4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 17:41:25.63 ID:OPxePH+20

ブーンの父さんはずっと前に亡くなった。
彼は、世界で一番大事な人のために、毎晩ギターを弾いた。

時に尖った音を、時に柔らかい旋律を、ブーンの父親は奏でた。


物心つく前から、ブーンの人生にはロックが溢れていた。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 17:45:14.94 ID:OPxePH+20


 ( ^ω^)音楽が世界を救うようです




 第八話「協奏」



7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 17:48:35.01 ID:OPxePH+20

( ;^ω^)「でもあれはブーンの魂なんだお!」

( <●><●>)「いつ黒頭巾と遭遇するかわからないような地域に、あなたをいかせる訳にはいかないわ」

( ゚ω゚)「むぅぅぅこの瞳孔お化け!」

( <●><●>)「黙れハムの化身」


防衛本部で、ワカッテマスとブーンが言い争いをしていた。


( ・∀・)「なにやってんだあいつら」

(゚、゚トソン「さあ」


その様子を端から観察しているのは、同じバンドメンバーであるモララーとトソンだ。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 17:50:47.47 ID:OPxePH+20

( ゚ω゚)「父ちゃんの形見なんだお!」

( <●><●>)「はぁーしつこいわね」

(´・_ゝ・`)「どうした、何か問題でもあったのか」


いつの間にか、部屋にデミタス長官が入ってきていた。
寝不足の顔で、カップコーヒーを片手に持っている。

( <●><●>)「いえ、些細なことです」

(´・_ゝ・`)「そうか」

( ゚ω゚)「超重要事項だお!」

(´・_ゝ・`)「どっちなんだ?」


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 17:54:23.65 ID:OPxePH+20

興奮するブーンの代わりに、ワカッテマスが事情を説明した。


(´・_ゝ・`)「なるほど。つまり前回の虚人(黒頭巾ちゃん)との戦いで落としてしまった父親の形見のギターを
      探しにいきたいのだが、黒頭巾にまた襲われる可能性があるのでそれを引き留めている、という訳か」

( <●><●>)「説明お疲れ様です」

(´・_ゝ・`)「いいんじゃないかな」

( <●><●>)「え?」

( ^ω^)「マジで?」

(´・_ゝ・`)「彼もよくやってくれてるしね。今日は雨は降らないだろう。
      研究所でスクーターという乗り物を開発した。車ほど速くないが、乗っていくといい」

( <●><●>)「はぁ…」

(´・_ゝ・`)(^ε^* )「デミタスありがとうだお!ちゅっちゅ」


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 17:57:30.99 ID:OPxePH+20

(;<●><●>)「お馬鹿!長官になんて真似を…」

( ^ω^)「スクーターってのは何処にあるんだお」

(´・_ゝ・`)「職員に言って用意させよう。あともう一人乗せられるが、どうする?」

( <●><●>)「私は嫌です」

( ^ω^)「一人でいいお」

(´・_ゝ・`)「そうか。なら」


 「僕が…っ」


(´・_ゝ・`)「うん?」

(゚、゚トソン「僕が…乗ってもいいかな」

話に割り込んできたのはトソンだった。
少し恥ずかしそうに、小さく手を挙げている。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:01:47.59 ID:OPxePH+20

( ^ω^)「いいけど、別に何も楽しいことは無いお?」

(゚、゚トソン「いいよ。ドライブしたいだけだから」

( ^ω^)「なら一緒にいくお」



( <●><●>)「耳が痛いと思うけど、用事を済ませたらすぐに帰ってくるのよ。
         虚人だけじゃなくて、魔族の襲撃だって考えられるんだから」
  _,、_
( ;^ω^)「ワカッテマスは心配性だお」

(´・_ゝ・`)「私もそう思う」

(#<●><●>)「人の上に立つ身として当然のことです」


( ゚∀゚)「人野上二辰巳?いったいどこが名字でどこが名前なんだ…」

( ・∀・)「今日の初ゼリフがそれでいいのか?」


12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:04:37.56 ID:OPxePH+20

(´・_ゝ・`)「外で待っていてくれ。準備に時間はかからない」

( ^ω^)「ありがとうだお。いってきまーす」

(゚、゚トソン「いってきます」

( ・∀・)ノシ

( ゚∀゚)ノシ



( <●><●>)「はぁ」

重いため息が漏れる。
どうして団体行動が出来ないのだろうか、とワカッテマスは悩んでいた。

(´・_ゝ・`)「ふぅ」

重いため息が漏れる。
>>9のエルシャダイネタを誰もわかってくれなかった、とデミタスは落ち込んでいた。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:07:36.21 ID:OPxePH+20

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スクーターは公道を軽やかに駆けていた。
運転するブーンに、トソンがぴったりとしがみついている。

( ^ω^)(こいつ胸ねーな…)

ギターを落とした場所まで、少し時間がかかりそうだった。
景色を見ながら、初めて運転するスクーターの快感をゆったりと味わっていた。

(゚、゚トソン「ねえ!」

( ^ω^)「んー!?」


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:10:55.14 ID:OPxePH+20

後ろから声をかけられ、返事をする。

(゚、゚トソン「重くない?」

( ^ω^)「嫌味かお!?」

(゚、゚トソン「ちがーう」

( ^ω^)「軽すぎるお!」

(゚、゚トソン「そう!よかった」


エンジンと風の音に何度か阻まれながらも、会話を続ける。


(゚、゚トソン「私さー、ちょっと頭おかしいんだよね」

( ^ω^)「知ってるー!」


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:14:59.97 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「すっごく敏感でさ、脆いっていうかなんていうか。
     誰かといたいのに、誰とも会いたくないときがあったりしてさ!」

( ^ω^)「ブーンにもあるお!誰にでもあるお!」

(゚、゚トソン「僕は!…その中でもたぶん、おかしいんだ。
     自分の中で、自分の部分と!自分以外の部分がある。
     お互いすっごく仲が悪くて、んでケンカしたりしちゃうと、心がバラバラになっちゃうんだ」

( ^ω^)「トソンは詩人だお。詩人はみんな変わってるもんだお」

(゚、゚トソン「君はいい子だね。彼女とかいないの?」

( ^ω^)「嫌味かお!?」

(゚、゚トソン「ちがーう!」

( ^ω^)「いないお!」


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:18:50.45 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「…そう」

( ^ω^)「トソンは?」

(゚、゚トソン「いないよ!」

( ^ω^)「売れ残り乙」

(゚、゚トソン「るっせー。まだわけーんだよ」

( ^ω^)「前の彼氏とかはどうしたんだお?」

(゚、゚トソン「一つ前の男は、殴られたからキンタマ蹴り潰してやった」

( ^ω^)「おー怖い怖いお」

(゚、゚トソン「彼氏とかよりも、もっと、欲しいものがある」

( ^ω^)「なんだお?」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:22:41.20 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「…僕は敏感なんだ。すぐ傷つくから、ウザいやつなんだよ。
     誰かに優しくされたりするだけで傷つくくらい、頭おかしいんだ」

( ^ω^)「誰にだってそういうときはあるお。自分が特別なんて思ってんじゃねーお」

(゚、゚トソン「君って痩せて整形したらモテるんじゃない?」
  _,、_
( ^益^)「ファック!!」


廃墟へたどり着いたときには、日は傾き始めていた。

( ^ω^)「探すお」

(゚、゚トソン「うん」

スクーターから降りた二人は、並んで廃墟の街を歩いた。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:29:05.67 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「黒頭巾がいたのはどの辺だったんだっけ」

( ^ω^)「しらね。廃墟はどこもおんなじに見えるお」

(゚、゚トソン「適当に探すかー」


魔族の襲撃によって壊された廃墟の街。
少し前までは人が住んでいたのに、今はただガレキが転がるだけの空虚な場所だった。

(゚、゚トソン「お父さんってどういう人?」

( ^ω^)「ギターばっか弾いてたお」

(゚、゚トソン「ふーん」

( ^ω^)「仕事をサボってギター弾いてる日もあったお。こっちはたまったもんじゃないお」

(゚、゚トソン「ロックだねー」

( ^ω^)「ロックって言っときゃなんでもアリだぜ、みたいな人だったお」


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:33:48.70 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「家族もいい迷惑だね」

( ^ω^)「でも、格好良かった!それはもう格好良かったお!」

(゚ー゚トソン「ふーん」

( ^ω^)「父ちゃんを見習えば女の子にモテる!そう思ってギターを始めたお!」

(゚、゚トソン「モテた?」

(ヽ’ω`)「へっへっへ…」

(゚、゚トソン「ああ、うん、まあわかった」

( ^ω^)「俺という男はこれから熟していくんだお」

(゚、゚トソン「へーへー。そうなんでございましょ…」

( ^ω^)「絶対信じてないだろオイコラ」


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:40:06.42 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「家族の人、好き?」

( ^ω^)「好きだお!母ちゃんも好きだお!」

トソンの顔にさっと陰がよぎった。

(゚、゚トソン「僕は嫌いなんだ」

( ^ω^)「おっ…」

(゚、゚トソン「家に、僕の居場所は無かったよ」


俯いたトソンの表情は探れなかった。
ブーンは何とか明るい話題を、と考えたが、何も思いつかなかった。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:44:24.73 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「なんちゃって。まあ今更どーでもいい話なんだけどさ」


ブーンが返事をする前にトソンが会話を切った。
沈黙が重い。


(゚、゚トソン「あっ」

( ^ω^)「ん?」


突然立ち止まったトソンは、無言で前を指さした。

( ^ω^)「あー…」

指さした場所には見覚えがあった。

あの黒頭巾と出会った、濁った空気が漂う路地であった。

道路の真ん中に、まだ新しい壊れたギターが、主人の帰りを待つようにひっそりと存在していた。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:46:17.22 ID:OPxePH+20

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スクーターに乗って帰っている途中に、空が真っ赤になっていた。


( ;^ω^)「まずいお!早く帰らないと夜になるお!
       暗くなってからこんなもん走らせたら危ないお!」

(゚、゚トソン「なんかライトとかついてないの!?」

( ^ω^)「あ、ついてた」


夕日に染まる海外沿いを、スクーターは走っていた。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:52:24.55 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「きれい」


スクーターの後ろに乗っているトソンが呟く。


( ;^ω^)「えぇ〜おまえの方が綺麗だよとか言わなくちゃあかんの?」

(゚、゚;トソン「い、いいよ別に言いたくないなら」

( ^ω^)「おお、本当にキレイだお」

魔族の復活によって、世界は大きく変わってしまった。
それでも夕日の美しさは、以前と何一つ変わってはいなかった。

( ^ω^)「もっとこう、突っ込んだ話とかしてもいいお」

(///トソン「え、それは流石にちょっと恥ずかシィ…」

( ;^ω^)「突っ込んだ話ってそういう意味じゃないからね!」

(゚、゚トソン「うん知ってますけど」

( ^ω^)「マジむかつく」


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 18:59:28.67 ID:OPxePH+20

エンジンと波の音しか聞こえない、静かな海岸通りだった。


( ^ω^)「場所なんて、誰かに作ってもらうもんでも、壊されるもんでもないお。
      ずっと同じ場所なんていうことも無いお。
      だからおまえのいる場所が“おまえの場所”なんだお」

(゚、゚トソン「それもう聞いたー」

( ^ω^)「大事なことだから二回言いました」

( ゚ω゚)「おほっ」

ブーンに抱きついている腕に力が入った。
二人は今完全に密着している。

( 、 トソン「ありがと。タイプだったら好きになってたよ」


水平線の向こうで、キラキラと夕日が輝く。
暖かい光だとブーンは思った。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 19:02:02.51 ID:OPxePH+20

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( <●><●>)「ギターは見つかった?」

( ^ω^)「見つかったお!」

( ´ω`)「でも真っ二つだったお」

(´・_ゝ・`)「ここまで壊れているギターは修復しにくいだろうな。
      一応、直せる者がいるかどうか探してみるよ」

(´・_ゝ・`)(^ε^* )「ひやっほぅい!気が利くおデミタスちゃん!ちゅっちゅ」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 19:07:54.52 ID:OPxePH+20



( ・∀・)「ようようよう、随分時間かかったじゃねえか。
      ブーンとヤってたんだろ?」

(゚、゚トソン「ブーンなんかタイプじゃないしー」

( -∀-)「いや、デブってのはパンクスからモテたりすっからな。
      なんていうの?肉厚なのがこう、安心感あるからだとか」

(゚、゚トソン「それよりもさ、ちょっと聞いて欲しいことあんだけど、いい?」

( ・∀・)「あ?んだよさっさと言えよ」

( ゚∀゚)「四十秒で言いな!」

(・∀・ )「おせえよ」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 19:11:59.23 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「ブーンも…ワカッテマスも聞いて欲しい」

(´・_ゝ・`)「私は?」

(゚、゚トソン「あんたもついでに」

( ^ω^)「なんだお?」


トソンはみんなを見渡してから、一度大きく深呼吸をした。


(゚、゚トソン「あの、えっとね…」

もじもじしたまま、中々続きが言い出せない。
最も気の短いモララーがとうとう我慢できなくなった。


( ・∀・)「実は男でしたとか“今更”言うんじゃねえだろうな」

(゚、゚トソン「その、だから―――え?」

(゚、゚;トソン「えええええ!?」


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 19:16:00.97 ID:OPxePH+20

驚いているのはトソンただ一人であった。

(゚、゚;トソン「い、いつ!?」

( ・∀・)「俺は一緒に飲んだときから。
      あのとき俺は見逃さなかったぜ。部屋やトイレに生理用品が一切無いことをな!!」

(゚、゚;トソン「さすが遊び人!」

( <●><●>)「私たちは資料のデータで知ってたわ」

(´・_ゝ・`)「政府の調査を甘く見たな」

(゚、゚;トソン「ぶ、ブーンは?」

( ^ω^)「最初から」

(゚、゚;トソン「でもヤラせろ!とか言ってたじゃん!」

( ^ω^)「ワシは男の娘でも構わんけえのう!!!!!」

(゚、゚;トソン「妙な方言になった!!」


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/08(月) 19:20:45.18 ID:OPxePH+20

(゚、゚トソン「どうして言ってくれなかったの?」

( ・∀・)「男だろうが女だろうが、どうでもいいしな」

( <●><●>)「同じく」

( ^ω^)「言ってくれるの待ってたお」

(゚、゚トソン「…そう、みんな知ってたんだ」

(^ー^トソン「そっかー…やっぱロックやってる奴は違うわ。くふふふふふふふふ!」

( ;・∀・)「きもちわりぃー笑い方すんじゃねーよビッチ!」

(^、^トソン「むほほほほほほほほほ!」


また一つ、うち解けた気がするトソンであった。
その日、彼―――女はずっと上機嫌だった。



( ゚∀゚)


( ゚∀゚)(マジかよ…)


第八話「協奏」 終

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