4 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 07:07:41.68 ID:PBVs8Qk20
口から、口の端から。
紡ぐ様に……、いや違う。垂れ流される様に。
流れ出た真実は、着色も何も無く、無加工の情報であった。

ただ、その真実は、受け止めがたい物であり、
今に至る自分の形成を妨害する要素となる事になったのだ。


こうやって、思い返すのは、決して悪い事では無い。
決して、悪い事では無いのだ。

誰にも迷惑は、かけないのだから。
ただ、己の心を深く傷つけてしまう……。
それだけの事。

反芻するかの様に、頭に自然と浮かんでくるそれは、
浮かぶたびに、自然とその鎌首をこちらへと向ける。
スラリと伸び、面妖に光る、その記憶の刃が。

……忘れたい、でも忘れたくない。

そんなジレンマを纏った記憶が、自分の首筋に、
スーッとその冷たく薄い、生命力の無い刃を向けているのだ。

5 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 07:10:27.81 ID:PBVs8Qk20
( "#'3 )『わタしは、モウ、い、のチを持ってイないわ。だかラ……』
(;・∀・)『シスター……? な、何がどうなってるんですか?何を言っているんですか……?』

あの、今にも崩れ落ちそうな、か弱く、細い体。
それでも、無理をして……、自分への心配を少しでも減らそうとして、笑顔を作っていたシスター。
もう、見ていたくなかった。

目の前の事実から、目をそらしたかった。

『ああ、もう駄目なんだ』
『シスターは、死ぬ』

そんな考えが、頭を行ったり来たりする。
チラリ、チラリと。



7 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 07:13:06.49 ID:PBVs8Qk20
( "#'3 )『だカら……。聞きナさい、もララ』
(;・∀・)『……っ』

モララーの喉が、ぐっと鳴る。
神に祈りを捧げる、その姿を崩さないまま、バルケンは紫色の塵を、一度、いや二度噴出した。
小刻みに、小さく小さく噴出す。
その度に、バルケンの目から、口から、赤い、赤い綺麗な血が零れ落ちていた。
本人には、もうその痛みは無いのだろう。

知らぬ間に、モララーの目からも液体が溢れる。
それは涙。
生きるものが、死に行く者に向ける、手向けの涙。
おえつも、えづく事も無く、ただただ涙腺から塩分を含んだ水滴が滲み出るのだ。

なぜだろうか。
モララーは、その姿に感銘をも感じ取っていた。

8 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 07:14:44.05 ID:PBVs8Qk20
( "#'3 )『だカら……』
(  ∀ )『……っ』

――聞いて頂戴。この"懺悔"を。

そして、この不幸から救ってあげて。
あなたの大切な家族の一人。

――聞いて頂戴。この"最後の願い"を。

全てを捨てた、卑しい私へ向けられた罰は、全て受けるわ。

だから、ミセリを――。

私にはできなかった。
でも、あなたならきっと出来るわ。
あなたは……。



あなたは、ミセリを愛しているもの。




('A`)にはノルマがあるようです 第12話『風薫る、あの日のポプラの屋根の下・後編』



9 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 07:18:07.41 ID:PBVs8Qk20
(;・∀・)『……ミセリ?』


バルケンが繰り返し、口に出す『私はもう死んでいる』『私にはもう命は無い』という言葉を、
信じてしまっていたモララーは、その言葉にただただ耳を傾ける。

それは、死者を前にした諦めに近いものでもあり、
モララーの"目標"の達成不可能になり得る"情報"であると確信したのか、頭に刻みつけようとしていた。

もちろん、その"家族を守る"という、青春時代に抱く漠然とした淡い目標の対象に、バルケンは含まれている。

だが……、何も出来ない。
何をすればいいか見当もつかない。
何かをすればいいのか?それさえもわからない。

それほどの、不可思議な状況。
普通の人生を歩む者には、確実に来ないであろう状況。

手に汗が溜まる。
じっとりとした、それが手に広がっていく。

23 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 09:44:40.70 ID:PBVs8Qk20
( "#'3 )『もウ時…間がノこって無いの……。いマからワた…しガ言うバしょに…行きナさい。そ、ソしてェ』
(; ∀ )『……無理は…。無理は、しないでよ。シスター……』

もう、内心訳が分からなかった。
ただ、ただそれだけ。
足し算も、引き算も掛け算も割り算も……、いや、数字さえも知らない赤子に、計算をさせるような。
そんな、理解しろとも言い難い、状況だった。

( "#'3 )『わタしのつクえ、エ、ええ、の、さン番めに、ち、ち、ずあルからへ……へ、へ、へへ、へ』
(; ∀ )『……わかったから……。シスター。お願いだから…!!』

( "#'3 )『……キ、クぁ…!!か、カわいい。こどモ…よ。あなタたち。ずット……』

モララーの頬に、その震える手が触れる。
涙をツッと掬うと……、涙に反応するかのように、その腕は溶け出し……。

いつも皆で、当番で掃除をしていたあの赤いカーペットを、紫色が混じった濃い緑の体液で染めた。
糸の色と交じり合い、黒く汚くなったそれは、もうバルケンの面影すらも残してはいない。

徐々に、徐々に女の体が崩れて落ちる。
まるで海が砂の城を浚っていくかのように。

人間を、終了していく。

24 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 09:48:20.88 ID:PBVs8Qk20
そこに慈悲は無く、ただただ無常感のみが漂う。

滴り落ちていた赤い血も、今はヘドロのような、黒ずんだ色へと、いつのまにか変色していた。
そして、その血も次第に、0へとなる。
何も、何も無かったかのように。

モララーの衣服に着いた赤いシミも、気づけば薄くなっていた。
考えられない速度で、気体へと変化する。

(  ∀ )『ひっ……あ、ぁあ…うっ、うあぁ……っぷ。うあぁ…』

強烈な嘔吐感。
親を亡くした悲しみ。

二つが、ドロドロと混ざり合う。
それは、胸の中に大きく穴を開ける。

何か、大きなものが胸から吹き飛んだ、そんな虚無感。
そして、それに続く何かにけしかけられる様な、そして、その何かが牙を向くそんな感覚。

――心音が、一つだけ高く鳴り響いた。

25 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 09:51:43.78 ID:PBVs8Qk20
( ;∀;)『うあぁぁああぁあ!!!!!うあ゛ぁああ!!!!!!』

吐き気。空しさ。
それに続くのは、とめどない悲しさ。
まだ、体に残る吐き気を、その体で揺さぶりながら、喉がつぶれる程の大きな声で、モララーは泣いた。
訳がわからないうちに、守りたかった"母"は死に、残ったのはその白い骨。
そして、いつも見慣れた修道服。
神もへったくれも無い。

そう、若い内に確信した。
信じられるのは、自分だけ。

そう、若い内に確信した。

だが……。
だが、モララーの悲しみの咆哮には、まだ少しだけ……。

少しだけ、期待が帯びている。

そのようにも、感じ取れた――。


26 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 09:53:49.09 ID:PBVs8Qk20
――――
―――
――

そして、ミセリ、ジョルジュ、ツンは、その泣き声が漏れていた礼拝室で、初めてその異常の全貌を目にする。

礼拝室の天井ガラスから、降り注ぐ光――。
モララーの、小刻みに、何かを悔しがるようにして震わせている肩。

そこに、ついさっきまで人がいたのかと思わせるように、その空間は暖かく――。
温もりに守られながら、モララーが、骨を抱きながら泣いていた。

まるで、生まれたての赤子を抱く母のように。
だが、その腕の中にあるのは、赤子とは正反対の、生を終えた亡骸。

その光景は、バルケンが信仰した、あの第1節のように、全てが始まったあの光景のように。
胸には死を抱き、心には絶望を感じて。



27 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 09:56:37.00 ID:PBVs8Qk20
――――

そして、喉がつぶれるまで泣き叫んだモララーは、気を失う。
それも、骨を抱いたまま。
目を覚ましたのは、その二日後。
今晩は冷えるでしょう、そう天気予報師が告げていた日。

夕方。


( ぅ∀・)『……っ』

ξ゚听)ξ『……モララー』
( ;∀;)『おおお!!やっと目ェ覚ましたか!!お前まで逝っちまうかと……ううっ』


皆が見守る。
モララーは、少し頭に残る耳鳴りが気になったが、そんな事に気をかけていられない。
上半身を起こし、事の顛末を打ち明けた。

信じられない内容に、皆は口を噤む。
そして、全てを話そうと思ったが、モララーはミセリの事は伏せた。

本人が目の前にいる状況で、死んでしまうかもしれないなどと言う事は、言いたくなかった。モララーなりの、無骨な優しさ。


29 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 09:58:25.13 ID:PBVs8Qk20
( ・∀・)『だから俺は、モテナイ市へ行かないといけない。2日程、学校を休む』
(;゚∀゚)『……ちょっと、ちょっと待てよ。警察にも言わなきゃならねぇし、お前一人で行かせるわけにもいかねぇ!!』

ミセ;*゚ー゚)リ『そうだよお兄ちゃん!!!』

( ・∀・)『……警察には言うな。俺は一人で行く。シスターの骨は、あの礼拝室の近くに埋める』

一つ、また一つと。
モララーは規定事項のように、言い放つ。

(#゚∀゚)『お前、何勝手に決めてんだ?』
( ・∀・)『……ごめんな。看病してくれてありがとう。今晩にでも夜行列車に乗って行く』
ミセ;*゚ー゚)リ『お兄ちゃん!!!何言ってるの!?皆お兄ちゃんを心配してるんだよ!?』
( ・∀・)『……いや、』

ξ )ξ『……マコト君達はちょっと、部屋に戻ってなさい』
『……え、で、でもおねえちゃん』

ξ゚听)ξ『ほら、晩御飯までもうちょっと待ってね』

ツンは、無理やり小さな子達を子供部屋へと戻す。
そして、仕切り戸をピシャリと閉めると、モララーへとズンズンと詰め寄った。



30 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 09:59:32.01 ID:PBVs8Qk20
右手を大きく伸ばす。

ξ#゚听)ξ『歯ァ食いしばれぇぇ!!!!』
(;・∀・)『……え?』

(;゚∀゚)『!!!』
ミセ;*゚ー゚)リ『!!』

バチィィン!!!
子供部屋にも、余裕で届いてるであろう程、大きな音が部屋に鳴り響いた。
その音の大きさに、ジョルジュとミセリは目を瞑ってしまう程。
もちろん、その平手打ちをくらったモララーは、目に涙を貯めていた。

(#・∀・)『……ッ!何すんだよ!!!!』
ξ )ξ『あんた……私達が……。私達が……』

ツンは、我慢をしていた。

ξ;;)ξ『どれだけ心配してたか、わかっててそんな事を言ってるの!?
      死んじゃうんじゃないかって……。シスターもいなくなって…モララーもいなくなったら、
      誰がどうやってこの先笑って生きていけると思ってるのよ!!!!』

ツンも、モララーと同じように、ずっと続く、幸せを望んでいた。
それも強く。
永続的な幸せなど無い事はわかっていた。
それでも、ツンは強く願っていたのだ。
もちろん皆もそうだと信じて。

31 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:02:52.07 ID:PBVs8Qk20
ξ;;)ξ『モララー……。無理はしないで。シスターを信じてない訳じゃない。
      でも、そのイトウという人の家に何があるか、見当もつかないじゃない……。もし、アンタが死んだら……』

( ・∀・)『……俺は大丈夫だからよ。それに、あん時に見た車に乗ってた奴が、
      いつここに来るかわからねぇ。とりあえず、俺は行く。戸締りはきっちりしててくれ』

( ゚∀゚)『行くなら、行くなら俺も連れて行け!!』
( ・∀・)『……いや、俺が一人で行かなきゃいけないんだ。ちゃんと、訳は必ず帰って来て話すから……』

ジョルジュの両肩に、ぐっと手をかける。
真っ直ぐ、真っ直ぐジョルジュの目を見た。ただそれだけ。

それだけで、ジョルジュはなんとなく納得してしまった。
どれだけ言っても無駄だとか、殴って無理やり止めても、意味が無いという事。

ツンも、ミセリも。
同じ目をされたら、きっと黙ってしまうだろう、という事。

三人は、見送った。
小さな鞄を一つ、少し薄めのダウンジャケットを着たモララーを。


――――
―――
――

34 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:10:38.22 ID:PBVs8Qk20
そして、モララーは一人。
その後の騒動の舞台となるモテナイ市へと行く。

手には、封筒。
封筒の中には、一枚の紙。
紙には、この一連の謎の手がかりとなる場所が知らされていて。
その場所には、クリアファイルが一冊。

クリアファイルには、後に理解することであったが、シスターが死ぬ原因となった事、
当時の新聞の切り抜きや、写真などと一緒に、つらつらと書き綴られていた。


( ・∀・)『……いきなり来て、家にあげてもらって、ありがとうございます』

('、`ヽ*月『いえいえ、私共も話を聞いていました。いつか、いつか来るだろうと話もしていました。
      それが、こんなに早い内に来るだなんて……』

/ ゚、。 /『……来たと言う事は、バルケンさんは……』
( ・∀・)『……はい』

地図に記された場所にあったのは、少し古びた一軒屋。
表札には、地図の端に書いてあった苗字の『イトウ』とあった。
初老の女性の名前は、伊藤ヴァギルス。男性の名前は、伊藤ダイオード。
聞けば、20年程も前に、バルケンからこのファイルを託されたらしい。

35 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:11:42.25 ID:PBVs8Qk20
/ ゚、。 /『やはり、そうでしたか……。いい人を亡くした。死因も……』
( ・∀・)『……骨だけです』

淡々と、言いたくない事を言った。
自分が我慢をして、口をつむぐよりも、起きた現実を、そのまま口にして、音にして、相手の耳に伝えよう。そう、考えていた。

その事を知っている人間が、今のモララーを見れば、口をそろえて"強がり"と言うだろう。
意固地になって、弱い自分を隠そうとする。
それでは、前に話が進まない。
例え当人同士の会話は進んだとしても、その本質的なものに変化は決して訪れない。

/ ゚、。 /『……そうか。アレはまだ生きているんだね』
('、`ヽ*月『あと、あと少しなのに……時間は待ってくれないのね』

生きている?
時間?
また、新たなワードが耳に飛び込む。
だが、その事を詳しく聞いている程の時間も無い。

モララーは、一番重要な事をたずねる事にした。

36 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:12:43.09 ID:PBVs8Qk20
( ・∀・)『……それで、次は妹が、ミセリが危ないと聞きました』

少し下を俯くモララー。
玄関先なので、その目には生活観の溢れた靴が並べられている。
その中に紛れ込むように置いてある2組のローファーに、少し目がついた。

('、`ヽ*月『ええ。三年前に、お電話させていただいた時にお伺いしました。
      ミセリという、その"素質"がある子がいる――、と。
      だから……、というのは違いますね。その為に、私達がいるんです』

/ ゚、。 /『もちろん、当初の予定は"バルケンさんを救う。
       そしてそこからの波及を防ぐ"というものでした……』

(;・∀・)『救う……?』

/ ゚、。 /『そう。バルケンさんに言われたのは、助けてくれ。
      との事でした。実際、助けられたのは我々なんですが――』



37 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:14:53.33 ID:PBVs8Qk20
――――
―――
――

当時、私達は、企業の研究室で"飼いつぶされている"研究者でした。
大部分の人間は、家を持ち、毎朝会社へ行き、毎晩家へ帰るものです。

大抵の人間は、そうです。
皆、己の給料をどう工面し、一喜一憂するか……。
少しだけ、仄かに計画された老後を、どう過ごしていくか。
そんな事を考えるものです。

だが、私達は違いました。
人間なら、暖かな毎日を送れたのです。

――人間なら。

いや、人間として、扱ってもらえるなら――。


38 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:17:13.40 ID:PBVs8Qk20
<#ヽ`∀´>『ムキィーッ!!!お前達はどうしてちゃんとしたノルマを守って仕事が出来ないニダ!!』

/ ゚、。#/『……あなた達の設定した、その期間に問題があるんじゃないのか!!!
      私達は確かに成果を出している!!そうだろう!?私達が開発した、新薬によって……
      あなた達の企業は大きな利益を上げている!!』

『そうだ……!!我々が咎められる理由など無い!!』
『もうあの時に契約した仕事は済ませたんです。早く家へと帰らせてください……』

<#ヽ`∀´>『ああああ!!!うるさいニダ!!!
       ボケ共がギャーギャー言うんじゃ無いニダ!!
       お前ら、わかってるニダか?お前らは人間じゃ無いニダ!!
       わかってるニダか?そこらへん、わかって発言してるニダか?』

私達は、モテナイ市の特定地域出身だからという事で、周りの人間に虐げられ、
ろくな職にも就かせてもらえず、国からの補助も、渋い顔をして、嫌々、少しばかり給付されるだけの、特定部落民。

その研究所では、名前で呼ばれた事がありませんでした。
人に非ずから名づけられた『アラズ』や『クズ』『ゴミ』。
ひどい時は、番号で呼ばれていました。


<#ヽ`∀´>『あァん!?お前ら、この仕事が無くなればどうするニダ?
       それも考えて発言しているのかニダ?
       ここをクビになれば、お前らは一家路頭に迷うニダよ?ほらそこのお前!!
       お前は母親が施設に入ってると言ったニダね?お前がここをクビになれば……わかるニダ?
       ババアも施設をクビニダ!!!お前もホモAVにでも出て体売るしか無いニダよ!?プゲラゲラゲラ!!!』

40 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:20:21.56 ID:PBVs8Qk20
『……ッ。糞っ……!!!糞!!!!』

<ヽ`∀´>『わかったなら、さっさと言われたとおりの物の研究を続けるニダこの部落のクズ共。
      決して、逃げようとか、自殺しようなんて事は考え無い事ニダ。お前らにも、大切な家族はいるニダ?
      お前らはいいニダ。別に死んでも、次の奴がいるニダ。むしろ死ねニダ。いや、死ぬのはこれ終わらせてからニダ。
      給料払わなくていいニダしね!プゲラゲラゲラ!!!』

日々、このような罵声を浴びせられ、時には暴力も振るわれ。
私達は地獄のような時を、早く過ぎないか、早く過ぎないか。そう思いながら何年も暮らしていました。
気まぐれで変わる、研究期間。
一秒でも過ぎてしまえば、仲間達の体には、見る見るうちに痣が増えていきました。
もちろん、私の腕にも、今も残っています。
煙草を何本押し付けられたかも、覚えていないほど、多く、多く……。

/ ゚、。 /『私達は……。いつまで、いつまでこの環境で働かさせられなければいけないんだ……』
('、` *月『……耐えましょう。いつか、その日が必ず来ます』


41 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:22:12.35 ID:PBVs8Qk20
――――

アイツは、毎週、ほぼ決まった時間に来ます。
早まることは無くても、遅れるような事はありませんでした。

しかし、その日は、なぜかアイツが来ませんでした。
エラの張った、目の細いアイツが。
今でも、よく覚えています。

あの光景を。

( ,'3 )『はぁ……はぁ……!!』
/ ゚、。;/『な……!!』

『……な、なんだ?』

ドアを勢いよく開けた女性。
30?いや、もしかすると40代かもしれない。
そんな女性が、拳銃を片手に――。

<ヽ ∀ >『……』
( ,'3 )『あ……あなた達が、ここの研究者さん達ですね!?』

もう片方の手には"穴が一つ多い"大の大人一人が着ている、
スーツの首元を掴み、引きずって。息を荒くして、肩を上下させていたんです。



42 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:23:47.23 ID:PBVs8Qk20
――――
―――
――

(;・∀・)『そ、その拳銃片手に持ってた人というのは……』
/ ゚、。 /『そう、バルケンさんです。そして、バルケンさんはその企業の大元である、会長の娘さんでもありました』

(;・∀・)『なんでそんな事を……。というより、話が全く繋がらないんですが……』

('、`ヽ*月『あなた。もっとちゃんと説明をしないといけないじゃないですか。
       ただでさえ、もう時間はあまり残されていないというのに……』

/ ゚、。 /『す、すまない。モララー君を見ていると、
      なぜかあの時のバルケンさんがフラッシュバックしてしまった。
      それじゃあ、話の本筋に入ろう。君には、まだ全てが早いかもしれないが、今、知っておきなさい。
      これが、あと何年続くかは、君次第かもしれない』

( ・∀・)『……はい』
/ ゚、。 /『私達が、もう20年も研究しているのは、あなたの母親である、バルケンさんの死因。
      tanasinnについて。そして、tanasinnと呼ばれる縦横無尽なウイルスを作り出した、私達の前世代。
      そして、なぜミセリさんが危ないのか。話しましょう、全てを』


真実は、深く濃い色をしている。
あのときとは、対象で。
透けていない、真実。

それを知った自分は、どうするという事もできず、ミセリをtanasinnという檻に閉じ込めてしまう。
あれだけ、気張って、一人でどうにかしよう。そう思っていたのに。
自身の力の無さを、この短期間で、何度痛感したかなど、分らないほど。

43 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:24:59.13 ID:PBVs8Qk20
――――
―――
――


( ・∀・)『もしもし?……オーケー。向こうはもう腹空かしてたまんねぇってか?』

ξ゚听)ξ『あんたねぇ……。そんな余裕なんて無いのよ?こっちには!!
      私に色目まで使わせたんだから、ここで仕留めなさい。確実に終わらせるのよ!!!わかった!?』

( ・∀・)『受話器越しによくそんだけ声が出せるな。わかってるさ。
      ドクオ一人に背負わせたりしない。俺が、全力でサポートする。
      ……ああ、ああ。そんじゃあな。ジョルジュと合流したら、マスコミに流す用の資料をまとめておけ。
      この電話を切った2時間後にファクスだぞ』

携帯電話を折りたたむと、モララーは、一息ついた。
隣には、不安な顔をして、腕を膝の上に置いているドクオ。
ガラス越しに見えるのは、風俗街。
派手な色をしたネオンの輝きが、反射しあい、艶やかに輝いていた。

('A`)「……こっちに向かってます」
( ・∀・)「何だって?はっきりわかるようになったのか?」

('A`)「本当は、わかりたく無いんですけどね……。
   その内アイツが何を喰ってるかまでわかりそうです」

44 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:26:09.89 ID:PBVs8Qk20
モララーは、ドクオの着ているパーカの、フードを頭に無理矢理かぶせる。

( ・∀・)「かぶっときな。お前の目、いつになくギラギラしてるぜ」
(; A )「は、はぁ……」

ハンドルを片手で握り、ギアを入れる。
車体に振動が伝わり、ゆっくりと車が動き出した。

( ・∀・)「……そういやぁよ」
('A`)「なんですか?」

( ・∀・)「これが、これが終わるとするだろ。
      そんでよ、平和になる訳だ。少なくとも、俺達は、だ」

('A`)「は、はぁ」
( ・∀・)「じゃあよ、お前、どうすんだ?」

……。

考えていなかった。
これから、どうするんだとか、そういう事を。
どうするんだろう?自分は。
この非日常が終われば、自分は無職に戻る。仕事をクビになった、哀れな元サラリーマンだ。
そうだ。そうだった。
僕は、社会に存在していた人間だったんだ。

……でも今は、存在していない。

45 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:26:59.62 ID:PBVs8Qk20
('A`)「特に…考えてないです」
( ・∀・)「そっか……。じゃあ、じゃあよ」

赤信号。
車が横切って行く。

( ・∀・)「いや、やっぱいいや。ほら、最終決戦は近いぜ?これもっとけ」
(;'A`)「何なんですか一体……。ってえ?これって、ちょ、うわ!!」

手に渡されたのは、拳銃一丁。
漫画やアニメで見るものと違い、ずっしり重い。
金属特有の、艶やかな輝きを放っていた。

( ・∀・)「何があるかわかんねぇ、っつったろ。この拳銃はシナのおっちゃんからの餞別だよ。使ってやんな」
(;'A`)「こ、殺すんですか!?さすがにそこまではできないですよ!!!」

( ・∀・)「向こうは拳銃持ってるぜ?なんてったって警官だもんな。
      もしかしたらショットガンくらい引っ張り出してきてるかもしんねぇ」

(;'A`)「だ、だからって…。と、とにかく持ってるだk……!!!!」


ゾワリ。




ゾワリ。

(; A )『……ぐぅッ!!!』

46 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:27:57.59 ID:PBVs8Qk20
背中を這いずり回る。
腕をかきむしる。

体が起こす、過剰反応。

全てが、迫っている。

( ・∀・)『……急がないとな』

対極の存在。


( ∵A∵)『……くはァっ!あ、あと2時間34分しか無いですね。困ったな』
( ・∀・)「諦め半分で話してんじゃねぇ。俺がついてるからビッとしてな。必ず、それを最後のtanasinnにしてやる』


車が着いた先は、あの駐輪場。
ふと空を見上げる。
そこには、いつもの空は無く、紫色の空が渦巻いているように見えて、不気味であった。


( ∴∋∴)『はラがへってしゃぁナい……!!もっと、モっと大きいもノを!!!』

ズルリ、ズルリ。
足をすりながら歩く。
向かうは、同じく駐輪場。

普通の人間では、満足できなくなったからだが向かう。
磁石のように。


47 :◆Cy/9gwA.RE:2008/01/12(土) 10:29:29.86 ID:PBVs8Qk20
二人が出会った場所は、最後の場所。
相手を殺せば、己は独立した存在となれる。
そして、その先に待つのは、解放。

そう、自由が待っている。
死の恐怖など微塵のかけらも無い、普段の生活へと戻れるのだ。


だが、それをtanasinnは、どう思うか。

それは誰も知る事ができない。

そして、tanasinnは、何を望むか。
それは、時代の流れのみが知る。


( ・∀・)「じゃあ、行くか」
( ∵A∵)『……ハイ』



( ・∀・)「最終決戦って奴か?」



('A`)にはノルマがあるようです 第12話『風薫る、あの日のポプラの屋根の下・後編』完





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