3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 21:55:11.86 ID:vhYKIeiN0

ダイ4ワ ヒライタ セカイ ニ トマドウ ワタシ ハ


ノll ・-・) 「ねえ、おじいちゃん」

( ФωФ) 「うん? どうしたんじゃ、クーよ」

ノll ・-・) 「ご本読んで」

(;ФωФ) 「ああ、すまん、クーよ。おじいちゃんもうすぐお仕事で出かけなきゃならんのじゃよ」

ノll ・-・) 「えー」

(;ФωФ) 「まだ今度、必ず読んであげるからの、すまんな」

ノll ・-・) 「おじいちゃん、この前もそう言ってたよー?」

(;ФωФ) 「そ、そうじゃったかの? すまん、すまん、今度は絶対じゃ。約束する」

( ゚д゚ ) 「失礼します。先生、お車の用意が出来ました」

( ФωФ) 「うむ、少々待っておれ。すまんな、クーよ。また今度な。お土産買って来るからの」

ノll ・-・) 「うん、わかった。約束だよ!」

・・・・
・・・


4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 21:57:16.62 ID:vhYKIeiN0

川 - -) (ああ……そうか。何処かで見た顔だと思ったんだ……)

ミルナの口からじいちゃんの名前が出された瞬間、記憶がフラッシュバックされた。
彼は以前、じいちゃんの書生のような事をやっていたあの青年だろう。
もう、20年ほど前のことだ。

( ゚д゚ ) 「そうだ、君の御爺様だ」

川 ゚ -゚) 「そしてあなたの先生でもある」

( ゚д゚ ) 「……お気付きになられたか」

ミルナは、これまでの非礼を詫びる様な事を言ったが、私はそれは筋違いだと制した。
如何に私が、彼の恩師であり、恩人の孫とは言え、私自身が何かをしたわけでもない。
一介のヒラの公務員に、現職の大臣が頭を下げる道理はないだろう。

私は、助手席のドアに手を伸ばし、ドアを開けた。

( ・∀・) 「あららァ? お返事はまだ伺ってませんが?」

川 ゚ -゚) 「察しろ。これが返事だ」

私はそのまま車から降りた。


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 21:59:26.05 ID:vhYKIeiN0

平凡で取り立てて見所もない眉冨山からの景色は、私に何の感慨も抱かせない。
遠くに街があり、近くに山がある、それだけの景色だ。

私は大きく伸びをして、凝った身体をほぐした。

( ゚д゚ ) 「お受けになられるのか?」

川 ゚ -゚) 「そのしゃべり方は止めましょうよ」

私は強面の年長者に、敬語で話し掛けられる居心地の悪さに苦笑した。
モララーは警官に誘導され、車を停めに行っている。

川 ゚ -゚) 「じいちゃんの名前を出されたら、受けないわけにもいかないでしょう」

( ゚д゚ ) 「まだ詳しい説明はしていないし、当然のことながら、その──」

川 ゚ -゚) 「危険も伴う……ですね?」

色々と無茶な話だと思う。
持ち掛けてる方も、持ち掛けられてる方も。
向こうがどうなのかは知らないが、少なくとも、私は曖昧すぎる理由で答えている様にも感じる。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:01:19.57 ID:vhYKIeiN0

賢い人間ならば、まだ判断を下す状況ではない。
もっと情報を得てから答えるべきだ。

だが私は、即答とも言えるべき速さで答えを出した。
短慮かもしれない。

でも、おじいちゃんの名前、そして外務課が必要とされたという事で、受けるという答えしか浮かばなかった。

( ゚д゚ ) 「順を追って説明しよう」

川 ゚ -゚) 「では、現場へ向かいながらで」

既に場所を把握しているのか、ミルナは私を先導するように山の中へ踏み入った。
道など無かったであろう場所だが、多くの人間が通った所為か、一目でそれとわかる踏み固められた地面があった。

( ・∀・) 「こちらでェすよ」
  _,
川 ゚ -゚) 「いつの間に……」

前方を見ると、瞬間移動でもしたのかとしか思えないほどの早さで、あの馬鹿が手を挙げていた。
しかし、コイツのことを深く考えても無駄なので、流す事にした。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:04:01.47 ID:vhYKIeiN0

川 ゚ -゚) 「まず聞いておきたいのだが、いくらあなたの恩師であるじいちゃんの願いとは言え、私で良いのか?」

( ゚д゚ ) 「……そこに付いては多少誤解があるな」

川 ゚ -゚) 「誤解?」

( ゚д゚ ) 「先生は君を名指しで指定したわけじゃない」

( ・∀・) 「外務省……今は課ですが、その人間を、という話でした」

私が質問をする前に、的確な解説を添える。
私はモララーを一瞥して、ミルナに問いかけた。

川 ゚ -゚) 「それで、課長でなく、私であるわけは……年齢、体力的な話か?」

加えて、能力だ、とミルナは言う。

( ゚д゚ ) 「入省試験の成績は中々の物だったようだな」

学生時代も、さすが先生のお孫さんだとミルナは言う。
それほど勤勉というわけでもなかったが、確かに成績は悪くなかった。
他に趣味が、少なかったからかもしれない。
あまり人付き合いも、多くなかったからかもしれない。


11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:06:20.12 ID:vhYKIeiN0

川 ゚ -゚) 「ただ、それだけでは外務課を指定した事の答えにはなってないな」

( ゚д゚ ) 「それはこれから行う、便宜上、調査と称している仕事の内容が外務課の範疇だからだ」

勿体付けた言い方をするミルナ。
答えをこちらに導き出させる魂胆なのだろうか。

私は、しばし頭を廻らせる。
外務課特有の仕事、それは……

川 ゚ -゚) 「……対外折衝」

( ・∀・) 「アハハァ、正解でェす」

返事は想定よりさらに前方から届いたが、眼前のミルナも深く頷いた。

しかし、対外折衝と簡単に言ったものの、その対象がわからない。
この世界に国は1つだ。
それ故対外折衝が不要になり、今日外務省が外務課になったわけなのだから。

であるならば、考えられる可能性は……


14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:09:30.84 ID:vhYKIeiN0

川;゚ -゚) 「おいおい……そういう事なのか?」

( ゚д゚ ) 「うむ、恐らくその考えであってると思うぞ」

仕事の内容が対外折衝ならば、当然相手が必要だ。
では、その相手は誰だ、と聞かれたら、ここまでの流れを振り返ってみれば、答えは1つしかない。

川 ゚ -゚) 「あの中に国がある……」

( ・∀・) 「ワオ! お見事でェす」

( ゚д゚ ) 「そういう事だ。ただ、国というよりは世界かもしれんが」

大袈裟に褒め称えるモララーと、努めて静かに肯定するミルナ。
自分で言った言葉だとわかってはいるが、なんとも現実感のない言葉だ。

川 ゚ -゚) 「次元の裂け目など、大層な名前だと思っていたらそういうわけか」

( ・∀・) 「まあ、そういうわけな所もありますねェ」


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:13:08.30 ID:vhYKIeiN0

( ゚д゚ ) 「最初に次元の裂け目が発見された時に、当時の学者はその可能性を示唆していたようだ」

川 ゚ -゚) 「それで、初めてその説が正しいと証明されたのが10年前というわけか」

( ゚д゚ ) 「……いや、それは違う」
  _,
川 ゚ -゚) 「違う?」

( ・∀・) 「公にはされていませんが、それ以前に2度、30年前と20年前にもありました」

鸚鵡返しに聞き返す私に、器用に後ろ向きで歩いているモララーが答える。
踏み固められてはいるとは言え、それほど歩き易いわけでもない山道でのそれは、かなりのバランス感覚が窺い知れる。

川 ゚ -゚) 「……公にされていないわけは?」

( ゚д゚ ) 「……」

不意に押し黙るミルナ。
ここまで話しておいて言い淀む必要もないと思うが、言い淀んだ理由を考えれば、あまり言い話ではないのは推察できる。

川 ゚ -゚) 「今更黙らないでくれ。……何となく察しは付くさ」

( ・∀・) 「でェは、僕が──」


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:15:29.22 ID:vhYKIeiN0

( ゚д゚ ) 「いや、私が言おう。30年前の事件、巨大な次元の裂け目が出来たのは……空だ」

川 ゚ -゚) 「空? それなら被害は……」

( ゚д゚ ) 「運悪く、丁度その空域を通り掛った旅客機がそれに触れ……そして落ちた」

川 ゚ -゚) 「旅客機の墜落事故……30年前……」

単語を元に記憶の中を検索する。
30年前と言えば、生まれる前の話だ。
何も思い出さなくて然るべきだが、何かが自分の中で引っかかっている。

記憶の中の何か、それは──

川;゚ -゚) 「……ばあちゃんの……あの事故か」

( ゚д゚ ) 「そうだ。その事故で、先生の奥様は亡くなられたんだ」

・・・・
・・・


18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:18:12.85 ID:vhYKIeiN0

川 ゚ -゚) 「なるほど……確かにデカイな」

( ・∀・) 「アハハァ、初見は皆さん、大体言葉を失われるんですけどねェー」

話しながらだったので、実際の距離よりは長い時間山道を歩いていると、ようやく開けた場所に辿り着いた。
開けたと言うよりは、次元の裂け目の出現で無理矢理開かされ、周りも人や機材が入るために人の手によって切り拓かれていた。

川 ゚ -゚) 「驚いてはいるさ。ただ思ったことを正直に述べただけだ」

全長何メートルぐらいだろうか。
パッと見、3階建てのビルぐらいの高さはありそうだ。
それが何もない空間を縦に、わずかな傾斜を持って切り裂き、異様な存在感を示していた。

川 ゚ -゚) 「それに、私はあの中に入るんだろ? 呑まれてるわけにもいかんさ」

( ・∀・) 「流石ですねェ。いや、頼もしい」

相変わらず大袈裟な仕草で褒め称えるモララーを無視し、次元の裂け目を見据える。
ミルナはここの責任者の下へ話をしに行っていて、この場にはいない。

怖くないわけではない。

でも、話を聞いてしまった以上、私は行かなければならない。

いや、自分の意思で私は行きたいと思う。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:21:23.37 ID:vhYKIeiN0

川 ゚ -゚) 「お前が私にちょっかい掛けてたのはこの所為なのか?」

( ・∀・) 「うーん、どうでしょうねェ……。イエスともノーとも言えますね」
  _,
川 ゚ -゚) 「何だそりゃ。煮え切らんな」

今日何度目かの歯切れの悪い返事をするモララー。
普段は打てば響くような、物怖じしない、遠慮のない言葉を放つこの男からすれば珍しい事だ。

( ・∀・) 「当初はこの件もあって、外務課に顔を出してたんでェすが……」

外務課から人を選ぶ事は、如何に当時それなりに権力のあったらしいじいちゃんの頼みとは言え、少々無理がある様にも思えた。
部署としては確かに専門ではあるが、この時代、対外交渉の場に出向くという実務を経験した物などいないのだから。
別の省からもっと優秀な人間を連れて来ても良さそうなものだ。

(*・∀・) 「後半はクーちゃん目当てでしたヨ」
  _,
川 ゚ -゚) 「税金泥棒め」

その辺はどうやら私の仕事振りが評価されたらしい。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:25:04.34 ID:vhYKIeiN0

川 ゚ -゚) 「沈む船に頑なに拘っていた頑迷固陋さでも評価されたのか?」

( ・∀・) 「そんな感じですねェ。ただ、結果的に先見の明があったとも言えます」

川 ゚ -゚) 「偶然だろ……」

( ・∀・) 「でェは、嗅覚とでも言っておきましょうか」

何にせよ、外務課にしがみ付き、外務課での仕事をこなしていた私にお鉢が回ってきたという事だ。
あの程度の仕事でいいなら、陳情受付窓口の人間なら誰でも出来そうではあるが。

川 ゚ -゚) 「……まあ、評価は有り難く受け取っておくさ」

( ・∀・) 「クーちゃんにしか出来ないお仕事だと思っててください」

モララーが真面目な口調で言う。
コイツはコイツなりに、色々と気を使っているのだろう。
私は、ほんの少し、口の端を歪め、意地悪く笑って見せた。

川 ゚ー゚) 「ああ、外務省のエリートの仕事振りを見せてやるさ」

・・・・
・・・


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:29:08.80 ID:vhYKIeiN0

世界は世界の為という名目で嘘を吐く。

国益を損なわない為、国民を無闇に刺激しない為。
理由は相応にそれらしく聞こえ、その実は言葉遊びの様な物。

往々にして事実は伏せられ、歪曲された真実が世間に蔓延る。

次元の裂け目の発生原因は、30年前の事件後に特定されていた。

2つの世界が、接触した歪だという。

あの裂け目は、別の世界に繋がっている証だと。


( ゚д゚ ) 「Accost Association、まあ、近寄ってきた国といった言い回しだな」

( ・∀・) 「今の所AA、もしくはAA界と称されてェいます」
  _,
川 ゚ -゚) 「国民に対して重大な背信だよな、それは」

私は眉をひそめ、一般論にそった悪態を吐いてみた。
もちろん、そこに何の意味もなく、吐かれた相手が何も動じない事は知った上で。

私は、2人から視線を外し、次元の裂け目に目を向けた。


23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:31:40.86 ID:vhYKIeiN0

これまでの話を少し整理してみよう。

事の発端はいつ頃からか、小さな次元の裂け目がこの世界に発生するようになった事。
先程の話からは年代の特定出来ていないが、当然30年前よりさらに前の話だろう。

次に30年前の事件。
あの時の旅客機の墜落は、確か自然災害的な扱いになっていたはずだ。
現象的には間違いではないだろうが、意図的に事実を暈している。

当時の調査は上空という事も有り、遅々として進まなかったが、その中でいくつかわかった事もあった。
その1つが、電波を拾った事。
その波長が、恐らく交信用のそれだという事。

それにより、裂け目の向こう側に世界があるという仮説が立てられた。

そしてその仮説を馬鹿正直に信じて、馬鹿げた行動を起こした馬鹿がいた。

杉浦ロマネスク。

私のじいちゃんだ。


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:34:04.54 ID:vhYKIeiN0

結論から言うと飛び込んだわけだ、次元の裂け目に、生身で。

当時のじいちゃんは、ばあちゃんが亡くなって失意のどん底にあり、自暴自棄になっていたようだ。
だから、飛び込んだ。
一言文句言ってやろうと思ったらしい。
何に対してなのかは不明だ。

色々と無茶苦茶だ。
生きて戻れたのが不思議なほどに。
両目の傷は、その飛び込んだ時に出来たとの事だ。

しかしその結果、数多くの事が判明した。

次元の裂け目の向こう側に世界があったこと。
そこに人が住んでいた事。

そして次元の裂け目は、向こう側の世界の不安定さがこちらの世界に影響を及ぼしている事だ。


川 ゚ -゚) 「色々と出し惜しみしすぎじゃないか?」

( ゚д゚ ) 「一気に説明しても、理解が追い付かんだろ?」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:38:44.48 ID:vhYKIeiN0
  _,
川 ゚ -゚) 「ならば前もって話しておけばよかっただろうに……」

( ・∀・) 「全くでェすね」
  _,
川 ゚ -゚) 「お前が言うな」

( ゚д゚ ) 「起らない可能性もあったからな。出来れば、このまま沈静化してくれればという思いもあった」

それからさらに秘匿されていた20年前の事件、既に聞いていた10年前の事件、そして今回に至るまでの話も聞いた。
じいちゃんは死ぬまでこの件に関わってたという事も。

そしてそのじいちゃんの遺志を継ぐのが、私になるのだという事も。

川 ゚ -゚) 「大量に送り込めればもっと楽に事が運ぶとは思うのだがな……」

( ゚д゚ ) 「それが最大のネックだな」

( ・∀・) 「結局、安定させる術は今回も間に合いませんでしたねェ」

次元の裂け目は不安定な存在だ。
30年前、じいちゃんは何も考えずに飛び込み、奇跡的に向こう側の世界へ辿り着いた。
そしてその裂け目が塞がる前に、向こう側の世界の協力の下にこちらへ戻る事が出来た。


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:40:24.77 ID:vhYKIeiN0

じいちゃんの生還で多くの事がわかった当時の政府は、さらに調査団を送り込もうとしたが、その時には次元の裂け目はもう塞がっていた。

あまり知られていないのだが、次元の裂け目には外層と内層がある。
私自身もその事は今日知った。

内層は自然に塞がるのが早く外層は遅い。
トソン達、防衛省の特務課が行っている補修作業は、この外層を塞ぐ作業だ。

20年前に出来た次元の裂け目は、今と似た様な山の中に出来たようだ。
もっとも、小さな島の山だったので、今回よりは僻地ではあった。

そこで満を持して、大規模な調査隊を投入した。
百を越える人員、多くの機材。

( ゚д゚ ) 「今思えば、かなりの浅慮だったと言えるな」

川 ゚ -゚) 「……何とも言えんな」

( ・∀・) 「結果だけを見れば大失敗でェした」


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:45:17.36 ID:vhYKIeiN0

過重な負荷による力場の暴走。
それにより、多くの人員、機材、そして島の半分が失われた。

次元の裂け目自体も綺麗さっぱり消失し、20年前の事件自体が語られる事のない汚点となってしまった。

川 ゚ -゚) 「だから少人数でやるしかない……か」

( ゚д゚ ) 「帰りの事や不安要素も考慮すると、1人で行うというのが今の所の政府見解だな」

(*・∀・) 「出ェ来れば、僕も行きたかったんでェすけどね、クーちゃんと一緒にらァぶらぶランデブー」
  _,
川 ゚ -゚) 「お前1人で行け」

故に、今回の任務は私1人での遂行となる。
加えて、大きな機材類も持たず、ほぼ身1つでだ。

無謀な事この上なく感じるが、30年前、そして10年前にやり遂げた人物がいる。

川 ゚ -゚) 「初回は独断だったとしても、何故10年前もじいちゃんだったんだ?」

( ゚д゚ ) 「本人のたっての希望に加えて権力、経験、そして能力と総合的に判断された結果だ」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:50:21.93 ID:vhYKIeiN0

川;゚ -゚) 「もう、定年退職してた歳だったぞ?」

(;゚д゚ ) 「……そういう事は関係なく、あの人は凄かったからな」

( ・∀・) 「熊殺しでェしたっけ、異名」

10年前、3度次元の裂け目が出現した時、取るべき対策は練られていた様だ。
空間の安定化、力場の抑制、防護装備、それでも送り込める人間は1人だったらしい。

川 ゚ -゚) 「と、まあ、色々と話はわかったのだが……」

( ・∀・) 「だァが?」

川 ゚ -゚) 「向こう側の世界の話が何1つないな」

そして、私が向こう側の世界でやるべき事の話も出ていない。
わかっているのは、向こう側の人間と国の代表として話すという事だけだ。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:54:07.76 ID:vhYKIeiN0

( ゚д゚ ) 「……確かにな。だが、それも……」

川 ゚ -゚) 「じいちゃんの遺志か……」

ミルナはゆっくりと頷き、一冊の古ぼけたノートを差し出した。

川 ゚ -゚) 「これは……日記?」

じいちゃんが10年前、30年前と向こう側の世界、そして戻ってきてから記した日記らしい。
ミルナは後で向こう側で読めと言って再びその日記を取り上げた。
荷物に加えておくと言い添えて。

川 ゚ -゚) 「荷物……そうだ、私はその辺りはどうすればいいんだ?」

流石に旅行に行くわけではないので、浮かれた準備は必要ないが、最低限の着替え等、どうするべきなのか不明だ。
向こう側に何でもあるなら良いのだが、そうでなければ準備はいる。
しかし、携行制限もあるだろうから、色々と考えなければならない。

( ・∀・) 「それは既に手配済みでェす」

川 ゚ -゚) 「流石に手際が──」


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:58:19.53 ID:vhYKIeiN0

(・∀(□⊂(゚、゚*トソン 「荷物のお届けに参りました!」

川 ゚ -゚) 「わぁ……」

音も無く、物凄い速さで走り寄るトソン。
その手にはごく普通のボストンバッグがある。

そのバッグに吹っ飛ばされた割にはもう復活しているモララーが、眼鏡のズレを直しながら訝しげにトソンに問う。

( ・∀・) 「おんやァ? 僕は総務省の人間に手配を頼んでいたはずでェすが、何故に貴女が?」

(゚、゚トソン 「貴様の杜撰な指示のせいで、先輩の外見、サイズに合わない服が用意されたら一大事ですので私が引き継ぎました」

平たい胸を張り、得意げに言うトソン。
どうやってその情報を聞き付けたのか、少しどころではなく気にはなるが、今は余計な気苦労を背負いたくないので聞かない事にした。

( ・∀・) 「まあ、良いでしょう。こちらとしては必要な物が揃えば問題はありませんので」
  _,
川 ゚ -゚) 「つーか、外見は兎も角サイズはどうした?」

(゚、゚*トソン 「それは既にわかってました!」
  _,
川 ゚ -゚) 「……ああ……そう」

これ以上この話題を続けても胃が痛くなりそうなので、諦める事にした。
そういや、発信機の類も探さないとな……


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 22:59:23.43 ID:vhYKIeiN0

( ・∀・) 「やァはり、面白い方ですねェ」
  _,
川 ゚ -゚) 「……面白さの方向にもよるな」

(゚、゚トソン 「そんな事より先輩!」

川 ゚ -゚) 「ん?」

(゚、゚;トソン 「先輩が調査に行くって、どういうことなんですか!?」

そう言いながら私に詰め寄るトソン。
しかし、着替え等を用意しておいて今更そこに疑問を持つのかという気はしなくも無い。

( ゚д゚ ) 「ああ、それはだな──」

(゚、゚#トソン 「うっさい! こっち見んな! 今、先輩と話してるんですから邪魔しないでください!」

川;゚ -゚) 「いや、それ、お前のすっごい上司だぞ?」

私は、説明して良いものか迷ったが、ミルナもモララーも何も言わない様なので、順を追って説明した。

私が向こう側の世界へ行くわけを。
私が向こう側の世界へ行きたいわけを。


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:03:24.21 ID:vhYKIeiN0

(゚、゚トソン 「なるほど……そういうわけがお有りになられたのですね……」

川 ゚ -゚) 「まあ、わけと言うか成り行きと言うかだな」

私は自嘲気味に呟いて見せた。
客観的考えてみれば、私がこの件を受けた理由は仕事以外の動機が弱過ぎる。

後は私のセンチメンタルなような物だ。
外務課に残っていたわけと同じ。

(゚、゚トソン 「であれば不肖、この都村トソン、先輩のお供を──」

( ・∀・) 「あのォ、話聞いておられましたァ?」

(゚、゚トソン 「もちろん聞いておりましたとも」

私が口を挟む前に、モララーがトソンに問う。
呆れているのか楽しんでいるのかわからない、飄々とした口調だ。

トソンはそんなモララーは意に介さず、何故か私の方へ向かって無い胸を張り、堂々と宣言する。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:05:56.67 ID:vhYKIeiN0

+(゚、゚トソン 「根性で飛び込めば何とかなると!」
  _,
川 ゚ -゚) 「え……お前……えー……?」

ああ、こいつも馬鹿なんだ。
うん、気付いてたけど。
最近そうじゃないかなーと薄々思ってた。

( ・∀・) 「わァお、この方ホント面白いでェすねェ」

部外者だったら私も同じ感想を抱いただろうが、当事者からすれば笑えない。
私は、もう1度次元の裂け目の安定について説明する。
てかお前、この件については本職だろうが。

+d(゚、゚トソン 「その辺は何とかなりませんかね? ほら、主人公補正とか、2人の愛とかそんな物で」
  _,
川 ゚ -゚) 「ならねーよ」

てか、愛ってなんだよ。

( ・∀・) 「その理屈ならば、僕も行けそうでェすね」
  _,
川 ゚ -゚) 「んなわきゃねーだろ」

結局この不毛なやり取りは、ミルナが当初の予定通り私1人で任務に当たる事を重々しく宣言するまで続いた。

・・・・
・・・


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:09:41.02 ID:vhYKIeiN0

次元の裂け目は、最初に見た時と同じ異様さを保っている。
その周りには、安定性を保つための機材、人員が数多く配備され、その時を目前に整備に余念が無い。

もう、1時間もすれば、私はあの中へ飛び込む事になる。
何とも忙しない話だ。

川 ゚ -゚) 「こんな普通のバッグで大丈夫なんですね」

私は、背後に感じた気配に向かって言葉を放った。

何の変哲も無いボストンバッグ。
どちらかと言えば、これを背に世界中をヒッチハイクで旅歩く姿の方が似合っていると思う。

次元の裂け目に飛び込むのだ。
もっと前近代的な鎧なり宇宙服なりを着せられるのかと思っていたら、拍子抜けするほどの軽装だ。

( ゚д゚ ) 「むしろ、ごてごてした金属などを使った物の方が力場の影響は受け易いな」

外交の場に赴くとは思えないラフな格好の私に、きっちりとしたグレーのスーツに身を固めたミルナが返事をする。

( ゚д゚ ) 「色々と急な話ですまんな」

川 ゚ー゚) 「丁度そんな事を考えていました」


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:12:38.34 ID:vhYKIeiN0

出発を今日に決めたのは私の意志だ。
ミルナ自体は数日の猶予を持っていたらしいが、私にはこれといって準備のいるものもない。
至って健康、体の調子も良好だ。

万が一の危険も有り、家族への連絡や別れをという話もあったが、両親もじいちゃんの話は知っているのだろう。
改めて話す必要もない。

それに──

川 ゚ -゚) 「まあ、ちゃんと帰ってくる予定なので、ちょっと出張に行って来るような気分ですよ」

( ゚д゚ ) 「それは頼もしいな」

ミルナは、わずかに微笑みと思われる表情を見せながら私に手を伸ばした。
私の記憶の中にその手と同じ手を見かけた気もする。

川 ゚ -゚) 「それは?」

( ゚д゚ ) 「通訳……翻訳機、といった所かな」

ミルナの手には雫形の小さな銀のイヤリングが1つあった。

川 ゚ -゚) 「片方だけなんですね」

( ゚д゚ ) 「それで事足るらしい」


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:14:29.33 ID:vhYKIeiN0

じいちゃんが向こう側の世界でもらった物らしい。
こちら側で解析しようとしたが結局及ばず、壊しかねない危険性があったので断念したとの事だ。
それを考えると、向こう側の世界の技術はかなりの物かもしれない。

私はそれをシャツの胸ポケットに押し込んだ。

( ゚д゚ ) 「手順の説明は?」

川 ゚ -゚) 「もう覚えたました。頭の中に叩き込んであります」

( ゚д゚ ) 「流石に優秀だな」

川 ゚ー゚) 「じいちゃんの孫ですからね」

私は、にやりと口の端を吊り上げて見せた。
今度は明らかにそれとわかる笑みを見せてミルナが笑った。

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43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:17:25.26 ID:vhYKIeiN0

(゚、゚トソン 「先輩」

川 ゚ -゚) 「ん? ああ……買って来てくれたのか。ありがとな」

任務開始まで残り数十分。
その時を付近に設営されたテントの中で待つ私に、トソンがビニール袋を差し出してきた。

(゚、゚トソン 「しかし……ホントにこんなもので良かったのですか?」

川 ゚ -゚) 「んー? まあ、他に何も思い付かなかったしな」

携行する荷物は着替えと筆記用具、端末等簡単な調査道具以外はなく、バッグに多少余裕はあった。
必要な物があれば、可能な範囲で持ち込んでも構わないとミルナには言われたが、私は特に必要な物は思い付かなかった。

(゚、゚トソン 「もっとこう、枕が変わると眠れないからとか、いつも抱いてるぬいぐるみがとかなかったんですか?」

川 ゚ -゚) 「ある様に見えるか?」

(゚、゚*トソン 「あった方が、ギャップで萌えますね」
  _,
川 ゚ -゚) 「……」

私は無言でビニール袋から中身を取り出し、バッグに詰める作業に没頭した。
途中、私がもっと小柄なら、というトソンの呟きが聞こえた気がしたが多分気のせいだ。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:19:54.42 ID:vhYKIeiN0

( ・∀・) 「さて、準備はお宜しいでェすか? ……そちらの方は何を?」

川 ゚ -゚) 「気にするな。ちょっと間接を外そうと試みたらしいだけだ」

私は、突っ伏すトソンに軽い別れと再会の約束を告げ、モララーと共に次元の裂け目の方へ向かう。
いつも通りふらふらと前方を歩くコイツも、しばらくは見納めだ。

( ・∀・) 「僕も付いて行けたら良かったんですがねェ」

川 ゚ -゚) 「来なくて結構。お前と2人旅なぞ虫唾が走る」

( ・∀・) 「アハハァ、ご無事をお祈りしてますよ」

川 ゚ -゚) 「お前、神とか信じないタイプだろ? ……祈らずとも、ちゃんと帰ってくるさ」

私は軽く手を挙げ、ひらひらと振って見せた。
きっと背後で、いつもの様に恭しく礼をしてみせているのだろう。

モララーと別れ、所定の位置に付き、大袈裟な設備に囲まれた割には軽すぎる装備に身を包む。

川 ゚ -゚) 「フード付きのマントと言った所か」

力場の遮断を目的とした、技術の粋を集められた装備ではあるが、見た目は言い表した通りの布切れだ。


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:24:22.45 ID:vhYKIeiN0

( ゚д゚ ) 「準備は整ったようだな」

川 ゚ -゚) 「まあ、ほぼ身1つですからね」

私は両手を横に肩の高さまで上げ、マントを見せびらかす様な仕草をしてみせた。
必要な物はこの身とバッグ、そして飛び込む覚悟だ。

( ゚д゚ ) 「間もなく、力場を中和する作業に入る。そうしたら、自分の好きなタイミングで飛び込んでくれ」

川 ゚ -゚) 「多くの人手や予算を割いてる割にはアバウトですね」

( ゚д゚ ) 「まあ、そういうな。最善を尽くした結果の答えさ」

最終的に決断するのは人だ。
そう言いたいのだろう。

きっとこの人は、精神論とか好きなタイプだろう。
じいちゃんもそうだった。

川 ゚ー゚) 「飛び込むのに好きも嫌いもあったもんじゃないですけどね」

そして私も嫌いじゃない。


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/04/27(月) 23:28:30.16 ID:vhYKIeiN0

程なくして、中和作業が開始された。
私はミルナに一礼をし、まっすぐに次元の裂け目の方へ向かう。

敬礼を返すミルナに、私もそうした方が格好良かったなと、若干の後悔の念を抱きつつ。

川 ゚ -゚) 「さて……どういったポーズで飛び込めばいいんだ?」

機械製のアームが周辺からいくつも伸び、次元の裂け目周辺に何かを噴霧している。
これには塞がるのを早める効果もあるので、そう何時間も迷っているのは得策ではないだろう。

川 ゚ -゚) 「まあ、何でも良いか」

私は次元の裂け目まで後一歩の所で、首だけを後ろに回して見た。
トソン、モララー、ミルナ、それに多くの人間が私の動向を見守っている。
ある意味一世一代の晴れ舞台だ。

私は軽く息を吐き、居並ぶ皆に声を掛ける。

川 ゚ -゚) 「んじゃ、ちょっと行って来ますね」

私は意を決し、と言う程の重い決意は無く、軽い気持ちでぴょんと次元の裂け目に飛び込んだ。


 第4話 了 〜 私が私でいることで、振り落とされないように願う 〜


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