証もない私には、その程度の情報しか渡されていない。
 その中佐は、所属を示す刺繍の入った作業着を着崩し、鍛えられた筋肉をその内に秘めていた。
 もしかするとロボット乗りのマスターより、腕力なら上かもしれない。

(,,゚Д゚)「すまん、ちょっといいかな?」

 彼はマスターに向け、耳に心地よいバリトンヴォイスと目配せで、ここから離れるように伝える。
 マスターの階級は軍曹。プライベートで、更に部署が違うとはいえ、七階級も上の上官に逆らうような真似はしないだろう。

( ^ω^)「サー、イエッサー!」

 少し振り返り、私へマスターは小さく会釈し、口の動きだけで謝罪して、「また後で」と告げる。
 人間では聞き取れないような小さな声だが、私の指向性集音マイクは、きっちりとその声を捕らえてくれた。

(,,゚Д゚)「そう堅くなんな。ショボンみたいにタメでいいぜ。プライベートだからな」

( ^ω^)「では、中佐。お言葉に甘えさせていただくお。」

(,,゚Д゚)「おう、バーで一杯やろう。俺が奢ってやるよ」

( ^ω^)「うはwwww太っ腹wwwwww」

 そんな会話を交わしながら、彼らは部屋を出て廊下を歩いていく。 
 私は部屋の中から可能な限りマイクの感度を上げ、彼らの様子を探っていたが、世間話程度しか交わす事はなかった。
 さて、これからどうしよう? 歌でも唄っていようか?

26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:39:03.62 ID:7LBUv78b0
(,,゚Д゚)「テメェはクオリアって、哲学用語を知ってるか?」

 居住区から少し歩いた先にあるバーで、安いブランデーのグラスを傾け僕は中佐のご相伴に預かった。
 ここは退役軍人の荒巻爺さんが雇われマスターをしている、要塞で数少ない娯楽施設だ。
 グラスの茶色い液体を喉に流しながら、僕は中佐の言葉に耳を傾ける。

( ^ω^)「感覚質のことですかお? 哲学ゾンビやマリーの部屋で有名な……」

(,,゚Д゚)「おう、それだ。口で説明するのは難しい。てか、不可能だからな。理解してくれていると助かる」

 クオリアを口で説明するほど難しいことはない、何故なら言語が形成された時代にはなかった概念だからだ。
 例えば、手をナイフで切ってしまったとしよう。
――皮膚が傷を負う→神経細胞がそれを知覚する→脳がそれを痛覚として処理する→痛いと心が感じる→痛覚を知覚する

 この心が痛いと感じる部分をクオリアと呼ぶのだ。かなり大雑把で少し間違った説明だが、問題ないだろう。
 色が分かりやすいだろう、一口に赤といっても様々な幅があるが、何故全て赤と認識できるのだろうか?
 その絶妙な曖昧さを処理する概念があるのならば、それは心を持っていると言っても過言ではない。

(,,゚Д゚)「蝙蝠の例題なんか特徴的だろう。蝙蝠は世界を音で知覚している。
     じゃあ、蝙蝠の耳で知覚した世界は、蝙蝠にとってどのように映っているのだろうか?
     視界のように明確なのか、音として聞こえるのか、第六感のようにそれは知覚できないのか?
     クリオアは、その自分にしか理解出来ない、自分だけの感覚のことだ。」

( ^ω^)「哲学ゾンビの例題で有名ですお。
      クオリアを感知しないだけで、物理現象的には人間と変わらない物体。
      脳内の電気信号さえ人間と同じように反応する”それ”は、絶対に人間と区別出来ないお。
      哲学的に死んでいるけれど、人間とは区別出来ないから生きているように見えるから、まるでゾンビ。
      さて、クオリアや心はどうやって証明しよう? まあ、絶対に証明できないと、僕は思うんだお」

 中佐は僕の説明を聞いて、よく分かってるじゃないか、と酒を呷り、大きな氷をカランと鳴らした。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:41:14.38 ID:7LBUv78b0
(,,゚Д゚)「さて、問題だ。その哲学ゾンビの例題には重要な大前提がある。なんだとおもう?」

( ^ω^)「……それは、思考実験全ての特徴、絶対に前提条件を再現できない、或いは証明できない。ことですかお?」

 相対性理論などでは思考実験は主流だ。精密な計算と議論だけで実験の代わりをする。
 例えば光に近い速さで動いた時、物体は重くなると言うアインシュタインが見つけ出した法則が存在する。
 だが、実際に光速の99%を出す物体は技術的に再現不可能なので、計算上の話でしかない。

(,,゚Д゚)「思考実験はどうやっても実験できない時の最終手段だ。
     じゃあ、思考実験の仮定を限りなく実現なし得たのなら、それは再現すべき実験になるんじゃないか?」

( ^ω^)「では、彼女はその再現のために作られた人形だと?」

(,,゚Д゚)「そうだと言い切る事には、彼女は金を掛けすぎている。だが、その役目は果たせるとも、俺は思う」

( ^ω^)「彼女が人間と変わらないくらい緻密で、繊細な事は事実ですお。ですが、機械が心を持つなど……」

(,,゚Д゚)「人間は所詮たんぱく質や水分が特定の順序で並んだ塊に過ぎない。
     ならば、それが鉄とシリコンに置き換わっても、同じ機能をするならば、なんら問題はないと思うがな?」

 機械は所詮機械だ。心や魂、精神といった人間にしか宿らないであろう類のものは、曖昧な存在は必要ない。
 デジタルとはアナログと違い、1か0か有るか無いか、曖昧さの入る隙間のない世界だ。
 量子コンピュータの曖昧さと分子コンピュータの計算力を手に入れたところで、それは変わる事の無い事実だ。

( ^ω^)「ナンセンスです。人間は、生命を作った神様にはなれませんお」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:43:36.72 ID:7LBUv78b0
(,,゚Д゚)「そうか、おまえはそう思うわけか……だが、さっきの問題よく考えておいてくれよ?
     もしかしたら、彼女の感じるクオリアには、作られた目的やらが隠されてるかも知れねーぜ?」

( ^ω^)「…………」

 彼女はもしかすると、いくつかのクオリアを事前に消去されていた? そういえば、しかし、いや、ありえない。
 第一、どうやってクオリアを、消すことができるんだ? クオリアをどうやって感知しているかも分からないのに?
 だが、彼女が数ある曲の中から、悲しい音楽や楽しい音楽を見つけ出したとすれば、或いは……

(,,゚Д゚)「どうした軍曹? 何か思い当たる節でもあったのか?」

( ^ω^)「中佐はあの子の歌った歌、聴いたかお? 彼女は始め、音楽を音単体で聴き分けていたんだお」

(,,゚Д゚)「彼女は音楽のクオリアを持ち合わせていなかったと? 単なる音の連続から、音楽のクオリアを見つけ出したと?
     軍曹、貴様の補助があったと考えても、しかし、そうだ、確かに、彼女は確かに、人間のように楽しく歌っていた。
     だとするなら、彼女は音楽から感情を励起するのか?」

(;^ω^)「あれ、楽しそうだったのかお?」

 あの能面のように変わらない無表情を思い出し、疑問を感じて首を捻る。
 その刹那。鋭敏な長年の戦士の嗅覚が、唐突な殺気の類を感知した。

川 ゚ -゚)「マスター、せっかく抱きついたのだ。サービスだぞ? 避けるな」

( ^ω^)「あんた何キロ有ると思ってんだ」

 殺気を発していたのは、何故か手をワキワキさせている少女だ。
 彼女はどこで手に入れたのか、ロングスカートなメイド服を身に纏い、やたら凛々しく長い髪をかき上げた。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:46:42.72 ID:7LBUv78b0
川 ゚ -゚)「マスター。あまり遅いから迎えに来たぞ」

( ^ω^)「あんまりって、お前、まだ三十分も経ってないお。どんだけ短気なんだてめぇ」

川 ゚ -゚)「マスターの居ない一秒は、私にとって百年に値する。十八万年も待った事になるな」

 私はそうマスターに言って、首筋にもたれかかるように抱きついた。顔が近いと慌てるが、私の知ったことではない。
 部屋で暇を持て余していると、近くに住む隊員が室内に侵入、遭遇した。
 事情を説明すると、彼は私にこの戦闘衣を授けてくれ、見せたい気持ちを抑え切れず、こうして馳せ参じたという次第だ。

( ^ω^)「よし、ジョルジュは後で殴ろう」

川 ゚ -゚)「ふむ、ではぶん殴るために部屋に戻ろう、そうしよう」

(;^ω^)「ちょっまっ! ひゃうっ、そんなとこっやっ……おー……」

(,,゚Д゚)「お前ら、随分と仲がよくなったみたいだな。邪魔者は退散するかね」

 カランという音に振り返ると、中佐はウィスキーを飲み干し椅子に掛けた白衣を手に勘定を払っていた。
 彼はそのまま振り向かず、ただ手を振り、上着を羽織り腕時計を気にしながら足早に去っていく。
 私達はそれをなんとなしに見届けると、マスターに急ぐ理由を尋ねた。

( ^ω^)「ああ、中佐は奥さんがオペレーターで、一緒に住んでるんだお。それがまた怖い人で……」

川 ゚ -゚)「恐妻家という奴か、そんなに怖いのなら別れてしまえばいいのではないか? 獅子と暮らす価値はなかろう?」

( ^ω^)「んー……やっぱ、それが好きって事じゃないかお?」

 好き……よく分からないが、マスターは好きだ。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:50:04.11 ID:7LBUv78b0
 それから彼女とのぬるい暮らしが始まった。
 彼女は事あるごとに僕に迫り、人形に欲情するつもりはない僕を困らせた。
 それでもつらい訓練や任務を終えて、「おかえり」という返事が返ってくるというのは、それは、いいものだ。

 そうそう、彼女は歌うことをとても気に入ったようで、僕のいない間に歌の練習をしているようだ。
 ふと気がつくと、綺麗な旋律で鼻歌を歌っていることもよくある。 
 彼女をバーへ連れて行けば、ピアノやアンプを使ってかなり大きな騒ぎが始まるのも、もはや日常となっていた。

 さあ降下訓練の報告書を書き終えた。さっさと部屋に戻って彼女と食堂でメシを食おう。
 きっと彼女は外出もせずに、僕の部屋で家事を終えて、礼儀正しく正座しながら待っているだろう。
 居住区内は好きに動き回っていいという事になっているが、彼女はなぜか僕の部屋から外に出る事はない。

 あの冷徹な無表情で、なぜか部屋の隅で正座して、ボロいコンポにコネクタ繋いで歌いながら、ずっと僕の帰りを待っているんだ。
 始めは宝石番の様で嫌だと感じたが今はそんな感情微塵もない。
 だって、そうだろう? 長い間一人身だった僕が、彼女のような存在にどんな不満があるのだろうか?

( ^ω^)「ただいまだおー」

川 ゚ -゚)「おかえりなさいマスター、遅かったな。待ちくたびれたぞ?」

( ^ω^)「それじゃ、食堂行くお」

川 ゚ -゚)「イエス、マイマスター」

 これで彼女が食事の世話までしてくれれば文句はないのだが、残念ながらあの壊滅的な炭化物を嚥下する気にはなれなかった。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:52:52.19 ID:7LBUv78b0
  _
( ゚∀゚)「来たか歌姫! さあ、今日も歌ってくれ!」

 マスターと相部屋だった男が、カウンターでビールジョッキを掲げて私へと声を掛ける。
 マスターはテキーラを頼みつつ、私の首筋と備え付けられたアンプの端子を繋いで、ジョッキ野郎の隣へと腰掛けた。
 それを眺めながら私がCDから抽出した音楽情報をアンプへ送ると、スピーカからアップテンポの音楽が流れ出す。
                   _
川 ゚ -゚)「カラフル」      ( ゚∀゚)o彡°「「hai hai☆」」(^ω^ )
                   _
川 ゚ -゚)「にまぜまぜ☆」   ( ゚∀゚)o彡°「「Let's get up!」」(^ω^ )

 飲食できない私がバーに足繁く通うのは、ここで歌う事が好きだからだ。
 ここにはピアノもあるし、こうやって音楽データをバー全体に流すことも出来る。
 始めはマスターに薦められて、それから楽しくて毎晩歌い続けるうちに、私は歌姫と呼ばれるようになった
                              _
川 ゚ -゚)「あなたの呼吸がまぶたを撫でたら」  ( ゚∀゚)o彡°「「あれれぇ?」」(^ω^*)
                               _
川 ゚ -゚)「溢れちゃうよ」               ( ゚∀゚)o彡°「「きゅ〜ん」」(^ω^*)

川 ゚ -゚)「My tears…?」

 私が歌を唄えば皆が耳を傾けてくれて、笑顔を見せてくれて、そして、一緒に歌ってくれる。
 その事実が嬉しくて、歌を唄えることが楽しくて、それを聞いてもらえる事が心地よくて、私はこのバーが好きだった。
  _
川 ゚ -゚)/ ,' 3 「「ジャンボ♪♪」」(^ω^ )(゚∀゚ )

さあ、次の歌を唄おう。まだまだ観客は、盛り上げる事を期待してくれている。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:55:48.31 ID:7LBUv78b0
 皆が歌い疲れた頃合を見計らって、手招きでこちらに来るように告げる。
 鳥の詩のピアノアレンジを弾き語りしていた彼女は、皆から拍手をもらいつつピアノから離れた。

 アンドロイドは疲れなんて感じないのだろうけれど、彼女が歌い続けていては、共に騒ぐ周りがへばってしまう。
 彼女の歌には、歌の楽しさをダイレクトに伝える特異な力、或いは雰囲気のようなものがあった。
 折りを見て止めなければ、盛り上がった人々は機械の無尽蔵な体力に追いつけず、明日に響くほど疲れ切ってしまうのだ。

(*^ω^)「ほら、こっちにきて一緒にテキーラ飲むお」

川 ゚ -゚)「酒臭いぞマスター。こっちくんな」

 そう言いつつも、僕の隣の席に座ると、彼女は特に何をするわけでもなく、ただただ僕を見つめていた。
 周囲は各々語らいを始め、僕はそれにあぶれて無言でテキーラを煽る。
 僕と彼女の間に会話はないが、雰囲気と言うか空気と言うか、これはこれで心地よい。

川 ゚ -゚)「マスター……すごく楽しいな。ずっとこうして居たい。ずっとだ」

(*^ω^)「こんな毎日を守るのが、僕らの仕事だお! 君が楽しいなら、絶対守り通すお」

 ずっとと願う彼女は、なぜかとても輝いて見えて、それが妙に儚く思えて、僕は心外にも強く声が出た。
 それはどちらかというと、彼女のためでなく、まるで自分に言い聞かせるような、そんな想いを込めているように思えた。
  _
( ゚∀゚)y━・~~「おお? 言うねぇ。かっくいー」

(#^ω^)「オイコラテメェ、こんな所でガラム吸うなwwww」

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 00:58:06.42 ID:7LBUv78b0
 歩く公害野郎と一悶着あって、それからまた一曲唄い、夜も更け人が少なくなる頃に私達はバーを離れた。
 無数の配管が走る要塞の通路を、二人で並びながらゆっくりと歩く。
 蛍光灯で照らされた無機質な金属製の壁は、無骨ながらもそれはそれで情緒を感じさせた。

川 ゚ -゚)「マスター、守るといってくれた事、嬉しかった。ぜひとも皆の毎日を守ってくれ」

 私がそう声を掛ける。どうせ、マスターは酔いが回って、まともな返事が出来ないだろうと踏んでいた。
 だけれども、その予想を裏切り、隣からは凛とした発声で言葉を紡ぐ。

( ^ω^)「……本当は、僕はそんな大層な人間じゃないお。ただ、守りたいのは大切な友達や家族だけなんだお」

 声は思い詰めたように、何かを堪えるように、けれどもはっきりと私の集音センサへと届いた。

( ^ω^)「例えそれが、誰かの大切な人を殺すことになっても、僕はそれを果たすだけだお」

 集積回路のどこがそんな命令を出したかは分からない、ただ、何か言わないといけないと、そう感じた。
 だから一拍の間をおいて、そのわずかな時間の間に精一杯考えて、返答をする。
 どこかでなにかの機械が稼動を始めたのか、低い唸るような音が、小さく響いていた。

川 ゚ -゚)「ならば、出来ればでいい。私をその大切な人の末席に加えてくれるなら、そうしてくれると嬉しい」

( ^ω^)「なにいってんだお? そんな当たり前の事。アンタは家族じゃないのかお?」

 間髪入れず、さも当然のようにマスターは私を見つめて、そう告げる。
 マスターの常に浮かんだ微笑みが、その時から少し輝いて見えるようになった。

 この感情は、いったいなんだろうか? 暖かくて切ない、感情回路の暴走?
 兵士達の見張りを交代する声を、どこか遠くで聞きながら、私は複雑な思考に飲まれていった。
 ああ……コレは、本当にどうにかなりそうだな。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:00:16.94 ID:7LBUv78b0
 部屋に着き、酔った頭でのそのそとベッドの毛布に包まる。
 彼女はいつものようにベッドには入らず、コンポに端子を繋いで部屋の片隅にチョコンと座りこんだ。
 証明を落とし、それでも訓練で鍛えられた視力が、小さくリズムに揺れる姿を捉える。

川;;;;;;;;;)「……マスター」

 そのまま優しい睡魔に身を委ね、思考に靄が掛かる手前、彼女が珍しく僕へと話し掛けてきた。
 寝る前に声を掛けてくるという事態が珍しく思えて、睡魔を散らし返答を返す。

( ^ω^)「クー。どうしたお?」

 彼女の声は小さく、そんなわけないのに震える様で、けれども闇に阻まれて表情を伺う事は出来ない。
 だが、僕の思い込みが正しいのなら、きっと、彼女は常の無表情を崩す事はないだろう。
 そう思う反面、なぜだか僕には彼女が暗闇に対して小さく萎縮し怯え、恐怖に包まれ揺さぶられているように思えるのだ。

川;;;;;;;;;)「マスターはロボットに乗って戦い、この要塞を守るのだろう?」

( ^ω^)「正確に言えば違うけれど、まあ、その通りだお」

川;;;;;;;;;)「戦闘用のロボットは、人間を模造して作られた金属のヒトだ。そしてそれは私も同じ」

 声は僕の耳朶を優しく叩き、か細くはなく、けれどもどこか吹けばそのまま消えそうな空気を含んで聞こえる。
 そのニュアンスを感じ取りながらも僕は何もせず、ただただ続きを待った。

川;;;;;;;;;)「ならば、私とその戦うためのロボットに、一体どんな違いが有るというのだろうか?」

 一体、なぜ唐突にこんな考えに至ったのだろうか? 大切な人だけを守ると、そう言ったことに起因する感情や思考の末なのだろうか?
 その疑問を解決するにはあまりにも情報が少なく、つまりは無駄なことだと解決法の模索を放棄する。

 ただ、純粋に、彼女の疑問に対して、自分の意見をぶつけた。

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:03:49.25 ID:7LBUv78b0
( ^ω^)「戦うためのロボットには、なぜ操縦者が必要だか分かるかお?」

 彼はベッドから上半身だけを起すと、私のメインカメラをしっかりと見つめながら尋ねる。
 一般的に、理由はいくつか有ると言われている。

 最も大きな理由は、咄嗟の判断やなんとなくココは危険など、いわゆる勘は人間の脳が圧倒的に優れている、と言う点だ。
 勘とはつまり、過去の経験と仮定から弾き出した未来予想を指す。
 格闘戦など瞬間的かつ総合的な判断の応酬に対し、現代の一般的な電子頭脳ではまだ人間の脳に勝つことが出来ない。

 他にも様々な理由、暴走の危険や論理観、コンピュータという存在の電子的な脆弱性などの問題が挙げられる。
 だが、どれもが彼の言う必要だとは思えず、私はしばし悩む素振りを見せ、それから首を軽く振って答えた。

( ^ω^)「人間だって機械みたいなもんだお。集積回路が制御し、エネルギーを使って体を整備し、活動する。
      けれど、ロボットと決定的に違うのは、命。魂だと思うお」

 訥々と語る彼に、私は口を挟まず、ただその言葉に耳を傾ける。

( ^ω^)「機兵にはないその魂を、体を殺した僕らが貸してやって、初めて動くんだお。だから」

川 ゚ -゚)「だから?」

――エラーメッセージ:マスターの体温、脈拍の上昇を感知。興奮性感情によるものだと判断。

(*^ω^)「だからっ、魂のあるキミは、機兵とは決定的に違うんだお!」

 そう無理矢理に断ち切るように言い放つと、くるりと毛布へ包まって、私に背を向ける。
 なるほど、そうか。マスターは私に魂があると、人間だと、言ってくれるのか。
 ……けれども、タイムアウトだ。マスター。
  _
( ゚∀゚)「緊急招集だ! 第08鉄殻機兵隊は作戦会議室だとよ。ちょっくらヤベーぜ!?」

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:06:25.53 ID:7LBUv78b0
( ^ω^)「つまりラウンジは、クーの返却と得た情報の抹消を要求していると?」

(´・ω・`)「さらに損害賠償もだね。全く、何だってこんなに警告がギリギリになってからなんだ?」

 警告が遅れたと言う事は、相手も混乱していると言うことだろう。彼女の強引な輸送自体、何か裏があったに違いない。
 ふと気がつくと、僕は彼女の盾になるよう背に隠し、作戦の為に集まったショボン少尉を含む上層部を睨んでいた。
 だが、彼らは一様に首を振る。おいっ! まさか、彼女を諦めろってのかお?

(´・ω・`)「安心しろ。対消滅エンジンを渡せば、それによって僕らは手も足も出ずに、戦争に敗北する事となる」

 敵国は要求が飲めなければ、要塞に対し攻撃を仕掛けると宣告している。
 両国は元より対立していたのだ、コレを契機に泥沼の戦争へと突入するだろう。
 彼女の存在は、大昔の核兵器と酷似している。だが、我が国はこのエネルギーを生かす方法を知らないのだ。

(´・ω・`)「逃げ切れば勝ち、大人しく降参か? 最後まで悪あがきするか?」

( ^ω^)「悪あがき? なんの冗談だお? ここには女神様がいるのに、負けるわけないお」

 誰がなんと言おうと、僕の背中で寡黙に押し黙る彼女は、勝利の女神だ。
 女神に誓おう、僕は彼女のために生き、戦い、そして死ぬ。
 彼女を失うくらいなら、世界中を敵に回す方が、ずっとずっと気楽なほどに彼女の存在は大きく膨れ上がっていた。

(´・ω・`)「そうだね。どうやらウチの上層部も同じ考えのようだ。だが、援軍の到着は遠い」

 ショボン少尉が作戦室のコンソールに要塞周辺の地図を広げ、その上から敵の兵力を簡易的に表した展開図を広げる。
 何倍もの兵力を見て、各々がその胸中に護る者と覚悟を浮かべ、強く拳を握りこむ。
 今の僕ならどんな敵であろうとも一撃で粉砕できると、そんな奇妙な自信じみた感情が湧きあがるのを感じた。

(´・ω・`)「さあ、皆。覚悟と準備は出来たかい? 作戦開始は明日早朝。我らの歌姫に勝利の加護があらん事を!」

42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:09:55.67 ID:7LBUv78b0
 具体的な作戦の説明が始まる前に、私は会議室からつまみ出された。
 なぜ、このタイムアウトを知っていたのか? からくりは簡単、私は人間とは比べ物にならないほど耳がいいのだ。
 この要塞内部の会話など、私の聴覚は全て把握してしまう。

 けれども、この情報を私を作っただろう国にリークするつもりは、毛頭ない。
 私には記憶の欠片もない、ただの生まれ故郷に興味や郷愁や、まして忠誠心などありはしないのだ。
 ただ、私はマスターが居てくれれば、それでいい。

 する事もない私は、ただ手持ち無沙汰に佇むこと数時間、兵士達がぞろぞろと出てくる。
 私はきっと、彼らから罵声を浴びるだろう。
 彼らを危険に晒すこととなるのは、全て私が原因なのだ。その程度を受け入れる覚悟など、十二分に出来ている。

「おいっ!」

 ほらきた。

「クー、てめーも哀れな歌姫だ。ブーンなんかを主人に選んじまうなんてな! もったいねぇ」

「ブーンは腕はピカ一だが、思いやりがねーぜ。なあ、俺を御主人様にしてくれよ!?」

「おいこらっ! 抜け駆けすんな! オレオレ! 俺にキスしてくれ!」

「最後の大仕事が歌姫救済。いいねぇ歴史に残るぜ? あんたの歌はどんな人間よりも心に残った、ありがとうよ」

「こんなカワイイ歌姫の為に戦えるとか、漫画みたいじゃねーか。命掛けて守ってやんよ!」

「本当の歌を聴いてない奴らに、俺達が負けるかよ。報酬は、お姫様の歌と命。充分すぎるな」
  _
( ゚∀゚)「オレはこのスタイルも国宝級だと思うね。設計者はよく分かってる。コレを愛でられるなんて、最高の報酬だ」

45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:12:43.05 ID:7LBUv78b0
川 ゚ -゚)「お前らはバカだな。相手が悪い、どう足掻いても圧倒的じゃないか」

( ^ω^)「ああ、そうだお。圧倒的に我が軍の勝利。勝利の女神がいるんだから、当然だお」

「尻がいいな。尻」
  _
( ゚∀゚)「黙れ! おっぱいだ。形! 大きさ!」

(´・ω・`)「さあ、さっさと配置につきな。逃げたい奴はさっさと逃げる! まあ、そんな腰抜け居ないだろう?」

「歌姫は足首が捨てがたいね。アレは、良いモノだ」

(´・ω・`)「掘るぞテメェ。さっさと配置につけ」

 誰一人、外に通じる通路へは行かず、各々笑顔を浮かべて自分の配置へと散って行く。
 ウチの軍は、バカが多いな。誰一人この絶望的状況から逃げたりしない。
 ここに居るような奴らは、だれだって守りたい者が一つや二つ、絶対にあるというのに……

 ショボン少尉が戦うのは、妻のための復讐だと、ずっと昔に言っていた。
 ジョルジュは、まだ幼い娘が要塞の近くの町に住んでいる。
 ギコ中佐は奥さんと一緒に居る為に、研究職なのに前線で整備長をやっている。

 僕は彼女を死んでも守るために、機兵に乗って何十口径という砲を使い、敵を狩る。

 個人がそういった想いの他に何を考え、悩み、逃げずに何倍もの戦力に挑む覚悟を決めたのかは知らない。
 けれども、僕は僕が選んだ道を進もう。何十の屍の道を彼女を守って突き進もう。

(´・ω・`)「最後の上官命令だ。全員、死ぬな。歌姫の唄を聴く為に、生きて帰るぞ。歌姫様を悲しませんな!」

「「「「イエスッ! サー!」」」」

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:15:02.68 ID:7LBUv78b0
 対高速飛翔物防衛障壁、いわゆるバリア領域内への侵入を確認、要塞BMDライン突破直後、戦いは火蓋を切って落とされた。
 要塞内部に残されることとなった私は、何か出来る事はないかと、思索する。
 耳をそばだて、暗号化された情報をマシンスペックに任せて強引に解読を開始。
 数時間を要して、味方の通信の傍受に成功した。

「こちらアルファ8、一機撃墜! ははっ嵐みたいだぜ!」

「シータ9応答せよ! クソッ! シータ2からシータ各員へ。回避機動に専念せよ。ゆっくりと時間掛けて潰す」

「こちらズール7、ポイントベータ002に異変を察知。ヤバい気配だお。横から叩かれるお!」

「ズール1から各員へ、ズール7と二人で防衛へ向かう。全軍、持ち堪えろよ?」

「ズール3了解!」「ズール5了解! 暴れてこい!」「第一線は任せてください少尉」「ズール2了解。指揮は任せてください」

「こちらHQ! 支援射撃範囲デルタデータを転送。チーム・ズールうまくそこへ誘導せよ!」

「「「「「「了解!」」」」」」」

「こちらシータ7! 市街地に敵影を確認! チーム・アルファ、対応を要求する!」

「無理だ! 戦車砲で何とかしな! わらわらワラワラ、ウジ虫かこいつら!」

 その通信を聴きながら、私は司令室まで強引に侵入し、頭を下げて通信機へのリンク許可をもらう。
 私には出来る事はないかも知れない、けれども、何もしないよりずっとマシだ。
 時間は、あまり残されて居ない。私は最後まで、彼らに歌を聴いて欲しい。

49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:16:43.55 ID:7LBUv78b0
 先回りしようとする部隊を察知、というか数が多くてとても対応が間に合っていない。
 現在、廃墟街でその部隊と交戦中。そして106mm突撃砲で、戦車を四機、ヘリを一機、機兵を三機撃破した。
 僕も一応エースパイロットと呼ばれる身分だ。少尉には負けるが、結構な数を撃破していることになる。

 けれど、ヤバいな。戦車隊の左翼が押され気味、随分と腕のいい爆撃機がいるようだ。
 一番近い援軍は、僕とショボン少尉と言うことになるが、たった二機でどう立ち回っても防衛が間に合わない。
 要塞に敵軍を到達させる気はさらさらないが、ちょっと数が多すぎるな。

――システムメッセージ、送信者、恐らく味方からの通信電波をキャッチしました。

 システムメッセージをみて、通信許可を出す。
 その通信は、歌だ。
 メロディのないアカペラだけれど、綺麗で透き通って、それでいて聴く者を鼓舞するそんな歌だ。
  _
( ゚∀゚)「ははっ、この歌。知ってるぜ? 女神様の十八番だ」

 どうやって暗号化された通信に割り込んだのか、それは知らない。けれども、僕らに彼女の歌声は届いた。
 敵軍を通す気はない、ここをさっさと片付けて、それからだって間に合わせてみせる。

(´・ω・`)「こちらズール1、ズール7。チーム・アルファ左翼の援軍へ行け。ここは僕一人で充分だ」

( ^ω^)「……ですが」

(´・ω・`)「さっさといけ、散弾砲に巻き込むぞ? 左翼を突破されたら即座に要塞を叩かれる。ズール7、死守せよ」

( ^ω^)「ズール7、了解。生きて逢いましょうお」


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:18:14.82 ID:7LBUv78b0
――立ち上がれ 気高く舞え 天命を受けた戦士よ


「おい! この唄、この声!!」

「歌だ! 彼女の歌だ! 歌姫のホンモノの歌だ!」


――明日の平和への 礎となれ


「この唄を守る為に、戦うんだ! 各員! 歌姫の支援に感謝せよ!」

「ああーブーン、うらやましすぎるな! 後ろから撃ちたいくらいだぜ!」


――熱くなれ 大きく咲け 天に捧げし命よ


「はっはは、今なら死なない自信があるぜ! オレは不死身だ! 生きて帰って彼女に告白してやる!」

「残念だな。告白は階級順だぜ? ほら、カッコ悪いとこ見せんな! 女神様が見てるんだ!」


――弱き者の盾となれ そして 世界を 導け


「一機撃墜! 戦車一機撃墜! 歌姫聞こえるか!? 結婚してくれ!」

「ふざけんな! いいカッコしてんじゃねーよ! 階級順だろ? 俺が先だ」

52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:20:55.28 ID:7LBUv78b0
 突撃態勢に入った敵影をレーダーにて確認、相手もコチラを認めただろう事を想定し、一時岩陰に身を寄せる。
 一時戦況を確認するため、司令室から送られてきた情報を確認する。
 搭載された電子頭脳が、受け取った情報をある程度整理し僕の脳へと送り込む。

( ^ω^)「…………」

 やはり、状況はかなり悪い。
 皆善戦しているが、相手の兵力が多すぎて対処が完全に間に合っていない。
 レーダーは、現在突出しているたった一機の機兵へ、かなりの兵力が集中していることを示していた。

 だが、あのショボン少尉は要塞最強のエース、後に英雄と呼ばれることは確実な手腕を持っている。
 どんな数相手でも、廃墟街という一度に大量の部隊展開を望めない地形が、彼に有利に働くはずだ。
 現に、彼の撃墜数は……え? いや、そんな……
――ズール1、戦車機兵ヘリ合わせた総撃墜数……ダントツトップ、52機。

( ^ω^)「こちらズール7! ズール1! 引き返せ! 今ならまだ間に合う。アンタの弾倉は――」

(´・ω・`)「ズール7、左翼防衛に専念せよ。俺はあと、5機ほど潰してから引き返す。いいか? ぬかるなよ?」

 少尉アンタ……その決断は、天国の奥さんに叱られてしまうぞ?
 アンタは奥さんの為に戦うって、そう言ってただろう?
 なあ、少尉の使う無反動散弾砲の弾倉は、46発しか込められないじゃないか……

 だけど、でも、僕は――

(  ω )「……ズール7、了解。絶対に、生きて逢うお」

(´・ω・`)「ズール1、了解。いっぱい来たな、まとめてぶち殺してやるよ」

 きっと、これは少尉との最後の通信だ。

53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:22:43.25 ID:7LBUv78b0
 唄うことしか出来ないけれど、それでもただ感謝を伝えたくて、私は精一杯の想いを込めて歌い続ける。
 それはただ唄うというより、祈るという行為に近かった。
 皆が無事である事を祈り、ただ、笑って生還する事を望む、その発露にすぎなかった。

 この程度で絶望的な戦況を変わる事は、叶わないだろう。
 そう理解してもなお、私が歌うことは、彼らにとってきっと意味があると、そう信じて喉を震わせる。

(,,゚Д゚)「歌姫、歌いながらでいい。ただ、俺の話を聞いてくれ」

 全身全霊で祈りを込め想いを乗せて、私へ声を掛けたギコ中佐へと視線を向ける。
 研究職たる彼もまた、私同様彼らに守られるこの要塞の中で、祈ることしか出来ない、力なき人間なのだ。
 そう思うと、頑健に見えるその長身も、なぜか小さく怯える童と大差のない、ちっぽけな存在に見えてしまうから不思議だ。

 だが、私に司令室への入室許可をくれたのも、通信の使用許可をくれたのも、彼の権限あってこそだった。
 それを思うと彼の願いは聞き入れなくては、という使命感に襲われる。

(,,゚Д゚)「歌姫、最後の最後だ。キミの好きな歌を歌ってくれないか? 皆が好きな歌じゃない、キミが好きな歌だ」

 私はその言葉にふと戸惑った。
 皆に聞いて欲しい歌は、たくさん、いくつもあるのだけれど、私が好きな歌となると、皆目見当がつかない。
 歌いながらしばし悩み、そしてふと頭に過ぎった歌を続けて歌う。

(,,゚Д゚)「……キミは歌のクリオアを……ありがとう。キミは機械じゃない。人間さ」

 私の声が届くように、マスターに届くように、ただ伝えたい歌を歌う。

55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:24:26.98 ID:7LBUv78b0






            ―― 一億と二千年たっても 愛している









57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:25:29.37 ID:7LBUv78b0
 それは、一瞬の判断ミスだった。
 機兵十機目の撃墜直後、物影に隠れていた敵影に気がつかず、慌てて反撃と回避行動をとるも、脇腹に着弾。
 バランスを失い、廃墟となったビルへ強烈に叩きつけられてしまった。

――警告、ベクトロニクスに異常発生。運動系統を完全にロスト。脱出を推奨。

 脱出プログラムを起動したが、爆発ボルトが動作せず、意識も自分の体に戻らない。
 ヤバいな、電子頭脳が暴走したみたいだ。
 死の覚悟を決め、しかし、被弾直前の反撃が功を奏し、幸い九死に一命をとりとめた。

 だが、機体は何をしようとも、指先一つ動かすことができない。
 これで、左翼が完全に潰れてしまうだろう。誰かが対処してくれればいいが、それも全体の戦況からは望めない。

 何をする事も出来ず、僕はただ宙を眺め、空に大きな敵軍の爆撃機を見つける。
 あんなに遅い爆撃機に対し、今の僕は牽制すら出来ない。

――緊急メッセージ、B-45、搭載兵器を放射能などから総合的に判断、核ミサイルだと推測。

 まさか、ラウンジの奴ら、規定で違反となっているその兵器を使うつもりなのか? ふざけるな!
 なあ、嘘だろう? 核兵器なんて前時代の遺産使いやがって、そんな、僕はそれを知ってただ呆然と指を咥えていろと言うのか?
 ただ動けと、そう願うけれど僕の機体はピクリともせず、ただ、その爆撃機をカメラで追う事しか出来ない。


 核ミサイルを搭載した爆撃機はあっさり防衛ラインを突破して、攻撃に成功する。
 僕らが命を掛けた戦いは、ただそれだけで終焉を向かえた。
 そのまま、世界は爆風に飲み込まれて、僕の意識はその光の壁に飲まれて、ただ彼女の歌をBGMに潰える。



             僕らの戦いは、終わった。

58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:26:59.76 ID:7LBUv78b0
 もがき暴れ、渾身の力を振り絞り、体の上に築かれた瓦礫から何とか這い出す。
 あの光は一体? なにがあったのだ? 戦争の結果はどうなった?
 疑問は潰えず、兎も角も周辺の観察をいそg

――警告メッセージ:危険域放射能濃度、約19859984877285367167Bqを計測。

 なんだ? この異常な数値は?
 計器が壊れたか、でなければ、まるで原発事故直後のような……原発? いや違う、原爆だ。
 まさか、核兵器を使われたのか? 何故私はあの爆風の中、破壊を逃れこうして正常に動作しているのだ?
 まて、まずは人命……いや、この濃度の放射能を浴びて生きている訳がないな。

 負けたのか? それはそうだ。圧倒的な戦力差、勝てる方が奇蹟のような戦い。
 私達はその奇蹟にわずかなベットを賭け、そしてその末路に私以外の大切な仲間の命を奪われた。

川 ゚ -゚)「ははっそうか、負けたのか。もう私は何も生きる糧を持たないのか……」

 死んでしまおうか? いやだめだ。少尉は死ぬなと、最後の命令をだした。
 私は何があろうと死ねない。死んでなるものか。
 けれども、マスターを失った私の生きる意味とはなんなのだろうか?

川 ゚ -゚)「私を人間だと認めてくれた人々を失って、私はまだ人間なのか?」

 歌を喜んで聴いてくれる皆は、もう居ないのか?

――システムメッセージ:ラストオペレーション作動条件が満たされました。

 私は死ねない、そして、最期に残された者として、やるべき事がある。
 明けようとする空を見上げ、私は強く握りこぶしを作ってみせた。

63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:35:49.27 ID:7LBUv78b0
川  - )「私はお前達を、大切な人達を奪った人類全てを……左側へ置こう」

 私の動力源が胸の奥底から、低い唸りを上げた。
 大気中にある窒素の質量を高速で消費し、失われた空気は真空を生んで、私を中心に小さな竜巻が発生する。
 天を仰ぐ、宵闇を群青が責め立てるような日の出も近い、明るくなり始めた空。

 人類よ、残念ながら貴方達にとって、この日の出は最後となる。

 マスターが言っていたじゃないか、守りたいのは身近な存在だけだと、大切な一握りが守れればそれで良いと。
 それじゃあ、それを失った時、私はどう生きればいい? それを私は一つしか知らない。

 報復だ。彼らを殺した人々への、彼らへの負担となった遺族達への、復讐だ。
 私にとって知らない人間など、路傍の石ころと変わらない。
 復讐に巻きこまれ、死に至ろうとも、絶滅しようとも、私の知った事ではない。

 最後まで祖国への忠誠心と執念で戦い抜いた、ショボン少尉。
 妻を護るため、最前線の要塞で整備と研究を続けた、ギコ中佐。
 要塞に勤め、祖国と家族を守る為に散った、戦隊のみんな。

 そして、私の愛すべきマスター、ブーン軍曹。

 彼らに花束の一つもあげる事ができないけれど、私はこの花火をもって彼らの餞としよう。
 右腕が激しく強く輝く、システムからの警告メッセージがガタガタと五月蝿い。

川 ゚ -゚)「さようならだ」

 昇った朝日に一言挨拶をして、世界は閃光に包まれた。

66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:44:56.82 ID:7LBUv78b0
 

 その衝撃により、地球は軌道を大きくずらして恒星の重力圏を脱出、人類は太陽の光を永久に失った。


 光を失い気温が50度近く下がった地球では、生命体は急激な環境変化に耐え切れず、人類を含める殆どの種族は死に絶えた。


 残されたのは、降りしきる雪の白と、光を失った真の闇と、そして私くらいのものだと、そう信じていた。







 けれども、私はあの攻撃の三日後に、一つの希望を見つけたのだ。




69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:49:32.05 ID:7LBUv78b0
 ビルの屋上で私は寂寥感に耐え、雪と踊り戯れながら彼らに教わった歌を紡ぐ。
 もう私の動力源に余力はない、コレが最後の力なのだと知って、それでもなおリズムに乗せて空気を響かせる。
 マスターの居ない一秒は私にとって百年に相当するのだから、体感時間は那由他の彼方へ通り過ぎてしまった。

 ずっとずっと歌い続けて、ふと脚を止め、異変に空を振り返ると、月の明かりが私の髪を染めていた。
 雲を月光が引き裂いて生まれた虚空には、満月と無数の星。
 しばし無言で、その星達を見つめ続け、その瞬きを目に焼き付ける。

 冷たい外気を目一杯吸い込む、胸の前で手を組み目を伏せて、彼らの為に聖歌を謳おう。
 彼らが教えてくれた、ラテン語のグレゴリオ聖歌。歌詞の意味は、知らない。

川 ゚ -゚)「Stabat Mater dolorosa Iuxta crucem lacrimosa,Dum pendebat Filius.」

 備え付けられたスピーカーは、まだまだ現役なのだけれど、アンプにかなりガタが来ていた。
 故に枯れてきた声で、懐かしい彼らが褒めてくれたあの歌を、全身を震わせ唄う。
 サンタクロースに聞こえるかも知れないと、出せる限りの声量で、ただ喉を震わせる。

川 ゚ -゚)「Fac,ut portem Christi mortem,Passionis fac me sortem,Et plagas recolere.」

 違うな、サンタなんかじゃない、ブーンに聞いて欲しいんだ。
 ブーン聞こえているかい? こっちは何時の季節も白くて、味気なくてしかたがないよ。

川 ゚ -゚)「Quando corpus morietur,Fac,ut animae donetur Paradisi gloria.」

72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:51:06.95 ID:7LBUv78b0
 今歌う聖歌の歌詞の意味、最後の一節だけは知っている。

「この体が死を迎える時、わたしの魂に天国の栄光を与えて下さいますように」

 人の身を持たないアンドロイドに、魂はあるのか?
 天国の栄光は訪れるのか?
 どちらも、非常に興味深いところだな。

 最後の審判の時、アナタに、皆に、神のご加護と祝福があらん事を願おう。

 キミと始めて出会ったとき、私は恥ずかしい事をしてしまった。
 それから、いろんな事があって……キミの笑顔も、照れた顔も、真剣な顔も、全てが私の宝物だ。
 大切な家族と呼んでくれた時は嬉しかった。頭を撫でてくれた時は、とても安心できた。
 なにより、歌を教えてくれて、ありがとう。

 懐かしいな、全部全部、忘れたくない。

 歌い終えても、私は祈る姿勢のまま、様々な事を考えていた。
 私はあと何年生きていられるのだろうか? 
 エネルギーを通常以上に使い続ける身では、このエンジンの消耗もそう遠くはないはずだ。
 それに、私の演算素子や分子メモリの寿命だってある。私の命は決して永遠とは程遠い。

 ああ、最後に一度、もう一度でいい、幽霊でもいいからキミに逢いたい。
 クリスマスには奇蹟が起こると聞いたが、そんな小さな願いも叶わないのだろうか?

74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:53:22.81 ID:7LBUv78b0
 永遠に続くと思われたまどろみから、僕は唐突に覚醒した。
 上手く動いてくれない頭を叱咤して、意識を強く持つ。ここは、どこだ?
 そうだ! まだ、戦いの途中……暗い? なぜだ? マシンが動いていない。

 思い出した、あの後僕は流れ弾で駆動基盤をやられて、それで……それでビルに突っ込んだんだ。
 生きていることが奇蹟みたいだ。そういえば、あれからどれくらい時間が経ったんだ?
 1時間か、1日か……内部電源がそんなに持たないから、1週間以上なら生命維持装置を失ってポックリ逝っていた筈だ。

 ともかくも神経リンクを解除し、外に出ようと背面のコクピットハッチをこじ開ける。
 暗いはずだ、かなりの雪がコクピットの上に積もっていて、開けるのに難儀するくらいだった。
 なんとか這い出ると、スーツの上からでも判る冷たい風が吹き、視界一杯の銀世界が広がっていた。

( ^ω^)「……一体。なにが?」

 ビルの奥を見つめながら、機体の突起を頼りにハッチから降りて、雪の積もった床に着地する。
 随分と長い運動不足が筋肉全体を衰えさせていて、ただコレだけの運動で息が切れた。
 一体、僕はどれくらいの間、仮死状態で眠っていたのだろうか?

 戦闘で割れたのか、ガラスの面影もないビルの窓から、街を見下ろす事が出来る。
 恐らく、カーペットだったはずの床に積もった雪は、ここから吹き込んだのだろう。
 眼下はどこまでも暗く、防ぐもののない窓はただ冷たく凍えるような寒風を運んで、剥き出しの頬を撫でて焼く。


77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:55:59.26 ID:7LBUv78b0
 世界はどこまでも、闇夜の黒と深雪の白のモノトーンカラーが支配しているばかりで、それ以外音すら聞こえなかった。
 だというのに、不思議と不気味な印象は感じない。

 振り返ると天井部分、いやビルの一角がごっそりが抉れ、星空が剥き出しになっている事に気が付く。
 雪に埋もれた断面を良く見れば、コンクリが大きく抉れ、錆びた鉄筋がそこかしこから覗いている。
 恐らく、この抉れた箇所から僕はこのビルへ突入したのだろう。

 抉れた天井から差す月光が、床に積もった雪を白く照らし、その反射光で部屋全体は意外にも明るかった。
 なぜか恐怖に似た感情が、胸の奥から締め付けるように湧いて出て、頭の奥の方からそれを見たくないと、理解を拒絶される。
 それでも同時に湧いた使命感から、震えながらゆっくりと振り返った。

 機体の整備用外部端子のハッチがこじ開けられていて、そこからケーブルが延びていた。
 確か端子はバスパワータイプの各種情報の入出力と、整備用の簡易コンソールが備え付けられたものだ。
 そこから伸びたケーブルを目で追っていくと、何か黒いものに繋がっていた。

 その黒いものは、凄く見慣れたもののはずなのに、ただ人間大の大きさのモノとしか分からなかった。
 頭がそれを理解してくれない、疑問が次々と湧いて、脳みそがパンクしそうになる。
 やっと声を絞り出して、僕はうずくまったそれにゆっくりと歩み寄り、そして出来うる限り強く、力の限りに抱きついた。

(  ω )「クー! ……なんで?」

 永久を生きると言われていた彼女は、冷たい雪に晒されて、目を瞑り手を組んだまま動くことを止めている。
 全身に雪を積もらせ、纏わせて、それでも彼女はその粉雪を払うことなく、払う事も出来ずに凍っていた。


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 01:58:01.16 ID:7LBUv78b0

 胸に抱く彼女は、何故かアンドロイドである事を忘れさせるほどに軽かった。
 それが彼女が命の重さをなくしてしまったみたいで、酷く悲しくて、認めたくなかった。
 あの暖かかった感触は、あのよく抱き付いてきた感触は、氷のように冷たく無機質な物体へと変わっていた。

 頬に当たる髪も、柔らかい二の腕も、背中も胸も頬までも冷え切って、あの優しい温もりはどこにも感じない。
 強く抱きしめようとも、彼女は何も言わずいつもみたいに抱きしめ返すこともない。
 ただ、成されるがままに、僕の抱擁を受け止めていただけだった。

( ^ω^)「ごめん、待たせてしまったお。ちょっと長すぎて、キミは待ちきれなかったみたいだお」

( つω;)「ごめん、本当にゴメン。ずっと待っていてくれたのかお?」

( ;ω;)「こんなに寒くて、大丈夫だったかお? どれくらい待ったんだお? こんなに冷たくなるなんて、キミは馬鹿だお」

( ;ω;)「なんで、ずっと待っていたんだお? 見捨ててくれても良かったんだお。キミが生きてくれなきゃ僕は……」

 だって、僕は君の事が……


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/08(土) 02:00:12.90 ID:7LBUv78b0
( ^ω^)「ごめん、待たせてしまったお。ちょっと長すぎて、キミは待ちきれなかったみたいだお」

 植物状態から覚醒したのか。待ちきれない? そんなことないさ、私は一万年だって待ち続けてたよ。

( つω;)「ごめん、本当にゴメン。ずっと待っていてくれたのかお?」

 そうだ、でなければきっと君は、生命維持装置が壊れて死んでいただろうからね?

( ;ω;)「こんなに寒くて、大丈夫だったかお? どれくらい待ったんだお?」

 大丈夫さ、これでも私が人類を滅ぼした時は、もっと寒かったんだ。

( ;ω;)「こんなに冷たくなるなんて、キミは馬鹿だお」

 馬鹿はキミだよ、三年寝太郎だってびっくりだ。冷凍仮死状態で良く息を吹き返したものだ。待っていたんだぞ?

( ;ω;)「なんで、ずっと待っていたんだお? 見捨ててくれても良かったんだお。キミが生きてくれなきゃ僕は……」


 ブーン? 何を言っているんだ? そんな場所でうずくまっていないで、顔を上げてくれ。泣かないでくれ。
 ほら、私はココにいるんだ。君が起きてくれるなんて、最高のクリスマスプレゼントだよ。
 なんでだ? 何でこんなに近くにいるのに、キミは泣いてばかりで返事をしてくれないんだ?

 ああ、神よ。まさか、これで私にクリスマスプレゼントを与えたというのか?
 私の願いを律儀にも叶えたというのか? 神よ、アナタは最後まで私の事をいたぶるつもりなのかっ!


      川 ゚ -゚)は聖歌を唄うようです

                                        -了-


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