7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 21:51:34.07 ID:iCh3DMx80

廃人が住む腐った街。
雑居ビルが建ち並ぶ、窮屈な空の下で、下を向く者ばかりの場所。

湿った空気、腐った匂い、まとわりつく墜ちた気配に、モララーは顔をしかめた。


( ;・∀・)(こんなとこで死にたくはねえ)


モララーだけでなく、一緒に走っているフォックスたちもそれは同感であった。


  「逃げんなよ」


     「ひひひ」
 「ざらざら…ズルズル…」


時折後ろから聞こえる、ラジオの混線電波のような呟きが、リアルな死を奏でていた。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 21:53:36.50 ID:iCh3DMx80


来るなら来い。



 ( ^ω^)音楽が世界を救うようです




 第十三話「血戦」



死んでも生き延びてやる。



12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 21:57:40.10 ID:iCh3DMx80


   シャッ!!!


( ;・∀・)「―――っ!!!」


右肩に走った鋭い“異物感”に、走っている体勢が崩れた。


今までは運良く躱せていただけで、彼女の攻撃を見切っている訳ではなかった。
左手で傷口に触れると、生暖かい血の感触に、手のひらが滑った。

深く、鋭く切れている。

血が止まらない。
太い血管をかすめたようだ。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:03:21.39 ID:iCh3DMx80

(;  ∀ )(やっべぇ〜っ!!)

( ;・∀・)(こりゃ結構な無理ゲーだなおい…)


体力に上限がある以上、逃げ続けることはそもそも不可能だ。
くわえて、この傷によって制限時間がついてしまった。

このまま失血し続ければおよそ数分で意識を失う。
不快感と痛みに冷や汗が流れ続けた。
左手で無理矢理肩を掴み、何とか止血を試みるが、焼け石に水だ。


爪;'ー`)y‐(このまま逃げるなんざまっぴらだぜ…)

フォックスの傷も無視できない状態だ。
体を傷つけられたのは、生まれて初めての経験だった。

死の恐怖というのもそうだ。
今まで王子という座の上にあぐらをかいて鎮座していた。
おおよそ“危険な状況”など経験したことも無かった。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:08:43.17 ID:iCh3DMx80


「いつまで走ってんのよ」「土」「臭い街ね」「嫌な風」
「見てんじゃないわよ」川д川「殺して」「ううん」「殺すわ」
「逃げないでよ」「追いかけないでよ」「ううん」「追いかけるの」



爪;'ー`)y‐(…くっそぉ〜〜!)


初めて感じる死の恐怖、気が狂うほどのリアル、未体験の闇に心が喰われそうだった。

彼の心配は、彼が肩を貸しているイヌにも伝わっていた。


▼;・ェ・▼(このまま走っていてもいずれはやられる。
       それはたぶん、誰もがわかってることなんだ。
       誰かが、この状況を打破しなくちゃいけない。でもどうすれば…)


ある意味、崖っぷちの状況で均衡している状態であった。
一歩間違えれば死、ゆえの静的状態。
例えそれが死刑台を一歩ずつ昇っているに過ぎないものであっても、誰も歩を止められない、死の行進。


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:13:19.84 ID:iCh3DMx80



( ;・∀・)爪;'ー`)y‐(このまま死を待つしかないのか)▼・ェ・;▼


敵は一撃で致命傷を与えられるほどの攻撃力を有する。
対峙すれば無事ではすまない。

さらに空間を飛び越える“瞬間移動”の能力を相手にするのは、あまりにも無謀すぎた。


( (エ) )「ナメるなよ…」


ただ一人、クマだけはそう思っていなかった。
というより、そう考える余地、余裕が無かった。


(#`・(エ)・)「お前の好き勝手にはさせないからな」


怒りで頭に血が上っていたのだ。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:17:46.14 ID:iCh3DMx80

爪;'ー`)y‐「クマ!?」

並走していたはずのクマが、いつの間にか立ち止まり、女と対峙していた。

▼;・ェ・▼「何するつもりだ!」


クマは振り向かず、


 (#`・(エ))        (゚д川l


女とにらみ合ったままだ。

普段は温厚な彼だからこそ、仲間を傷つけられた怒りは凄まじかった。

(#`・(エ)・)「来い!」

川д川



川ワ川


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:22:18.47 ID:iCh3DMx80

爪;'ー`)「クマー!!!」


フォックスはイヌを置いて、クマの背中に向かって走った。

部下であり、仲間であり、それ以前に彼は友達だった。
照れくさいので普段は言わないが、身分は違えど本質的には同じ立場にいる存在だと、彼は思っていた。

イヌも同じくらい、クマーのことを大切に思っていた。



それを知っているからこそ、クマーは彼らを傷つけられたことを怒った。


そして、“それを知っているからこそ”、女はクマーを狙わなかった。


(;・(エ)・)「!?」


目の前で女が消える。
瞬間移動を行ったのだとわかったが、近くに女の気配は感じなかった。

代わりに、先に行っているはずの仲間たちから、かすれたうなり声が上がった。
フォックスの声だった。


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:25:39.56 ID:iCh3DMx80


爪゚ー`)「あ」

川ワ川「うふふ?」


( ゚(エ)゚ )「あ―――ー」



首に突き立てられた包丁は、誰もが致命傷に見えた。

女は目の前にいるクマではなく、わざわざフォックスを狙って攻撃したのだ。


川ワ川「うふふふふふふふふふふふふ」

爪゚ー`)「お―――ぼぼ―――ご―――――――――」

▼;・ェ・▼「あ……あああああああああああああああああ!!!!!!」



(;  ∀ )「やめろ…やめろおお!!!!!!」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:29:25.22 ID:iCh3DMx80


( ゚(エ)゚ )「うわああああああああああああああああ!!!!!!
     あああああああああ!!!!ああああああああああああああ!!!!!!!!」

川ワ川「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!
     うひー!!!これ!ザクーって!!!これこれこれ!!
     うぷー!!うひっひっひ!!」

( ゚(エ)゚ )「よ、よくも!!あああ!うああああああ!!よくも、おまえ…!!!!」

「怖い?」「憎い?」「怖い?」「憎い?」
川ワ川「寂しい?」「悲しい?」「空しい?」
「苦しい?」「辛い?」「切ない?」「死にたい?」

( ゚(エ)゚ )「ああああああああああああああああああああああ!!!!」




( ;・∀・)「もうやめてくれええええ!!!!
      なんなんだよおおおお!!!!」


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:33:08.06 ID:iCh3DMx80

仲のいい三人だった。

( ;・∀・)「やめてくれ…」

端から見てもほほえましいほどに。

( ;・∀・)「どうして、こんなことに…」

例えそれが魔族でも。

( ;・∀・)「どうして…どうして…」

モララーは、シドに憧れてベーシストになった。
あの破天荒で、演奏は全く上手くないあのベーシストになりたくて、四弦を弾き始めた。


しかし彼は、その内別の理由でベースを練習することになる。



30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:34:28.22 ID:iCh3DMx80


 「頼むよ。ベースが見つからなくてさ」  「ベース弾けるなら、今度ライブに出てくれない?」

    「ベーシストがいっつもいないんだよなー」  「やっぱお前がいないと始まらないよ!」


            「お前がいてくれてよかったよ」



ベーシストはいつも、仲間に恵まれていた。
例えそれが単純に、需要があったからだとしても、モララーは嬉しかった。

仲間を大切にしたいと思った。


仲間がいてこそのロックだと考えるようになった。



32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:38:42.25 ID:iCh3DMx80


フォックスたちは敵同士だ。
だが彼らの間に、お互いを思いやる心が見えてしまったとき、とても敵だとは考えられなくなった。


同じではないか。
同じように仲間を思い、仲間の為に力を尽くし、仲間の為に心底怒ることができる。

人間と何一つ変わらないと。


ほとんど初対面であるフォックスたちを、命を賭けて護ろうと思うほど、モララーは出来た人間ではない。
しかし、彼らの“絆”は、護りたいと思った。

彼らの仲間を愛する気持ち、壊したくないと思ったのだ。




(;  ∀ )「ちくしょおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:44:57.81 ID:iCh3DMx80

 「おいおい。魔族は敵だぞ。なに同情してんの」

(;  ∀ )「こいつらは確かに敵だ。でも、こんな、こんな終わり方ありかよ。こんなに仲間を思いやって…」

 「テメーのバンドより固い絆がありそうだな」

( ;・∀・)「うるせえよ!何がわかんだよ!」

 「わかるさ。みんな自分の人気しか見てない。おまえはただの、数合わせベーシスト」

( ;・∀・)「そ、そんな、そんな訳ねえだろうが!!」

 「どうしてそう思うんだ?」


( ・∀・)「俺は、俺は…そんじゃそこらのベーシストじゃねえ。
      奏でるのはリズムでも、旋律でもない。魔法だ!
      俺のベースは魔法を奏でる!!誰の代わりでも、誰かが代われる俺でもねえ!!!
      ナメんなよ!!俺が唯一無二の、アナーキーモララーだ!!!!」


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:46:38.51 ID:iCh3DMx80





          ( ;・∀・)「…!?」





気がつけば、そこは上も下も無い暗闇の世界だった。


雑居ビルも、湿気った裏路地も、狭い空も無い。
あの廃人だらけの街ではない、別の場所に、ぽつんと一人でいた。


( ;・∀・)「ええ!?ええぇー!?なにこれ!?」

 「パニクってんじゃねえよアナーキーモララー。だっせえぞ」

( ;・∀・)「テメー誰だよ!!」


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:49:59.87 ID:iCh3DMx80

暗闇の世界で、頭の中に声が響く。
若い、粗暴な感じのする男の声だった。


 「アぁん?立場がわかってねえようだな」

( ;・∀・)「あ、あんだよ」

 「俺は神器。テメーがベースっつってる楽器のこったな」

( ・∀・)「じ、神器!?」

(・∀・ )

( ・∀・)「ごめん全然意味がわからん」

 「飲み込みわりいなおい!!」

( ;・∀・)「だっておまえ急にそんな…は?神器がなんで喋ってんだよ!!」


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:54:55.41 ID:iCh3DMx80

( ∴)「だああああめんどくせええええなオイっ!!!」

( ;・∀・)「わああぁあぁああああぁあぁぁぁぁっぁああぁぁぁああボーリングの球だ!!!!!」

( ∴)「ボーリングの球じゃねえよ!!俺様はゼアフォー。テメーの神器に宿る意志だ」

( ・∀・)

(・∀・ )

( ・∀・)「厨二的な…?」

( ∴)「…まあいいけどよそういう解釈で」


目の前に現れたボーリングの球は意味不明な(#∴)「球じゃねえっつってんだろ前もやったぞこれ!!!」


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 22:58:57.18 ID:iCh3DMx80

( ・∀・)「その、ゼアフォーよう。どうして俺の前に現れたんだ?」

( ∴)「聞こえたのさ」

( ・∀・)「え?」

( ∴)「“シャウト”がな―――。俺たち神器は、持ち主の魂に呼応すんのさ」

( ;・∀・)「あ、そっか!!これトソンの能力と同じアレか!!!
      それなら知ってるわーなんだ驚いて損した」

(;∴)「はよ思い出せよ!!俺も二回目なのになんで驚いてんだろう?とか思ってたわ!!」

( ・∀・)「そんでそんで?」wktk

(;∴)「疲れるわーマジでおまえほんと…」


ゼアフォーの体に光が帯びていく。


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/14(日) 23:06:13.24 ID:iCh3DMx80

( ;・∀・)「お、おいどうしたんだ?体光ってるぞ。思春期か?」

( ∴)「俺の能力はドラムより使えるもんじゃねえし、マイクほど強力じゃねえ。
    でもな、戦いのとき、真っ先に頼れる能力なんだぜ」

( ・∀・)「能力…俺に、力をくれるってのか?」

( ∴)「やらねえよ――――でもな」




 「目に見えぬ絆、されど固い絆。誰かと繋がる思いの世界。護りたいなら、力を貸すぜ」



(; ・∀・)「――っ!」


ゼアフォーの体から光が溢れ始めた。
目の前が閃光に包まれる―――。


第十三話「血戦」 終


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