15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 02:59:31.28 ID:Odi0p0lK0

 鍵をかけるのって、どういう時?


 部屋に入られたくない時?

 お金を隠す時?

 誰にも見られたくない時?


 相手に、誤魔化したい時?




¢愛情の鍵¢



16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:01:09.42 ID:Odi0p0lK0

−1−


ζ(゚ー゚*ζ 伊藤ちゃんって、何で彼氏作らないの?

('、`*川 あんたねえ……

('、`*川 作らないんじゃないの。作れないの

ζ(゚ー゚*ζ 嘘だあ。伊藤ちゃん可愛いから、絶対出来るよ

('、`*川 出来ないって

ζ(゚ー゚*ζ 出来ます。何なら、適当な男紹介しようか?

('、`*川 <何上から見てんだよ。死ねブス>

('、`*川 いいってば。それよりあんたはどうなの?

ζ(゚ー゚*ζ 私、新しく彼氏作ってさ。結構うまくいってるよ


17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:01:53.22 ID:Odi0p0lK0

 口の端を持ち上げて笑った。
 歯並びの悪さが、彼女の容姿を下げていた。

('、`*川 そう

 一拍溜めて、

('、`*川 なら良いけど。あんた、すぐ別れる癖あるしさ。何だか心配よ

 ため息と共に言った。

ζ(゚ー゚*ζ 大丈夫。今度の彼氏は、伊藤ちゃんも知ってる人だし

 チャイムが鳴った。教師が教室に入ってきた。
 二人はいそいそと自分の席へ戻っていった。



18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:03:02.13 ID:Odi0p0lK0

−2−


 女子高生にとって、学校の授業にどれほどの価値があるか。
 個人差はあるだろうが、少なくとも二人にとっては、無価値、なものだった。

 彼氏なんて出来ない、と言った女は、午前中ずっと上の空だった。
 頬杖をつき、先生の話を聞き流し続けた。

 彼女に対し、彼氏とうまくいっている、と言った女は、教科書と格闘していた。
 先生の話は聞いていないが、勉強自体は、好きなのだ。

 二人は客観的に見ると、小学校時代からの親友となる。
 しかし、その実心は通い合っていなかった。


19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:04:23.25 ID:Odi0p0lK0

 いつも二人で行動している為、セットで見られる事が多かった。
 栗色の髪の毛が、整った丸顔をさらに柔らかく、美しく見せる女と。
 対していつも顔に影がかかり、存在感が極端に薄い女。

 学年で考えても優秀な成績を持つ女と、クラスで下から数えた方が早い女。
 いつも笑顔で明るく友達が多い女と、たった一人の友達しかいない女。

('、`*川 <死ね。死ね。みんな死ね>

 比べられる事が苦痛だった。
 それでも伊藤は離れる事が出来なかった。

 本当の孤独を知ることになるから。
 薄汚れたプライドが、粉々に砕け散ってしまう事になるから。
 そして、彼女に、依存していたから。


20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:08:05.36 ID:Odi0p0lK0

−3−


 いつの間にか、昼休みになった。
 教科書とノートを片付け、弁当を広げる。

ζ(^ー^*ζ はーしんどかったね

 笑顔で駆け寄ってくる。女は対面に座った。
 同じ机に持ってきた弁当を広げる。

('、`*川 そうね

 目の前で開けられた弁当は、随分とカラフルな仕様だった。
 伊藤には、その弁当が、まるで彼女の存在を写し取ったかのように見えた。
 何故なら自分の弁当が、彩りも無く、とても地味だったからだ。

 『怠かったね』伊藤はそう続けた。
 現在進行形の気持ちだ。さっきは授業が怠かった。
 今は目の前の者を相手する事が、怠い。


21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:12:05.60 ID:Odi0p0lK0

ζ(゚ー゚*ζ そうそう。それで彼氏なんだけどさ

('、`*川 <うるさい。黙れ。死ね>

 朝から恋人という話題を振ってきた辺りから、伊藤は感じていた。
 こいつは新しい彼氏が出来て、その自慢がしたいのだと。

('、`*川 誰なの? この学校の人?

 それでも聞いてやらねばならなかった。
 寄生虫は、宿主を怒らせてはいけない。

ζ(゚ー゚*ζ モララー君

 いつの間にか、太陽が隠れている。
 窓から見える空に、暗雲が這いずり始めていた。


22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:17:26.64 ID:Odi0p0lK0

('、`*川 へえ。三組の

 雨が降りそうだった。

('、`*川 <嘘……嘘よ……>

 天気予報は、また外れの兆しだ。

('、`*川 <何で……何でよ……ふざけんな! ふざけんな!! ふざけんな!!!>

('、`*川 いつからだったの?

ζ(゚ー゚*ζ つい一昨日よ

('、`*川 <キスしたのか? お前、その小汚い口で、もうしたのか?>

('、`*川 どこ、までいったの?


24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:20:21.93 ID:Odi0p0lK0

 言ってから、はっと口を塞いだ。
 心の雷雲が、漏電してしまったかのように飛び出た言葉だった。

ζ(゚ー゚*ζ ……

 少し悩んで、それから恥ずかしそうに、

ζ(゚ー゚*ζ キスまで

 言った。

('、`*川 <ああああああ!! あああ……てめえ……殺してやる……殺してやる……!!!>

('、`*川 早すぎじゃない? ほら、もっと、デート、とかさ。してから、じゃない?

ζ(^ー^*ζ だって、何か、そういうの怠いじゃん?

('、`*川 ふふふ。何なの、それ

('、`*川 <死ね……死ね……死ね……死ね……死ね……>


25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:23:26.10 ID:Odi0p0lK0

 モララーは、彼女が高校に入学した時から、恋をしていた相手だ。
 誰にも告げた事の無い、彼女だけの秘密であった。

ζ(゚ー゚*ζ 彼って絶対童貞だよ。キスもした事無さそうだったもん

('、`*川 へえ

 知っていた。伊藤はそんな事知っていた。
 ずっと彼を見て、彼を調べて、彼を追い、彼を想っていたから。

('、`*川 そうだったんだ。意外だわあ

 雨が降り出した。
 豪雨では無いが、しつこそうな雨だった。


26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:23:58.94 ID:Odi0p0lK0

−4−


 心が沈んでいた。元より暗い顔が、さらに暗い。

('、`*川 ……

 打ちつける雨が、生徒玄関の屋根を叩く。
 目の前を雨粒のカーテンが遮っている。
 傘は持ってきていなかった。
 天気予報に裏切られた、と彼女は思った。

('、`*川 <そういえば、天気予報は、私の友達じゃないや>

 裏切るも何も、最初から仲間でも何でも無い。
 だから、裏切られたという表現はおかしいか、と彼女は考え直した。

('、`*川 ……え


27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:24:49.99 ID:Odi0p0lK0

 雨の中、一人の男がこちらを見ていた。
 雨粒が彼の体の周りで弾けている。
 薄いガラス玉を被っているかのように、雨が男を避けていた。

( ^ω^) <こんにちわ>

 耳から入った声ではなく、それは頭の中から響いた。
 透き通るような声で、高くもなく、低くもなく、心地よかった。
 『こんにちわ』彼女は心の中で返事をした。

( ^ω^) <この世界で、一番美しいものは何?>

 男は言った。それも頭の中で生まれた声だった。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:27:40.32 ID:Odi0p0lK0

('、`*川 愛……愛よ

 口に出して言った。
 男は薄く笑った。彼女をあざ笑っているようだった。

( ^ω^) <この世界で、一番醜いものは何?>

 男は言った。笑いながら言った。
 伊藤は無表情に、

('、`*川 それも、愛よ

 即答した。

( ^ω^) <大当たり>

 瞬きした瞬間、男の姿は消えていた。
 細かい雨が隙間無くアスファルトを叩いている。
 どうやって帰ろうかな。
 彼女がそう考え始めた時、男の事は既に忘れていた。


31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:28:38.05 ID:Odi0p0lK0

−5−


 図書室で、雨が止むのを待っていた。
 雨は止まなかった。時間だけが過ぎていった。
 職員室で、傘を借りれば良いと気がついた。
 彼女は図書室を出て、職員室へ向かった。

ζ(゚ー゚*ζ あら

 通路の角で、ばったりと出くわした彼女は、弾けるような笑顔で言った。

ζ(゚ー゚*ζ 良かった。執行部が終わって、これから帰るところだったの。一緒に帰らない?

 彼女の手には、謙虚に主張している花柄の傘が握られていた。
 少し大きめの傘だ。一人で入るより、誰かと一緒に入った方が、しっくりくるような、そんな傘だ。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:31:19.20 ID:Odi0p0lK0

('、`*川 彼氏さんと一緒に帰らないの?

 声が震えないように、平然を装って言った。
 彼女はまた口を持ち上げて笑った。目尻に少しだけ皺がよる。

ζ(゚ー゚*ζ 彼、部活中だし、待つのも怠いし。ね?

('、`*川 ……わかった

('、`*川 <私が彼女だったら、何時間でも待つわ。お前と違ってな>

('、`*川 傘忘れちゃったから、入れてくれない?

ζ(^ー^*ζ もちろん

 雨が激しく窓を叩く。
 どうやら雨脚が強まったようだ。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:34:56.08 ID:Odi0p0lK0

−6−


『この世界で、一番美しいものって何だと思う?』

 帰り道、肩を寄せ合い歩いている中、栗色の髪を揺らして女は言った。
 尋ねられた伊藤は、少し考えてから、恥ずかしそうに言った。

('、`*川 愛、じゃない?

ζ(゚ー゚*ζ 私もそう思う

 降り注ぐ雨は、水の中に街を閉じこめようとしているようだった。
 雨に打たれているというより、包まれている感じがした。


35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:36:06.29 ID:Odi0p0lK0

ζ(゚ー゚*ζ じゃあ、この世界で一番醜いものは?

('、`*川 何なのよそれ。雑誌の占いか何か?

ζ(゚ー゚*ζ 答えてよ伊藤ちゃん

('、`*川 ……

 車道を走っている車から、水しぶきが飛んだ。
 絶え間ない雨の殻が、さらに強く、固くなってきている気がした。

('、`*川 嫉妬、かなあ

 少し悩んだ後、伊藤が言った。

ζ(゚ー゚*ζ ……


36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:38:22.63 ID:Odi0p0lK0

 彼女は質問の答えに、自分が抱く感情を述べた。
 それは目の前の相手に対してのものである。
 殺したくなる程の嫉妬。自己嫌悪を抱く妬み。
 それらが一番醜いと、彼女は考えた。

ζ(゚ー゚*ζ でもさ

 視線を前に固定しながら、言葉を拾う。

ζ(゚ー゚*ζ 愛も嫉妬も、同じものだと思わない?

('、`*川 ……

 スポンジが水を吸収するように、彼女の言葉が頭の中に染みこんでいった。
 愛と、嫉妬は、同じ。そうかもしれない。
 好きだから、羨み、妬み、嫉妬する……そうかもしれない。言葉が伊藤の頭を巡る。

 伊藤は最初から気付いていた。しかしそれを無視していたのだ。
 頭の中に広がる暗雲が、少しずつ、晴れていった。


37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:39:16.62 ID:Odi0p0lK0

ζ(゚ー゚*ζ 私の事、嫌いでしょう?

 雨音が、遠くに消えていった。


ζ(゚ー゚*ζ でも、私は貴方の事、好き。殺したいくらい、好き


 その感覚はすぐに消え去り、雨音が再び彼女たちを包み込んだ。
 しかしその時、雨音に混じって、何かが外れる音がした。
 耳に届いた音ではなく、胸の奥の、自分でさえどうにも出来ない部分から、響いた音だった。


('、`*川 ええ。嫌い。貴方の事、大嫌い



38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/05/22(木) 03:40:54.62 ID:Odi0p0lK0

ζ(゚ー゚*ζ そう。良かった。良かったわ。だって、嫌いって、好きって事でしょ?

('、`*川 わかんない。全然。とりあえず、嫌い

ζ(゚ー゚*ζ 貴方の全てが、欲しい。モララー君は、その一つ

('、`*川 うん。わかってる

ζ(゚ー゚*ζ これからも、ずっと一緒にいましょう?

('、`*川 うん。わかってる

 傘が、女の手からこぼれ落ちた。
 降り注ぐ雨粒が、彼女たちの全身を濡らしていく。
 どちらからともなく、彼女たちは口づけを交わした。
 恋人たちが行うそれとは、全く別の行為であった。

 雨が体温を奪っていく中、お互いの唇だけが暖かく、確かなものとして存在していた。
 彼女たちは、互いが互いの、世界の中心となった。



¢終わり¢


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