2 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 19:56:50.85 ID:jzmlOwpp0


――――


ミセ*゚ー゚)リ『モララーお兄ちゃん、何聞いてるの?』


家族が、大事でしょうがなかった。
形だけと言っても家族だった、その家族を無くした自分が欲しがっていた家族。
高校生なんていう、はっきりとしない、モヤモヤとした世代の自分にさえわかっていたそれ。

綺麗事ばかり並べていた自分にさえ、わかっていたそれ。


( ・∀・)『ああ。保健の先生に借りたCDでよ。少し古いんだけど、LL COOL……』
( ゚∀゚)『お〜い!!お前を探してたんだよモララー!!ちょっと日本史の宿題見せろ!!』

(;・∀・)『また喧しいのが来た』
( ゚∀゚)『なんだよ喧しいって!!いつも明るい俺をちったぁ見習えよな!!』


ξ゚听)ξ『ま〜たやってる。ちょっとくらい家事手伝ってよね』

3 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 19:58:37.29 ID:jzmlOwpp0

ただ守りたい。その為に、勉強もしてる。
喧嘩にだって負けやしない、いつだって"家族"を困らせる奴には拳をぶち当ててやる。
俺が引っ張っていこう。

"シスター"に、極力頼らず生きて行こう。
今、こうやって屋根がある暮らしをしていられるのも、こうやって……。

ミセ;*゚ー゚)リ『ジョルジュお兄ちゃんは、もっと勉強した方がいいよ!!』
( ゚∀゚)『いやぁ、してるんだけどさぁ……』
ξ#゚听)ξ『無視!!!ねえ無視なの!!?ねえ!!!キーッ!!』



こいつらと、一緒にいられるのも。
今の時間をいられるのも。

――――

でも、その頃の自分は、ある日常の変化、ある物からの侵食に少しだけ気付いていたのかもしれない。
それでも、自分の無力さ、非力さを正面から受け止めることの出来ない年頃の自分には……。


4 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 19:59:13.83 ID:jzmlOwpp0








('A`)にはノルマがあるようです 第11話『風薫る、あの日のポプラの屋根の下・前編』









6 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:00:15.38 ID:jzmlOwpp0

俺たちの暮らす、孤児院『ポプラ』は、支援団体からの資金援助において成り立っている。
その支援団体というのが、よくある話の『足長おじさん』という奴で、全くの不明。

シスターも、ここにいる身寄りの無い子供達も、口をそろえて知らないとは言っていた。
少し古めの木造建築。庭は大きく、野菜を自家栽培して、少しばかりの自給自足生活。

資金援助と言っても、それほど多く貰っている訳では無かったようで、
慎ましくながらもその孤児院での生活は、緩やかに流れていた。

そして、自分を含めた、ここにいる子供達、21人も、
こうやってよくしてくれているシスターの為にも、子供ながらに恩返しをしようと、
各々勉強に励んだり、スポーツに秀でた存在になろうと、切磋琢磨していた。

俺とツンは、受験上位合格者による授業料免除、公立高校への入学。
ジョルジュはどうしても頭が悪かったので、そのまま普通に高校へ入学。アルバイトをして自分の学費は自分で払っている。
ミセリはまだ中学生だ。それでも、夜遅くまでスタンドライトの光が見える。勉強をしているのであろう。


7 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:01:23.65 ID:jzmlOwpp0

自分が、ここまで頑張ろうと思えていたのも、こういった一体感があったからかもしれない。
みんなで、一欠片も欠ける事無く前へ進んでいこう。そう思っていた事は確かだった。

――――

その緩やかに進む、生活に変化の兆しが見えてきたのは、少し夕暮れが足を早めてきた晩秋。
高校生活も、半分を折り返して来て、そろそろ受験のシーズンに足を踏み入れようとしていた頃。

『今日は出席番号30番から38番まで進路調査をするぞ。放課後一人ずつ進路相談室にまで来なさい』

担任がそう言って、教室から出て行く。
自分は、まだ迷っていた。
高校を卒業して、就職をするか。
大学で4年間勉強をして就職をするか。

大学にも、色々制度はある。
奨学金だとか、授業料免除制度だとか。
使えるものは、使っておくべきだとは思っている。

9 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:03:07.19 ID:jzmlOwpp0

( ・∀・)『……』

そうやって、悩む自分の頭の中に、なぜか離れない光景が。
俺しか見ていない、シスターの"秘密"が。

シスターの名前は、バルケン。

もうそろそろで、赤いあの服を着る年だというのに、
俺たちの面倒を見てくれる、元気な人だった。

( ,'3 )『……そうですか。ええ、ええ……』

……何時だっただろうか、夜も更けているのは確かだった。
そんな時間に、俺は、シスターが電話越しで困った声を出しているのに気付いた。

声を掛けようか、そう考えたが、どこかばつの悪い気がしたので、
光が指す廊下の影で、ひっそりとたたずんでいた。

( ,'3 )『それでも、15年も前の事。私にはもう関係は無いので……。ええ、この事も黙っておいてくださいね?』
( ・∀・)(……何の事だろう?)

( ,'3 )『……もう一度言います。私はもう、あの会社の人間、あの家系の人間としての自分は捨てたのです。
     私は、バルケン。この孤児院ポプラの、子供達の母親です。もう夜も遅いので、また今度こちらから連絡させていただきます』

11 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:04:55.36 ID:jzmlOwpp0


( ・∀・)(あの家系?会社?何の事だろう)


――その時だった。


(;・∀・)『!!』


ゾワリ。

俺は、シスターの影から、何か塵のような物が噴出した気がした。
驚いて、目を擦る。
もう一度見たそこには、何も変化は無い、いつもの優しい背中があった。

何かの、予感。
何かはわからないが、危険なもの。
恐怖感を煽るもの。

全てを知らない自分には、その程度のものとしか思えなかった。


12 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:06:46.01 ID:jzmlOwpp0

――――

ただ言えるのは、その時に見たあの塵は間違いなく『ポプラ』の崩壊を指し示していたんだろう。
後々知る、tanasinn。シスターの過去。

もう嫌だと言っても、その"これから"が足を止めることは無く、
徐々に忍び寄るその時間と、足音に気付かず、自分は一秒一秒を消化していた。


来る毎日、毎日に、何か淡い希望を抱いていた。
行く月日、時間に、何か淡い哀愁を抱いていた。

耳元でささやく様に、スムーズに流れていく音楽が、それを物語っているような気もした。

――――

月日が少し流れ、結局俺、そしてジョルジュは企業への就職を決める。
ツンは奨学金制度の力を借りて大学へと行くようだ。

( ゚∀゚)『いやぁ、なんでって言われても……。雑誌編集にビビッと来てね』
(;・∀・)『なんだよそのちょっと前のアイドルみたいな言い方』


14 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:08:24.17 ID:jzmlOwpp0

ξ゚听)ξ『まあ私は会社行っちゃうと家事手伝い出来ないからね。だからあんた達はしっかり稼いできなさいよ』

俺達が、いつものように高校から歩いて帰るその途中。
何台かの黒い外車が自分達の横を通過していく。

( ゚∀゚)『名前はぁー!!!ジョルジュと言います!!!やる気だけなら!!!誰にも!!!負けませぇぇんぬ!!!!』

ξ#゚听)ξ『うるっさいわよ!!いきなりなんなの!?』
( ゚∀゚)『いやぁ、面接ではやっぱり勢いと元気の良さが必要だろ?』
(;・∀・)『……』

騒がしい帰り道。
外はもう、冬の色が濃くなってきていた。

直に雪が降るんじゃないか、そう思わせるような乾いた空気。
青い空を茶化すような少し色味の強い、分厚い雲。


的確に表現できない自分じゃあ、せいぜいこう言うしかなかった。


15 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:09:28.00 ID:jzmlOwpp0

( ・∀・)『……なんか、いいな』
( ゚∀゚)『?? ああいいだろ!?これで俺は一発合格よ!!』

(;・∀・)『いや、そうじゃ……。まあいいやそれで』

でも、平和なのはここまでだった。
この帰り道が、最後の"日常"だった。


ポプラの玄関前に着こうとしていた俺達の横を、またさっきの黒い外車が通り過ぎた。
今度は、逆の方向。
そう、ちょうどポプラから出てきたようであった。

胸に、少し不安が生まれた。

ジョルジュや、ツンを見る限り気付いてはいなかったが、
その黒い外車の持つ独特の"嫌悪感"が、何か、自分に語りかけているような、そんな気がした。


18 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:11:21.50 ID:jzmlOwpp0

( ・∀・)『……ちょっとトイレ行きたいから先行ってるわ』
( ゚∀゚)『お?おう』

モララーは、二人を置いて、先にポプラへと走った。
コンクリートを踏みしめる音が、モララーの耳の中へと響き、喉を、汗が伝うような感覚に苛まれていた。

玄関の扉は開けっ放しになっていて、案の定、庭の地面にはタイヤの入った痕跡。
そして、急いで出て行ったのであろう。地面がタイヤに少し抉られるているような痕跡があった。

(;・∀・)『……はっ、はっ』

すぐさま、ドアを開けようとするも、開かない。
ガチャガチャと押し引きするも、うんともすんとも言わない。
いつもなら、ドアは開けっぱなしになっているはずであった。

(;・∀・)『鍵!?』

何かがあった。
それが、今モララーの中で確信に変わった。

使い古された、合成皮の鞄を肩から外し、右手で持ったまま庭の裏の方へと回っていく。

いつものように、皆の洗濯物が干されている物干し竿、手作りのブランコ、おもちゃのスコップ。日常と変わらない風景。
だが、何かが襲い掛かってきているのだ。
それが、モララーの心を、急がせ、慌てさせ、混乱させる。

20 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:12:49.00 ID:jzmlOwpp0

(#・∀・)「……うらぁああぁああ!!!!」

庭が見渡せる、大きな窓ガラスに、鞄を投げつけ、大きな音と共にぶち破った。
もう、形振りなどかまっていられないと感じた、モララーの行動。

内側に手を回し、錠を開けると、家の中へ土足で駆け込んでいく。
子供部屋を覗く。
おそらく子供達は、皆昼寝をしていた。

(;・∀・)「……はぁ、はぁ……。シスターが…いない……っ」

家の中は全て見回した。
あとは……礼拝室だけだ。

モララーが先ほどぶち破ったガラス戸から、礼拝室へ向かおうとして出ると、ジョルジュとツンが戸惑って立っていた。


23 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:15:05.37 ID:jzmlOwpp0

(;゚∀゚)「おおおおおい!!!!これ一体どうしたってんだよ!!!」
ξ;゚听)ξ「モララー!あんたがやったの!?」

(;・∀・)「話は後だ!!!とりあえず、ツンは中で寝てる子供達が全員揃ってるか確認してきてくれ!!
     ジョルジュは早くミセリの中学校まで行け!!!」

(;゚∀゚)「何がだよ!!訳がわかんねぇって!!!」
(#・∀・)「いいから行けって言ってるんだよ!!!!わかんねぇのか!!!!」

モララーは、ジョルジュの胸ぐらをグッと掴む。

(#゚∀゚)「わかんねえっつってんだろ!!!!説明をし……」
ξ゚听)ξ「――ジョルジュ。行ってきてあげて」

ツンは、冷静にジョルジュにそう言い放つと、モララーの手を解いた。

ξ゚听)ξ「わかったわ。あんたの言う事に従う。ほら、ジョルジュも」
(;゚∀゚)「行って……、行ってミセリを連れ帰ってくればいいんだな!?」

( ・∀・)「……ありがとう。ごめん」
(#゚∀゚)「うるせぇ!!!帰ったらちゃんと説明しろバカ!!!」


そうして、走って礼拝室へと向かう。


25 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:17:55.50 ID:jzmlOwpp0

入り口は、ポプラの裏側、裏口から見た正面にある、小さな建物。

シスターこと、バルケンは、信心深い#@%"教の教徒であった。
元々、不自由なく暮らしてきた自分に嫌気がさし"不自由の無い途方に暮れていた"バルケンを、
救ったのが、この宗教の聖書。節の最初に書かれていた

"富は一人のものではなく、富は皆のものである。優を知らない者は、恵みを与える喜びを知らず"

という言葉が、バルケンを変えた。

今まであった身分を全て捨て、この町外れに孤児院『ポプラ』を建設する。
最初は、やはり苦労の連続であった。
何もかも知らない、箱入り娘であった自分。
土地を買うのにも、家を建てるのにも、孤児を受け入れる為の用意も、何もかも。
全て、0から始めた。

それでも、バルケンの裏をちらちらと行くのは、昔の名残。
捨てようとしても、向こうがそれを拒んでいた。


――――


礼拝室のドアに鍵はかかっていなかった。
両開きのそのドアを開けると、そこにはシスターがいた。

26 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:19:40.17 ID:jzmlOwpp0

(;・∀・)「……っ、シスター!!」


さっきまで、苛立ちで頭が一杯だったモララーの息が、急に整い始める。
背中を向け、礼拝室の奥にある、やや十字の横の部分が垂れ下がった十字架へと、祈りを捧げていた。

いつも着ている、みんなからのプレゼントである、
ワッペンのたくさん着いたエプロンではなく、少し紺色がかった黒の修道着を着て。



だが、青の意味も知らない男の問いかけは、祈りを捧げる修道女には届かなかった。



(;・∀・)「シスター……?」

傍へ、警戒しながらも近寄るモララー。

近くに寄るにつれてわかる事、それはシスターの体は小刻みに震え、
口の端、噛み締めた歯の間から小さく声を漏らしている事であった。

本当に、何があったかわからない。
そして、何がおこるかもわからない。


ただ、大切なシスターは、苦しそうにその身を悶えさせ、朽ち果てる寸前かのように見えた。


28 :◆Cy/9gwA.RE:2007/12/18(火) 20:21:28.09 ID:jzmlOwpp0

( 3 )「wpPIGWsld・・・kf;アエfpバ・・・イjバア;エア」

(; ∀ )「はぁ……はぁ……」

前に回りこみ、顔を見るのが怖い。
もし、その正面にいつものシスターがいようとも、これから接していく上で、疑惑という壁を作ってしまうだろう。
それほどまでも、おかしい空気、雰囲気。そして、それが造りだす空間。

……。

…………。


決めた。
顔を見よう。

いや、シスターに、顔を見せよう。
それが、たとえプラスにならなくて、マイナスになるような事実であっても。
そこから進まない訳にはどうにもならないんだ。

(;・∀・)「……っ。シスター……」

黒い外車。
あの時の電話の内容。
背中に見えた、あの影。塵。

全てが、一瞬だけ頭の中で繋がり、消えた。
蹲るシスターの前へ、ゆっくりと回る。
そして、目を――合わせた。

34訂正:2007/12/18(火) 20:23:58.94 ID:jzmlOwpp0
( ・∀・)『……シスター』
( ,'3 )『……もららーかい?』


……いつも通り。
いつも通りのシスターだ。

息を整えろ。
声を掛けるんだ。
いつものように、いつものように声を掛けるんだ。

(;・∀・)『な、何があっ……』
( ,'3 )『もららー、あなたにいわなければいけないことがあるの』

(;・∀・)『……え?そ、それよりこの状況を』
( ,'3 )『もららー、あなたにいわなければいけないことがあるの』

ああ、もう駄目なんだ。
そう俺は、静かに考えていた。


( "#'3 )『わたしはもうシンでいるわ。だから、tanasinn...くあなたにつたえなkeればいけnaい』

そう、もう駄目なんだ。



('A`)にはノルマがあるようです 第11話『風薫る、あの日のポプラの屋根の下・前編』  完


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