27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:04:56.04 ID:nw8L0Va6O
【第十二話 急転】


内藤は津出の屋敷に着くと荒げた呼吸をただそうとした。

(;^ω^)「はぁ。はぁ」

徐々に呼吸は軽くなるが胸の鼓動は未だに早鐘を打っている。
疲れではない。不安が内藤の鼓動を暴れさせていた。

(;^ω^)「ツンどのに会わせて頂きたいお」

門をくぐり見知った顔の家来に声を掛ける。
男は内藤の顔を見て親しげな顔を見せたが、ツンの名がでると押し黙った。

(,,゚Д゚)「……内藤」

振り返ると津出が立っていた。
いつにも無く真剣な顔をしている。

( ^ω^)「津出どの……ツンどのは」

(,,゚Д゚)「ついてまいれ。話がある」

津出はそう言うと、背を向けて屋敷に入っていった。内藤も黙って後を追う。

座敷に入ると津出は静かに腰を下ろし内藤に向き直る。
全て承知しているといった感じの眼が内藤の不安を掻き立てた。

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:06:05.20 ID:nw8L0Va6O
(,,゚Д゚)「用件はツンのことだな」

( ^ω^)「……はい」

(,,゚Д゚)「あれは部屋から出てこんのだ。まだ納得しかねておるようでな」

( ^ω^)「では……ツンどのの祝言が決まったというのは」

(,,゚Д゚)「…本当だ」

(;^ω^)「……!」

内藤は言葉が出なかった。
話を人づてに聞いた時は信じられなかった。いや信じたくなかった。
しかしこうして本人の父親から言われると信じるしかない。
言いたいことは山ほどあるはずなのに言葉が出ない。

(,,゚Д゚)「内藤。お主の働きもあって藩政は一新された。
    しかし、引家様が中心となって一つになるにはまだ結束が弱いのも事実だ」

(,,゚Д゚)「血の関係ほど深い仲は無い。これは昔から行われてきたこと。
    お主も分かるはずだ。全て藩の未来の為なのだ」

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:07:23.76 ID:nw8L0Va6O
(;^ω^)「しかし…拙者とツンどのは」

(,,゚Д゚)「……。お主とツンが何なのだ」

(;^ω^)「……!」

内藤は言葉に詰まった。
津出は鋭く内藤を睨み付けていたが、やがて視線を下ろした。

(,,゚Д゚)「……すまぬ。わしもお主らのことは薄々感づいておった。
    ……ツンのあの顔を見ればの」

(,,゚Д゚)「そしてわしもお主を気に入っておるのだ。
    ツンが望むならと考えた時期もあった。……しかし」

(;^ω^)「……」

(,,゚Д゚)「ツンを嫁にやる訳にはいかぬ。分かってくれ」

内藤は全身の力が抜けるのを感じた。
このままでは大切なものを失うと分かっている。
しかし言葉は出てこなかった。

34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:08:34.86 ID:nw8L0Va6O
(  ω )「失礼しますお」

ふらりと立ち上がり部屋を出ようとする内藤に津出が声を掛ける。

(,,゚Д゚)「ツンには会わずに行ってくれ。あいつも今は辛いはずだ」

内藤はその言葉に返事もせずに部屋を出る。
いや、内藤には既に何も聞こえていなかった。

津出の家来が申し訳無さそうな顔をして内藤を見送る。
その時、内藤は視線を感じ屋敷を振り返った。

( ^ω^)(ツン……)

障子越しに俯いて震える影が見えた。
その小さな影が内藤の胸を抉る。

( ^ω^)(ツン……!)

歯を食い縛って内藤は門を出た。
振り返らずに走る。すれ違う人々の驚きも気にせずひたすら駆け続けた。

36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:09:51.71 ID:nw8L0Va6O
いつの間にか道場の前に居た。

内藤は膝を着いて喘ぐ。頭がぐらぐらと揺れ、呼吸がままならない。

ようやく体を立て直すと礼をして道場に入った。


( ・∀・)「来たか。内藤」

( ^ω^)「……茂良どの」

道場の壁に体を預け茂良が稽古を眺めていた。
内藤に気付き長岡が近づく。

( ゚∀゚)「茂良どのは先程から稽古をつけて欲しいと待っていたのだ。
    試合も近い故、断ったが強引での」

長岡が軽く嫌みを言うが、茂良はなんら気にしていない様子だ。

( ・∀・)「知っての通り、今はこちらの道場は慌ただしくての。
    道場主として己の稽古もままならんのだ。是非に。」

( ^ω^)「……」

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:10:47.63 ID:nw8L0Va6O
茂良の顔には笑みが浮かんでいる。
そこには一度立ち合って打ち負かしている相手に対しての侮りがあった。

( ^ω^)「……拙者は構いませぬお」

( ・∀・)「それは有難い!では早速」

長岡が何か言おうとしたが、茂良はさっさと準備を始める。
内藤も黙って竹刀を振り始めた。

内藤の異変に欝田だけが気付いた。静かに近寄る。

('A`)「内藤。何かあったか」

( ^ω^)「……何も無いお」

('A`)「嘘を吐くな。いつからの付き合いだと思っている」

( ^ω^)「……すまぬお。今はまだ」

('A`)「……」

欝田は黙って内藤から離れた。

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:11:51.12 ID:nw8L0Va6O
( ・∀・)「用意はよろしいか」

茂良は一足先に開始線に着いている。
内藤も竹刀を止め、軽く汗を拭き長岡と向かい合った。

茂良が内藤にだけ聞こえる声で話し掛ける。

( ・∀・)「御前試合の前に借りは返したくてな。直心流に負けは無い」

( ^ω^)「…くだらぬお」

(#・∀・)「なにっ!」

( ゚∀゚)「始めっ!」

茂良の声は長岡の掛け声にかき消された。

(#・∀・)「おおっ!!」

茂良の気合いの声が道場に響く。
欝田をはじめとする道場生は固唾を延んで立ち合いを見守っていた。

41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:13:49.60 ID:nw8L0Va6O
気合いに反して茂良の動きは冷静だった。
隙を作ろうと竹刀を小刻みに振るう。
対する内藤は静かに足を送りつつ茂良の動きを見つめていた。

(#・∀・)「はぁっ!」

茂良がやや強引に面を放つ。
内藤は躱さずに受け竹刀を弾く。そのまま距離を置いた。

( ・∀・)(なぜ打ってこぬ……)

茂良に一瞬の迷いが生じる。
内藤は自分から攻め込むような気を見せない。

( ・∀・)(ふん、ならば攻め込み隙を見てまた双燕を打ち込むのみ)

道場生が見ていようが関係無かった。
一度見られた位で見破られる技では無いと茂良はタカをくくっている。

43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:15:57.73 ID:nw8L0Va6O
すると内藤が隙を見せた。
竹刀を僅かに下げ足を止めたのだ。

(#・∀・)「おお!」

茂良が鋭く打ち込む。内藤の肩を竹刀が捉える。


と思われた瞬間。
茂良の前から内藤の姿が消えた。

(;・∀・)「……!!」

反射的に竹刀を横に滑らせ面を守る。
内藤の竹刀は目前に迫っていた。

バシィッ

茂良は竹刀を落として蹲った。

(;゚∀゚)「い、一本!それまで!」

勝敗が決したというのに道場は静まり返っていた。
長岡でされ今の内藤の一撃が理解できない。

やがて茂良が立ち上がると内藤を睨み付けた。
痛みからか顔から汗が吹き出ている。

(;・∀・)「なんだ今のは……答えろ!内藤!」

44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:16:57.97 ID:nw8L0Va6O
( ^ω^)「……ありがとうございましたお」

内藤は呟くように言うと道場を後にした。
後ろから腕を押さえた茂良が叫ぶが振り向かなかった。
道場生もただならね様子を察し黙って道をあける。



('A`)「内藤!」

道場を出て少し歩くと欝田が追い付いてきた。
内藤の顔を一瞬覗き込むと何も言わずに横を歩いた。

二人は夕焼けの中を黙々と歩き続ける。

町を繋ぐ橋に差し掛かった時、ようやく内藤は足を緩めた。
土手を下り川辺に立つ。

そこは幼少の頃、よくツンを含めた三人で語り合った場所であった。

46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:21:22.88 ID:nw8L0Va6O
( ^ω^)「欝田」

('A`)「……なんだ」

( ^ω^)「拙者、護りたい者を失ってしまったお」

( ^ω^)「刀に誓ったのだお。一生護り続けると」

('A`)「……」

沈黙が二人を包む。
二人は夕日を反射してキラキラと輝く川面をじっと見つめている。

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/09/26(水) 01:22:05.99 ID:nw8L0Va6O
('A`)「……それでどうする」

欝田がしゃがみこみ石を投げた。
ゆっくりと波紋が広がっていく。

( ;ω;)「分からないのだお!拙者はこれからどうすれば!
     何の為に刀を振るえばいいのだお!」

内藤が声を荒げる。一体何時ぶりだろうか。その目には涙が溢れていた。

( ;ω;)「どうすればいいのだお……ツン……」

夕日が二人を真っ赤に染める。
二人は日が沈むまでその場に立ち続けた。



続く



ξ;;)ξ「ごめんね…内藤」

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