- 8 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:20:04.96 ID:KHrYWik30
コン、コン。
古い木製のアパート。
一踏みすれば、もしかすると足場が抜け落ちてしまいそうな、老朽化が進んだ建物だ。
そんなアパートのドアをノックする、男がいた。
男は大きな体をコートに包み――。
『すいません。誰かいはりますでしょうか?』
ここいらでは聞かない方便を使う。
男は、問いかけと、ノックを続ける。
『すいません。すいませぇん』
留守か?
いや、違う。
男は知っていた。
決して、留守ではない。
- 12 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:22:31.04 ID:KHrYWik30
癖だろうか。
足を、リズムよくトン、トンと小気味よく動かす。
(……めんどくさいのぉ…)
頭をボリボリと掻き、一つ舌打ちをすると、男は携帯電話を持ち出す。
電話先の相手に指示を出し、もう一度だけ"最後"のノックをする。
コン、コン。
……。
…………。
問いかけに対して、無言。
『ロマネスク。表、見はっとれや』
『わかりましたクックルさん』
タバコを、観音開きのガラス窓から放り投げ、煙を口からだるそうに吐く。
すると、男の目は見る見るうちに鋭く変化し、中にいるであろう"何か"に目標を据えた。
- 13 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:24:19.77 ID:KHrYWik30
( ゚∋゚)「ラウンジ西警察や。おるんはわかっとる、開けろ」
警察とは、日本における正義の力の象徴のようなもの。
正義のヒーローや、仮面を被った人造人間。
そのようなフィクションでは無い、ノンフィクションな正義の味方。
そう、子供から聞いていた子供達も多い。
だが、その男の背中には、全くそれがなかった。
言動も、素振りも――。
何もかも、が。
( ゚∋゚)「開けんかったらぁ、強制でご対面やぞ。言うてる内に開けぇ」
目に見えそうな…、威圧、プレッシャー。
クックル。
そう呼ばれている男が、ドアノブに手をかける。
その指は、ごつく、何か格闘技の一つでもやっているかのように思えた。
軽い金属の音が鳴るのに反応するかのように、扉の向こうでギシリと床が鳴いた。
その音を、よくきく耳で確認すると、男の口の端が歪む。
- 15 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:27:48.09 ID:KHrYWik30
ドアノブから男は、手を離し、少し後ろへと下がる。
すると……。
( ゚∋゚)「隠れてんと……っ!!!」
助走をつけ――。
( ゚∋゚)「出てこんかいわれぇ!!!!!」
吹き飛ぶ木製のドア。
ぶち飛んだ蝶番が部屋のガラスを巻き込み、割れる大きな音と、男が勢いよく突入する音。
ドアが床に叩きつけられる音。中にいる男の悲鳴。
幾重にも重なった音が、一斉に立ったその時――。
(#゚∋゚)「大人しいせぇ!!!逮捕じゃ……っ……?」
- 18 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:29:46.10 ID:KHrYWik30
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頬を、紫色の小さな塵が掠めた。
(;゚∋゚)「……?」
何が起こったか、わからない。
まさにそれであった。
一瞬だけ、一瞬だけ垣間見ることの出来たその塵は、間違いなく、
今、自分の目の前に"ある"白骨死体から噴出していたように見える。
だが、それはクックルの瞬きと同時に消えた。
- 19 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:31:48.08 ID:KHrYWik30
見間違いかもしれない。
見間違いかもしれなかった。
だが、男の網膜に焼きついた紫色の塵が、その記憶の確かさを物語っているようにも思え、
そして、その記憶を辿っていった脳が発する、恐怖の意をこめた神経伝達によって震える右手が、
さらにそう思わせたのだ。
そして、背後から、ドカドカと聞こえる足音。
二、三人の警官が後から入ってきて、その光景を、クックルの次に目撃した。
(;ФωФ)「クックルさん!これは……?」
(;゚∋゚)「な……、いや……」
滅多に動じやしないクックルが、見事に混乱している様を見て、ロマネスクも混乱をせざるを得なかった。
PCデスクに突っ伏した、白骨死体。
色々な物が、乱雑に置かれているその部屋で、安らかにそれが眠っていたのだ。
すぐにロマネスクは、現場を保持するように警官達に指示をする。
動揺しているクックルを現場から離れさせ、
何が起きているかわからないこの状況を、必死に理解しようと努めた。
- 21 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:32:22.97 ID:KHrYWik30
(;゚∋゚)「……なんや…あれ……」
tanasinnは、その姿を無限に分かつ。
tanasinnは、その姿に無限の可能性を秘めている。
tanasinnは、その姿が侵食の権化である事を知っている。
tanasinnは、その姿である事に、自覚を持っていない。
だが、親に限りそれは適しない。
('A`)にはノルマがあるようです 第4話『塵、男、女、抱擁』
- 23 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:34:20.16 ID:KHrYWik30
(;・∀・)「……っ」
空間に漂う紫の塵。
なんと言えば、それは正しい表現に繋がるのだろうか……。
それは、母体の中、羊水に浸かるような心地よさも持っているし、
少し気を許せば、何もかもを持っていかれそうな侵食に対する恐怖感も持ち合わせていた。
『空気の機嫌を伺いながら、空気を吸う』のは、生理的にもきついものであった。
体には害が無いのだろうか……。
そう、モララーは考える。
『あの日記』には、そのような事は書いて無かった。
だが、tanasinnだ。
何があっても不思議ではない。
突然死んでも、急に体が元気を取り戻しても、不思議ではないのだ。
- 24 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:35:59.90 ID:KHrYWik30
二人もそうだろう。
(;゚∀゚)「……」
ξ;゚听)ξ「……」
頬に伝う一筋の汗がそれを物語る。
今までとは異質すぎるその空間が、何かを制していくのだ。
自分の体に、口から、鼻から……。耳からも入り、肺を満たしていく。
満たされた肺は、全身にそれを送り、全身はそれで満たされるのだ。
もちろん、それは気持ちのいいものでも、心地のいいものでも無い。
何処か、漠然とした退廃的事物。
飲まれる、感覚。
徐々に、徐々に――。
(;・∀・)「ドクオ!頼んだからな……」
( ∵A∵)『……はイ』
- 26 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:37:55.96 ID:KHrYWik30
何かに押されるかのように、モララーは後ろへと下がる。
いや、引かれたのかも知れない。
体の全てが、拒絶しているようにもとれた。
その言葉を背中に受け、ドクオはミセリと呼ばれる少女と向き合う。
塵を噴出し、人間の形状では無くなった様を見て、どこか悲しくもなった。
あの元上司とは違う、悲しみを帯びた塵を、ドクオは垣間見たのだ。
あれは、記憶の断片……?
感情の欠片……?
ミセ;;+^#7!!?)リ『ぁ…ア』
( ∵A∵)『……』
でも。俺は、何をすればいいんだ――?
ナイフを手に持ったところまではいい。
これを突き刺すのか?
突き刺せば……。
きっと『あいつ』みたいになってしまう……。
- 27 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:38:26.03 ID:KHrYWik30
∴+`&"+`$$#※Д彡$`++жζ。0
駄目だ。
絶対に……。
( ∵A∵)『……っ』
そして、躊躇うドクオへと。
一歩。
一歩。
ミセリが迫る。
- 28 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:39:33.48 ID:KHrYWik30
距離を置かなければいけない。
しかし、ドクオは後ろへと下がろうとはしなかった。
( ∵A∵)『……なイフじャ、だメダ』
ナイフじゃ駄目だ。
ドクオは考える。
異様な空間が収束を始めることはない。
ただただ、その塵を飛散させ、空間を作り出し、偏った色で、彩っていく。
ミセリのずる……ずる、といった音が徐々にドクオへと近づき、冷や汗が一つ流れた。
モララーは言っていた。
頼んだ、と。
そして、空耳かどうかはわからない。
でも耳に響いた、ミセリの助けを乞う声。
助けるには、どうすればいい?
助けるには、何をすればいい?
そして、ミセリがドクオの目前へと――迫る。
- 30 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:42:10.60 ID:KHrYWik30
(;・∀・)「……」
モララーも、ただ見守るしかない。
正しい救い方など無いのだ。
それは、0がいくらであるか?といった問いと同じ。
『0は無である』という答えでも正解であるし『0は1−1である』という答えでもそう。
救い方など、考え方と同じ、それぞれの尺度があるのだ。
各々の考え方。
『人を救うのには、どうすればいい?』
といった、漠然とした問いに、正しい答えなど存在しない。
だから、モララーは言った。ドクオ次第だ、と。
( ∵A∵)『人をスくう……。方法』
ミセ;;+^#7!!?)リ『m……あ…ぅ』
紫のフィルターがかかった、斜に構えた世界を見ながら。
形を失った女の体を見ながら。
ドクオは考えた。
そして、出た答えは――。
- 31 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:43:37.47 ID:KHrYWik30
( ∵A∵)『……っ』
ミセ;;+^#7!!?)リ『……ク!!!!!!』
(;・∀・)「ちょ……っおおおおいこらああああああああああ!!!!!」
( ゚∀゚)「おほ」
ξ゚听)ξ「あら」
――抱きしめよう。
なぜそうしたか、今もわからない。
ただ、ドクオの中の優しさの現われというのは、抱擁だった。
ドクオは、力を込めて、その体を抱き締めた。
耳元で漏れる、tanasinnに支配されたミセリの荒い息遣い。
そして、背中に突き刺さるモララーの鋭い視線を浴びて、冷や汗をかきながら――。
('A`)にはノルマがあるようです 第4話『塵、男、女、抱擁』 完
人物簡易テンプレ
- 37 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/09(火) 23:47:21.25 ID:KHrYWik30
- <人物簡易テンプレ>
('A`) ドクオ。このお話の主人公。24歳。
気弱。仕事が出来ない。低学歴。女もいない。
そんな毒男の象徴のような奴。体内にtanasinnを持つとされる。詳細は不明。
( ・∀・) モララー。ドクオの中にいるtanasinnをなぜか知る男。24歳。
『俺達』と、仲間を呼んでいる。変な所だけ律儀な男。
ξ゚听)ξ ツン。詳細は不明。
( ゚∀゚) ジョルジュ。詳細は不明。
ミセ*゚ー゚)リ ミセリ。緊縛されてカプセルに入れられている少女。
詳細は不明。作者の性癖に緊縛は含まれていない。
( ゚∋゚) クックル。方言を使う、屈強な男。ラウンジ西警察の刑事らしい。
( ФωФ) ロマネスク。おそらくクックルの後輩。
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