1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:27:26.19 ID:ylNKhcS40


 研究所でサイボーグ人間を作るにあたって、様々な議論が起こった。
 それはロボット型を作るか、人間型を作るか。
 つまり人型の機械を作るか、感情を持った機械を作るかの差異からである。

 僕はロボットの方向で研究を進めたかった。
 感情を持った機械なんて、ただの木偶だと考えていた。
 何故ならロボットの利点が人間では無いという点で全て語れるからである。



2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:28:15.37 ID:ylNKhcS40


 サイボーグはロボットでなければ、人間でもない。
 元々人だった肉体をベースにした、機械人間の事である。

 どうせ機械を組み込むなら、ロボットの利点を与えたかった。
 ところが、人権がうんたら生命の尊重がうんたらという極めて非建設的で感情的な意見に後押しされた結果。
 結局感情を組み込んだサイボーグを作るはめになってしまった。

 研究者以外の人間が口を出して、実験が成功した試しなんて無い。
 そもそも、動く死体に、人の温もりなどありはしないというのに。



(´・ω・`)ショボン博士と暖かい機械のようです



5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:29:59.77 ID:ylNKhcS40

−1−


川 ゚ -゚)「ショボン博士。そちらは」

(´・ω・`)「準備できています。実行して下さい」

( ・∀・)「起動します」

 研究者たちが見守る中、台上に寝かせられたそれは、ぴくりと手を動かした。
 アイセンサがついた片目が、人工の瞼の下で青白く光るのが見えた。

( ´∀`)「リスタミン投与しますモナ」

( ・∀・)「アデローチライン確保しました」

(´・ω・`)「シギタリス剤を0.8グラム与えて下さい」


6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:32:35.44 ID:ylNKhcS40

 忙しなく動き回る研究者たちの願いは、皆同じである。
 この体の半分以上が機械の少女が、無事に目覚めるという事だ。
  _
( ゚∀゚)「拒絶反応、ありません」

( ^ω^)「筋弛緩剤の投与は」

(´・ω・`)「まだ待ちましょう」

 その時、目まぐるしく動いていた部屋の空気が、一瞬にして止まった。
 皆一様に機械の少女を見つめている。

 いつの間にか、その瞼が開かれていた。


8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:34:25.18 ID:ylNKhcS40

(//‰ ゚)「……」

( ;・∀・)「成功」

(´・ω・`)「いや、視覚情報の整理中です。これを乗り越えないと死ぬ」

 今膨大な量の情報が、彼女のアイセンサからメインCPUに流れているはずだ。
 それを上手く処理出来なければ、彼女はオーバーヒートを起こしてしまう。

 数年をかけた研究が成功するかどうかの瀬戸際だった。
 彼女にとっては、生と死の狭間での戦いだ。


9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:35:31.63 ID:ylNKhcS40

(//‰ ゚)「……」

( ´∀`)「……」

川 ゚ -゚)「ショボン博士」

(´・ω・`)「……ええ」

 起動から十分が経過した。
 彼女は熱暴走を起こした様子もなく、じっと前を見つめていた。

 実験は成功した。


10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:36:58.91 ID:ylNKhcS40

−2−


 彼女の起動から一ヶ月間が経ったが、特に真新しい事は無かった。
 サイボーグの彼女は監視がつけられた部屋で一日中を過ごしているらしい。

 学習プログラムはその部屋で少しずつ進められた。
 今ではカタコトの言葉も喋られる、らしい。

 だが、僕にとっては、どうでも良い事だ。
 研究は現時点で成功だと認められ、政府から多額の公金が貰えた。
 それで満足だった。
 もうあの子と関わり合う事は無いだろう。

 そもそも、僕は女が嫌いだ。
 例え体の半分が機械だとしても、だ。


13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:38:37.19 ID:ylNKhcS40

( ´∀`)「ショボン博士」

 しばらく研究の予定も無いので、南の島にでも行こうと思っていた。
 そんな時、モナー博士が僕の研究室を訪れた。

( ´∀`)「クー博士が、貴方に実験体の世話をして欲しいと」

(´・ω・`)「嫌です」

 僕は反射的に断っていた。

( ´∀`)「しかし、どうしても貴方が適任だと仰っていますモナ」

(´・ω・`)「既に実験は終わりました。
     プロジェクトチームは解散している。今クー博士が行っているのは後処理に過ぎない。
     私が関与すべき事ではありません。申し訳ありませんが、お断りします」

( ;´∀`)「そうですか……わかりました」


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:41:31.60 ID:ylNKhcS40

 モナー博士は丁寧に礼をして、僕の研究室を後にした。
 何となく、クー博士が僕に、あの子の事を依頼してくる気はしていた。

 プロジェクトチームで唯一結婚歴があったのが僕だったからだ。
 クー博士を除いて、他の者は皆三十を超えている年齢だった。
 しかし研究第一として生きてきた者たちだからか、家族を持っている者はいなかった。


 人間を愛する事が出来る僕だから、人間型の彼女の世話をする。
 理屈はわかるが、道理では無い。

 彼女は人間じゃなくて、機械人間なんだ。
 そして、僕の妻は、この研究が始まる前に病気で死んでいた。
 僕はもう誰かを愛せる人間じゃ無かった。


 僕にはきっと、彼女に教えるような事は何もない。
 僕はとても、空っぽだった。


16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:43:18.14 ID:ylNKhcS40

−3−


(´・ω・`)「どういう手を回したんですか」

川 ゚ -゚)「何の事でしょうか」

 僕の横を歩くクー博士は、一切表情を変えずに聞き返してきた。
 希代の天才は、ポーカーフェイスもお得意らしい。

(´・ω・`)「政府が私個人を指名して、研究に当たらせるなんてありえない」

川 ゚ -゚)「ご謙遜を。ショボン博士の功績は誰もが認めるものです」

(´・ω・`)「私の経歴を見て政府が実験体の世話係を私に任命したと?」

川 ゚ -゚)「そういう事ではないでしょうか」


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:45:41.76 ID:ylNKhcS40

 クールビューティーと評される整った顔立ちを滅茶苦茶にしてやりたかった。
 どういう意図かは知らないが、クー博士は政府に根回ししていたらしい。

 彼女程の権力があれば可能だろうが、何故、そこまでして僕を……。
 単なる嫌がらせにしては大それたものだが。

川 ゚ -゚)「こちらです」

 そうして連れてこられたのは、電子制御された白いドアの前だった。
 ドア横のモニタから、中の様子が見られる。
 猫の縫いぐるみを引っ張っている、実験体の姿が見てとれた。

(´・ω・`)「私に何をして欲しいんですか」

川 ゚ -゚)「ただのコミュニケーションです」


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:47:56.23 ID:ylNKhcS40

(´・ω・`)「もっと具体的に」

川 ゚ -゚)「シチュエーションが必要という事でしょうか?
     でしたら、夜景が綺麗なレストランでも予約しますが」

(´・ω・`)「いえ、いいです。適当にやってみます」

 本当に、ただの嫌がらせに思えてきた。

川 ゚ -゚)「扉を開けます」

 カードキイをドアの真ん中に取り付けられたセンサにかざす。
 空気が抜けるような音と共に、ドアはゆっくりとスライドしていった。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:50:22.39 ID:ylNKhcS40

(//‰ ゚)「……」

(´・ω・`)「……」

 白一色の部屋で、白衣のような服を着せられた彼女は、訝しげに僕を見つめてきた。
 もっとも、それは僕の気のせいだろう。
 ただ、彼女のアイセンサが、起動前より深く濁って見えた。

「話しかけてみてください。一応今回だけ、私は部屋の前で待機しています」

 扉の影に隠れているクー博士の声が聞こえる。
 処理スペックの為に、二人以上の人間と接触させないようにしているのだ。

(´・ω・`)「何分話せば良いんでしょうか」

「一日、三十分を一セットとして、四セット、四時間おきに行う事にしています」

(´・ω・`)「三十分ですね。わかりました」


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:52:25.04 ID:ylNKhcS40

「では、あとはよろしくお願いします」

 クー博士がドアを閉めると、急に不安になってきた。
 今更だが、僕が今対峙しているのは、人間では無いのだ。

(´・ω・`)「こんにちは」

 自分の不安を少しでも和らげる為に、なるべく明るい声を出そうと努める。
 彼女はあさっての方向を向いていたが、くるりと僕の方を振り返った。

 首の動きに合わせて、ショートカットの人工毛髪が、さらさらと流れた。

(//‰ ゚)「こンにちハ! 私、ジッケンタイ。あなた、ドナタ?」


 人工声帯が、幼くたどたどしい声を返す。
 機械がむき出しになった顔の右側面のパネルで、青と黄色の信号が‘好奇心’を表して光る。

 左側面のアイセンサが、僕の顔を捉えて離さない。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:54:45.80 ID:ylNKhcS40

(´・ω・`)「僕はショボン。今日から君の……お友達になるんだ」

(//‰ ゚)「お友達! 素敵……。クー博士以外ノお友達、初めてナノ」

(´・ω・`)「そうか。僕も嬉しいよ」

 意識した訳じゃないのに、優しい声を出せた。

 時計を見る。まだ二分しか経っていない。
 あと二十八分の時間がある。

(´・ω・`)「猫、好きなの?」

(//‰ ゚)「好き。可愛いカラ好き。でもコレはレプリカなの。本物は知らないノ」

(´・ω・`)「本物は、きっともっと可愛いよ」

(//‰ ゚)「そうナノ? でも駄目なノ。レプリカしか駄目って言われてるノ」


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:57:16.13 ID:ylNKhcS40

(´・ω・`)「どうして?」

(//‰ ゚)「知らないノ」

(´・ω・`)「ふむ……」

 人間との対話以上に、動物との接触は刺激が強いのかもしれない。
 クー博士はそう判断し、縫いぐるみを与える事で動物の姿形だけの知識を与えたという事か。

(´・ω・`)「たぶんだけど、いつか会えるよ」

 動物との接触の、前段階としての縫いぐるみなら、いずれは接触があるはずだ。

(//‰ ゚)「何に?」

(´・ω・`)「本物の猫に」


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 21:59:51.65 ID:ylNKhcS40

(//‰ ゚)「本当に? 猫ちゃんレプリカも可愛いケド、本物はもっと可愛いノ?」

(´・ω・`)「ああ。きっと気に入ると思うよ」

(//‰ ゚)「本物の猫ちゃん早く見たいケド、でもレプリカちゃんも可愛いノ」

(´・ω・`)「でもそれは……偽物だから。きっと、本物の方が良いよ」

(//‰ ゚)「そうナノ? 嬉しいノ! 早く見たいナ」

 彼女の顔のパネルが、‘愛情’を示して赤色と黄色に光る。
 人工皮膚で作られた小さな唇が、笑顔を形作った。


28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:01:36.47 ID:ylNKhcS40

 本物の方が良いに決まってるんだ。
 猫も。人間も。

 ただこの時ばかりは、

(//‰ ゚)「ショボン博士は男でショ? 当たり?」

(´・ω・`)「当たりだよ」

(//‰ ゚)「クー博士は女ダカラ、二人は夫婦。当たり?」

(´・ω・`)「違うよ」

 三十分が、もう少し長くならないかと、願った。


29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:03:40.43 ID:ylNKhcS40

−4−


 一ヶ月の間、彼女はずっと白い部屋に入れられたままだった。
 一日四セットの会話は、その間ずっと続けていた。

 話すことが無くなれば、絵本を持っていき、彼女の為に読んでやった。
 僕の下手な朗読でも、彼女は黙って、目を輝かせて、静かに聞いてくれた。
 人間だった頃、彼女は八歳だったが、今現在の精神年齢はもう少し幼いようだ。

(//‰ ゚)「あのネ、クー博士はどこに行ったノ?」

(´・ω・`)「どこにも行ってないよ。この建物の中にいる」

(//‰ ゚)「この部屋の外?」

(´・ω・`)「ああ」


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:05:45.69 ID:ylNKhcS40

(//‰ ゚)「クー博士に会いたいノ!」

(´・ω・`)「……」

 僕が黙り込むと、彼女は細い首をかしげて、‘ドウシタノ?’のポーズを取る。
 認めたくなかったが、この時僕は、きっとあの女に嫉妬していたのだろう。

(´・ω・`)「わかった。次に部屋に来るときは、彼女の方を寄こすよ」

(//‰ ゚)「駄目!」

(´・ω・`)「え?」

(//‰ ゚)「ショボ博士もー、一緒じゃなきゃ嫌なノ」

(´・ω・`)「ううん……それはちょっと……」

 二人以上の人間との同時接触は、まだ許されていないはずだ。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:08:21.93 ID:ylNKhcS40


(//‰ ゚)「それとネ、あのネ」

 言いづらそうに手をこねる。
 僕はなるべく優しい声になるように努めて、

(´・ω・`)「何だい? 言ってごらん」

 と言った。
 彼女は迷いながらも――そういう顔をしている風に見えただけだが――言った。

(//‰ ゚)「猫ちゃんに会ってみたいノ。レプリカちゃんじゃない方ノ」

(;´・ω・)「……うーん」

 僕は曖昧な笑みを浮かべて『クー博士に頼んでみるよ』と言っておいた。
 おそらく、無理だろうと推測しながら。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:12:01.13 ID:ylNKhcS40

 時計を見ると、いつの間にか部屋に入ってから三十分が経過していた。

(´・ω・`)「じゃあね。また来るよ」

(//‰ ゚)「マタ来てね! クー博士と猫ちゃんも一緒ニ!」

(´・ω・`)「うん……出来ればだけどね」

 彼女は僕に向かって、ちぎれそうな程腕をぶんぶんと振った。
 日常で使える動作は、積極的に教えていた。

 食事の前には手を合わせて、いただきます。
 手を差し出されたら、握りかえして握手、といった具合に。
 でも僕が教えた別れのサインは、手首を振るだけだったはずなんだけどな。


 僕は後ろ髪を引かれる思いで、部屋を後にする。

(´・ω・`)「あ……」

川 ゚ -゚)「どうも」

 部屋を出たところで、近くのソファーに座っているクー博士に気がついた。
 その顔は相変わらずの無表情だった。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:15:02.05 ID:ylNKhcS40

(´・ω・`)「見ていましたか?」

川 ゚ -゚)「ええ」

(´・ω・`)「無理ですよね。私と貴方が、二人同時にいるというのは」

川 ゚ -゚)「出来ますよ」

(´・ω・`)「え……はい?」

川 ゚ -゚)「そろそろ複数の人間との対話が必要だと考えていた頃です。
     彼女のキャパシティ的にも可能ですし、次回の接触は二人で行きましょう」


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:17:31.19 ID:ylNKhcS40

(´・ω・`)「……猫は」

川 ゚ -゚)「一緒にいても大丈夫のはずです。貴方のおかげで、彼女の処理能力は格段に向上しましたから」

 初めて聞いた事なので、その場でとってつけたような話に思えた。
 まあ、クー博士に限ってそんな事あり得ないとはわかっている。

 しかし、何となく、面白くない気分だ。


(´・ω・`)「猫はどうするんですか」

川 ゚ -゚)「私が飼っている子を連れて来ます。絶対に噛みつかない、大人しい猫です」

 淡々とした口調で喋る彼女は、クールビューティというよりロボットのようだった。
 この残業に近い研究が、全て彼女の掌で行われている気がして、やはり面白くない。


 もう一度言うが、僕は女が嫌いだ。
 心がサイボーグより冷たい女は、より一層に。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:19:47.03 ID:ylNKhcS40

−5−


(//‰ ゚)「あ……」

(´・ω・`)「……」

川 ゚ -゚)「やあ。久しぶり」

(//‰ ゚)「クー博士だ! 久しぶりデス!」

川 ゚ -゚)「元気だったか?」

(//‰ ゚)「元気だったヨ!」

 知っている癖に。

川 ゚ -゚)「ほら、連れてきたぞ。猫ちゃんだ」

 クー博士は、後ろ手に持っていた猫を胸の前で抱いた。
 その存在を待ち望んでいたように、アイセンサが激しい動作音を鳴らす。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:23:02.54 ID:ylNKhcS40

(,,゚Д゚)「にゃあ」

(//‰ ゚)「うわあ可愛い! 凄い可愛い!」

(,,゚Д゚)「にゃああ」

(//‰ ゚)「触ってイイ?」

川 ゚ -゚)「もちろん。優しく触るんだよ」

(´・ω・`)「……」

(//‰ ゚)「暖かイ! 柔らかい!」

(,,ーДー)「ふぃぃにぃ……」

川 ゚ -゚)「顎の下の辺を……そう。その辺りを撫でてやると喜ぶんだ」

(//‰ ゚)「うわあ……動いテル……可愛い」

(´・ω・`)「…………」


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:26:15.67 ID:ylNKhcS40

 置いてけぼりにされている気がする。
 僕と彼女が一緒に過ごした時間が、全て吹き飛ばされたみたいだ。
 居心地が悪い。僕は所在なく、部屋の監視カメラを見つめていた。

(//‰ ゚)「クー博士も触ってミテ」

川 ゚ -゚)「うん」

(,,゚Дー)「ゴロゴロゴロ……」

(//‰ ゚)「可愛い……」

(´・ω・`)「……」

(//‰ ゚)「はい!」

(´・ω・`)「……え?」

 上の空だった僕の前に、猫を抱えた彼女がいた。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:29:15.73 ID:ylNKhcS40

(//‰ ゚)「ショボ博士も!」

(´・ω・`)「あ……え……?」

川 ゚ -゚)「……」

(//‰ ゚)「顎のトコだって! 触ってみて!」

(´・ω・`)「あ、うん」

 戸惑いながらも、抱えられた猫に手を伸ばす。
 柔らかい体毛の感触が指から伝わる。

(//‰ ゚)「可愛いデショ!?」

 彼女の顔のパネルが‘嬉しい’‘楽しい’を交互に点滅させる。
 白い歯を見せて、彼女は弾けるように笑っていた。


51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:31:35.17 ID:ylNKhcS40

(´・ω・`)「……凄く可愛いよ。本当に」

(//‰ ゚)「可愛いネ!」

(´・ω・`)「ああ……」

(//‰ ゚)「レプリカちゃんも生きてれバ良いのニ」

川 ゚ -゚)「……うん、そうだね」

(´・ω・`)「……」

 縫いぐるみに命は無い。
 しかし、本物の猫と格段に劣っているとも、思わない。

 可愛さでいえば、きっと共通のものだ。
 そんな柄にもない事を、僕はこの時考えていたのだ。


54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:33:59.53 ID:ylNKhcS40

−6−


 いつの間にか、一時間が経過していた。
 時計を見て気がついた僕は、考える前に実験体と戯れるクー博士に向かって怒鳴っていた。

(;´・ω・)「た、大変だ!」

川 ゚ -゚)「はい?」

(;´・ω・)「時間! もう三十分を越えて……」

 慌てふためいている僕と対照的に、クー博士は表情を変えない。

川 ゚ -゚)「ああ、別に何時間でも大丈夫ですよ」

 形の良い唇が、予想外の言葉を呟いた。

(;´・ω・)「だから……は?」

川 ゚ -゚)「今のこの子なら、精神的に疲れるというだけで、特に危険はありません」

(´・ω・`)「…………」


57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:37:07.13 ID:ylNKhcS40

川 ゚ -゚)「そうだ。今度部屋の外に連れて行ってあげるよ」

(//‰ ゚)「本当!?」

川 ゚ -゚)「うん。まだ外に連れ出すには早いけど、研究所の中くらいなら良いよ」

(//‰ ゚)「ありがトウ! クー博士大好き!」

川 ゚ -゚)「私も大好きだぞ」


(´・ω・`)「………………」

 冷静になると共に、怒りに似た感情がわき上がってきた。
 三十分を越えても良いなんて、たった今、初めて聞いた事だ。
 この女は僕に、いくつの隠し事をしているのだろう。

 研究レポートさえ見せてくれれば、無様に声を荒げる事も無かったのに。
 何がしたいんだ、この女は。僕に、何をさせたいんだ。


川 ゚ -゚)「さて……そろそろ引き上げましょうか」

(´・ω・`)「……そうですね」


61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:39:19.93 ID:ylNKhcS40

(//‰ ゚)「またネ! バイバイ!」

川 ゚ -゚)「ああ。また」

(´・ω・`)「……じゃあね」

(//‰ ゚)「ショボ博士!」

(´・ω・`)「うん?」

(//‰ ゚)「ショボ博士も大好きだヨ!」

 パネルが赤色と黄色の光を示す。
 この信号の意味は、何だっけ。まあ、いいか。

(´・ω・`)「僕も――大好きだよ」

 依然豪快に手を振る彼女に、小さく、ぎりぎり届くように、言葉を紡いだ。
 白い部屋の中で、彼女は一等眩しかった。


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:42:02.79 ID:ylNKhcS40

川 ゚ -゚)「ありがとうございました」

 部屋を出て、ドアを閉めた後、彼女はそう言った。

(´・ω・`)「何の事ですか?」

川 ゚ -゚)「今までの事全部と、さっきの事です」

(´・ω・`)「……」

川 ゚ -゚)「貴方に頼んで良かったです。本当にありがとうございました」

 クー博士は深々と頭を下げた。彼女の髪が垂れ下がり、ふわふわと揺れ動いた。
 その長い黒髪が、ぼやけて滲んだ。


 どうして自分が泣いているのかわからなかった。
 心の中に溢れる、彼女に向けた感謝の意味も、わからなかった。


64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:44:12.27 ID:ylNKhcS40

−7−


 木漏れ日が差し込む並木道を、僕たちは並んで歩いていた。
 真ん中にしぃを挟んで、彼女を囲むように、クーと一緒に。

(*゚ー゚)「暑くなってきたね」

 温度センサが、数度の気温の上昇に反応しているようだ。
 しぃの人工皮膚の上に、ぽつり、ぽつりと汗の玉が浮かんでいる。

川 ゚ -゚)「夏は初めてだろう。これからもっと暑くなるよ」

(´・ω・`)「夏服を買い込まないとな」

(*゚0゚)「暑いの嫌ー」

 だらしなく開いた口を、クーが叱る。
 こういう光景を見ると、まるで親子のように見える。
 それが嬉しくて、それを嬉しいと思うことが、また嬉しかった。


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:45:36.32 ID:ylNKhcS40

(*゚ー゚)「手!」

川 ゚ -゚)「甘えんぼ」

(*゚ー゚)「手ー!」

 しぃがばんざいをするように、両手を左右に広げる。
 僕は彼女の右手を、クーは左手を取って、歩き続けた。

 ‘しぃ’という名前は、‘彼女’の英語訳、Sheからきている。
 代名詞で呼んでいた‘彼女’の存在に、名前を与える、という意味らしい。
 考えたのはクーだ。

(*゚ー゚)「ねーこねこにゃーんにゃーん」

川 ゚ -゚)「にゃーんにゃーんねーこねーこ」

(´・ω・`)「……」


66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:48:23.25 ID:ylNKhcS40

川 ゚ -゚)「ショボンさん」

(;´・ω・)「……にゃあんにゃあん」

(*゚ー゚)「音痴!」

(´・ω・`)「…………」

川 ゚ -゚)「カラオケに行ったりしないの?」

(´・ω・`)「学生だった頃は、たまに」

川 ゚ -゚)「さぞかし酷い歌だったろうね」

(´・ω・`)「うるさいな。マイクさえあればもっとマシだよ」

 こうやって喋っている間も、彼女は表情一つ変えない。
 人工皮膚をつける前のしぃよりも、表情のヴァリエーションが少ない女だ。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/18(金) 22:50:50.31 ID:ylNKhcS40

(*゚ー゚)「ねーこねーこにゃにゃにゃーん」

川 ゚ -゚)「にゃーにゃにゃーにゃにゃにゃにゃーん」

 人間のようなサイボーグと、サイボーグのような人間のデュエット。
 リズムも音程も無視したメロディが、風にのって心地よく響いた。

 繋いだ手から感じる確かなぬくもりが、今の僕の全てなんだろう。
 空っぽだった僕に、かけがえの無い物を与えてくれたのは、二人のサイボーグだった。

(´・ω・`)「にゃあんにゃあにゃにゃにゃあんにゃー」

(*゚ー゚)「音痴」

川 ゚ -゚)「音痴」


 手に込めた力を少しだけ強める。
 しぃはぎゅっと僕の手を握りかえした。
 薬指にはめた、クーがつけているものと同じリングに、しぃの指が触れた。



 −完−


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