- 180 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:16:42.40 ID:M+6liYWVO
- / ,' 3「ワシもまだその頃はここを立ち上げたばっかりでな、恥ずかしい話、この界隈の上を目指してカナリ鼻息荒く、息巻いていたよ」
/ ,' 3「荒巻だけに」
('A`)(´・ω・`)「いやいやいやいや…」
- 181 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:17:57.02 ID:M+6liYWVO
- / ,' 3「その日は気分良く組のもん引き連れて、その料亭に行ったんじゃ…
…あぁ、冬のエラく冷え込む日だったのを覚えてるよ…」
荒巻は少し唸り、何かを思い出してるかに見えたかと思うと、続けてゆっくりと喋り出す。
/ ,' 3「何を食べたかまでは覚えてないが、美味かったのは覚えているよ。あの店はその後も贔屓にしてたぐらいな」
(´・ω・`)「話に関係すると思わないですけど…何てお店ですか?」
/ ,' 3「うーん…もう何十年も行っておらんからなぁ…ニ…何とか…」
('A`)「話と関係無ぇよ。
爺さん、続けてくれ」
- 182 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:20:09.80 ID:M+6liYWVO
- ドクオのぶっきらぼうな言い種にギコが一瞬ピクッとするが、荒巻が目でそれを制した。
/ ,' 3「あぁ。
それで続きなんじゃが、食事も一段落して用を足しに廊下に出たんじゃよ」
/ ,' 3「気が付けば雪が降っておってなぁ…相当な寒さだったよ。
しばらく廊下を歩くと中庭が見える場所に出るんじゃが、そこに一人の板前が立っていてな…」
( ^ω^)「それが…」
/ ,' 3「あぁ、お前の親父さんだよ、ブーン。
こんな冷え込む中、何をやっとるんだろう、と思ったよ」
- 183 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:21:45.53 ID:M+6liYWVO
- / ,' 3「ワシはホロ酔いで良い気分じゃったからな。気になって声をかけたんじゃよ……」
────…
/ ,' 3「おう、板前の兄ちゃん。こんな寒い中、中庭なんか見て何してやがんだ?」
( )「あぁ、すみません…お客様の邪魔ですよね。
…少し、雪を見てまして」
/ ,' 3「そんな珍しいもんでもないだろ、これからもっと降るさ」
( )「そうですね…
…お客様、度重なる失礼ですが、今日の御料理、お気に召されましたか?」
/ ,' 3「おう、今日初めて来たが、噂以上に美味かった。素直に良い店だと思うぜ」
( )「そうですか…」
- 184 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:24:01.43 ID:M+6liYWVO
- 寒さで少し冷える気がしたが、酒で火照った体には丁度良いと思った荒巻は、壁にもたれ掛かる。
それに、まだ幼さの残るこの男の顔とは裏腹に、静かで深みのあるその声と真っ直ぐ何かを見据えた目に荒巻は少し興味を持った。
/ ,' 3「何を考えてる?」
( )「え…」
/ ,' 3「さっき質問されたからな、お前も俺の質問に答える義務はあるはずだw」
( )「そうですねw
実は…ここを辞めようと思ってます」
/ ,' 3「…何か不満でもあるのか?
お前さん、若いとはいえ、ここの料亭ならそこそこの給料はあるはずだが…」
( )「不満は無いですよ。ここの給料も僕には勿体無い程頂いてます」
/ ,' 3「…分からんな」
- 185 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:26:29.16 ID:M+6liYWVO
- 男は口元を少し緩める。
( )「ですよねw僕もこの答えを導くまで、何度か自分がよく分からなくなりましたw
何回も自問自答繰り返しましたよ、それで…やっと分かったんです」
/ ,' 3「…何をだ?」
( )「…僕は、僕の料理を喜んで食べてくれる人達の顔をもっと近くで見ていたい。
地方から寄せられる高級な食材じゃなくても、僕が自分で気に入り選んだ食材で誰でも食べてもらえるような値段の料理を作りたい」
/ ,' 3「……」
( )「トーチャンやカーチャンには迷惑かけちゃうけど、これが僕の最後のワガママなんです。
僕は、自分の店をを持ちたい」
- 186 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:28:23.00 ID:M+6liYWVO
- 一気に喋り終えた男は一つ大きな白い溜め息を吐くと、慌てたようにまた口を開く。
(; )「す、すいません。今会ったばかりなのに、しかもお客様なのに…ホント申し訳有りません…」
/ ,' 3「……」
(; )「言い訳がましく聞こえるかもしれませんが、お客様の雰囲気が何か…その…凄く良いっていうか…貫禄があって何でも聞き入れてくれそうな感じが…」
/ ,' 3「……俺ァこう見えて極道だぜ?」
Σ( ;)「ちょwww本当ですかwwwww
すいません!!本当に申し訳有りません!!」
/ ,' 3「フフフ…」
(; )「??」
/ ,' 3「ハッハッハッ!!気に入った!!お前さん気に入ったぜ!!
俺の名前は荒巻だ!お前さんの名前は?」
(; )「???
内藤、と申します…」
- 189 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:30:37.72 ID:M+6liYWVO
- ────…
/ ,' 3「正直出会ったばかりの若者に惚れ込むとは思ってなかったわw
その後、ワシは奴に土地を譲るようなカタチで貸し、奴は料亭を辞め、そして…」
( ^ω^)「あの食堂を…」
/ ,' 3「そうだ。
これは自慢じゃが、ワシはあの店の初めての客じゃよw」
( ^ω^)「トーチャン、ブーンには店を作った経緯とかあまり話してくれなかったお…」
/ ,' 3「自分の息子に対しては不器用な奴でな、でもお前が店を継ぐと言った時、アイツは心底喜んどった。
口では「好きな道に進めば良いのに…」とボヤいてたがな」
( ;ω;)「トーチャン…」
- 191 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:33:39.13 ID:M+6liYWVO
- (,,;Д;)「い…良い話じゃねぇか、ゴルァ…」
ブーン達が座るソファーの後ろでギコが鼻をすすり上げる。
('A`)「…爺さん、ブーンとの親父さんの成り行きは分かった。
アンタにとってもあの食堂がどれだけのものかもちょっとは分かったつもりだ。
それでも…」
荒巻は窓から少し離れ、ブーン達の右斜め前の少し広いスペースまで歩くとゆっくり膝を曲げ、手を床に付いた。
(;^ω^)(;'A`)(;´・ω・`)「!!!!!!」
/ ,' 3「すまない、ブーン。
ワシは、お前とお前の両親…そしてその二人のような、あの場所を愛してくれている客全てての人の期待を裏切り、居場所を取り上げてしまう…
言い訳はしない。本当にすまない、ブーン」
- 192 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:36:00.44 ID:M+6liYWVO
- 慌ててギコが荒巻に駆け寄る。
(;,゚Д゚)「か、会長!!俺の目の前でそんなこと止めて下さい!!」
(;'A`)「爺さん、止めろよ!!何もそこまでしなくても…」
(;´・ω・`)「そ、そうですよ!事情が事情なだけに…」
(;^ω^)「そ、そうだお!会長さんは悪くないお!むしろブーンは感謝してるくらいだお!!」
ブーンは何をして良いか分からず、荒巻の元に駆け寄ると同じように土下座する形で荒巻に喋りかけた。
/ ,' 3「すまない…すまない…ブーン…」
(;^ω^)「……」
- 193 :◆YeHeE7t/qo :2006/06/29(木) 00:40:03.33 ID:M+6liYWVO
- ──…荒巻会からの帰り道。
電車を降りるまで3人は一切口を開けずにいた。
荒巻が顔を上げた時、彼の目から涙がこぼれているのを3人は見てしまう。
その涙はブーン達の胸を締め付け、それ以上何も言えず荒巻会を後にした。
出入り口まで見送りに来たギコは言った。
(,,゚Д゚)「潰れると言っても期間的にはまだ先の話だと思う。それまでには俺も絶対お前の食堂に行くぜ。
ただ会長のことはそっとしておいてくれ…俺もこの荒巻会の名の下で働く者の一人として謝っておく…すまないな」
( ´ω`)(今日は謝ったり、謝られたり…忙しい一日だったお…)
都会の空気で汚れた星の見えない夜空を見上げ、ブーンは大きな溜め息を吐いた。
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