2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:16:16.33 ID:BPn/mCa2O
ここはVIP食堂。
周りを高層ビルやマンション等に囲まれ、都会の片隅にひっそりと佇んでいる。


( ^ω^)「いらっしゃいだおー」

店に入るなり威勢の良い声が響く。

店主の名はブーン。
先代から始めたこの店の看板を受け継ぎ、まだ2年も満たない。

それでも父親から譲り受けた愛嬌と料理の味の良さは確かであり、この店はいつも常連客から一見さんで賑わっている。

4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:17:12.15 ID:BPn/mCa2O
('A`)「オヤジ、いつもの」

(;^ω^)「ちょwwwブーンはまだオヤジじゃないって何回言ったら…
樹海定食一つだおね」

ドクオはこの店の常連客の一人である。
近くのCDショップで働いているようで、毎日のように休憩時間になるとここに訪れ食事する。
今風の若者であり、ブーンともあまり年差は無いが古びたこの食堂には到底合う感じでは無い。

が、ドクオはこの店が好きだった。

6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:18:39.91 ID:BPn/mCa2O
('A`)「マヨネーズ、キモいぐらいかけてね」

( ^ω^)「あいおっ。
ドクオは樹海定食ホントに好きだお」

(*'A`)「いやぁ…ブロッコリーのあの鬱蒼とした感じとか、日本でも一部でしか食べられないはずのサボテンステーキとかマジヤベェもん」

( ^ω^)(…サボテンステーキなんてマズくて誰も食べないお)

7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:20:17.16 ID:BPn/mCa2O
フライパンの上でステーキ用にカットされたサボテンがジューっと小気味良い音を立て徐々に焼けてゆく。
ドクオはそれをいつも待ちきれない様子で楽しそうに眺めるのだ。

( ^ω^)「若いのにいっつもここに来るなんてドクオは相当の変わりもんだお」

('A`)「俺、ファーストフードとか定食屋とか嫌いなんだよ」

( ^ω^)「だからって彼女まで連れて来るのはちょっといただけないおw」

('A`)「アイツ(*゚ー゚)は変わりもんだから良いの。
ここ気に入ってたし、また連れて来るよ」

( ^ω^)「毎度ありがたいけど素直に喜べないお…」

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:21:56.67 ID:BPn/mCa2O
仕上げは味噌汁に大量のワカメを入れて(ぶち込んで)樹海定食をドクオに差し出す。

(*'A`)「待ってましたー!!」

ドクオは一度口にすると食べ終わるまで絶対喋ってこない。

美味しそうに食べるその姿がブーンにとって何よりの喜びだった。

(*'A`)「固って!!サボテン固って!!ちょwww糸引いてるよwwwwwウヒヒヒヒwwwww」

(;^ω^)(テラキモス)

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:23:23.20 ID:BPn/mCa2O
(´・ω・`)「やぁ、ブーン。今日もいつもの頼むよ」

彼の名はショボン。
彼も同じくブーンやドクオと年の差は無く、今時の若者であるが、非常に落ち着きがあり独特の雰囲気を持った青年だった。

( ^ω^)「らっしゃいだおー。
バーボン定食一丁だおね」


3人はこの店で知り合った仲であり、ドクオとショボンもまた常連仲間だった。

(*´・ω・`)「あ、ドクオだ。ハムハムしてる、ドクオ、サボテンハムハムしてる」

うん、ショボンはウホなんだ。すまない。

(*'A`)「ヤベー!!味噌汁なのにワカメで汁が見えねーwww」

ドクオは隣に座ったショボンにも気付かず樹海定食を貪っている。

(´・ω・`)「チッ。まぁ食い終わるまでお触りは無しにしとこう」


この二人は毎日こんな感じである。

10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:25:45.70 ID:BPn/mCa2O
ブーンの手元から勢い良く火が上がる。

バーボン定食は名の通り、バーボンを使った定食である。

見た目はただの炒め野菜もバーボンの後味が色濃く残り、
見た目はただの焼き肉もバーボンの後味が色濃く残る。

特製味噌汁にはバーボンが数滴注がれる。

ちなみに好みで食後にカカオ99%も付くが、今までショボン以外頼んだ者はいない。
と言うより、バーボン定食自体ショボンしか頼まない。

( ^ω^)「へい、おまちだお!」

(´・ω・`)「ありがとう」

定食を差し出されたショボンの顔もまた目を輝かせ嬉しそうに笑みをこぼす。

ちょっと変わってるとはいえ、やはりお客さんの喜ぶ顔はブーンにとって何よりの励みだった。

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:26:34.67 ID:BPn/mCa2O
と、その時…

『ガラララッッ!!!!』

勢い良く店の扉が開かれ、一人の女性が入ってきた。


ξ゚听)ξ「…突然の訪問、失礼します。早速ですが立ち退きのお願いに上がりました」


( ^ω^)「……な…」



(;^ω^);'A`);´・ω・`)「な、なんだって━━━━━━━━━━━━━━!!!!!!111!!!!」

12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:27:40.63 ID:BPn/mCa2O
(#'A`)「姉ちゃん、入って来るなり何言ってやがんだ…」

ドクオは席を立ち上がり、押し殺した声をゆっくり吐く。

ξ゚听)ξ「気に障ったんなら御免なさい。
アメリカでの生活が長かったから、日本人みたいに回りくどい言い方嫌いなの…」

(#'A`)「あぁん?何がアメリカだ。
ジャパニーズパンクス、ナメんじゃねぇぞ」

ξ゚听)ξ「それよりアナタ、口から糸引いてるわよ」

(*'A`)「あっ★」

(;^ω^)(サボテンかお…)

(*´・ω・`)「ウッ★」

(;^ω^)(勃てないで欲しいお…)

13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:30:32.68 ID:BPn/mCa2O
(;^ω^)「あのー…僕がここの店主ですが、そういったお話は一切お断りさせて頂いているんですお」

話を聞いたか聞かずか、女は一枚の紙を差し出した。

ξ゚听)ξ「内藤さん、ここの土地、まだアナタのものではありませんね?」

(;'A`)「何ィッ!?」

(;´・ω・`)「本当かい!?ブーン!!」

(;^ω^)「…アウアウ…」

ξ゚听)ξ「お二人には残念ですが、これは権利書のコピーに過ぎませんが、この通り真実なのです」

14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:31:28.44 ID:BPn/mCa2O
(;^ω^)「た…確かに、ここは荒巻会の会長さんからお借りさせてもらっている土地で…」

ξ゚听)ξ「この度、荒巻会の所有する土地の一部を、我が長岡コンツェルンが買い取らせて頂く方向で話が進んでいます」

(;´・ω・`)「…何でまた」

(;^ω^)「巨大ビルだお」

(;'A`);´・ω・`)「な、なn(ry」

ξ゚听)ξ「その通り。
六本木ヒルズ、表参道ヒルズに続き、この度ジョルジュヒルズ建設のためこの一体の土地全て長岡コンツェルン所有のものとなる予定です」

15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:31:54.16 ID:BPn/mCa2O
(;'A`)「ジョルジュヒリュ…言い難いな!!オイ!!」

ξ゚听)ξ「いずれ慣れます、私みたいに」

(;^ω^)「…噂には聞いてたお…」


ブーンが思い出していたのは数週間前の昼食時のことだった。

16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:33:23.12 ID:BPn/mCa2O
( ´_ゝ`)「うちも結局立ち退く方向に決まったようだ」

(´<_` )「やはり兄者のとこもか。
今や押しも押されぬ長岡コンツェルンだからな。
まぁ食い扶持には困らずに済むし悪くはないか…」

( ´_ゝ`)「あぁ、それに今までに無い大きなビルだそうだ。
あらゆる事業をビル内で展開するだろうし、ここら一帯は長岡の傘下に入ることになるだろう」


――――…

(;^ω^)「そんな話を近所の会社に勤める常連さんが言ってたお…」

17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:34:11.95 ID:BPn/mCa2O
ξ゚听)ξ「話が早く済みそうで何よりです。
立ち退き料は勿論、ジョルジュヒルズでは昭和テイストな大衆食堂も設ける予定でして、よろしければそちらで…」

(;^ω^)「…すみませんが…僕は小心者なので急に話を決めることはできないお。
時間を頂けますかお?」

女は小さく溜め息を吐くと、それまで通りの無表情な顔で

ξ゚听)ξ「分かりました。近々お返事を頂ければ結構ですので。
遅れ馳せながらこちらは私の名刺です。考えがまとまり次第御連絡下さい」

と、適当な挨拶をして出て行ってしまった。
ドクオとショボンは呆気に取られしばらく扉を眺めていた…

19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:36:17.89 ID:BPn/mCa2O
('A`)「何だ、あのアマ。淡々としやがってムカつく女だったな」

(´・ω・`)「まぁ…天下の長岡コンツェルンに勤めるぐらいだから、プライドが物凄いんだろうね」

('A`)「チッ。せっかくのサボテンステーキが冷めちまったじゃねぇか」

(´・ω・`)「僕のバーボン定食もすっかりアルコールが抜けちゃったみたいだ…」

女が去ったきり、ブーンは二人に背を向け黙ったまま何かをしている様子だったが、

( ^ω^)「関係ない二人を気分悪くさせて正直すまんかったお。
これはせめてものお詫びだお」

二人の間に大盛りのキャベツとトンカツを差し出した。

(´・ω・`)「…ブーン…」

(´・ω・`)「キャベツにソースはかけないで欲しい」

('A`)「あ!キャベツにはマヨだろ!!」

( ^ω^)「ぶひ?」

('A`)「ぶひ?じゃねーよ、ピザ」

22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/28(水) 01:38:31.43 ID:BPn/mCa2O
その後もブーンはいつも通り営業し続け、なるべくあのことを考えないように明るく振る舞っていた。


暖簾を下ろす頃には陽もすっかり暮れるが、これでブーンの一日が終わるというわけではない。
この後も伝票計算に料理の下ごしらえ等、しなければいけないことは山程ある。

しかし、やはり気分が優れるはずもなく今一つテキパキした行動を取れない。

ブーンは薄暗い店内のカウンターに座り、昼間にあの女性からもらった名刺を眺めていた。

囁くように吐き出した一言…


( ^ω^)「…彼女はやっぱり…ツンだお…」


その言葉は古びた木目の床にシミになることもなくこぼれ落ち消えた。

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