- 4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/20(木) 23:58:31.69 ID:oWfJneaYO
- 【第九話 秘剣】
内藤は深夜の道場に灯をつけて回ると、木刀を脇に置き腰を下ろした。
( ^ω^)(あの時は確か…)
先程の中嶋との斬り合いを頭の中で再現する。
生死を懸けた戦いだった。
あれほど死を身近に感じたのは内藤にとって初めてのことである。
( ^ω^)(……む)
内藤は木刀を握りしめ立ち上がった。
静かに気合いを入れると木刀を青眼に構え前方を睨み付ける。
内藤の目には抜き身の刀を手にした中嶋が映っていた。
( ^ω^)「ふんっ!」
架空の相手との斬り合いが始まる。
殺意を露にした斬り込みが執拗に内藤を攻め立てた。
内藤の木刀が空を斬る。すぐさま素早い面打ちが内藤を襲った。
( ^ω^)「ここだおっ!」
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/20(木) 23:59:44.77 ID:oWfJneaYO
- 瞬間、内藤の身体が一瞬沈むと斬り込みよりも速く後ろに跳んだ。
その速さはまさに神速。
相手からはまるで消えたようにしか見えない。
(#^ω^)「おおおっ!」
次の瞬間には既に踏み込んでの木刀を袈裟懸けに放つ。
これに相手はぎりぎりで刀を滑らせ防ごうとする。
その時である。内藤の打ち込みが鮮やかに変化した。
その太刀筋は飛ぶ燕の如く。
相手の刀を避けるように曲がり無防備な身体に強烈な一撃を与えた。
( ^ω^)(これは……)
と、内藤は素早く振り向くと木刀を構え直し後ろに退いた。
道場の隅、暗がりの中から何者かが強烈な殺気を放っている。
- 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:00:51.76 ID:sSZPYAQ4O
- 「わしだ」
暗がりから人影が灯りの届く場所まで進み出る。
/ ,' 3「驚かせたようじゃな。すまぬ」
荒巻の姿を認めると内藤は木刀を下げた。
( ^ω^)「いたずらはいけませぬお。先生。」
/ ,' 3「なに、お主を試しておったのだ。しかし何故ここにおる」
内藤は順を追って説明した。
直心流での立ち合いのこと。
弍田の刺客が中嶋であったこと。
奉行所の詳しい調べは明日行われるとのこと。
荒巻は驚きもせず淡々と聞いていたが、静かに口を開いた。
/ ,' 3「なるほどの。中嶋を討ったか」
/ ,' 3「……お主の先程の動きにはちと傷がある。わしに打ち込んで来い」
一瞬考え込むと荒巻は壁に掛けてあった木刀を手に取った。
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:02:13.15 ID:sSZPYAQ4O
- (;^ω^)「しかし」
内藤は躊躇した。荒巻は齢六十をとうに過ぎている。
しかも近頃は病にもかかり道場に顔を出すのも少なくなっている。
/ ,' 3「遠慮はいらぬ。隙があるばこちらから打ち込むぞ」
荒巻は感触を確かめるように二度三度木刀を振るうとゆっくりと構えた。
( ^ω^)(……)
荒巻の構えには一片の隙も無い。
その身体からは信じられない気を感じた内藤は再び木刀を強く握り直した。
( ^ω^)「よろしくお願いしますお」
長く長く息を吐いて荒巻に向き直る。
既に懸念は無かったが冷や汗が背中を伝うのが分かった。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:03:07.83 ID:sSZPYAQ4O
- 荒巻は齢二十の時に役目の為都に渡った。
そこで出会った武空流に以後の運命を委ねることになる。
武空流道場で修行すること十年。
その後、諸藩修行に八年。
合わせて十八年もの期間を修行一筋に生きてきた。
むろん藩の了解済みである。
そして帰藩した荒巻は藩のすすめを受け立ち上げたのが武雲流である。
内藤の前に立っているのは実に修行四十年の兵法者であった。
木刀を握る手がじっとりと汗をかく。
慎重に足を運ぶが打ち込むことが出来ない。
相手にのまれているのが分かった。
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:03:47.48 ID:sSZPYAQ4O
- / ,' 3「ほっ」
先に荒巻が動いた。
沈み込むように身体を低くし床を蹴る。
(;^ω^)「くっ!」
内藤は足を引いて躱し、打ち合いになる。
荒巻の打ち込みは決して力強いものでは無かった。
しかし的確に内藤の隙を突き、内藤は防ぐのが精一杯になる。
寸での所で荒巻の打ち込みを躱すと内藤の体勢が崩れた。
その隙を狙って荒巻が突きを放つ。
(#^ω^)「おおおっ!」
内藤はここであの神速の動きを見せた。
荒巻の突きを躱し面を放つ。
木刀を前に出した荒巻の目前でその打ち込みの軌道が変化する。
バキィッ!
内藤の木刀が鈍い音をたてる。ひびが入ったのだ。
打ち込みは荒巻によって完璧に防がれていた。
- 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:04:40.11 ID:sSZPYAQ4O
- / ,' 3「ここじゃ」
そのままの状態で荒巻が言い放つ。
/ ,' 3「その技、確かに並の者では防げまい。
しかし打ち込む時に相手の身体の流れを読み合わせることを忘れるな」
/ ,' 3「突き詰めればその技……秘剣と呼ぶに値するものになろう」
( ^ω^)「秘剣……ですかお」
/ ,' 3「うむ。その若さで大したものだの。しかし内藤。この技、他言無用じゃ
そもそも秘剣とは…」
そこまで言って荒巻は気配を感じて口をつぐんだ。
見ると道場の入り口で荒巻の娘が心配そうに立っていた。
/ ,' 3「ここまでのようじゃな。ちと疲れた」
そう言うと荒巻は木刀を壁に掛け立ち去ろうとした。しかしふと何やら思い出したように入り口で振り返った。
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:05:46.83 ID:sSZPYAQ4O
- / ,' 3「また忘れるところであったわ、内藤。直心流のことはわしが何とかする。
お主は明日から普段通り稽古に励め」
( ^ω^)「はいっ!ありがとうございますお」
荒巻の姿が見えなくなるまで内藤は頭を下げ続けた。
井戸で軽く身体を拭き道場を出た。
内藤は空に輝く無数の星を見上げた。
つらく長い稽古を続け、生死を懸けた斬り合いで得た新たな技。
内藤は御前試合への不安が少しだが軽くなるのを感じた。
( ^ω^)(ツンどのは如何しておいでだろうかお)
不意にツンのことが浮かぶ。
初めて内藤は御前試合が待ち遠しい気持ちを覚えていた。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:06:40.52 ID:sSZPYAQ4O
- 翌日。
内藤は城勤めを終え、欝田と共に道場へ向かっていた。
('A`)「ん?」
二人の行く先に男が立っている。
茂良だ。
内藤は黙ったまま軽く礼をし通り過ぎようとしたが茂良が道を塞いだ。
( ・∀・)「昨晩、先生がお亡くなりになった」
( ・∀・)「更に長嶋家は取り潰しが決まった。
先生は常習的に弍田の命令で辻斬りしていたらしい」
( ・∀・)「ずばり聞くが、内藤。お主がやったのか?」
鋭い目で内藤を見つめる。しかし内藤も目を逸らさなかった。
( ^ω^)「……拙者が斬りもうしたお」
静かに答える。瞬間、茂良から凄まじい殺意を感じた。
- 19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:07:37.73 ID:sSZPYAQ4O
- 不穏な空気を察し、欝田が刀に手を掛ける。
内藤はそれを目で制し茂良と睨み合った。
( ・∀・)「……先生がお主ごときに敗れるとはな。やはり齢には勝てぬか」
( ・∀・)「勘違いするな、内藤。俺は貴様を恨んでなどいない」
(#・∀・)「しかし直心流を舐めてもらっては困るのだ!
お主とはいずれ改めて決着を着ける。それだけは覚えておけ!」
そう言い放つと茂良は背を向けて歩きだす。
残された二人は暫くその場に立ち尽くしていた。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:08:35.20 ID:sSZPYAQ4O
- ('A`)「…なんだ今のは。また面倒事か?」
( ^ω^)「…そんなとこだお」
('A`)「お主も本当に面倒が尽きぬな。一度神社で祓ってもらったらどうだ」
( ^ω^)「それも良いかもしれぬ……お」
('A`;)「…真に受けるな。しかし相当のようだな。」
欝田が心配そうにしている。それを見て内藤は元気良く答えた。
( ^ω^)「欝田。今夜呑みに行くお!」
('A`)「む、俺は別に構わんが……」
( ^ω^)「なにやら呑みたい気分だお。欝田の嫁の話でも肴にするかお」
('A`)「いいだろう。しかし払いはお主の金だからな」
二人はまた歩きだした。
道にはすすきが生い茂り本格的な秋の到来を告げていた。
続く
('A`*)「それでの、かなり気立てがいいらしいのだ」(*^ω^)「ほうほう」
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