5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:44:29.23 ID:/P3ZXns1O
【第十三話 餞別】


井戸の冷たい水は内藤の体ばかりか心まで引き締めた。

昼間とはうって変わり静けさの漂う早朝の道場。
内藤は一人竹刀を持ち素振りをしていた。

竹刀を振るうごとに心が落ち着いていくのを感じる。
気合いを込めて武雲流の基本の型を繰り返した。

半刻程続けると技の鍛練に入る。
集中し頭の中で敵の姿を思い浮かべると、ふと欝田が浮かんだ。

( ^ω^)(あやつには借りが出来てしまったお)

再び集中を始めるが、その顔には笑みが浮かぶ。
悩み苦しむ内藤を立ち直らせたのは親友の言葉だった。

内藤は改めて欝田の言葉を思い出し噛み締めた。

( ^ω^)(ツン……約束は守るお)

再び気合いを入れ直し竹刀を振るう。
見据えた敵は今日行われる御前試合の相手である。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:45:36.92 ID:/P3ZXns1O
更に半刻続けると入り口に人の気配がした。
竹刀を下ろし振り向くと長岡が礼をして道場に入るところだった。

( ゚∀゚)「やっておるな。内藤」

( ^ω^)「長岡どの。これから勤めですかお」

( ゚∀゚)「そうだ。俺は御前試合を見ることはかなわんからな。
    …少し話もある」

そういうと内藤を見据えて口を開く。

( ゚∀゚)「ずばり聞くが……」

( ゚∀゚)「茂良に放った打ち込み。あれは何だ」

( ^ω^)「……」

( ゚∀゚)「……答えられぬか。ならばこれだけは答えろ。
    俺との立ち合いの時、一度でも手を抜いたことがあるか」

( ^ω^)「それはありませぬ。刀に懸けて言えますお」

( ゚∀゚)「……」

内藤は長岡の睨みに目を逸らさずに答える。
長岡は平静を保っているように見えたが、その目にはもの言わぬ凄みがあった。

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:46:59.86 ID:/P3ZXns1O
( ゚∀゚)「……今から立ち合うぞ。しばし待て」

長岡は手にしていた風呂敷包みを放り投げ、壁の竹刀を手にする。

(;^ω^)「しかし拙者はこれから試合が……」

( ゚∀゚)「俺は当てぬ。だか内藤、お前は必ずあの技を放て。いいな!」

( ^ω^)「……分かり申した」

長岡の有無を言わさぬ言い様に内藤は覚悟を決め立ち合いを承諾する。
長岡はすぐに袴を捲し上げると器用に襷をかけ開始線に立った。

( ゚∀゚)「準備はいいか」

( ^ω^)「いつでも。長岡どのは竹刀を振らないでよろしいのですかお」

( ゚∀゚)「ふん。竹刀なら毎日振るっておる。欠かしたことなど無い。では」

(#゚∀゚)「いくぞ!!」

静かだった道場を二人の気合いの声が包む。
内藤は長岡の気迫に身体が熱くなるのを感じ、再び竹刀を強く握り直す。
力が漲るのを感じた。

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:47:40.52 ID:/P3ZXns1O
二、三確かめるように中央で打ち合う。
その後すぐに申し合わせた様に距離をとった。

( ^ω^)(さすがだお……)

お互い青眼に構え、足をゆっくりと進める。
内藤は長岡の気迫と洗練された構えに、まるで未知の相手と立ち合っている感覚を覚えた。

(#゚∀゚)「はあっ!!」

距離を保ちおよそ半周ほど円を描いた時、
長岡が四間程の距離を瞬時に詰めた。

(#^ω^)「おおっ!!」

内藤は動きに合わせて面を放つ。
対して長岡は大きく音を立てて足を踏みとどめ腰を据えて打ち返した。

そのまま目に止まらぬ打ち合いが続く。
激しい打ち合いの音が道場に響いた。

長岡の力強い打ち込みにおされ、内藤が思わず距離を取った。

(;^ω^)「……?」

ふと長岡の構えが変わった。
青眼よりやや上段に構えている。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:48:46.47 ID:/P3ZXns1O
次の瞬間、するどい面打ちが内藤を襲う。
慌てて身体を斜めに反らして躱した。

(; ω )「っ!!」

考えるより先に本能が竹刀を額の前にすべらせた。
その竹刀が長岡の打ち込みをぎりぎりでふせぐ。

そのまま押し合うと二人は気合いと共に身体を入れ替え距離を取る。

(;^ω^)「……今のはまさか直心流の」

( ゚∀゚)「よくふせいだな。だがまだ立ち合いは続いておるぞ」

再び長岡が距離を詰める。
その時、内藤は長岡の構えに一点の隙を見た。

(#^ω^)「おおおっ!」

逆に踏み込むと隙に向かって打ち込む。

(#゚∀゚)「おらぁ!」

しかし長岡はこの打ち込みを読んでいた。
気合いと共に内藤の竹刀を大きく弾いた。

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:49:47.81 ID:/P3ZXns1O
長岡の鋭い突きが迫る。

(;^ω^)「くっ!」

ここで神速の動きを見せる。
内藤は身体を低く屈めると打ち込みよりも速く後ろに跳ぶ。

(#゚∀゚)「おおっ!!」


(;^ω^)「っっ!!」

瞬間、長岡は神速の動きに遅れながらも踏み込み飛び込んできた。



パシィ


乾いた音が響いた。

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:51:19.46 ID:/P3ZXns1O
( ゚∀゚)「……その距離からでも放てるか」

長岡は肩を押さえて竹刀を下ろした。
表情は思いの外明るい。

( ゚∀゚)「しかし茂良は手強いぞ。あやつが一度見た技に策を持たぬとは思えん。
    おそらく何かしら工夫してくるはず」

内藤も竹刀を下ろした。肩で息をする。

(;^ω^)「それは承知。あの時は安易に技を見せてしまいましたお。
     それより先程の面打ちは直心流のものでは」

長岡は答えずに着物をただすと竹刀を壁に掛けた。

(;^ω^)「長岡どの!」

もう一度問い掛ける。
茂良の二度来る打ち込みの謎は未だ解けていない。
それは内藤にとって御前試合においての懸念の一つになっていた。

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:52:31.79 ID:/P3ZXns1O
長岡は風呂敷包みを掴むとにやりと笑った。

( ゚∀゚)「あれはただの真似事にすぎん。しかし俺も茂良には一度遅れをとったでな…
    技に対する工夫はできている。あとは己で考えるのだな」

そこまで言うと入り口に立ち内藤を見据えた。

( ゚∀゚)「これが最後の餞別だ。もう稽古をつけることも無い。
    お前とはこれからは刀を競う仲だ」

( ^ω^)「長岡どの……」

内藤が次の言葉を発する前に長岡は道場を後にしていた。
慌てて後ろから礼を叫ぶが長岡が振り返ることは無かった。

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:53:46.25 ID:/P3ZXns1O
長岡を姿が見えなくなるまで見送ると、内藤は道場に入り腰を下ろした。

先程の立ち合いを思い浮べる。

( ^ω^)(ふむ……)

朧気ながら何かを掴んだ気がした。

茂良との立ち合いは五分であったが、
技のせいで少なからず苦手意識のあった内藤は自信がつくのを感じる。

( ^ω^)(長岡どのにも感謝せねばないけぬお…
     しかし、思えば少し前まで恐くて目も合わせることができなかったお
     よく変わったものだ……)

今では遠い昔に思えた。内藤に再び気合いが入る。

勢いよく立ち上がると荒巻の部屋に向かった。
御前試合には師が同伴することが決まっている。

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:54:40.48 ID:/P3ZXns1O
部屋の前まで行って荒巻がいないことに気付いた。
内藤は少し考え庭に向かう。

( ^ω^)「こちらでしたかお。先生」

/ ,' 3 「む、来たか。長岡はもう行ったのか」

荒巻は縁側に腰を下ろし茶を呑んでいる。

(;^ω^)「ご存知でしたのかお。まさか立ち合いを」

/ ,' 3 「無論、見ておった。内藤……」

/ ,' 3 「どうやらちと迷いがあるようじゃな。
    今日の相手はそれで勝てるほど甘くは無いぞ。気を引き締めよ」

( ^ω^)「……はい」

内藤は自身でさえ気付かなかった胸の内を言い当てられた気がした。

21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/01(月) 23:55:46.27 ID:/P3ZXns1O
/ ,' 3 「では行くかの」

( ^ω^)「…はい」

荒巻は大儀そうに立ち上がると歩きだした。
その背中を見ながら内藤は自身の心の弱さを恥じる。

( ^ω^)(拙者は負けられぬのだお…)

内藤は自身を鼓舞するように心の中で反芻し続けた。



続く



('A`)(内藤……)
('A`)(嫁よ…内藤に力を!)

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