- 9 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:10:45.20 ID:Lo7Q/jR20
あいつは、すごく優しくて、いい子なんだよ。
いつだって笑顔で、その笑顔がよ、俺にまで伝わってきてたんだ。
荒んでたあの頃だよ。
そりゃあ、少しは気になるだろ?
何度、何度その笑顔に救われたかわかんねぇ。
きっと俺だけじゃないはずだ。
ジョルジュだって、ツンだって……。
ギコだって。
――『父さん』だって。
ミセ*ぅー;)リ『……ひっく…』
( ・∀・)『また、いじめられたのか?』
小さな頃から、特別いつも一緒にいた訳じゃねぇ。
それでも、俺はあいつに"特別な"感情を抱いていた。
- 10 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:13:16.61 ID:Lo7Q/jR20
(#・∀・)『おいコラ!!!!次やったらタダおかねえからなぁ!!!!』
(;゚∀゚)『お、おい……。やりすぎだぞ』
歳が離れていても、まるで、家族のような仲だったとしても。
大切にしよう、そう思って頑張ってたんだ。
ミセ*; ー#"リ『ぅア……っ!!!い、いやああああああ!!!!!』
だから、今も頑張ってるんだ。
"ミセリ"がこうなっても、俺は諦めなかった。
『俺達』は、諦めなかった。
それも全て、俺の意思であり『俺達』の意思であり。
そして……。
『父さん』の意思でもあった。
- 13 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:15:36.08 ID:Lo7Q/jR20
俺は、ミセリを救わなきゃいけない。
あの笑顔をもう一度みたい。
救われた恩返しをしたい。
それは、俺が俺自身に課した『ノルマ』だ。
ミセリに対する、感情が、俺をそうさせるんだ――。
( ∵A∵)『……っ』
ミセ;;+^#7!!?)リ『……!!!!!!』
(;・∀・)「ちょ……っおおおおい!!!!!」
('A`)にはノルマがあるようです 第5話『Leading a line between love and friend.』
- 15 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:18:54.14 ID:Lo7Q/jR20
蝶の羽に付着した、燐ぷんの様な塵が、空間を制していくその中心で、男は女を抱きしめた。
『女を知らない男』は、どう抱きしめてもいいかも当然わからず、ただぎゅっと、ぎゅっと抱きしめた。
それに呼応するかのように、ミセリの体はピクリと波打つ。
その反応の仕方は、ただただ人の温もりを知らないように育ってきたようにも感じ取れ、
ドクオは少し、切なく感じてしまった。
この状況下で、のんきにそのような事を考えるドクオもドクオなのだが
『ドクオの考える優しさの象徴』である、この抱擁の効果が、少しずつミセリに現れてくる――。
(#・∀・)「あんにゃろー!!!どさくさに紛れて、
みみみみみいミセリを抱きしめやがってぇぇえええぇぇ!!!!」
(;゚∀゚)「こんな時に何言ってんだよ!!」
ξ゚听)ξ「あんた……。まだミセリを好きだったのね。
あんたの職場で手頃な子見つければいいじゃない。ブサイクじゃないんだから」
(#・∀・)「うるせぇぇ!!!俺にはミセリしかいねえんだよ!!
ドクオ!!後で話があっからな!!覚悟しろよ!!!」
(;゚∀゚)「いや、だから落ち着けって!!あいつが今頑張ってくれてんだぞ!!」
- 16 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:20:50.26 ID:Lo7Q/jR20
( ∵A∵)『……』
耳に聞こえてくる怒声を、聞かなかった事にして、
今抱きしめているミセリの感情を探り捕ろうとするドクオ。
なぜ、そのような事ができるのか。
それは、ドクオの中のtanasinnが、ミセリのtanasinnを欲しているから。
欲しているから故、最善の方法をドクオに、知識として与えるのだ。
ドクオの脳に、直接響く太い声。
その声の言うとおりに、ただただドクオは従っているだけ。
そして、声を発生させたトリガーとなったのが、今の抱擁であったのだ。
tanasinnは、自分の欲する物に対しては、極めて貪欲、かつ狡猾である。
自分の欲望に忠実、といえばわかりやすいであろう。
まるで、赤子のように、我慢というものを知らない。
- 19 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:24:05.25 ID:Lo7Q/jR20
( ∵A∵)『……ミセリさン。ごめンなさい……。ノぞかせテもらいマス』
ミセ;;+^#7!!?)リ『……ハぁっ。ンっ……!!』
ドクオが少し俯き、何かを確かめるかのように、ミセリの背中に手を這わせた。
一糸纏わぬそのミセリの背筋を、人差し指、
そして中指でなぞり、ミセリの何かを確認するかのように――。
優しく、這わせた。
ミセ;;+^#+@~)リ『あッ……。く、フっ』
ドクオに見える、斜に構えた世界。
そこには、ミセリの中に巣食うtanasinn。
そして、tanasinnに負けまいと、必死に戦っているミセリが映っていた。
そのミセリは、まるで暗闇に一つあるランタンのように、
淡く輝いており、ひどく綺麗に見える。
その光を、手繰るかのようにして、ドクオは手を這わせていく。
ミセリは、ドクオに抱きしめられたまま、身動きもとれず、
ただただ声を口の端から漏らすしか無かった。
- 20 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:25:14.59 ID:Lo7Q/jR20
(## ∀ )「……」
ξ;゚听)ξ「……」
(;゚∀゚)「……。tanasinnよりこっちのが大変かもな」
ドクオの体が、一つ波打つ。
すると、脊髄から染み出るように、tanasinnが現れた。
どろり、どろりと。
( ∵A∵)『……ギっぅあっ!!』
- 23 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:28:04.74 ID:Lo7Q/jR20
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- 24 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:29:33.50 ID:Lo7Q/jR20
何を、何を欲しているのだろうか。
ドクオは白目を向き、口から泡を吹く。
ガクガクと震える、肩、足、腕。
背中に生じる極度の痛み。そして、流れてくる『ミセリ』の記憶、感情。
『全てを飲み込み、全てを理解し、全てを許せ』
それが、tanasinnの言う、tanasinnから人を救う方法。
どこかに吹き飛んでしまいそうな意識を、必死にその場に留まらせて、ドクオは下を向く。
そこには、塵を発しているミセリの背中。
そして、その背中をしっかりと抱きしめている自分の両手が映った。
背の痛みが徐々におさまり、ドクオの意識がはっきりとしてくると、中空に浮かぶ『親』のtanasinnの動きが始まった。
親の塵が、子の塵を掬い取っていく。
元にある場所のように、優しく、丁寧に戻っていった。
( ∵A∵)『――!!!』
そして、ドクオの『頭の中の目』に、広がる大きな光。
- 27 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:33:12.51 ID:Lo7Q/jR20
『モララーお兄ちゃん。ジョルtanasinn....ちゃん。ツンお姉ちゃん。
×××さん。ブ××××ん。そして、シスター……。
みんな、みんな一緒。一緒の家族。ずっと一緒にいたかった。
本当は、tanasinnゃないのも知ってるよ?
でも、私にとっては本当の家族。
代わりとか、tanasinnない。みんな、本当の家族』
流れ行く記憶。
『迷惑かけて、ごめんなさい……』
水面に溜まるような、静かさを持った感情。
『私の体、駄目になっても……忘れないで』
死を前にした、幼い決意。
『ワ……たし達。かぞクだから……。はっ…はっ……。
オにいちゃん……。お、ねいちゃん。「ポプラ」ヲ、まもって…』
『ポぷらを』
- 29 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:35:30.22 ID:Lo7Q/jR20
そして、乗っ取られる体。心。
それを、ドクオはただただ見つめているしかなかった。
ミセリが、tanasinnに乗っ取られるまでの、過程。
見たくなかった。
自分から、悲しくなるような記憶なんて。
しかし、見なくてはいけなかった。
変な使命感が、背中にひしひしと伝わってきていたから。
その感覚は、自分の背中から、徐々に這いずりあがってきて、
さもそこにあったかのように、頭の中に、体の中に居場所を作る。
……tanasinnは、ずる賢い。
今気付けば、そうだ。
思うままに動かしているんだ。
俺を、思うがままに。
もう、どこまでが自分なのか、どこからがtanasinnなのかわからなくなってきていた。
こんな短時間で。
こう、はっきりと掴める様になった、紫煙の塵。
- 31 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:37:42.96 ID:Lo7Q/jR20
('A`)『……どうなんだよ。俺……』
沈んだ精神世界。
その中で、ドクオは、静かに落胆する。
落胆させた要因は、tanasinnだけでは無い。
そのtanasinnを頼る、モララー達に頼られて、少し心が躍ってしまったことにもだ。
自分は、必要とされてはいない。
tanasinnを、皆は必要としている。
負の感情のループは、そのループを留めさせようとする障害物が無い世界の上で、ぐるぐると回りだすのだ。
('A`)『仕事も無くした。親も両方いねぇ。友達もいない。
金ももちろんねぇ。上司を殺した。彼女もいない』
( A )『……そんな俺に、何があるんだよ。
何があれば、皆振り向いてくれるんだよ!!!!』
- 32 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:38:23.97 ID:Lo7Q/jR20
救われない世界。
答えのない世界。
正しさのない世界。
間違いのない世界。
終わりのない世界。
始まりのない世界。
全てがある世界。
全てがない世界。
心地よい世界。
心地悪い世界。
それが、tanasinnの精神世界。
ミセリの記憶が、水彩絵の具のように混ざった平行記憶世界。
その終わりのない世界を終わらせれば、ミセリは助かる。
ミセリから、tanasinnを吸い出すのだ。
('A`)『何も無いなら……』
だが、それは容易ではない。
精神の袋小路。
抜け出すことのできない、tanasinnの罠が貼りめぐらされる。
その罠は、tanasinnが、tanasinnの元へと戻りたくないが為の足掻きにより生じる。
- 33 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:39:04.43 ID:Lo7Q/jR20
('A`)『あっちにいても、いなくても一緒か』
『元の世界』に戻る為の気力を、失わせる。
『何も無い世界』にいれば、他人の目も何も、気にする事は無いのだから。
自分にとってマイナス要素を少しでも含むものを除けばいい。
('A`)『……ごめんなさい。モララーさん。でも……』
どこが足元かもわからず、その場に座り込み、目を閉じるドクオ。
もうどうにでもなれ、そういう考えが心の中を支配していった……。
――――
―――
――
- 35 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:40:43.85 ID:Lo7Q/jR20
その部屋を覆っていた塵は、いつしか消えてなくなっており、いつもの空間へと戻る。
最後に強烈な風を巻き起こし、その場から消えた異様な空気は、
後方にいた三人の視界を少しの間だけ奪っていった。
晴れた視界に映る景色は、何も纏っておらず、元の人であるべき姿に戻ったミセリ。
そして、寄り添うようにして、ドクオ。
二人とも、意識を失ったまま、床に腰を落としていた。
(;・∀・)「おっおい!!!ミセリ!!ドクオ!!!」
すぐさま駆け寄り、意識を確認するモララー。
すると、ミセリが目を覚ます。
ミセ;*ぅー゚)リ「……っ。うっ……、お、お兄ちゃん?」
(;・∀・)「お、おお……。ミセリ……」
( ゚∀゚)「ミセリ、戻ったんだな」
ξぅ;)ξ「……心配かけて…」
しかし、ドクオが目を覚まさない。
肩を揺らしてみるが、起きる気配すらなかった。
- 36 :◆Cy/9gwA.RE:2007/10/13(土) 21:42:00.32 ID:Lo7Q/jR20
(;・∀・)「……おい」
頬を軽く叩く。
(;・∀・)「おい。ドクオ。大丈夫か?」
ドクオは、目を、覚まさない。
『おい!!!ドクオ!!!!』
( A )
ドクオは、生存を放棄する。
('A`)にはノルマがあるようです 第5話 『Leading a line between love and friend.』完
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