- 1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:20:40.38 ID:UC0/22Sk0
- 1.
南のどこかにある国、ニューソクの田舎。
レアメタルを産出する鉱山の麓には、見すぼらしいバラックの町並みが広がっていた。
錆の臭いがする町だ。
他にも貧困、麻薬、病気、性病……ありとあらゆる掃き溜めの臭い。
ピストンのイカれたボロ車に乗せられて、幼いクーはその町を見ていた。
川 ゚ -゚)
(-_-)「もうちょっとで兄貴んちだからな」
運転席の父親が浮かない口調で言った。
そして二人は再び出会うようです 前編
- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:21:44.62 ID:UC0/22Sk0
- 2.
車は寂れた街角にある小さな家の前で停まった。
鼻息をかけただけで崩れそうなボロ屋だが、クーの実家も似たり寄ったりだった。
(-_-)「兄貴」
(-@∀@)「おう、待ってたぜ」
J( 'ー`)し「いらっしゃい」
( ・∀・)
(-_-)「顔色が悪いな、大丈夫か?」
(-@∀@)「このところ忙しくてな。採掘量がノルマに届かんらしい」
親戚のおじさんとその妻、クーと同い年の少年が出迎えた。
(-_-)「それじゃあ頼むよ、兄貴」
(-@∀@)「ああ。こんちは、クーちゃん」
J( 'ー`)し「大変だったねえ」
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:23:07.09 ID:UC0/22Sk0
- 3.
川 ゚ -゚)「うん。よろしくお願いします」
挨拶を交わし、家に入る。
ヒッキーはクーを残して車に取って返した。
(-_-)「いい子にしててくれよ。いつかきっと迎えに来るからな」
川 ゚ -゚)「うん……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日、朝。
初めての土地で友達もなく、不安だったクーは一人ぼっちで家の前にいた。
手の中にある小さな画帳を開く。
川 ゚ -゚)
ページをめくると、描きかけの絵が並んでいる。
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:24:21.95 ID:UC0/22Sk0
- 4.
ペンを手にして続きを描こうとと思ったが、そんな気にはなれなかった。
そこにモララーがやって来た。
( ・∀・)「お前の母ちゃん、死んじまったんだって?」
川 ゚ -゚)「うん」
クーはさっと画帳を隠した。
( ・∀・)「どうして死んだんだ?」
川 ゚ -゚)「撃たれたの。わたしとお父さんと一緒に、こ、こ……こっきょー……」
( ・∀・)「ああ、わかった。国境を越えようとして警備隊に撃たれたのか」
川 ゚ -゚)「うん……」
祖国を捨てて豊かな北の大国に密入国しようとする者は後を絶たず、毎年何人も射殺されている。
川 ゚ -゚)「お父さん、自分一人じゃわたしを育てられないって……」
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:25:35.14 ID:UC0/22Sk0
- 5.
( ・∀・)「そうか」
モララーは同情の表情を見せた。
クーよりも一つか二つ年上なだけなのに、妙に大人びている。
幼くしてこの世の地獄を見てきた者に身に付く達観だ。
( ・∀・)「来いよ、友達に紹介してやる」
モララーとクーは空き地へ向かった。
薄汚い一張羅に身を包んだ子供が三人、たむろしている。
( ´_ゝ`)「よう」
(´<_` )「ん? 誰だそいつ」
背の高い二人が真っ先にモララーに気付いた。
二人とも顔がそっくりだ。双子らしい。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:27:04.66 ID:UC0/22Sk0
- 6.
('A`)「お前の彼女か?」
残りの一人はやや貧相で小柄な少年だ。
( ・∀・)「こいつはクー、今日から俺の妹だ。イジメたらタダじゃおかねえぞ」
川 ゚ -゚)「よろしく」
( ´_ゝ`)「ん。兄者だ」
(´<_` )「弟者だぜ。俺たちのこたあ、流石兄弟と呼んでくれ」
('∀`)「ドクオだ。サインいるか?」
川 ゚ -゚)「?」
( ・∀・)「ほっとけ。そいつ、初対面の奴には必ずそう言うんだよ」
('∀`)「俺は将来俳優になるんだぜ? 今のうちにサインを貰っといて損はないぞ」
( ´_ゝ`)「はいはい、聞き飽きたよ」
(´<_` )「それよりそろそろ行こうぜ。遅れるよ」
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:28:30.46 ID:UC0/22Sk0
- 7.
五人は連れ立って鉱山の方へ向かった。
大通りでトラックや鉱夫たちの群れと合流する。
大人以外にも、クーたちのような子供の姿も多かった。
やがて穴がボコボコ開いたハゲ山に辿り着いた。
川 ゚ -゚)「何をするの?」
( ・∀・)「仕事だよ。土砂を運ぶんだ」
少年たちは大人に混ざり、土砂を台車に乗せてトラックの荷台に運ぶ作業を始めた。
鉱山を掘り進めるうちに出たそれを片付ける仕事をしているらしい。
始めのうちは見ているだけだったが、やがてクーも手伝うことにした。
( ・∀・)「お前はいいってのに」
川 ゚ -゚)「やるよ。うちでも仕事してたもん」
時々どこかで爆発音がする。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:29:47.49 ID:UC0/22Sk0
- 8.
鉱山で岩盤を砕くのに発破を使っているらしい。
('A`)「おい、見ろよあれ」
ドクオがこっそり指差した方向には、明らかに毛色の違う様子の男たちがいた。
数人の白人で、身なりがいい。
現場監督と何か話し合っている様子だった。
( ´_ゝ`)「会社の奴らだぜ」
川 ゚ -゚)「会社って?」
( ・∀・)「この鉱山の持ち主だよ。北の奴らだ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから数年間、クーの記憶に残っているのは土砂の撤去のことだけだ。
モララーの一家は朝から晩まで働き続けた。
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:31:04.61 ID:UC0/22Sk0
- 9.
それでも生活はギリギリで、日々の食費の確保がやっとだった。
クーが14歳になったある日のこと。
珍しく仕事が早く終わった日の夕方、クーは家の前で絵を描いていた。
川 ゚ -゚)
画帳に描き付けているのは、沈みゆく夕焼けを浴びてオレンジ色になってゆく町の風景だ。
チビた色鉛筆で色を塗っていると、先端が折れた。
川 ゚ -゚)「あっ」
川 ゚ -゚)(高い色鉛筆が欲しいなあ。安物はうんざりだ)
( ・∀・)「よう、クー」
川 ゚ -゚)「何?」
( ・∀・)「カーチャンが買い物に行って来てくれって」
川 ゚ -゚)「わかった」
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:32:15.42 ID:UC0/22Sk0
- 10.
繁華街の方へお使いに向かう。
川 ゚ -゚)「何を買うの?」
( ・∀・)「父ちゃんの薬がなくなっちまった」
川 ゚ -゚)「もう? 前に買ったばっかりじゃない」
モララーはため息をついて表情を暗くした。
( ・∀・)「だんだん効かなくなってるみたいなんだ。医者に診せる金があればなあ……」
クーはふと足を止めた。
町に一軒しかない画材店で、店先に額縁や絵の具が並んでいる。
川 ゚ -゚)
( ・∀・)「何だよ」
川 ゚ -゚)「何でもない」
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:33:20.86 ID:UC0/22Sk0
- 11.
( ・∀・)「欲しいんだろ? 買ってやるよ」
川 ゚ -゚)「父さんの薬を買うお金じゃないか」
( ・∀・)「俺だってちょっとくらい手持ちがあるよ」
中に入る。
クーは遠慮して安い色鉛筆を指差したが、モララーは高いのをレジに持って行った。
川;゚ -゚)「そ、そんなの悪いよ」
( ・∀・)「いいって。たまにゃあ兄貴らしいことをさせろよ」
川*゚ -゚)「ん……」
店を出ると、クーは買ってもらった色鉛筆を手に取った。
掛け値なしに高いやつだ。
川*゚ -゚)「ありがとう」
( ・∀・)「いいって。将来絵が売れたら奢れよな」
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:34:22.44 ID:UC0/22Sk0
- 12.
川 ゚ -゚)(絵が売れたらか……)
絵描きになんかなれるのだろうか?
毎日毎日、飯にありつくのがやっとの生活なのに。
せめてこの町から出られたら……でも、小学校すら卒業してないのにどこへ行けばいいのだろう?
( ^Д^)「ようよう」
(・∀ ・)「そこのお嬢ちゃん、暇ー?」
( ・∀・)「ん?」
裏路地の入口のところでガラの悪い少年が二人、何をするわけでもなく立っている。
自分たちと同い年のようだが身なりはずっとよく、銀のアクセサリーをじゃらじゃら付けていた。
( ^Д^)「ようお嬢ちゃん、そんな男ほっといて俺たちの方へ来ないかい?」
(・∀ ・)「一緒に天国までぶっ飛んじゃおうよー」
( ・∀・)「眼ぇ合わせるな、売人だ」
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:35:25.17 ID:UC0/22Sk0
- 13.
川 ゚ -゚)「売人?」
( ^Д^)「ようよう、連れないねー。俺たち金持ってるぜ」
モララーは男を指差し、睨んだ。
( ・∀・)「俺の女だ。手ぇ出したら殺すぞ」
( ^Д^)「うひー、オッカネエ」
クーとモララーは早足にその場を離れた。
( ・∀・)「絶対に関わるなよ、あいつら“ラ・エメ”だ」
川 ゚ -゚)「何それ」
( ・∀・)「ギャングだよ。麻薬を売ってるんだ」
川 ゚ -゚)「ふーん」
家に帰ると父親が食卓についていた。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:36:26.55 ID:UC0/22Sk0
- 14.
調子の悪そうな咳をしながら、酒を口にしている。
(-@∀@)「お帰り」
( ・∀・)「はい、薬」
(-@∀@)「悪いな、ゲホッゲホッ……」
J( 'ー`)し「あんた、休みは取れないのかい? このままじゃ倒れるわよ」
(-@∀@)「そういうわけにはいかん。一日でも休んだら仕事を失くすかも知れんのだぞ」
彼も他の人々と同じく鉱山に入り、レアメタルの採掘に従事している。
粉塵のせいで大抵みな肺を壊すのだが、それでも休むわけにはいかない。
この町で鉱山の仕事を失えば、飢え死に以外の選択肢はない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
夕食後。
月の明るい夜で、青白い冷たい光が町に降り注いでいる。
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:37:35.76 ID:UC0/22Sk0
- 15.
クーは家の屋根に上がり、買ってもらったばかりの色鉛筆で絵を描いていた。
後ろでハシゴが軋む音がし、モララーがやってくる。
( ・∀・)「絵が好きだな、お前は」
川 ゚ -゚)「ん」
彼はクーの隣に座った。
( ・∀・)「お前は何を描きたくて絵描きになるんだ?」
川 ゚ -゚)「北の大国を描くんだ」
( ・∀・)「へえ?」
川 ゚ -゚)「父さんと母さんが行きたかった国だもん。
きっと、絵に描きたくなるようなものが一杯あるんだと思う」
( ・∀・)「そうだな」
川 ゚ -゚)「兄さんは?」
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:38:32.71 ID:UC0/22Sk0
- 16.
( ・∀・)「へ?」
川 ゚ -゚)「兄さんは、何になりたい?」
( ・∀・)「うーん、俺は金持ちになりたいな。その為には勉強しないと」
川 ゚ -゚)「具体的には?」
( ・∀・)「法律とかコンピューターとかさ」
二人とも語り合い、そして内心では思っていた。
そんな夢は絶対にかなわないと。
この町に生まれた人々はみんな夢を抱きながら、鉱山で擦り切れるまで働いて死んでゆく。
ここはまるで監獄だ。
そして、住人は全員生まれながらに終身労働刑。
( ・∀・)「絵描きになれよな」
それでもモララーのその言葉は嬉しかった。
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:39:37.09 ID:UC0/22Sk0
- 17.
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝のこと。
クーとモララー、流石兄弟とドクオの代わり映えのしない一日が始まった。
連れ立って職場の鉱山へ向かい、土砂を片付ける。
('A`)「見ろよ、またあいつらだ」
鉱山を所有する会社の背広組が数人、遠くで何かを話し合っている。
( ´_ゝ`)「まったく、いい気なもんだな、あいつらはよ」
(´<_` )「あの靴一足が俺らの年収くらいだぜ、きっと」
( ・∀・)「余所見するなよ。監督に怒られるぞ」
しばらくすると正午を知らせるサイレンが鳴った。
( ・∀・)「よし、休憩だ」
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:40:35.26 ID:UC0/22Sk0
- 18.
(´<_`;)「もうハラペコだよ。さあ、飯だ」
労働者たちは皆手を休め、額の汗を拭った。
弁当を開いたり一端家に戻ったりし始める。
('A`)「んじゃな」
( ´_ゝ`)(´<_` )「先行ってるぜ」
( ・∀・)「おうよ。クー、父ちゃんを呼びに行こう」
川 ゚ -゚)「ん」
二人はいつものように土砂の山を越え、鉱山の入り口の方へ向かった。
すると向こうで騒ぎが起きていた。
川 ゚ -゚)「ん? 何だろ」
途端にモララーの顔色が変わった。
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:41:45.08 ID:UC0/22Sk0
- 19.
弾かれたように走り出す。虫の知らせというやつだろう。
鉱山の入り口の穴の前に人だかりが出来ていた。
モララーが人だかりを掻き分けて中に入ると、そこに……
(-@∀@)
( ・∀・)「父ちゃん!!」
( ・3・)「お前、息子か? 気の毒だったな」
( ^Д^)「過労みてえでな、ぶっ倒れてそのまま……」
( ;∀;)「父ちゃん……父ちゃん!!」
変わり果てた父にすがり付くモララーを、クーは呆然と遠くから眺めていた。
その時、穴の中から背広姿の白人たちが数人現れた。
ヘルメットを被り、書類を固定したクリップボードを片手に持っている。
現場監督が人だかりを散らしにかかった。
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:42:48.13 ID:UC0/22Sk0
- 20.
( ・□・)「こら、散れ! 邪魔だ、通れないだろ」
( ・3・)「あっ、監督! アサピーの旦那が……」
( ・□・)「関係ねえよ、こちらの方々はお急ぎなんだぞ」
監督が無理やり人だかりを押しのけて場所を開けると、背広たちは当たり前のような顔をして
その場所を通った。
足元には眼もくれず……というか、その高い靴をひっかけないようにという意味では気を払い、
しかしアサピーが自分と同じ人間であるという点には一切関心を持たず、その上をまたいで行く。
彼らが順番に死体の上を通り過ぎるのを、モララーはじっと見ていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
モララーとクーは後に知る事になる。
北の大国、鉱山を所有する本社が押しつけた無理なノルマのせいで、アサピーたち鉱夫たちは
ここ数年過酷な重労働を強いられていたことを。
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:43:46.76 ID:UC0/22Sk0
- 21.
そして十年後―――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ニューソクの中心からやや離れた場所にある高級住宅街。
外資系の大企業VIPテクニクスの重役、ジョルジュの家では、一家揃って朝食の最中だった。
北の大国出身の白人ジョルジュに現地ニューソク人の妻トソンという組み合わせだ。
_
( ゚∀゚)】「また鉱山でストライキか、クソ! 首謀者はわかるか?」
(゚、゚トソン「あなた、食事中に電話は……」
_
(;゚∀゚)「ああ、すぐ終わるから」
_
( ゚∀゚)】「いいか、首謀者を見つけて金を掴ませろ、わかったか?」
_
( ゚∀゚)「ふう。給料泥棒どもめ」
(゚、゚トソン「相変わらずお忙しいみたいね。朝から晩まで」
_
(;゚∀゚)「朝っぱらから嫌味はよせ」
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:44:42.16 ID:UC0/22Sk0
- 22.
ξ ゚听)ξ「……」
両親が冷めきった会話を交わすのを横目に、一家の一人娘ツンはカットラリを置いた。
彼女は母親の血を多く受け継ぎ、容姿は白人に近い。
ξ ゚听)ξ「ごちそうさま」
(゚、゚トソン「待って、そこまで送るわ」
ξ ゚听)ξ「……」
母親は口元をナプキンで拭き、小学校へ向かうツンを見送ろうと玄関まで送った。
黒服の巨漢がドアのところで待っている。
プロレスラーのような体格の持ち主で、胸板がマットレス並みに分厚い。
( ^ω^)「奥様、お嬢様、おはようございますお!」
(゚、゚トソン「あら、おはようございます。ほらツン、ボディガードさんに挨拶なさい」
ξ ゚听)ξ「おはようございます」
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:46:01.28 ID:UC0/22Sk0
- 23.
( ^ω^)「おっおっおっ。お二人とも今日も一段とお美しい」
(゚、゚トソン「今日も一日張り切って勉強して来なさい。
それと、たまにはお友達を家に連れて来たら?」
ξ ゚听)ξ「……」
ツンは伏し目になり、無言だ。
気まずい雰囲気を振り払おうとボディガード・内藤が気を利かせる。
( ^ω^)「おっとっと、もうこんな時間ですお。そろそろ行かないと」
ξ ゚听)ξ「行ってきます」
ツンに続いて内藤も玄関から出ようとすると、奥方に呼び止められた。
(゚、゚トソン「あの子、どう? あなたと少しは打ち解けたかしら」
( ^ω^)「いえ……話しかけてはいるけど、全然返事してくれませんお」
(゚、゚トソン「そう……昔は明るい良い子だったんだけど。最近はどうしちゃったのかしら」
- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:46:46.23 ID:UC0/22Sk0
- 24.
(;^ω^)(そりゃあんたの家庭環境じゃ暗くもなるって)
ジョルジュに愛人がいることは公然の秘密というやつだ。
ツンと内藤は黒塗りの高級車に乗り込んだ。
要人護送の為に改造された特別製で、各装甲を増設してある為、戦車じみた重量感がある。
( ^ω^)「見て下さいお、このドア! マグナム弾も跳ね返しますお!」
ξ ゚−゚)ξ
(;^ω^)(やっぱり無反応かお……扱いにくい子だお)
夏のほど近い、初夏の晴れた日だった。
家を出て数十分、住宅街を抜けようかという時、イチョウの並木通りにさしかかった。
青葉をつけた葉が折り重なり、屋根を作っている。。
ξ ゚听)ξ「ゆっくり」
( ^ω^)「はいはい。ですお」
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:47:46.93 ID:UC0/22Sk0
- 25.
ツンはこの景色が好きらしく、通りかかる時はいつもスピードを落とすよう注文をつける。
並木を出ていくらも行かないうちに、人影が立ちふさがった。
( ^ω^)「ん?」
('p`)「あーうー、あーうー」
ナイトガウンにスリッパという姿の老人が道路の真ん中をふらふらしている。
内藤たちの乗る車がすぐそばまで来ても、道を開ける気配はない。
(;^ω^)「じいさん、通行の邪魔だお!」
プップップー
内藤はクラクションを鳴らしまくったが、老人は明後日の方向を向いたままだ。
パワーウィンドウを開けて身振りでどくように指示する。
(#^ω^)ノシ「どけってこら!」
('p`)「んあー? あんた介護士さんかね? わしの歯ブラシ知らんかのう」
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:48:48.55 ID:UC0/22Sk0
- 26.
( ^ω^)「あーこりゃダメだお。お嬢さん、ちょっと失礼しますお」
ξ ゚听)ξ「うん」
内藤は車を降り、ボケた徘徊老人を道端に押し退けようとした。
( ^ω^)「まったく、ちゃんと子供が世話しとけお」
('A`)「俺に子供はいねえよボケ」
老人は見かけからは想像もつかない身のこなしで内藤の右手を掴んで動きを封じ、もう片方の手を
ガウンの懐に突っ込んだ。
( ゚ω゚)(あっ、ヤバ……)
小型のリボルバーを掴んだ手が懐の外へ戻って来る。
内藤の胴体に押し付けられた銃口が数度、火を噴いた。
バン! バン! バン!
- 34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:49:49.31 ID:UC0/22Sk0
- 27.
ξ;゚听)ξ「ひっ!?」
( ω )
一瞬、後部座席越しにその光景を見ていたツンと目が合った。
( ω )「お嬢様……逃げ……」
それ以上、彼の口からは血とあえぎ声しか出て来なかった。
内藤を撃った男はすぐさま高級車に駆け寄った。
どこからかもう一人現れ、二人がかりでツンを車から引きずり出す。
ξ ;凵G)ξ「やー! いやあ―――!」
(#'A`)「暴れんなバカ」
(;´_ゝ`)「急げ、人目につくぞ」
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:50:48.89 ID:UC0/22Sk0
- 28.
手足をじたばたして何とか逃れようとするツンを荷物みたいに抱え込むと、その場に別の乗用車が
滑り込んできた。
後部座席のドアが開くと、男たちはツンと一緒に自らの体を車の中に放り込んだ。
車の運転席には一人の男がいた。
ツンを引きずりだすのに協力した男とそっくりだ。双子らしい。
( ´_ゝ`)「よーしよし、上手く行ったな!」
(´<_` )「誰にも見られなかっただろうな?」
('A`)「大丈夫だって、あの時間は誰もいねえんだ、あそこ」
( ´_ゝ`)「ドクオの変装もなかなかだな」
('A`)「だろ? 俺は俳優なんだぜ」
ドクオと呼ばれた男はガムテープでツンの手足と口を塞ぎ、ボストンバッグに詰め込んだ。
ξ ;×;)ξ「んー! んんー!」
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:51:50.54 ID:UC0/22Sk0
- 29.
('A`)「心配すんな、殺さねえって」
(´<_` )「それもお前のパパ次第だけどな」
車が動き出すのを感じた。
エンジン音に混ざって男たちの話す声がする。
( ´_ゝ`)「子供のころを思い出すな。覚えてるか? 隣町のガキにさ……」
(´<_` )「へへ、クーがイジメられてモララーが激怒したやつだな」
ドクオは携帯を取り出してボタンを押した。
【('A`)「よう、うまく行ったぜ。……ああ、何の問題も起きてない。
……ん? ああ」
助手席から振り返り、後ろの兄者を見る。
彼は鼻炎薬の吸入器に入れたヘロインを鼻から吸い上げているところだった。
- 38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:52:49.55 ID:UC0/22Sk0
- 30.
('A`)「おい、仕事が終わるまでヘロをつまみ食いするんじゃ……」
( ´_ゝ`)シュゴゴゴゴ
( ゚_ゝ゚)「フゥゥ!! 強烈!」
ヘロイン特有の、顔面の筋肉が冷たく引き攣るような感覚に頬の肉を痙攣させながら、兄者が
ドクオを見返す。
( ゚_ゝ゚)「何だァ? これはやらねえぞぉい、自分でぇ〜、買えよな〜」
('A`)「……いや、何でもない」
ドクオはもう二言ばかり受話器の向こう側にいる誰かと会話し、電話を切った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、ツンの豪邸から遠く離れた貧民街の一角。
寂れた教会の前に車が乗り付けた。
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:53:52.41 ID:UC0/22Sk0
- 31.
後部座席のドアが開き、一人の男がケータイを切りながら下りる。
( ・∀・)「任せたぞ。じゃあな」
教会の中では老いた神父が信徒に説教をしていた。
モララーは足音を忍ばせて歩き、後ろの方のベンチに腰かけていた男の隣に座った。
( ・∀・)「うまく行ったぜ」
囁くように語りかけると、隣にいたスーツ姿の中年の男が頷いた。
(´・ω・`)「それは何より」
( ・∀・)「俺は俺の仕事をしたぜ。今度はあんたが仕事をする番だ」
(´・ω・`)「もちろん。上の子をいい大学に行かせたいんでねえ、俺が意地を見せないと」
( ・∀・)「頼もしいこった」
(´・ω・`)「取り決めについて他に確認したいことは?」
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:54:53.63 ID:UC0/22Sk0
- 32.
( ・∀・)「ない」
(´・ω・`)「では行きたまえ。また今度」
モララーはベンチを離れ、建物を出た。
車に戻ると後部座席ではクーが不貞腐れた様子でマリファナをふかしている。
川 ゚ -゚)「何の話だったの?」
( ・∀・)「おい、この車は禁煙だぞ」
川 ゚ -゚)(まったく、ギャングの親玉のくせに変に神経質なんだから)
窓の外に吸い差しを投げ捨てる。
モララーが座席に乗り込むと運転席の男が頷き、車を出した。
( ・∀・)「デカいヤマだ。畑違いの仕事だが……」
川 ゚ -゚)「何をする気?」
( ・∀・)「お前は知らない方がいい」
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:55:51.24 ID:UC0/22Sk0
- 33.
川 ゚ -゚)「きっと反対するから?」
( ・∀・)「そういうことだ」
クーはそれきり何も言わず、窓の外を流れゆく風景に目をやった。
どうせこれ以上何か聞いたって、彼は答えてはくれない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝。
ここは郊外にある高級マンション。
クーが寝室からリビングに降りると、男たちが陽気に朝食をとっていた。
どいつもこいつも難事を一つ終えたような顔だ。
( ´_ゝ`)「よう、お姫様!」
('∀`)「今日もいいケツとチチだな、ウヒヒ」
( ・∀・)「よせよ。俺の妹だぞ」
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:56:52.14 ID:UC0/22Sk0
- 34.
(´<_` )「コーヒーあるぞ。勝手に飲め」
川 ゚ -゚)「ん。サンドイッチももらおうかな」
彼らは皆、右肩の部分にビリヤードの8ボールを模した刺青を入れている。
これが彼らのギャング、「エイトボール」の名刺代わりだ。
地元では最大の組織で、構成員は末端を含めると300を超える。
主な稼ぎは麻薬だがサイドビジネスで銃器の密売、恐喝、強盗、盗品の横流し、その他色々。
川 ゚ -゚)「昨日、流石兄弟とドクオがいなかったみたいだけど」
('∀`)「へへへ」
( ´_ゝ`)(´<_` )「秘密だ」
川 ゚ -゚)「何だよ。またわたしだけ仲間外れか?」
( ・∀・)「ヘソ曲げんなって、こっちにゃこっちの事情があるんだ」
川 ゚ -゚)「あそう」
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:57:48.01 ID:UC0/22Sk0
- 35.
こんな時、クーは少し複雑な思いにとらわれる。
彼女はため息をついた。
川 ゚ -゚)(みんな変わっちゃったな)
昔は仲の良い友達グループって感じだったのだが……
今じゃ麻薬を売り、人を殺し、金の為なら何でもするハイエナになってしまった。
テレビでは昨日起きたばかりの誘拐事件についてやっていた。
「VIPテクニクス重役……ジョルジュさんの娘……誘拐され……
まったく手がかりはなく……犯人からの要求……法外な金額の身代金が……」
( ・∀・)「クー、お前に仕事がある」
川 ゚ -゚)「ああ。どこへ運ぶの?」
とは言え、クーもまたこの組織で麻薬の運び屋のようなことをしている。
いくらリーダーの妹だからと言って立場に甘んじ、無駄飯食らいになる事はプライドが許さなかったからだ。
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 21:59:01.16 ID:UC0/22Sk0
- 36.
( ・∀・)「違う。見張りだ」
川 ゚ -゚)「見張り? 誰の?」
('A`)「客さ。特別な客だ」
川 ゚ -゚)「何それ? 何のこと?」
( ・∀・)「後で独房に案内してやんな」
( ´_ゝ`)「ういっす」
川 ゚ -゚)「???」
クーは怪訝に思った。
人さらいはこれが初めてじゃない。
敵対ギャングの家族やら何やらをさらって監禁する、というようなことを彼らがしていたことは
知っている。
だが何故、今回に限って自分が見張りを?
- 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:00:06.15 ID:UC0/22Sk0
- 37.
( ・∀・)「とにかく頼む。食事の世話もお前がするんだぞ」
川 ゚ -゚)「ああ」
気が進まないがモララーには逆らえない。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
食後、クーは弟者の運転する車に乗せられ、町はずれの安アパートに向かった。
コンクリートの塊じみた殺風景な建物で、ひどく薄汚れて見える。
川 ゚ -゚)「ここ?」
(´<_` )「まあな。降りな」
車を出ると一回の踊り場のところでチンピラが二人、雑談をしていた。
(´・_ゝ・`)「あ、弟者さん。お疲れっす」
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:01:07.97 ID:UC0/22Sk0
- 38.
( ´ー`)「うっす」
(´<_` )「ご苦労、ご苦労」
彼らは見張りなのだろう。
その前を通り過ぎ、地階の部屋に入る。
何もない廃墟じみたところで、生活の臭いがするものは一切ない。
奥に頑丈な鍵のかかった扉があった。
(´<_` )「あれだ」
川 ゚ -゚)「熊でも入れてんのか?」
(´<_` )「もっと厄介なもんだ」
覗き窓の蓋を開き、中を覗き込む。
十歳くらいの女の子が粗末なベッドの上で膝を抱いて泣いていた。
ξ ;凵G)ξ
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:02:11.81 ID:UC0/22Sk0
- 39.
川 ゚ -゚)「ガキじゃないか。どこからさらって来たんだ?」
(´<_` )「ちょっとな」
昨日の電話のことと、今朝のテレビのニュースを思い出す。
(発展途上国にありがちなことに)貧富の差が大きいこの国では営利誘拐は一大ビジネスであり、
無数の誘拐専門の組織が存在している。
だがエイトボールはあくまで麻薬売買がメインの組織だった筈だ。
川 ゚ -゚)「どういう風の吹き回しだよ?」
(´<_` )「俺も良く知らねえんだ。モララーは何か企んでるみたいだけどな」
川 ゚ -゚)「あれだけ稼ぎがあるのにまだ満足しないのか。
まったく、あいつはエッフェル塔でも買う気か?」
(´<_` )「そう愚痴るなって、あいつは多くは語らんがやることに間違いはない。
いつだってそうだっただろ?」
川 ゚ -゚)「ん……」
-
- 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:03:42.54 ID:UC0/22Sk0
- 40.
(´<_` )「じゃ、任せたぜ。夕方までには交代を寄越すから。
欲しいもんがあったら下の二人を適当にパシらせろ」
川 ゚ -゚)(やれやれ、退屈な仕事になりそうだ……)
(´<_` )「おっと、忘れてた。今日の朝食だ。ガキにやっといてくれ」
川 ゚ -゚)「ん」
ポケットから菓子パンを取り出し、クーに投げると、弟者は行ってしまった。
彼を見送り、肩をすくめて溜め息をつく。
川 ゚ -゚)「ほら、メシだ」
ドアの下の隙間から菓子パンを滑り込ませると、クーは部屋を見回した。
奥から椅子とテーブルを引きずって来て窓際に配置し、腰を下ろす。
両足を組んでテーブルの上に投げ出し、椅子の背もたれに体を仰け反らせる。
川 ゚ -゚)
- 51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:05:21.98 ID:UC0/22Sk0
- 41.
何となくドアの方を見る。
耳を澄ませるとまだかすかに泣き声が聞こえた。
クーはますますウンザリして来た。
一度部屋を出、パシリ二人に金を渡す。
川 ゚ -゚)「今から言うもん買って来て」
(´・_ゝ・`)「ウッス」
川 ゚ -゚)「釣り誤魔化したらモララーに言うからな」
(;´ー`)「ウ……ウッス」
クーは携帯でラジオをかけて少女の泣き声を掻き消しておくことにした。
どうでもいい曲を聞きながらしばらく待っていると、二人が画帳と鉛筆を買って来た。
それを開き、イマジネーションを働かせる。
川 ゚ -゚)(風景画は飽きたな。たまには人物画なんかも……)
- 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:06:53.86 ID:UC0/22Sk0
- 42.
最近のマイブームは鉛筆を使ったモノクロ画だ。
手の中でペンをくるくる回しながら、構図を考える。
ξ ;凵G)ξ ヒック……ヒック
川 ゚ -゚)(……)
部屋の泣き声はまだ続いている。
クーはラジオの音量を上げた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
時間は少しだけ遡り、ツンがさらわれた日の夜のジョルジュ邸。
ツンの両親は狼狽の限りにあった。
(;、;トソン「ツン……ああ、あの子にもしもの事があったら……」
_
( ゚∀゚)「……」
- 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:08:23.41 ID:UC0/22Sk0
- 43.
(゚、゚トソン「大体あなたがいけないのよ、仕事ばっかりであの子には構ってやらなくて……」
_
( ゚∀゚)「こんな時にやめろ!」
すでに警察に通報した為、家の中は捜査本部と化し、刑事たちが行ったり来たりしている。
ある男がジョルジュ夫妻に気付き、やって来た。
( ´∀`)「どうもですモナ」
(゚、゚トソン「?」
_
( ゚∀゚)「あんたは?」
( ´∀`)「保険会社VIPの調査員ですモナ、身代金の立て替えのお話で来ましたモナ」
(゚、゚トソン「お金はあなた方に払ってもらえるんですか?」
( ´∀`)「もちろん。その為の誘拐保険ですモナ。
ただし出せる金額は犯人との交渉次第というところですモナ。
さっき刑事さんとも相談して……あ、あの人ですモナ。おーい!」
- 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:09:58.43 ID:UC0/22Sk0
- 44.
背広の男がモナーに気付き、やって来た。
(´・ω・`)「こりゃどうも。ショボンです、今回正式にこの事件を担当することになりました」
_
( ゚∀゚)「ああ」
(´・ω・`)「どうか落ち着いて下さい、営利誘拐なら必ず連絡が来る筈ですから」
(゚、゚トソン「お金を払えばあの子は戻ってくるんでしょう?」
(´・ω・`)「最善を尽くします。とにかく今日はもうお二人ともお休みになって下さい。
長期戦を覚悟してもらわないと」
_
( ゚∀゚)「わかった、そうしようトソン」
(゚、゚トソン「ええ」
(´・ω・`)「おっと、それから一つ。電話に逆探知の機械を繋がせてもらって構いませんね?」
_
( ゚∀゚)「好きにしてくれ」
ジョルジュとトソンが引っ込むと、保険屋と刑事は顔を見合わせた。
- 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:11:04.48 ID:UC0/22Sk0
- 45.
( ´∀`)「無事ですかね、娘さん」
(´・ω・`)「さあな。実際、金払っても無事戻って来るかは五分五分てとこだろ?」
( ´∀`)「まあ、統計的にはそういうことになってますモナ」
(´・ω・`)「値切りが通用すると思うかね?」
( ´∀`)「相手にもよるけど、難しいですモナ。
これは言い値で払うことになるかな……うーん」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
クーが見張りを始めて二日が経った。
モララーからは何の音沙汰もない。
クーが一刻も早くここから逃げ出したくなっていたその日、流石兄弟がやって来た。
(´<_` )「よう、暇してるな」
川 ゚ -゚)「ん」
- 57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:12:12.15 ID:UC0/22Sk0
- 46.
( ´_ゝ`)「俺らも暇だけどな」
今日は退屈せずに済みそうだ。
弟者は手の中のトランプを見せた。
(´<_` )「カードやんねえか」
川 ゚ -゚)「いいよ。モララーは?」
(´<_` )「さあな。どっかに出かけてるぜ」
( ´_ゝ`)「ドクオはまたオーディションだ、ドラマの脇役だとさ」
(´<_` )「無駄だってわからねえもんかね? もう何度落ちた事やら」
三人でポーカーをして暇を潰す。
(´<_` )「モララーがこの仕事が終わったらボーナス出すってよ。くそ、ブタだ!」
( ´_ゝ`)「ありがてえ、たまにゃあ混ぜモノのないヘロを食わないとね。ツーペア」
川 ゚ -゚)「ふーん。わたしにも出るの? スリーカード」
- 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:13:50.69 ID:UC0/22Sk0
- 47.
( ´_ゝ`)「さあな。くそ、もう一勝負だ」
川;゚ -゚)(もう六連敗だぞ。ヤクで脳みそ腐ってるなこいつ)
女の子のすすり泣く声はひっきりなしに聞こえてくる。
クーはラジオに意識を集中して聞かないようにしていたが、連敗中の兄者は気が立っていたらしい。
突然椅子を蹴って立ち上がった。
(#´_ゝ`)「うるせえ!」
拳でドアをガンガン叩くと、鳴き声が一時的に止まった。
椅子に戻ってカードを切り直す。
グリンゴ
(´<_` )「ガキは嫌いだ、クソ。白人め」
クーはドアの方を見た。
しばらくするとまた泣き声が始まったが、ごくかすかにしか聞こえなかった。
- 60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:14:38.11 ID:UC0/22Sk0
- 48.
兄者がラジオのボリュームを上げたからだ。
( ´_ゝ`)「ツーペア」
(´<_` )「スリーカード。どうだ」
川 ゚ -゚)「ほい、フルハウス」
(;´_ゝ`)「ついてやがるなー」
(´<_`#)「くそったれ! もうお前とはやらねえ」
川 ゚ -゚)「どうもごっそさん。どこへ?」
(´<_` )「飲みに行く」
( ´_ゝ`)「俺も行くかな。後よろしく」
二人が姿を消すと、クーは彼らから巻き上げた札ビラを数えつつ、もう一度ドアに目をやった。
金をテーブルの上で揃え、二つに折ってポケットに入れると、席を立つ。
覗き窓の蓋を持ち上げて独房の中をうかがった。
- 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:15:33.83 ID:UC0/22Sk0
- 49.
川 ゚ -゚)(食ってないな)
朝食は手つかずで残っている。
声を外に漏らさないようにする為か、ツンはベッドに潜り込み、かすかに体を震わせて泣いている。
川 ゚ -゚)(同情はしないぞ。仕事だ、仕事)
ツンはテーブルに戻り、画帳を開いて鉛筆を握り直した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日も、そのまた翌日もクーは終日ツンを見張っていた。
まれに交代はあるものの、モララーはクーに任せたがる。
川 ゚ -゚)「他に奴らにやらせてよ。気が重いよ」
( ・∀・)「ダメだ。他の奴らは人質を大事に扱わん。特に今回はガキだしな」
(´<_` )「へっへっへ、お前のことだぜ、兄者」
- 62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:16:34.30 ID:UC0/22Sk0
- 50.
( ´_ゝ`)「ふん。誰が何と言おうとガキは嫌いだ」
今朝もリビングでそんな会話をしてきたところだ。
クーとしては退屈で気分の悪い仕事だし、運び屋の仕事に戻りたかった。
川#゚ -゚)「くそ。何でわたしばっかりこんな仕事」
ある日、シーツと枕カバーを交換するため、クーは少女の部屋に入った。
しきりのない剥き出しのトイレとベッドがあるだけで、小さな窓には頑丈な鉄格子がはまっている。
独房と呼ぶにふさわしい、殺風景で息が詰まるような部屋だ。
ドアが開くと同時にツンは部屋の隅に逃げ出した。
ξ;゚听)ξ
壁に張り付いて震えながらこっちを見ている。
クーはますます嫌な気分になった。
- 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:17:45.48 ID:UC0/22Sk0
- 51.
川#゚ -゚)(取って食やしないって)
シーツを引っ剥がすと紙が一枚、ひらひらと床に舞い落ちた。
川 ゚ -゚)「ん?」
ξ;゚听)ξ「あっ……」
パラフィン紙に茶色い線で絵が描いてある。
牢屋に閉じ来られたお姫様らしき絵だが、なかなか上手だ。
川 ゚ -゚)(こりゃ昼飯にやった菓子パンの包み紙か。ペンとインクは……?)
探し回るとベッドの下から細長い木クズが出てきた。フローリングの床の一部だろうか?
先端が黒ずんでいる。良く見るとそれはパンの中身のチョコレートだった。
川 ゚ -゚)「お前、絵うまいな」
ξ;゚听)ξ
- 64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:19:08.73 ID:UC0/22Sk0
- 52.
クーが一歩近づくと、ツンは息を飲み、少しでも距離を離そうと壁に更にくっついた。
逃げ場を失った小動物みたいにガタガタ震えている。
ξ ;凵G)ξ「ひ、ひいっ」
川 ゚ -゚)「落ち着け、何もしないって」
ξ ;凵G)ξ ウッ……ウッ……
川;゚ -゚)(ダメだ、話にならん)
川 ゚ -゚)「ほら、返すよ」
ツンに紙とペンを押し付けると、クーは洗い物を抱えて部屋を出た。
鍵をかけ、洗濯機に向かう。
洗濯機に持ってきたものを放り込みながら、クーは考えを巡らせた。
川 ゚ -゚)(空想の中に逃げ込んでるんだろうな)
辛すぎる現実から逃れようと、自分の置かれた状況をパロディにしたのがあの絵なのだろう。
- 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:20:50.31 ID:UC0/22Sk0
- 53.
自分も昔やったことがあるからよくわかる。
ある日幻想世界の生き物、ペガサスとか竜とかがやってきて、自分を別の世界に連れて行く。
洗濯を済ませると手持無沙汰になり、また画帳を開いた。
だが何か落ち着かない。
川 ゚ -゚)「ん〜……」
クーは独房のドアを眺めながら、自分の胸の中に渦巻くモヤモヤを整理してみようとした。
ツンの国に対する憎しみは今更明らかにするまでもない。
モララーの父親の死はもちろん、この国の荒廃の原因の一旦が北の大国にあるのだ。
クーは窓の外を眺めた。
遠くに因縁の場所となった鉱山が霞んで見える。
鉱脈の存在が明らかになった時、それを見つけた北の連中は言ったものだった。
「これで雇用と取得が増え、この国はきっと豊かになる」と。
実際はどうだった?
- 66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:21:53.00 ID:UC0/22Sk0
- 54.
奴隷同然の賃金と環境で働かされる鉱夫たち、鉱毒で荒れ果てた畑と川。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
何時の間にかウトウトしていた。
腕を組み、俯き加減になって涎を垂らしている自分に気付く。
川 ´ -`) Zzz……
どこかでガタン、という音がした。
ビクッとして眼を覚ます。
川 う-゚)(……ん? 眠っちゃってたか)
とっくに町には夕闇が落ちている。
腕時計を見るとそろそろ交代が来る時間だ。
クーは独房の方に目をやった。それからテーブルの上の画帳と鉛筆にも。
- 67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:23:20.61 ID:UC0/22Sk0
- 55.
川 ゚ -゚)(これくらいあげてもいいよね)
たまには功徳を積んでおくべきだと自分を納得させる。
そこでクーはある異変に気付いた。
珍しく独房からツンの泣き声がしない。
川 ゚ -゚)「ん」
席を立って覗き窓から中の様子を伺う。
ベッドの毛布が盛り上がっているが、微動だにしていない。
川 ゚ -゚)「寝てるのか? おい」
返事はない。死んだか? いや、まさか。
ドアの鍵を開けて中に入る。
何かおかしい。
- 68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:24:28.07 ID:UC0/22Sk0
- 56.
眠っているとしても、体は呼吸でわずかに上下するものじゃないか。
川;゚ -゚)(まさか)
毛布をはぎ取る。枕でそれらしく膨らんで見せているだけで、空っぽだった。
ベッドの下を調べるがやはりいない。
急速に鼓動の音が高鳴るのを感じながら、クーはトイレの方を見た。
便座の真上、天井裏へ抜ける落とし戸を調べる。
大人ならどうやっても絶対に体を突っ込むのは無理な大きさだが……
川;゚ -゚)「やばい!」
部屋を飛び出したクーは、階下で駄弁っていた男たちに叫んだ。
ちょうど交代が来たところだ。兄者もいる。
川;゚ -゚)「ガキが逃げた!」
- 69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:25:39.61 ID:UC0/22Sk0
- 57.
( ´ー`)(´・_ゝ・`)「?!」
( ´_ゝ`)「何だと?!」
夜はすぐそこまで来ている。
真っ暗になったら見つけるのは難しいだろう。
( ´_ゝ`)「探せ、俺も行く」
( ´ー`)「う、ういっす」
( ´_ゝ`)「クー、モララーに電話し……」
川 ゚ -゚)「わたしも行く。電話はあんたがしてよ」
クーはベルトに挟んであった五連発のリボルバーを抜き、弾丸が入っていることを確かめると、
すぐさまアパートから飛び出した。
後ろで兄者が騒いでいるが、一度も振り返らずに町に出る。
川 ゚ -゚)「おい、ガキ! ……いや、呼ぶのは逆効果か」
- 70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:26:41.65 ID:UC0/22Sk0
- 58.
この界隈では暗くなると命が惜しい人間は出歩かない。
ビール一杯の飲み代欲しさに通行人を撃ち殺すような奴がうようよしているからだ。
例外は道端でへたり込んでいるヘロイン中毒者くらいのものだろう。
彼らの上を飛び越えながら路地を走り回る。
いくらか行くうちに、か細い悲鳴が聞こえた。ツンの声だ。
川 ゚ -゚)「む!」
声のした方向へ走る。
路地裏の行き止まりのところで、四つん這いになっている人影があった。
大きな影が小さなものに圧し掛かるようにしている。
<ヽ`∀´>「ハァハァハァ、幼女ニダ! 幼女ニダ! ハァハァ」
ξ ;凵G)ξ「……!!」
- 71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:27:44.66 ID:UC0/22Sk0
- 59.
ツンの服を引き千切った男は自分のベルトに手をかけた。
川#゚ -゚)「変態野郎!!」
その後頭部にリボルバーの銃床を思い切り振り下ろす。
ガツンという音がして、男は思いもかけない一撃に体を横へずらした。
その下からツンを引っ張り出す。
ξ ;凵G)ξ「ひっ」
川 ゚ -゚)「無事だな。ちょっと離れてろ」
<;`A´>「うぐ、うぐぐぐ……」
四つん這いで後頭部を押さえている男の脇腹をサッカーボールの要領で蹴り上げる。
<ヽ゚A゚>「ホゲェ!?」
肋骨が軋む音が靴越しに聞こえた。
- 72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:29:07.64 ID:UC0/22Sk0
- 60.
たまらず仰向けになった男に銃口を向け、撃鉄を親指で跳ね上げる。
川 ゚ -゚)「お前の坊やにおしおきだ」
バン!!
<ヽ゚A゚>「ファビョォオォ――――――――ンンンン!!!」
一寸も狙いを外すことなく銃弾は男の股間を貫いた。
股間を抑えてのた打ち回る男を冷ややかに見下ろす。
<ヽ;A;>「ドクトオォ……ドクトォ……」
ξ ;凵G)ξ
川 ゚ -゚)「ほら、行こう。立って」
自分の上着をかけて体を覆ってやったツンを抱き上げ、クーは来た道を戻った。
銃声に驚いたジャンキーたちが路地裏から顔を出し、下卑た好奇心を込めてこちらを覗いている。
- 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 22:30:10.23 ID:UC0/22Sk0
- 61.
川 ゚ -゚)「引っ込んでろ!」
銃口を向けると彼らは面倒はごめんとばかりに姿を消した。
アパートに戻ると兄者と駆け付けたモララーが話していた。
( ´_ゝ`)「えーと、だからー! ガキがどっか行っちゃったみたいなんだよ!
何か銃声もしたみたいだし!」
( ・∀・)「くそっ、何があったんだ?」
川 ゚ -゚)「それわたしだよ。もう大丈夫」
( ・∀・)「クー! ガキは?」
川 ゚ -゚)「無事だよ」
クーは腕に抱いたツンを見せた。
ξ ゚听)ξ
( ´_ゝ`)「やれやれ、寿命が縮んだぜ。で、何で撃ったんだ?」
- 80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:01:18.68 ID:UC0/22Sk0
- 62.
川 ゚ -゚)「ツンを襲おうとしてたロリコン野郎を撃った。死んでないと思うけど」
( ・∀・)「ん、そうか。天井の穴を塞いでおけよ」
川 ゚ -゚)「あいよ」
モララーはケータイを取り出した。
( ・∀・)】「全員に知らせろ、見つかった。そうだ、もう探さなくていい……」
クーはツンを風呂に入れてやり、自分の上着を貸した。
ξ ;凵G)ξ
彼女は何をしてもまったくの無反応だ。
もはや精神が許容の限界を超え、現実を受け付けなくなってしまったらしい。
クーは初めて彼女に交じりっけなしの同情を感じた。
川 ゚ -゚)(かわいそうにな。こんなに小さいのに……)
- 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:06:26.08 ID:UC0/22Sk0
- 63.
ツンを抱き上げ、独房のベッドに寝かせる。
クーは床に腰を下ろしてベッドの縁に背を預ける形で座った。
ξ ;凵G)ξ
川 ゚ -゚)「大丈夫だ。きっと家に帰れるよ」
彼女の髪を撫でてやり、囁きかける。
それから画帳を開いた。
川 ゚ -゚)「ほら、私の描いた絵だ。まだ途中だけど」
密かに描いていた絵を見せる。
どこか南国風の寝室で、ベッドに腰を下ろした少女がこっちを見ている。
ツンは少しだけ瞳をそちらに向けたように見えた。
鉛筆を手に取り、更に線を入れてゆく。
- 84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:10:06.54 ID:UC0/22Sk0
- 64.
川 ゚ -゚)(この女の子はツンにしよう。せっかく被写体があるんだからな)
ξ ゚听)ξ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝、そのままの姿勢で目が覚めた。
足腰が痛む。
川 う-゚)「ん……いかん、寝てしまったか」
後ろを向くと、毛布に包まったままのツンがこっちを見ていた。
視線がぶつかる。
だがツンは目を反らすことはなく、じっとクーを覗き込んでいる。
川 ゚ -゚)
ξ ゚听)ξ
- 85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:13:23.25 ID:UC0/22Sk0
- 65.
川 ゚皿゚)「ムヒッ」
ξ;゚听)ξ「!」
変顔でおはよう代わりの挨拶をし、クーは独房を出た。
ふと、天井の穴を塞ぐのを忘れていたことを思い出す。
川 ゚ -゚)(あ……まあいいか。ガキも懲りただろうし。後でやろう)
独房前のテーブルではドクオが演技の練習らしいものをしていた。
台本を片手に一人で何かの役を演じている。
('A`)「その時、俺は解放されたんだ……兄貴、俺は、啓示って奴を確かに感じたんだよ!」
川 ゚ -゚)「何やってんの?」
('A`)「ん、起きたか。次のオーディションに備えてるのさ」
川 ゚ -゚)「そうか」
('A`)「寝てたもんで起こさなかったぜ。俺って優しいだろ」
- 87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:16:01.79 ID:UC0/22Sk0
- 66.
川 ゚ -゚)「まあね。朝ごはんは?」
('A`)「テーブルの上だよ。見張りが気に入ったんならずっとやっててもいいんだぜ」
クーはテーブルの上に置かれていた菓子パンを手に取った。
川 ゚ -゚)「もっとまともなもんを持って来てよ。育ち盛りなんだぞ」
('A`)「どうせ人質だろ?」
川 ゚ -゚)「いいから下のパシリに頼んでもっとマシなもんを買わせて来てよ。頼む」
('∀`)「はいはい。ところで今の俺の演技、どう思う?」
川 ゚ -゚)「大袈裟過ぎて見てて恥ずかしい」
('A`)「……あそう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
下っ端に買って来させたファストフードの紙袋を手に独房に入る。
ツンは置きっぱなしにしてあったクーの画帳をこっそり見ていた。
- 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:18:33.47 ID:UC0/22Sk0
- 67.
ξ;゚听)ξ「!」
クーが戻ってくると慌てて元の場所に返し、毛布の中に潜り込んで隠れる。
熊に出会ったウサギが巣穴に飛び込むみたいに。
クーはそんな様子に思わず笑いながら、ベッドに腰を下ろした。
川 ゚ -゚)「ほら、飯だ。一緒に食べよう」
ξ ゚听)ξ
ツンが毛布の中から顔を少しだけ出す。
クーはツンに食事と一緒に画帳を渡した。
川 ゚ -゚)「14ページ目を開いてみろ」
ξ ゚听)ξ
川 ゚ -゚)「いい絵だろ? 一番気に入ってるんだ」
- 90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:20:27.86 ID:UC0/22Sk0
- 68.
ツンが言われた通りにすると、女性が三日月に腰をおろしてハープを弾いている絵があった。
クーはファンタジックな題材を好んだ。
現実なんてろくでもないものばかりだから。
川 ゚ -゚)「今はこんなことしてるけど、絵描きになるのがずっと夢だったんだ。
でもお金がなくって美術学校に行けなくってね……」
ξ ゚听)ξ
川 ゚ -゚)「どこかでやり直せればっていつも思うよ」
ξ ゚听)ξ「だから……」
川 ゚ -゚)「ん!?」
ツンが初めて口を利いた。
乾き切ってかすれた、小さな声だ。
ξ ゚听)ξ「だから、わたしを……」
- 92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:22:24.16 ID:UC0/22Sk0
- 69.
川 ゚ -゚)「いや、それは違うよ」
サンドイッチをかじりながらクーは首を振った。
川 ゚ -゚)「それはモララーがね。身代金が出てもわたしが貰えるわけじゃないんだ。
ボーナス出すとか言ってるけど、どうだかね」
長い長い溜息をつき、そして呟いた。
川 ゚ -゚)「いい奴だったんだ。昔はあいつ、本当にいい奴だったんだよ」
それからクーは独房の中でツンと居ることが多くなった。
なかなか打ち解けず、怖がるばかりの彼女と何とか仲良くなろうと、クーはある案を思いついた。
川 ゚ -゚)「よう!」
ξ ゚听)ξ
- 95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:24:33.79 ID:UC0/22Sk0
- 70.
ある日、独房に入るとベッドに座り、彼女に改めて鉛筆と画帳をやる。
自分も別の筆記用具を取り出した。
ξ ゚听)ξ「?」
川 ゚ -゚)「絵の描き方を教えてやるよ」
クーはアタリ線を引いてぼんやりとした人体の輪郭を描いた。
川 ゚ -゚)「こうやってまずは大まかに描いてみな」
ξ ゚听)ξ
ツンはしばらくクーの方、それから画帳を見ていた。
だがやがては鉛筆を握り、同じようになぞった。
川 ゚ -゚)「いいぞ。絵の基本は自画像からだ。自分を描いてみろ」
ξ ゚听)ξ
- 96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:27:03.34 ID:UC0/22Sk0
- 71.
川 ゚ -゚)「ほら、鏡だ」
クーの描き方は我流なので無茶苦茶だったが、可能な限り丁寧に教えた。
二日が過ぎると、少しずつツンは口を利くようになった。
ξ ゚听)ξ「出来た」
川 ゚ -゚)「お姫様か?」
ξ ゚听)ξ「ん」
川 ゚ -゚)「上手だぞ。ほら、色も塗りな」
色鉛筆を渡しながら、ふとクーは口にした。
川 ゚ -゚)「お前、字は書けるか?」
ξ ゚听)ξ「え? うん」
川 ゚ -゚)「良かったら教えてくれないか。読むのは何とか出来るんだけど、書くのがちょっとね」
ξ ゚听)ξ「えっ」
- 100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:38:12.39 ID:UC0/22Sk0
- 72.
ツンは意外そうな顔をした。
恐らく今まで自分の周囲に字を書けない大人なんかいなかったのだろう。
クーはふてくされた。
川 ゚ -゚)「学校行ってないんだ。お金がなくってね」
ξ ゚听)ξ「えっと、うん、いいけど」
クーがツンに絵の描き方を教え、ツンがクーに文字を教える日々が始まった。
ある日、クーはツンに窓の外の光景を描かせてみることにした。
といっても外に出すのはモララーが許さないから、鉄格子のはまった窓越しだ。
窓は高いところにあり、彼女からすると少し背が足りない。
ξ ゚听)ξ「見えない……」
川 ゚ -゚)「ん、ほい」
クーはツンを肩車した。
- 102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:41:19.55 ID:UC0/22Sk0
- 73.
ξ ゚听)ξ「わっ」
川 ゚ -゚)「見えるか?」
ξ ゚听)ξ「うん!」
川 ゚ -゚)「パースに気を配れ。絵は空間が命だぞ」
ξ ゚听)ξ「わかった」
自分の頭の上に画帳を置いて鉛筆を走らせるツンの下で、クーはノートを開いて文字を書き綴った。
物書きの二段重ねだ。
川 ゚ -゚)「できた。どう」
頭の上にノートを差し出すと、画帳から顔を上げたツンがそれを受け取り、採点をする。
ξ ゚听)ξ「つづりがちょっと違うかな」
川 ゚ -゚)「厳しいな」
ξ ゚听)ξ「できた!」
- 105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:44:25.89 ID:UC0/22Sk0
- 74.
今度はツンが画帳を下ろした。
二人でノートと画帳を交換したことになる。
川 ゚ -゚)「いいぞ、上手いな。パースがちゃんと取れてるぞ。上達したな」
ξ ゚听)ξ「お姉ちゃんはそうでもないよ」
川 ゚ -゚)「何だって?」
ツンが下ろしたノートには、つづりの間違いを指摘する印がいくつも入っていた。
川 ゚ -゚)「やれやれ。卒業には程遠いな」
ツンは体を前のめりにして、逆さにクーの顔を覗き込んだ。
ξ ゚ー゚)ξ
川 ゚ -゚)(あ、笑った)
ξ ゚皿゚)ξ「ムヒッ」
- 108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:47:04.02 ID:UC0/22Sk0
- 75.
川 ゚ー゚)「わたしの真似か、それは」
初めて見るツンの笑顔。
クーは思わず笑い返した。
川 ゚ー゚)(そうそう、ガキってのはこうでなくちゃね)
二人とも改めて画帳とノートを交換し、それぞれの仕事に戻る。
川 ゚ -゚)「お前、将来何になりたい?」
ξ ゚听)ξ「お医者さん」
川 ゚ -゚)「ん、立派だな」
ξ ゚听)ξ「お姉ちゃんは?」
川 ゚ -゚)「ん?」
ξ ゚听)ξ「何になりたかったの? 絵描きさん?」
- 113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:50:11.47 ID:UC0/22Sk0
- 76.
クーは一瞬、黙った。
川 ゚ -゚)「まあね。でも……」
視線をノートに落とす。
川 ゚ -゚)「きっとすぐに家に帰れるからな。もうちょっとの我慢だ」
ξ ゚听)ξ「……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
一方、ここはツンの家。
刑事ショボンとツンの父親ジョルジュは、彼の寝室で二人きりになっていた。
(´・ω・`)「この部屋は安全なんで?」
_
( ゚∀゚)「完全に防音だ。会話が漏れることはない。なあ、本当に大丈夫なのか?」
(´・ω・`)「まったく、口を開けばそればかりですな。平気ですって」
- 118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/22(土) 23:52:41.80 ID:UC0/22Sk0
- 77.
_
( ゚∀゚)「しかし……」
(´・ω・`)「それよりこのことは奥さんには言ってないんで?」
_
( ゚∀゚)「言うわけないだろ、これが狂言なんて知ったら卒倒しちまう」
(´・ω・`)「結構、確認しておきたかったのでね。
わたし、つまり警察とあなた、被害者、そして誘拐犯。
この三者が組んでるなんて誰が想像しますか?」
_
( ゚∀゚)「保険会社はどうだろうか」
(´・ω・`)「あの様子じゃ疑ってる感じじゃないですな。まあ、どっしり構えてなさいって!
保険金が出ればあなたの横領も誤魔化せる。会社での地位は安泰ですよ」
ショボンはにこやかな笑顔を見せ、両手をこすり合わせた。
(´・ω・`)「すべて順調ですから。それより分け前のことはくれぐれもお願いしますよ」
つづく……
- 2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:42:05.57 ID:sq4PexSG0
- 1.
モララーたち“エイトボール”が誘拐計画を企むより十数年前。
父親を鉱山の事故で失ったモララーは、より稼ぎの多い仕事に転職していた。
ボロ車の助手席に乗って夜の街を走っていると、運転席の男が話しかけてきた。
(・∀ ・)「まったくお前はすげえ奴だよ。たった二年でここまでのし上がっちまうんて」
( ・∀・)「そりゃどうも。で、俺たちはどこへ向かってんだい?」
(・∀ ・)「ここらの売人の間じゃお前が売上ナンバーワンだそうだ。
クックルさんに一度挨拶しといた方がいいぜ、顔を覚えてもらえよ」
( ・∀・)「お気遣いをどうも」
(・∀ ・)「いいってことよ。お前を使ってる俺も鼻が高いしな」
そして二人は再び出会うようです 後編
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:44:20.58 ID:sq4PexSG0
- 2.
車は町はずれにある安っぽい酒場の前で止まった。
中にはビリヤードの台が並び、カウンターでまばらに客が飲んでいる。
先輩の売人はモララーを連れ、ビリヤード台の一つに連れて行った。
( ・∀・)
モララーは途中、空いている台に置かれたままのボールを見下ろした。
そのうちの一つをこっそり手の中に握り込む。
(・∀ ・)「どうも、クックルさん」
( ゚∋゚)「ん?」
玉の並びを見ていた男が顔を上げた。
キューを肩に担ぎ、煙草を咥えている。
台の周囲には他にも男が数人いて、こっちを見ている。クックルの取り巻きのようだ。
- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:46:06.55 ID:sq4PexSG0
- 3.
(・∀ ・)「こいつが前に話した奴です」
( ・∀・)
( ゚∋゚)「ああ、売上ナンバーワンか。期待してるぜ、まあ奢るから一杯飲んでけよ」
( ・∀・)「どうも」
( ゚∋゚)「マスター、このボウヤに一杯飲ませてやんな」
クックルが視線をカウンターにやった瞬間、モララーはその場から一歩踏み出した。
手の中に握り込んだボールを振り上げ、クックルの後頭部に全力を込めて叩き込む。
( ゚∋゚)「!?」
一撃で頭蓋骨が陥没するのを感じた。
台にうつ伏せに倒れた彼に圧し掛かり、モララーは殴り続けた。
一度振り下ろすごとに湿った破砕音が酒場に響く。
返り血を顔面に浴び、クックルの頭部が完全に変形してなお、手を止めない。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:48:53.10 ID:sq4PexSG0
- 4.
( ・∀・)ゼェゼェ ゼェゼェ
どのくらいそれが続いただろうか。
誰も何も出来なかった。
何一つ理解できないまま、すべてが進行していた。
ただ一人、モララーだけがこの凍り付いた舞台の上で自由に演じていた。
血に飢えた暴君の役を。
( ・∀・)「今日から俺がお前らのリーダーだ。文句があるか?」
(・∀ ・;)
沈黙を肯定と受け取り、モララーは満足げに頷いた。
手の中の血まみれのボールを台に放り出す。
エイト
8の玉だ。後にこれがリーダーを新たにした組織の名となる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:50:52.99 ID:sq4PexSG0
- 5.
モララーは寝室で鏡を見ていた。
上半身裸で、左肩に刻み付けたエイトボールの刺青を眺めている。
右手でそれに触れる。
( ・∀・)「もう少しだ……」
服を着、外に出る。
流石兄弟に運転させ、町を走らせた。
途中、大きな橋に差し掛かった時、車を停めて歩道に出る。
( ・∀・)「携帯を」
( ´_ゝ`)「ほい」
まったくの第三者名義の携帯電話だ。
モララーはそれを手に取り、ボタンをプッシュした。
呼び出し音が鳴っている間、マイクにボイスチェンジャーを押し当てる。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:52:23.21 ID:sq4PexSG0
- 6.
( ・∀・)「金は用意出来たか?」
ジョルジュ邸では主である彼がその電話を取った。
目配せし、逆探知装置の前に控えている捜査官に合図を送る。
_
(;゚∀゚)「えっ?! あっ、ああ、もう少し待ってくれ!
そんな大金一気には用意出来ない!」
( ・∀・)「あと三日待つ。三日だ。
それを過ぎたら一日ごとにガキの指を切り取ってそっちに送る」
_
(;゚∀゚)「十億なんて金はそうそう現金化出来るものじゃないんだよ!
あと三日じゃせいぜい五千万が限界だ」
( ・∀・)「まあ、せいぜい努力することだ。また連絡する」
その時、横からジョルジュの妻が割り込んできた。
(;、;トソン「待って!! あの子の声を聞かせて頂戴!」
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:54:34.52 ID:sq4PexSG0
- 7.
_
(;゚∀゚)「こ、こら、トソン!」
( ・∀・)「ガキが生きてる証拠か? 写真を送った。まあ待ってろ、すぐ届く」
電話を切ると、モララーは携帯を川に放り捨てた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日もクーがツンに絵を教え、ツンはクーに字を教えていた。
川 ゚ -゚)「“わたしの名前はクーです。ニューソク生まれの24歳です。
好きなものはチリソースをふんだんに使ったタコスです。”
どうよ」
クーが自慢げに描き終えた作文を、ツンが採点した。
眉にしわが寄る。
- 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:56:29.91 ID:sq4PexSG0
- 8.
ξ ゚听)ξ「大体いいけど、これじゃ逆だよ。“タコスを使ったチリソース”になってる」
川 ゚ -゚)「む、そうか」
ξ ゚听)ξ「わたしの絵は?」
クーはツンの自画像を受け取り、眺めた。
川 ゚ -゚)「かわいく描けてるじゃないか」
ξ ゚ー゚)ξ「ん。それからね、もう一枚描いてるの……」
川 ゚ -゚)「何だ?」
ξ ゚听)ξ「ないしょ!」
独房の外で誰かの声がする。
クーは彼女に絵を返し、一端外に出た。
( ・∀・)「なんだ、中に入ってたのか?」
川 ゚ -゚)「ちょっとね。仕事はどう?」
- 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 19:58:35.71 ID:sq4PexSG0
- 9.
( ・∀・)「順調だ。ちょっと外に出ないか?」
川 ゚ -゚)「いいけど」
クーからもモララーに話したいことがある。
一度房内に戻り、ツンに画帳と鉛筆数本を託した。
川 ゚ -゚)「残りは宿題にしとこう。またな」
ξ ゚听)ξ「またね」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日は聖人の生誕を祝うカーニバルで、町には大勢の人が繰り出していた。
夕方から始まり、夜中に最高潮を迎える。
今はまだ日が暮れ始めたばかりで、盛り上がりはこれからというところだ。
(´<_` )「売人どもは大わらわだろうな。今日はクリスマス商戦みたいなもんだ」
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:01:12.57 ID:sq4PexSG0
- 10.
( ´_ゝ`)「綿あめがヘロインで出来てりゃなー」
('A`)「お前吸い過ぎだぞ。そのうち鼻血出すぜ」
いつもの三人が外の車の中で待っていた。
モララーが乗り込もうとすると、クーがそれを引き止めた。
川 ゚ -゚)「どこ行くの?」
( ・∀・)「家だよ。話したいことがある」
川 ゚ -゚)「お祭りを見て行かない? きっと楽しいよ」
( ・∀・)「遊びじゃないんだ」
川 ゚ー゚)「渋滞するからさー。ほら、歩いてこ。きっと楽しいって」
モララーの腕に抱き付き、強引に引っ張っていく。
彼はすぐに抵抗をやめ、言われた通りにした。
(´<_` )「おいおい、どこ行くんだい?」
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:04:22.91 ID:sq4PexSG0
- 11.
( ・∀・)「一緒に来いよ。一人残って、連絡したら車を回してくれ」
( ´_ゝ`)「んじゃ俺が」
('A`)「ジャンキーに運転を任せられるかよ、俺が残る」
(´<_` )「へっへっへ、どうせヘロインやる気だったんだろ。諦めな」
( ´_ゝ`)「ちぇっ」
ドクオが残り、流石兄弟がついてきた。
お邪魔にならないよう、少し離れたところを歩く。
それからモララーとクーは恋人同士みたいに祭りを見て回った。
川 ゚ -゚)「ん、あれ買って」
( ・∀・)「はいはい」
屋台の軽食を食べたり、射的をやったりして過ごす。
悪魔の看板にボールを投げ付けるゲームではモララーが満点を出し、周囲の喝采を浴びた。
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:06:37.93 ID:sq4PexSG0
- 12.
川*゚ー゚)「すごいな、投擲兵になれるよ!」
( ・∀・)「よせよ」
(*゚ー゚)「おめでとー。はい、これ商品のロザリオ。あんたは悪魔殺しの英雄だよ!」
モララーはクーにロザリオをかけてやった。
川*゚ -゚)「あんまり神様は信じてないんだけどな」
と、言いながらも彼女は嬉しそうだった。
( ・∀・)「いいんじゃないか。似合うぜ」
川*゚ -゚)「ありがとう」
( ・∀・)「いいんだ、このくらい」
久し振りに子供のころに戻ったように思え、二人は楽しい時を過ごした。
あっという間に夜になった。
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:08:37.35 ID:sq4PexSG0
- 13.
噴水の縁に腰を下ろした二人は火照った体に瓶ビールを流し込んでいた。
向こうでは夜半を迎えた祭りが大変な賑わいを見せている。
川 ゚ -゚)「あー、うめえ」
( ・∀・)「おっさんくさいな」
このあたりはそれほど人通りもなく、会話が出来るくらいには静かだ。
川 ゚ -゚)「で、話って?」
( ・∀・)「父さんのことだ」
二人の顔の中で表情がうつろい、消える。
( ・∀・)「俺の父さんがどんな死に方したか、おぼえてるだろ」
川 ゚ -゚)「うん」
( ・∀・)「これまで俺を駆り立てていたものは復讐心だった。世の中全部に対するな」
- 17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:10:46.58 ID:sq4PexSG0
- 14.
( ・∀・)「俺はがむしゃらに動き回って、それで今はこうして金と地位を手にしてる。
だけど、つい最近のことだけど、不安になったんだ」
川 ゚ -゚)「不安って?」
( ・∀・)「本当にこれで何かが変わったのかって。
俺と、世界。両方とも同じままだ」
モララーはクーの顔を見つめた。
( ・∀・)「どちらかが変わる必要がある。
俺は世界が変わるのを待ち続けたけど、もうそれは諦める」
川 ゚ -゚)「よくわかんないな。わたしにもわかるように言ってよ」
( ・∀・)「金とか、そんなものじゃない何かを手に入れたい。
俺は変わるよ。俺が変われば、世界を変えられる力が手に入ると思う」
クーはドキドキしながら聞いた。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:12:33.71 ID:sq4PexSG0
- 15.
川 ゚ -゚)「ギャングをやめる気?」
( ・∀・)「ああ。この仕事でおしまいだ」
クーは喜びのあまりモララーに抱き付いた。
川*゚ ヮ゚)「嬉しいいいいいいい!!」
(;・∀・)「あっ、おいバカ!?」
二人はもつれあって噴水の中に倒れ込んだ。
派手に水飛沫が上がる。
(;・∀・)「ぶはっ! お前何考えてんだよ、まったく!
あーあ、ケータイもダメだこりゃ」
びしょ濡れになって噴水の中で起き上がると、クーは構わず再びモララーに抱き付いた。
川*;ー;)「わたしはあんたがギャングをやめるって言ってくれるの、ずっと待ってたんだよ」
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:14:39.65 ID:sq4PexSG0
- 16.
川*;ー;)「嬉しい。本当に嬉しい……
( ・∀・)「……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
モララーは常に携帯電話を三〜四個持ち歩き、数日使うごとに捨てている。
所在地を特定されることを防ぐためだ。
その日も見ず知らずの誰かの名義で登録されている携帯で電話をかけた。
( ・∀・)「俺だ。どうだ?」
(´・ω・`)「保険会社が出せるのは二億二千万だそうだ。まあ、うまく行った方だろう」
( ・∀・)「くそ……予定じゃ三億だった筈だぞ」
(´・ω・`)「安心しろって、あんたの取り分は減らさないよ。
俺の方でジョルジュと話をつけて残りを分配するから」
( ・∀・)「ジョルジュは何か言ってるか?」
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:16:36.47 ID:sq4PexSG0
- 17.
(´・ω・`)「あの小心者は企みが漏れないかそればっかり気にしているよ。
まあ、あいつのことは任せておけって」
( ・∀・)「わかった。もうこれから先、連絡は出来ないぞ」
(´・ω・`)「わかってる。じゃあな」
ショボンは電話を切った。
ここはジョルジュの寝室で、目の前には彼がいる。
_
( ゚∀゚)「どうだ」
(´・ω・`)「予定通りですとも」
_
(;゚∀゚)「なあ、本当に大丈夫なのか? あいつらはギャングだぞ、報復されたりしたら……」
(´・ω・`)「二億三千万を三等分したのではとても足りないんだからしょうがない。
あなたの横領の総額は一億八千万でしょう?
わたしだって当然の権利として、働き相応の報酬が欲しい」
_
( ゚∀゚)「……」
- 21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:18:34.82 ID:sq4PexSG0
- 18.
・ ・ ・ ・ ・
(´・ω・`)「だから三等分では足りないんですよ。三等分では、ね」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日後、自宅で目覚めたクーは階下に降りていった。
リビングにはモララーしかおらず、どこかに電話をかけているところだった。
( ・∀・)「百挺か、少し足りないな。倍は欲しいんだが。いや、金なら用意するよ」
川 ゚ -゚)「おはよ」
( ・∀・)「おう。……ああ、いや、何でもない。また連絡する」
川 ゚ -゚)(百挺? 何の事だ?)
モララーは電話を切った。
( ・∀・)「金とガキを交換する日が決まった。明日だ」
川 ゚ -゚)「急だな」
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:20:36.37 ID:sq4PexSG0
- 19.
( ・∀・)「俺と流石兄弟で行く。お前はドクオと残れ」
川 ゚ -゚)「ん? あんたも行くの?」
クーはちょっと驚いた。親玉自ら出動とは。
( ・∀・)「ああ。絶対に成功させなきゃなんねえからな」
川 ゚ -゚)「わかった。気を付けて」
( ・∀・)「ああ。ガキに何にも持って行かせるなよ」
食卓に残されているサンドイッチの欠片を食べながら、クーはふと言った。
川 ゚ -゚)「この仕事が終わったらさ……」
( ・∀・)「ん?」
川 ゚ー゚)「一緒にどこかに行こうよ。カリブ海とかさ。お金あるんでしょ?」
( ・∀・)「まあな」
川 ゚ー゚)「約束だからね」
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:22:35.46 ID:sq4PexSG0
- 20.
( ・∀・)「ああ」
モララーが何か煮え切らないような態度なのが少し気になった。
普段なら隠し事をしているのだろうと疑うところだが、多分彼も緊張しているのだろうと
クーは思った。
仕事が成功するかどうかの瀬戸際なのだ。
食事を終えるとツンの待つ独房へ向かった。
川 ゚ -゚)「よう」
ξ ゚听)ξ「お姉ちゃん」
ベッドに腰を下ろし、すっかり打ち解けた彼女とお喋りする。
川 ゚ -゚)「お前の両親が金を払うってさ」
ξ ゚听)ξ「!」
川 ゚ -゚)「良かったな。家に帰れるぞ」
- 24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:24:34.25 ID:sq4PexSG0
- 21.
クーはツンの頭を撫でた。
ツンはもじもじしいている。
ξ ゚听)ξ「あのね、あのね……」
川 ゚ -゚)「ん?」
ξ ゚听)ξ「さらわれて、閉じ込められて、すごく怖かったけどね、だけど……」
川 ゚ -゚)「何だ?」
ξ ゚听)ξ「いいこともあったよ」
川 ゚ -゚)「……」
ξ ゚听)ξ「絵を教えてもらって、それで……友達ができたの。初めての友達」
川 ゚ -゚)「わたし?」
ツンは頷いた。
ξ ゚听)ξ「わたし外国人だったから、学校で誰とも友達になれなくって……」
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:26:35.21 ID:sq4PexSG0
- 22.
ξ ゚听)ξ「わたしの国は嫌われてたから」
川 ゚ -゚)「そうか……」
ξ ゚听)ξ「お父さんとお母さんは喧嘩ばっかりしてるし」
ツンはかつて誰にも話したことがないであろう、自分が置かれている状況の苦しさを
ゆっくりと吐露した。
多分、これまで相談に乗ってくれるような人が誰もいなかったのだろう。
川 ゚ -゚)(わたしと一緒か……いや、わたしにはモララーがいたもんな)
モララーに昔の彼に戻って欲しかった理由は色々ある。
昔は優しく、誠実で、誰にでも分け隔てせず付き合う気のいい働きものだった。
そして何より、この世でただ一人絵描きになりたいというクーの夢を認めてくれた人でもあった。
川 ゚ -゚)「辛かったな」
ξ ゚听)ξ「ん……」
- 26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:28:34.41 ID:sq4PexSG0
- 23.
ツンの肩を抱くと、彼女はこっちに寄り掛かってきた。
ξ ゚听)ξ「もう会えない?」
川 ゚ -゚)「うん、まあ……無理かな。寂しいけど」
ξ ;凵G)ξ
川 ゚ -゚)「泣くなって。泣くな。今夜は一緒にいてやるから」
クーはシャツの裾でツンの眼元を拭ってやった。
会話が途切れ、沈黙が落ちる。
ツンはふとベッドの下から画用紙を一枚、取り出した。
ξ ゚听)ξ「見て」
川 ゚ -゚)「ん。どこの絵だ?」
ξ ゚听)ξ「わたしが一番好きな風景。まだ描きかけなの」
イチョウの木の並木通りの、描きかけの絵。
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:30:35.61 ID:sq4PexSG0
- 24.
ξ ゚听)ξ「いつかお姉ちゃんとね、いつか……」
川 ゚ -゚)
ξ ゚听)ξ「一緒に歩きたいな」
川 ゚ -゚)「ん。わかった、約束するよ」
ξ*゚听)ξ「ほんと?!」
川 ゚ -゚)「ああ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
その晩、二人は一緒に眠った。
だがツンは寝付けず、一人起き出した。
川 - )「Zzzz」
ξ ゚听)ξ
クーは眠っている。
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:32:37.04 ID:sq4PexSG0
- 25.
ツンは静かにベッドから降り、画用紙を拡げた。
窓から差し込む月明かりを頼りに、鉛筆を走らせる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝、クーは三つの決意を固めた。
一つは絵描きになる夢を今度こそ叶えること。
二つ目はいつかツンに再び会いに行くこと。
そして最後の一つは……
川 ゚ -゚)(モララーと結婚しよう)
今初めて、自分の中のすべての霧が晴れた。
自分はモララーを愛している。昔からずっと、かけがえのない男だった。
血の繋がりはほとんどないから、一度離縁して兄妹の関係でなくなって、それから……
約束の時間が来た。
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:34:36.38 ID:sq4PexSG0
- 26.
独房のあるマンションに、弟者が運転する車がやってきた。
モララーと兄者が玄関にやってくる。
( ・∀・)「クー、連れて来い」
川 ゚ -゚)「じゃあな」
ξ ;凵G)ξ「うん」
ツンを強く抱き締め、耳元に囁きかける。
川 ゚ -゚)「いつか必ず会いに行く。待ってて、次会うその時は、わたしは絵描きになってるから」
ξ ゚听)ξ「うん。約束だよ」
(´<_` )「おーい、まだか? 時間に遅れちまうぞ」
外で弟者がクラクションを鳴らしている。
クーはツンの手を引いて外に連れ出した。
モララーと兄者が迎える。
- 30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:36:42.20 ID:sq4PexSG0
- 27.
川 ゚ -゚)「大事に扱えよ。イジメたら許さないぞ」
( ・∀・)「わかってるって。大事な商品だからな」
( ´_ゝ`)「来な、こっちだ」
ξ ゚听)ξ「あのね、お姉ちゃん……」
川 ゚ -゚)「ん?」
ξ ゚听)ξ「ううん、何でもない」
ツンは何度も振り返ってクーを見ていたが、やがてワゴン車の中に消えた。
リアシートのウィンドウが開き、モララーが顔を出す。
( ・∀・)「終わったら連絡する。家で待ってろ」
川 ゚ -゚)「ほい。ねえ、帰ってきたら大事な話があるの」
( ・∀・)「何だ?」
今ここで言うなんて、それはちょっとロマンがない。
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:38:40.53 ID:sq4PexSG0
- 28.
クーは笑って言葉を濁した。
川*゚ ー゚)「えっと……帰って来てからね」
クーは車を見送り、やがてその姿が見えなくなると、パシリを呼んで車を回させた。
複雑な気分だ。
ツンのことは名残惜しくもあり、しかし今夜結婚の告白が控えていることもあり……
自宅に戻ると、ドクオが一人待っていた。
('A`)「車を盗むのとセックスとどっちが気持ちいいかって?
車を盗みながらするセックスさ! やべ、俺童貞だった」
相変わらず演技の練習に余念がないようだ。
川 ゚ -゚)「またやってんの?」
('∀`)「よう! へへへ、俺、ボーナスが出たらハリウッドに行くんだ」
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:41:16.07 ID:sq4PexSG0
- 29.
川 ゚ -゚)「何しに?」
('∀`)「映画のオーディションを受けまくるんだ。ギャングから足を洗うよ」
川 ゚ -゚)「へー。まあ、頑張ってね」
椅子に座ってテレビを眺めながら、ぼんやりと彼のことを考える。
指輪くらい用意しておくべきだっただろうか……いや、それは男女の立場が逆かな?
川 ゚ -゚)「ねえ、女の方からプロポーズするのって変かな?」
('A`)「あ? いいんじゃねえか別に。誰かにする予定でもあんのか?」
川*゚ -゚)「いや、ちょっとね」
('A`)「モララーにする気ならやめとけよ」
川 ゚ -゚)「うーん、確かにいいお父さんって感じじゃないけどね。
でも、あいつもギャングから足を洗うって言ってたよ」
('A`)「俺も聞いたよ。だってあいつはギャングよりも……あっ」
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:43:35.44 ID:sq4PexSG0
- 30.
ドクオは「しまった!」という顔になった。
すぐに取り繕い、何事もなかったように練習に戻るが、クーは見逃さなかった。
川 ゚ -゚)「何?」
(;'A`)「あ? 何が?」
川 ゚ -゚)「ドクオ、言わせてもらうけどお前は演技が下手だ。絶望的に」
(゚A゚)「うるせー! ほっとけよ!」
川#゚ -゚)「だから誤魔化しても無駄だ! モララーが何を言ってたんだ?!
ギャングよりも、何?!」
唐突に不安が暗雲となって心を覆い尽くしてゆく。
あの時のモララーの顔だ。やっぱり何か隠していたのか。
クーはドクオに詰め寄った。
(;'A`)「いやあの俺が言ったってわかったら、おしおきされちゃうし」
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:47:17.47 ID:sq4PexSG0
- 31.
川#゚ -゚)「いいから言え、何だ、どういうことだ! モララーは何になる気なんだ!」
(;'A`)「勘弁してくれ」
クーは食卓に出しっぱなしの拳銃を手に取った。
銃口をドクオに向け、親指で撃鉄を跳ね上げる。
カチリ。
川 ゚ -゚)「言うんだ」
(;'A`)「おおおおお前に俺が撃てるのかよ?」
川 ゚ -゚)「あんたにレイプされそうになったって言えばモララーは信じるかもね」
両手を上げて降参のポーズを取ったドクオの顔色は次々に変わった。
やがて観念したのか、大きなため息とともに喋り出す。
('A`)「あいつはイカレてるぜ。第二のチェ・ゲバラになる気だぞ」
川 ゚ -゚)「どういうこと? 誰それ?」
- 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:49:44.85 ID:sq4PexSG0
- 32.
('A`)「知らないのか。まあいい。鉱山夫を扇動して暴動を起こすんだとよ」
川;゚ -゚)「何だって……?」
朝のモララーの電話を思い出す。
“百挺”。“倍は欲しい”。相手は武器商人か?
('A`)「一週間後に鉱山の持ち主の会社の社長が視察に来るだとかでな。
そのタイミングに社長を人質に取って鉱山に立てこもるんだとよ。
人民の搾取を断ち切って世界中にこのことを知らせるんだとか何だとか……」
川;゚ -゚)「何だそれ?! いつ聞いた?!」
('A`)「昨日の夜だよ。俺と流石兄弟だけ集めていきなり演説を始めてよ」
川;> -<)(何てこった……何てこった!! 変わるって、そういうことなの?!)
クーは家を飛び出し、自分の車に乗った。
都心を目指してアクセルを踏み込む。
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:52:02.54 ID:sq4PexSG0
- 33.
('A`)「あ、おい! 今から行ったって……あーあ、行っちまった」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
モララーは都心に向かう途中、電話ボックスに入った。
その隣で兄者が時間を計る。
逆探知で居場所を特定される一分以内に電話を切る為だ。
( ・∀・)】「ニューソク公園に行って、北の男子トイレの三番目の個室に金を置け。
俺たちが金を回収し安全な場所まで来たら人質を解放する、いいか?
金はみんな旧札で小額紙幣だぞ」
_
( ゚∀゚)】「わ、わかった。娘はどこで解放するんだ?」
( ・∀・)】「解放したら知らせる」
_
( ゚∀゚)】「待ってくれ、娘の声を……」
( ´_ゝ`)(あと二十秒だぜ)
- 39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:54:38.05 ID:sq4PexSG0
- 34.
( ・∀・)】「無事だ。安心しろ。いいか、追跡されてるとわかったらすぐガキを殺すからな」
モララーは電話を切り、車に戻った。
公園へ向かう。
休日なので人通りは多く、家族連れやカップルで賑わっている。
そんな中に一般市民を装った警官の姿がちらほらと見て取れた。
(´<_` )(やれやれ、モロバレだぜ。あいつらあれで変装してるつもりか?)
金の受け取り役は弟者に任されていた。
車を降り、刑事たちの視線を感じながらトイレに入る。
三番目のトイレには鍵がかかっていた。
ナイフでロックを解除し、中に入ると、確かにバッグはあった。
( ・∀・)「バッグを変えて中身だけ移せ。発信機がついてる」
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:56:59.55 ID:sq4PexSG0
- 35.
事前にモララーはそう言った。
(´<_` )(へへへ、誘拐犯と刑事と被害者がグルだなんて誰も思わないだろうな)
持参したバッグに中の札束を詰めかえる。
これも要求通りすべて旧札で、通し番号も金額もバラバラのものだ。
小額紙幣を多く混ぜることで足を付きにくくする為である。
かなりの重量があるバッグを抱えてトイレを出、車に戻る。
(´<_`;)(ん、追って来ないな。賢明だぜ。……重いな、くそ!)
( ・∀・)「どうだ?」
(´<_` )「あったぜ。ほら、見てみろよ」
( ・∀・)「ん。よし、行こうか。前を見て運転してくれよ」
( ´_ゝ`)「今は吸ってねえって、大丈夫」
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 20:59:11.57 ID:sq4PexSG0
- 36.
頻繁にカーブを曲がったり来た道を戻ったりしながら追跡を警戒しつつ、数度車を変え、
また地下鉄を使ったりして蛇行した後、彼らは安ホテルの一室に入った。
モララーが床に置いたバッグを開こうかという時、ケータイが鳴った。
( ・∀・)「数えとけ」
( ´_ゝ`)「へいへい」
(´<_` )「うひょお、すっげえ!」
( ´_ゝ`)「あれ、半分くらい新聞紙だぜ?」
(´<_` )「バカお前、ウチの取り分だけが入ってるんだろこれは。
残りの取り分はとっくに刑事とガキのオヤジが抜いてんだよ」
( ´_ゝ`)「あ、そっか」
受信ボタンを押した瞬間、クーの金切り声が飛び込んできた。
川#゚ -゚)「モララー!!」
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:03:13.83 ID:sq4PexSG0
- 37.
(;・∀・)「何だ何だ、どうしたんだよ?!」
川#゚ -゚)「今すぐ会いたい、今すぐにだ!」
( ・∀・)「酔ってるのか? ふざけるな」
川#゚ -゚)「居場所を教えろ、でなけりゃ今からお前の企みを全部ここでぶちまけるぞ!
通行人の皆様に聞いてもらうからな、お前が暴動を起こそうとしてるって!」
(;‐∀‐)「……クソ、ドクオか! あのバカ!」
川 ゚ -゚)「どこにいるんだよ!?」
( ・∀・)「ちょっと待ってろ、こっちから行くから」
川#゚ -゚)「いいや、一秒だって待たないね! 居場所を! 教えるん! だ!!」
モララーは仕方なくホテルの部屋を教えた。
ちょうど近くだったので、クーはそこへ車を急行させた。
ホテルに入り、部屋に入る。
ここに来るまでには怒りは失せ、代わりに悲しみがクーを支配し始めた。
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:05:31.04 ID:sq4PexSG0
- 38.
( ・∀・)「お前何考えてるんだ!?」
川 ゚ -゚)「ツンは?」
( ・∀・)「車だ。お前何考えて……」
涙目でこちらを睨むクーを見ると、モララーは何も言えなくなってしまった。
川 ; -;)「もうやめよう、モララー。
こんなことしてもあんたは救われないよ……!」
( ・∀・)
川 ; -;)「わ、わたし、あんたと結婚したいのに」
モララーはクーに一歩歩み寄った。
手を彼女の頬に添え、顔をそっと持ち上げる。
( ・∀・)「本気か?」
川 ; -;)「うん」
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:07:33.94 ID:sq4PexSG0
- 39.
(´<_` )「え、えーと……なあ、モララー」
( ・∀・)「引っ込んでろ!!」
( ´_ゝ`)「いや、そうじゃねえんだ。ヤバイぜ」
( ・∀・)「何だ?!」
横やりを入れられたモララーが苛立ちを露わに振り返ると、兄者が札束を一つ手にしていた。
中身がくり抜かれ、小さな機械が入っていた。
発信機だ。
( ・∀・)
モララーはそれを呆然と見つめ、そしてゆっくりと歩み寄った。
兄者の手から札束を抜き取り、呟く。
(;・∀・)「……ショボンの野郎、裏切りやがったな」
(;´_ゝ`)「何だ何だ!?」
- 45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:10:03.13 ID:sq4PexSG0
- 40.
(´<_`;)「どういうことだよ?!」
(´・ω・`)「犯人グループは全員が射殺され、金は永遠にどこかに消える。そう言う事だ」
サイレンサー付きの拳銃を構えたショボンがそこにいた。
彼らを威嚇しながらバッグの方へ向かい、それを抱え上げる。
モララーたちはただそれを見ているしかなかった。
( ・∀・)「金はくれてやる。だがてめえだけは許さねえ」
モララーが人差し指を突き付けて呟くと、ショボンはそれを笑い飛ばした。
ドアの方へ下がってゆく。
(´・ω・`)「ハハハ、そりゃどうも。ああ、そうそう、一つだけ勧告しておこうか。
連中に降伏しても無駄だぞ。賄賂をたんまり約束してあるんでね」
どこかでサイレンの音がする。
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:12:38.22 ID:sq4PexSG0
- 41.
(´・ω・`)「では幸運を。アディオス」
彼が消えると流石兄弟が後を追おうとしたが、モララーがそれを押しとどめた。
(;・∀・)「ほっとけ、俺たちも逃げよう!」
( ´_ゝ`)「え!? 金は?」
( ・∀・)「捨ててけ! クソッ、何てことだ。来い、クー、話は後だ」
川;゚ -゚)「う、うん」
ホテル前の駐車場に警官隊を満載したワゴンが乱暴に駐車する。
すぐさま完全武装の隊員が現れ、建物を取り囲んだ。
(,,゚Д゚)「投降しろゴルァ、お前らがここにいるこたわかってんだぞ!」
(;´_ゝ`)「チクショー、さっきの野郎、あらかじめ通報してやがったな!」
四人は裏口から飛び出した。
- 50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:14:38.93 ID:sq4PexSG0
- 42.
たった今駆け付けたばかりの隊員が警告もなしにいきなり撃ってくる。
すかさずモララーたちも撃ち返し、たちまち銃撃戦となった。
(,,゚Д゚)「止まれゴルァ、撃つぞ!」
(゚<_゚#)「もう撃ってるじゃねーか大ボケがあああ!!」
飛び交う銃弾を何とかやり過ごし、車の中に転がり込む。
後部座席の足元に縛られたツンが転がされていた。
川 ゚ -゚)「ツン!」
ξ ;凵G)ξ「お姉ちゃん!」
( ・∀・)「ガキは置いてけ、邪魔になる」
川;゚ -゚)「バカ言え。あいつ言ってただろ、皆殺しにするって!」
銃弾を受けながら、とにもかくにも車を乱暴に出す。
弟者が運転し、助手席が兄者、残りがリアシートだ。
- 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:16:37.07 ID:sq4PexSG0
- 43.
行く手を阻んだ隊員がホースで水をまくみたいにマシンガンで弾丸をバラまいたが、一行が
構わず突っ込んでくると、慌ててその場から飛び退いた。
何とか道路に出、一方通行を逆走して大通りに出る。
(;´_ゝ`)「くそ……やべえな」
(´<_` )「撃たれたのか!?」
(;´_ゝ`)「ツイてねえ」
腹の銃創から血を流しながら、兄者は吸入器を取り出した。
鼻に当てて中身を吸い込もうとするが、すでに空っぽだった。
(;´_ゝ`)「くそっ、とことんツイてねえぜ」
吸入器を投げ捨てる。
(´<_` )「モララー、どうする?」
- 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:19:01.08 ID:sq4PexSG0
- 44.
( ・∀・)「逃げるしかねえ、とにかく根城のスラムあたりに逃げ込め」
川 ゚ -゚)「大丈夫、わたしがついてるぞ」
ξ ;凵G)ξ「うん……」
当然ながらパトカーが後を追ってくる。
上空には警察と報道のヘリが飛び交い、こちらを見下ろしていた。
(;・∀・)(八方塞がりか、くそっ! とてもスラムまで持たん。どうする?)
(´<_`;)「あっ、やべえ!」
行く手の道路に警察が仕掛けたリベットの絨毯が敷かれている。
スパイクの生えた帯で、軽車両のタイヤを潰して行動不能にするシロモノだ。
彼らを乗せたバンはまともにそれを踏んだ。パン!!
(´<_`;)「うわああああ?!」
- 57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:21:34.24 ID:sq4PexSG0
- 45.
激しくスピンしながら交差点の真ん中に放り出された。
そこはパトカーと警官が封鎖しており、十字砲火を浴びせようと待ち構えている。
ミ,,゚Д゚彡「投降しろ、もう逃げられんぞゴルァァ!」
( ´_ゝ`)「な、なあ、ここまでじゃねえか?」
( ・∀・)「いや待て。撃って来ねえって事は……」
あいつらは買収されてない警官に違いない。となれば……
視線がツンの方を向き、それから手の中に握られたままの拳銃に行く。
(;・∀・)(ここまで来て終わってたまるか! 俺は……俺は、こんなところで……)
モララーはクーからツンを引き剥がした。
ξ ;凵G)ξ「ひっ」
川;゚ -゚)「おい!?」
- 58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:23:34.13 ID:sq4PexSG0
- 46.
( ・∀・)「これしかねえんだ、納得してくれ! 兄者、ダッシュボードに発煙筒があるか?」
(;´_ゝ`)「あ? ああ……これかな」
( ・∀・)「合図したらつけろ、そんであそこの路地裏に走るんだ。いいな?」
(;´_ゝ`)「で、出来るかな……」
(´<_` )「俺がやるよ」
( ・∀・)「どっちでもいい。まだだぞ」
モララーはパワーウィンドウを下げ、顔を出した。
ツンの頭に銃を押し付けて怒号を上げる。
ξ ;凵G)ξ「ひ、ひいっ」
( ・∀・)「こっちに人質がいることを忘れるんじゃねーぞ!!
納税者の皆様がちゃんと見張ってるぜ!」
上空の報道ヘリのことだ。
- 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:25:36.07 ID:sq4PexSG0
- 47.
もし人質がいることを無視して犯人を撃てば、ツンが無事であろうがなかろうが後に警察は
非難の矢面に立たされることになる。
ミ;゚Д゚彡「くそ……」
( ・∀・)「発煙筒をつけろ!」
(´<_` )「おう」
筒の蓋を開くと自動的に発火し、煙が溢れ出す。
その目くらましに乗じて一同は車から飛び出した。
思わず引き金に指をかけた警官を、上司が必死になだめている。
ミ;゚Д゚彡「撃つな、撃つんじゃない! 人質に当たる!」
煙の中の人影は朧だ。これでは犯人だけを狙い撃ちにするのは不可能だ。
モララーたちは混乱に乗じて路地裏に飛び込んだ。
うらぶれた場所で、廃墟の合間にある狭い通路だ。
- 60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:27:17.17 ID:sq4PexSG0
- 48.
( ´_ゝ`)ゼェゼェ ゼェゼェ
(´<_` )「おい、こんなところでくたばるなよ」
( ´_ゝ`)「大丈夫だよ……コークかヘロインがありゃあ、こんくらい……」
( ・∀・)「はぐれるなよ、こっちだ」
路地は複雑に入り組んでおり、上空は無計画に拡張された建造物や住人が違法に引いた送電線などに
塞がれている。
警察からもこちらは見えないのだろうが、あちこちで連中の怒号がする。
( ・∀・)(まずいな、囲まれたか? 抜けられるか……)
川;゚ -゚)「ツンを返してよ!」
ξ ;凵G)ξ
( ・∀・)「ダメだ、こいつが俺らの命綱だ」
( ´_ゝ`)「さ、さみぃ……ざまあねえぜ。コールドターキーか」
- 62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:29:21.97 ID:sq4PexSG0
- 49.
もはや自分で歩くことも出来ず、弟者に支えられた兄者は血の気のない顔で力なく笑った。
体中の力が溶け出し、腹の傷から血と共に流れ落ちているようだ。
コ ー ル ト ゙ タ ー キ ー
ひどく寒い。失血のせいか、それともヘロインの禁断症状のせいか?
( ´_ゝ`)「なあ、いつか俺が麻薬を止められる日が来ると思うか?
心の痛みが癒されて、麻薬以外の価値観が持てる日が……」
夢現で兄者は囁いた。だが返事がない。
( <_ )
( ´_ゝ`)「どうした、弟者」
弟者がぐらりと崩れ、倒れた。
ゆっくりと、地面に沈み込むようにして。
流石兄弟は折り重なるようにして倒れた。
- 64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:31:07.04 ID:sq4PexSG0
- 50.
( ´_ゝ`)「弟者……?」
弟者の背中には銃創があった。
兄者は呆然としたまま仰向けになり、大きく息をついた。
そして理解した。
( ´_ゝ`)(これはきっと、フラッシュバックだ。
俺は麻薬切れが見せる妄想の中にいるんだ。
だって、弟者が死ぬわけないだろ? 俺だって死ぬわけない)
警官がやってきた。
手にした拳銃から細く硝煙が立ち上っている。
(,,゚Д゚)
( ´_ゝ`)「よう。ヘロイン持ってたらくれないか?」
- 67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:33:47.84 ID:sq4PexSG0
- 51.
警官は無言でその顔面に銃口を向けた。
兄者は微笑み、先を続けた。
これは夢だ。
( ´_ゝ`)「金ならあるんだよ。ホテルに置いてきちまったけどさ。
刑事が持ってっちまって……ああ、でも、きっとそのうち取り返すから……」
バン! バン! バン!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
クーは路地内で反射を繰り返す銃声を聞き、振り返った。
流石兄弟の姿がない。
川;゚ -゚)「兄者、弟者?」
( ・∀・)「立ち止まるな、クー!」
- 70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:35:10.10 ID:sq4PexSG0
- 52.
川 ゚ -゚)「だって流石兄弟がいないよ!」
モララーは振り返った。
現状から抜け出すことに必死で、背後に気が回っていなかった。
(;・∀・)「くそっ、はぐれたか」
しばらく路地の奥を見つめていたが、すぐに視線を正面に戻す。
それから無言で歩き始めた。
川 ゚ -゚)「行っちゃうの?」
クーが引き止めようとしても、一瞬立ち止まっただけだった。
川 ; -;)「あいつら、友達だっただろ?」
( ・∀・)「諦めろ」
- 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:37:21.01 ID:sq4PexSG0
- 53.
一言だけ、そう呟いた。
クーの恨みがましい視線、友の思い出、自らの良心、すべてを振り切って先に進む。
( ・∀・)「俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(・ω・`;)「くそ、逃がしただと」
車の中で警察無線を聞いていたショボンは歯噛みした。
現場は様々な管轄の警官が入り乱れており、やや混乱しているらしい。
路地に連中を追い込んだものの、連携が拙く王手をかけられないでいる。
ショボンは買収した警官の一人に電話をかけた。
(´・ω・`)】「わたしだ。出来る限り他の連中より先に見つけてトドメを刺してくれ!」
(,,゚Д゚)】「わかってる。二人始末した、あと二人だ」
- 76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:39:41.25 ID:sq4PexSG0
- 54.
(´・ω・`)】「ガキもだぞ。少しでも疑いを持たれたら困る」
(,,゚Д゚)】「じゃ、あと三人か」
(´・ω・`)】「俺もそろそろ行く。到着するまでにケリをつけといてくれ」
一度電話を切り、車のエンジンを入れて現場に向かう。
(´・ω・`)(後は連中のアジトだ。うまく行ってるといいが)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、ドクオは。
('A`)「銃を向けられるたびに5セント貰ってたら今頃大金持ちだぜ……」
モララーのマンションの居間で、拳銃片手にアクションスターの真似をしていた。
( ´ー`)「うわードクオさんかっけー」
- 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:41:24.61 ID:sq4PexSG0
- 55.
( ・3・)「まじかっけー」
('∀`)「そうだろうそうだろう。じゃあ次の演技を見せてやるぞ」
(;´ー`)(勘弁してくれ)
(;・3・)(いつまでこの大根演技を見てなきゃなんねえんだよ)
テーブルに置いてあったドクオのケータイが鳴った。
('A`)「ちょっと休憩だ。もしもし」
( ´ー`)(助かった……)
( ・∀・)】「ドクオ、今から言うことをよく聞け! よく聞くんだ!」
('A`)】「何だ、どうしたんだよ? 落ち着け、金は?」
( ・∀・)】「しくじった」
(;'A`)】「何だと!?」
( ・∀・)】「説明してる時間がねえから言う通りにしろ。
そこから逃げ出してニューソク駅の一時預かり所に行け、引き換えタグは……」
- 80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:43:09.84 ID:sq4PexSG0
- 56.
突然、リビングの扉が蹴破られた。
顔を覆面で隠した男が二人、銃を構えて入ってくる。
呆気に取られていたエイトボールの手下二人は、たちまちのうちに撃たれた。
( ・3・)「ぐああ!?」
( ´ー`)「おぐっ……」
懐に手を伸ばしかけたが、銃を掴んで戻ってくる前に蜂の巣にされる。
ドクオだけは難を免れた。
(゚A゚)「どわあああ?!」
抜くまでもなく、ちょうど手の中に銃があったからだ。
むちゃくちゃに撃ちまくりながら、転がるようにして部屋を飛び出す。
(:::::::::::)「!!」
- 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:45:24.72 ID:sq4PexSG0
- 57.
刺客はあわてて物陰に飛び込んだ。
('A`;)「なななななんだなんだなんだ、何事だぁぁ!?」
もう片方の手の中でモララーが怒鳴っている。
( ・∀・)】「おい、どうした?!」
('A`;)】「わかんねえ、襲撃だ!」
(;-∀-)(クソッ、アジトもバレてる! 跡を尾けられたのか!?)
( ・∀・)】「俺の部屋に行け、ベッドの枕ん中にタグが縫い込んである!」
('A`)】「何だって?」
( ・∀・)】「そいつを持ってニューソク駅の一時預かり所に行くんだ!
荷物を受け取ったら中のメモ通りにしろ、いいか!? 行け!」
わけもわからないまま二階にあるモララーの寝室に飛び込み、枕を引き破く。
一方、非番の警官である刺客二人は階下で話し合っていた。
- 84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:47:38.99 ID:sq4PexSG0
- 58.
(:::::::::::)「撃ち合いは苦手だぜ、どうする?」
(:::::::::::)「へへへ、いいものを持ってきた」
片方はポケットから手榴弾を取り出した。
(:::::::::::)「おお、すげえ」
(:::::::::::)「こいつを投げ込もうぜ」
二人は足音を殺して階段を上がると、寝室の方へ向かった。
そこだけドアが開いている。
(:::::::::::)「あそこだな」
ピンを引き抜き、手榴弾を中に放り込む。
何とか枕を破いて中身を取り出そうとしていたドクオは、足元に転がって来た黒い鉄の球体に
気付いた。
- 85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:49:18.61 ID:sq4PexSG0
- 59.
('A`)「……あ?」
しばらくそれを見下ろす。
そして何なのか理解するとほぼ同時に、視線を窓にやった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
モララーの携帯の向こうで何か大きな音がし、すべての音声が遮断された。
( ・∀・)】「ドクオ、おい、ドクオ!?」
川 ゚ -゚)「どうしたの?」
( ・∀・)】「ドクオもダメだ」
川 ゚ -゚)「何だって……」
これで生き残っているのは二人だけだ。
ドクオが死に、“荷物”が葬られた今、万策尽きた。
- 87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:51:18.92 ID:sq4PexSG0
- 60.
モララーはツンを放り出した。
よろよろと先に進み、その場にひざまずく。
( ・∀・)「おしまいだ」
川 ゚ -゚)
( ・∀・)「みんなおしまいだ……」
川 ゚ -゚)「モララー、」
( ・∀・)「よせ」
何か言う前に、モララーは背中を向けたまま彼女を制した。
半ば放心したまま。
( ・∀・)「投降も出来ない。突破も出来ない。もうどうしようもない」
クーは何も言えないでいた。
彼の絶望が痛いほど理解出来たからだ。
- 89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 21:53:42.50 ID:sq4PexSG0
- 61.
川 ゚ -゚)「投降しよう、モララー」
( ・∀・)「ショボンの言ったことを忘れたのか?」
川 ゚ -゚)「買収されてない奴もいる。賭けよう」
( ・∀・)「……」
モララーの耳には届いていないようだった。
彼は不意に銃を持ち上げた。
銃口の先に目の前のツンを捕らえる。
ξ ゚听)ξ
( ・∀・)「お前たちさえ……」
ξ ゚听)ξ「……?」
( ・∀・)「お前たちさえ、この国に来なければ……」
絶望が瞳を曇らせ、もはや正常な判断力が保てず狂気が体を動かしている。
- 95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:03:38.01 ID:sq4PexSG0
- 62.
( ・∀・)「お前たちさえ……」
親指が銃の安全装置を外しかけた時、隣でカチリという音がした。
撃鉄が持ち上がる音だ。
川 ゚ -゚)「モララー」
( ・∀・)
クーは彼を刺激しないようゆっくり告げた。
握り締めた銃の銃口と同じくらい、震えた声で。
川 ゚ -゚)「やめて、モララー」
彼女は緊張が高まり過ぎて息がつまり、僅かに喘いでいた。
それでも銃口はモララーに向けたままだ。
ξ ゚听)ξ
- 96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:05:42.90 ID:sq4PexSG0
- 63.
( ・∀・)「こいつに罪はないって言いたいのか?」
モララーはクーの方を見た。
( ・∀・)「なら俺の父さんには何の罪があった?
父さんが間違ってて、父さんの上を跨いでった野郎どもが正しかったのか?」
川 ; -;)「モララー、やめて!!」
クーは悲鳴を上げた。
誰が正しい? 誰が間違っている?
子供を撃とうとしている目の前の男か?
愛した人を撃とうとしている自分か?
正しいのは世界のすべてで、間違っているのは自分たちか?
それともその逆か?
( ・∀・)「父さんに何の罪があったんだ……」
- 99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:08:26.22 ID:sq4PexSG0
- 64.
川 ; -;)「やめ……!!」
彼の視線が再びツンに向くと同時に、人差し指が用心金に入った。
クーは引き金を引いた。結局何が正しいともわからないまま。
弾層が回転し、撃鉄が薬莢を叩く。
弾丸はモララーの体を貫いた。
( ・∀・)「……」
彼はよろめき、後ずさった。
クーの方を見たが、瞳にあるのは悲しみのように見えた。
( ∀ )
銃を構えたままクーはしばらく硬直し、倒れた彼を見ていたが、すぐに駆け出した。
川 ; -;)「モララー、モララー……ごめん、わたし……」
- 103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:11:21.77 ID:sq4PexSG0
- 65.
( ・∀・)「いいんだ」
力なく呟き、モララーは目を閉じた。
川 ; -;)「あんたを止められなかった」
( ‐∀‐)「いや、お前は俺を止めてくれたよ……ありがとう」
最初で最後の口付けを交わす。
( ‐∀‐)「愛してる」
川 ; -;)「うん」
クーは袖で涙を拭い、立ち上がると、ツンを抱き上げた。
川 ゚ -゚)「行こう。お前だけは死んでも守る」
ξ ゚听)ξ
- 108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:15:35.67 ID:sq4PexSG0
- 66.
途中、足が言うことを聞かなくなった。
立ち止まれ、とどまれ、彼のもとに戻れ。
自分の中にいる誰かがそう強制している。
クーは目を閉じて歯を食い縛ると、それを振り払って走った。
二人の姿が消えると、血の海に沈んでゆくモララーの元に警官たちがやってきた。
(,,゚Д゚)「むっ、仲間割れか?!」
( ・∀・)「さあな」
(,,゚Д゚)「銃を捨てろゴルァ、今ならまだ助かるかも知れんぞ」
買収警官ではないようだ。
それでもモララーは鼻で笑い、忠告を拒否した。
( ・∀・)「お断りだね」
倒れたまま渾身の力を込めて上半身を起こし、銃口を向ける。
- 111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:18:12.05 ID:sq4PexSG0
- 67.
すぐさま警官たちが一斉射撃した。
( ∀ )
銃弾によって引き裂かれた死体の元へ、注意深く忍び寄る。
手の中から銃を蹴飛ばして離すと、警官は心音を確かめた。
(,,゚Д゚)「死んだ。行け、あと一人いる筈だ!」
残りの警官は皆、モララーの死体の上をまたいで行った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
クーたちはとうとう袋小路に追い詰められていた。
コンクリートの壁が行く手を遮り、後ろからは警官たちの足音がどんどん近付いて来る。
クーは壁際に置いてある大きな鉄のゴミ集積コンテナの影に、ツンと共に隠れた。
- 113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:22:13.08 ID:sq4PexSG0
- 68.
川 ; -;)(モララー、みんな、くそ……なんで、なんでこんなことに。
わたしが彼を止められなかったから、苦しみを理解出来なかったから……)
ξ ゚听)ξ
川 ゚ -゚)「大丈夫、お前だけは何とかして逃がすからな」
ξ ゚听)ξ「うん」
警官たちが集まって来た。
強化プラスチックの盾を並べ、少し離れたところに陣取る。
(,,゚Д゚)「追い詰めたぞゴルァ、投降して出て来い!」
物影から様子を窺う。
袋小路のあたりは天井が開けており、報道ヘリがちょうどこちらの様子を捕らえたところだった。
監視があるのなら例え買収野郎でも無茶は出来ない筈だ。
川 ゚ -゚)「行きな、ツン」
- 116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:24:20.60 ID:sq4PexSG0
- 69.
ξ ゚听)ξ「えっ?」
川 ゚ -゚)「お前は行くんだ。わたしは残る」
ξ ゚听)ξ「残るって?」
クーは彼女の小さな体を抱き締めた。
警官隊の後ろに駆け付けたツンの母親の金切り声が聞こえた。
(;、;トソン「ツン、ツーン! 無事なの!? 誰かツンを助けて!」
現場へ飛び出そうとするのを後尾の警官達が必死になだめている。
ツンはその声を聞き付け、弾かれたように振り返った。
ξ ゚听)ξ「お母さん!」
川 ゚ -゚)「ほら、パパとママのところへ戻れよ」
ξ ゚听)ξ
川 ゚ -゚)「きっと医者になれよ。さよなら」
- 119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:27:24.23 ID:sq4PexSG0
- 70.
ツンは迷っていた。
泣きながらクーを見下ろし、別のことを言ってくれないか待っていた。
川 ゚ -゚)
だがクーが決意を曲げる気がない事を理解すると、ゆっくりとその場を離れた。
彼女がゴミ箱の影から出てゆくのを見届けると、クーは拳銃のシリンダーをずらした。
弾丸一発を残して他はすべて地面に落とす。
川 > -<)
シリンダーを戻し、撃鉄を上げて銃口をこめかみに押し当てる。
歯を思い切り食い縛る。
そうしないと悲鳴ごと心臓を吐き出してしまいそうだった。
川 > -<)ゼェゼェ ゼェゼェ ゼェゼェ
- 121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:29:28.87 ID:sq4PexSG0
- 71.
親指が安全装置を跳ね上げた。
人差し指を用心金に入れ、引き金にかける。
ぎゅっと閉じた瞼の合間から涙が溢れ出した。
川 ; -;)「許して……許して、モララー、みんな。許して、ツン。わたし、わ、わたしは……
耐えられない、もう耐えられないよ……いつまでこんな事が……」
死の恐怖に暴走する脳を静めるため、アドレナリンが過剰に分泌されている。
世界のすべてが遠退き、静かになった。
……いや、本当に物音がしない? 何かがおかしい。
クーは物陰から身を乗り出した。
ξ ゚听)ξ
ツンの背が見えた。
ちょうど警官隊の方へ歩いてゆくところだ。
- 125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:32:51.66 ID:sq4PexSG0
- 72.
長い時間が過ぎたと思っていたが、まだあんな場所に……
いや、彼女はわざとゆっくり歩いているのだ。
(,,゚Д゚)「早くこっちへ!」
警官が手を差し伸べる。だが彼女はその場で立ち止まった。
そして無言で両手を開いた。
自分の体を盾にしていた。
ξ ;凵G)ξ「やめて……許してあげて……」
恐怖に震え、卒倒しかねないほど脅えながら、それでもツンはその場から動かなかった。
震える声でなおも続ける。
ξ ;凵G)ξ「お姉ちゃんを、許してあげて」
誰もがその見えない力に気押され、身じろきすら出来なかった。
- 128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:35:25.70 ID:sq4PexSG0
- 73.
川;゚ -゚)「バカ、何やってるんだ!!」
ξ ;凵G)ξ「約束したもん!」
彼女はか細い体の底から声を張り上げた。
振り返り、ポケットから画用紙を取り出して拡げる。
イチョウの並木通りを歩く二人の人影の絵だ。
一つはツンで、彼女と手を繋いで笑い合っているもう一人は……
川 ゚ -゚)「わたし……?」
ξ ;凵G)ξ「約束したもん、一緒にここ歩くって約束したもん!!」
川 ゚ -゚)
ξ ;凵G)ξ「絵描きさんになるんでしょ?! 死んじゃやだよ!」
クーは物陰に戻った。
もしも投降してここを出て、それでどうする?
- 134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:38:14.24 ID:sq4PexSG0
- 74.
これから先、あらゆる非難と恥辱、長きに渡る苦痛が待っている。
モララーを救えなかった事を悔やみ、死ぬまで永遠に苦しみ続ける。
でも、それでも。
川 - )
たった一人だけ、この世界に自分の夢を信じてくれる人がいる。
長い時間が過ぎた。
クーは拳銃を置き、両手を上げて物陰から出た。
地面に跪く。
(,,゚Д゚)「人質を保護して奴を拘束しろゴルァ!」
警官たちがツンを連れ去り、それから拳銃を構えた奴らがクーを取り囲んだ。
地面に伏せさせ、後ろ手に手錠をかける。
- 137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:40:06.51 ID:sq4PexSG0
- 75.
(・ω・`;)(何てことだ、くそっ! 金を持って高跳びしないと)
その場にいたショボンはそそくさと逃げ出そうとした。
だがすぐに誰かに後ろから取り押さえられる。あっという間に腕に手錠がかけられた。
(´゚ω゚`)「ぐえっ!?」
(,,゚Д゚)「悪ィな、旦那」
彼が雇った汚職警官だ。
(・ω・`;)「貴様、何のつもりだ?!」
( ´∀`)「あーこりゃどうもですモナ、警部補さん」
保険会社の調査員だ。
(・ω・`;)「何がどうなってるんだ、説明してくれよ!」
( ´∀`)「あんたを保険金詐欺の容疑で逮捕したいそうですモナ」
- 142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:42:11.83 ID:sq4PexSG0
- 76.
(´・ω・`)「何を根拠に言ってるんだ、あのチンピラ連中の言う事を信じるとでも……」
調査員はモバイルを取り出し、インターネットに繋いだ。
動画投稿サイトのある動画を再生する。
音声のみで映像はない。
( ´∀`)「あんたのパートナーは保険をかけておいたんですモナ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
街中のとあるネットカフェに、通報を受けた警官二人が駆け付けた。
店員が奥のブースを指差す。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、お巡りさん! あれよ、あそこの中の人!」
(,,゚Д゚)「わかった。そこにいてくれ」
拳銃を抜き、ブースの中に飛び込む。
- 145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:44:03.66 ID:sq4PexSG0
- 77.
男が一人、キーボードの上に突っ伏していた。
背中に細かいガラスや木屑の破片が刺さり、血まみれになっている。
( A )
(,,゚Д゚)
警官は首筋に触れた。
もう一人が聞く。
ミ,,゚Д゚彡「生きてるか?」
(,,゚Д゚)「一応救急車を呼んどけ。まあ、手遅れだと思うが」
モニタには動画共有サイトが開かれ、PC本体にUSBメモリが繋がっている。
傍らにあるメモには「この情報をネットに流せ」と書かれていた。
彼が投稿した動画がリピート再生されている。
- 147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:46:06.05 ID:sq4PexSG0
- 78.
“俺だ。どうだ?”
“保険会社が出せるのは二億二千万だそうだ。まあ、うまく行った方だろう”
“くそ……予定じゃ三億だった筈だぞ”
“安心しろって、あんたの取り分は減らさないよ。
俺の方でジョルジュと話をつけて残りを……”
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
(´゚ω゚`)(あの野郎、録音してやがったな!?)
(・ω・`;)「待ってくれ、これはデッチ上げだ!!」
( ´∀`)「金はどこモナ?」
(´・ω・`)「金なんか知らん!」
(,,゚Д゚)「あー、警部補が車に積んでるの見たぜ」
(´゚ω゚`)「き、貴様……!!」
- 150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:48:11.73 ID:sq4PexSG0
- 79.
買収警官はショボンの耳元で囁いた。
(,,゚Д゚)「誰もがみんな、我が身が大事さ。そうだろ?」
( ´∀`)「ジョルジュと留置所で仲良くしてくるモナ」
(・ω・`;)「待ってくれ、頼む! か、金ならくれてやる、だから……!!」
(,,゚Д゚)「元警官は刑務所で地獄を見るそうだ。まあ、楽しんで来いよ」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
警官がツンをトソンのところへ連れて行く。
(;、;トソン「ああ、ツン!」
ξ ;凵G)ξ「お母さん! 内藤さんも……」
( ^ω^)「防弾ベストのおかげで九死に一生ですお」
母子が抱き合うのを、パトカーに押し込まれたクーは窓越しに見ていた。
- 153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:51:23.62 ID:sq4PexSG0
- 80.
ツンが視線に気付き、こちらを向く。
川 ゚ -゚)
ξ ゚听)ξ
川 ゚皿゚) ムヒッ
ξ ;ー;)ξ
二人は見つめあっていたが、やがてパトカーが走り出した。
クーは目を閉じ、モララーの顔を思い浮かべた。
川 - )(ごめん、モララー。わたしやっぱり、生きてくよ。
後悔してるけど、痛くてたまらないけど、やっぱり生きていたいんだ)
胸に下げたロザリオを握り締める。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
- 155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:53:53.21 ID:sq4PexSG0
- 81.
数ヶ月後、秋の訪れたあるよく晴れた日のこと。
ツンの家にほど近い路上で、二人は再び出会った。
川 ゚ ー゚)「ほら、見ろよ」
クーはポケットから紙切れを取り出し、広げて見せた。
自分で書いたらしい文章だ。
ξ ゚ー゚)ξ「わ、すごーい。自分で書いたの?」
川 ゚ -゚)「そうだ。上達したもんだろ? 時間だけはいっぱいあったからな」
ξ ゚听)ξ「でもここんとこ違うよ」
川 ゚ー゚)「相変わらずキビシイな」
二人は笑い合い、そして溜め息をついた。
川 ゚ -゚)「わたしね、別人になるんだって」
- 157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:55:10.47 ID:sq4PexSG0
- 82.
ξ ゚听)ξ「?」
川 ゚ -゚)「えっと……これまでエイトボールがやってきた悪いこと、全部話す代わりに
許してもらったの。司法取引って言うんだけど」
ツンにわかるように説明するのは難しかった。
顔を上げて向こうを見、遠くで自分を見張っている車を見る。
背広の男が二人、外に出て待っていた。
警察関係者だ。
川 ゚ -゚)「だけどそうするとほら、わたしは裏切り者になっちゃうわけじゃない。
逃亡中の他のメンバーに復讐されるかも知んないから」
ξ ゚听)ξ「また会える?」
川 ゚ -゚)「……いや、多分無理かな。過去の繋がりを全部捨てないと」
ξ ゚听)ξ「そっか」
- 161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:57:11.38 ID:sq4PexSG0
- 83.
クーは首を振った。
そうじゃない、こんなことが言いたいんじゃない。
クーはひざまずき、ツンと視線の高さを合わせて彼女の顔を覗き込んだ。
川 ゚ -゚)「いつか国を出て、絵描きになるよ。いや、順番が逆になるかも知れないけど。
とにかく絵描きになるから」
ξ ゚听)ξ「うん」
川 ゚ -゚)「絵を描いて、発表するよ。あんたがわたしの中に描いてくれた絵を」
ξ ゚听)ξ「……うん!」
二人は強く抱き合った。
ずっとそうしていたかったが、車に乗った男がクラクションを鳴らした。
そろそろ時間だ、という合図だ。
クーは立ち上がり、振り返って手を振った。
- 166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 22:59:16.77 ID:sq4PexSG0
- 84.
川 ゚ -゚)
ξ ゚听)ξ
ツンが手を伸ばした。
クーがそれをそっと握る。
二人は黄色く染まったイチョウ並木の下を、並んで歩いた。
ゆっくりと、いつまでも。
すぐに向こう側に辿り付いてしまわないように。
いつか夢を叶え、クーがこの時思い描いた絵を完成させた時、そして二人は再び出会う。
おしまい
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