24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/23(火) 23:55:45.89 ID:rbNkbUKtO
【最終話 刀に生きる】


しばらく微動もしない対峙が続いた。
渋沢に隙は無い。
むしろ微塵でも内藤が隙を見せれば、瞬時に鞘から発せられた刀が襲うはずである。

( ^ω^)「……」

十分な間合いを取りつつも内藤は耐え難い圧迫感を覚えていた。
一度この目で見た渋沢の神速の居合いが頭を離れない。

じりじりと足を運び間を詰める。
渋沢の表情の無い顔は内藤の顔は見ずに、やや下に視線を落としている。足だ。
気付いて足を止めた。

( ^ω^)(…間合いは)

おそらくあと半歩先。
見えない壁でもあるかの様にそこに空気の違いを感じる。

27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/23(火) 23:57:27.40 ID:rbNkbUKtO
居合いには独自の間合いがある。
一撃に懸けるその型から渋沢が己の間合いを熟知していないはずが無い。

しかし内藤は迷わずに再び足を進めた。
そこには正面からぶつかり打ち勝ちたいという気持ちと、
決して慢りではない己の技への自信がある。

( ,_ノ` )「……」

一層濃くなる殺気に、内藤の首筋の毛が残らず逆立つ。
どこからか男の叫び声が響いた。


( ^ω^)「……」






ザッ

一瞬の静寂の後、弾けるように内藤が飛び込んだ。

28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/23(火) 23:59:25.24 ID:rbNkbUKtO
その太刀を刀で受けることができたのは偶然だった。
いや、あえて言うなら内藤の死地に置いてのみ発揮される本能であろうか。
爆発的な勢いで衝突した二本の刀は文字通り火花を散らす。


(# ,_ノ` )「はあっ!」

しかし渋沢の攻撃は止まらない。
その居合いには二の太刀が存在した。
流れるような動きで衝撃を吸収しきれていない内藤に二の太刀を浴びせる。


(#^ω^)「おおおっ!!」

内藤も一歩も引かずここで神速の動きを見せる。
焼けるような痛みと共に頬が削られ肩を斬られるが構わず深く踏み込んだ。

29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:01:37.07 ID:m3ib6T1WO
内藤の必死の袈裟斬りを渋沢は強引に身体を捻ると紙一重で躱す。





( ,_ノ` )「……」

鮮血が飛沫をあげて内藤の顔を濡らした。

30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:03:18.07 ID:m3ib6T1WO

渋沢は刀を鞘に収めた。


( ,_ノ )「見たぞ…貴様の技………見事…」


口から流れだす血とともに、切れ切れに渋沢が最期の言葉を放った。
どっと膝を着くと前のめりに倒れこむ。


(キ ^ω^)「……拙者の技ではござらんお」

最早聞こえてはいないその身体に向けて呟いた。

31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:04:11.95 ID:m3ib6T1WO
暫く息を整えつつ、内藤はその場に立ち尽くした。
肩で息をしながらひびの入った刀を見つめと、その刀身に血だらけの己の顔が映る。

(キ ^ω^)(紙一重だったお…)

斬られた肩にはもはや力が入らない。
頬から流れる血がぼとぼとと滴り落ち袴を赤く染めている。
満身創痍だった。

33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:05:35.00 ID:m3ib6T1WO
まさに命を賭した刹那の斬り合いの中、内藤が放った技。
それは紛れもなく茂良の秘剣、双燕である。

その技は、紙一重で斬り込みを躱した渋沢の身体を一瞬の間も置かずに捉えた。

内藤は茂良の技の仕組みについては朧気にだが見破っていたつもりではあった。
しかしあれほどの死地において、
初めてとは思えぬ程に自然に身体が動いたことが未だに信じられない。
斬り込む寸前まで考えてもいないことであった。



(キ ω )「……!」

ようやく御前に向かって歩きだそうとした内藤が腰から崩れ落ちた。

35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:09:03.33 ID:m3ib6T1WO
内藤は痺れとともに急激に身体が冷えていくのを感じる。

(キ ω )「血を…流しすぎたかお…」

胴着が重く感じられるほど血が流れていることに初めて気付く。

仰向けに身体を横たえ、空を見上げた。
雲一つ無い青空を優雅に鷲が旋回している。


(キ ^ω^)(ツン……拙者は約束を…果たすことはできたのかお)


急激に遠退く意識の中、場内を囲む白幕が一斉に切り裂かれるのが見えた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:11:15.88 ID:m3ib6T1WO

一連の騒動から一年。

ようやく藩は平穏を取り戻し、新たに収穫の秋を迎えていた。

('A`)「…というわけでな。ちっとも俺の話を聞かぬのだ」

(キ ^ω^)「おっお。子が産まれたのだお。仕方無かろうに」

内藤と欝田の二人は、鮮やかに色づいた紅葉が続く道を連れ立って歩いている。

('A`)「それはそうだがの。今からこれでは先が思いやられる」

(キ ^ω^)「あれほど器量も良く甲斐甲斐しく家事をこなす嫁に文句を言うなお。
     拙者など最近は迂濶に呑みにも行けなかった。ま、これは欝田に責任があるがの」

('A`;)「あのことはもう言うな。俺もずいぶんとしぼられた」

ようやく関所が遠くに見えだした。
二人は別れを惜しむように自然に歩調を緩める。

38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:14:12.56 ID:m3ib6T1WO
欝田が道の小石を軽く蹴りあげた。

('A`)「しかし今更ながらお主も分からぬ奴だ。
美しい妻をめとり、藩の剣術指南役の話まであったというに……」

(キ ^ω^)「……」

内藤が足を止めた。

(キ ^ω^)「ツンには確かに悪いことをしたお。
     しかし……」

('A`)「しかし……なんだ」

少し前に進んだ欝田が振り返った。
内藤は腰に差した刀に手を置いている。

(キ ^ω^)「拙者にはやはりこれしか無いのだお。欝田にも分かるはず。
      侍として……いや、同じ刀に生きる者として」

('A`)「……まあ…な」

欝田は真っ直ぐな瞳で見つめる内藤から目をそらした。
再びゆっくりと前を歩きだす。

39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:15:43.82 ID:m3ib6T1WO
内藤が欝田に追い付き横に並んだ。

(キ ^ω^)「それに先日約束させられたお。三年とな」

('A`)「三年?」

(キ ^ω^)「武者修業がどうなろうと三年で一度帰るという約束だお。
     実はツンより津出どの…父上がお怒りでの。強引に誓わされたお」

('A`)「そうか。その頃には俺の子も三つになるな」

(キ ^ω^)「おっ!拙者が刀の稽古をするお!」

('∀`)「それはならん。俺は今から楽しみにしておるでな」

のろのろと歩く二人だったがついに関所に着いた。
内藤は藩お墨付きの許可証とともに手形を懐から取り出す。

40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/10/24(水) 00:17:34.12 ID:m3ib6T1WO
欝田が見送りの許可を取るのを待ち、二人は揃って簡素な門をくぐった。

('A`)「ではここで。達者でな」

(キ ^ω^)「お主もな。家族を大事にするお。
     ……すまぬが何かあったらツンを」

('A`)「任せろ。しかしお主、刀に誓ったのだろう。必ず帰れよ」

欝田の言葉に内藤は満面の笑みを浮かべる。

(キ ^ω^)「無論だお!ではこれにて!御免!」

力強く足を踏み出す。
関所の先はどこまでも続いていそうな長い一本道が続いていた。

この先にはどのような強者がいるのか。
内藤の胸にあるのは期待と少しの不安。

ふと、内藤は荒巻を思い出した。

(キ ^ω^)(先生もこの道を行ったのだお……)

不思議と心がやすらぐ。

秋の風が優しく内藤の身体を吹き抜けた。





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