- 10 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:45:46.79 ID:+4rIL91S0
- 36話
(;'A`)「はっ、はっ」
後ろを何度も振り返りながら走る。
追ってくる物はないが、ジッともしていられない。
(;'A`)『ブーン!聞こえるか!?』
耳にはザーという音しか聞こえてこない。
(;'A`)『くそっ、ツン!ツン応答しろ!』
結果は同じだった。
- 12 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:46:44.76 ID:+4rIL91S0
(;'A`)(磁気が強すぎて使えないのか?)
唯一の連絡手段が使えなくなり、ドクの不安は膨れ上がる。
まだ、無線が使えなくても部屋の構造が一緒なら、
ここまで焦る事は無かった。
だが、扉を出るたびに違う部屋になってしまっては、
待ち合わせなど不可能だ。
(;'A`)「はぁはぁ」
走り疲れたドクは、再度後ろを確認し、
誰もいないことを確認すると、床に座り込んでしまった。
- 13 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:48:14.99 ID:+4rIL91S0
(;'A`)(くそ、どうすりゃいい?)
息を切らしながら打開策を考えるも、
こんな状況から脱出するすべなど誰にも分かるはずが無かった。
(;'A`)『ブーン!聞こえるか!』
無駄だと分かっていても、他に方法がない。
(;'A`)(ちくしょう……)
ドクが無線をポイと床に放ると、
体を倒し壁に寄りかかった。
- 14 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:49:20.20 ID:+4rIL91S0
と思ったがフッと壁が消えてドアが現れる。
(;'A`)「うおっ」
ドクはそのまま後方に転がり、クルンと一回転して起き上がった。
(;'A`)「ッ!ちくしょう、今度は何だ!?」
スタンガンを構え、周囲に視線を配る。
周囲には船の部品と思われる物が散乱していて、
かぎ慣れたオイルの臭いが充満している。
しかしドクには見覚えの無い部屋だった。
- 16 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:51:02.53 ID:+4rIL91S0
('A`)(ここは……何処だ……)
奥からは誰かが作業している音が聞こえてくる。
ドクは音を立てないように、忍び足でその部屋に入って行った。
川 ゚ -) カチャカチャ
こちらに背を向けたまま、船を整備している。
長く美しい髪の毛から、女性であろう事は理解できた。
- 18 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:52:20.82 ID:+4rIL91S0
顔を見ようと静かに歩み寄っていく。
川 ゚ -)「ドクオ、そこのボルトを取ってくれ」
背中越しに女はそう言った。
『ドクオ』
と。
(;'A`)「え?」
- 21 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:54:56.23 ID:+4rIL91S0
川 ゚ -)「む、聞こえなかったか?
そこのボルトを取ってくれと言っている」
女は背を向けたまま手を差し出す。
(;'A`)「あ、あぁ、はい」
ドクは床に転がっていたボルトを広いあげると、
差し出された手に乗せる。
川 ゚ -)「ん、ありがとう」
女はそう言うと再び作業に戻る。
- 22 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:57:25.18 ID:+4rIL91S0
- それにしても、見事としか言えない技術だ。
流れるような手の動きで、部品が組上がっていく。
ただでさえ数少ない女ダイバーなのに、
上級ダイバー並、いやそれ以上の技術だ。
ドクはしばらくの間、喰い入るように魅入っていた。
川 ゚ -)「ふう」
と、女は一息入れその手を止める。
川 ゚ -)「どうだドクオ、これでFOXはさらに速くなるぞ」
('A`)「FOX……」
- 25 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 16:59:15.12 ID:+4rIL91S0
川 ゚ -゚)「ん?どうしたさっきから」
女が振り向き、ドクと目が合う。
('A`)「あ……」
川 ゚ -゚)「お前は……」
(;'A`)「まさか……」
記憶の片隅の、そのまた隅っこに僅かな覚えがある。
この声、その髪、この感覚。
- 27 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:00:35.30 ID:+4rIL91S0
(;'A`)「母ち川 ゚ -゚)「ドク……」
(;'A`)「!!!!」
目の奥から熱いものが込み上げてくる。
ずっと思っていた。
大きくなった自分を、ダイバーになった自分を見て欲しいと。
(;A;)「母ちゃん母ちゃん!」
ドクは、母、クーの胸におもいっきり飛込んだ。
- 29 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:03:24.63 ID:+4rIL91S0
- (;A;)「わぁぁぁぁ!」
川 ゚ -゚)「よしよし」
クーの臭いが、頭を撫でてくれる手の感触が、
ずっと、ずっといとおしかった。
川 ゚ -゚)「ドク、大きくなったな」
(;A;)「うん」
川 ゚ -゚)「ダイバーになったのか」
(;A;)「うんうん」
川 ゚ -゚)「ずっと、一緒にいてあげられなくてごめんな」
(;A;)「ううん」
- 31 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:04:23.49 ID:+4rIL91S0
川 ゚ -゚)「でもこれからはずっと一緒に居てあげられるぞ」
- 34 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:05:43.06 ID:+4rIL91S0
(;A;)「??」
「ずっと一緒に?」
そうだ、これからはずっと一緒にいられる。
「いや、違う。母ちゃんはもう現実にはいないんだ」
そんなことない、今だって目の前にいる。
「違う!母ちゃんだけど……母ちゃんじゃない」
受け入れちゃえよ、親子の幸せな生活に憧れてたんだろ?
- 38 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:06:55.09 ID:+4rIL91S0
……
「……だ…お」
?
「ドク、前に……進むんだお」
ブー……ン
- 41 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:07:38.69 ID:+4rIL91S0
(;A;)「……母ちゃん」
川 ゚ -゚)「ん?どうしたドク」
(;A;)「ごめん……俺……一緒にはいられない」
川 ゚ -゚)「……」
(;A;)「俺には……帰る場所があって、
待っててくれる人もいる」
川 ゚ -゚)「……」
ドクは涙を拭き、鼻をすすり、そして笑った。
('A`)「俺には……」
- 42 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:08:17.36 ID:+4rIL91S0
('A`)『俺の道があるから!』
- 47 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:09:48.83 ID:+4rIL91S0
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「わかった、ただ最期にもう一度だけ、抱き締めさせてくれ」
('A`)「……うん」
そっと優しくクーの手がドクを覆う。
川 ゚ -゚)「ドク、強くなったんだな」
('A`)「うん……心配、いらないよ」
川 ゚ -゚)「あぁ、安心したぞ」
- 50 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:10:59.82 ID:+4rIL91S0
- そう言った直後、ドクに乗っていたクーの重みが、ふっと消える。
('A`)「あ……」
クーはサラサラとした砂になり、ドクの両手からこぼれ落ちていった。
('A`)「……」
そしてドクの掌には、名残惜しそうに一握りの砂だけが残った。
('A`)「……バイバイ」
ドクはその砂をポケットに入れると、
いつの間にか殺風景になった部屋を後にした。
- 54 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:14:38.36 ID:+4rIL91S0
※
(;^ω^)「お?」
ブーンは凍り付いた。
ドアを出てみれば先程とは違う空間になってしまっている。
(;^ω^)(出るドア……間違ったっけかお?)
再度、部屋に戻ろうと振り返ってみれば、
既にドアはなくなっていた。
- 62 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:19:57.97 ID:+4rIL91S0
(;^ω^)(……おかしいお)
頭痛は治る気配もなく、心臓の脈と一緒に痛みが登ってくる。
(;^ω^)「ドク!ドク、聞こえるかお?」
だが無線から反応は帰って来ない。
(;^ω^)(磁気の影響かお……)
- 66 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:21:41.16 ID:+4rIL91S0
- この空間は何かがおかしい。
ドクの事も気にかかるが、ジッとしてる訳にもいかない。
まずは少しでも情報を集めるべきだと判断したブーンは、
次なるドアへと入っていった。
(;^ω^)「……ここは?」
周りを見渡してみると、かなり旧式だがコックピットのようである。
そして目の前の窓越しに、灰色に渦巻く星が見えた。
- 71 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:24:28.56 ID:+4rIL91S0
(;^ω^)「あれは……地球?」
普段見ている地球は火星のようにまっ茶色なのだが、
今見ている星は灰色の煙のようなものが渦巻いている。
だがその星が地球であると決定付けるものがあった。
( ^ω^)「月……」
『ぉ』
- 79 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:29:12.80 ID:+4rIL91S0
本当に小さい、小動物のようなうめき声だった。
しかし聞こえた、聞こえてしまった。
(;^ω^)「誰だお!」
声のした方向を振り返ったブーンは、
見てはならない物を見てしまう。
(ヽ´ω`)「誰か……いるのかお?」
( ゚ω゚)
- 84 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:33:42.47 ID:+4rIL91S0
鏡じゃない。
自分が目の前にいる。
( ゚ω゚)「うわぁぁぁぁ」
(ヽ;´ω`)「お?お?」
(;゚ω゚)「お前は誰だお!?何者だお?」
(ヽ;´ω`)「お、驚かせて……ごめんお。
ボクは内藤……内藤ホライゾンですお」
( ゚ω゚)「ない……とう」
今までに何度か耳にした名前。
- 87 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:34:18.47 ID:+4rIL91S0
(ヽ´ω`)「ごめんお……もう、目も……見えないんだお」
( ゚ω゚)「あ……う」
(ヽ´ω`)「どなたか……存じませんが、一つだけ……頼み事があるんですお」
( ゚ω゚)「頼み……事?」
この内藤という男の目がもし見えたなら、
この状況をどう思うのだろうか。
(ヽ´ω`)「ボクは……ボクは、月に着けたんですかお?
教えて……欲しいんですお」
- 90 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:36:12.98 ID:+4rIL91S0
ブーンは再び窓から外を見る。
月まではまだ遠い。
カチャカチャとコックピットのパネルを操作してみるが、
燃料切れらしい。これ以上フライトするのは不可能だった。
( ゚ω゚)「このまま公転活動をして、流れを計算すると
この船が月にたどり着ける確率は……ブツブツ」
(ヽ^ω^)「……」
( ゚ω゚)「ゼロ……だお」
偽りのない、残酷な現実。
- 96 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:39:47.19 ID:+4rIL91S0
(ヽ´ω`)「そうですかお……」
( ゚ω゚)「……」
もはや息も絶々の男が、心の底から無念そうに、
そう……呟いた。
この男はもう持たないだろう、間違い無く死ぬ運命だ。
だが死の際まで、自分の意思を失わない。
どうしてそんな生き方ができるのか。
- 98 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:41:21.72 ID:+4rIL91S0
( ゚ω゚)「あんたは……貴方はもう死ぬんですお!
何故……何故そんな時まで!」
( ´ω`)「ボクには……ボクの道があるから」
( ゚ω゚)
その言葉を聞いた瞬間、
頭が割れてしまいそうなな頭痛がブーンを襲ってきた。
(# ゚ω゚)「があぁぁっっぁぁ」
目から口から鼻から、液体が流れ出す。
- 101 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:45:01.95 ID:+4rIL91S0
(#;゚ω゚)「ギッ……いっ……」
ブーンは頭を両手で抑え、床にうずくまってしまう。
だが内藤の話はまだ続いている。
( ´ω`)「ドクオ……ドクオ・ニートに伝えて欲しいお」
(# ゚ω゚)「ドク……オ………ドク」
( ´ω`)「ボクの道は途絶えてしまった。
でもお前にはボクの分も歩いて欲しい……と」
( ω )「道……」
- 104 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 17:46:55.06 ID:+4rIL91S0
脳が痛みの臨界点を突破し、
強制的に意識をシャットダウンさせる。
ブーンはそのまま、力無く横たわった。。
( ´ω`)「……」
そして内藤は砂となり、その場に崩れ落ちる。
薄暗い空間にブーンだけが取り残された。
36話 〜完〜
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