- 147 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:21:37.90 ID:+4rIL91S0
38話
(`-ω-´)
('A`)「……」
シャキン
兄のような存在でありながら、
最愛なる父を奪った張本人。
今、目の前にいる。
- 150 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:23:52.07 ID:+4rIL91S0
('A`)「……」
シャキンの口には透明なホースのような物が差し込まれていて、
頭には何かの装置らしきものを、スッポリと被っている。
寝ているのだろうか。
シャキンが動き出す気配は全くなかった。
('A`)「……」
- 153 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:26:33.84 ID:+4rIL91S0
ドクはコツコツとシャキンへ近づいていく。
シャキンの肌は赤みを帯びていて、微かだが息遣いも聞こえる。
生きている
ならば何故こんな姿に?
答えは簡単だった。
('A`)「……けんな」
- 155 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:28:26.86 ID:+4rIL91S0
(#'A`)「っざけなんなよぉぉ!」
人の幸せを奪っておいて、
自分はのうのうと生き永らえて、
自らが創りだした幸福の妄想に逃げ込んでいる。
俺が父ちゃんを失った事で、どれだけ辛い思いをしたか。
どれだけ悲しんだか、どんなに苦悩したか。
- 158 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:31:45.63 ID:+4rIL91S0
('A`)「ちくしょう」
ドクは込み上げてくる怒りに震えながら、
装置を停止させる基盤を探す。
このままホースを引っこ抜いて殺すのは簡単だが、
幸せな夢を見たまま殺すのは、許せなかった。
(;A;)(なんで……なんでだよ)
- 161 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:34:02.14 ID:+4rIL91S0
幼い頃からの付き合いだった。
父を殺した間接的な原因とは言え、
心の奥底から憎めたかと問われれば、
肯定することは出来なかった。
一言でいい。
「ごめん」、「悪かった」という言葉が聞ければ、
許せていたかもしれない。
だが目の前にあるのは、完全なる逃避。
(;A;)「くそっ」
- 164 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:35:48.04 ID:+4rIL91S0
パネルをいじってみるが、何十にもロックが掛かっており
とても外せそうに無い。
(`-ω-´)
('A`)「……」
シャキンを見下ろす。
体は痩せ細り、頬もこけ、骨格がむき出しになっている。
何故?
何故、この男は実の父である荒巻教授を殺し、ドクオをも死に追いやったのか。
そんな人間だった?
- 166 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:37:01.08 ID:+4rIL91S0
いや、そんなはずは無い。
温かく、優しく、頼れる人だったはずだ。
('A`)「なぁ、シャキンさん。どうしてなんだよ?
なんか喋ってくれよ……」
しかし、生きながらにして生きることを止めた男は、
その口を開くことは無かった。
( A )「……」
そして、椅子に座っているシャキンの膝の上に、
見覚えのある物が置かれている事に気付く。
- 167 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:38:39.08 ID:+4rIL91S0
ベレッタ
一度はシャキンに向け、構えた事すらある。
そっと手に取ると、ズッシリとした重みが腕にかかる。
('A`)「これは……」
マガジンを取り出し中身を確認するが、
弾は一発も込められていない。
しかし、ベレッタが置いてあったすぐ横には、
自分で作ったと思われる銃弾が一発だけ置かれていた。
- 170 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:40:06.42 ID:+4rIL91S0
('A`)「……俺に…殺せってのか?」
意図は判らない。
ただ、マガジンにも込められていない弾。
自決用でないことだけは確かだ。
とすれば?
('A`)「……」
- 172 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:42:25.72 ID:+4rIL91S0
カチリとマガジンに銃弾をはめ込む。
そのまま手の平でマガジンを押し上げ、ベレッタの中に収まった。
スライドを引き、撃鉄が起きる。
打ち方は父に教えてもらった。
銃口を目標に向け、トリガーに指を掛ける。
- 176 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:43:45.00 ID:+4rIL91S0
(;'A`)「ハァ……ハァ」
この引き金を引けば、目の前の人の人生が瞬時に終わる。
その覚悟があったんじゃないか?
それが目的だったんじゃないか?
震える手を必死に抑えながら、トリガーにかかった指に力を入れていく。
- 179 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:49:35.04 ID:+4rIL91S0
「待つお」
- 182 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:51:13.06 ID:+4rIL91S0
(;'A`)「ッ!!」
不意に後ろから聞こえた声に、焦りながら振り向いた。
( ^ω^)「その手を下ろすお」
('A`)「ブーン!無事だったのか」
( ^ω^)「いいから、それを降ろせお」
カツカツと靴の音を立てて、ブーンが近づいて来る。
- 184 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:53:54.34 ID:+4rIL91S0
(;'A`)「え、ああ……」
ドクはシャキンに向けて構えていた銃を降ろすが、
ブーンの口調に少々戸惑いを感じた。
( ^ω^)「さぁ、それを渡すお」
ブーンが右手を差し出し、催促する。
- 186 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:55:38.52 ID:+4rIL91S0
('A`)(何か違和感が……まさかこれも幻?
いや違う、存在感は確かに……)
( ^ω^)「ドク!」
(;'A`)「!!」
思いがけぬ大声に、ビクッとしながら
ドクは銃をブーンに渡してしまう。
( ^ω^)「ベレッタかお……懐かしいお」
- 189 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:57:49.95 ID:+4rIL91S0
ブーンは黒光りするベレッタを一通り点検すると、
マガジンの中身も確認した。
(;'A`)「ブーン?」
( ^ω^)「ドク、今シャキンを撃っていたら命は無かったお」
(;'A`)「へ?」
( ^ω^)「シャキンからこの基地のシステムへは直結で繋がってるお。
シャキンの生命活動が停止すると、ボン!だお」
(;'A`)「お前……何言って?」
- 190 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 18:59:20.42 ID:+4rIL91S0
突然根拠のない事を言い出したブーンに、
ドクは困惑しながらも、今までのブーンとは違う威圧感を感じ取る。
( ^ω^)「僕には解るんだお」
(;'A`)「何が……だ?」
( ^ω^)「シャキンは僕の兄のような立場なんだお」
(;'A`)「へ?」
シャキンはショボンさんの弟で、荒巻先生の子供で、
ブーンの兄?
- 192 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:01:06.80 ID:+4rIL91S0
('A`)「お前……記憶が戻ったのか?」
( ^ω^)「記憶……という言い方は語弊があるお。
僕らの場合、『メモリー』という部類に近いお」
('A`)「メモリー……?」
( ^ω^)「ドク……僕は」
少し間を置き、意を決したようにブーンの口が開く。
次に聞いた言葉はドクの思考回路を停止させるような言葉だった。
- 194 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:03:31.03 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「僕は、内藤ホライゾン。VIP航空宇宙局のパイロットだお」
内藤……。
フサギコ会長からも聞いていた。
ブーンは内藤ホライゾンのクローン人間だと。
だが、それが何だ?
ブーンはブーンだろう
- 1998 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:05:45.99 ID:+4rIL91S0
(;'∀`)「そ、それが何だってんだ!
お前は俺の弟だろう?」
精一杯強がってみせた。
それは自分がブーンの兄でいたい。
ブーンの支えとなる存在でいたい。
というドクの願望がそうさせたのだった。
- 200 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:08:23.75 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「違うお」
でも返ってきた言葉は、否定。
ブーンなら、今までのブーンなら察してくれると思っていた。
でも今、目の前にいるのはブーンじゃ無く、内藤。
(#゚A゚)「ふざけんな!ブーンを出せ!」
( ^ω^)「ドク……」
(#゚A゚)「俺の弟はお前じゃねぇ!ブーンだ!」
( ^ω^)「……」
- 204 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:11:54.00 ID:+4rIL91S0
ふと、ブーンから放たれていた威圧感が ふっ と消える。
顔も心なしか和らいだ表情になったように見えた。
( ^ω^)「ドク……」
(;'A`)「ブーン!ブーンなのか?」
( ^ω^)「僕は僕だお、ブーンであり内藤でもあるんだお」
(;'A`)「!?」
- 211 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:28:27.09 ID:+4rIL91S0
ブーンであり、内藤でもある。
もしフサギコの言うように、本当にブーンが内藤のクローンだったとしよう。
だけど、育ってきた環境や経験した事。
絶対に違うはずだ。
クローン人間なんだとしても、同じ意識まで持ち合わせるなんて、
普通はありえない。
('A`)「どういう……意味だ?」
( ^ω^)「僕はこの基地で、出会ってしまったんだお」
- 212 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:29:36.64 ID:+4rIL91S0
このブーンの言葉を聞いて、ハッとした。
ここのシステム、「人の記憶をスキャンして、立体化させる機能」
この「記憶」が表層的な物だけじゃなく、
潜在記憶までも読み出せるとしたら?
いや、できるのだろう。
さっきの母ちゃんが出てきた時点で、それは証明されたと見ていい。
(;'A`)「お前……まさか」
( ^ω^)「そう、僕の本体。内藤ホライゾンに会ったんだお」
- 217 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:33:21.10 ID:+4rIL91S0
予想していなかった。
過去の記憶の事になると、極度な拒否反応を示すブーン。
まさかこんな形で記憶を知ることになるとは。
(;'A`)「内藤……と、シャキンは兄弟なのか?」
( ^ω^)「違うお、違う意味で兄の様な存在なんだお」
- 219 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:34:59.23 ID:+4rIL91S0
違う意味の兄。
シャキン、ブーン。
ショボン、内藤。
荒巻教授!!
('A`)「まさか……シャキンも……」
( ^ω^)「そう、ショボンさんのクローンなんだお」
(;'A`)「そんな……馬鹿な……」
- 223 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:41:55.99 ID:+4rIL91S0
衝撃の事実。
双子と聞いていた。
確かに知的な部分や、見た目では類似しすぎている感はあった。
しかし常識的に考えて、クローン技術の存在を知った今でも、
荒巻教授が実の息子のクローンを造るか?
そう考えれば、今聞かされたショックは大きかった。
( ^ω^)「シャキンは……可哀想な子なんだお」
自身には知らされず、ただ有能な本体と比べられる存在。
知らされるのも酷な話だが、彼は実の父と思っていた荒巻教授から、
研究の対象としか見られていなかったのだ。
- 225 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:45:09.92 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「許してやれ、とは言わないお。
ただ同じ存在の僕として、事実を知った時の衝動は
凄まじい物があったと思うんだお」
('A`)「……」
( ^ω^)「だから……」
そこでブーンは口を閉じた。
何か言いたそうな表情だが、その先の言葉は出てこない。
('A`)「だから……なんなんだよ」
( ^ω^)「……」
('A`)「……」
- 228 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:48:17.13 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「僕が……殺すお」
はっきりそう言った。
(;'A`)「え?」
( ^ω^)「僕も……シャキンも、存在してはいけないんだお」
(;'A`)「……」
- 231 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:51:06.25 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「本来産まれるはずの無かったシャキン、
本当は死んでるはずの内藤ホライゾン。
どちらも生命的には間違ってるんだお」
(;'A`)「お、お前は……」
( ^ω^)「違わないお」
「お前は違う」そう言いかけたところで、
予想してたかのように、否定された。
確かに違わない。
同じクローンという存在であり、人工的に造られた生命だ。
だがそれでも、命が有り、存在しているのも事実。
いちまつの不安が頭を過ぎる。
- 234 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:53:40.96 ID:+4rIL91S0
(;'A`)「わ、わかった……シャキンもお前も一緒に生きよう」
( ^ω^)「……」
(;'A`)「もう……いいじゃないか。
過去はもう水に流そう」
不安。
それは、自分の大切な人がいなくなってしまう不安。
こいつは間違いなく、シャキンと共に死ぬ気だ。
- 238 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:56:33.98 ID:+4rIL91S0
俺の唯一の家族、ブーンが死ぬ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、一人は………………嫌だ!
だが
( ^ω^)「それは出来ないお」
ダメだ、ダメだ。
- 240 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 19:58:19.28 ID:+4rIL91S0
父ちゃんが死んでも、母ちゃんがいなくても、
ダイバーになっても、ギコさんと対立してしまっても、
死にそうになっても、負けてしまっても、
やってこれたのはお前がいたからなんだ。
(#'A`)「だ、ダメだ!そんなの許さねぇ!」
( ^ω^)「ドク……分かってくれお」
(#'A`)「俺はお前が『帰る』というまで、ここを動かない!
シャキンを殺せばここも爆発して、俺も死ぬぞ?」
- 243 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 20:00:36.23 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「ここのシステムは全部僕が受け継いだお。
間も無くシャキンに供給されていた水も酸素も止まるお」
(;'A`)「そんな事……できる訳……」
( ^ω^)「そして、ドクはこうするお」
そう言ってブーンは指をパチンと鳴らす。
(;'A`)「え……あ」
- 248 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 20:03:30.66 ID:+4rIL91S0
直後、ドクの四方に小さな球体が現れ、
その球体同士が光で繋がり、透明な三角錐の膜が張られ、
ドクはその中に閉じ込められた。
(;'A`)「なっ!」
ドクがその膜をドンドンと叩くが、びくともしない。
(;'A`)「おい、ブーン!ここを出せ!」
( ^ω^)「その中なら1時間以上は酸素も持つお」
(;'A`)「止めてくれ、頼む」
( ^ω^)「ドク……僕の道は……」
- 252 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 20:07:36.09 ID:+4rIL91S0
「もう、とっくの昔に切れてしまってるんだお」
意思、決意。
どうあっても自分の意思を貫く。
そう感じさせるには十分の言葉だった。
- 255 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 20:09:35.80 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「ドク、楽しかったお」
(;'A`)「ブーンッ!!」
ブーンはそう言うと、再度パチンと指を鳴らした。
すると部屋の上層部がみるみる開いていき、
外には漆黒の宇宙が広がっている。
- 257 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 20:11:20.15 ID:+4rIL91S0
(;A;)「嫌だ!ブーンッ!ブーンッ!」
( ^ω^)「ドク、ツンには連絡しておいたお。
すぐに迎えに来てくれるお」
(;A;)「俺は……俺はっ!」
すぅーっと、ドクを囲んだ三角錐が浮き上がり、
宇宙の切れ目へと導かれていく。
( ^ω^)「ドク、内藤からの伝言だお」
(;A;)「!!」
- 258 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 20:12:25.52 ID:+4rIL91S0
( ^ω^)「ドクオにはボクの分も歩いて欲しい」
(;A;)「……」
( ^ω^)「そして最後に僕から……」
「内藤ホライゾンではなく、ドクの弟ブーンとして」
「僕の分も一緒に、自分の道を歩いてくれお」
- 263 :◆3m0SptlYn6:2008/03/10(月) 20:13:55.03 ID:+4rIL91S0
- (;A;)「ブーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!」
ドクは真っ直ぐに宇宙空間へと吸い出されていった。
( ^ω^)(ドク、今までありがとう)
ブーンはその様子を最後まで見届けると、
椅子に座ったままの兄に対し、
銃のトリガーを引いた。
38話 〜完〜
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