4 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:36:09 ID:cM2vo0ws0
 
 ダイ30ワ セカイ ノ ミライ ヲ ツクル モノ
 
 
川;゚ -゚) 「ミセリ!? その顔はどうしたんだ!?」

(#゚;;-゚) 「顔? どうした?」

私はすぐにしゃがみ込み、ミセリの方へ顔を寄せる。
きょとんとした顔で何事もなかったように答えるミセリだが、その顔に当たる部分は花びらが抜け落ち、窪んだ様な痕も見られる
見た目の割には本人は動じてないようだが、何かあったことには間違いない。

川;゚ -゚) 「どうしたもこうしたも、ひどい有様じゃないか。一体何があった? 誰がこんな事を?」

何の用心もせず、ミセリを夜中外に出しておいたのは迂闊だったかも知れない。
自分達以外に何もいないと勝手に決め付けてしまった自分のミスだ。
しかし同時に、その様なことは考えられないとも思う。

この段階で自分達に危害を加える生き物がいるのなら、ハインから何かしら伝達があってもおかしくないはずだ。
たとえ外部からの何者かの侵入があったとしても、ハインならば気付かない事はないだろう。

(#゚;;-゚) 「何が? 誰が? どうした?」

川;゚ -゚) 「いや、だから……」

5 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:37:06 ID:cM2vo0ws0

( ´_ゝ`) 「随分騒がしいと思ったら」

(´<_` ) 「朝っぱらからどうしたんだ?」

気付けばいつの間にか背後に2人の姿があった。
まだ皆眠っていそうな時間とはいえ、あれだけ騒いでいれば誰かが気付いて出て来てもおかしくはないだろう。

(#゚;;-゚) 「アニスケ、オトちゃん、おはよう」

(;´_ゝ`) 「その呼び方は止めろと……って、どうした、それは?」

微妙に扱いの差がわかる挨拶を返すミセリに、兄者は渋い顔をしつつもその変化にうろたえる。
弟者にはツンが状況を説明しているようだ。

川;゚ -゚) 「わからん。昨日までは普通だったのだが、今朝見たらこんな状況だった」

動揺を抑えきれぬまま、私も兄者に状況の説明をする。
といっても先の一言に集約されるぐらい、全く状況はわかっていないのだが。

(;´_ゝ`) 「この辺りに何らかの危険な生物がいるのか?」

川;゚ -゚) 「それはあまり考えられないと思いたいのだが、可能性もゼロではないかもしれん」

6 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:38:14 ID:cM2vo0ws0

(´<_` ) 「ちょっと待て、2人とも」

現状、考え得る非常事態の可能性を挙げていく私と兄者の間に、ツンから説明を聞き終えたらしい弟者が割って入る。
弟者は兄者とは違い、随分と落ち着いた様子に見えた。

(´<_` ) 「これは、アレじゃないか?」

(;´_ゝ`) 「アレ?」

そういって弟者が指し示す先、花の顔の方を私と兄者はじっと見つめる。

(´<_` ) 「いや、顔じゃなくて葉……、手か? そっちの方だ」

川;゚ -゚) 「手?」

言われるまま、視線を少し下げ、胸の前で合わせるようにして何かを抱えたミセリの手を見る。

川;゚ -゚) 「抱え……って、何だ、それは?」

(#゚;;-゚)(|) 「?」

同じ姿勢のまま、首を傾げるミセリだが、その手の中には茶色の少し歪な球体状の何かが収まっている。
まるでこちらが不思議がっている事が不思議な風に、何事もなかったような反応を返す。

7 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:39:23 ID:cM2vo0ws0

( ´_ゝ`) 「これはひょっとして……種か?」

川;゚ -゚) 「たね……って、あの種か?

そう言いながら私は空中に小さな雫状の円を描く。
たねと言えば種ぐらいしか思い付かないが、それを形容する言葉も形も思い付かなかったので、反射的にそんな
仕草をしていた。

(´<_` ) 「うむ、恐らくその種だろうな」

私の言葉に深く頷いてみせる弟者。
私は改めてミセリの様子をじっくりと観察してみる。

(#゚;;-゚)

言われてみれば確かに一見痛ましい姿だが、本人はいたって元気そうだ。
変形した所為で少し歪に見えるが、いつも通りの笑顔を浮かべている。

川 ゚ -゚) 「そう言われてみれば、種が出来たら顔の部分は変形しそうではあるな」

私はミセリを両手で掬うように持ち上げ、目線を合わせる。
ミセリは笑顔のまま少し首を傾げた。

9 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:40:28 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「大丈夫なのか? どこか痛い所はないか?」

(#゚;;-゚) 「大丈夫? 痛い? 平気、ミセリ、平気」

普段と変わりない元気な反応を見せるミセリだが、一応私だけでなく、兄者達にもミセリの様子を見てもらった。
その結果、2人の見立てでもどこも悪い所はなさそうだという事だった。

川;゚ -゚) 「全く、驚かせてくれる……」

ξ゚听)ξ 「でも、何でもなくて良かったじゃない」

川 ゚ -゚) 「そうだな、本当に良かったよ」

(#-;; -) 「おっ?」

ようやく安心出来た私は、手の上のミセリの頭を撫でる。
触っても特に痛みを感じるという事もない様なので、どうやら見た目だけの問題らしい。

( ´_ゝ`) 「ミセリは多年草のようだし、種を生んでそのまま枯れるという事もないから一安心かな」

恐らく、ミセリの元となったであろう植物は、兄者達が知っているくらいにはどこにでもあるものだったようだ。
地球に帰るにあたり、ミセリを始め、皆の健康診断紛いの事は済ませた。
ミセリがどういった植物を元にしているかは、その時に調べていた。

10 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:41:23 ID:cM2vo0ws0

ただ、あの時は種の存在には気付かなかったので、その辺りの事を考えると、主に時間的な話で不自然な部分もある。
我々が気付かなかっただけかもしれないが、あまりにも生まれるのが早過ぎはしないだろうか。

川 ゚ -゚) 「しかし……」

川*゚ -゚) 「これでお前もお母さんか」

(#゚;;-゚) 「お母さん? ミセリ、お母さん?」

そういう言い方があっているのかわからないし、ミセリも全く自覚はないように見えるが、子供を生んだのならミセリは
立派なお母さんなのであろう。
大事そうに種を抱えるその姿は紛れもない母親の姿だ。

川 ゚ -゚) 「ん、待てよ、ミセリが母親ってことは当然父親がいるわけだよな?」

そう言って居並ぶ面々の顔を見回す。
ツンは当然除外されるとして、残りの2人、兄者と弟者に目を向けるが、2人はゆっくりと首を振った。

(´<_` ) 「そもそもだな……」

11 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:44:03 ID:cM2vo0ws0

( ・∀・) 「おはようござぁいます。朝から皆さんお集まりd──」

川#゚ -゚) 「貴様かァーッ!!!」

ひょっこりと顔を出したモララーを蹴り飛ばし、庭の端まで転がった所に詰め寄る。
ここにいる皆の中で、一番不埒な行動を取りそうなやつといえばこいつだ。
主に私のイメージの中では。

(#)∀・) 「いやぁ、朝っぱらから元気でぇすねぇ」

川#゚ -゚) 「おい、正直に言え。お前がミセリを──」

(;´_ゝ`) 「クーちゃん、ストップ、落ち着け、色々と無理があるってか、そういう話じゃない」

(´<_`;) 「ミセリの元の植物を考えると、自家受粉の可能性が高い」

言われてみればその通りだが、流石に私も本気にモララーの所為だと思ってはいない。
何となく蹴り飛ばしたかっただけだ。

( ・∀・) 「状況は把握致しました。おめでとうございまァす。地球に着きましたら出産祝いをお贈りしますね」

(#゚;;-゚) 「めでたい、お祝い、楽しい」

12 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:44:56 ID:cM2vo0ws0

相変わらずの気持ち悪いほどの速さで復活したモララーは、冗談とも本気とも取れる言葉をミセリに向ける。
何を祝われているかわかってなさそうなミセリだが、何となく嬉しそうにも見えた。

川 ゚ -゚) 「まあ、とにかくおめでとうだな、ミセリ。地球に帰ったら植えて……育ててか? みような」

(#゚;;-゚)っ(|) 「ん」

抱え挙げた手の上で、ミセリは私に向かってその手にあった種を差し出す。
どういうつもりかはわからないが、それを私が受け取っていいものだろうか。

川;゚ -゚) 「おい、もう育児放棄か? いや、花ならそれが普通なのか……?」

(#゚;;-゚)っ(|) 「身体ない、身体作った」

川 ゚ -゚) 「!」

一瞬、私はミセリが何を言っているのか理解出来なかった。
私の聞き間違いかと考えもしたが、ミセリはそのまま言葉を続ける。

13 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:45:53 ID:cM2vo0ws0

(#゚;;-゚)っ(|) 「クー、困った、ミセリ、作った」

川 ゚ -゚) 「お前……」

(#゚;;-゚)っ(|) 「ミセリ、作った、星、くれた」

今度はミセリの言葉をはっきりと理解出来た。
私の頭の中で、パズルのピースがはまる様に、ミセリのここ最近の行動と今の言葉が繋がる。

ミセリの言葉は、私の残されていた悩みを晴らすものであった。

川 - -) 「ミセリ!」

(#-;; -) 「おっ?」

気付いた瞬間私はミセリを抱き締める様にしてその顔に頬擦りをした。
実際に抱き締めたら折れてしまいそうだから、やさしく包み込むように手を回しただけだ。

川 - -) 「ありがとう……本当に、ありがとう」

(#^;;-^) 「ミセリ、クー、一緒。困った、助ける」

14 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:46:39 ID:cM2vo0ws0

何度も礼を言う私に、ミセリは満面の笑みで、少し得意げに言う。
入れ知恵と手を貸したやつがいることはわかっているが、それでもミセリが私の事を考えてくれて、このような行動に
至った事は容易に想像出来る。

川 ゚ー゚) 「ああ、助かったよ、ありがとな」

(#^;;-^) 「クー、笑顔、ミセリも、笑顔」

微笑み返す私にミセリもまた、笑顔で答える。
思えば私は、ただ聞いてくれていればいいなどとミセリに対しては失礼な事を考えていたものだ。
私の言葉をこんなにも真摯に受け止め、文字通り身を削って自分に出来る最大限の事をしてくれた。

ξ゚听)ξ 「クー? それってどういう……」

今ひとつ状況が理解出来ない様子のツンが、おずおずと私に話しかけてくる。
驚いたり怒ったり悲しんだり喜んだり、私にしては目まぐるしく変わったその姿に、少し気圧されているようだ。

( ・∀・) 「ミセリさんがァ、一晩でやってくれました」

川#゚ -゚) 「お前は黙ってろ」

15 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:47:51 ID:cM2vo0ws0

ξ;゚听)ξ 「あの……」

川 ゚ -゚) 「何、簡単な話だ」

私は、事の経緯を簡単に説明し、残った問題を全てミセリが解決してくれた事をツンに話した。

ξ゚ー゚)ξ 「へー、あんたもなかなかやるじゃない」

(#゚;;-゚) 「えっへん」

胸を張る様な仕草を見せたミセリに、ツンは笑顔を返す。
それを見ていた私や他の皆も、その顔には自然と笑顔が浮かんでいた。

川 ゚ー゚) 「さあ、後は地球に行くだけだ」

(#゚;;-゚)ノ 「おー!」

私は立ち上がり、未だこの場に来ていない連中を起こしに室内に向かう。
私の背を押すように、一陣の風が吹いて来る。

川 - -) (最後まで、世話をかけたな……ありがとう)

私は地を踏み締める足に思いを込め、彼女への礼の言葉とした。

・・・・
・・・

16 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:49:27 ID:cM2vo0ws0

( ・∀・) 「それでェは、一足お先に戻りまして、出迎えの準備を整えておきますね」

川 ゚ -゚) 「ああ、頼む」

(゚、゚トソン 「世界を救った英雄の御帰還です。盛大にお願いしますよ?」

川 ゚ -゚) 「そんな大層なものじゃないから……ってか、お前も帰るんだよ」

私は大層驚いたふりをして、目を潤ませるトソンをモララーの方に押しやる。
帰還の手はずは既に皆把握しているはずだが、納得しているかどうかは別問題なのだろう。

その日の午後、私達地球の人間3人と兄者と弟者は、私が出て来た巨大な次元の裂け目に来ていた。
この星でやるべき事が一通り片付いた今、後は地球に戻るだけだ。
先にモララーとトソンに戻ってもらい、皆の受け入れ態勢を整えてもらう事になっている。

川 ゚ -゚) 「まだもつよな?」

( ´_ゝ`) 「ああ、まだ安定している」

(´<_` ) 「理論上、2人ぐらいなら問題なく通れるはずだ」

私は巨大な次元の裂け目を調べていた兄者達に声をかけ、様子を尋ねる。
懸案事項が片付いた矢先に実行に移すのは、この巨大な次元の裂け目が時間の経過共に塞がっていくからだ。

17 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:50:20 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「よし、じゃあ、さっさと飛び込め」

( ・∀・) 「アハハァ、お別れの風情も何もあったものじゃないですねェ」

川 ゚ -゚) 「どうせ数日後には私達も帰るんだ。そんなもん必要なかろう」

そういった理由もあり、他の皆は見送りに来ていない。
若干名ついて来たそうな顔をした者もいたが、連れては来なかった。
特にミセリは産後で体が弱っている事も考えられるし、ツンに頼んで大人しくさせている。

(゚、゚トソン 「しかし、これは私が使ってしまってよろしいのですか?」

そう言ってトソンは、両手を胸の高さほどに挙げ、羽織っている上着をこちらに見せる。

川 ゚ -゚) 「ああ、かまわんよ。代わりの当てはあるしな」

代わりにトソンがこちらに来た時に入っていた鞄は、私が使う手はずになっている。
勿論、トソンの様に私が鞄の中に入るわけではないが。
というか普通の人間はあんなのに入れない。

(゚、゚*トソン 「先輩の匂いが……」
  _,
川 ゚ -゚) 「ちゃんと洗濯したし、こちらに来てからは着ていないからそれは埃か何かの匂いだ」

18 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:51:41 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「それじゃあ、よろしく頼むよ。道中の無事を祈る」

(゚、゚トソン 「お名残惜しいですが致し方ありませんね。あちらで先輩方のご帰還をお待ちしております」

( ・∀・) 「記者会見の準備をしてお待ちしておりますねェ」

川 ゚ -゚) 「報告はするが、そんなものは書類で済むんじゃないか? この事は公にはなってないんだろ?」

( ・∀・) 「後々外務大臣の椅子に座るなら、パフォーマンスの1つも披露しておくべきでェしょう」

モララーの冗談なのか本気なのかわからない言葉に、私は肩を竦めて見せる。
確かに今後、外交の必要性が浸透し、外務省が正式に設立される可能性はあるのかもしれないが、今回の件を武器に
私が外務大臣に就くような話を進めるつもりはない。

もし外務課からという話にでもなってしまったら、課長を推薦して私はもう少し色々と学びたいと思っている。
私自身の力の無さは、今回の事でよくわかった。

( ・∀・) 「それでェは、御機嫌よう」

(-、-トソン 「お早いお帰りをお待ちしております」

川 ゚ -゚) 「ああ、またな」

2人は短い別れの言葉を残し、巨大な次元の裂け目へと消えて行った。

19 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:52:30 ID:cM2vo0ws0

・・・・
・・・

それから数日、私達は帰り支度やら何やらで忙殺されていた。
といっても、持ち帰るものも特に無く、返るための装備も既に用意されている現状、専らAA界に別れを告げる事に
費やした時間が1番多かっただろう。

( ´_ゝ`) 「ほい、クーちゃん。ご注文の丈夫な瓶だ」

川 ゚ -゚) 「ふむ……どれどれ」

私は兄者から受け取った牛乳瓶よりは少し大きめのそれを、庭の石に思い切り投げ付けた。
瓶は鈍い音を立て、岩に弾かれて庭に転がる。

川 ゚ -゚) 「おお、傷1つ付いていないな」

(´<_` )「ああ、そう簡単に傷付くようなやわな造りじゃないぞ」

私は瓶を拾い上げ、傷の状態を確かめる。
弟者が言う様に、相当の硬度を誇っているようだ。

川 ゚ -゚) 「どう見てもただのガラス瓶にしか見えないが、そういうわけじゃないんだな」

(´<_` )「そりゃそうだ。普通のものに比べると密度や原子同士の結びつきが……」

20 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:53:55 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「いや、解説は結構だ。これが使えるものだとわかればそれでいい。助かったよ」

私は弟者の技術的な解説を遮り、改めて礼を述べる。

技術論を聞いた所で、専門家ではない私にわかる部分は少ない。
もっとも、専門家が聞いてもわからない部分は多々あるのだろう。
そのぐらい、兄者や弟者の知識や技術水準は高い。

川 ゚ -゚) 「しかし、本当にいいのか?」

( ´_ゝ`) 「うん? ……ああ、あの話か」

他の者はともかく、兄者達の技術を持ってすれば、この星を離れて自分達が住み易い星を探す事もそう難しい
話ではないはずだ。
わざわざ知識や技術に劣る地球に向かう必要性は見当たらない。

(´<_` )「俺達は水さえあればどこでも住めるからな。発展の度合いとか、どうでもいい話さ」

( ´_ゝ`) 「それなら1番興味がある星、クーちゃんの住んでる星に行くのがいい」

川 ゚ -゚) 「そうか。それなら良いのだが」

私はお世辞とも本心とも取れる兄者の言葉に頷き、弟者から瓶をもう1つ受け取って自分の部屋に戻る。
地球へ出発するのは明日だ。

問題は全て片付いたと思っていたが、考え始めるといくつも気になる事が出て来る所をみると、自分は思ったより
心配性だったのかもしれない。

21 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:55:28 ID:cM2vo0ws0

兄者達は、地球に連れ帰れば各種機関から熱烈な技術協力のオファーが来る事は目に見えている。
皆が見世物になる事は断固として阻止するつもりであったが、この要求には断る口実がこれといってない。
兄者達が快諾してくれるなら、地球の技術発展に繋がり、人々の暮らし向きが良くなるに違いない。

川 ゚ -゚) 「しかし……」

それが果たして良い事なのかどうか、私には手放しに歓迎できる事態だとは思えずにいた。

( ^ω^) 「お?」

川 ゚ -゚) 「お? どうした、ブーン?」

部屋の襖を開けると、中にはブーンの姿があった。
別にここに寝泊りしているブーンがここにいても不思議はないが、てっきりAA界の最後の空を楽しんでいると
思っていたので意外といえば意外だった。

( ^ω^) 「お留守番だお」

川 ゚ -゚) 「留守番?」

そういってブーンが器用に体の一部を使って指し示した先、机の上には花瓶に漬かったミセリが眠っていた。

川 ゚ー゚) 「ツンの代わりに見ていてくれたのか。ありがとう」

( ^ω^) 「お!」

22 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:56:58 ID:cM2vo0ws0

一応大事をとって、私か誰かがミセリの事を見ている事になっていたが、恐らくツンがどこかに出かけた様なので、
ブーンがその役目を引き受けてくれていたのだろう。

川 ゚ -゚) 「ミセリは私が見ておくから、お前は散歩でもして来たらどうだ?」

(#゚;;-゚) 「散歩、ミセリ、行く」

川 ゚ -゚) 「……っと、起こしてしまったか。いや、お前に言ったんじゃなくてだな」

最近大人しくさせていた所為か、ミセリは随分と暇を持て余していた様だ。
目を覚ましたミセリは花瓶から飛び出し、ブーンの上に着地する。

;;(#";;-");; 「おお!?」

川;゚ -゚) 「吸われるから止めろ」

私はブーンの上からミセリを掴み上げ、再び花瓶に浸す。
兄者達もそうだが、ミセリもブーンとはあまり相性が良いとは言えない。

(;^ω^) 「ごめんお」

川 ゚ -゚) 「お前が悪いわけじゃないさ。気にするな」

(#゚;;-゚) 「ミセリ、散歩、クー、散歩」

23 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:58:16 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「わかったわかった、ちょっと待ってろ」

花瓶に漬けたミセリが懲りずにまた飛び出して来たので、仕方なく私はミセリを自分の肩の上に乗せる。
そしてそのまま、部屋の外に向かおうとしたが、折角だからブーンと共に空の散歩と洒落込む事にした。

( ^ω^) 「お、いいお。ちょっと待っててお」

ブーンはずりずりと這いながら壁を伝い、窓から外に出る。
外見のお陰でそれほどでもないが、軟体動物的なその動きは慣れないと少し怖いものがある。

川 ゚ -゚) 「よし、それじゃあ乗せてもらうとするか。ミセリ、お前は私から降りるなよ」

(#゚;;-゚) 「把握、ミセリ、把握」

私はブーンの上にゆっくりと足を下ろし、そっと乗り込む。
ブーンは勢い良く飛び乗っても大丈夫だとは言うが、ブーンの柔らかさなら飛び乗った反動でそのままトランポリンの
様に跳ね飛ばされたらたまったものではない。

( ^ω^)ノ 「乗ったかお? それじゃ、行くおー」

(#゚;;-゚)ノ 「ブーン、出発、ブーン」

のんびりとした掛け声と共に、ブーンは緩やかに高度を上げる。
空は良く晴れ渡り、一面に青が広がっていた。

24 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 22:59:20 ID:cM2vo0ws0

( ^ω^) 「良い天気だおー」

川 ゚ -゚) 「絶好の空の散歩日和だな」

(#゚;;-゚) 「空、風、気持ち良い」

私はただ風に吹かれながら、頭上に広がる空を眺め、眼下に広がる緑を眺めた。
この雄大な景色に包まれていると、何だか全ての不安や悩みが全てどうでもいいことの様に思えてしまう。

川 - -) 「いや、流石にどうでもいいと言ってはいかんな」

私はミセリを肩から腹の上に移し、ごろりと横になる。
大きく広がったブーンは、私が横になっても十分に寝れるぐらいの広さはある。

( ^ω^) 「またクーは考え事かお?」

ブーンの顔が私の頭付近に移動して来たのが気配でわかった。
この星には高層建築物は存在していないし、ただ風の向くまま飛んでいても危険はないから進行方向から目を
離していても大丈夫だろう。

川 - -) 「ああ、我思う故に我あり。人間は考える葦だからな」

25 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:01:20 ID:cM2vo0ws0

(#゚;;-゚) 「ミセリ、クー、足ある、ブーン、足ない」

川 - -) 「その足じゃないよ」

腹から胸の方に上ってきたミセリが、私の顔を覗き込んでいる様だ。
私は、ミセリが風で飛ばされないように、そっとその身体に手を添えた。

( ^ω^) 「また難しいお話かお?」

川 - -) 「そうだなー、難しいといえば難しいかな?」

他に手段が考え付かない以上、皆を地球に連れて帰るという事は既に決定事項のようなものだ。
しかしながら、私は未だにそれが良い事なのか判断がつかずにいた。
最初は良かれと思って考えた事だが、よくよく考えると、それが皆の為になるのかどうか自信がない。

勿論、私としては大歓迎したい所なのだが、連れて帰るという事は私だけの問題ではなくなる。

川 ゚ -゚) 「私はここに来て、如何に人間が愚かか思い知らされたからな」

(#゚;;-゚) 「おろか? クー、おろか?」

私達は、発展と衰退を繰り返し、自分達の住む星を長らく傷付けて来た。
恐らくそれが元で、私達は地球から切り捨てられようとしたのだろう。
ハインから聞いた、地球が滅びの星になる事を受け入れたという事実がそれを物語っている。

27 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:03:21 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「地球が滅びの星になる事は避けられたが、地球という星の意思は人間が滅ぶ事を望んでいる」

そんないつ滅ぶかも知れない星に、皆を連れて行く事が果たして良い事なのかどうか。

川 ゚ -゚) 「そんな人間の1人である私に、お前達を連れて帰る資格はあるのだろうか?」

( ^ω^) 「おー……」

(#゚;;-゚) 「むー?」

私は、考えていた事をそのまま口にする。
本来なら、私自身で処理すべき問題ではあるのだが、自分1人で考えるよりは誰かに聞いてもらって一緒に考える
方が良い事を私はここで学んだ。

( ^ω^) 「難しい事はよくわかんないけど、クーがいた星なら、きっといい所だお」

( ^ω^) 「だから僕は、クーが生まれた星に行ってみたいお」

(#゚;;-゚) 「ミセリ、クーと一緒」

川 ゚ー゚) 「ハハ、ありがとう」

28 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:04:30 ID:cM2vo0ws0

2人はそう主張し、屈託なく笑う。
この2人に限らず、皆が地球行きに賛成してくれてはいる。

川 - -) (だからこそ、私がちゃんと考えなければならないんだがな……)

先の兄者達の話も関係するのだが、これを期に地球がさらに発展するとなると、また地球を大きく傷付けかねない。
それは地球の、人間の歴史が如実にその事実を示している。
技術の発展がもたらすものが、必ずしも幸せに繋がるというわけではないのだ。

川 ゚ -゚) 「まあ、現状は他に手段も用意していないし、良かろうが悪かろうが地球に行くしかないんだけどな」

私は両手両足を左右に大きく広げ、いわゆる大の字の姿勢でブーンに深く体を預けた。

川 ゚ -゚) 「おっと、お前は落ちないように気を付けろよ」

(#゚;;-゚) 「ミセリ、落ちない、気を付ける」

ミセリは言葉通り、落ちないように私の上着の襟をしっかり掴む。
少々こそばゆいが、ミセリがちゃんと状況を理解しているのは好ましい事だ。

川 ゚ -゚) 「そういえばお前も、その技術の発展の賜物なんだよな」

(#゚;;-゚) 「たまもの? ミセリ、たまもの?」

29 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:05:36 ID:cM2vo0ws0

ここではない、どこか別の星で生まれたミセリ。
その作られた過程がギコの推測通りなら、そこにはあまり良くはないものがある。
いずれ戦争の道具として利用されていたのかもしれないのだ。

(#゚;;-゚) 「たまもの? 丸い?」

( ^ω^) 「丸い? 卵かお?」

しかしミセリは、1人の研究者の手により思考と感情を与えられた。
それが何を意図していたのか、これも推し量る事しか出来ない。

(#゚;;-゚) 「卵? 種?」

( ^ω^) 「種からきっと綺麗なお花が咲くお」

私とギコが推測したミセリの事は、随分と希望的観測が含まれていたかもしれない。
けれど、ミセリを見ていると、それは事実だったのではないかと思えて来る。

(#^;;-^) 「お花、いっぱい、ミセリ、嬉しい」

(*^ω^) 「僕も嬉しいお」

30 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:06:59 ID:cM2vo0ws0

気付けばいつの間にか、随分と私の言葉からは逸れた言葉で2人は微笑んでいた。
その2人を見ていると、私も頬も自然と緩む。

花を愛でる心は無くしてしまったと思っていたが、存外そうでもなかったようだ。

川 ゚ー゚) 「お前らは、本当に楽しそうだな」

(#^;;-^) 「ミセリ、楽しい、クーとブーン、一緒、楽しい」

(*^ω^) 「僕もみんなと一緒で楽しいお」

川 ゚ー゚) 「私もだよ」

私は2人に笑顔を返し、より深くもたれるようにブーンに背を預ける。
視界いっぱいに青い空が広がる。

川 ゚ -゚) 「考えるまでもない話だったかもしれないな」

私は2人には聞こえないくらいの声でぽつりと呟く。
自分1人悩んだ所で、何の意味もない。
ツンが言った様に、その良し悪しも時間が経たないと答えが出ないものなのかもしれないのだから。

川 ゚ -゚) 「結局、私は私に出来る事をするしかないんだよな……」

自分が何でも出来るなんて思ってはいない。
自分の力の無さは今回の事で思い知りもした。

32 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:08:18 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「私に出来る事か……」

自分に出来る事は何だと問われて、即答出来る人間はいるのだろうか。
身の丈を知り、無力さを理解した今、私に出来る事とは一体何なのか。

帰るまでには見付けておきたかった答えではあるが、これと明確に言えるものは思い付かない。
しかし見つけられないまでも、今自分がやるべき事は決まっている。
だから、今はそれに専心すべきなのだろう。

川 ゚ -゚) 「ここから先は、無事に地球に帰ってからだな」

今回の件で色々と考えさせられる事があった。
世界の全てに広く関心を持っていたわけではない自分ではあったが、今後はもっと多くの事を知らねばならないと思う。
他ならぬ、自分自身が知りたいと思うから。

( ^ω^) 「地球でも、一緒にお空を飛ぶお!」

(#゚;;-゚) 「一緒、飛ぶ、みんな、一緒」

川 ゚ー゚) 「ああ、また一緒に飛ぼうな」

私達はAA界での最後の空を存分に満喫した。
きっとまた、皆で一緒に飛ぶ事を約束して。

・・・・
・・・

33 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:09:24 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「全員揃ってるな?」

(*‘ω‘ *)( <●><●>)( ><) 「はいなんです」

(#゚;;-゚)ξ゚听)ξ( ^ω^) 「みんないるお!」

(´<_` )( ´_ゝ`) 「おk、問題ない」

あれからまた数日、ようやく準備が整った我々は巨大な次元の裂け目の前に並んで立っていた。
無論、地球へ帰るためにだ。

川 ゚ -゚) 「わかっていると思うが、これでこの星にはもう帰れない。何かやり残したことはあるか?」

ξ゚听)ξ 「ないわよ。というか、昨日も一昨日も散々確認したでしょ?」

川 ゚ -゚) 「まあ、そうなんだが、一応な」

これで本当に最後なのだ。
何か忘れ物をしても取りに戻ったりは出来ないのだから、念には念を入れても罰は当たらないだろう。

( <●><●>) 「大丈夫ですよ。元々、持って行くようなものはありませんしね」

(*‘ω‘ *) 「食べ物と寝るとこさえあれば問題ないっぽ」

川 ゚ -゚) 「うむ、それは私の権限で必ず保障しよう」

34 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:10:33 ID:cM2vo0ws0

( ´_ゝ`) 「それよりも、クーちゃん。結局、装備はどうするんだ?」

(´<_` ) 「あてはあるという話だったが、ひょっとしてそのバッグをかぶって行くつもりか?」

次元の裂け目を抜けるための装備、AA界に来る時に来ていた服はトソンに渡してしまった。
代わりにトソンが入っていたバッグをもらったのだが、流石にこれに私が入るわけではない。

川 ゚ -゚) 「そんなわけはなかろう。これに入るのはお前ら3人だな」

(;><) 「ぼ、僕達ですか?」

( <●><●>) 「前に試しましたし、確かに入るでしょうが、少し重いかもしれませんよ」

川 ゚ -゚) 「どうせ落ちるだけだし大丈夫さ」

( ´_ゝ`) 「ふむ、バッグではないとすると、何を防護服代わりにするんだ?」

川 ゚ -゚) 「何、簡単なことさ。いるだろ、とっても丈夫な布が。大気圏を単独で突破できるほどの」

そういって私はブーンの方に視線をやる。
当のブーンはきょとんとしていたが、兄者と弟者は感心したように頷いていた。

( ^ω^) 「たぶん大丈夫だお!」

ブーンにそのことを説明すると、笑顔で賛成してくれた。
本人に説明していなかったのは多少問題があるかもしれないが、無理そうならきっとあいつらが教えてくれただろう。
そもそも地球の技術で作られた防護服より、ブーンの方が比べ物にならないほど丈夫なのだし。

35 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:11:28 ID:cM2vo0ws0

ξ゚听)ξ 「でも、ちょっと小さくない? 少し伸ばす?」

(´<_` ) 「それと、我々はどうする? 流石にブーンには包まれないぞ?」

川 ゚ -゚) 「それなら簡単だ。まとめて解決出来る。ブーン」

( ^ω^) 「何だお?」

川 ゚ -゚) 「兄者と弟者にくっついてくれ」

(;´_ゝ`)(´<_`;) 「ちょ……!?」

( ^ω^) 「わかったお!」

私の言葉に慌てる兄者達を包むように覆いかぶさるブーン。
みるみる広がるブーンだが、流石に全て吸い取られるとまずいので、頃合を見計らって2人からどけてもらった。

;;(ヽ´_ゝ`)(´<_`ノ);; 「ちょっと、クーちゃん? どういうこと?」

川 ゚ -゚) 「で、お前らはこの瓶な」

そう言って私は先日、兄者達に作ってもらった頑丈な瓶の中に2人を別々に入れる。

|};´_ゝ`{||}´<_`;{|「なるほどね。確かにこれなら行けそうだけど……」

|};´_ゝ`{||}´<_`;{|「ちょっと窮屈だな」

36 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/11(土) 23:12:30 ID:cM2vo0ws0

川 ゚ -゚) 「贅沢言うな。ワカッテマス、これもバッグに入れておいてくれ」

私は既にバッグの中にいるワカッテマスに2人が入った瓶を渡す。
水がもつか心配な所もあるが、来た時の事を考えればそう長い時間でもないので大丈夫であろう。

川 ゚ -゚) 「で、ツンは私に捕まっててくれ。ミセリも定位置な」

(#゚;;-゚)ξ゚听)ξ 「わかったわ」

ツンは特に不満げな様子を見せることなく、私の方に近付く。
ブーンの頑丈さをよく知っているから、心配はしていないのだろう。

川 ゚ -゚) 「それじゃあ、行くか」

( ^ω^) 「おー!」

私はブーンを拾い上げ、頭の上からすっぽりとかぶった。
傍から見れば布団をかぶっている様にも見えて、少し間抜けだが、兄者たち同様、贅沢は言えないだろう。

川 ゚ -゚) 「……じゃあな」

私は片手を上げ、誰もいない世界へ向かい別れを告げる。
多くは言わない。ここに至るまでに、言うべき事は言ったつもりだから。
私は来た時と同じように、軽い気持ちでぴょんと次元の裂け目に飛び込んだ。
 
 
 第30話 了 〜 それはきっと、世界に生きるもの全て 〜


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