11 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 21:56:36.86 ID:S+ekchtg0

本当に、なんだったんだ。




( ・∀・)「……おっ、これ聴いてみろよ。最近の報道ははえーはえー」

――○○月××日。午後2時頃、ニチャン環状線ウツダ町駅の地下駐輪場内で、
身元不明の白骨死体が発見されました。解剖によると、死後およそ『3年』程経過しているとの情報が入ってきております。
この事件を受けて警察は『まだ何も言える状況ではない。3年前の行方不明者に重点を置いて、慎重に操作を進めていきたい』
とのコメントを発表しております。

( ・∀・)「3年だってよ!!お前が少し前に『還して』やった上司がだぜ?笑えるよなぁ!!」
(; A )「……そろそろ教えてください」

あの後、ドクオとモララーは駅の外へと出た。
満身創痍だったドクオの肩を担いで、そのまま乗ってきた車へと連れて行ったのだ。

外国産の左ハンドル。
ドクオは車に興味が無い為、何の車種などはわからなかったが、左=高い、という一般的イメージで物を見ていた。

12 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 21:59:07.65 ID:S+ekchtg0

だが、そんな車の事を考えている時間など、ごく一部だ。

手についた、あの臭い。
頭にこびり付いた記憶。

ナイフを突き刺した時の、柔らかい感覚。
そして、tanasinn。


ドクオの頭の中を、グルグルと渦巻いていた。





('A`)にはノルマがあるようです 第3話『具象化されない事物と少女』

13 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:00:44.57 ID:S+ekchtg0

( ・∀・)「ああ。お前って変わってるのな。ドクオ」
('A`)「……。何がですか」

――次のニュースです。

( ・∀・)「普通よ、どこにつれてかれるのかわかんねぇこの状況で、今何が起こったか教えてくれ、な〜んて言うか?
      もしかしたら俺は、お前を拉致して、海外に売り払う東亜の糞共かもしんねぇんだぜ?」

('A`)「……それならそれで、いいと思ってますから」
( ・∀・)「ふぅん。諦めるのはえーな。変わった奴。で、質問なんだっけ?」

――パソコンのモニターの前で、突っ伏すように倒れている21歳の男性が、意識不明の重体。
  原因は、モニターに表示されたインターネットページの、視覚への刺激の強い発色だと考えられています。
  近年、若年層へのインターネットの普及が……。

(;'A`)「あの紫色の煙……。tanasinnって何なんですか。
    今も、自分の体にいるんですか?」

14 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:02:06.13 ID:S+ekchtg0

( ・∀・)「ああ。いるぜ」

――チャットや、巨大掲示板、違法アダルトサイトによるトラブルも絶えないこの現状で、参議院議員である○○氏は、
  『インターネットの閲覧には、免許制。もしくは、年齢制限を設けるべきである』との主張をしています。
  そこで今日は、○○産業大学教授の……ブツン。

モララーはカーラジオを切る。
タイヤが地面を擦るような音が、静かに聞こえる。
右方向へと車が進んでいく。

( ・∀・)「お前の中に、確かにいるんだよ。tanasinnは」
('A`)「……そもそも、tanasinnって何なんですか!?」

少しゆっくり目に、繁華街を抜けて行くモララーの車。
ドクオのアパートとは正反対の方向へ向かっている。

本当に拉致とかならどうしようか、などと少し考えたが、
こんなオカルトな話を真剣にする男がするようなもんじゃない。

頭のなかですぐに切り替えた。

( ・∀・)「tanasinnってのは、お前そのものなんだよ」

16 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:04:05.49 ID:S+ekchtg0

('A`)「……?」

ますます訳のわからない返答。
ドクオは、どう返していいものかさえわからなかった。

( ・∀・)「この質問は、これ以上は、何を言っても同じ。
      お前はtanasinn。tanasinnはお前なんだよ」

(;'A`)「そんな、そんな子供騙しみたいな事を言って、どうするんですか?
   有り得ないでしょう!?ゾンビみたいな上司が出てきて、体の中から紫色したへんな煙がでてきて!!」

( ・∀・)「そうなんだよ。一見、子供騙しのようなその存在。しかし、それは特定の人物の中に巣食う存在。
      大きな存在。力。形。tanasinnの事を理解しているか?と問われれば、Yesとも言えないし、Noとも言えない」

どう質問しても、帰ってこない『答え』に、ドクオは苛立ちを隠せない。
言われるがままに、自分の上司にナイフを突き刺し、この男の思うように行動しているのに。

17 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:05:53.26 ID:S+ekchtg0

(#'A`)「じゃあなんで!!俺の目の前に現れたんですか!!
    俺じゃなくても、誰でもいいんじゃなかったんですか!?」

( ・∀・)「違うぜ違うぜ。それは全然違うぜ。”特定の人物”俺はそう言った。だろ?
      その特定の人物が、お前なんだよ。ドクオ。これは、tanasinnと違ってよ、はっきりと言える事実なんだよ」

車が、右に曲がる。

(#'A`)「そんな訳の分からない事……。信じられるとでもおも……!!」

ドクオの口を、手で押さえるモララー。
背筋が、凍った。

あの、最初に会ったときの感じがしたのだ。
密度の高い、あの恐怖が。

そして放たれる、意味深な一言。





( ・∀・)「Don't think. Feel and you'll be tanasinn」

28 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:14:18.56 ID:S+ekchtg0
(;'A`)「もがっ……!!」


モララーの顔が、ドクオに近づく。
気付けば車は歩道の傍に寄せて停められていた。

( ・∀・)「考えるもんじゃねぇ。感じるんだよtanasinnを」


説得力の欠片も無い言葉だった。
だが、どこか納得してしまった。

力強い、言葉だった。

肩から力が抜け、助手席にもたれかかるドクオ。
それを見て、モララーはまたあの笑みを浮かべ、そして、車を動かした。

(;'A`)「なんなんだよ……。tanasinnって」
( ・∀・)「あっ。お前ちゃんとシートベルトしめろよ?」

('A`)「……」

揺れる車内。
ドクオの頭には、変な所だけきっちりとした男と、またあの具象化できない事物が渦巻いていた。

20 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:09:10.44 ID:S+ekchtg0

――――
―――
――



一定の時間を置いて、かたちを変えるtanasinn。

先程までは、道路標識のような形状だったのにもかかわらず、
少し目を離した隙に、人のような形。

水のような形。

はたまた魔方陣のような形。

様々な姿へと変わっていく。

それを、ドクオとモララーは見つめていた。
あの血なまぐさい地下駐輪場で――。

24 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:11:16.48 ID:S+ekchtg0


∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴∴∵∴∵n∴∵∴∵∴        ∵∵
      ∴∵∴s∴∵ヽ( ・ )ヾミ∴∵∴ , ==ミ∴∵∴∵∴ ∵
   ∴∵∴∵∴∴∵∴`^¬"^ ! { イ ( ・ ) ∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴
 ∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴  i ∴∵∵^`='"´∴∴∵∴∵∴
  ∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴ ∴n ∵∴ ∴ ∴∵∴∵
        ∴∵∴∵∴∵ヽ、...__,∴ ∵ ∵∴∴
      ∴∴∵∴∵∴∵∴`゛´ ∴∵ ∵∴∵∴∵∴∴
       ∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
     ∴∵∴∵∴∴a∵∴∵∴∴∵ ∴ ∴∴∵ ∴    t
      ∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴∴∵ ∴
       ∵ ∴∵∴∵∴∴∵∴∵∴ ∵
       ∵           ∵∵∴∴∵      ∴
       ∴           ∴      ∵
       ∴           ∵       ∴
           ∴     s



徐々に、天井へと集まっていくtanasinn。
その塵は、大きく、濃くなっていく。

(;'A`)「はひっ……!!ひぃぃ……」
( ・∀・)「これが、本体なんだな。本体は初めて見るぜ」

そして、ある程度膨張した時点で、崩れていて原型を留めていない元上司の体へと集まっていく。
みるみる内に煙はフサギコを覆い、その濃い紫色は、フサギコを核として、ピラミッド体になった。

26 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:12:21.17 ID:S+ekchtg0

そして、そのピラミッドの天辺へ、紫色の塵が集められ、淡く輝いていく。


( ・∀・)「お前の上司は、tanasinnへと還る」


ドクオには、その声は聞こえていない。

この時のドクオは、腰を抜かし、今にも小便を漏らしてしまいそうな程の、
言い様が無い恐怖に打ちひしがれていたからである。

tanasinnが、tanasinnを喰う。

そう表現すべき現象が終了したとき、残されるのは、骨のみであった。
肉体を形成する、全ての、tanasinnと取れる要素は、全てtanasinnへと吸収され、新たなtanasinnを生む。


ズル……。
 ズル……。


なまめかしい音を立て、ドクオへと”戻って”いく。

体の周囲を、嘗め回すように。
ぐるぐると、渦を巻いて。

29 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:15:15.64 ID:S+ekchtg0

少し、ドクオの体が波を打つと、tanasinnは、周囲の空間は『いつも』に戻った。
誰であろうとも、このような奇怪な現象が起きれば、腰も抜かすし、現実逃避もするであろう。

ごくごく自然な反応を、ドクオはしているのだ。
だが、モララーの存在が、ドクオの反応を異端化させる。

tanasinnの存在をしっているモララーの存在が。
当たり前では無い事物が、当たり前と成す。


――――
―――
――



( ・∀・)「まあ、理解を深める為、色々と説明をしないといけない。
      その為にお前を『俺達』のいる建物へと連れて行こうとしてるんだぜ?」

('A`)「……。拉致じゃなかったんですね」
(;・∀・)「まだその事言ってんのかよ!!」

30 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:16:22.07 ID:S+ekchtg0

ウツダ町を抜けて、モテナイ市郊外へと出る。

ドクオにしては、まだここは近所の範囲内だ。
小さい頃、自転車で家出をした時によく通った橋が右手に見えていた。

('A`)「……」

思えば、小さい頃からろくな事が無かった。

今だってそうだ。
こんな訳の分からない男に、どこかわからない場所へ連れて行かれ、tanasinnだとか、何だとか。
これからどうしろって言うんだ。
仕事も無くした。

('A`)「仕事、探さなきゃ」

ポツリとドクオが吐いた独り言。
それを右耳で聞きながら、モララーは車を動かす。

そして、20分程経ったであろうか。
車が止まった。

( ・∀・)「着いたぜ。降りな」
('A`)「……」

33 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:18:00.95 ID:S+ekchtg0

無言で車から降りるドクオ。
このまま走って逃げようとも考えた。


……考えたんだ。
でも、何かがそれを否定する。
これが、tanasinnなんだろうか。

( ・∀・)「ほら。この廃ビルの地下に、俺達の、住処?って奴がある」
('A`)「は、はぁ……」

( ・∀・)「っと、そういえばお前さ、この辺の人間だよな。
      7,8年前にあった、大型遊戯施設建設計画っての知ってるか?」

('A`)「……はい。『2代目社長の大失敗』ですよね」
( ・∀・)「そうそう。その建設予定地が、この周辺だ」


ウツダ町を含む、人口78万人のモテナイ市に提案された、大型遊戯施設建設。
当時、財政に苦しむモテナイ市政へと企画を持ち込んだ、ナイトウ財閥の一大企画であった。
もちろん、市政が拒む理由も無く、観光集客力の乏しいモテナイ市にテコ入れをする為の要素としては十分すぎる内容であった。

そして進められた建設計画。
だが、その計画が順当に進んでいれば、今、このビルは無い。
計画が難航する、ある『問題』があったのだ。

35 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:19:23.15 ID:S+ekchtg0


( ・∀・)「俺は今24歳。当時高校生だ。それにここ生まれの人間じゃあねぇ。
      だからこれは『ここ』に入ってから色々と聞いた話なんだがな」

モララーは、ビルの入り口にある、
古いビルに似つかわしくないロックにカードを通す。

ドアは、金属が擦れるような音を立て開く。
人の気配がした。

('A`)「あ、同い年なんですね。何月生まれですか?」
(;・∀・)「ま、まあそれは後で教えてやるから、ちょっと話させてくれよ。
      でよ、お前は、その計画が頓挫した時、なんて聞いた?」

('A`)「えっと……。資金繰りが厳しくなったとかなんとか……。
    僕の近所には風俗街が多くて娯楽が少なかったですし、みんな楽しみにしてましたけど」

( ・∀・)「そうらしいな。だけど、実際は違ったらしいぜ?
      一部のゴシップ誌は『違った事』を誌上に乗せてたらしいけど、
      読者から、信じられもしなかったようだしな」

37 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:20:46.02 ID:S+ekchtg0

そして、モララーが語りだした『違った事』の内容。

連日進められていく建設計画。
大型の施設であると同時に、急ピッチで進む建設工事は24時間体制で続いていた。
とりあえず周囲の建設物を崩していかなくてはいけない。
そういうことで、崩す建物の中を、一つ一つ入念にチェックして、爆薬の設置ポイントを決める作業に移っていたそうだ。

計画は順当に進んでいき、範囲内の二割ほどの建物の爆破が完了していた頃だ。


ある異変が起きた。

建設作業員が2人、アルバイトが1人変死を遂げたのだ。
『変死』と片付けられているのは、死に方が、意味不明すぎたから。

( ・∀・)「その死に方がよ、さっきのお前の元上司と同じ」
('A`)「……」

( ・∀・)「体中ボロボロになって、穴という穴から紫色の煙を吐き出し……白骨死体と化したんだよ」
('A`)「……まさか、それもtanasinnが?」
( ・∀・)「間違いねえだろうな。だって考えてみろ?
      一晩だぜ?一晩で人が、白骨死体になるんだぞ?」

39 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:23:15.66 ID:S+ekchtg0

建物内にある階段を、どんどんと降りていく。
薄い照明は目に悪そうで、ドクオは目を凝らしていた。

('A`)「tanasinnの祟り、みたいなもんですか?」
( ・∀・)「祟りだと認識されたから、この計画は頓挫しちまったんだろうよ。
      まあそれから色々あってな。徐々に原因が明らかになっていったんだよ。時間が経つにつれて」

('A`)「原因?」
( ・∀・)「ああ。その三人は、ある建物の爆破作業に関係していたんだよ……」

立ち止まり、ドクオを見るモララー。
少し驚いたドクオが、一歩下がり気まずい顔をした。





( ・∀・)「その建物が、ここ。ゾウリ総合ビルだ」

42 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:24:31.56 ID:S+ekchtg0

(;'A`)「……っ」

オカルトだとか、そんな事は信じたりしない性格だった。
いや、信じようとはしなかったんだ。怖いから。
すっごい怖いから。

でも、あんな”もの”が中にいると言われて、信じたりしない馬鹿はいないと思う。
俺は馬鹿だけど。

こうやって明るく考えているのも、やはり疲れる。
現実を受け止めなきゃいけない。

( ・∀・)「まあ、これも詳しい事は後で説明してやる。
      さっきからこればっか言ってっけど、勘弁な。」
('A`)「……」

何階程降りただろうか?
地下4…いや、5階?

( ・∀・)「ここだ」
('A`)「この先に、モララーさんの仲間がいるんですか?」
( ・∀・)「ああそうさ。”まだ”お前を含めて5人しかいねぇけど、立派な仲間さ」

('A`)「ああ。もう仲間なんですね……」

小さな声で愚痴を零すドクオ。

それを聞いたか聞いていないか、モララーは少し先へ進んだ部屋へと進み、
壁に埋め込まれているロックに番号を打ち込んだ。

43 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:26:04.92 ID:S+ekchtg0

薄暗い階層に、光が指した。
その光はモララーの影をくっきりうつし、地下を照らしていく。
そして、またドクオの方を向くと、一言こう言った。

『ようこそ』

光に消えていくモララーを薄めで見ていた。
見るしかなかった。

(;'A`)「なんだよ。この声」

右側で何かが、これ以上進めば後には戻れなくなる、そう言っている。
左側で何かが、ここで進まなければ死ぬ、そう言っている。

これが、tanasinn?

( ・∀・)「ほら。早く来いって」
(;'A`)「…! は、はい」

ドクオの考えをかき消すようにモララーがはやし立てる。
まんまと乗せられてしまったドクオは、おそるおそるであるが光を発している部屋へと足を踏み入れた。




右側の正解。
もう、戻れない。

45 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:27:54.74 ID:S+ekchtg0

( ・∀・)「ほら。この一室が『俺達』の住処。
       そして、こいつらが『俺達』だ」


そう紹介されて、ドクオは部屋の中にいた3人に目をやった。
よくわからないコードや、計器。
その金属の塊にに腰をかけている、金髪の女が一人。

ξ゚听)ξ「……」

雑誌を目に運びながら、ちらりとドクオを見た後に、視線を元に戻す男。
背は大きく、体格がいい。

( ゚∀゚)「ほう」




――そして、部屋の奥。

なにやら液体で満たされたカプセルのような入れ物にはいっており、体は拘束器具によって雁字搦め。
アイマスク、人工呼吸器をつけられた、一見死体では無いのかと思わせた一人の……少女、であろうか。



ミセ* ▲)リ『…………』

46 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:28:50.92 ID:S+ekchtg0


背後の入り口が閉まる。
少し後ろが気になったが、ドクオは前を見ていた。


( ・∀・)「さぁてと、自己紹介とかしておきたいんだがな。
      ドクオには、早速やってもらいたい事があるんだよ」

カプセルに近寄る。
手を差し伸べて、優しく人差し指と中指を沿わせた。
ドクオはいまいち状況が読み込めず、ただただ立ち尽くす。

('A`)「あの……」
( ・∀・)「今からやってもらうのさ。お前、ドクオにな」

(;'A`)「だから何を……」


( ・∀・)「こいつ。このカプセルの中に入ってる『ミセリ』の、
      tanasinnを『吹き返して』もらう。まずは、これからだ」

モララーがそう述べた。
ドクオがどうすればいいかもわからずおどおどしていると『ミセリ』を除く二人の仲間がドクオを見る。
目で物を言う。

カプセルに近づけ、という事だろう。
そこまで鈍感じゃあない。

48 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:30:05.81 ID:S+ekchtg0

もうここまでくれば、どうとでもなればいい。
半ばそう考えて、ドクオはカプセルへと近づいた。

('A`)「それで、どうすれば……?」
( ・∀・)「このカプセルに、触れてやってくれ」

世の中には、不思議な事がたくさんある。
俺は、不思議な事、その一言で片付く事が、不思議たる所以であると思っていた。
今だって、ずっと前からだって、そうだ。
だが、それはtanasinnによって崩された。そう。見事にだ。
そして、その一言で片付けられない不思議を、体に受けた『ミセリ』。

『tanasinnを飼う男』である、ドクオ。

('A`)「触れればいいんですね」
( ・∀・)「ああ。頼む」


す…っと、手がカプセルに近づいていく。

モララーは、震えるドクオの手を見ていた。
ここまで、状況を二転三転させてしまっているドクオに悪い気がしているようであった。

( ・∀・)「……」

だが、長い時間をかけて、ドクオを説得する事は、ドクオにとっていい事にならない。
いい事にならないのだ。

50 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:31:19.87 ID:S+ekchtg0
(;'A`)「う……わっ!!!」

紫色の塵が、部屋中に巻き起こる。
見える風が、モララーのスーツを靡かせ、ドクオの体を後ろにやった。

ちらりとドクオが後ろを見ると、やはり出会った事の無いのであろう。
二人が冷や汗を垂らし、『それ』を眺めていた。
こんなもの、初見は化け物以外の何でも無い。

ξ;゚听)ξ「ちょっとモララー!!あんた……これ大丈夫なの?」
( ・∀・)「ああ。大丈夫だ。ドクオがどうにかしてくれる……ぜっ」

またあの時と同じ。
ドクオの肩をポンと叩く。

('A∵)「え?え?エ?」

また、あの煙。

俺の世かイを、ウすい紫色に染メヤガる。

tanasinn。


tanasinn。

tanasinn。

出て来いよ、ほら。

51 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:32:25.95 ID:S+ekchtg0


緊縛された少女の体から、塵が噴出し、自身に降り注ぐ。
みるみる内に、塵に取り込まれた少女の体は、形を変え、原型を残さない。

そして、そこに現れたのは。


――形を持たない憑き物。



ミセ;;+^=#$>?)リ『いャあぁアアぁぁぁあ!!!!!!!!!』

耳が劈かれそうな程、けたたましい金切り声。
四人は、思わず耳を塞ぐ。


ドクオは、脳に響く声に耳を傾けていた。
それが、tanasinnの声。



本能。



( ∵A∵)『……!!』

52 :作者 ◆Cy/9gwA.RE:2007/09/19(水) 22:33:28.30 ID:S+ekchtg0

『人間が、食物を欲するように。
 tanasinnは、tanasinnを欲する。』


(;゚∀゚)「おいモララー!!!
     これで……本当に、本当にミセリの体は"元"に戻るんだろうな!?」

(;・∀・)「なる!!なるけどよぉ……、ドクオ次第だ」
(;゚∀゚)「ちっ……。ミセリ……」


慣れた手つきで、モララーに渡されたあのナイフを、懐から取り出す。
目には、苦しむ一人の少女。

そして、その中に巣食うtanasinn。

頭に響く、少女の声。


『助けて……ドクオさん』



男は、ナイフを構えた。



('A`)にはノルマがあるようです 第3話『具象化されない事物と少女』 完



補足等


53 :作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/09/19(水) 22:34:14.10 ID:S+ekchtg0

―――※―――

塵(ちり、ごみ)は、一般にホコリや目に見えない微小な砂などの粒子の事を指す。
慣用句で「塵も積もれば山となる」がある。

Wikipedia

―――※―――

だが、tanasinnのそれはtanasinnでは、無い。
tanasinnのそれは、個々にそれを持っている。

確認もできない事物を、信じろと言うのは無理がある。
だが、tanasinnは確認のできない物なのであり、各々の考察によって答えを出す事の出切る事物である。

56 :作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/09/19(水) 22:40:08.04 ID:S+ekchtg0

<人物簡易テンプレ>


('A`) ドクオ。このお話の主人公。24歳。
    気弱。仕事が出来ない。低学歴。女もいない。
    そんな毒男の象徴のような奴。体内にtanasinnを持つとされる。詳細は不明。

( ・∀・) モララー。ドクオの中にいるtanasinnをなぜか知る男。24歳。
      『俺達』と、仲間を呼んでいる。変な所だけ律儀な男。


ξ゚听)ξ ツン。詳細は不明。


( ゚∀゚) ジョルジュ。詳細は不明。


ミセ*゚ー゚)リ ミセリ。緊縛されてカプセルに入れられている少女。
       詳細は不明。作者の性癖に緊縛は含まれていない。


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