- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:17:07.15 ID:sSZPYAQ4O
- 【第十話 秋風】
内藤が父親の使いで通りを歩いていると不意に声を掛けられた。
( ^Д^)「久しいな。内藤」
振り返ると、少々だらしない格好の男がにやけながら立っている。
( ^ω^)「…ご無沙汰しておりますお。府儀どの」
内藤は少し間を空けて答えた。内藤の顔にいつもの笑顔は無い。
( ^Д^)「強くなったらしいな。次の御前試合の話は聞いたぞ」
( ^ω^)「いえ、まだまだ若輩者ですお」
( ^Д^)「いや、大したものだ。幼き頃は稽古をつけるたび泣いてたがの
お主の鳴き声に道場の皆が手を止めたものじゃった」
そう言って大声で笑いだす。
内藤はそれを少し冷めた目で見ていた。
- 31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:17:53.48 ID:sSZPYAQ4O
- ( ^Д^)「時に、長岡は達者にやっておるか」
ひとしきり笑うと府儀がまだにやけながら聞いてきた。
( ^ω^)「…お元気ですお。先生の代わりとなり道場をまとめてますお」
( ^Д^)「ふん、あいつがの……今度道場に顔をだす。よろしく伝えてくれ」
そう言うと府儀は去って行った。
後ろ姿をよく見ると着物に所々穴が開いているの見える。
( ^ω^)(嫌な人に会ったお)
内藤は府儀と長岡の因縁を思い出していた。
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:19:06.33 ID:sSZPYAQ4O
- 府儀は長岡よりも早く道場に入門し荒巻の師事を受けていた。
しかし府儀はお世辞にも手本となるいい先輩とは言えなかったのである。
毎日のように稽古と称しては力の無い後輩をいびり続けた。
特に幼少から天才と呼ばれていた長岡に対する扱いは執拗なものだったらしい。
しかし長岡は耐え続けた。
何人かの同門は耐えかねて道場を後にしたが長岡は歯を食い縛って耐えた。
荒巻を心から尊敬していたからである。
そんなある日事件が起こった。
稽古の最中、府儀が長岡の同期の腕を折ったのである。
それは誰が見てもやりすぎであった。
うめき声が響く中、長岡は立ち上がると府儀に立ち合いを挑んだ。
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:20:07.22 ID:sSZPYAQ4O
- その立ち合いは一方的なものだったらしい。
道場生全員が見守る中、長岡はいつものようににやけながら勝負を受けた府儀を
完膚無きまでに打ちのめした。
その後、自然と府儀の居場所は無くなり道場を出ていくことになる。
内藤はその現場を見ていないが、欝田が興奮して話を聞かせたのを憶えている。
( ^ω^)(長岡どのには話しておくべきかお)
用事を済ませた内藤は道場へ向かう道すがら悩み続けた。
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:21:21.17 ID:sSZPYAQ4O
- その日の稽古が終わると、内藤は早速長岡に府儀に会った話をした。
( ゚∀゚)「…府儀か。近頃いい噂を聞かんな。俺も人のことは言えぬが」
( ^ω^)「噂ですかお」
( ゚∀゚)「うむ。なにやら町のごろつき共とつるんでは悪事を働いているらしい。
俺にも責任の一端はあるからの。気にはしていたが」
( ^ω^)「長岡どのは何も悪くありませぬお。証拠に皆が慕っていますお」
( ゚∀゚)「そう言われると嬉しいがな……いずれ立ち合うことになるかもな」
そう言うと長岡は道場の片付けを始めた。
( ゚∀゚)「そうだ内藤。俺はあれから一滴も酒を呑んではおらぬぞ。
なかなか酒の無い生活も悪くないものだ」
にやりと笑い道場を出ていく。
その堂々とした後ろ姿に内藤の不安は薄らいでいった。
- 40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:22:28.70 ID:sSZPYAQ4O
- 次の日、内藤と長岡が道場で稽古をしていると早速府儀が現れた。
一人では無く三人程浪人風の男を引きつれている。
府儀達は礼もせず道場に入ろうとする。
( ゚∀゚)「待たれよ!道場生以外が許可なく道場に立ち入るのは禁ぜられておる」
( ^Д^)「そう言うな。俺は仮にもお前の兄弟子だぞ。お前等は待っていろ」
府儀は長岡の制止を聞かず懐かしそうに道場に入ってくる。
( ゚∀゚)「……どのような御用ですかな」
( ^Д^)「ん、なに、お前が御前試合に出ないと聞いてな
内藤に遅れを取るなどどうしたものかと心配で来てみた訳だ」
( ゚∀゚)「……それはひとえに私の不徳の致すところ。
しかしご安心下さい。内藤は強くなりました」
- 41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:23:50.11 ID:sSZPYAQ4O
- (#^Д^)「それがたるんでいる証拠だ!腑抜けた面をしおって!」
府儀は急に声を荒げる。道場内の空気が一瞬で張り詰めた。
対する長岡は至って落ち着いており、内藤は黙ってその様子を見ていた。
( ^ω^)(ただ長岡どのが気に入らないだけだお。小さい男だ)
すると長岡が口を開いた。
( ゚∀゚)「腑抜けたつもりはござらんが、どうすれば納得して頂けますかな」
(#^Д^)「相変わらず癪に触る男だ。ならば久しぶりに稽古をつけてやる。立て」
府儀は立っている道場生から竹刀を奪い取ると素振りを始めた。
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:24:56.24 ID:sSZPYAQ4O
- 長岡も黙って竹刀を手にした。
( ゚∀゚)「少し場所を空けてくれ。他の者は稽古を続けろ」
道場の半分が空けられる。
勝負が気になるのか、道場生は稽古を続けながらも気が入っていないのが分かった。
( ゚∀゚)「よろしいかな。府儀どの」
( ^Д^)「貴様が腑抜けている間に俺は強くなったぞ。借りは返してやる」
二人が開始線に着いた。
( ^ω^)「初め!」
内藤の掛け声と共に府儀が上段に構える。
長岡は青眼に構え、竹刀越しに相手を伺う。
( ゚∀゚)(ほう、腕を上げたというのは本当だな)
府儀の構えにはなかなか隙がない。
しかし一つ誘い込むような隙があることに長岡は気付いていた。
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:25:54.29 ID:sSZPYAQ4O
- ( ゚∀゚)(あそこに打ち込むのを待つか。ならば…)
( ゚∀゚)「はっ!」
長岡は敢えてその隙に打ち込んだ。
待ってましたとばかりに強烈な打ち込みが襲う。
長岡は素早くその打ち込みを下から受けとめた。
そこから激しい押し合いになる。
(#゚∀゚)「おおおっ!」
徐々に長岡の身体が府儀を押して行く。
府儀は顔を真っ赤にして押し戻そうとするが勢いは変わらない。
(#゚∀゚)「おおおおっ!」
ついに府儀の身体が膝を着き、床に向かって背中から折れ始める。
(;^Д^)「がああっ」
それでも長岡は止まらない。府儀の身体を潰すかの如く押し続けた。
- 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:27:51.05 ID:sSZPYAQ4O
- (;^Д^)「まいった」
床に不様に押し付けられた府儀が悔しそうに言った。
道場のあちこちから微かに感嘆の声が聞こえる。
府儀の顔は怒りと屈辱で真っ赤になっている。
暫く苦しそうにしていたが乱暴に竹刀を放り投げた。
(#^Д^)「このままで終わると思うなよ長岡…」
府儀は捨て台詞を残し足早に道場を去っていった。
( ^ω^)「お見事でしたお」
( ゚∀゚)「……当然だ。さあ、稽古を続けるぞ!」
内藤は長岡は一瞬曇ったような表情を見せたのに気付いた。
道場はその後何もなかったかのように活気に溢れた稽古が続いた。
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:29:04.57 ID:sSZPYAQ4O
- 内藤は長岡の後ろを気付かれない程度の距離で歩いていた。
既に日は沈んでいる。
( ^ω^)(あのような輩の考えることは同じだお)
音をたてずに歩く。
秋の風は冷たく、汗に濡れた内藤の身体を容赦無く冷やした。
( ^ω^)(長岡どのの性格からして同行は断られるであろうお。
まあ、思い過ごしならそれで良し)
しかし内藤にはあの府儀が黙ったままでいるとは思えない。
案の定、暫く進むと前方で怒号が聞こえた。
内藤は刀を抜くと全力で駆けた。
- 49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:29:57.61 ID:sSZPYAQ4O
- ( ^ω^)「長岡どのっ!!」
( ゚∀゚)「 内藤かっ!」
駆け寄ると既に二人倒れていた。血が出ていないことから峰打ちだろう。
(;^Д^)「内藤……」
府儀ともう一人が刀を抜いて立っている。
しかし適わないと悟ったらしく既に戦意は感じられなかった。
( ゚∀゚)「今回は見逃してやる。分かったらさっさとそいつらを連れて」
(#゚∀゚)「失せろっ!!」
府儀は心底怯えている様子である。慌てて仲間をかつぐと夜闇に消えていった。
その姿を見送ると、長岡は一度深くため息をつき内藤に向き直った。
( ゚∀゚)「どうやらいらぬ心配をさせたようだな」
- 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:31:20.28 ID:sSZPYAQ4O
- (;^ω^)「いや、拙者もこちらに用が…」
( ゚∀゚)「隠さずとも良い。お主が来なければ俺は……
府儀を斬っていたかもしれぬ。礼を言うぞ内藤」
( ^ω^)「…いえ。お気になさらずに」
長岡は先程の浪人が落としていった刀を拾い手のひらでくるくる転がしている。
( ゚∀゚)「人に恨まれるのは慣れているがな」
( ゚∀゚)「このような世の中だ。お前も理不尽な恨みを買ったこともあろう」
( ^ω^)「…ありますお」
( ゚∀゚)「強くなれ内藤。己を貫き通すには力が必要だ。
この腕と刀でどんな宿命にも負けぬようにな」
( ^ω^)「拙者は……護るために強くなりますお」
( ゚∀゚)「……それもいいだろう。いや、お前らしいな」
そう言うと長岡はおもむろに刀を放り投げた。
- 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/21(金) 00:32:27.50 ID:sSZPYAQ4O
- ( ゚∀゚)「もうすっかり秋だ」
長岡が襟元をただす。急に内藤も寒気を感じた。
( ゚∀゚)「御前試合負けるなよ。ま、お前の強さは俺が一番知っているつもりだがな」
( ^ω^)「はいですお!」
空気の澄んだ寒空に内藤の声が響く。
御前試合はあと一週間と迫っていた。
続く
(´A`)「ぶぁっくしょん!」
('A`;)「風邪か…いや、まさか嫁の身に何かが!?」
次へ/
戻る